日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
最新号
選択された号の論文の1051件中201~250を表示しています
  • 立松 圭, 豊倉 浩一, 渡辺 恵郎, 宮島 俊介, 為重 才覚, 中島 敬二, 岡田 清孝
    p. 0203
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    葉の向軸側・背軸側それぞれに必要な制御因子が局在することで、向背軸に沿った正常な発生・分化が起こる。これまでに、HD-Zip III転写因子であるPHBの発現はmicro RNA165/166 (miR165/166)を介した発現抑制によってFILの発現していない向軸側の細胞に限定されていることを明らかにした。また、レーザーマイクロダイセクション法と半定量的RT-PCR法を用いて、6つのMIR165/166遺伝子座が主に背軸側で発現することも明らかにしている。今回、レポーター遺伝子を用いたプロモーター解析から、MIR165AMIR166Aは主に背軸側表皮細胞で、MIR165BMIR166Bは背軸側領域で発現していることがわかった。さらに、変異を導入したpri-miR165aをMIR165Aプロモーターで発現させる形質転換体と、同一の変異を導入したmiR165/166認識配列を持つGFPを恒常的に発現させた植物を掛け合わせ、F1個体で葉原基におけるGFPの発現パターンを調べた。その結果、そのGFPの発現パターンはPHBの局在様式とほぼ一致していた。この結果からMIR165Aは細胞非自律的にHD-Zip IIIの機能領域を限定させていることが示唆された。現在、pri-miR165aを異所的に発現させる系を用いてmiR165/166の作用領域を調べているので併せて報告したい。
  • 槻木 竜二, 石橋 桂, 寺田 志穂, 岡田 清孝
    p. 0204
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    協調的細胞分化のモデル系として、維管束形成を制御する仕組みを解析している。vascular hyperplasia (vah)変異体では、葉脈のパターンの異常や維管束細胞列数の横方向への増加が観察される。また、ATHB8の発現領域が拡大しており、VAHは前形成層に分化する細胞の横方向の数を負に制御することが示唆される。更に、根端メリステム活性の低下、静止中心や根端幹細胞ニッチマーカーの発現領域の拡大が見られることから、VAHは、根端の細胞分化に重要な役割を持つことも示唆される。野生型でオーキシンの極性輸送を阻害すると、葉脈形成領域と根端幹細胞ニッチ領域は共に拡大する。vah背景では、オーキシン極性輸送阻害によるこれら領域の拡大が昂進された。以上はオーキシンを介した細胞分化の領域の制限にVAHが関わることを示唆する。一方、根の木部形成を解析したところ、vahでは原生木部の分化抑制が観察された。原生木部の分化はサイトカイニンによって負に制御されることが知られている。サイトカイニンシグナル伝達に阻害的に働く遺伝子の機能欠損変異体では、原生木部の分化抑制が見られるが、vahとの二重変異体では抑制の表現型が昂進されていた。これらはサイトカイニンを介した細胞分化にVAHが関わることを示唆する。植物ホルモンによる協調的な細胞分化の制御とVAHとの関わりについて議論したい。
  • 浦和 博子, 亀井 保博, Sablowski Robert, 岡田 清孝
    p. 0205
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    IR-LEGOは1480nmの赤外レーザーを用いて、光遺伝学的手法により、生体の単一細胞に遺伝子発現を誘導するシステムである(Kamei et al. Nat. Methods 2009)。1480 nmレーザーを生体細胞に照射し、加熱により熱ショックプロモーターを誘導し、目的の遺伝子を発現させる。長波長の光を用い、細胞傷害を回避している点、光受容に影響を及ぼさない波長を用いている点を特徴とする。
    我々は、IR-LEGOを用い、根において、単一細胞でのGUS遺伝子発現に成功した(Urawa et al. Dev. Growth Differ., 2009)。赤外レーザー照射後も、細胞が正常に分裂、分化することから、シロイヌナズナ根において、遺伝子発現誘導のための照射による細胞傷害はないと考えられる。
    シロイヌナズナにおいては、分子遺伝学的研究から、茎頂分裂組織(SAM)の形成維持には、WUS, CLV3の相互制御の重要性が明らかとされ、CLV3によるWUSの制御については報告がなされている。一方、WUSのCLV3制御に関しては、未だ明らかとされていない。
    今回、我々はSAMの形成維持機構を知るために、IR-LEGOを用いて、WUS遺伝子をシロイヌナズナ根の単一細胞に発現させ、周辺におけるCLV3誘導について調べたので報告する。
  • 前川 堅太郎
    p. 0206
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    target of rapamycin(TOR)は真核生物で広く保存されているタンパク質であり、動物や酵母では細胞が置かれている環境に応じて細胞成長や増殖、タンパク質合成などを調節するシグナル系の中枢として働いている。植物のTORシグナル系の解析はまだあまり進んでいないが、最近、シロイヌナズナのTORシグナル系がオートファジーや細胞壁の合成と構造調節に関与していることが報告された。
    TORは細胞内でTOR 複合体(TORC)を形成して機能を果たしている。酵母や動物ではTORC1とTORC2の2種類の複合体が存在し、それぞれ異なる機能を果たしている。このうち、植物ではTORC2を構成するタンパク質およびTORシグナルの上流に存在する因子のホモログは存在しない。そのため、植物には独自のTORシグナル系が存在するものと考えられる。
    我々は植物におけるTORシグナル系を明らかにするため、イネにおいて保存されているTORC構成因子の遺伝子をクローニングした。イネのTORを酵母のTOR機能欠損株に導入したところ、TORC2機能欠損だけでなく、TORC1機能欠損も相補しなかった。このことは、植物のTORキナーゼが酵母TORとは異なる性質を持つことを示唆した。本発表ではイネTORの生化学的解析の結果について報告する。
  • Jewaria Pawan, Betsuyaku Shigeyuki, Sawa Shinichiro, Kakimoto Tatsuo
    p. 0207
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    Secretory peptides EPF1 and EPF2 negatively regulate stomata developmental pathway. STOMAGEN positively regulates stomatal density. Disruption of genes for TMM, the ER-family receptor kinases, or MAPK cascade components results in excess formation of stomata without proper placement. The MAPK cascade targets the bHLH class transcription factor SPCH, which is required for entry into the stomatal lineage. Taken all genetic evidences in consideration, we can generate a model in which the extracellular signaling peptides EPF1 and EPF2 are perceived by putative receptor complexes that contain TMM and ER family protein, which in turn activates the MAPK cascade, phsphorylate SPCH, and inhibit stomatal formation. We are trying to reconstitute the whole components by transient expression in tobacco leaves, and verify the above model. Here we show that overexpression of EPF1 and EPF2 decreased SPCH-GFP protein level. STOMAGEN, on the other hand increased the SPCH-GFP protein. Our study also provided evidence that the action of EPF1and EPF2 on SPCH-GFP level depends on MAPK cascade. Our results support the above model.
