昭和41年1月より, 昭和46年12月まで, 過去6年間にわたる, 九州歯科大学第2口腔外科学教室入院患者は, 総計1, 306例, 年平均217例となり, 男女それぞれ732例, 574例であった.年齢別では9才以下の若年者例が477例ともっとも多く, この現象は歯科口腔外科診療体系の一端を示すものとして興味深い。月別入院症例数では1月に入院がわずかに多く見られた以外特別の差は見られなかった。個々の疾患別に見た場合, 奇形, 炎症, 嚢胞性疾患, 悪性腫瘍, 良性腫瘍, その他の順となり, これらの各年別入院患者総数に対する割合はほぼ一定していた。入院日数では, 悪性腫瘍がもっとも長くほぼ3ヵ月の長期にわたった。この原因は悪性腫瘍に対し, 積極的に化学療法ことに動脈内持続注入法を採用しできるだけ, 外科手術による実質欠損を少なくするという治療方針も若干関係していると思われる。ベッド占有率では, 奇型と悪性腫瘍で60%以上を占め, これらの疾患の口腔外科学的臨床意義の重要性を改めて認識した.従って, この二つの疾患群を中心に, 他の疾患群についても検討を加えた.裂奇形患者の新鮮例では, 口蓋裂のみおよび唇顎口蓋裂例数が口唇裂のみのそれよりも約2倍であった.唇裂, 唇顎口蓋の口唇形成術はほぼ一才以前に行われ, 唇顎口蓋裂, 口蓋裂の口蓋形成術は大部分が2才以前に, おそくとも5才までにそのほとんどが行われている.なお, 46年度の口唇形成術の10例はLip Adhesionが施行され, この術式における予後は後日詳述する.悪性腫瘍例は裂奇形と対照的に40才以上の高齢者が多かった.しかし10才以下ことに2才の細綱肉腫症例は, 口腔外科学診断上配慮の肝要な一端を示すと思われる.男女比では, 男性が女性の2倍を示し注目される.悪性腫瘍の3年生存率の平均は, 36.7%であるが, もっとも症例数の多かった上顎洞癌の生存率に大きく左右されたものと思われた.かかる点が今後口腔領域悪性腫瘍に対する治療成績向上の重要なる一面である.ここに他疾患群も含め, 6年間の臨床統計の概要を報告する.
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