鼻呼吸は本来人間の生理的な呼吸様式であるが,鼻炎等により鼻閉が生じると正常な鼻呼吸が障害され,頭痛,疲労感,睡眠障害,日中の眠気,注意力の低下等によりQOL(生活の質)が低下すると報告されている.本研究では常時鼻呼吸者の鼻孔を鼻栓で閉塞することで実験的口呼吸を作り出し,鼻呼吸および口呼吸における課題の作業能率について比較検討することにより,口呼吸が集中力あるいは注意力の低下にどの程度関与しているかについて検討した.
通常の呼吸様式が鼻呼吸と判定された27名の成人を対象にストループカラーワードテストを,34名に内田クレペリンテストを実施した.鼻栓をした実験的口呼吸時を実験群とし,何も行わない鼻呼吸時を対照群として,この2群間で比較検討した.評価項目はストループカラーワードテストが反応時間と誤答数,内田クレペリンテストは全平均作業量,前半平均作業量,後半平均作業量,後半開始5行平均作業量および特定行誤答数とした.
1.ストループカラーワードテストでは,対照群に比べ,実験群の方が誤答数の増加傾向,反応時間が延長することが分かった.2.内田クレペリンテストにおいては全平均作業量,前半平均作業量,後半平均作業量,後半開始5行平均作業量が,対照群に比べ実験群の方が有意に減少した.これにより,通常の呼吸様式が鼻呼吸の者が,一時的に口呼吸になることで作業能率が低下することがわかった.
今回の研究から実験的口呼吸は,集中力および注意力の低下に影響し,作業能率の低下につながる可能性が示唆されたが,今回の結果は,一時的な口呼吸になった場合であり,常在的口呼吸者に当てはまるかどうかについては,今後研究を続けていかねばならない.
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