  • 本瀬 宏康, 酒井 達也, 橋本 隆, 高橋 裕一郎, 高橋 卓
    p. 0208
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    NIMA関連キナーゼ (NEK)は、真核生物で広く保存されているSer/Thr型タンパク質リン酸化酵素である。動物細胞や菌類では、サイクリン依存性キナーゼと共に細胞周期の調節、特にM期の開始と進行・中心体の分裂・紡錘体形成を制御する。一方で、植物のNEKの機能については断片的な知見に留まっており、ほとんどわかっていない。我々はシロイヌナズナの7つのNEKの機能解明を目指して解析を進めている。局在解析の結果、7つのNEK全てが微小管上に局在することがわかった。中心的な役割を果たすNEK6はNEK4, NEK5と相互作用し、チューブリンやアルマジロリピートキネシン1(ARK1)をリン酸化し、微小管の過剰な安定化を抑制して表皮細胞の伸長を制御することを示した。多重変異体の解析から、NEK1, NEK2, NEK3 が根表皮の伸長方向を制御すること、NEK4, NEK5, NEK6, NEK7がストレス応答に関与することを見出した。また、NEK6と相互作用するタンパク質を免疫沈降法と酵母2ハイブリッドにより探索し、膜タンパク質などを多数見出している。これらの知見から、植物のNEKがお互いに相互作用し、細胞伸長や環境応答を制御することが明らかになった。以上の結果をまとめ、植物のNEKファミリーの機能的重複と多様化について考察する。
  • 信澤 岳, 梅田 正明
    p. 0209
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物における地上部組織の形成は、茎頂分裂組織(SAM)における細胞増殖の制御により成り立っている。シロイヌナズナのSAMは層構造をとっており、最外層よりL1,L2,L3層と分類される。L1層は表皮へと、L2, L3層は皮層や内体といった内部組織へと分化する。SAMにおける分裂活性は、遺伝的要因や環境要因により厳密に制御されているが、その詳細な仕組みや細胞層を介した協調的な制御機構についての知見は乏しい。
    我々は、炭素数20以上より成る脂肪酸、極長鎖脂肪酸(VLCFA)の合成に異常を示す変異体や、その合成阻害剤を用いた解析から、VLCFA量の低下によってSAMの髄状組織を中心として細胞増殖の活性化が引き起こされることを見いだした。加えて、この細胞増殖の活性化は、サイトカイニン合成の増加に起因するものであることが明らかになった。興味深いことに、正常なSAMの活性維持ならびに生育には、L1層(表皮)におけるVLCFA合成のみで必要十分であることが解った。したがって、L1層(表皮)におけるVLCFA合成に依存した、何らかの細胞層間移行シグナルを介して、植物の地上部形態形成が制御されていると考えられる。現在、VLCFAに関連した新規シグナル分子の存在を視野に入れながら研究を行っている。
  • 中川 仁, 田中 惇訓, 七夕 高也, 藤岡 昭三, 森 昌樹
    p. 0210
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    我々は既に、イネの短粒遺伝子SHORT GRAIN 1 (SG1)の器官サイズのコントロールにおける機能について報告している。SG1は主に根や幼穂で発現しており、過剰発現すると種子等の器官が短くなり短粒半矮性の表現型を示す。対照的にRNAiによるSG1とその相同遺伝子SGL1の発現抑制は、枝梗の節間や種子の伸長(長粒化)を引き起こす。SG1:OXの矮化した器官での細胞サイズは変化しないので、SG1は細胞増殖の抑制を介して枝梗の節間や種子の伸長を抑制すると考えられた。一方、SG1:OXの表現型は、半矮性で幅広濃緑色の直立した葉身を持つなどの点でブラシノステロイド(BR)欠損変異体と類似していた。しかしながらSG1:OXでのBRの生合成レベルはWTと同等であった。
    そこで本研究では、SG1:OXイネのBRに対する応答が変化しているかどうか調べた。BRに対する応答をラミナジョイントテストにより調べたところ、SG1:OXイネはBRに非感受性になることが示された。またSG1:OXでは、BU1, OsBLE2, OsBLE3等のBR誘導遺伝子のBLによる誘導が抑制されていた。SG1:OX及びRNAiイネの表現型、発現等の知見を総合すると、SG1の本来の機能は、BR応答の抑制を介して枝梗の節間や種子の伸長を抑制することであると考えられた。
  • 大津 直子, 佐々木(関本) 結子, 及川 彰, 軸丸 裕介, 篠田 祥子, 井上 恵理, 上出 由希子, 横山 正, 平井 優美, 白須 ...
    p. 0211
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    グルタチオンは、植物においては除草剤を抱合して液胞に隔離することが知られているものの、グルタチオンによって抱合される内在性の物質についてはほとんど知られていなかった。これらを同定するために、液胞でグルタチオン抱合体を分解できないシロイヌナズナ変異株γ-glutamyl transpeptidase (ggt) 4の代謝産物を、野生型株と網羅的に比較した。以前にリョクトウのファイトアレキシンがin vitroでグルタチオンと結合したという報告(Li et al. 1997)や、病原菌感染によって蓄積する過酸化脂質がin vivoでグルタチオンと結合しているという報告 (Mueller et al. 2008) があることから、ggt4変異株及び野生型株には病原菌を感染させた。グルタチオン抱合体は通常水溶性であることから、メタボロミクス解析にはCE-TOF/MSを用いた。
    ggt4変異株において蓄積していた物質のひとつは12-oxo-phytodienoic acid (OPDA)-GSH抱合体であることを、標品を合成して確認した。OPDAはジャスモン酸の前駆体である。OPDAは病原菌感染によって増加したが、OPDA-GSHもそれに伴い増加した。これらの結果は、OPDAの一部がGSH抱合体という形態で液胞に輸送されていることを示している。
  • 増口 潔, 菅原 聡子, 田中 慧太, 軸丸 裕介, 花田 篤志, 夏目 雅裕, 川出 洋, 酒井 達也, 神谷 勇治, 林 謙一郎, 笠原 ...
    p. 0212
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    オーキシンは植物の生長や環境応答など様々な局面において中心的な役割を果たすホルモンである。インドール-3-酢酸(IAA)は古くから研究されている天然オーキシンであり、その生合成や輸送、情報伝達機構の解明が近年著しく進んでいる。一方、植物にはフェニル酢酸 (PAA)やインドール-3-酪酸なども天然オーキシンとして存在することが知られているが、これらの生理的役割については明らかにされていない。本研究では、PAAとその代謝物と予想されるPAA-アミノ酸結合体のLC-ESI-MS/MS分析法を確立し、これを基盤技術として植物のPAA生合成経路を解析した。植物界におけるPAAとIAAの分布を詳しく分析したところ、これらは本研究で分析したコケ植物を含む全ての植物種から検出された。これによりPAAとIAAの生合成遺伝子は植物進化の初期段階から保存されており、またこの2種のオーキシンは共通した経路で生合成されている可能性が示唆された。この仮説を検証するため、IAA生合成遺伝子の過剰発現や欠損が及ぼすPAAとそのアミノ酸結合体への影響を調べた結果、YUCCA遺伝子がPAAの生合成に寄与することが明らかになった。本研究の結果、植物はIAAとPAAの2種類のオーキシンを同じ経路から生合成し、これらを利用して植物の様々な生長や分化を制御する新たな可能性が示唆された。
  • 田中 慧太, 増口 潔, 菅原 聡子, 軸丸 祐介, 夏目 雅裕, 川出 洋, 酒井 達也, 林 謙一郎, 神谷 勇治, 笠原 博幸
    p. 0213
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    インドール-3-酢酸(IAA)は植物の形態形成を制御する主要な天然オーキシンであり,その生理機能や作用機構に関する多数の研究報告がある.一方,植物はIAA以外にもフェニル酢酸(PAA)やインドール-3-酪酸などのオーキシンを生産することが古くから知られている.特にPAAはIAAと同様に様々な高等植物から検出されているが,その植物における生理的役割は現在も解明されていない.本研究では,PAAの生理的役割の解明を目的として,その植物における濃度調節機構について解析した.先ず,PAAの代謝経路を明らかにするために,シロイヌナズナのPAA及びその予想代謝物であるPAA-アミノ酸結合体をLC-ESI-MS/MSで分析した.その結果,IAA-アミノ酸結合体の合成酵素をコードするGH3遺伝子がPAAの代謝にも寄与することが強く示唆された.また,アベナおよびトウモロコシの幼葉鞘におけるPAAの濃度分布を分析したところ,IAAと同様に先端部で濃度が高く,基部側ほど低くなる濃度勾配パターンを形成していた.さらに,この幼葉鞘に重力刺激を加えるとIAAと同じようにPAAも不均等分布することが明らかになった.この重力刺激によるPAAの不均等分布には代謝とオーキシン極性輸送が関与する可能性があり,現在その濃度調節機構について詳細に検討している.
