九州歯科学会雑誌
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63 巻, 5.6 号
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総説
  • 牛島 直文
    原稿種別: 総説
    2010 年 63 巻 5.6 号 p. 247-251
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/15
    ジャーナル フリー
    歯科医学の本来の目的は可能な限り歯を残すことにある.しかし,近年,インプラントの普及に伴い歯を残すことへの関心が極端に薄れてきているように思われる.今回は通常であれば保存不可能と診断されそうな症例に対して,3種類の術式を用いて歯を保存することで,結果として歯根膜の機能を維持できた症例を提示する.1番目は,根尖未完成の歯根膜炎に対してアペキシフィケーションを行った治療例,2番目は,難治性の根尖性歯周炎を根管治療や再植術によって治した症例,3番目は,重度の歯周病に対して移植や再植術を用いた症例,そして4番目は,GTR法やEMDを用いて重度の歯周炎に対して治療した症例を示す.特に,チャレンジケースと思われる移植・再植を成功させる上で注意する点は,1.移植床に炎症がないこと,2.根尖部が完全にシ-ルされていること,3.歯根膜を乾燥させないこと,4.移植時間は出来るだけ短くすること.5.固定は確実にすることなどが注意項目である.
原著
  • 槙原 正人, 柿川 宏, 槙原 絵理, 鱒見 進一
    原稿種別: 原著
    2010 年 63 巻 5.6 号 p. 252-259
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,顎関節を含む口腔顔面痛の既往のない健康成人10名(男7名,女3名:平均年齢24.6±2.32歳)の右側顎関節部にCO2レーザー,半導体レーザーおよびNd:YAGレーザーの3種をそれぞれ10分間照射し,照射前後における体表温度の変化について検討することである.各被験者とも照射側,非照射側ともに,照射前,照射5分,照射10分および照射後10分の計8回サーモグラフィーで観察し撮影した.
    半導体レーザーとNd:YAGレーザーを照射することで,照射相当部のみならず非照射側の体表温度も照射と同時に著明に上昇することがわかった.CO2レーザー照射でも半導体レーザーやNd:YAGレーザー照射時と同様に,非照射側の体表温度は照射と同時に著明に上昇した.しかし,照射側の体表温度は,照射と同時にわずかに上昇するもの照射前と比較して有意差は認められず,照射後10分に著明に体表温度が上昇することがわかった.
    これらの現象から,いずれのレーザーも温熱効果が期待できるレーザーであることが示された.
  • 柳田 泰志
    原稿種別: 原著
    2010 年 63 巻 5.6 号 p. 260-267
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/15
    ジャーナル フリー
    病気の診断や進行を把握する上で,試料中に含まれるサイトカインなどの生理活性物質の定量には酵素免疫検査法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay: ELISA)が一般に用いられている.歯科領域でも歯肉溝浸出液や顎関節滑液中に含まれるサイトカインなどの生理活性物質の分析は重要である.このような研究結果はすでに報告されているが,一般歯科臨床の現場でこのような分析を行うには,試料の量,操作性や分析時間など解決しなければならない問題も多い.近年,バイオマイクロセンシング技術の進歩で,ごく微量の資料から生理活性物質を測定する試みが広くなされている.今回,私は誘電分極を利用した免疫センサーの開発を行い,歯科における臨床応用の可能性について検討した.この免疫センサーはセンサーセル電極上に絶縁体を主成分とする膜を作膜し,その上に特定の抗体を固相化することで作製した(抗体が固相化された膜を感応膜という).測定方法は極微量の試料をセンサーセル上に滴下するだけで濃度の違いを電圧の変化として検出するものである.
    今回筆者は(1)センサー作製に適した絶縁体膜の成分・性状,(2)絶縁体の膜への抗体の固相に適した抗体濃度と固相化時間,(3)抗マウスIgG抗体を固相化したセンサーによるマウスIgG抗原の検出,(4)各種サイトカイン(IL-1α,IL-1βおよびTNF-α)の検出,の4点について検討した.
    (1)に関しては,SiO2を含有させた絶縁体に表面エッチング処理したものが感応膜に最適であることが明らかとなった.(2)に関しては,抗体濃度が100μg/mlで30分間の処理が固相化に最適であることが判明した.(3)に関しては,前記の条件で,抗マウスIgG抗体を固相化したセンサーによりマウスIgG濃度を濃度依存的な電圧変化として検出する傾向がみられた.(4)に関しては,いずれのサイトカインにおいても,濃度によって電圧が変化する傾向にあった.以上の測定に要する試料の量は3μlであり,1回の測定時間は約7分であった.
