糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
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シンポジウム:糖尿病血管合併症の分子機構と新たな治療法の開発を目指して
  • 山岸 昌一
    セッションID: DS-2-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    糖尿病網膜症の主座となる細小血管は、血管の内側をおおう内皮細胞とそれを取り囲む周皮細胞から構成されている。我々は以前に、(1)網膜周皮細胞が内皮細胞の増殖を制御するのみならずプロスタサイクリン産生能を保持し、過酸化脂質に対する内皮障害にも保護的に作用して細小血管の恒常性の維持に重要な役割をはたしていること、(2)したがって、糖尿病性網膜症の初期に認められる網膜周皮細胞の選択的消失(pericyte loss)が生じると血管新生や血栓傾向がひきおこされ、網膜症が進展、増悪すること、(3)糖尿病状態で促進的に形成される終末糖化産物(AGEs)が、細胞表面に存在するAGEsレセプター(RAGE)を介してpericyte lossをひきおこす一方、内皮細胞に働いて血管内皮増殖因子(VEGF)のオートクライン分泌を促して血管新生を促進させることを明らかにしてきた。今回我々は、色素上皮由来因子(PEDF)のAGEsによる周皮細胞障害、血管新生誘導に及ぼす影響について検討した。その結果、PEDFは濃度依存的に周皮細胞に働き、AGEsによる細胞内酸化ストレス産生の亢進、DNA合成の抑制、アポトーシスの誘導を抑えることが見い出された。また、PEDFはAGEsによるbcl-2遺伝子の発現低下を抑制し、bcl-2/bax比を改善して抗アポトーシス作用を呈することも見い出された。さらに内皮細胞においてPEDFは、AGEs-RAGEによるNADPHオキシダーゼの活性化を抑え細胞内酸化ストレスの産生を抑制し、Ras-NF-kBによるVEGF遺伝子の発現誘導を抑えることで、血管新生に抑制的に作用することが見い出された。また、周皮細胞、内皮細胞膜表面には、PEDFと特異的に結合する膜蛋白の存在が示唆された。さらにPEDFはin vivoにおいても抗酸化的に作用し、AGEs投与によるVEGF過剰発現を介したラット網膜血管透過性の亢進を抑制することも明らかにされた。PEDFは抗酸化活性を介してAGEs-RAGEによる細胞内情報伝達を阻害することで糖尿病網膜症の発症、進展を阻止できるかもしれない。
  • 鈴間 潔
    セッションID: DS-2-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    糖尿病網膜症は成人の失明原因として主要な割合を占めており、その病態解明・治療法の確立が非常に重要な問題となっている。視力障害の原因としては新生血管緑内障と並んで血管透過性の亢進による網膜浮腫が最も重要な病態である。近年血管内皮増殖因子(VEGF)やAngiopoietin等の血管をtarget organとする増殖因子が網膜血管新生や血管透過性を制御していることが次第に明らかとなり、多くの研究者が眼内増殖因子に着目した研究に取り組んでいる。しかし血管細胞が常に接触している血圧というmechanicalな因子に着目している研究者はまだ少ない。例えば高血圧が糖尿病網膜症のrisk factorであることはよく知られているがそのメカニズムはほとんど研究されていない。高血圧は血管内圧によって、血管壁を構成する血管細胞が周期的に過剰伸展(stretch)される状態ととらえることが出来るため、我々はmechanicalな刺激がdirectに細胞に与える影響を検討した。我々の最近の研究から高血圧によりVEGFとそのレセプターシステムの働きが亢進し糖尿病網膜症が増悪する可能性が示唆された(Suzuma I, Diabetes. 2001;50:444)。しかし糖尿病網膜症の発症機序のすべてがVEGFによって説明されているわけではなく特に初期の網膜症の成因には不明の点が多い。網膜血管周皮細胞は糖尿病網膜症の初期に脱落を起こすと報告されているが最近我々はmechanical stretchが細胞内酸化ストレスの増加を介して周皮細胞アポトーシスを誘導することを見出した。本研究ではmechanical stretchという一見非特異的な刺激が細胞内で働く個々のシグナル伝達にどのように関係してくるか、さらに糖尿病網膜症の分子メカニズムにどのように影響するかを検討した。これまでにはほとんど理解されていなかった高血圧網膜症の分子メカニズム解明にも大きく貢献できると考えている。
  • 古家 大祐, 羽田 勝計, 吉川 隆一, 柏木 厚典
    セッションID: DS-2-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    糖尿病に特異的な細小血管障害である腎症・網膜症・神経障害、或いは大血管障害である脳・心・末梢血管障害の成因として高血糖が重要であることは、厳格な血糖管理によって糖尿病血管合併症の発症・進展を遅延し得たとの大規模疫学研究であるDCCT、及びUKPDSにより明らかにされた。しかし、これら疫学研究における厳格な血糖管理によっても、また、腎症に対して行なわれたレニン-アンジオテンシン系阻害薬のランダム化比較試験の結果からも合併症の発症・進展の遅延に止まっている。従って、糖尿病、或いは高血糖による血管の機能異常、或いは組織学的変異を来たす分子機構の解明とその対策が望まれている。高血糖状態により引き起こされる合併症の仮説として、ジアシルグリセロール (diacylglycerol; DG)-プロテインキナーゼC (protein kinase C; PKC) の活性化、ポリオール経路の活性化、酸化ストレスの亢進、終末糖化産物の蓄積、レニン・アンジオテンシン系の亢進、増殖因子やサイトカインの発現増強などが、糖尿病実験動物の血管組織、或いは糖尿病状態の培養血管構成細胞において示されてきた。特に、DG-PKC経路の活性化は細胞外基質タンパクの発現、細胞の分化・増殖、そしてイオンチャネルの活性など血管機能に関連する主要な細胞内情報伝達系であり、糖尿病血管合併症の成因として注目されてきた。 そこで、本シンポジウムでは、我々が報告してきた経口投与可能なPKCbeta阻害薬の糖尿病性腎症に対する有用性とともに臨床応用への展望について概説したい。ついで、新たな糖尿病性腎症の治療法開発を目指した最近の研究として、「糖代謝異常に関連する抗老化遺伝子サーチュインの糖尿病血管合併症における意義とその治療への応用」に関しても議論したい。
  • 四方 賢一