  • 平賀 勧, 島村 聡, 中村 卓司, Deschamps Thibaut, 小松 節子
    p. 0214
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    湛水条件下のダイズでは胚軸に二次通気組織(SAE)が形成される。SAEは、皮層でのプログラム細胞死により形成される破生通気組織とは違い、二次分裂組織(コルク形成層)由来生細胞の伸長に伴い生じる、細胞間隙に富んだスポンジ状組織である。SAEは、湿性マメ科植物で特徴的な組織であり、イネで良く研究されている破生通気組織同様、嫌気条件下の根と地上部の間のガス交換を担うが、その形成機構はほとんど明らかになっていない。
    播種10日後にダイズ(品種エンレイ)を湛水すると、SAEが胚軸に3~4日で形成され、その後、放射状ならびに長軸に沿って徐々に拡がった。一方、1 μMアブシジン酸(ABA)溶液でダイズを湛水するとほぼ完全に形成が抑制された。イネの冠水応答では、ABAが負の、エチレンが正の制御因子として機能していることから、ダイズのSAE形成におけるエチレンが関与する可能性を検討した。公的データベースに見出されたダイズ由来エチレン生合成系酵素遺伝子群に特異的なプライマーを設計し定量的PCR解析を行ったところ、湛水により誘導されるACC合成酵素遺伝子(GmACSd)が見いだされた。GmACSdの発現は、灌水区(コントロール)では若干低下するのに対し、湛水では4日には誘導され、ABAで湛水した際には誘導されないことから、本遺伝子は、SAE形成時に誘導されるACC合成酵素遺伝子と考えられた。
  • 嶋田 勢津子, 小松 知之, 中澤 美紀, 松井 南, 川出 洋, 安部 浩, 夏目 雅裕, 中野 明彦, 浅見 忠男, 中野 雄司
    p. 0215
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物ステロイドホルモンであるブラシノステロイド(BR)の情報伝達機構の解明を目指し、暗所、BR生合成阻害剤Brz存在下での胚軸徒長を指標として、Arabidopsisのアクチベーションタグラインより胚軸短化を示すBrz高感受性変異体bss1(Brz-sensitive-short1) を単離した。bss1では、タグ挿入部位の前後の遺伝子の発現上昇が観察され、下流側遺伝子の高発現体が胚軸短化を再現したことから、この遺伝子をbss1変異原因遺伝子と同定した。BSS1-GFPは蛋白質凝集体と予想されるドット状の蛍光として細胞質、核に観察され、Brzによる凝集促進、BL添加による拡散化の傾向が認められた。またBSS1欠損変異体ではBrz耐性が観察され、BSS1はBR情報伝達の抑制因子である事が示唆された。さらに、Y2H解析によりBRシグナルの転写因子であるBIL1/BZR1と結合する事が示された。
    一方、タグの上流遺伝子の高発現体は、暗所Brz存在下で胚軸徒長するbil形態を示し、成熟個体は細矮性の形態を示したことから、この遺伝子をBIL6と命名した。BIL6高発現体において、BR応答遺伝子の発現上昇が見られた事から、BIL6はBR情報伝達の促進因子である事が示唆された。これらの隣接遺伝子がBRシグナル伝達において正負の逆の制御機構を持つ可能性を考え、解析を進めている。
  • 山上 あゆみ, 齊藤 知恵子, 中澤 美紀, 松井 南, 作田 正明, 中野 明彦, 浅見 忠男, 中野 雄司
    p. 0216
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    ブラシノステロイド(BR)は細胞伸長、細胞分裂や葉緑体の発達など、植物生長の様々な局面で重要な機能を果たしている植物ホルモンである。近年BR情報伝達経路は様々な因子の存在が報告されているが、その全容は未だ解明されていない。そこで、我々はBR情報伝達機構の解明を目指し、BR生合成阻害剤Brz存在下での胚軸伸長を選抜条件にして、ArabidopsisのアクティベーションタグラインからBR情報伝達変異体bil4 (Brz-insensitive-long hypocotyl 4)を選抜し、解析を行っている。選抜したbil4変異体は、7回膜貫通ドメインを持つ新規遺伝子が原因遺伝子であった。BIL4プロモーター::GUS形質転換体の解析により、幼葉や根の初期細胞伸長帯においてBIL4の発現が観察された。これらの結果から、BIL4遺伝子は細胞伸長や細胞分裂において重要な働きを担っていることが示唆された。また、BIL4::GFP植物体の観察により、BIL4は液胞膜とエンドサイトーシスへの局在が明らかになった。ブラシノステロイド受容体BRI1においても、エンドサイトーシス局在が報告されていることから、BIL4とBRI1の関係についても解析を行っている。
  • 中野 雄司, 山上 あゆみ, 中野 明彦, Joanne Chory, 浅見 忠男
    p. 0217
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    ブラシノステロイドは発生・成長・生殖などの植物生長の様々な過程で重要な生理機能を発現している。我々は、ブラシノステロイド生合成阻害剤Brzを用いた化学遺伝学(ケミカルジェネティクス)により、ブラシノステロイド情報伝達機構の解明を試みている。
    暗所Brz存在下発芽において、胚軸が矮化し子葉が開く、暗所光形態形成を示さない胚軸徒長形質bil (Brz-insensitive-long hypocotyl)変異体として、細矮性slender dwarf様の特徴的な矮性形質を示す半優性形質のbil5を単離した。このbil5変異体受容体bri1の2重変異体ではbri1の示す矮性形質からの回復が認められた。また、野生型植物にブラシノステロイド刺激を与えると、脱リン酸化により低分子量側にシフトするbHLH型転写因子BES1タンパク質が、bil5変異体においては、無刺激状態でも低分子量の脱リン酸化型のBES1タンパク質が多量に存在していることが確認され、bil5変異原因遺伝子がブラシノステロイド情報伝達の主要因子である可能性が示唆された。さらに、細胞生物学的解析を行った所、花茎における維管束の数が増加していること、茎直径に対する維管束領域の存在比が増加している等、細胞分化への関与も明らかとなった。
  • 村田 隆, 野中 茂紀, 佐野 俊夫, 馳澤 盛一郎, 長谷部 光泰
    p. 0218
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    陸上植物の細胞質分裂においては、娘染色体の間に形成された細胞板が拡大し細胞が2つに分かれる。細胞板の拡大は細胞の増殖に必須の過程であるにもかかわらず、拡大の分子機構はわかっていない。細胞板はフラグモプラストと呼ばれる微小管複合体中で形成され、重合脱重合の繰り返しによる微小管の更新が細胞板の拡大に関与すると考えられている。細胞板の拡大機構が未解明だった原因の一つは、生きている細胞で細胞板拡大中の微小管動態を解析することが難かったためである。我々は、細胞板拡大中のフラグモプラスト微小管の動態を定量的に解析することに成功した。本発表ではその結果をもとに細胞板拡大機構の新しいモデルを提唱する。
    従来考えられていた細胞板拡大側の縁での微小管重合説を検証するため、微小管伸長端マーカーGFP-EB1を発現する細胞を用いて微小管形成に偏りがあるかを調べたところ、伸長端密度の細胞板拡大側の縁への顕著な偏りは見られず仮説は支持されなかった。また、微小管の端は様々な方向に向かって伸長することがわかった。次に、蛍光チューブリン発現細胞を用い、光退色蛍光減衰法を用いて微小管の脱重合頻度を解析したところ、細胞板拡大側の縁からフラグモプラスト内側に向けて脱重合頻度が上昇することがわかった。細胞板の拡大は微小管の様々な方向への伸長と脱重合頻度の偏りがもたらす微小管の分布変化によって起こるものと考えられる。
  • 湖城 恵, 桧垣 匠, 朽名 夏麿, 安原 裕紀, 馳澤 盛一郎
    p. 0219
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    細胞分裂期の表層アクチン繊維は、actin microfilament twin peaks (MFTP) と呼ばれる将来の分裂面を谷とする1対のアクチン繊維の局在ピークを形成する。GFP-ABD2によりアクチン繊維を可視化したタバコBY-2の形質転換細胞にアクチン束化誘導剤であるTIBAおよびJasplakinolide (Jasp) を処理すると、表層および紡錘体周囲のアクチン繊維パターンが変化し、紡錘体および細胞板が著しく傾斜したことから、細胞分裂期におけるアクチン繊維パターンは紡錘体の向きを制御する可能性が示唆された (湖城ら、第51回本学会年会) 。本研究では、表層アクチン繊維の詳細な局在とアクチン繊維パターンの紡錘体制御機構を明らかにするため、細胞周期各期における細胞膜および液胞膜近傍のアクチン繊維量をGFP-ABD2蛍光輝度に基づき定量評価した。その結果、TIBAおよびJasp処理による表層アクチン繊維パターンの変化は主に細胞膜近傍で起こることを見出した。また、蛍光色素FM4-64染色により紡錘体周囲の液胞膜構造の観察を行なったところ、紡錘体周囲のアクチン繊維パターンの変化に伴って紡錘体周囲の液胞膜構造が単純化した。以上の結果から、紡錘体の牽引に細胞膜近傍のアクチン繊維が足場として関与するとともに液胞膜構造の形成が紡錘体の向きの制御に重要である可能性が示唆された。
  • 宮島 兼佑, 橋田 芳和, 武智 克彰, 樋口 智文, 沖田 友美, 山本 慈恵, 滝尾 進, 塚谷 裕一, 高野 博嘉
    p. 0220