    以上より,誘電分極を利用した免疫センサーは極微量の試料でも短時間で簡便に抗原抗体反応量を数値化できることがわかり,歯科の臨床検査法としての応用の可能性が示された.
  • 山中 雅博, 吉岡 泉, 土生 学, 冨永 和宏
    原稿種別: 原著
    2010 年 63 巻 5.6 号 p. 268-276
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/15
    ジャーナル フリー
    Transforming Growth Factor-beta(TGF-β)スーパーファミリーはTGF-βやBone morphogenetic protein(BMP)などに大別され,骨折や骨延長法の骨形成に重要な役割を担っている.SmadsはTGF-βやBMPの細胞内シグナル伝達因子である.このうち特異型SmadであるSmad1,5,8はBMPのシグナルを,そしてSmad2,3はTGF-βのシグナルを伝達する.共有型SmadであるSmad4は特異型Smadと結合し,標的遺伝子の発現を誘導する.抑制型SmadであるSmad6,7は特異型Smadと共有型Smadの結合を阻害する.本研究では下顎骨延長モデルにおけるSmad,BMP,TGF-βの動態を明らかにするために,その局在と経時的変化を免疫組織化学的に検索した.
    Wistar系ラットを用い,全身麻酔下に下顎骨骨切り後,自作の延長装置を装着した.5日間の待機期間の後,1日0.4mmで8日間(総延長量3.2mm)の延長を行い,待機期間終了後,延長開始4日後,延長終了直後,延長終了7日後,延長終了14日後に標本を作製した.連続切片を作製し,Smad1~8,BMP-2,4,TGF-βを免疫組織化学的に観察した.
    その結果,Smad1,5,8とBMP-2,4の発現が類似し,Smad2,3とTGF-βの発現が類似していた.また,Smad1,2,3,5,8,BMP-2,4,TGF-βの発現は延長期間中に著明に認められたが,その後漸減した.逆にSmad6,7の発現は延長期間中には少なく,延長終了後に増加していた.延長終了後には抑制型Smadが優位に機能し,骨の成熟に関与していると考えられた.
  • 井上 博雅, 吉野 賢一, 久保田 浩, 辻澤 利行, 園木 一男, 吉田 成美, 高見 佳代子, 粟野 秀慈, 仲西 修, 柿木 保明, ...
    原稿種別: 原著
    2010 年 63 巻 5.6 号 p. 277-290
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/15
    ジャーナル フリー
    医療現場における口腔ケアと摂食・嚥下リハビリテーション(以下,摂食嚥下リハ)の現状と課題を把握し,この分野で貢献するべき人材を育成するための教育プログラムを構築することを視野に入れ,アンケート調査を実施した.調査は平成18年(以下,今回)に,福岡県内の病院,高齢者・障害者施設(以下,施設)および歯科医院を対象として行われた.必要に応じて平成16年(以下,前回)に病院と施設において実施された同様の調査と比較,検討した.今回の調査では病院と保健施設の,それぞれ95.1%,94.9%が口腔ケアを,73.2%,23.3%が摂食嚥下リハを実施していると回答した.また,前回の調査と比べ,口腔ケア担当者の職種として第一位は看護師であったがその割合は減少し,より口腔領域の専門性が高い歯科医師,歯科衛生士,言語聴覚士などの割合が増加していた.一方,摂食嚥下リハにおいては,より多くの医療職が関与して実施されているとの回答が得られた.この結果は,摂食嚥下リハにおけるチーム医療によって実施されていることを反映したものと考えられた.口腔ケアおよび摂食嚥下リハに携わる人材には,「口腔機能管理における専門的知識と技術」と「高齢者に対する知識や介護技術」,ついで「栄養学的知識の習得」の知識と技術が求められた.高齢社会に対応できる口腔保健の専門家が求められると同時に,チーム医療,とくに栄養補給チームの一員として貢献できる人材が求められていると考えられた.以上のことから,口腔ケアと摂食嚥下リハを担当する口腔保健の専門家(とくに歯科衛生士)には,口腔機能管理における専門的知識と技術のみならず,社会的ニーズに伴う高齢者に対する知識や技術,他の医療職との連携がさらに重要になる将来的医療環境に対応できる知識(とくに栄養学的知識)を習得させる教育プログラムが必要であると考えられた.
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