    セッションID: DS-2-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    糖尿病腎症の成因には、糸球体血行動態の変化、グリケーション、酸化ストレス、proteinkinase Cの活性化など、多くの因子が関与すると考えられる。一方、腎症患者の腎組織にはマクロファージの浸潤が認められることから、腎症の成因に炎症メカニズムが関与することが示唆される。我々はこれまで、腎症の成因における炎症メカニズムの役割に注目して研究を行ってきた。炎症巣や動脈硬化巣へのマクロファージの浸潤は、活性化された血管内皮細胞に発現するICAM-1やセレクチンなどの細胞接着分子によって誘導される。これまでの研究から、腎症患者の腎組織では糸球体および間質にE-selectin、P-selectinとICAM-1の発現が亢進していることや、糖尿病患者の血液中の可溶性ICAM-1、VCAM-1およびP-セレクチン濃度が上昇していることが明らかとなった。さらに、糖尿病ラットを用いて、糖尿病発症後早期に腎組織にICAM-1の発現が亢進して、マクロファージの浸潤を誘導していることを明らかにした。そこで、腎症の成因におけるマクロファージの役割を明らかにするために、ICAM-1ノックアウト(KO)マウスとwild typeマウスに糖尿病を惹起して腎症の変化を検討した。その結果、ICAM-1KOマウスでは、腎組織へのマクロファージの浸潤が抑制されるとともに、アルブミン尿と腎組織障害が有意に抑制された。さらに、DNAマイクロアレイにより、糖尿病誘発後のwild typeマウスの腎組織では炎症性サイトカインやケモカインなどの遺伝子発現が増加し、ICAM-1 KOマウスではこれらの炎症関連分子の発現が抑制されていることが明らかとなった。これらの結果から、糖尿病では糸球体および間質の内皮細胞が活性化されて、ICAM-1をはじめとする接着分子の発現が亢進してマクロファージの浸潤が誘導され、マクロファージを中心とした炎症メカニズムが腎症の加速因子として関与していることが強く示唆される。従って、このような炎症メカニズムは、糖尿病腎症の新しい治療ターゲットとなる可能性がある。本シンポジウムでは、スタチン系薬剤やチアゾリジン誘導体などの抗炎症作用を持つ薬剤による腎症抑制効果についても報告したい。
  • 馬場 正之
    セッションID: DS-2-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    神経伝導検査(NCS)は末梢神経障害診断の現場で最も重視される検査である。ヒトのみならず各種末梢神経障害動物モデルにおいても、病理学的変化との厳密な比較研究がなされているからである。これまで蓄積されたデータをもとに、NCS所見からみたヒト糖尿病性神経障害(DPN)の病態と症候学的関連について考えてみる。   1) 無症候性DPN(神経症状なしだがアキレス腱反射が消失した糖尿病患者)の伝導異常: 最も異常率が高いのは脛骨神経F波潜時で、正常上限から10~20%延長が67%の患者でみられる。また、上肢神経でも1/3を越える正常域離脱者がみつかる。運動電位(CMAP)振幅はほぼ全員が正常。複合神経電位(CSAP)は40%の患者で2~5μV(正常下限値5μV)にあったが、完全消失者はいなかった。F波最短潜時は最大径有髄線維伝導の結果であり、その潜時延長は最大径線維消失を示唆する。膝足首間および肘手首間MCV、遠位潜時など速度系指標の異常も同意義だが、F波潜時は末梢神経のいかなる場所の病変をも反映し、しかも長距離伝導故に再現性も良い。ただ、速度系指標の異常はDPN末梢神経病変の本質的変化である軸索密度低下度を直接反映するものではない点に注意を要する。 2) 感覚異常の自覚はないが足に感覚鈍麻が検出される群の伝導異常: 腓腹神経CSAP消失者が含まれてくると同時に下肢CMAP低下者が少なからず見つかる。CSAP振幅低下はニューロパチーの本態である有髄神経数減少の進行を示す。特にCSAP記録不能は有髄神経密度の高度低下所見であるから、いかに症状が軽微でも憂慮すべき段階と考えるべきである。 3) 腱反射が低下・消失し、足部感覚鈍麻が明らかな顕性ニューロパチー群の伝導異常: 腓腹神経電位消失者20%を含むCSAP振幅低下者が70%に達し、脛骨CMAP低下者・消失も20%に及ぶ。緩徐進行性神経疾患におけるM波振幅低下や消失は運動神経線維変性が脱神経筋線維の再支配を上回った事態、つまり治癒・再生機転の崩壊を示す重要な指標である。したがって、末梢神経障害としては最終段階に入ったと理解される。この時期に混入する中潜時電位A波は、運動神経の未熟再生神経線維に由来する異常所見である。 これらの知見から、薬物効果検定ではどのような指標を用いるべきかについても言及する。
  • 中村 二郎
    セッションID: DS-2-6
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    糖尿病性神経障害は、糖尿病性慢性合併症の中で最も発症頻度が高く、多彩な臨床症状を呈することにより糖尿病患者のQOLを著しく低下させるのみならず、心血管系自律神経障害が生命予後に及ぼす影響には計り知れないものがあり、その予防と早期治療が重要である。 糖尿病性神経障害が高血糖を基盤として発症・進展することは明らかであり、糖尿病患者の血糖値を長期間に亘り厳格にコントロールすることにより、神経障害の発症・進展を阻止しうることが、これまでの大規模臨床研究により明らかとなっている。しかしながら、糖尿病患者において健常者と同じ血糖動態を得ることは極めて困難であり、日常診療で利用可能な方法による厳格な血糖コントロールのみでは、神経障害の発症・進展を完全に阻止することは不可能であることも明らかとなった。そこで必要とされるのが、神経障害の成因に則った治療薬の開発である。 糖尿病性神経障害の成因は、代謝因子と血流因子に大別され、代謝因子の代表的なものとして、ポリオール代謝活性の亢進、プロテインキナーゼC(PKC)活性の異常、非酵素的糖化反応の亢進および酸化ストレスの亢進が想定されている。これらの成因仮説は、それぞれが独立した観点から想定されたものであるが、近年の検討によりそれらが互いに密接な関連性を有していることが明らかとなってきた。我々は、中でもポリオール代謝活性の亢進が、これら成因の最も上流に位置し、神経障害の成因として中心的役割を担っていることを明らかにするとともに、アルドース還元酵素阻害薬が神経障害の予防と治療に有効であることを報告してきた。しかしながら、進行した神経障害に対しては代謝因子の是正による治療効果を期待することは困難である場合が多い。そこで我々は、神経障害に対する新たな治療法としての塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)局所投与および血管内皮前駆細胞移植の有用性について検討してきた。本シンポジウムでは、これらの成績をお示しし、神経障害の新たな治療戦略について考えてみたい。