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナのANGUSTIFOLIA (AN)は、葉の細胞の横方向への極性伸長を制御していると考えられている。ANは動物の発生に重要なCtBP/BARSのホモログだがCtBP/BARSには存在しない植物特有の約200アミノ酸のC末端配列をもつ。我々は、全ゲノム配列が決定されているセン類ヒメツリガネゴケにおいて、AN相同遺伝子PpAN1-1、1-2と、植物特有のC末端領域を持たないPpAN2-1、 2-2を見出した。プロモーターGUS解析の結果、PpAN1-1および、PpAN1-2では茎葉体の茎の中心に、PpAN2-1およびPpAN2-2では茎葉体の茎の中心と葉の基部に強いGUS発現が見られた。どの遺伝子においても原糸体よりも茎葉体のほうに強いGUS発現が見られ、これらの結果はノーザン解析の結果と一致していた。4つのPpAN遺伝子について、薬剤耐性遺伝子を挿入した単一遺伝子破壊ライン、二重遺伝子破壊ライン(ppan1-1/1-2、ppan2-1/2-2)を作成した。ppan1-1/1-2において原糸体の幅と茎葉体の葉の幅を計測したが、野生型との差は見られなかった。ppan1-1/1-2の茎葉体の横断切片を観察した結果、野生型と比べて細胞同士の隙間に別の細胞が入り込んでいる様子が多く見られた。現在、茎の伸長に異常が出ているのではないかと考え、詳細な変異形質を解析中である。
  • 今野 雅恵, 池内 雅彦, 針谷 若菜, 高橋 秀典, 井上 康則
    p. 0221
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    レタスでは、酸性条件下で根毛形成が誘導される。この現象の機構に低pHによるマンガン(Mn)吸収減少が関わることが示唆されている。表層微小管(CMT)の表皮細胞長軸方向に垂直な配向が根毛形成を抑制しており、低pH(pH 4)処理によりCMTの配向が乱れると根毛が発現する。低pH処理後30分でCMT配向は完全にランダム化する。本研究では、Mn吸収減少による根毛形成誘導においてもCMTのランダム化が根毛形成に先駆けて起こるかどうかを抗体染色法により観察した。
    根毛形成が誘導されるpH 6・0 mM Mnの条件下で2時間培養を行った場合、将来根毛を形成する、根端から1.2 - 1.5 mm付近の根表皮細胞の少なくとも70 %でCMT配向がランダム化していた。一方、根毛形成が抑制されるpH 4・3 mM Mn条件下で1時間培養した芽生えでは根表皮細胞の10 %程度までCMTランダム化が抑制された。また、pH 6・0 mM Mn条件でのCMTランダム化及び根毛形成の誘導は10-6 M PCIB添加により抑制され、pH 4・3 mM Mn条件でのCMTランダム化及び根毛形成の抑制は10-7 M IAA添加により回復した。以上より、酸性条件下での根毛形成誘導において、低pHにより誘導されたMn吸収減少はオーキシンを介したCMTランダム化に寄与することが示唆された。
  • 富永 基樹, 木村 篤司, 山本 啓一, 中野 明彦, 伊藤 光二
    p. 0222
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    近年シロイヌナズナにおいて、原形質流動に関与するミオシンXIのノックアウトが、成長を抑制することが明らかになっている。ミオシンXIの運動活性が植物の成長に関与することが示唆されるが、従来的方法では、分子メカニズムの解明は限定的である。そこで、シロイヌナズナミオシンXIのモータードメインを、生物界最速のモータータンパク質であるシャジクモミオシンのものと置換することで、高速キメラミオシンXIを作製し、ミオシン速度改変が細胞や個体へ及ぼす影響を見ることで、原形質流動と植物成長の関係を統合的に理解しうる新規解析系を構築した。
    高速化には原形質流動に関与し組織全体で発現が見られるミオシンXI-2を使用した。In vitro motility assayにより、キメラXI-2は、野生型XI-2(7μm/sec)に対し、約2.3倍の速度(16μm/sec)を発生することが分かった。GFP融合キメラミオシンをシロイヌナズナ培養細胞で発現させた結果、キメラXI-2は膜構造上に局在し、原形質流動の2倍近い運動速度を発生すると共に、局所的に凝集や展開を行う様子が観察された。XI-2のノックアウト株に、高速キメラXI-2をNative-promoterで発現させたところ、野生型XI-2に比べ、根や根毛、葉において成長の促進が見られた。植物成長におけるミオシン運動速度の関与を議論する。
  • 浅岡 凜, 植村 知博, 井藤 純, 上田 貴志, 中野 明彦
    p. 0223
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナのゲノム中にはRab GTPaseをコードする遺伝子が57個存在し,そのうち26遺伝子がRab11グループ(RabA1~RabA6)に分類される.一方で,酵母・動物ではRab11グループに属する遺伝子はごく少数であることから,植物においてRab11グループは独自の進化を辿り多様化したと考えられる.我々は,Rab11グループの多様化が植物の膜交通システムに与えた意義を解明すべく解析を行っている.これまでに,RabA1サブグループ(RabA1a~RabA1iの9遺伝子)のメンバーがトランスゴルジネットワーク(TGN)とその近傍のドット状のオルガネラに局在すること,および根毛細胞のみで発現するRabA1eがTGNと根毛先端間の輸送を担っていることを示す結果を得ている.今回,我々は,植物体全体で強く発現するRabA1bに,活性型固定変異,もしくは不活性型固定変異を導入したタンパク質を発現させた植物体を作出し,その細胞内局在を詳細に解析することで,RabA1メンバーが関与する細胞内輸送経路についての知見を得た.また,これらの植物体の表現型観察により,不活性型固定変異を導入したタンパク質を発現させた植物体では,根の成長が阻害され,塩ストレスに対する耐性が低下していることが明らかになった.本発表では,RabA1メンバーの局在する小胞の運動とアクチン骨格系との関係についても報告する.
  • 秋田 佳恵, 桧垣 匠, 小林 恵, 永田 典子, 上田 貴志, 朽名 夏麿, 馳澤 盛一郎
    p. 0224
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    多くの双子葉植物の葉表皮細胞はジグゾーパズルのように複雑な形状をとるが、その形態形成過程に関しては未解明の部分も多い。私たちはゴルジ体トランス層膜に局在するSialyl Transferase(ST)に蛍光タンパク質mRFPを融合したタンパク質ST-mRFPを発現するシロイヌナズナの葉表皮組織において、ST-mRFPがゴルジ体トランス層の他に、アポプラストに局在することを見出した。さらに、このアポプラスト局在は細胞の成熟に伴って、表皮細胞では湾曲部に、孔辺細胞では細胞端部において顕著であることから、多胞体などの細胞内構造を介し細胞質成分をアポプラストへ輸送する経路が、葉の表皮細胞の形態形成に関与する可能性が示唆された(2010年本学会年会、秋田ら)。本研究ではライブイメージングにより示唆された、アポプラストへの膜交通に関わる微細構造を捉えるため、透過型電子顕微鏡を用いて細胞内微細構造を観察した。その結果、野生株において葉の成熟段階初期に多数の細胞質由来と思われる小胞状構造がアポプラストに存在することを見出した。このアポプラストに存在する小胞状構造は多胞体などの細胞内構造を介して輸送された可能性が考えられる。本発表では、最新の結果と併せて小胞状構造の由来と意義に関して議論したい。
  • 桧垣 匠, 秋田 佳恵, 近藤 矩朗, 朽名 夏麿, 馳澤 盛一郎
    p. 0225
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    私たちはこれまでに各種細胞内構造が蛍光標識されたシロイヌナズナ孔辺細胞の顕微鏡画像を多数取得し,細胞形状の正規化と輝度の加算平均を介した顕微鏡画像解析によって気孔開口に伴って細胞連結部でアクチン繊維とエンドソームの量が増加すること,逆に小胞体は減少することを報告した(2010年日本植物生理学会年会、桧垣ら).本研究では,まずGFP-PIP2aにより細胞膜が可視化された形質転換株を用いて,気孔開閉時における細胞膜構造を孔辺細胞の連結部を立体的に観察した.その結果,気孔開口に伴って隙間が狭まることが判り,細胞連結部で力学的な負荷が生じている可能性が示唆された.そこで,細胞形態の実測値に基づいたシロイヌナズナ孔辺細胞の二次元構造モデルを設計し,有限要素法による力学シミュレーションを実施した.孔辺細胞モデルの部材に関する力学的パラメタおよび拘束箇所の条件を複数検討した結果,気孔開口を模す変位を示す条件において細胞連結部に強い応力が生じることを見出した.現在,微小針を用いて顕微鏡下で片側の孔辺細胞を切除する実験系を構築しつつあり,孔辺細胞の力学的負荷を人為的に変動させた状況において細胞内構造の動態を追跡する予定である.本発表では孔辺細胞の力学応答として細胞内構造の分布が変化する可能性と意義について議論する.
  • 齊藤 知恵子, 粟井 千絵, 木内 玲子, 植村 知博, 富永 基樹, 安部 弘, 吉本 光希, 森田(寺尾) 美代, 上田 貴志, 中野 ...
    p. 0226
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物の液胞は,植物個体の発生と生長に必須なオルガネラである.私たちは,液胞膜上に生じる複雑な膜構造bulbを見出し,その生物学的意義と機能,分子基盤を探るべく研究を進めて来た.今回は遺伝学的なアプローチについて報告する. 逆遺伝学的な解析として,bulbの出現頻度に異常が生じる可能性がある既知の変異体に,bulbを可視化するマーカーを導入した.その結果,液胞の形態異常が知られている一群の変異体(zig-1/atvti11, sgr2, sgr3)で,bulbが著しく減っていることがわかった.一方で,オートファジーの変異体(atg2, atg5)ではそれほど顕著な減少は見られなかった.このことは,オートファジーはbulb形成の主たる経路ではないことを示唆する.また,bulbのマーカーラインを用いた順遺伝学的解析にも着手した.vam3-1変異体に,VAM3のプロモーターでGFP-VAM3を発現させたラインは,bulbを可視化し,vam3-1変異体の持つ巨視的な表現型を相補する.このラインを親株に,EMS処理によって変異体プールを作成した.巨視的な表現型を指標にまず一次スクリーニングを行い,その後顕微鏡観察により液胞の形態やbulbに異常を生じる候補株を探索中である.これについても併せて報告したい.
