乾燥割れの測定には多くの手間がかかり測定者によって評価結果が異なるという課題がある。従来提案された画像処理に基づく半自動的な方法では,画像取得の前に試験体に特殊な処理が必要なことから簡便性に限界があった。本研究では,製材の鋸断面でも測定可能でかつ簡便で精度の高い乾燥割れの定量化手法の開発を目指した。850枚のスギ心持ち正角の横断面画像を用いて畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を学習させ,その性能を150枚のテストデータによって評価した。その結果,総割れ面積および総割れ長さの二乗平均平方根誤差(RMSE)はそれぞれ11.8 mm2と28.4 mmであった。特に,総割れ面積は高い精度で推定可能であることが分かった。面積に比べて長さの推定精度が低いのは,画像を圧縮してCNNに入力した際に細かい割れの情報が消失したことが原因であった。推定精度の改善にはCNNへの画像の入力方法を変更する必要があると考えられた。
我が国では社会科学的な手法による木材利用促進の研究が少ない。そこで,本研究では建築環境学の分野で有用とされている自然派-都市派価値観を中心に,消費者の属性・価値観と木材の好みや木製品の利用意向との関連を調査した。参加者の属性と幼少期・現在の居住地,自然派-都市派の価値観を独立変数・説明変数,木材の好みと木製品(建築材料,家具,食器,アクセサリー・小物)の利用意向を従属変数・目的変数としてt 検定・分散分析および重回帰分析を行った。その結果,(1) 自然派寄りの価値観を有している人は木材の好みや木製品の利用意向が高く,(2) 年代や性別は部分的に木材の好みや木製品の利用意向と関連し,(3) 幼少期居住地が都市郊外だった人は建築材料,家具,食器の利用意向が低いことが示唆された。これらの知見はより効果の高い木材利用促進に有用である。
木材の曲げ強度性能は力学試験を実施すると調べることができ,その際に曲げヤング率や曲げ強度等は一般的に用いられる。これらの特性値は専門家にとっては基本的な知識であるものの,いずれも高等教育機関等で学習する内容である。現在は地域の森林を活性化するために地域の人々が木材の強度性能を知ろうとする機会があるが,そこで示される試験結果は,必ずしも非専門家にとって容易に理解できるものではない。一方,他の業界では,様々なモニタリング結果を一数値に縮約した指標を提示し,非専門家であっても値の大小の比較で状況判断できる工夫が見られる。そこで本研究では,木材の曲げ強度性能を総合的に示す新たな指標の作成を試みた。曲げヤング率と曲げ強度に基づく主成分分析を行い,第一主成分得点を新たな指標とした。この指標を用いることで,木材試験体が有する曲げ強度性能について,文献値との比較を簡易に行うことが可能となった。
日本木材学会ではこのたび,木材科学,特に木材解剖学と木材材質学に関する二つの用語集を定めた。これら「木材解剖学用語集」と「材質用語集」の二つの用語集は,それぞれ「国際木材解剖用語集(1975)」と「材質に関する組織用語集(1972)」の改定版に相当する。本稿では制定における経緯と以前の用語集からの改定点を詳述する。これら用語集が多くの方々に幅広く用いられ木材研究の発展に寄与することを望む。