  • 小山 英則, 山本 博, 西沢 良記
    セッションID: DS-2-7
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    血管障害は糖尿病患者の予後を規定する重要な合併症である。近年、糖化蛋白(advanced glycation endproduct: AGE)とその受容体(receptor for AGE, RAGE)が糖尿病性血管障害に関与することが明らかになってきている。糖尿病患者の動脈硬化病変部位にはAGE、RAGEとも増加しており、RAGEが糖尿病性動脈硬化の進展に関与することも報告されている。近年RAGEトランスジェニックマウス、RAGEノックアウトマウスが開発され、糖尿病性血管障害におけるAGE-RAGEの詳細な解析が可能になってきている。特に糖尿病性微小血管障害の一つである腎症の進展にRAGEが関与することが最近明らかにされた。糖尿病性大血管障害は複数の病態が複合して引き起こされると考えられる。動脈の閉塞・狭窄に関与する動脈粥状硬化、硬化性変化(stiffness)いずれも糖尿病患者で亢進することが知られている。最近糖尿病状態では末梢虚血組織における側副血管形成も低下していることが報告され、虚血の重症化に関与すると考えられる。我々はRAGEが糖尿病性血管形成障害に深く関与することを見出している。一方、RAGEのspliced variantとして同定された分泌型RAGE (esRAGE)はRAGEの作用に拮抗し、ヒト血中にも検出されることが明らかになった。糖尿病患者では血中esRAGEが低下しており、また頚動脈硬化と負の相関を示すことから、糖尿病性血管障害の進展を抑制する可能性がある。このようにAGE-RAGE及びesRAGEは糖尿病性血管障害の病態に深く関与し、本病態を制御する上で有用な標的分子となりうる。
  • 綿田 裕孝, 東 浩介, 河盛 隆造
    セッションID: DS-2-8
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    動脈硬化進展の初期過程には、血管内皮障害に起因する単球の内皮への接着が重要な役割をはたし、その後に引き続いて起こる、単球の内皮下への進入、マクロファージ及び泡沫化細胞への分化に必須であると考えられている。我々はこの動脈硬化進展過程における極めて重要なステップに注目し、in vivoでの定量的評価法の確立に成功した。我々はこの方法をNEMOes(New En face Method for Optimal observation of endothelial surface)と名づけ、現在我々の実験室における動脈硬化定量評価法のgeneral strategyとして用いている。NEMOes確立における基本的コンセプトは検体作成時に不可避な人為的影響を極力排し、安定した定量的評価を可能とすることにある。その方法を簡潔にまとめると、対象個体を脱血/固定し血管を摘出/染色した上で管腔を切り開き、光学顕微鏡によって内腔面像を撮影することにより、電顕とは違い、通常の免疫組織染色手技をそのまま流用して、簡便に血管内皮細胞や接着細胞を免疫染色でき、また、蛍光色素の退色に悩まされる共焦点顕微鏡と異なり、広範な領域を一度に観察できることが特徴である。結果として、種々の因子が生理的環境の血管内皮細胞にどのように影響するかを客観的に評価することが可能になった。我々はすでに、NEMOesを用いて、動脈硬化好発部位である血管分岐部の内皮細胞には非分岐部に比べてより多数のマクロファージが接着し、細胞周期が亢進することを見出した。そして糖尿病の動脈硬化発症に重要な役割を果たすとされるAGE(Advenced Glycation End product)の投与により本現象が血管非分岐部でも見られるようになることを示し、AGEが大血管症発症に関与しうることを報告している(Azuma, et al BBRC 2003)。本シンポジウムでは、NEMOesを用いた糖尿病状態における催動脈硬化因子の定量的評価の結果を踏まえて、動脈硬化予防の観点から、どのような糖尿病治療が望ましいかを提案したい。
レクチャー:糖尿病専門医に必要な心血管疾患の診断に関する検査
  • 久保田 功
    セッションID: AL-6
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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     糖尿病における心血管疾患として虚血性心臓病(狭心症、心筋梗塞)が最も重要であるから糖尿病専門医にとってもその検査法を熟知しておくことが望まれる。また心血管死の独立した危険因子である心肥大の有無を常に念頭に置く必要がある。糖尿病における心肥大は冠動脈硬化による心筋傷害からのみでなく、合併する高血圧症や腎不全にも起因して生ずるからである。さらにアテローム血栓性脳梗塞の直接原因となる頚動脈や大動脈弓部の血管病変の検査法も知っておきたい。 生理検査の基本は心電図と心臓超音波検査である。心電図には安静12誘導心電図の他に、運動負荷心電図とホルター心電図がある。超音波検査は、レポートも付いてくるし形態や流速がひと目で分かり直感的で理解し易い。一方、古典的な検査法である心電図の解釈にはある程度の知識が必要であり、自動解析の結果のみに頼ると重要な情報を失うことも多い。本講演では、心電図については実戦で役立つ判読のポイントを簡潔に述べる。心臓(血管)超音波検査ではルーチン検査に加え、最近臨床応用された方法も実例を提示して解説する。 心電図:肥大、心筋虚血・梗塞、不整脈等を診断する。肥大はQRS波のみでなくST部、T波、U波にも目を向けると診断精度が向上する。心内膜下虚血では虚血型ST低下(水平型、下行傾斜型)が、貫壁性虚血ではST上昇が見られる。ST上昇部位は虚血部位との対応がみられるが、ST低下はV5誘導を中心として出現し、虚血部位の同定は困難である。一方、陰性U波、陰性T波は虚血部位の診断に有用である。運動負荷心電図は狭心症の診断目的で通常トレッドミルにて行われる。虚血反応が陰性でも運動障害等により目標心拍数に到達していない場合は慎重に評価する必要がある。ホルター心電図では合併する致死性心室性不整脈の診断に有用で、心拍変動解析により自律神経障害の診断の参考となる。心臓血管超音波:心拡大、肥大等の直接診断が可能である。心筋虚血時には収縮末期の壁厚増加の程度が減少する。慢性の心筋梗塞では壁の菲薄化や瘢痕形成がみられる。左室駆出率は収縮能の指標となる。頚動脈の観察は体表から可能であるが、大動脈弓部の血管病変は経食道検査が不可欠である。 これらの検査は糖尿病専門医が必ずしも直接行う必要はなく、得られた結果を総合的に判定する能力を持つことが肝要と思われる。
  • 吉村 道博
    セッションID: AL-7
