日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
最新号
選択された号の論文の1051件中51~100を表示しています
  • 新沼 協, Breuer Christian, 河村 彩子, 杉本 慶子
    p. 0051
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物は光などの外的環境に適応するため、器官サイズを変える能力を持つ。植物の器官サイズは細胞数と各細胞の大きさにより決まる。さらに、高等植物の細胞の大きさは、核内倍加による細胞質の増加とその後の膨圧変化等による細胞体積の増加で規定されるというモデルが示されている。本研究室の先行研究は、シロイヌナズナのトライヘリックス型転写因子GT-2-LIKE1(GTL1)の機能欠損変異体ではトライコームが2倍以上大きくなり、核相が増加することを示した。今回我々は、GTL1とその相同性遺伝子の機能欠損変異体を用い、トライコーム以外の器官サイズの解析を行った。
    これら遺伝子の発現は明暗条件下で発現が変動し、暗期で発現が上昇した。これら単独および二重機能欠損変異体を恒明条件下および短日条件下で生育したところ、各単独機能欠損変異体では野生型に比べて器官サイズに明らかな差はなかったが、二重機能欠損変異体は恒明条件下で矮化し、短日条件ではこの矮化がさらに促進された。また、恒明条件下では野生型と比べて各単独・二重機能欠損これら変異体では核相に差は見られなかったが、短日条件下では二重機能欠損変異体は高い核相を示した。本発表では、これら変異体の様々な光条件下における器官サイズ関連遺伝子の発現解析や細胞生物学的解析の結果をふまえ、植物の器官サイズ制御機構について議論する。
  • 塚谷 裕一, 澤田 有司, 石川 直子, 平井 優美
    p. 0052
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    ゲノムの倍数性の増加は、しばしば細胞体積の増大を伴うだけでなく、代謝産物蓄積量の変化をももたらすことが、経験的に知られている。しかしその理由は全く不明である。そこで本研究では、モデル植物のシロイヌナズナを4倍体にしたときの代謝産物プロファイルの変化を解析し、その原因として考えられることを追求することとした。まず最初に標準系統の一つColumbia野生株をコルヒチン処理により倍数化し、4倍体系統を作出した。これはすでに本大会でも報告の通り、細胞サイズが体積ベースでほぼ倍となっており、植物体のサイズもそれに伴って大型化しているが、成長はやや遅い。この4倍体系統についてフローサイトメトリー解析により葉の細胞の核内倍加のレベルを調べたところ、もとの2倍体と同様の核内倍加パターンであった。そこでこの4倍体系統と2倍体系統の間で、種子および各種栽培条件下での葉に含まれる代謝産物をワイドターゲット分析(Sawada et al., 2009)にかけ、その差を解析した。その結果、2倍体―4倍体の差は種子と葉の間、また栽培条件の間でそれぞれ異なり、共通要素はほとんど見られなかったが、種子においては興味深いことに、各種アミノ酸およびグルコシノレートの含有量が有意に増加していた。現在、この結果についてさらに解析を進めている。
  • 渡辺 明夫, 百目木 幸枝, 軸丸 裕介, 笠原 博幸, 神谷 勇治, 佐藤 奈美子, 高橋 秀和, 櫻井 健二, 赤木 宏守
    p. 0053
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    多くの植物種では頂芽の成長が優先され側芽の成長が抑えられる頂芽優勢と呼ばれる機構が働き、全体の草型が制御される。私たちは主茎や側枝が長期間伸長を続け、最終的に鳥の巣のような姿となるシロイヌナズナ変異体を見いだした。解析の結果、この独特の草姿は、全ての枝の茎が頂芽優勢による抑制をのがれ長期間伸長を続けることに主な原因があり、一枝当りの分枝数は極端には増加していないことが分かった。頂芽優勢を免れて全ての茎が伸長を続ける表現型は単一の劣性変異に起因していたため、この原因変異をnoah (no apical dominance in branch hierarchy)と名付け、noah変異体の特異な草姿形成機構の解明を試みた。
    主茎や側枝の伸長を詳細に調べた結果、WTの茎では茎頂から約1.5 cmほど下部を中心に幅広い領域が伸長していたのに対し、noah変異体の茎では茎頂から約0.5 cm以内の狭い領域のみが伸長していた。茎の細胞伸長が茎中を極性輸送されるオーキシンにより引き起こされると考えると、上記の結果は変異体の茎中のオーキシン分布が著しく変化していることを意味していた。そこでオーキシン濃度を詳細に測定した結果、変異体の茎のオーキシン分布はWTのものと著しく異なっていた。このため、noah変異体では茎中のオーキシンの極性輸送が著しく撹乱されていることが推察された。
  • 森脇 哲平, 小林 啓恵, 宮沢 豊, 藤井 伸治, 高橋 秀幸
    p. 0054
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    根は水分の多い領域へ伸長する水分屈性を示す。水分屈性は、植物の水獲得に重要な役割を果たすと考えられるが、その制御機構はまだよく分かっていない。我々は、水分屈性に必須な遺伝子としてMIZ1を同定し、その発現制御が光によって行われることを見出してきた。今回、MIZ1がHY5を介して制御されること、また光シグナル非依存的にABAによっても誘導されることを明らかにしたので報告する。GFP融合MIZ1を発現する系統を作出し、その発現を光シグナルの感受・伝達異常突然変異体を用いて解析したところ、hy5ではMIZ1-GFPのシグナルが低下していた。一方、光受容体の単一変異体ではMIZ1-GFPシグナルに野生型との変化は見られなかった。また、ABA処理はMIZ1の発現を誘導すること、HY5はABAシグナルの伝達にも関与することが知られている。そこで、ABAにより誘導されるMIZ1がHY5により制御されるかどうか検証した。その結果、hy5にABAを処理したところ、野生型と同様のMIZ1-GFPのシグナルが検出されることが分かった。以上の結果より、ABAを介したMIZ1の発現誘導には、HY5を介した経路は必須でないことが示唆された。また、hy5では水分屈性が低下し、ABA処理によりその低下が回復したことから、光、乾燥といった環境刺激により制御されるMIZ1発現量が水分屈性能を調節することが示唆された。
  • 橋本 佳世, 中澤 美紀, 松井 南, 奈良 久美
    p. 0055
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    microRNAであるmiR165/166のターゲットは,メリステム形成や器官極性の決定・維管束発達などに大きく寄与するclass?VHD-ZIP転写因子である.HD-ZIP?VはmiR165/166によって緻密に発現量が調節されており,この制御経路が崩れると,極度の形態異常や機能欠損などが引き起こされる.シロイヌナズナにはMIR166a~gの7遺伝子が存在し,全て同じ21ntのmiRNAを産生する.これらは1塩基違いのmiR165と共にHD-ZIP?Vの転写後調節に関わると考えられている.本研究においてアクチベーションタギング系統より変異体の選抜を行ったところ,形態に極めて異常がみられるD10系統が単離された.D10系統は全体的に矮性で,花序・葉序に乱れがあり,花茎が帯化した.また,花器官においても異常が認められ,自家受粉が稀にしか行われない不稔の形質を示した.D10系統には35Sエンハンサーを含むT-DNAがMIR166cMIR166dの間の一か所に挿入されており,RT-PCRの結果,これらのmiRNA前駆体が過剰発現していることが明らかになった.また,D10系統におけるmiR166と5つのHD-ZIP?V遺伝子の発現パターンも野生型とは異なっていた.これらの発現とD10系統の形態異常との相関について考察する.
