木材学会誌
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56 巻, 6 号
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カテゴリーI
  • 林 徳子, 渋谷 源, 野尻 昌信
    2010 年 56 巻 6 号 p. 374-381
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2011/03/05
    ジャーナル フリー
    セルロース結晶領域の酵素加水分解メカニズム解明のため比較的大きなセルロース微結晶における反応初期の変化を調べた。固定したバクテリアセルロースの微結晶セルロースにTrichoderma粗酵素,セロビオハイドロラーゼI(CBHI(現在はCel7A)),セルロース結合モジュール(CBM)およびチオレドキシン(Trx)との組換えCBM(Trx-CBM)を50℃で10-30分間作用させた。粗酵素処理では微結晶のフィブリル化や末端の先細り,Iαの選択的分解が認められた。CBM,CBHI,Trx-CBM処理では微結晶表面に割れが生じるが,CBMでは浅く,CBHIでは深く,セルロース分解機能を持たないTrx-CBMでも深い割れが観察され,分子間,分子内水素結合にも変化が見られた。酵素分解は,CBMが微結晶表面に吸着して割れを生成後,体積の大きい触媒モジュールがくさびのように割れを拡大すると推論できる。
  • 杉浦 立樹, 山岸 賢治, 平井 浩文, 河岸 洋和
    2010 年 56 巻 6 号 p. 382-387
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2011/03/05
    ジャーナル フリー
    高活性リグニン分解菌Phanerochaete sordida YK-624株の産生する,新規リグニンペルオキシダーゼの1種であるYK-LiP2をコードする遺伝子ylpAを高発現する形質転換体A-11株のリグニン分解特性を調査した。ブナ木粉培地においてA-11株は野生株より高いリグニン分解活性を示し,4週間培養後のリグニン分解率は野生株と比較して7.6%高い値を示した。また,その時のリグニン分解選択性も野生株より高い値を示した。A-11株を接種した木粉中のLiP活性は野生株のものより高く,また組換えylpAの転写解析より,A-11株は培養期間を通して安定して組換えylpAを転写していることが判明した。これらの結果より,ylpAの高発現がP.sordida YK-624株のリグニン分解活性を上昇させたことが示された。さらに,市販のセルラーゼを用いた酵素糖化性について検討したところ,A-11株により処理した木粉は野生株のものより高い糖化性を示した。
  • 石黒 真希, 堀 千明, 片山 映, 五十嵐 圭日子, 高畠 幸司, 金子 哲, 鮫島 正浩
    2010 年 56 巻 6 号 p. 388-396
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2011/03/05
    ジャーナル フリー
    エノキタケのトランスクリプトーム配列データベースを構築し,これを利用した菌体外酵素のセクレトーム解析を試みた。種々のバイオマスまたは多糖を炭素源とした各培地においてエノキタケを培養し,菌糸体から全RNAを抽出した。得られた全RNAから構築された均一化cDNAライブラリの全配列を第2世代DNAシークエンサにより決定し,トランスクリプトーム配列データベースを構築した。次に,セルロース培地から得たエノキタケの菌体外タンパク質を二次元電気泳動で分離し,トランスクリプトーム配列データベースを利用して,得られたスポットの同定を試みた。その結果,41個のスポットについて対応するコンティグ配列が帰属できたことにより多数の糖質分解関連酵素が同定され,エノキタケのようなゲノム配列未解読菌においてもセクレトーム解析が可能であったことから,データベース化されたトランスクリプトーム配列情報の有効性が示された。
  • 石黒 真希, 堀 友宣, 吉田 誠, 高畠 幸司, 金子 哲, 五十嵐 圭日子, 鮫島 正浩
    2010 年 56 巻 6 号 p. 397-404
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2011/03/05
    ジャーナル フリー
    エノキタケのセルロース培養系から精製した糖質加水分解酵素ファミリー7に属する2種のセロビオヒドロラーゼ(FvCel7A,FvCel7B)について特性解析を行った。p-ニトロフェニル-β-D-ラクトシドを基質として両酵素の反応速度パラメータ(kcat/Km)を比較したところ,FvCel7B(0.15 s-1・mM-1)がFvCel7A(0.069s-1・mM-1)の約2倍の反応速度を示した。しかしながら,非晶性セルロースの分解活性はFvCel7Aの方がFvCel7Bよりも高かったことから,不溶性セルロースへの親和性はFvCel7Aの方が高いことが示唆されたが,両酵素とも結晶性セルロースをほとんど分解しなかった。FvCel7Aは糖質結合性モジュールファミリー1に属するセルロース結合性ドメインを有しているが,結晶性セルロースよりもキチンに対する吸着能が高かったことから,結晶性セルロースを基質として利用できないことが考えられた。