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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     1984年に心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)がMatsuo・Kangawaによって発見されてから20年が経過した。BNPとCNPも同グループから相次いで発見され、現在、この分野の研究は確実に発展し続けている。 ‘治療薬としてのANP’は世界中で日本が最初に着手しているが、急性心不全治療のおける同薬剤の位置付けは今や確固たるものとなった。一方、BNPは、心不全の診断の世界を根底から変えつつあると言っても過言ではない。それは、単に「BNPが臨床的な心不全のマーカーである」と言うことのみならず、「そもそも不全心から何故ホルモンが分泌されるのか」、そして「心臓は単にポンプではなかったのか」といった心臓および心不全の根本的な議論を呼び起こしているからである。 心不全の病態には血行動態の悪化のみでは説明が付かなかった現象が山積していたが、BNPにてその多くが説明できるようになった。一般的には、心機能の低下がそのまま心不全の病態(状態)と勘違いされがちであるが、実際には同じように心機能が低下していても日常生活を送れる方もいれば、CCUにて生命の危機に瀕している方もおられる。つまり、心不全の病態で重要な点は、見かけの心機能低下だけではなく、心機能低下を代償する機構の機能不全(過剰の働き)にある。特に神経体液性因子の関与は大きいと言える。心機能低下に伴う血圧の低下を防ぐ為にはRAA系の活性化は極めて重要な機構であるが、心不全ではその過剰の活性化が逆に問題となる。RAA系の過剰の活性化が心不全の悪循環を生じさせることは周知の事実であろう。それに孤軍奮闘するのがANP, BNPであり、その種々の作用でRAA系の行き過ぎを抑制しようとする。NPがなければ心不全が進むことはANP, BNPのKOマウスでも証明されている。つまり、NPは心不全の病態そのものの理解につながることを強調したい。 BNPは心不全の重要マーカーであり、その臨床応用は大変な勢いで進んでいる。BNPは心不全の重症度判定や薬効評価に有用であろう。また、検診などの心不全にスクリーニングや予後判定にも使える。しかしながら今後検討しなければならない問題は山積している。心不全の基礎疾患でBNPがどのように変化するのか未だ検討不足であり、年齢とBNPの関係や心不全としてのカットオフ値などの設定についても確固たる指針はない。 ANP, BNPは日本で発見され、日本で発展してきた類稀なホルモンである。今後ともこの分野の研究は日本が世界をリードすべきであり、多くの臨床研究者が参入されることが望まれる。糖尿病の分野においても然りであり、糖尿病とナトリウム利尿ペプチドの研究およびその臨床応用はこれからの大きな課題である。
  • 北島 勲
    セッションID: AL-8
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    糖尿病における血栓症の病因として血管内皮細胞(EC)機能障害が重要である。ECは本来“抗血栓”であるが活性化ECは“向血栓”を示す。トロンビンのトロンボモジュリン(TM)結合部位は活性中心外側にあり、この部位はTRの結合部位でもある。相反する作用がEC上で競合することで説明ができる。非活性化EC上ではTMは5万分子、TRは数千分子存在する。しかし、高血糖下や糖化蛋白、変性脂質によりECが活性化されると、TMはEC上から減少しTR発現が上昇、さらに転写因子NF-kappaB活性化を介した組織因子発現が生じ、糖尿病の易血栓性の病因となる。凝固分子マーカーとして、トロンビン・アンチトロンビン複合体、プロトロンビンフラグメント1+2、フィブリノペプタイドA(FPA)、D_-_ダイマーなどが利用されている。しかし、いずれも急性期に生成される血栓量を直接反映している訳ではない。安定化フィブリン形成にはトロンビンの作用でフィブリノゲン(Fbg)からFPAやFPBが遊離し、フィブリンモノマー(FM)が生成される。FMはそれ自体が重合した複合体(FMC)やFbgと結合した可溶性フィブリン(SF)として血液中を循環している。このFMC/SFはトロンビン活性化状態の反映とその存在が直接血栓形成の材料となるため、その定量測定は血栓症急性期の病態把握に有用になると注目されている。 われわれは、東海大学循環器内科後藤信哉博士との共同研究により、コラーゲン膜上にメパクリン標識血小板を流し、ex-vivoにおける微小血小板血栓の初期段階を解析するシステムを構築した。PE標識抗FMC抗体を反応させると血小板血栓形成初期に活性化血小板表面にSFMCが存在することを明らかにした。さらに、In vitroおよび乖離臨床検体の解析により、SFは血栓形成の超初期段階、SMCは血栓形成から線溶開始時期を反映していることを見出したのでそのSMCとSFの使い分けによる臨床的有用性について紹介したい。また、最近、貝原らは赤血球に存在する凝固第IX因子活性化酵素がX因子を活性化し、赤血球膜を足場にしたトロンビン産生機序を報告している。とくに糖尿病患者では血液凝固時間の短縮とともに第IX因子活性亢進を認め、糖尿病の易血栓性の評価に有用であるとしているので併せて紹介したい。以上、本講演では、糖尿病の易血栓性をいかに凝血学的に検査できるか議論してみたい。
  • 白井 厚治
    セッションID: AL-9
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    糖尿病の合併症の一つである心血管疾患の発症には、多くの因子が関わっているが、血清脂質異常も直接、間接に関わっている。それを理解することは、より効果のある指導あるいは的を得た投薬につながり信頼される医療を可能とする。本項では、糖尿病時のリポ蛋白代謝異常、また、一般的に測定されている脂質検査項目について、動脈硬化との関わりを中心に概説する。1.糖尿病時のリポ蛋白代謝異常糖尿病状態はいずれの高リポ蛋白血症をも増悪させる方向に働く。そして、その個人の持っている潜在的リポ蛋白異常を顕性させる。それは、一つには、脂質の吸収が亢進し、高血糖下では肝臓でリポ蛋白合成が亢進していること、くわえて中性脂肪分解酵素であるリポ蛋白リパーゼの発現はインスリン作用下にあることから低下し、異化障害が起こるためと説明される。2.糖尿病時の各脂質値の意味1)総コレステロールとLDL-コレステロール フリーとエステル型コレステロールの総和を示している。一般に、主に高LDL血症を反映しているが、高VLDL血症でも高度では高値となる。一般に血糖コントロールをよくすると改善するので、通常直ちに、高コレステロール剤を用いず、まず血糖の改善をはかる。HBA1cが1%低下すると、平均約20mg/dl―30mg/dl低下する。 