  • 丹羽 智子, 中村 研三, 石黒 澄衞
    p. 0056
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    タンパク質の高次構造を変化させる突然変異は、多くの場合、そのタンパク質の機能を低下させるため、淘汰されるものである。しかし、そのような変異が生じたタンパク質の中には、分子シャペロンHsp90の助けにより、変異による高次構造変化を回復して正常に機能することで、変異の存在を隠し、淘汰されることなく維持されているものも存在する、とする仮説がRutherfoldとLindquistによって提唱されている。
    我々は、シロイヌナズナの小胞体型Hsp90であるSHEPHERD (SHD)とCLAVATA2 (CLV2)の関係に着目し、(1)Ws系統由来のCLV2 (CLV2Ws)は1つのアミノ酸置換が原因で、SHD存在時にのみ機能できる、(2)in vitroでの実験より、CLV2はSHDに結合する標的タンパク質である、ということをこれまでに明らかにしてきた。これより、有害な変異が生じたCLV2Wsの高次構造形成をSHDが助けている、つまりSHDとCLV2の関係こそ、上記の仮説に当てはまる例の1つであると考えている。
    なお、シロイヌナズナの系統間においてCLV2には多くのアミノ酸置換が蓄積しているため、CLV2Ws以外にも、有害な変異を保持しつつもSHDに依存して正常に機能できているCLV2の存在も考えられる。そこで、多様なCLV2のSHD依存性について解析したので、その結果を報告する。
  • 松崎 潤, 山本 興太朗
    p. 0057
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナの側根は発生後しばらく傾斜した方向へ伸長するが、その後下方へ伸長する。突然変異体hy5でこの転換が遅れていることに着目し、側根の伸長方向の制御に関わる遺伝子を探索した。ABAを含む培地でhy5を育てると側根の伸長方向の下方への転換が早まったため、ABA誘導性遺伝子の関与が疑われた。T-DNA挿入変異体を探索したところ、rd29aで側根の伸長方向の下方への転換が遅れていた。さらに、RD29Aの根端での発現を定量したところ、hy5で減少していた。従って、RD29Aが根端において伸長方向の転換を早める機能を持つことが明らかになった。また、hy5と野生型について、側根を根の長さと伸長方向により成長段階を分類し、主根とともに採取してマイクロアレイ解析を行った。発現の増大または減少と遺伝型および根の成長段階との対応を調べたところ、根の伸長方向に関わらず遺伝型に対応している遺伝子が最も多く、次に遺伝型に関わらず根の伸長方向と対応している遺伝子が多かった。伸長方向の転換は根端における遺伝子発現の広範な変化の反映のひとつと考えられる。そこで、発現の増大または減少と根の伸長方向が対応している遺伝子のうち、対応の有意確率に基づいてT-DNA挿入変異体の入手可能な28遺伝子を選んで表現型を解析したところ、うち数遺伝子が側根の伸長方向を制御する機能を持っていた。
  • 酒井 友希, 宮下 結衣, 川本 麻美, 宇山 和樹, 辻井 由香, 遠藤 求, 石崎 公庸, 大和 勝幸, 河内 孝之, 荒木 崇
    p. 0058
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    LEAFYLFY)遺伝子は種子植物の花芽形成を司るマスター遺伝子である。LFY相同遺伝子は陸上植物の全ての系統(被子植物、裸子植物、シダ植物、コケ植物)で存在が確認されている。しかし、被子植物における花芽形成制御以外のLFYの機能についてはあまり知見がない。コケ植物では、生活環のほとんどが配偶体世代で、胞子体世代は短期間に限られる。コケ植物のLFY相同遺伝子は、胞子体世代(2n)のみならず配偶体世代(n)でも発現していることが確認されているが、特に配偶体世代において、その機能は未解明である。
    当研究室では、陸上植物進化の最も基部で分岐した苔類ゼニゴケ(Marchanita polymorpha)からLFY相同遺伝子MpLFYを単離し、解析を進めてきた(2009年、2010年度年会)。MpLFYは生活環を通じて発現し、特に配偶体世代の雄性生殖器官と胞子体で高いレベル発現していることがわかった。MpLFYの過剰発現株では、葉状体の成長阻害と雄性生殖器官の形態異常が観察された。これらの結果から、MpLFYが胞子体世代だけでなく、配偶体世代においても機能する可能性が示唆された。配偶体世代におけるLFY相同遺伝子の機能は、ほとんどの植物において単一コピーでありながらマスター制御因子として進化を遂げてきたLFYの祖先的機能を知る手がかりとなると期待される。
  • Bidadi Haniyeh, Matsuoka Keita, Asahina Masashi, Yamaguchi Shinjiro, S ...
    p. 0059
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    GA-deficient mutant of Arabidopsis thaliana was used to observe the effect of GA in root growth and development. In order to find out whether gene expression in the root is affected by GA4 applied to the shoot, microarray analysis was performed using root samples of GA-treated plant. The results allowed us to select several up- and down-regulated genes. The selected up-regulated genes included members of the CLE gene family, which encode precursors for secreted small peptides, collectively called CLE peptides. This discovery led us to speculate that GA-responsive CLE genes might play an important role in long distance signaling between shoots and roots and its interaction with GA. To elucidate the role of these CLE genes, we generated transgenic Arabidopsis plants that over-express or under-express CLE genes. Also Tissue-specific expression of CLE gene was observed in stele and branching points of root. This new finding has provided an opportunity to investigate further the existing relationships between CLE peptides and GA and their role in plant development.
  • 加藤 大和, 原 睦美, 佐藤 豊, 北野 英己, 長戸 康郎, 石川 亮, 木下 哲, 武田 真, 服部 束穂
    p. 0060
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    イネ無胚乳変異体enl1は劣性一遺伝子座の変異で、その種子は胚乳を形成できない。一方、その胚は肥大化し休眠性を喪失しているが発芽能をもつ。我々はenl1のマッピングを行い、第4染色体長腕上テロメア近くに存在する推定遺伝子領域のエキソン内に欠失変異を見つけた。さらにこの遺伝子領域を含む野生型ゲノム断片を用いた形質転換によりenl1変異の表現型が完全に相補されたことから、本遺伝子がenl1変異の原因遺伝子であると結論した。ENL1遺伝子はSNF2ファミリーATPaseドメインとHELICcドメインを持つSNF2様ヘリカーゼをコードし、植物のみならず広く真核生物にそのオルソログが存在する。ヒトのENL1オルソログであるPICHタンパク質は細胞分裂時の染色体凝集や染色体腕部のアーキテクチャー維持、あるいは姉妹染色分体の解離に必要であることが報告されている。PI染色法を用いて初期胚乳形成過程の核・染色体の様子を共焦点レーザー顕微鏡観察したところ、野生型では細胞化に先立つ遊離核の一様な分布が見られたのに対し、enl1変異体では染色体の分離異常の結果と考えられる巨大化した核が観察された。これらの結果は、多核期胚乳における染色体サイクルの異常が、enl1変異体における無胚乳表現型の原因であることを示している。
  • 田島 直幸, 関根 康介, 森山 崇, 佐藤 直樹
    p. 0061
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)の原糸体は、主に先端の細胞が成長、分裂することで伸長する。また、細胞が生きたままでも核や葉緑体を観察しやすい。そこで、ヒメツリガネゴケ原糸体の先端細胞を、細胞周期を通して継時的に観察し、核や葉緑体の挙動を解析した。
    先端細胞の核は、M期の後期から終期にかけて存在した所から少し先端方向へ移動した後、一時的に停滞することが分かった。その後、先端細胞成長速度の増加に合わせて先端方向への移動を再開した。葉緑体は細胞周期を通して互いの相対的位置関係を保ちつつ、細胞の先端成長や核の先端方向への移動に伴った動きをした。また、核の停滞が始まる前に、次の細胞分裂でどちらの娘細胞に分配されるかがほぼ決定していた。葉緑体数は細胞周期を通じて1.5~2倍に増えたが、葉緑体によって細胞周期中に全く分裂しないものから2度も分裂するものまでさまざまだった。また、細胞分裂1時間前から分裂までの細胞に対してより詳細な解析を行うと、M期に入る直前に核付近の葉緑体が核に引き寄せられることが明らかになった。
  • 岩田 恵里子, 松永 幸大, 吉岡 泰, 伊藤 正樹
    p. 0062
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    細胞周期のM期の開始や進行は、M期サイクリンの発現レベルにより制御されている。そして、これらのサイクリンの発現量は、細胞周期依存的な転写とタンパク質分解という2つの主要な段階により調節される。これまでのシロイヌナズナを用いた研究から、CYCA1, CYCB1およびCYCB2などのM期サイクリン遺伝子の転写には、R1R2R3型のMyb転写因子群が重要な働きを担っていることを明らかにしてきた。R1R2R3-Mybの一つ、MYB3R4の遺伝子破壊株をもとにしたエンハンサー変異体の解析から、M期サイクリンのタンパク質分解制御に関わると考えられる新奇因子を同定したので報告する。スクリーニングの過程で得られた変異体の一つ、gigas cell1 (gig1)変異体の葉には、巨大な孔辺細胞様の細胞が生じる。この異常な細胞は、複数の孔辺細胞マーカーを発現しており、また染色体数が倍加していることから、孔辺細胞の発生過程における細胞分裂で、M期後期に異常が起きることにより生じたものと考えられた。GIG1遺伝子の過剰発現体は、サイクリンのユビキチン化を担っている後期促進複合体(APC)のノックダウン株に酷似した表現型を示すことなどから、GIG1はAPCの抑制タンパク質である可能性が考えられる。現在、gig1とAPCとの間の遺伝学的な関連について解析を行っており、この結果についても合わせて報告する。
  • 笹部 美知子, 中野 理恵, Boudolf Veronique, De Veylder Lieven, Inze Dirk, 町田 千代子 ...