  • 崔 勝媛, 玉置 貴之, 植村 知博, 上田 貴志, 中野 明彦
    p. 0227
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    細胞内膜交通を担うオルガネラの一種であるトランスゴルジ網(trans-Golgi network, TGN)は,植物細胞内においてはエキソサイトーシス経路に加え,エンドサイトーシス経路でも機能する可能性が示唆されている。しかしながら,その詳細なメカニズムはまだ明らかになっていない。そこで,TGNがエンドサイトーシスにおいて果たす役割を明らかにするため,エンドサイトーシス経路を可視化することを試みた。その結果,細胞膜のflagelin受容体である FLAGELLIN SENSITIVE2(FLS2)をエンドサイトーシスマーカとしてNicotiana benthamianaで発現させ, リガンドであるflg22を投与することにより,FLS2のエンドサイトーシス過程の可視化に成功した。この実験系を用いて,エンドサイトーシス経路において,TGNに局在すると報告されているRab GTPaseであるRab11グループの機能解析をまず行った。続いて,Rab GTPaseのなかでその機能が最もよく解析されているRab5を用い,FLS2のエンドサイトーシスにRab5がどのように関与するかについての解析を行った。本大会では,TGNを経由するエンドサイトーシスにおけるRAB11とRab5の役割について報告する。
  • 伊藤 容子, 植村 知博, 庄田 恵子, 藤本 優, 上田 貴志, 中野 明彦
    p. 0228
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    ゴルジ体は、真核生物の細胞において、新規に合成されたタンパク質を小胞体から受け取り、いくつもの細胞内輸送経路へと仕分けして送り出す重要なオルガネラである。一般的に扁平な袋状の膜(槽)が複数重なった構造(層板構造)をとることが知られており、哺乳類の細胞ではこのゴルジ層板が中心体付近に集められ、互いにつながり合って巨大で複雑なリボン状構造をとる。これに対して植物細胞では、個々の層板構造が独立して細胞質中に散在しているため、層板構造の解析に非常に適している。本研究では、植物のゴルジ体層板構造の形成・維持機構をライブイメージングにより明らかにするため、シス槽とトランス槽を別の色の蛍光タンパク質によって同時に可視化したタバコBY-2ラインを作出した。小胞体-ゴルジ体間輸送を阻害する薬剤であるBFAでこのラインを処理すると、シス槽マーカーの中に、もとのゴルジ体より小さく数の多いドット状の構造体に局在するものがあることがわかった。また、この状態からBFAを取り除くと、シス槽マーカーのドット状の構造体をもとにしてゴルジ体層板構造が再形成される様子が観察された。そこで、このドット状の構造体がゴルジ体再形成の“種”として働いていると考え、その正体を明らかにする解析を進めている。本大会では,植物細胞のゴルジ体の、シス槽とトランス槽それぞれに着目したbiogenesisの機構について議論したい。
  • 植村 知博, 齊藤 知恵子, 庄田 恵子, 海老根 一生, 上田 貴志, Schulze-Lefert Paul, 中野 明彦
    p. 0229
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    トランスゴルジネットワーク(TGN)は,小胞体からゴルジ体へと輸送されたタンパク質が,液胞,細胞膜等の目的地別に選別・輸送される際の分岐点となる重要なオルガネラである。植物においては,TGNはエンドサイトーシス経路の最初のコンパートメントとして初期エンドソームの機能を有するという報告もあり,TGNの構造・機能についての理解はあまり進んでいない。我々は,高等植物におけるTGNの高次機能を明らかにすべく,動物・酵母においてTGNに局在するQa-SNARE分子のオルソログ,SYP41SYP42SYP43の変異体を単離し,その表現型の解析を行った。その結果,それぞれの単独変異体(syp41syp42syp43)及び二重変異体(syp41syp42syp41syp43)では目立った表現型は観察されなかった。一方で,syp42syp43二重変異体では根の伸長が阻害され,植物が矮化して老化が早くなる表現型が観察された。そこで,葉の老化が早くなる現象に注目して,syp42syp43二重変異体における,様々な生物学的・非生物学的ストレスの応答について解析を行った。その結果,シロイヌナズナを宿主とするうどんこ病菌(Golovinomyces orontiiに対する抵抗性が高くなることが明らかとなった。本大会では,TGNと病原菌抵抗性の関係について議論したい。
  • 大濱 武, 山崎 朋人
    p. 0230
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    継代培養と伴にRNAi効果が減衰する現象が広い生物種で見られる。この現象が、逆位反復配列(silencer)に対するエピジェネティックな転写抑制であることを明らかにした。また、ユビキチン・リガーゼ複合体の構成因子であるElongin Cがこれに関与していることを示した。
    RNAi抑制効果が低下したクラミドモナスの株では、逆位反復配列中のCpG特異的にメチル化が蓄積しており、またpromoterと逆位反復配列領域のヒストンH3修飾は抑制的(H3K9me1)なものであった。この事から、RNAi効果の減衰はsilencerに対する転写抑制が原因であることがわかる。RNAi効果の低減株に対してinsertional mutagenesisにより RNAi効果が回復した株を得た。この時、tagによって破壊された遺伝子はElongin Cであった。Elongin C破壊株では、promoter 領域のヒストンH3修飾基はactiveなものに変わっていたが、逆位反復配列領域のヒストンH3修飾やCpG配列特異的なメチィル化の蓄積に大きな変化はなかった。このことから、メチル化CpGの蓄積が引金となり逆位反復配列領域で始ったヘテロクロマチン化は、Elongin Cを含む複合体の働きにより、メチル化CpGの蓄積がないプロモーター領域にまで拡大したと考えられる(Plant J. in press)。
  • 佐古 香織, 金井 知行, 加藤 絵里子, 綿引 雅昭, 山口 淳二
    p. 0231
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    26Sプロテアソームは数十のサブユニットからなる巨大なプロテアーゼであり、生体内の不要となったタンパク質を能動的に分解することによって、様々な生命現象の制御に機能している。26Sプロテアソームを構成する数十のサブユニットタンパク質は、それぞれ個別の機能をもっている。高等植物では、さらに、サブユニットが重複を持つ。当研究室ではこれまでに、AtRPT2a欠損変異体が、エンドリデュプリケーションの過剰促進による器官の巨大化を示すことを報告した。一方、パラログ分子であるAtRPT2b欠損変異体はこのような巨大化を示さない(Plant J. 60: 68, 2009)。このことより、シロイヌナズナ26Sプロテアソームは、サブユニットの機能分化のみならず、パラログ間においても機能の多様性を持つことが示唆された。
    本研究では、rpt2a変異体において、外生遺伝子の発現抑制が生じることを明らかとした。これは、外生遺伝子のプロモーター領域における過剰なメチル化が要因であった。一方、rpt2b変異体はこうしたサイレンシングを示さない。RPT2aによるメチル化制御機構および、パラログ間の機能分化について議論したい。
  • 須藤 慶太, 坪井 秀憲, 和田 正三
    p. 0232
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物では、RNA干渉(RNAi)とよばれる遺伝子サイレンシング技術が遺伝子機能解析に広く利用されている。我々は、ホウライシダに機能未知遺伝子のDNA断片を細胞内に導入すると、RNAi同様に目的遺伝子の発現抑制により遺伝子サイレンシングを起こすことを発見し、この現象をDNA干渉 (DNAi)と名付けた。その際、葉緑体光定位運動に関わるNEO1遺伝子を用いて、DNAi効果が目的遺伝子DNAのメチル化によって、次世代まで引き継がれる可能性を示唆した。RNAiではヒストン修飾もDNAのメチル化同様、遺伝子サイレンシングには重要な役割を果たしている。そこで、今回我々は、前回同様NEO1遺伝子を用いて、DNAiにおけるヒストン修飾をChromatin Immunoprecipitation (ChIP)-PCR法で調べた。その結果、DNAiによりサイレンシングされたシダでは、NEO1遺伝子付近のヒストンH3サブユニットの9番目のリジンが脱アセチル化しており、DNAのメチル化と同様にヒストンの修飾も次世代に引き継がれていた。さらにヒストンの脱アセチル化阻害剤をサイレンシングされたシダに添加するとNEO1の遺伝子発現は回復し、DNAiの効果が打ち消された。したがって、DNAiによる遺伝子サイレンシング効果はヒストンの脱アセチル化によって引き起こされ、次世代に伝わっていることが示された。
  • 門田 有希, 内藤 健, Susan R Wessler, 奥本 裕
    p. 0233
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    転移因子は生物のゲノム上の大部分を構成する要素であるが、その多くはDNAのメチル化を介したepigeneticな機構により抑制されている。イネトランスポゾンmPingは、品種日本晴を含む多くのイネ品種において、50コピー程度しか存在しないのに対して、品種銀坊主および数品種において、大量のコピー数を獲得しており、未だに高頻度で転移することが報告されている。著者らは、mPingの爆発的な増殖を引き起こしている要因を明らかにするために、その転移を引き起こす自律性因子であるPingおよびPongのメチル化程度および転写量を解析した。
    Pongは、両品種において発現量が非常に低く、さらにそのプロモーターおよびORF領域共にゲノム上の他の転移因子と同程度に、高度にメチル化されていた。一方、Pingは、全生育期間を通じて品種日本晴においても発現が確認され、両品種間でその発現パターンに大きな違いは見られなかった。さらに、Pingプロモーターのメチル化程度は、両品種において、極端に低くなっていた。