LDLコレステロールは直接法で測定することが望ましい。2)中性脂肪 高中性脂肪血症は、一般にVLDL高値を反映する。と同時にレムナントの存在、加えて小粒子LDLの存在も意味する。小粒子LDLは易酸化性であることから間接的に動脈硬化促進要因となる。糖尿病時にはしばしば高度な高中性脂肪血症をきたすが、肥満、血糖コントロールが悪いことが多い。糖尿病では、レムナントの出現は、中性脂肪100mg/dl以上で見られる。ちなみに健常人では、150mg/dl以上であった。血糖コントロールでかなり改善する。3)HDL-コレステロール 一般に糖尿病では低値をとる。インスリン感受性を反映するとも言われている。糖尿病の改善で高値となる。4)リポ蛋白電気泳動ポリアクリルアミドデスク電気泳動法で血中リポ蛋白を分析すると、リポ蛋白粒子サイズの順に分離される。特に、ミドバンド(レムナント、IDLに相当)の存在、小粒子LDLの存在を容易に見ることが出来る。5)その他レムナント様リポ蛋白_-_コレステロール、Lp(a)、アポ蛋白酸化LDLなども上げられるが、これらの意味についても言及したい。
  • 阿部 康二
    セッションID: AL-10
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    糖尿病と関連した脳神経疾患としては、大脳症候群としての動脈硬化症に基づく脳梗塞や糖尿病性昏睡、低血糖脳症が有名であるが、それ以外にも糖尿病性腎症による人工透析患者に起こる透析脳症や、脊髄症候群としての糖尿病性ミエロパチー(脊髄症)や脊髄梗塞(前脊髄動脈症候群)、筋障害としての糖尿病性筋萎縮(diabetic amyotrophy)、末梢神経障害としての脳神経麻痺やポリニューロパチーなどが知られている。3大成人病の一つと言われる脳卒中は、今日では脳梗塞が多数を占めている。脳梗塞は糖尿病や高血圧、高脂血症といったいわゆる生活習慣病や心疾患などの基礎疾患を背景として発生し、有病率は日本社会の高齢化に伴って年々増加の一途を辿っている。多くの大規模スタディーによるEBMによれば、糖尿病患者の脳卒中発症リスクは約2~4倍とされている。脳梗塞急性期の画像検査としては、CTスキャンやMRIが用いられている。CTスキャンでは所謂early CT signsとして、大脳基底核や島皮質の不明瞭化、脳実質の淡低吸収域、脳溝不明瞭化、hyperdense MCA signなどが初期診断として有用とされている。一方MRIでは、脳血流画像としてのperfusion imageと脳代謝障害画像としてのdiffusion imageとの差(所謂perfusion-diffusion mismatch)が、病態把握ならびに血行再建術治療適応決定に重要とされている。近年の糖尿病患者の増大により、脊髄の梗塞(前脊髄動脈症候群)や糖尿病性ミエロパチー(脊髄症)、糖尿病性筋萎縮(diabetic amyotrophy)患者数も増えている。また糖尿病性ポリニューロパチーにおいては、特に四肢末端の末梢神経が障害されやすく所謂手袋靴下型(glove-stoking type)の感覚運動障害を来たすことが多い。さらに糖尿病治療に伴って末梢神経障害が発生したり、糖尿病を来たすことが知られているミトコンドリア脳筋症でも脳卒中様症状を来たすこともあり注意を要するところでもある。本会では以上の様な疾患の一部について脳画像を中心に解説をする。
  • 山岸 正和, 前原 晶子
    セッションID: AL-11
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    耐糖能異常を主徴とする糖尿病は、生体における微小血管、大血管系を同時に障害する背景因子として重要である。ことに、心臓、大血管系における循環障害は致死的でない場合においても、高度な機能障害の残存など、社会的にもハンディキャップを背負うことになるため、本症における血管合併症の的確な診断が肝要である。糖尿病症例での冠動脈造影所見の特徴は、1.狭窄度が高度であり、完全閉塞率が高い。2.瀰漫性かつ石灰化を伴うことが多い。3.末梢冠動脈での病変が多い、などである。しかし、血管造影では血管内腔の狭窄重症度の評価は可能であるが、血管壁での病変進展の評価が困難である。実際、血管造影上正常と判定される部位を血管内超音波(intravascular ultrasound:IVUS)で観察すると殆どの場合(90%以上)内膜増殖や粥腫など動脈硬化所見を認める。実際、患者背景との関連を多変量解析にて検討すると、粥腫量に独立して関係しているものは、糖尿病、性差、年齢、血清脂質である。IVUSでの粥腫形態を非糖尿病、1型、2型糖尿病の3群にわけて検討すると、糖尿病群では対照部位での粥腫がより大きく、瀰漫性の動脈硬化病変の発症を示唆す。興味あることに、罹病期間が10年以上、または1型糖尿病の如く病歴の長い症例においては、狭窄病変部、対照部ともに血管総面積が病歴の短い症例に比べて小さく、粥腫面積も小さいことが示された。これらは冠動脈が全長にわたり狭小化している現象と考えられ、たとえ粥腫量が少なくても血管内腔の狭窄率は高度になりえると推察される。糖尿病症例における血管形成術に際しては、かかる病変の特徴に留意する必要がある。実際、糖尿病合併症例における血管形成術は再狭窄発生率が高く、特に多枝病変を有する患者の予後は冠動脈バイパス術のほうが良好であり、治療部位の再狭窄の問題のみならず、長期の心臓死も冠動脈バイパス術群で有意に低いという。血管形成術後の再狭窄阻止のため、免疫抑制剤や抗がん剤系の薬剤をあらかじめステントに塗布し、徐々に溶出させる薬剤溶出性ステントが臨床応用されるようになったが、糖尿病における血管径が小さく病変の長い対象病変への効果が期待される。この場合においても、血管造影のみならず、IVUSを用いての病変分布の評価が効果的である。
シンポジウム:心血管疾患の進展阻止を目指して:適切な治療法選択のポイント
  • 加来 浩平