    p. 0063
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    キネシン様タンパク質、NACK1 とMAPKカスケードから成るNACK-PQR経路は、植物の細胞質分裂を制御する中心の制御系である。NACK-PQR経路は、NACK1とMAPKカスケードの最初の酵素であるNPK1 MAPKKKが直接結合することにより活性化される。この活性化は細胞質分裂時に特異的であるが、NACK-PQR経路を構成する全てのタンパク質は中期以前にも存在しているので、この特異的な活性化を制御するメカニズムの存在が予想されていた。我々は、この制御にサイクリン依存性キナーゼ(CDK)が関与している可能性を見いだした。生体内で、NPK1とNACK1はCDK活性に依存してリン酸化されており、このリン酸化は両タンパク質の結合を阻害した。細胞質分裂異常を示すAtNACK1/HINKEL (NACK1のシロイヌナズナホモログ) の変異体において、野生型AtNACK1atnack1変異体の表現型を相補したが、CDKリン酸化サイトにリン酸化ミミック変異を持つAtNACK1はこれを相補することが出来なかった。これらの結果はCDKが、適切な時期までNACK-PQR経路の活性化を抑制する因子として機能していることを示唆している。現在、このCDKによるNACK-PQR経路の抑制を解除する因子を明らかにするために解析を進めており、候補となるフォスファターゼを見つけたのであわせて報告する。
  • 藤田 智史, Pytela Jaromir, 加藤 壮英, 乾 良充, 神戸 雅人, 橋本 隆
    p. 0064
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物細胞では、表層微小管が細胞の伸長方向決定に重要であることが知られている。これまでに、我々は微小管重合阻害剤であるpropyzamideに高感受性を示す変異体phs1-1(propyzamide hypersensitive 1)を単離した。phs1-1では微小管の配向に異常が生じ、根の伸長方向にも異常が生じる。PHS1は、kinase-like domainおよびphosphatase domainをもつタンパク質をコードしていることから、リン酸化経路が微小管を制御していることが予想された。そこでPHS1のどの領域が微小管制御に重要かを解析するために、PHS1を断片化したさまざまなコンストラクトを作成し、微小管を可視化したシロイヌナズナ表皮細胞に一過的発現させた。この実験により、kinase-like domainは表層微小管を強く脱重合すること、kinase-like domainの微小管脱重合能はphosphatase domainによって抑えられ、抑制にはそのphosphatase活性が重要であることが示された。以上の結果から、PHS1はkinase-like domainによって微小管脱重合を促進するが、その活性は自身のphosphatase活性によって抑制されると考えられる。
  • 長崎(武内) 菜穂子, 濱田 隆宏, 橋本 隆
    p. 0065
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    微小管は細胞小器官の配置決定や細胞極性に影響を与え、多様な微小管構造物に構築されて形態形成や環境応答において重要な役割を担う。この微小管構造物の構築と制御に関与するのが微小管付随タンパク質群(Microtubule-Associated Proteins;MAPs)である。生物種特異的な微小管構造の違いは、各生物種間で保存されていないMAPsに起因すると推測される。植物には動物や菌類には見られないユニークな微小管構造物が存在し、その構築と制御は多くのMAPsによって仲介される。本研究では、植物における微小管機能と制御メカニズムの解明を目的として、植物特異的なMAPsの探索を行った。
    シロイヌナズナ培養細胞のミニプロトプラスト(脱液胞化プロトプラスト)から調整したMAPs画分のショットガン解析を行い、745種のタンパク質を同定した(濱田ら;第51回植物生理学会発表)。このうち246種含まれる機能未知タンパク質に注目し、スコアーが高い上位20分子のうち13分子の全長cDNAをクローニングした。シロイヌナズナの葉の表皮細胞で、一過的発現局在解析を行ったところ、6分子に微小管局在マーカーとの共局在が観察された。これらの分子の中にはカルモジュリン結合ドメインを含むものがあり、細胞内シグナル伝達との相関が期待された。
  • 中村 匡良, 濱田 隆宏, Ehrhardt David W., 橋本 隆
    p. 0066
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物間期細胞では新規微小管形成は主に既存の表層微小管上のγチューブリンを含む部位から枝分かれするように起こり、形成部位から切り離され、表層をトレッドミルにより移動する。この“微小管形成”と“切り離し”は植物細胞の微小管形成機構の特徴的な形質である。しかし、この時間空間的な制御と微小管形成重合核や微小管切断因子の関係はほとんどわかっていなかった。そこで、シロイヌナズナの微小管重合核としてγチューブリン複合体タンパク質を、微小管切断因子としてカタニンp60サブユニットを蛍光標識により視覚化し動態を観察した。微小管重合核複合体は微小管上に会合することで主に活性化され、そして複合体の安定性は娘微小管との結合に依存することが明らかとなった。また、カタニンが局在した微小管の交差部位と微小管形成枝分かれ部位の微小管が切断されることが観察された。カタニンp60変異株を解析することで、カタニン依存的な娘微小管の切り離しもしくはプラス端からの完全な脱重合が起こるまで微小管重合核複合体が形成した部位にアンカーされることが示唆された。現在、微小管形成部位に局在性を示す新規タンパク質を単離してきており、その微小管形成機構における役割について解析を行っている。
  • 小田 祥久, 福田 裕穂
    p. 0067
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    表層微小管は、セルロース微繊維が沈着する部位と方向を制御することによって、細胞壁の構造を制御している。道管分化において形成される様々な二次細胞壁のパターンはどのようにして実現されているのであろうか。本研究では、独自に開発した後生木部道管の分化誘導系を用い、新規微小管付随タンパク質MIDD1(Microtubule Depletion Domain 1)が細胞膜ドメインにアンカーされ、局所的に表層微小管に作用することによって、二次細胞壁に壁孔を作り出すことを見出した。後生木部道管の分化過程において、表層微小管は局所的に消失し、その領域が壁孔となる。RNAi法によってMIDD1の発現を抑制した結果、表層微小管の消失が抑制され、壁孔を失った一様な二次細胞壁が形成された。一方、間期においてMIDD1を過剰に発現させたところ、間期表層微小管の密度が低下した。MIDD1は二つのコイルドコイルドメインから成るタンパク質であり、片方が微小管への結合に、もう片方が細胞膜ドメインへのアンカーに必要であることが分かった。両ドメインを含む全長MIDD1は、脱重合している微小管のプラス端に蓄積し、微小管のレスキューを抑制した。これらの結果は、細胞膜上の空間情報に基づき局所的に表層微小管のダイナミクスを制御することによって、二次細胞壁パターンが構築されることを示唆している。
  • 岡本 圭史, 上田 晴子, 田村 謙太郎, 嶋田 知生, 豊田 正嗣, 田坂 昌生, 森田(寺尾) 美代, 西村 いくこ
    p. 0068
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    私たちは、重力と光という異なる環境刺激に対して過剰な屈性応答を示すシロイヌナズナのミオシン二重変異体の解析を行ってきた。昨年の年会では、この変異体が胚軸と根だけでなく花茎においても過剰な重力屈性を示すこと、私たちが注目しているミオシン遺伝子XI-Fのプロモーター活性が花茎内部で強いこと、そしてそこでの原形質流動がこの変異体において著しく抑制されていることを発表した。その結果から、ミオシンXI-Fが駆動する組織内部における原形質流動が屈性応答の適切な調節に重要な役割を果たしていると私たちは考えている。XI-Fの高発現部位は師部であるが、どの細胞かまでは明らかにできていなかったため、様々な方法を用いてXI-Fの発現部位の特定を試みた。師部の細胞が屈性応答に関わっているという報告は数少なく、その細胞が屈性応答にどんな働きをしているかを、先行研究の知見と本研究の結果を交えて考察する。加えて、その細胞におけるアクチン骨格の観察を行い、ミオシンの欠損がアクチン骨格に与える影響を調べ、表皮細胞においてミオシンがアクチン骨格の形成に関わるというモデル(Ueda et al., 2010)が今回着目している細胞にも適用できるかを検証した。以上の結果から、表皮と師部におけるミオシンの細胞内機能を比較し、ミオシンがどのように屈性応答を制御しているかに迫りたい。
  • 田村 謙太郎, 岩渕 功誠, 深尾 陽一朗, 岡本 圭史, 西村 いくこ
    p. 0069
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    細胞核は,核膜,核膜孔,核ラミナ構造によって形成されており,その構造と機能が密接に関連する細胞小器官である.しかし,高等植物における細胞核の構造がどのような分子基盤に支えられているかはほとんど分かっていない 1).私たちは,植物細胞核の形作りの仕組みを分子遺伝学的解析によって明らかにしようとしている.
    細胞核の形態が異常になったシロイヌナズナ変異体を単離して,kaku1と名付けた.野生型では紡錘形および球形の細胞核が混在するのに対し, kaku1変異体では全身の細胞核が球形になっており,その核膜は萎縮して不規則に折りたたまれていた. 変異体の原因遺伝子を同定したところ,KAKU1は植物に特異的なクラスXIミオシンファミリーに属するタンパク質をコードしていることが分かった.YFPを融合させたKAKU1タンパク質は核膜に特異的に局在しており,その局在には核外膜貫通タンパク質であるWITが必須であった.これらの結果は,KAKU1は核膜と細胞質骨格系を結ぶ新規なモーター因子であり,細胞核の形態制御において重要な役割を果たす事を示している.