    以上のことから、Pongは両品種において既に抑制されていると考えられたのに対して、Pingは日本晴においても活性を維持しており、それはプロモーター領域の低メチル化が起因している可能性が高いと考えられた。
  • 保坂 碧, 佐瀬 英俊, 角谷 徹仁
    p. 0234
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー

    転移因子などのリピート配列はゲノム中に散在し、それらはDNAメチル化により強く抑制されている。その一方で遺伝子領域はほとんどDNAメチル化を受けていない。従って、細胞は遺伝子とそれ以外を見分けていると考えられるが、その分子機構はほとんど理解されていない。
    この疑問に答えるために我々はシロイヌナズナの異常なDNAメチル化パターンを示す突然変異体を用いて解析をおこなっている。リピート配列のDNAメチル化維持はクロマチンリモデリング因子であるDDM1 (DECREASE IN DNA METHYLATION1) によって行われいる。その一方、遺伝子をメチル化から防ぐ因子としてヒストンH3K9脱メチル化酵素をコードするIBM1 (INCREASE IN BONSAI METHYLATION1)が知られている。
    興味深い事に、ddm1ibm1二重変異体では顕著な発育阻害や不稔など、それぞれの単一の変異体では見られない重篤な発生異常の表現型を示す。このことは、DDM1とIBM1の機能に何らかの相互作用があることを示唆している。我々は遺伝学的手法によりこのddm1ibm1二重変異体で引き起こされる表現型の解析を進めており、今回はその結果について報告する。
  • 星野 敦, 朴 慶一, 崔 丁斗, 飯田 滋
    p. 0235
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    生物の模様には、しばしばエピジェネティクスが関与する。ソライロアサガオのpearly-vは「刷毛目絞り」と呼ばれる模様の花を咲かせる自然突然変異である。我々は、pearly-vがアントシアニン色素生合成系のDFR-B遺伝子の上流にDNA型トランスポゾンが挿入した変異であることを見いだした。花の絞り模様は、トランスポゾンの転移による体細胞変異が遺伝子発現を変化させて生じることが知られている。しかし、pearly-v遺伝子座に挿入されたトランスポゾンは安定で転移は確認できず、刷毛目絞りの形成に体細胞変異は関与していなかった。そこでpearly-v遺伝子座のDNAメチル化を調べたところ、DFR-B遺伝子のプロモーター領域内の特定の配列が花弁の非着色細胞では特異的にメチル化されているが、着色細胞では低メチル化状態にあることを見いだした。以上の結果は、刷毛目絞りもエピジェネティクスが関与する現象であり、体細胞レベルでの高頻度なDNAメチル化の変化がDFR-B遺伝子の発現を制御して生じることを強く示唆している。
  • 樽谷 芳明, 柴 博史, 岩野 恵, 柿崎 智博, 鈴木 剛, 渡辺 正夫, 磯貝 彰, 高山 誠司
    p. 0236
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    多くの植物は、受粉から受精に至る生殖過程において、自己と非自己の花粉を識別し、自殖を抑制する自家不和合性と呼ばれる性質を持つ。S遺伝子座上にコードされる多型性の花粉因子S-locus protein 11 (SP11/SCR)と、雌ずい因子S-receptor kinase (SRK)を介して行われており、受粉の際、同じSハプロタイプのSP11がSRKに出会うとSRKが活性化され、不和合反応が誘起される。花粉因子SP11は、花粉(n)ではなく葯タペート組織(2n)で作られる花粉の成熟に伴って花粉表層に移行する。従って、2種類のSハプロタイプを持つヘテロ株の花粉は、花粉親の2種類のSハプロタイプの形質を併せ持つが(共優性)、Sハプロタイプの組合せによっては、優劣の関係が生じ、片側のSハプロタイプの形質しか示さない花粉が作られる場合がある。これまでの研究から、優性/劣性ヘテロ株において、劣性側のSP11遺伝子プロモーター領域が、その発現が始まる直前に葯タペート組織特異的にメチル化され、発現が抑制されることが明らかとなっている。今回、我々は、劣性側のSP11遺伝子プロモーター領域の特異的なメチル化が、優性側のSP11遺伝子近傍から産出されるトランス作用性のsmall RNAによって制御されていることを明らかにしたので報告する。
  • 中村 みゆき, 木下 由紀, 木下 哲
    p. 0237
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    被子植物特有な現象である重複受精では、胚をつくる卵細胞との受精のほか、極核とも受精し胚乳組織を作り出す。胚乳組織では、ゲノムインプリンティングと呼ばれる片親由来の対立遺伝子が発現する現象が見られる。この様な発現様式を示す遺伝子の一つであるFWA遺伝子は、栄養組織ではプロモーター領域がDNAメチル化されており、転写も見られない。逆に、胚乳組織ではDNAメチル化の低下とともに遺伝子発現が起こるようになる。しかしながら、こうした胚乳組織に特異的な転写制御の分子機構は未だ不明な点が多い。そこで本研究では、このFWA遺伝子のプロモーター領域にGFPを融合させたコンストラクトを用いて、変異体スクリーニングを行った。その結果、胚乳組織において、この組換え遺伝子の発現が低下する見られる変異体alac2 を単離した。alac2 ヘテロ変異体は、受精前の一部の胚珠でGFP局在異常を示し、受精後はおよそ半数の胚珠で核分裂の遅延を示した。ポジショナルクローニングの結果、alac2 変異体の原因遺伝子は、鉄ハイドロゲナーゼ様タンパクをコードしていることが明らかとなった。興味深いことに、水素生産を行わないはずの高等真核生物間でこの遺伝子は高い相同性が見られた。こうした点も踏まえて、鉄ハイドロゲナーゼ様タンパクが担いうる胚乳組織での役割の可能性について議論したい。
  • 池田 陽子, 木下 由紀, 池田 有理子, 角谷 徹仁, 木下 哲
    p. 0238
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    DNA脱メチル化は、動植物を通じて発生や分化の制御に関わることが知られている。植物では、ゲノムインプリンティングの確立過程において、中央細胞で発現したDNA脱メチル化酵素DEMETER(DME)がメチルシトシンを切り出し、母親側の特定の遺伝子発現を活性化することで、受精後の胚乳における父母アレルの発現の違いが引き起こされることが知られている。しかしながら、DNA脱メチル化過程でのクロマチン制御については殆ど明らかになっていない。我々はDNA脱メチル化に関わる新規因子を明らかにするため、インプリント遺伝子FWAの発現をGFPでモニターする系を用い、FWAの発現に異常が見られる変異体をスクリーニングした。
    我々が単離したalac1はヒストンシャペロンの構成因子をコードしており、ヌクレオソーム構造の制御に関わっていると考えられる。alac1では、母親特異的インプリント遺伝子のDNAメチル化レベル及び発現に影響がみられた。さらに、インプリント遺伝子の変異体mea及びfis2と同様、受精に依存せず胚乳発生が開始する表現型を示した。alac1の中央細胞におけるDME遺伝子の発現レベルは野生型と違いが見られない事から、ALAC1はヌクレオソーム構造の制御を介して、DMEの発現制御以外の機構でDNA脱メチル化及びゲノムインプリンティングに関与すると考えられる。これらの結果について報告したい。
  • Buzas Diana Mihaela
    p. 0239
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
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    Epigenetic states can enrich the transcriptional repertoire of a chromatin template, by enabling responses other than simply ON or OFF, like, for example fast, cell-specific, quantitative, parent of origin, transgenerational, etc.
    The Arabidopsis thaliana FWA gene displays parent of origin gene expression during the reproductive phase and it is a model system for imprinting in the endosperm. A pFWA::GFP reporter monitors maternal gene expression in endosperm and lack of activity in both the surrounding maternal tissue and the paternal copy. These transcription states are dictated by DNA methylation status of the two SINE repeats present in the FWA promoter: FWA DNA is permanently methylated, except the maternal methylation of FWA is lost just before fertilization in an active process mediated by the DNA glycosylase DEMETER and only the endosperm inherits an active state.
    We aim to identify new components involved in DNA de-methylation by characterizing mutations that impede FWA reporter imprinting, termed alac mutants (Alarm Clock for FWA imprinting). I will focus on one such mutant, alac4, that also affects the imprinting of at least two other genes.