    セッションID: AS-2-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    糖尿病治療の目的は血管合併症の発症進展阻止にある。その目的達成には糖尿病を発症早期から適切に管理することはきわめて重要である。近年の大規模な疫学調査成績あるいは介入試験成績に基づくエビデンスとして、心血管疾患の進展リスクはIGTすなわち耐糖能異常の時期からすでに高まることが注目されている。現行の糖尿病診断基準(血糖値のカットポイント)が網膜症という細小血管合併症の発症を基準にしたものであり、大血管障害を念頭に置いたものではない。しかし、食後の急峻な血糖上昇(グルコーススパイク)が心血管イベントを代表とする動脈硬化性疾患と密接に関連することは、明確なエビデンスとして定着しつつある。食後高血糖は耐糖能異常者でまず最初にみられる病態であり、背景にはインスリン抵抗性に加えて食後インスリン追加分泌不全の存在が挙げられる。食後高血糖は大血管病変リスクのみならず膵β細胞オーバーワークからβ細胞機能の低下あるいは細胞数の減少まで惹起しかねない。 従って心血管疾患の進展阻止を目指した抗糖尿病薬治療としては食後高血糖の是正に加えてインスリン抵抗性をはじめとする初期病態の改善を念頭に置くべきであり、(1)食後血糖改善薬:a-グルコシダーゼ阻害薬および速効短時間型インスリン分泌促進薬、(2)インスリン抵抗性改善薬:チアゾリジン系薬剤およびビグアナイド薬があげられる。これらはすでに基礎・臨床レベルで一定のエビデンスが示されているものである。特にチアゾリジン系薬剤は2型糖尿病におけるインスリン感受性改善に加えて、脂質代謝改善効果、アディポネクチン増加作用、微量アルブミン減少などを介して直接的に動脈硬化進展阻止に働く可能性が示唆されている。現在、2型糖尿病における心血管疾患の発症進展防止への効果を検証するためPROACTIVE試験が欧州で、PROBE試験が日本で進行中である。 心血管疾患は生命予後を左右するものであり、その進展阻止は糖尿病管理上極めて重要である。そこに抗糖尿病薬が十分な役割を果たすには、(1)糖尿病発症後より早期からの介入、(2)積極的な併用療法、(3)アウトカムスタディによるさらなるエビデンスの蓄積が必須である。
  • 芳野 原
    セッションID: AS-2-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    糖尿病は虚血性心疾患の発症、進展における独立した危険因子であり、動脈硬化の進展が早く、冠動脈疾患による死亡率も高いことが知られている。また、糖尿病は二次性高脂血症発症の主たる要因と考えられており、高脂血症の合併頻度も高く、糖尿病に高脂血症が合併すると冠動脈疾患のリスクを著明に増大させる。一方、糖尿病に合併する高脂血症(コレステロール、トリグリセライドとも)の治療が優れた冠動脈疾患予防効果を示すことも明らかになっている。 通常、2型糖尿病は時間の経過とともに大血管障害の進展をもたらす。United Kingdom Prospective Diabetes Study (UKPDS) では、2型糖尿病と診断後10年の間に、患者の22_%_が心筋梗塞や脳卒中、狭心症を発症し、その1/3が、それらの合併症により死亡する。対照的に、2型糖尿病に特徴的な細小血管障害は、初期段階では少なく、臨床症状が認められるのはわずか12_%_であり、それが原因で死亡することはまれである。したがって臨床的には明らかに心血管障害の方が重大な合併症と考えるべきである。2型糖尿病におけるLDL-コレステロールの上昇とHDL-コレステロールの低下は、心血管障害のリスクの増加と強い相関関係がある。LDL-コレステロールが上昇すると、リスクは急激に増加し、その増加率は他の危険因子よりもはるかに高い。心血管障害の危険因子をCOX多変量解析で段階的に分析すると、最も影響の大きいものがやはりHDLとLDLであり、HbA1c、収縮期血圧、喫煙が続いている。これらは「死の五重奏」といわれ、非糖尿病者の危険因子とほぼ同様(HbA1c以外)である。意外にも2型糖尿病患者では、網膜症や微量アルブミン尿、インスリンは危険因子とされていない。一方、高トリグリセライド血症については、レムナントやsmall,edense LDLと関連し、最近では食後の高脂血症が危険因子としてクローズアップされている。 以上、ここでは致死的な合併症としては明らかに心血管障害の方が3大合併症よりも臨床的に重要と考えるべきことと、そのためには血清脂質とくに高LDL-、低HDL-コレステロールおよび食後高トリグリセライド血症の管理が必須であることを強調したい。
  • 浦 信行
    セッションID: AS-2-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    高血圧の薬物療法において、最も優先することは十分な降圧である。高血圧性合併症としての心血管疾患の発症頻度は血圧値にほぼ比例することから、EBMに基づいて決定された降圧目標以下に、確実な降圧を計る。その際には6種の主要降圧薬の中から使用禁忌に抵触しない薬剤であれば、種類のいかんに関わらず使用が可能である。耐糖能異常合併高血圧では、当教室の端野・壮瞥町疫学研究の成績でも130/80 mmHg 以上で心血管死亡のリスクが有意に高くなることから、とりわけ十分な降圧が必要である。単剤の治療で十分な降圧が得られない場合には併用療法となるが、薬剤間での相乗効果が期待できる組み合わせを考慮して、第二次、第三次薬を追加する。 高血圧性の臓器合併症を既に有する例に対しては、降圧目標への確実な降圧は当然であるが、加えてその臓器機能保護作用を有する薬剤の使用を優先し、少なくとも臓器機能に悪影響を及ぼさない薬剤の使用を考慮する。各臓器障害に対応して各々に臓器保護作用を示す薬剤の成績が報告されているので、これを考慮して至適薬剤を決定する。糖尿病性腎症に対する腎保護効果はレニン・アンジオテンシン系抑制薬が豊富なエビデンスを有する。この臓器保護効果についても薬剤併用の相乗効果が証明されているものがあるので、これを優先する。 高血圧患者は動脈硬化の他の危険因子を有することが多く、たとえば糖尿病の合併は正常血圧者に比較して2_-_3倍多く、また、新規の糖尿病発症も2_-_3倍多い。肥満、脂質代謝異状も併せて、各々のリスクは軽症であってもこれら危険因子が重積すると、心血管疾患の高リスク群を形成することから、メタボリック症候群として注意が喚起されている。この背景にはインスリン抵抗性/代償性高インスリン血症があることから、このインスリン抵抗性を改善する作用を有する降圧薬を優先して使用し、少なくともインスリン抵抗性を増悪させる薬剤の選択は避ける。このことは糖尿病の新規発症抑制効果にも連動すると考えられている。 シンポジウムでは、心血管疾患の進展阻止のための十分な降圧と、これに臓器合併症や他の動脈硬化の危険因子の有無を勘案した薬剤の選択、好ましい併用療法などについて述べたい。
  • 丸山 征郎