    1) Tamura et al. Plant Cell (2011) in press.
  • 上田 晴子, 真野 昌二, 横田 悦雄, 嶋田 知生, 田村 謙太郎, 中森 ちひろ, 新免 輝男, 西村 幹夫, 西村 いくこ
    p. 0070
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物細胞の中は非常に動的な空間である.その動きは原形質流動と呼ばれる細胞内運動に代表され,アクトミオシン系によって駆動されるオルガネラが細胞内を流動している.我々は小胞体が川筋を描くように流動する現象に着目し,細胞内で最大の膜系ネットワークをもつ小胞体が原形質流動に重要な役割を果たすのではないかと考えた.これまでの大会では,シロイヌナズナを用いて小胞体流動に寄与する主要なミオシンを同定し,このミオシン変異体ではアクチン束に沿った流動によって形成される小胞体の筋状分布(ER strand)が消失するのみならず,アクチン束の組織化まで影響を受けていることを報告した 1).小胞体流動機構の解明をさらに進めるために,われわれは,小胞体流動が抑制される変異体を単離した.ミオシン変異体とは逆に,この変異体ではER strandが異常に発達し,太いケーブルを形成していた.さらに,小胞体が細胞内で大きな凝集体を形成している様子も観察され, 他のオルガネラもこの凝集体中に巻き込まれていた.原因となるタンパク質は小胞体に局在することが明らかとなり,現在,流動における役割の解析を進めている.
    1) Ueda et al. (2010) Proc. Natl. Acad. Sci. 107, 6894-6899.
  • 児玉 豊, 末次 憲之, 孔 三根, 和田 正三
    p. 0071
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体は弱光には集まり(集合反応)、強光からは逃避する(逃避反応)。我々はシロイヌナズナにおいて、青色光受容体フォトトロピンが葉緑体上のアクチン繊維(cp-actin 繊維)を制御することによって、葉緑体の移動方向や速度が調節されていることを明らかにした。本発表では、葉緑体運動の速度を制御する因子として、コイルドコイル構造を持つ2つのタンパク質 WEB1 (weak chloroplast movement under blue light 1)とPMI2 (plastid movement impaired 2) を同定したので報告する。酵母Two-Hybrid の系によりWEB1とPMI2の結合が検出され、さらにBiFC 法によりその結合が細胞質で起こることが確認された。web1pmi2両変異体は、特に逃避反応に異常を示し、葉緑体の移動速度が野生型に比べて遅かった。野生型ではcp-actin 繊維は強光照射直後に一過的に消失した後、移動方向の前端側に再度現れるが、web1pmi2では共に強光照射直後のcp-actin 繊維の一過的消失は見られず、cp-actin繊維の再編成も起きなかった。これらの結果から、WEB1とPMI2 はcp-actin 繊維を制御することによって葉緑体運動の速度を調節していることが示唆された。
  • 西村 芳樹, 鹿内 利治, 中村 宗一, 川合(山田) 真紀, 内宮 博文
    p. 0072
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    ミトコンドリア(mt)や葉緑体(cp)の母性遺伝は、ヒトをはじめとする動物から、植物、苔類、藻類、粘菌に至る様々な生物に共通する現象である。しかしその具体的な分子機構は今日に至るまで明らかでない。
    緑藻クラミドモナスでは、雄cpDNAの分解により母性遺伝が引き起こされ、その過程は蛍光顕微鏡で容易にモニターすることが出来る。今回我々はクラミドモナスにおいて、母性遺伝変異体biparental(bp)31の単離に成功した。bp31では、接合子形成は正常であるが、雄cpDNAの分解、ペリクルの形成、接合胞子形成といった過程全般が完全に停止する。また、接合に伴う大規模なトランスクリプトーム変化が完全に失われてしまう。
    原因遺伝子を探るべく解析したところ、bp31は12の予測遺伝子を含む60kbの領域を欠損していた。個々の遺伝子について、相同性、発現様式の解析、および相補実験を試みたところ、bp31は2つの雄配偶子特異的遺伝子を導入することにより相補されることが明らかになった。すなわち、接合子の生殖プログラムの引き金として機能するホメオボックス遺伝子GSP1とイノシトール代謝の鍵酵素であるイノシトールモノフォスファターゼである。
    以上より、生殖プログラムと母性遺伝の密接なつながりが遺伝子レベルで示され、また接合過程におけるイノシトール代謝の重要性が明らかになった。
  • 冨田 朝美, 野村 港二
    p. 0073
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    真核生物の細胞核が核膜とクロマチン成分を取り除いた後に残る核マトリックスは、核の構造と機能を維持する上で重要である。過去の報告により、動物は核マトリックスの主要なタンパク質としてラミンを保持していることがわかっている。植物の場合は、ラミンは持たずNMCP1というタンパク質がそれに代わるものとして確認されている。しかし、菌類に関してはまだ核マトリックスタンパク質の同定はされていない。そこで本研究では、はじめに、コウジカビの核マトリックスを調製したところ、純度の高いコウジカビ核マトリックスを得ることができた。さらに核マトリックスが持つ顕著なタンパク質の解析を行なった。その結果、主要なタンパク質は分子量20-50kDa程度に分布していた。これらの分子量は、動物や植物における核マトリックスタンパク質が持つ分子量の範囲より小さかった。さらに、データベース上で解析したところ、動物の核マトリックスが持つラミンとの相同性はあまり見られなかった。このことから、菌類の核マトリックスを構成するタンパク質が動物や植物とは異なるものであること、さらに、菌類、動物、植物それぞれ異なる核マトリックスを有しているのではないか、ということが示唆された。
  • 奥田 賢治, 小池 裕幸, 鹿内 利治
    p. 0074
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物の葉緑体とミトコンドリアでは、RNA編集(転写産物のCをUへと変換する過程)が高頻度に行われている(葉緑体で約30箇所、ミトコンドリアで500箇所以上)。我々は以前、これら標的C塩基は、pentatrico-peptide repeat(PPR)蛋白質が標的C塩基の上流十数塩基に結合することで特異的に認識されることを明らかにした。しかしPPR蛋白質が複数のRNA編集サイトを認識する場合、結合が予想されるRNA配列は互いにほとんど配列相同性を示さない。このことは、どのような分子機構を介してPPR蛋白質が複数のRNA編集サイトを特異的認識するのかという新たな疑問を投げかけた。この点を明らかにするために、複数のRNA編集サイトを認識するPPR蛋白質とそれら推定標的配列との結合を解析した。その結果、PPR蛋白質は、配列相同性を互いに示さない標的配列に特異的かつ同程度の結合能で結合できることが明らかになった。つまりこの結果は、PPR蛋白質は、標的RNA配列中の一部の塩基を特異的に認識することで複数のサイト認識を可能にしていることを強く示唆している。
  • 蘆田 弘樹, Lim Soon, 渡邊 理江, 稲井 康司, Kim Yun-Soo, 向川 佳子, 福田 弘和, 田茂井 政宏, 増谷 弘 ...
