九州歯科学会雑誌
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65 巻, 5-6 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 吉田 明弘
    2011 年 65 巻 5-6 号 p. 169-178
    発行日: 2011年
    公開日: 2024/04/27
    ジャーナル フリー
    歯周病は,その発症に遺伝・環境因子と共に口腔細菌が大きく関与している感染症である.中でもPorphyromonas gingivalis,Tannerella forsythia のグラム陰性桿菌およびTreponema denticola の口腔スピロヘータが歯周病に強く関連する細菌として特に注目されている.これらの細菌の混合感染を Socransky らは red complex という歯周病の重篤度と強く関連する群として位置付けている.また,Aggregatibacter actinomycetemcomitans は本邦では比較的少ないが,若年者における侵襲性歯周炎の原因菌として注目されている.よって,歯周局所からこれらの細菌を検出する ことは病態把握において有益な情報となり得る. 歯周病発症における感染様式は,これらの口腔内常在菌の歯周局所での増加,いわゆる内因感染と考えられている. よって,歯周ポケット内でのこれらの細菌の有無だけを議論しても歯周病診断における意味はあまりない.歯周病が内因感染であるなら,健康な歯肉溝にもいわゆる歯周病細菌は存在するからである.細菌の有無を検出する定性的検出法は抗菌剤の選択の一助となるが,これだけで診断に使えるわけではない. そこで,著者らはリアルタイム PCR 法を用いた歯周病細菌の定量検出系を開発してきた.歯周病は口腔細菌の感染と宿主の免疫の関係を中心として発症する多因子疾患であり,感染以外の要因が深く関わることからも,発症に関す る細菌数のカットオフ値を決定することは非常に困難である.短期間において同一部位では,感染以外の要因はあま り変化しないことから,著者らは定量検出系を歯周病の診断ではなく治療前後に用いて,治療効果の判定に用いるこ とを提案している.開発した定量検出系を用いて,P. gingivalis およびT. denticola について歯周初期治療前後で解析したところ,ポケット深の減少と共に細菌数は減少し,ポケットの深さと菌数には強い相関がみられた. 本稿では,歯周病の診断・治療における細菌学的検査法の種類およびその使用について,著者らのグループが開発 してきた検査法を中心に考察した.
  • 中島 啓介
    2011 年 65 巻 5-6 号 p. 179-184
    発行日: 2011年
    公開日: 2024/04/27
    ジャーナル フリー
    近年,日本は超高齢社会(高齢化率 21 %以上)に突入した.今後も高齢化は進み続け,全身疾患を有する多くの高齢歯周病患者が歯科医院を受診すると予想される.全身疾患を有する高齢患者では高いリスクを伴うことから,歯周基本治療後に深い歯周ポケットが存在していても歯周外科手術を受けられないかもしれない.従って,深い歯周ポケットの数を少しでも減らすためには,スケーリング・ルートプレーニング(SRP)を中心とした歯周基本治療(非外科的歯周治療)の成功率を上げることが必要となる.多くの臨床研究から,歯周ポケット深さが増加するほど SRP 後に歯肉縁下歯石が残存した歯面の割合が増加することが明らかになっている.その理由は不明であるが,おそらく歯周ポケットが深くなるほど歯石の検知および除去が困難になるためであろう.よって,成功率をあげるためには,歯肉縁下歯石の客観的な探知システムの開発が必要となる.現行の歯石検知のためのシステムには,検知のみのシステム (小型の内視鏡,分光光学に基づいた機器,照射により歯面が蛍光を発するようなレーザー)および検知・除去が可能なシステム(歯面からの反射を解析する超音波振動に基づくシステム,エルビウム・ヤグレーザーとダイオードレーザーを組み合わせたシステム)がある.これらの機器を有効性を検証した研究は,口腔内で抜歯予定の歯を処置し,その後に抜歯してから解析していることから共通の問題を抱えている.それは,ポケット深さ,歯肉退縮,臨床的アタッチメントレベル等が残存歯石の分布と関連していると考えられる点である.In vitro で有益な結果が得られているが,新しいテクノロジーに裏付けされた歯周治療は,従来のスケーリングと比較して優れた臨床成績を残している訳ではない.これらの機器の使用により,残存するポケットの深さが浅くなって,歯周外科手術の必要がなくなり,知覚過敏も軽減するといった結果が長期間に渡って維持できるか否かを評価するためには,さらなる臨床研究が必要である.
  • 福泉 隆喜
    2011 年 65 巻 5-6 号 p. 185-191
    発行日: 2011年
    公開日: 2024/04/27
    ジャーナル フリー
    社会保障制度の一分野である医療保険は,国民生活を支える重要な基盤となっている.我が国では,就業形態によっ て加入すべき医療保険の種類が異なる特徴を有しており,主に被用者を対象とする健康保険と自営業者等を対象とする国民健康保険に大別される.国民皆保険制度の創設から 50 年が経過し,高齢化の進展,雇用や経済情勢の変動,国民意識の多様化などにより医療保険を取り巻く環境は大きく変化している.このような状況の中,公的医療保険制度 については,給付と負担のバランスを前提とした見直しの必要性が指摘されている.
  • 引地  尚子
    2011 年 65 巻 5-6 号 p. 192-197
    発行日: 2011年
    公開日: 2024/04/27
    ジャーナル フリー
    拡大鏡を用いての観察は,皮膚科領域では非侵襲的疾患鑑別方法のダーモスコピー(dermoscopy)として確立している.しかし,皮膚疾患用観察機器が大きく口腔内に入らないことなどから,今まで口腔疾患への応用は普及してい なかった.今回,口腔粘膜に接触した状態で拡大鏡を用いてその性状を観察し,疾患を鑑別診断するための手法を工夫した.口腔内カメラを用いて口腔粘膜に接触した状態あるいは接触しない状態で観察することにより,口腔粘膜の ほとんどすべての部位をさまざまな状態で拡大観察することができた.また,口腔粘膜観察においてダーモスコピー とほぼ同等の画像が得られることが判明し,口腔粘膜疾患の診断に寄与する可能性が示唆された.
  • 鷲尾  絢子
    2011 年 65 巻 5-6 号 p. 198-204
    発行日: 2011年
    公開日: 2024/04/23
    ジャーナル フリー
    2003 年度から 2010 年度の過去 8 年間における九州歯科大学附属病院保存治療科を受診した初診患者 3,209 名について動向を調査した.総数は 3,209 名で男性 1,169 名(36.4 %),女性 2,040 名(63.6 %)であった.年齢構成は 60 歳代が最多で 19.9 %を占めていた.居住地は 75.4 %が北九州市内であり,92.3 %が福岡県内で占められた.紹介・非紹介の別をみたところ,院外からの紹介 22.5 %,当院他科からの紹介 19.4 %,非紹介 53.8 %であった.非紹介患者の中で,かかりつけ医があるにもかかわらず紹介なしに来院した患者は前報より増加傾向にあった.診断名は多い順に歯 内治療に関するもの 44.6 %,修復治療に関するもの 26.8 %,歯周治療に関するもの 19.0 %であった.治療内容は歯内治療(33.7 %)が最も多く,次いで歯周治療(13.1 %),抜歯(12.9 %)であった.さらに再治療症例は 58.0 %と高い割合を示した.以上の結果は,地域歯科医療におけるさらなる啓蒙・普及活動が必要であることを示唆している.
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