  • 玉田 洋介, Yun Jae-Young, Kang Ye Eun, Woo Seung chul, 増田 典子, Amasino Rich ...
    p. 0240
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    冬季一年生シロイヌナズナにおける開花の春化要求性は、FRIGIDA (FRI) による花成抑制因子FLOWERING LOCUS C (FLC) の転写活性化によって確立される。FRIによるFLCの転写活性化にはヒストンH3の4番目のリシン残基 (H3K4) のメチル化が不可欠である。FLC遺伝子座におけるH3K4メチル化は、出芽酵母Set1クラスに属するARABIDOPSIS TRITHORAX-RELATED7 (ATXR7) を含む複数のメチル化酵素によって触媒されることが知られている。今回、さらに我々は新規クラスに属するヒストンメチル化酵素ATXR3がFLC遺伝子座におけるH3K4のメチル化に機能することを明らかにした。まず、atxr3突然変異体の冬季一年生シロイヌナズナは早咲きの表現型を示した。この表現型は、FLC遺伝子座におけるH3K4メチル化量の低下を伴ったFLC発現量の減少によって引き起こされていることを明らかにした。さらに、既知のヒストンメチル化酵素とATXR3との関係を調べるためatxr3 atxr7二重突然変異体を作出した。その結果、早咲きの表現型に関してatxr3atxr7にエピスタティックであった。以上の結果から、新規のヒストンメチル化酵素ATXR3はATXR7と協調しながらFLCの転写活性化に機能していることを解明した。
  • 西村 恵美, 堀内 沙織, 野崎 直仁, 大山 隆
    p. 0241
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    S-like リボヌクレアーゼ(RNase)は、一般的な植物ではリン酸飢餓や病原菌感染等のストレスに応答して誘導されることが知られている。近年我々は、食虫植物Drosera adelae(ツルギバモウセンゴケ)、Dionaea muscipula(ハエトリソウ)、Cephalotus follicularis(フクロユキノシタ)の各消化液中に、S-like RNaseが含まれていることを発見した。また、対応する遺伝子を単離し(それぞれ、da-Idm-Icf-Iと命名)、組織ごとの遺伝子発現解析とプロモーターのメチル化解析を行った。その結果、da-I遺伝子は腺毛でのみ発現し、そのプロモーターは葉では高メチル化状態にあるが、腺毛ではメチル化されていないことが判明した。また、dm-I遺伝子は解析した全組織で発現し、そのプロモーターはどの組織でもメチル化されていないことが示唆された。cf-I遺伝子の発現は捕虫葉に限られていることが分かったが、そのプロモーターはdm-Iプロモーターの場合と同様、どの組織でもメチル化されていないことが判明した。以上から、食虫植物のS-like RNase遺伝子の発現様式はストレス応答的ではないことが明らかになった。また、その発現制御機構が確立される過程には進化的類縁関係よりも捕虫様式の方がより深く関わったものと考えられる。
  • 岸本 久太郎, 中山 真義, 安藤 敏夫, 大久保 直美
    p. 0242
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    野生ペチュニア(Petunia axillaris)の花の主要な香気成分は芳香族化合物であり、その生合成や発散は、夜間にピークを取る昼夜リズムを示す。ペチュニアの花冠における代謝物の変動を網羅的に解析したところ、芳香族化合物の前駆体であるシキミ酸や糖代謝物もまた類似の昼夜リズムを示した(大久保ら 2010 )。今回、トランスクリプトームによって、芳香族化合物生合成関連遺伝子の発現を調査した。その結果、これらの遺伝子発現の経時的な変化は、代謝物の変化と必ずしも一致しなかった。解糖系遺伝子は、多様な発現パターンを示し、いくつかのペントースリン酸経路遺伝子は、夜間に発現量が増加した。ペントースリン酸経路の一部、シキミ酸経路、S-アデノシルメチオニンサイクル、および非揮発性芳香族化合物の生合成における遺伝子発現は、暗期開始時にピークを示した。興味深いことに、揮発性芳香族化合物生合成遺伝子の発現は、芳香族化合物量が最も少ない日中にピークを示した。この結果は、遺伝子発現が、揮発性芳香族化合物の昼夜リズム形成にあまり寄与していないことを示唆している。また、複数の発現パターンが検出されたことから、これらを規定している複数の制御系が存在すると予想される。
  • 中島 杏菜, 飯島 陽子, 田坂 寛之, 青木 考, 柴田 大輔, 松井 健二
    p. 0243
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物は、傷害ストレス下で(Z)-3-ヘキセナール等のC6-アルデヒド類を生成し放散する。これらは自己防御反応を誘導するシグナル分子の一つと考えられている。これらC6-アルデヒド類は、膜脂質からリパーゼの加水分解作用で生じた遊離の不飽和脂肪酸にリポキシゲナーゼ(LOX)が作用し、生成した過酸化脂肪酸(HPO)がヒドロペルオキドリアーゼ(HPL)によって開裂されることにより生成すると考えられている。しかしながら、シロイヌナズナ(No-0)の葉を破砕後に、C6-アルデヒド類と12-オキソ-(Z)-9-ドデセン酸量を比較したところ、C6-アルデヒド類に比べて12-オキソ-(Z)-9-ドデセン酸の検出量は著しく少なかった。また、HPL活性のないシロイヌナズナのエコタイプであるCol-0の葉を破砕するとアラビドプシド類の蓄積が検出された。さらに、遊離の過酸化不飽和脂肪酸だけでなく、モノガラクトシルジアシルグリセロールヒドロペルオキシドもHPLの基質となった。これらの結果は、シロイヌナズナのみどりの香り生合成経路に、遊離の12-オキソ-(Z)-9-ドデセン酸を生成しない別の経路があることを示唆している。この経路では、脂質はリパーゼを介さずにLOX,続いてHPLの作用を受け、12-オキソ-(Z)-9-ドデセン酸をアシル基にもつ糖脂質コアアルデヒドが生成すると考えられる。
  • 嵯峨 寛久, 小川 拓水, 鈴木 秀幸, 柴田 大輔, 太田 大策
    p. 0244
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    陸上植物は化学的な生体防御手段として様々な二次代謝産物を生合成し蓄積する.カマレキシンとグルコシノレートは,モデル植物であるシロイヌナズナの主要な二次代謝産物であり,病原体感染や昆虫食害に対する化学防御手段としてのグルコシノレート生合成制御に関しては多くの知見が報告されている.一方,多様な環境変化に応答して,これら複数の二次代謝経路が包括的に制御される分子機構は明らかではない.我々は,シロイヌナズナ根においてカマレキシンとグルコシノレートの生合成を制御する転写調節因子CMD (camalexin deficient)を新規に同定し,その機能解析を行った.CMD遺伝子のT-DNA挿入変異系統(cmd)はカマレキシン蓄積に欠損を示す変異体として単離した.CMDは既知の転写因子と高い相同性を示し,CMD:GFP融合タンパク質の核局在性から転写調節因子であることが示唆された.cmd変異体ではカマレキシン生合成遺伝子CYP71A12の発現量が低下し,CMD過剰発現系統ではCYP71A12転写産物が恒常的に蓄積していた.さらにcmd変異体では,グルコシノレート生合成を制御するMYB転写調節因子の発現量低下とともに,グルコシノレートプロファイルが変化していた.以上の結果より,CMDはシロイヌナズナの化学防御に関わる複数の二次代謝経路を制御する新規の転写調節因子であると推察された.
  • Bunsupa Somnuk, Katayama Kae, Ikeura Emi, Oikawa Akira, Saito Kazuki, ...
    p. 0245
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    Quinolizidine alkaloids (QAs) occur mainly in the genus Lupinus. We isolated a lysine/ornithine decarboxylase cDNA (LaDC) and acyltransferase (LaAT) by differential transcript-screening in two Lupinus angustifolius cultivars regarding capability of QA-production. The expression level of LaDC and LaAT were highest in young leaves of the QA-producing cultivar and not detected in the non-producing cultivar. We also obtained LDC cDNAs from two other QA-producing plants, Sophora flavescens and Echinosophora koreensis. Recombinant LDCs from QA-producing plants exhibited decarboxylase activities towards both L-lysine and L-ornithine to the similar extent. Site-directed mutation study of LaDC revealed the important amino acid residues for LDC activity. The overexpression (OX) of LaDC in tobacco hairy roots and BY-2 suspension cells resulted in an enhanced production of cadaverine-derived piperidine alkaloids. The transgenic Arabidopsis plants LaDC-OX accumulated cadaverine, which is never detected in the control plants. These data indicate that these LDCs from QA-producing plants catalyze the decarboxylation of L-lysine to form cadaverine leading to the synthesis of QAs.