    p. 0075
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物における有用タンパク質生産は、生産コストと病原菌混入リスクの低減が期待される。特に、植物葉緑体は高い外来タンパク質合成能力を持つことから、近年、葉緑体遺伝子工学による有用タンパク質生産技術が注目されている。ヒトチオレドキシン1 (hTrx1) は、抗酸化、レドックス制御機能を持つストレス誘導性タンパク質で、酸化ストレスが関与する様々な疾患に対する医療用タンパク質として期待されている。我々は、タバコ葉緑体由来のpsbAプロモーター下流にhTrx1遺伝子を連結した発現カセットをレタス葉緑体ゲノムのrbcL-accD間にパーティクルボンバードメント法により導入した。得られた形質転換体の生育は正常で、種子の取得が可能であった。ホモプラズミックな形質転換体の成熟葉において、hTrx1蓄積量は可溶性タンパク質の約3%であった。また、形質転換レタス葉から精製したhTrx1はインスリンのジスルフィド結合還元活性を有し、機能的であった。さらに、レタス産生hTrx1は、大腸菌組換えhTrx1と同様に、マウス膵臓由来MIN6細胞の過酸化水素障害に対する保護効果を示した。本研究は、生理活性を有するhTrx1の植物での生産に成功したはじめての報告である。レタスが可食性の葉物野菜であることから、この形質転換レタスは医療用タンパク質hTrx1の経口投与を可能にすると期待される。
  • 江波 和彦, 小沢 友希, 木山 貴史, 田中 寛, 華岡 光正
    p. 0076
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物において色素体は組織や発達時期に応じて様々な形態へと分化する。我々の研究室では、シロイヌナズナ緑葉由来のT87培養細胞を遮光状態で培養して白化させた細胞をベースに、光照射の有無、あるいは加える植物ホルモンを調整することで、アミロプラストや葉緑体への分化を誘導する系を確立した。このうち、原色素体からアミロプラストへの分化誘導では、タバコBY-2細胞を用いた分化誘導系(Miyazawa et al., 1999)での知見と同様に、アミロプラスト分化を特徴づけるデンプン粒の蓄積が観察された。また、このデンプン蓄積は、カナマイシンなどの色素体遺伝子発現の阻害剤を加えることで有意に低下することが示された。BY-2細胞では、これら一連の分化誘導、阻害条件と連動して核ゲノムにコードされているデンプン合成遺伝子群の発現量が変動することが確認されている(本橋ら、本年会)。この現象は、核コードの光合成関連遺伝子LhcBの発現制御におけるプラスチドシグナルの関与と類似していると言える。本発表では、これまで葉緑体から核への情報伝達における役割を中心に研究が進められてきたプラスチドシグナルが、アミロプラストを含む多様な色素体への分化機構においても関与しているかについて、T87細胞への形質転換系を駆使したプラスチドシグナル関連遺伝子群の遺伝学的解析の結果も交えながら議論したい。
  • 西村 健司, 蘆田 弘樹, 小川 太郎, 横田 明穂
    p. 0077
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    近年、翻訳の触媒中心はリボソーム大サブユニットを構成するリボソームRNA (rRNA) であることが立体構造解析により示された。高等植物葉緑体においてリボソーム大サブユニットの23S rRNAは、部位特異的なプロセシング反応を受け、ギャップ構造を有する不連続なRNA分子種として生成される。その結果、植物細胞から抽出したrRNAは変性条件下において複数の短い断片として検出される。このrRNAに生じるギャップ構造は"hidden break"と呼ばれ、古くから知られている現象であるが、その導入機構や生理的意義はこれまで明らかにされていない。我々は葉緑体タンパク質蓄積に欠陥を持つシロイヌナズナnara12 (the gene necessary for the achievement of RuBisCO accumulation) 変異体を単離解析し、DEAD-box RNA helicase 39が葉緑体のhidden breakの導入において機能することを明らかにした。また変異体解析から、hidden breakがリボソームの翻訳効率に影響することを見出した。さらにタンパク質合成が盛んなプラスチドにおいてhidden breakの導入が高く誘導されることを発見した。以上のことからhidden breakはリボソームの翻訳効率をコントロールする新規な制御因子であることが示唆された。
  • 八木 祐介, 中平 洋一, 椎名 隆
    p. 0078
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物葉緑体にはシアノバクテリアを起源とする細菌型のRNAポリメラーゼ(PEP; plastid encoded plastid RNA polymerase)が存在する。一方、原核型のDNA結合蛋白質は葉緑体進化の過程で失われてしまい、高等植物の葉緑体では真核型DNA結合タンパク質がPEPと複合体を形成している。しかし、真核型DNA結合タンパク質が、どのようにPEPの転写制御に関与しているかについてはほとんど研究が進んでいない。本研究では、複合体解析からは分からないin vivoでのRNAポリメラーゼの動態についてクロマチン免疫沈降法(ChIP法)を用いた解析を行なうことで、真核型DNA結合因子の役割を明らかにする。まず、PEPの葉緑体DNA上での動態を検出するために、コムギを材料としてPEPのalpha subunitの特異抗体を用いたChIP解析を行なった。その結果、PEPがプロモーター領域から転写終結領域までの転写単位の領域に結合している様子が検出できた。この系を用いて真核型の葉緑体DNA結合タンパク質であるpTAC3についてChIP解析を行った結果、PEPと同様な結合動態が観察された。このことから、pTAC3は葉緑体DNA上で実際に転写装置と挙動を共にしていることが明らかになった。
  • 吉岡 泰, 角田 亜希子, 町田 泰則
    p. 0079
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナのCRUMPLED LEAF (CRL)遺伝子は色素体外包膜に局在するタンパク質をコードする核ゲノムの遺伝子である。CRL遺伝子の変異体ではプラスチドの分裂阻害に加えて、植物細胞の分化や分裂方向に異常が観察される。CRLタンパク質は主に色素体に局在するが、crl変異を相補できるCRL-GFPタンパク質は、しばしば小胞状の構造体にも局在する。CRLタンパク質はN末端側に膜貫通領域と予想される疎水性アミノ酸に富んだ領域をもち、そのC末側にYFNIという配列をもつ。このYFNI配列は、膜タンパク質の細胞質側に存在するタンパク質ソーティングシグナルであるYxxΦ配列と一致している。今回我々は、色素体包膜への局在に必要なCRLタンパク質のアミノ酸配列、および小胞状の構造体への局在に必要なアミノ酸配列の同定を行った。一部を欠失したCRLタンパク質とYFPとの融合タンパク質を植物細胞内で発現させ、細胞内局在を調べた結果、膜貫通領域が色素体包膜への局在に必要なことが示唆された。現在さらに小胞状構造体への局在に必要な領域の同定を行っている。また、小胞状の構造体に色素体の外包膜、内包膜が含まれるのかを調べるために、外包膜タンパク質、内包膜タンパク質に対する抗体を用いた免疫組織化学的解析を進めている。これらの結果も合わせて報告したい。
  • 前川 未来翔, 水澤 一樹, 太田 啓之, 増田 真二
    p. 0080
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体は、光合成を始めアミノ酸合成や脂質合成などを行なう重要な器官である。そのため、葉緑体の環境ストレス適応は、植物の生存にとって必須である。バクテリアは、セカンドメッセンジャーであるppGpp(グアノシン4リン酸)の量を制御することで自身の転写・翻訳を調節し、栄養飢餓などの環境ストレスに適応している。大腸菌ではRelAおよびSpoTタンパク質がppGppの合成・分解を行なっている。近年、植物においてRelA/SpoTの相同タンパク質RSH(RelA/SpoT Homologs)が同定された。また、ppGppが葉緑体に存在することが明らかになった。これらのことから、葉緑体においてもppGppを介したバクテリア型の環境応答機構が存在すると考えられる。しかし、その具体的な機能は分かっていない。シロイヌナズナには4つのRSHホモログ(RSH1,RSH2,RSH3,CRSH)が存在する。私達は、これら4つの遺伝子の欠損体や過剰発現体を解析しているが、ここではRSH3の解析を中心に報告する。RSH3の過剰発現体(rsh2rsh3 二重欠損体バックグランド)はペールグリーンの表現型を示し、葉緑体が委縮していた。また、その過剰発現体では葉緑体の転写産物がWTに比べ減少していた。それらの結果から、RSHがppGppを介して葉緑体の形成や機能を制御していることが示唆された。その制御機構を議論する。
  • 杉田 千恵子, 加藤 大和, 鶴見 尚子, 吉岡 泰, 町田 泰則, 杉田 護
    p. 0081
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナのcrumpled leaf (crl)変異体は著しい矮性で、葉緑体が巨大化し数が減少するとともに花、茎、根等の器官に異常形態を示す。原因遺伝子CRLは明確な機能ドメインを持たないが葉緑体外包膜に局在するタンパク質をコードしている(Asano et al., 2004)。ヒメツリガネゴケはCRL相同遺伝子を3コピー (PpCRL1、PpCRL2、PpCRL3)もつが、PpCRL3は偽遺伝子であった。本研究では、単純な体制をもつヒメツリガネゴケのCRL遺伝子が、シロイヌナズナ同様に葉緑体の分裂と形態形成に関与しているかを明らかにすることを目的として解析を行った。相同組換えによりPpCRL1、PpCRL2、PpCRL3それぞれの遺伝子破壊株を作製したが、いずれの表現型も野生型と差が見られなかった。次にPpCRL12の二重遺伝子破壊株を2株得ることに成功した。これらは、野生型に比べ生育が遅く茎葉体は野生型の60%くらいのサイズである。1細胞あたりの葉緑体の数が野生型の25%と少なくまた巨大化していた。また、シロイヌナズナのCRLを用いて相補実験を行った結果、植物体葉緑体ともに野生型とおなじ表現型に回復した。これらのことから、ヒメツリガネゴケのPpCRL1PpCRL2遺伝子はシロイヌナズナのCRLと同様の機能を持つことを明らかにした。CRLの機能について考察する。
  • 若崎 眞由美, 吉田 拓広, 佐藤 繭子, 櫻井 哲也, 松岡 健, 持田 恵一, 豊岡 公徳
    p. 0082