カテゴリーIII
  • 山内 秀文, 梅村 研二
    2010 年 56 巻 6 号 p. 405-411
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2011/03/05
    ジャーナル フリー
    屋外暴露試験を経た合板を原料にパーティクルボード(PB)を作製し,その物性を評価することで,廃材を木質材料に再利用した際の材料性能への影響を検討した。気象条件の異なる旭川市,能代市,つくば市,真庭市,都城市の5カ所で1,3,5年の屋外暴露を経たカラマツ構造用合板を,暴露に伴う重量減少の程度などから3水準に分け,それらを原料にPBを作製し,力学的性能や24時間吸水による厚さ変化などを評価した。屋外暴露された原料から得たPBは,未暴露の合板を原料にしたものに比べ,暴露年数の増加とともに表面色が暗色化するものの,力学的性能に大きな差は見られなかった。一方,吸水率と厚さ膨張率の関係には差が見られないものの,暴露年数の増加とともに吸水率が低下する傾向が見られた。いずれにしても,5年間の屋外暴露を経た合板をPBの原料としても,得られるボードの物性が大きく低下することはないことが確認された。
  • 高麗 秀昭, 凌 楠, 斉藤 吉之, 海老原 徹
    2010 年 56 巻 6 号 p. 412-419
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2011/03/05
    ジャーナル フリー
    廃棄された木製パレットを原料として配向性ストランドボード(OSB)を製造した。パレットをシュレッダーで破砕後,リングフレーカーを用いて小型のストランドを製造した。それを10 mmのメッシュのスクリーンでふるい,繊維方向に長いストランドを分離した。これを原料としてOSBを製造した。目標ボード密度が0.70g/cm3のOSBでは,配向方向の曲げ強さは約65 MPa,直交方向のそれは約31MPaとなった。配向させることにより曲げ強さが向上した。剥離強さも約1.0MPaとなった。釘側面抵抗は約3.5kN,釘頭貫通抵抗も約2.5kNとなった。これらの強度的な性能は一般的なOSBよりも高い。メラミン樹脂を結合剤として使用したが,厚さ膨張率は約22%となった。相対湿度を0から90%へ変化させたときの線膨張率は0.24%となった。一般的なOSBと同程度の厚さ膨張率および線膨張率が得られた。
  • テウク ・ベウナ・バルダント, 及川 千皓, 野尻 昌信, 幸田 圭一, ヤニ ・スディヤニ, 山田 竜彦, 浦木 康光
    2010 年 56 巻 6 号 p. 420-426
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2011/03/05
    ジャーナル フリー
    日本および東南アジアで多量排出されるスギ間伐材やオイルパームの空果房(EFB)から酵素糖化を経てバイオエタノールなどのプラットフォーム化合物を製造することを想定して,本研究では,酵素糖化助剤となる両親媒性リグニン誘導体を開発し,スギおよびEFBの糖化に対する効果を検討した。酵素糖化のための前処理として,スギにはアルカリパルプ化,EFBにはクラフトパルプ化を行い,残存リグニン量約11%のスギパルプ,および残存リグニン量10%と12%のEFBパルプに対し糖化を行った。これらのパルプのセルラーゼ処理時に,リグニン誘導体を添加すると糖化率,特にEFBパルプに対し向上し,処理後も有意なセルラーゼ活性が検出された。
  • 土屋 陽子, 唐沢 邦彦, 佐藤 寿樹, 辻 宣行
    2010 年 56 巻 6 号 p. 427-436
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2011/03/05
    ジャーナル フリー
    未利用バイオマスを利用した木質ペレット製造について,エネルギー収支分析を行った。国内の3つのペレット工場を対象に,木材の伐採,輸送,ペレット製造,ペレット流通を評価範囲として,各工程における設備製造のエネルギーと運転エネルギーから,システム全体のエネルギー消費量を算出した。その結果,製造したペレットの発熱量(出力エネルギー)はペレット製造に係るエネルギー(入力エネルギー)を上回り,エネルギー収支はプラスであることが示された。しかし,出力エネルギーに占める入力エネルギーの割合は16~26%に達し,海外のペレット製造に比べて高い比率であることが明らかになった。入力エネルギーの詳細分析から,木材の調達手段や破砕方法,また乾燥用ボイラー燃料の選択等により,エネルギー消費量は大幅に低減する可能性があると考えられた。しかし,国産ペレットが燃料として競争力を持つためには相当な改善が必要であり,今後,林業の活性化を含めたシステム全体の最適化を図っていく必要がある。
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