  • 南 翔太, 士反 伸和, 森田 匡彦, 澤田 啓介, 伊藤 慎悟, Alain Goossens, Dirk Inzé, 守安 ...
    p. 0246
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物の二次代謝産物であるアルカロイドは医薬品の原料として用いられる。タバコのニコチンアルカロイドは根で合成され、茎を経由し葉の液胞に蓄積することが知られている。しかし、その輸送機構はほとんど明らかとなっていない。近年、ニコチン生合成遺伝子と同様に発現誘導される遺伝子群の網羅的解析が報告された1)。演者らは、同定された4種のトランスポーター(Nt-JAT1, C215, T449, T408)の研究を行っている。本研究では、タバコ新規トランスポーターNt-T408の全長の単離及び機能解析を行った。
    Nt-T408は、植物で機能未知なNCS1 (nucleobase cation symporter-1)ファミリーに属していた。本遺伝子はジャスモン酸処理によって、ニコチン生合成部位である根において発現が誘導されることが判明し、またNt-T408はプラスチドに局在していることが明らかになった。以上の結果より、Nt-T408はプラスチドに局在し何らかの基質を輸送すること、ニコチン生産時には、その輸送がニコチン生産に重要な役割を果たしていることが示唆された。現在、T408の基質の同定を目的として、T408過剰発現、発現抑制BY-2細胞を作出し、ニコチンなど細胞内代謝産物の変化を解析中である。
    1) Goossens A et al. (2003) PNAS 100: 8595-8600.
  • 士反 伸和, 伊藤 慎悟, 南 翔太, 伊藤 梢, 森田 匡彦, 澤田 啓介, Goossens Alain, Inze Dirk, 守安 ...
    p. 0247
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    植物は多様な二次代謝産物を生産し、外敵への防御応答として用いている。タバコのニコチンアルカロイドは虫害等によりジャスモン酸シグナルを介して根特異的に生合成され、続いて導管輸送により緑葉へ転流・蓄積することが知られる。演者らはこの転流に関わるトランスポーターの探索を行い、葉の液胞への輸送に関わるMATE型トランスポーターNt-JAT1を同定、報告してきた1)。しかし、ニコチンの転流機構の全容は未だ不明な点が多い。本研究では、Nt-JAT1と同時にクローニングされ、ニコチントランスポーターと目されるNt-C215について発現特性と機能解析を行った。
    【方法、結果及び考察】
    Nt-C215は全長約1.8 kb、507アミノ酸をコードしており、Nt-JAT1同様MATE型トランスポーターに属していた。本遺伝子はノザン解析により、植物体内ではニコチン生産を誘導するジャスモン酸処理下においてのみ発現し、またその発現は葉特異的であることが判明した。酵母を用いた細胞輸送を検討した結果、Nt-C215発現酵母におけるニコチン含量は有意にコントロールよりも低く、葉におけるニコチン輸送に関わることが示唆された。現在、形質転換植物を作成してNt-C215の生理機能を解析している。
    1) Morita, Shitan et al. (2009) PNAS 106: 2447-2452.
  • 庄司 翼, 梶川 昌孝, 橋本 隆
    p. 0248
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    タバコは根においてニコチンとその類縁ピリジンアルカロイドを生合成する。また、葉部への食害に応答してその生合成がジャスモン酸情報伝達系を介して誘導される。NIC制御遺伝子座が生合成を正に制御していることが遺伝学的に知られており、それらの変異アレルは低ニコチンタバコ品種の育種に利用されてきた。我々はNIC2遺伝子座(B遺伝子座とも呼ばれていた)に特定のサブファミリーに属する複数のERF型転写因子がクラスター化して存在し、nic2変異体では少なくとも7つのERF遺伝子が欠失していることを明らかにした。これらERF遺伝子はニチニチソウにおいてインドールアルカロイド生合成に関わるジャスモン酸誘導性転写活性化因子ORCA3と高い相同性を示す。このNIC2/ORCA ERFサブファミリーがジャスモン酸誘導性の二次代謝の制御に異なる植物系統で独立に用いられるようになったことが考察された。
  • 庄司 翼, 橋本 隆
    p. 0249
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    タバコNIC2遺伝子座には一群のERF遺伝子がクラスター化して存在している。タバコ培養根において過剰発現、発現抑制、及び、ドミナント抑制型の発現を行い、これらERF遺伝子が生合成のマスター制御因子であることを示した。また、ERFはニコチン生合成遺伝子のプロモーター内に存在するGCC boxを認識し、生合成の既知の全構造遺伝子を特異的に活性化する。いずれのERF遺伝子も生合成器官である根で発現するとともに、ジャスモン酸によって誘導されたが、それらの誘導の時間依存的パターンは遺伝子メンバー間で異なっていた。互いに高い相同性を示すERF遺伝子群は遺伝子重複によって生じた後、それぞれが転写因子として機能分化したと考えられた。ERF遺伝子が他の因子とともにどのようにニコチン生合成のジャスモン酸応答に関わるのか、及びジャスモン酸誘導性のERF遺伝子サブクラスが種々の生理活性アルカロイドの生合成に関与する可能性を考察する。
  • 澤井 学, 石森 雅人, 大山 清, 關 光, 須藤 浩, 明石 智義, 青木 俊夫, 村中 俊哉, 斉藤 和季
    p. 0250
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    グリチルリチンはカンゾウ (Glycyrrhiza)属植物が地下部に蓄積するサポニンで,甘味料,医薬品として世界中で用いられている.最近,我々はG. uralensisより,グリチルリチン生合成に関わるシトクロムP450としてCYP88D6 [Seki H. et al. PNAS (2008)],CYP72Aの同定に成功し,遺伝子組換え酵母によるアグリコンの生産にも成功している.ところで,カンゾウ属にはグリチルリチンを産生せず,類似のサポニンを産生する種も存在する.本研究ではカンゾウ属植物が生成するサポニンの化学的多様性は,それら生合成に関わるP450遺伝子の差異によるものと考え,グリチルリチン産生種および非産生種より相同遺伝子を単離し,比較解析を行った.
    CYP88D6相同遺伝子の推定アミノ酸配列を基に作成した分子系統樹では,グリチルリチン産生種と非産生種はそれぞれ別のグループに分かれた.また,酵母異種発現系を用いて相同遺伝子の機能評価を行ったところ,CYP88D6相同遺伝子の機能的差異がこれらの化学的多様性の原因であることを示唆する結果が得られた.今後,これら遺伝子情報を用いたカンゾウ属植物種の同定や合理的な分子育種が期待される.さらに,これら遺伝子が,合成生物学,植物代謝工学の手法にてサポニンを生産する際のプロファイルデザインツールとして活用されることが期待される.
  • 福島 エリオデット, 關 光, 大山 清, 澤井 学, 斉藤 和季, 村中 俊哉
    p. 0251
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    マメ科植物には、潜在的医薬品資源として重要な化合物群である多様なトリテルペノイドサポニンが多く含まれることが知られている。そのほとんどは、ベータ-アミリンが基本骨格となっていることが知られている。ベータ-アミリン24位水酸化酵素としてソヤサポニン生合成に関わるシトクロームP450酸化酵素であるCYP93E1およびCYP93E3が、それぞれダイズおよびカンゾウから単離されている。これらと80%以上のアミノ酸配列同一性を示すタルウマゴヤシCYP93E2について、マメ科のモデル植物であるMedicago truncatula Gene Expression Atlas共発現解析ツールを用いて、ベータ-アミリン合成酵素(bAS)遺伝子との共発現係数を調べたところ、0.77と高い値を示した。さらに、酵母発現系を用いた実験により、CYP93E2がベータ-アミリン24位水酸化活性を持つことを明らかにした。そこで、bAS遺伝子に対してCYP93E2よりも高い相関係数(0.85)を示すものの機能未知であるCYP716A12について、ベータ-アミリン酸化活性の有無を調べた。その結果、ベータ-アミリンの28位水酸化体であるエリトロジオールと推定されるピーク、およびカルボン酸であるオレアノール酸の標品と保持時間ならびにフラグメントパターンが一致するピークが検出された。
  • 池澤 信博, Nguyen Don, Gopfert Jens, Ro Dae-Kyun
    p. 0252
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    セスキテルペンラクトン (STL) はキク科植物に主に見られる二次代謝産物である。多くのSTLは生理学的、薬理学的な重要性を持つにも関わらず、それらの生合成に関する知見は乏しい。我々はSTL生合成研究の第一歩として、最も単純な構造を持つSTLであり、多様なSTLの前駆体であると考えられているcostunolideを対象として研究を行った。
    Costunolideはセスキテルペノイドの共通前駆体であるファルネシル二リン酸(FPP)からgermacrene Aとgermacrene A acid (GAA) を経由して生合成される。これまでに、FPPからGAAに至る生合成酵素遺伝子の単離はなされている一方で、GAAからcostunolideへのラクトン環形成に関わるP450遺伝子は未同定であった。我々はヒマワリのトライコームESTライブラリーからGAAを基質とする新規P450遺伝子を単離すると共に、そのホモログとしてレタスから、目的とするcostunolide合成酵素遺伝子の単離に成功した。更に、costunolide生合成系をFPP高生産酵母中で再構成する事により、costunolideの酵母中におけるde novo合成に成功した。また、ヒマワリの新規P450とレタスのcostunolide合成酵素遺伝子の反応産物の構造からSTLのラクトン環形成についての新たな知見が得られた。
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