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    蛍光イメージングの発展により、目的のタンパク質の局在や発現部位、オルガネラの動態を容易に観察できるようになった。しかし、蛍光レベルではオルガネラの微細構造情報は得られないため、透過型電子顕微鏡(TEM)による超微形態観察が不可欠である。また、網羅的な解析が発展し、様々なデータベースが整備されつつあるが、それら情報を位置づける細胞やオルガネラレベルの網羅的な解析はほとんど進んでいない。そこで我々は、オルガネラ超微形態情報を含む高精細・広領域TEM像とオミックス情報の融合を目指している。高圧凍結技法によりシロイヌナズナ芽生えの茎頂および根端を凍結固定・樹脂包埋後、広域超薄切片を作製し、常法によりTEM観察した。その際、輸送小胞が識別可能な倍率で根端全体が収まるよう網羅的に撮影した。そして、それらのTEM写真を結合し電子地図化後、写真上のオルガネラに位置情報を加え、検索を可能とした。輸送系オルガネラの分布や超微形態を解析した結果、根端組織にはER ボディや高電子密度小胞(DV)が多く観られたが、トランスゴルジ網(TGN)や分泌小胞塊(SVC)などの小胞クラスターは少ないことがわかった。一方、茎頂組織にはERボディやDVはほとんど観られず、TGNやSVCが多く存在することがわかった。高精細・広領域TEM像の電子地図化により、組織ごとに輸送系オルガネラが分化していること示唆された。
  • 小竹 敬久, 青原 勉, 平野 恒, 佐藤 亜実, 金子 康子, 円谷 陽一, 高辻 博志, 川崎 信二
    p. 0083
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    カマイラズ(brittle culm, bc)は植物体の物理的強度が極端に低下した突然変異体で、二次細胞壁の構築に異常があると予想される。イネには原因遺伝子座が異なるカマイラズ変異体が少なくとも9種類(bc1, bc2, bc3, bc4, bc5, Bc6, bc7, bc10, bc12)存在するが、優性の変異体はBc6だけである。ポジショナルクローニングにより原因遺伝子を単離したところ、Bc6はセルロース合成酵素複合体の触媒サブユニットの一つであるOSCesA9をコードし、高度に保存されたアルギニン残基がグリシンに置換する点突然変異を起こしていることが分かった。Bc6変異体では、節間のセルロース含量が正常系統のイネ(台中65号)より31%減少していた。一方で、ヘミセルロース含量は48%増加していた。細胞壁多糖類の単糖組成には大きな変化が見られなかった。正常系統のイネにBc6変異遺伝子を導入したところ、Bc6と同様のカマイラズ形質やセルロース含量の低下が引き起こされ、厚壁組織の細胞壁が薄くなっている様子も観察された。BC6遺伝子は、節間、節、花の維管束組織で強く発現しており、COBRA様タンパク質をコードするBC1と発現パターンに相関があった。BC6はイネの二次細胞壁のセルロース合成に関与すると考えられる。
  • 武藤 潤, 佐藤 陽子, 小林(田渕) 真由美, 安藤 陸仁, 山内 清司, 戸澤 譲, 内海 俊彦, 魚住 信之
    p. 0085
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物のCDPK/CPK-SnRK(calcium-dependent protein kinase-SNF1-related kinase) superfamilyとCBL(calcineurin B-like protein)タンパク質のいくつかの分子は、膜輸送体の活性を調節することにより気孔開閉の制御やイオン養分吸収などを介して、環境変化への応答に関与している。脂質修飾は水溶性タンパク質の膜移行を誘導する。今回、シロイヌナズナCPKのうちN末端に脂質修飾部位が存在する29個のCPKについて昆虫培養細胞抽出液および小麦胚芽抽出液の両方を用いたin vitro解析を行ったところ、多くのCPKにおいてミリストイル化修飾を確認した。シロイヌナズナの38個のSnRK familyタンパク質のうち、N末端に脂質修飾部位が存在するのは2つのみであった。in vitro解析を行ったところ、この2つのSnRKから脂質修飾は検出されなかった。シロイヌナズナCBLのうちN末端にミリストイル化修飾部位を持つCBL1, CBL4, CBL5, CBL9についてもin vitro解析を行ったところ、4分子すべてがミリストイル化修飾されることが明らかとなった。上記の結果から、脂質修飾による膜移行性をもつ候補分子が明らかになり、膜タンパク質の機能調節を行う可能性のある分子の情報を得ることができた。
  • 濱田 達朗, 津野 義久, 波多野 直哉
    p. 0086
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    食虫植物は痩せた土地に生育し、葉が特殊な形状をした捕虫器官で昆虫などの小動物を捕らえ、分解、吸収することにより必要な養分を得ている。食虫植物の一種であるウツボカズラ(Nepenthes)はつぼ状の捕虫器を有し、それで昆虫などの獲物を捕える。捕虫器内には液体が満たされており、そこにはアスパラギン酸プロテアーゼ(ネペンテシンIおよびII)やβ-D-キシロシダーゼやクラス?Wキチナーゼ、β-1,3-グルカナーゼ、タウマチン様タンパク質などが含まれている(Hatano & Hamada, 2008)。我々は、ネペンテシンII(NaNEPII)およびβ-D-キシロシダーゼ(NaXYL1)、β-1,3-グルカナーゼ(NaBGLUC1)の遺伝子クローニングをおこなった。捕虫器溶液に含まれる分泌タンパク質をコードする遺伝子群の遺伝子発現様式を明らかにするために、葉、根、茎などの組織、さらに捕虫器については様々なステージからRNAを精製し、RT-PCRをおこなった。その結果、遺伝子ごとに異なる発現様式を示すことが明らかになった。
    Hatano, N. & Hamada, T. (2008) J. Proteome Res. 7, 809-816.
  • 森口 亮, 松岡 健
    p. 0087
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物特異的な蛋白質へのO-結合型糖鎖修飾の最初のステップは、蛋白質中のプロリン残基のヒドロキシプロリンへの変換であり、その反応には、1型または2型のプロリン水酸化酵素(P4H)が関与する。植物のP4Hが他の蛋白質と相互作用するかどうかは明らかになっていないが、これまでに我々は、タバコの2型P4HであるNtP4H2.2はゴルジ装置に局在する膜表在型蛋白質であり、C末端に存在するtox1ドメインが膜への結合に関与することを見出している。このことから、NtP4H2.2はゴルジ装置に局在する膜蛋白質と相互作用している可能性が考えられる。そこで本研究ではNtP4H2.2と相互作用する蛋白質の探索を行った。
    まず、NtP4H2.2の可溶化条件について検討を行ったところ、NtP4H2.2は低温下でTritonX-100に不溶性であるが、デオキシコール酸で可溶化されることがわかった。このことから、NtP4H2.2はラフト領域に局在する可能性があると考えられた。次にタバコBY-2細胞からTritonX-100不溶性の膜画分を調整し、クロスリンカーであるEGSを作用させた。続いて抗NtP4H2.2抗体を用いて免疫沈降を行った結果、幾つかの共沈蛋白質を確認することができた。現在、質量分析計による蛋白質の同定・解析を進めており、それらの結果についても報告したい。
  • 重藤 潤, 堤 祐司, 近藤 隆一郎
    p. 0088
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    ポプラ由来のペルオキシダーゼアイソザイムCWPO-Cは、Horseradish peroxidase (HRP)やArabidopsis thaliana peroxidase A2 (ATP A2) に代表される一般的な植物ペルオキシダーゼがほとんど酸化することができないシナピルアルコール、および高分子基質に対して高い酸化能力を有している。CWPO-CのヘムポケットサイズはHRP、ATP A2とほぼ同じ大きさであることが示され、さらに、CWPO-CにはHRP、ATP A2においてシナピルアルコールのヘムポケットへの進入を立体的に阻害すると考えられている139位のプロリンも保存されている。このことから、CWPO-Cによるシナピルアルコールや高分子基質の酸化は、アミノ酸電荷リレーを介してタンパク表面上で生じているのではないかと推測された。
    本発表では、CWPO-Cの有力な基質酸化部位候補であるタンパク表面上に露出する74位のチロシンと177位のチロシンをフェニルアラニンに置換した組換えタンパクを用い、その基質酸化機構について議論を行う。
  • 今井 剛, 伴 雄介, 山本 俊哉, 森口 卓哉
    p. 0089
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    モモ果実由来のcDNAを用い、L-アスコルビン酸(Asc)の合成に関わるGDP-マンノースピロホスホリラーゼ(GMPH)とGDP-マンノース-3',5'-エピメラーゼ(GME)を過剰発現したタバコ(SR1系統)をそれぞれ作出した。ノーザンブロットでは過剰発現が確認されたが、ウェスタンブロットでは、GMPH、GMEタンパクの増加は多くて3割程度で、葉のAsc量も非形質転換体と変わりはなかった。[14C]ラベルされたGDP-マンノースを用い、形質転換タバコの葉で2倍程度のGMPH活性の増加が確認できたが、GME活性については反応産物の分離が困難で、活性上昇を確認できなかった。更なる検討のため、導入遺伝子が1コピーである形質転換タバコ間で交配を行い、GMPH-GME2重過剰発現系統を作出した。ノーザンブロット解析の結果、一部の交配組み合わせで導入遺伝子のサイレンシングが認められたが、GMPH、GMEともにmRNAが過剰発現している個体を選抜した。これら二重発現系統のAsc含量、ウェスタン解析等について報告する。
  • 佐々木 彩乃, 小野 裕介, 渡邉 佳奈子, サゴール ジエイチエム, ベルベリッヒ トーマス, 新津 勝, 草野 友延, 高橋 芳弘
    p. 0090
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物ポリアミン酸化酵素(Polyamine oxidase, PAOと略)は,分子系統解析から4つのクレードに分かれる.シロイヌナズナには5種そしてイネには7種のPAO遺伝子が存在する.シロイヌナズナAtPAO5はイネOsPAO1と同じクレードに,OsPAO2, OsPAO6そしてOsPAO7はトウモロコシZmPAO1, 大麦のHvPAO1, HvPAO2と同じクレードに,そしてシロイヌナズナのAtPAO2, AtPAO3そしてAtPAO4はOsPAO3, OsPAO4そしてOsPAO5の3種と同じクレードとなった.演者らは,まずシロイヌナズナの5種のPAO遺伝子の組織毎の発現量,生育に伴う時間的・空間的発現部位,さらには大腸菌での組換え酵素タンパク質を用いて各酵素の基質特異性について明らかにした.また,イネの7種のPAO遺伝子についても幼植物と成熟植物とにおける組織毎の発現量を明らかにした.OsPAOタンパク質の細胞内局在性についても検討をおこなっている.さらに現時点において,大腸菌を用いてOsPAO3~OsPAO5の3種の組換えタンパク質をほぼ均一に精製することができているので,各酵素の基質特異性および反応産物についても報告する.