    セッションID: AS-2-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    1)on demand 型反応としての止血系:血管破綻は重篤な結果を招来するため、ヒトの身体は巧妙な止血システムを具備している。この止血反応は【凝固系】と【血小板系】によって営まれているが、この2つの系は互いに増幅しあいながら、血管破綻というイベントに緊急に応答し、まずは【止血】し、そのあと血栓を【トリミング】し、そしてその損傷部位を【修復】する。すなわち止血系は、一連の時間的スペクトラムを持った生体反応であり、これが作動するのは血管破綻の時のみに、"on demand方式"で反応する。2)ボトムアップ式の止血系: "on demand型"反応をするために、止血のコマンドは、末梢循環をくまなく巡っているセンサー役因子が出す。たとえば外因系のイニシエーター;_VII_因子は、内皮(_-_)のところに発現している組織因子と複合体を形成し、外因系をスイッチオンする。また最小の細胞である血小板は、最も血管の縁を流れることを強いられているが、それは内皮細胞が剥離し、コラーゲンが露呈されると、直ちにこれに粘着できるという知恵につながる。血小板もまたセンサー細胞なのである。このように止血系は指揮者のいるオーケストラ方式ではなく、室内楽的様式で応答する。3)糖尿病における止血系の複合異常とその対策:このように、ヒトの止血系は、血管破綻の部位(すなわち血管の無いところ)でのみ作動するようになっているが、さらに、血管内皮細胞はPGIや、NO、トロンボモデュリン(TM)などを発現し、もっと積極的に止血反応を制御している。逆にいうと、この血管内皮細胞による止血制御能が破綻すると、上記の「止血」、「血栓トリミング」、「修復」の全てのステップに異常を来たし、血栓傾向となる。その代表的疾患が糖尿病であるが、さらに糖尿病では、内皮機能不全にともなう二次的な止血異常に加えて、糖代謝異常そのものに伴う止血系の偏奇もあり、したがって、糖尿病患者の血栓予防には、糖代謝コントロールに加えて、内皮機能、凝血機能、動脈硬化、脂質異常、高血圧などを総合的に評価し、抗血小板剤、抗凝固剤など中心に複合的、重層的に対応することが重要である。
  • 中村 正
    セッションID: AS-2-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    近年、心血管疾患の発症・進展において、高血圧、耐糖能障害、高脂血症などの危険因子が集積する病態、いわゆるメタボリック症候群が注目されている。その成因基盤として、脂肪組織の過剰蓄積である肥満の存在が重要であり、特に腹腔内内臓脂肪の蓄積が密接に関与することが明らかとなっている。従って、抗肥満療法による減量、内臓脂肪量の軽減は、リスクの集積状態を根もとから一気に改善させる効果があり、適切な抗肥満療法の選択が心血管疾患の予防上きわめて重要な課題である。本シンポジウムでは、抗肥満療法としての減食療法、運動療法、薬物療法の考え方や選択時のポイントにつき解説する。 まず、減食療法では、低エネルギー食(1200から1800kcal/day)を個々の体格や活動性を目安として設定する。現体重の5から10%の体重減少を3ヶ月から半年間かけて行う、緩やかな体重減少(modest weight loss)を目標とする。わが国のメタボリック症候群患者では、BMIが30を超える高度肥満者は少なく軽度の肥満がほとんどであり、5%程度の減量が達成されリバウンドなく維持できれば充分代謝異常の改善が期待できる。その際、特に内臓脂肪量の軽減が重要であり、推定簡易指標であるウエスト径の変化に注目する必要がある。 次に、運動療法については、運動が特に内臓脂肪の軽減に有用であることを認識した上で、減食療法に併用して継続して行うことが重要である。有酸素運動を生活サイクルの中でいかに習慣づけるかが重要な鍵となる。しかし、すでに心血管疾患を合併している例では、専門医による事前の十分な心機能評価が必要である。 抗肥満療法における薬物療法の位置づけとして、常に減量中の確実な効果と減量後の体重維持を目的とした、あくまでも補助療法であることを認識すべきである。日本肥満学会では、現在、抗肥満薬の適用基準の策定を行っており、BMI≧25でかつ内臓脂肪面積≧100cm2、さらに肥満に関連する健康障害を2つ以上合併する例で、減食・運動療法を3から6ヶ月間行い、5%以上の体重減少効果が得られないものを適用とみなすことが推奨されている。
  • 谷口 郁夫
    セッションID: AS-2-6
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    冠動脈硬化症は糖尿病者の生命予後を規定する重大な合併症の一つである.我が国における糖尿病者の増加と高齢化は冠動脈疾患の罹病率の増加を意味する.また,近年メタボリックシンドロムや食後高血糖と冠動脈硬化症の進展が注目されてきている.一方,冠動脈疾患に対する血行再建術の進歩はめざましく,ステントを含むニューデバイスはPCIの安全性を高め再狭窄率を減少させたために適応を大きく拡大させた.しかし,ステント治療においても再狭窄が大きな問題であり,特に糖尿病者のステント内再狭窄率は30%以上といわれている.また,糖尿病者は多枝複雑冠動脈病変が多くPCIよりもCABGの方が長期予後が良いことが知られており糖尿病者の初回治療ではCABGが選択されることも多い.しかし,手術侵襲を考慮すると糖尿病者においても1次的血行再建にはPCIが選択されることが多いのが現状である.PCI後の再狭窄に関してバルーンのみのPCIの再狭窄は血管のリコイル,血栓,スパズムや新生内膜の増殖などが複合して起こるが,ステント内再狭窄の主因は新生内膜の増殖であり,冠動脈硬化病変への金属挿入という刺激に対する生体反応が大きく関与する.この反応には炎症・アレルギー関連物質,高血糖や凝固線溶系因子など様々なメカニズムが関与している.この新生内膜増殖を抑制するためにステントに免疫抑制薬や制癌剤をコートした薬物溶出性ステント(drug eluting stent;DES)が開発された.その臨床研究において驚異的な再狭窄率の低さが報告され再びPCIの適応が拡大されようとしている.我が国でもようやく免疫抑制薬であるシロリムスの薬物溶出性ステント(SES)が使用可能となり急速に普及している.当初,このSESは再狭窄率がゼロという劇的な結果が報告されたが糖尿病者に対する効果については不明であった.最近、糖尿病者に対するSESのサブ解析の結果が報告されステント部位の再狭窄率は10%以下であったがインスリン治療者においてステント辺縁部を含む全体の再狭率は30%との報告がある.一方,シロリムスとは別に制癌剤であるパクリタクセルでコートしたDESでは糖尿病者に対する再狭窄の結果が異なっており,糖尿病におけるステント再狭窄のメカニズムに関して興味がもたれている.いずれにしても糖尿病者では従来のステント(bare metal stent)よりもDESの方が再狭窄率は低いために使用される頻度は増加している.ひいてはPCIの適応も拡大していく可能性もあり,我が国における糖尿病者に対するDESの長期予後およびコストベネフィットを検討する必要に迫られている. 糖尿病は冠動脈疾患の高リスクであり,多枝複雑冠動脈病変のみならず無症候性心筋虚血も多く合併するために血行再建術の適応を判断することが難しい場合が多い.また,ニューデバイスの進歩は糖尿病者へのPCIの適応を拡大してきているが,透析患者やCABG後などの高リスク患者にどこまで積極的にPCIで血行再建していくか,医療経済面を含む臨床的意義が問われている.