  • 関根 康介, 榊原 由紀子, 長谷 俊治, 佐藤 直樹
    p. 0091
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物の亜硝酸還元酵素(NiR)と亜硫酸還元酵素(SiR)は、アミノ酸配列や補欠分子族などの構造的共通点を多くもち、機能的にもよく似た特徴をもつ。両者は基質であるNO2-とSO32-に対する選択性により区別できるが、その差が生じる理由は明らかになっていない。シアニディオシゾンのゲノムには、2個のSiR相同遺伝子(CmSiRA, CmSiRB)が存在するが、NiR相同遺伝子は存在しない。CmSiRBの組換えタンパク質を作製し、酵素学的特徴を調べた。CmSiRBはNO2-に対し比較的高い活性を示したが、親和性はトウモロコシSiRと同程度に低かった。一方、SO32-に対して極めて低い活性を示したが、親和性は非常に高かった。この結果から、CmSiRBは一般的なSiRと同様の基質親和性を持ちながら、亜硝酸還元活性が強化され、亜硫酸還元活性が弱められた特殊なSiRと考えられる。CmSiRB特異的な6個のアミノ酸をSiRに保存されたアミノ酸に置換した変異酵素を解析したところ、野生型に比べ2倍のSO32-還元活性を示し、半分のNO2-活性を示した。
  • 村松 昌幸, 宮尾 光恵
    p. 0092
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    PEPCはホスホエノールピルビン酸(PEP)と炭酸水素イオンからオキサロ酢酸と無機リン酸の生成を触媒する酵素で、TCAサイクルへ基質を補充する役割を果たす。イネは5種類の植物型PEPCを持ち、Osppc1、2a、2bおよび3が細胞質に局在するのに対し、Osppc4はプラスチドにターゲットされる。本研究では、これらの植物型PEPCが機能する生理条件下を明らかにすべく、リコンビナントタンパク質を用いて酵素特性を調べた。根の主要PEPCであるOsppc1は、グルタミン酸やリンゴ酸で強い活性阻害を受けるものの、既知の植物型PEPCに比べ最大活性が非常に高く、PEPに対するKm値も低かった。イネでは根が主要なアンモニア同化器官であるため、アンモニア同化の炭素骨格として多量の有機酸の供給を必要とする。Osppc1の高い最大活性は、根の主要な有機酸供給系への関与を示唆すると考えられる。一方、緑葉の主要PEPCのひとつであるOsppc4は、Osppc1とは異なり、阻害剤であるグルタミン酸とアスパラギン酸に対する感受性が低いことがわかった。またグルコース6-リン酸で最大活性はそれほど影響を受けなかったが、PEPに対する親和性が増加することがわかった。現在、Osppc4活性に対する様々な光合成産物の影響も調べており、その他のPEPC特性の解析結果も合わせて報告する予定である。
  • 赤間 一仁, 尾崎 夏栄, 戒能 久美子
    p. 0093
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    γ-アミノ酪酸アミノ基転移酵素 (GABA-T)はGABAからコハク酸セミアルデヒドへの変換を触媒する。トマトは3つのGABA-T遺伝子を持ち、アイソフォームにより細胞内での局在が異なる(Clark et al., 2009)。イネ (O.sativa)は4種のGABA-T遺伝子族から構成されており、OsGABA-T4を除きN末端側にオルガネラへの移行シグナルが予測される。今回OsGABA-Tの細胞内局在と酵素の生化学的な性質を調査したので報告する。イネのGABA-TをコードするcDNA(OsGABA-T1OsGABA-T2, OsGABA-T3)の全長とN末領域をコードするDNA断片をGFPの5‘末端側にin-frameで連結した。移行シグナルがないと推定されるOsGABA-T4については、開始コドンの1番目から2番目までのコード領域をGFPに連結した。タマネギの表皮細胞とソラマメの孔辺細胞に上記のGFPベクターをパーティクルガン法で導入して一過的な発現を調べた。この結果、OsGABA-T1とOsGABA-T2はミトコンドリアへの局在が示唆された。OsGABA-T3::GFPはミトコンドリアの他に、プラスチドと細胞質でも局在が観察された。OsGABA-T4では、細胞質のみに局在が観察された。これらの酵素はピルビン酸、またはグリオキシル酸依存性を示した。
  • 高 用順, 増澤 拓也, Badejo Adebanjo, 柴田 均, 澤 嘉弘, Smirnoff Nicholas, 丸田 隆典, 重岡 ...
    p. 0094
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物のアスコルビン酸(AsA)は、D-マンノース(D-Man)およびL-ガラクトース(L-Gal)の誘導体を代謝中間体とするD-Man/L-Gal経路を主要経路として生合成される。VTC2遺伝子とそのパラログのVTC5遺伝子は、同経路上の構成酵素GDP-L-Galフォスフォリラーゼをコードしており、AsA生合成の中心的役割を担っている(PJ, 2007; JXB, 2007)。本研究ではAsA量が著しく変動する光や発芽におけるVTC2およびVTC5遺伝子の発現解析を行い、AsA生合成調節における両遺伝子の役割について考察した。12h明暗条件下で栽培したシロイヌナズナ葉中のAsA量は日周変動を示した。この時D-Man/L-Gal経路構成酵素遺伝子のうちVTC2遺伝子の発現レベルが最も顕著に変動し、光照射後6時間までに約5倍程度まで上昇した。一方、VTC5遺伝子の発現レベルはVTC2の百分の一以下であった。発芽1日目の子葉におけるVTC5遺伝子の発現量はVTC2の半分程度であったが、その後子葉の成熟に伴ってVTC2VTC5発現比率の差が大きくなった。VTC2およびVTC5のプロモーター::LUCを導入した形質転換体のLUC活性も遺伝子発現解析の結果を支持しており、AsA合成にはVTC2が主要な役割を担っているが、発芽初期段階ではVTC5による機能相補の可能性が示唆された。
  • 松倉 千昭, 尹 永根, 讃岐 温子, 福田 直也, 江面 浩
    p. 0095
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    近年,潅水制限や塩類ストレス栽培により生産される高糖度トマトの需要が高まっている.この現象は栽培環境ストレスが果実の炭水化物代謝に作用した結果と考えられる.演者らは高糖度果実において果実への糖転流や果実発達初期のデンプン蓄積が促進されることを報告しているが,詳しい分子レベルの作用機序については依然として不明な点が多いのが現状である.そこで,本研究では,デンプン生合成律速酵素 ADP-glucose pyrophosphorylase (AGPase) 遺伝子に注目してトマト果実における発現制御様式の解明を行った.その結果,1) AGPase 大サブユニットの一つをコードする AgpL1 遺伝子,小サブユニットをコードする AgpS1 遺伝子の発現が塩ストレスにより特異的に促進されること 2) AgpL1 および AgpS1 の塩類ストレス応答にアブシジン酸 (ABA),浸透圧は関与しないこと 3) AgpL1 は糖により特異的に発現誘導される一方, AgpS1 は応答しないこと 4) AgpL1 の糖応答がヘキソキナーゼを介する糖シグナル経路により制御されている可能性が高いことなどが明らかになった.これらの結果より,トマト果実における AGPase 遺伝子群の発現制御には糖依存型と非依存型の二系統あることが明らかになった.
  • 大野 良子, 兒玉 なつ美, 柳田 元継, 小川 健一
    p. 0096
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    我々はこれまでに、シロイヌナズナの花成が膜脂質のリノレン酸 (18:3) によって抑制されることを見出した。野生型 (Col-0)を低温 (15℃)で生育させると、22℃の場合と比べて18:3含量が増加し遅咲きとなるが、18:3の合成酵素が欠損したfad3 fad7 fad8 三重変異体は低温による花成の遅延が軽減されたことから、低温による花成の遅延は18:3に起因することが考えられた。また、花成決定因子APETALA1(AP1) を高発現させた35S-AP1 植物は早咲きであるが、その表現型は低温で抑制され、さらに18:3含量を高めた35S-FAD3 植物との交配によっても抑制されたことから、18:3がAP1 による花成の決定に影響することが考えられた。そこで本研究では、35S-AP1-GFP を18:3含量の異なる植物に導入して、18:3によるAP1の細胞内局在性の制御について解析したので報告する。
  • 岡咲 洋三, 大槻 瞳, 成澤 知子, 小林 誠, 澤井 学, 上出 由希子, 草野 都, 青木 俊夫, 平井 優美, 斉藤 和季
    p. 0097
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    近年,リン欠乏時にはリン脂質から糖脂質への膜の質的転換が引き起こされることが明らかとなり,膜脂質代謝のリン欠乏への応答が植物の生存に重要な役割を果たすことが示唆されている.そこで,リン欠乏がもたらす膜脂質代謝の変動をより詳細に明らかにすることを目的とし,LC-MSを用いた脂質メタボローム解析を行った.その結果,リン欠乏条件下で生育させたシロイヌナズナには未知の脂質群が蓄積することが見出された.MS/MS解析や標準物質との比較から,この脂質を1,2-diacyl-3-O-alpha-glucuronosylglycerol(GlcADG)と同定した.さらに,化合物の同定と並行してT-DNA挿入株を利用したスクリーニングを行った結果,リン欠乏条件下においてGlcADGを蓄積しないシロイヌナズナの変異体を単離した.この変異体は糖転移酵素遺伝子に変異を持つことから,この遺伝子がGlcADG合成に必要な糖転移反応に関与することが想定された.リン欠乏条件下での生育を調べた結果,この変異体は野生型よりも早く枯死することが明らかとなった.したがって,GlcADGはリン欠乏によるストレスを緩和する役割があることが示唆された.さらに,リン欠条件下で育てたイネにおいてもGlcADGの蓄積が誘導されたことから,GlcADG生合成はリン欠乏に対する抵抗機構として植物に普遍的に備わっている可能性も示唆された.
  • 下嶋 美恵, 円 由香, 山道 桂子, 小泉 遼太, 遠藤 圭二, 尾崎 克也, 太田 啓之
    p. 0098
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    光生育条件下の植物の葉では、葉緑体で生成された余分な三炭糖リン酸は葉緑体内でデンプンに変換され、デンプン粒として蓄積する。一方、植物の葉は、暗所老化時などに貯蔵脂質トリアシルグリセロール(TAG)を葉緑体外に蓄積することが知られている。しかし、デンプンとは異なり、光合成生育時の植物の葉におけるTAGは微量である。バイオマスが大きい葉で、バイオディーゼルや有用脂肪酸の原料となるTAGを蓄積できれば、新しい油脂原材料として実用化が期待できる。
    我々は最近、植物をリン欠乏に曝すと、デンプンの過剰蓄積のみならず、葉や根でTAGの蓄積が顕著に起こることを見出した。さらに、デンプンをほとんど蓄積しないシロイヌナズナ変異体pgmでは、リン十分条件下でもTAGを蓄積することがわかった。このpgm変異体におけるTAGの蓄積は、リン欠乏にさらされるとより顕著になり、通常生育の野生株に含まれるTAGの約10倍にまで上昇し、その葉の電顕観察では多くの油滴が観察された。一方、根から吸収した無機リン酸を葉に輸送することができない変異体pho1では、通常生育でも葉にTAGが蓄積することがわかり、リンの欠乏がTAG蓄積に正の影響を与えていることがわかった。これらの研究結果は、葉のデンプンおよびTAGの生合成が、葉におけるそれらの含量を一定に維持するために、巧妙に制御されていることを示唆している。
  • 鈴木 優志, 岡咲 洋三, 大山 清, 佐々木 江理子, 上出 由希子, 橋之口 裕美, 高橋 知登世, 嶋田 幸久, 斉藤 和季, 村中 ...
    p. 0099
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    脂質はその機能によって膜脂質、貯蔵脂質、保護脂質に分けられる。グリセロ脂質は膜脂質の主要成分であり、物理化学的にはグリセロ脂質のみで脂質2重膜を形成できるが、生体膜にはステロールやスフィンゴ脂質が含まれる。生体膜の機能にとってはこうした脂質の多様性が重要だと考えられる。私たちはステロールが伸長生長や花粉の成熟に重要な役割を果たすことを分子遺伝学的研究によって明らかにしてきた。では細胞レベルでは生体膜脂質環境におけるステロールの果たす機能はなんであろうか?シロイヌナズナのステロール生合成経路欠損変異体を網羅的に収集し、ステロールとグリセロ脂質プロファイルの相関について解析を行なったので報告する。
    収集した変異体のグリセロ脂質プロファイルをLC-MSで分析した。その結果、細胞膜脂質の主要な構成成分であるリン脂質のプロファイルはどの変異体でも大きな影響は無く、ステロールの量や組成の変動はステロール以外の細胞膜構成脂質プロファイルに影響を与えないことがわかった。ステロールも細胞膜脂質の構成成分であることを考えるとこれは予想外の結果であった。一方、葉緑体脂質である糖脂質のプロファイルはステロール生合成律速酵素HMGRの変異体で変化していた。葉緑体型リン脂質であるPG含量はこの変異体でも野生型と変わらないことを考えると、糖脂質特異的な生合成制御機構にHMGRが関わっているのかもしれない。
  • 杉本 貢一, 山本 真紀, 八木 裕, 登里 淳, 嶋田 敬三, 都筑 幹夫, 佐藤 典裕
    p. 0100
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    スルフォキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)は、酸素発生型光合成生物のチラコイド膜に普遍的に存在し、また紅色細菌Rhodobacter sphaeroidesやマメ科植物の根粒菌でも認められる。チラコイド膜では、光化学系の機能がSQDGにより安定に維持され、一方、緑藻では硫黄欠乏条件下、SQDG分解により、タンパク質合成のための細胞内硫黄源が確保される。酸素発生型光合成生物では、sqdB、sqdXの各遺伝子がコードするUDP-sulfoquinovose synthase、SQDG synthaseが順に働き、SQDGが合成される(以後、I型のSQDG合成系とする)。一方、R. sphaeroidesのSQDG合成には、sqdBに加え、I型にはそのホモログが存在しないsqdA、sqdC、sqdDの各遺伝子が必要とされる(以後、II型のSQDG合成系とする)。本研究では、近年のゲノム情報の進展をもとに、I型、II型のSQDG合成系遺伝子に関して、その生物種での分布を調べた。I型のホモログは、酸素発生型光合成生物以外では、サーマス門、クロロフレクサス門、アクチノバクテリア門等、種々の分類群に点在していたのに対し、II型のホモログは、プロテオバクテリア門に局在していた。これにより新たにSQDGを持つと示唆された生物種について、その脂質を分析したので、その結果もあわせて報告する。
  • 梶川 昌孝, 尾形 善之, Suharsono Sony, Widyastuti Utut, 足立 直樹, 近藤 伸二, 菊地 淳, 横田 ...
    p. 0101
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    ヤトロファは種子に30-40%程度の油脂を含有し、耐乾性に優れ荒廃地でも生育可能である。本植物は食糧作物との耕作地の競合を回避できるなどの利点があり、次世代のバイオディーゼル原料の主力の一つとして注目されている。一方、その果実登熟段階における脂質生合成の分子制御機構の全体像については全く判明していない。そこで本研究では、果実登熟過程における脂質蓄積と脂質関連遺伝子の発現プロファイルを網羅的に解析し、その分子制御機構について基盤情報を収集した。インドネシアで栽培されたヤトロファを用い、その開花直後から成熟に至までの果実の各成熟段階における脂質含量および組成の変化を解析した。あわせて同段階における網羅的な遺伝子発現解析を次世代シーケンサーおよび定量的RT-PCRにより行い、脂質代謝に関わる遺伝子群の発現情報を取得した。その結果、ヤトロファの特定の成熟段階で脂質代謝遺伝子群が発現上昇すること、それに合わせて種子脂質量が急速に増大し、脂質組成も大きく変化することが明らかになった。これらの結果は、ヤトロファの脂質生合成過程において大規模な代謝制御が存在することを示唆している。
feedback
Top