  • 伊藤 裕
    セッションID: AS-2-7
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    糖尿病患者では、虚血性心疾患やASOにおいて、血管新生の障害が認められる。また、糖尿病の動脈硬化病変は、びまん性であり高度である。従って、進行した糖尿病性血管合併症には、血管再生療法が適応となる。血管再生には、血管の元となる“種子seed”と血管が育つ“土壌(soil)”の双方が重要である。soilを良くする治療法として、血管新生因子遺伝子治療があり、現在VEGF(vascular endothelial growth factor)やHGF(hepatic growth factor)などが用いられているが、網膜症の増悪や既存動脈硬化病変の悪化も懸念されている。また、単一の増殖因子による血管再生は、再生血管の長期維持が困難であるとの指摘もある。現在、自己骨髄血移植による血管再生療法が良好な治療効果を挙げているが、これは、骨髄血球細胞の分泌する多種類のサイトカインカクテルによる血管新生の促進によるものである。我々は、多彩な生物作用を有し、副作用の少ない血管ホルモンによる血管再生療法を行っている。すなわち、心不全治療薬に使用されているナトリウム利尿ペプチドが血管再生作用を有することを動物実験により見出し、その知見をもとにASO患者にANPの低用量持続静脈内投与を行っている。現在までに8症例に投与し、7例に明らかな症状の改善とABIの上昇を認めた。
    一方、seed側のアプローチとしては、幹細胞移植が考えられる。これまで循環血中の内皮前駆細胞(endothelial progenitor cells; EPC)移植による血管再生が実験動物レベルでは報告されている。しかし、体細胞由来前駆細胞は治療効果を生むだけの細胞数の確保が困難であり、均一の細胞の調製、品質の維持も問題となる。無限の増殖性と多分化能を有したES細胞(幹細胞)は、再生医学において魅力的なマテリアルである。我々は、マウスES細胞より血管を構成する内皮細胞と血管平滑筋細胞の双方に分化し、in vitroで血管を構築し得る、血管前駆細胞(vascular progenitor cells: VPC)を同定した。マウスES細胞ではVPCは、VEGF受容体Flk-1陽性細胞であった。我々は、ES細胞の血管再生医療への応用を目指し、サル、さらに最近ではヒトES細胞からのVPCの同定に成功した。更に、VPCから適度に分化させた内皮細胞の移植が治療効果を生むことを明らかにした。また、VPC由来の内皮細胞の体外での増幅に、血管拡張ホルモンであり、心不全、肺高血圧症患者に実験的に使用されているアドレノメデユリンが有効であることを見出した。今後、免疫学的拒絶解決のブレイクスルーがなされればES細胞は再生医療において重要な位置を占めるようになると考えられる。
  • 米満 吉和
    セッションID: AS-2-8
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
     糖尿病性下肢壊疽・潰瘍は今なお難治性疾患であり、種々の治療法に抵抗性である。糖尿病性下肢壊疽の原因は微小血管障害とそれに伴う組織還流障害、そして血管新生能の低下が示唆されているものの、その詳細な分子メカニズムは不明である。 糖尿病はこのように微小循環障害を伴う一方で、糖尿病性網膜症など過剰な血管新生が病態を増悪させるという、一見矛盾した疾患である。従ってこの矛盾を整合性を持って説明できる概念を確立し、その分子機構を明らかにすることが非常に重要であることは論を待たない。 我々はこれまで、全く新しい遺伝子導入ベクター(組換えセンダイウイルスベクター:SeV)による各種血管新生因子の生体内過剰発現系により、それぞれの血管新生因子に依存した新生血管には機能的・形態的に相違があること、組織還流能を持つ血管新生には塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF/FGF-2)の過剰発現が最も安かつ有効であり、欧米で治療遺伝子として使用されている血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は未熟な血管を誘導することを明らかにして来た。さらにFGF-2の機能性血管誘導機構として、VEGFを含めた内因性血管新生因子群の各時相における多段階的発現誘導が重要であることを明らかとし、「機能的血管新生における階層的血管新生因子発現誘導機構」の存在を提唱し、それに関与する諸因子の解析を進めている。またこの概念を中心に据えた「統合的血管新生療法」の有用性を提唱、現在SeVとFGF-2による重症虚血肢への血管新生遺伝子治療に関する臨床研究計画が、厚生科学審議会審議の最終段階に来ている。 以上のコンセプトのもと、我々はストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルマウス(STZ-DM)において、重症下肢虚血を誘導し、糖尿病状態における血管新生能の検討を行った。この過程で、我々はSTZ-DMマウス下肢が虚血に対し耐性が極めて低下しているにも関わらず、各種血管新生因子のベースラインでの発現、虚血に伴う反応、そしてFGF-2に対する反応は正常に保たれていることを明らかにした。スクリーニングによる結果、ベースライン並びに虚血誘導後に発現が低下している因子として血小板由来増殖因子(PDGF-B)を同定、STZ-DMマウス内転筋内の毛細血管には低頻度ながら周皮細胞の脱落を認めることを証明した。さらにはSTZ-DMマウスにヒトPDGF-B遺伝子を導入すると虚血耐性が回復すること、同マウスのPDGF-B発現を回復させるシグナルとしてPKCを同定した。PKC阻害剤はPDGF-B発現を回復させると共にSTZ-DMマウスの虚血耐性も回復させた。 以上から、糖尿病状態では血管新生反応が障害されているのではなく、毛細血管の構造的異常及び血管性熟過程の異常が原因であり、その中心的分子としてPKC/PDGF-Bが関与することが明らかになった。
シンポジウム:メタボリックシンドローム研究の最前線
  • 山崎 義光
    セッションID: BS-2-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    日本人冠動脈疾患患者の7~8割は、その半分強が糖尿病残りがIGT(耐糖能異常者)症例が占めている。耐糖能異常は動脈硬化(症)を起こす強い危険因子であることはいうまでもない。耐糖能異常を含めた高血圧、異脂質血症(低HDL血症、高TG血症)も動脈硬化危険因子であり、インスリン抵抗性を伴うことが多いことより、動脈硬化疾患の基礎病態としてシンドロームX、インスリン抵抗性症候群が提唱された。MRFIT研究やフラミンガム研究、本邦でのJLIT研究の結果、上述の危険因子は単独としては、強い危険因子とはなりえないが、同時に合併する症例が多く、かつこのような症例で動脈硬化症の発症が高頻度に見られることより、マルチプルリスクファクター症候群とも呼ばれている。ことに糖尿病、耐糖能異常あるいはインスリン抵抗性の存在は、その他の危険因子よりより強い動脈硬化の危険因子なりうる可能性から、WHOのメタボリック症候群の考えでは、糖代謝異常・インスリン抵抗性を必須項目としている。我々も、耐糖能異常あるいは糖尿病が他の動脈硬化危険因子より、より強く動脈硬化の進展に寄与することを認めている。動脈硬化の新たな危険因子として、慢性炎症や食後高血糖が注目されている。これらの病態は、耐糖能異常者ですでに存在し、一部は酸化ストレスの亢進を介して動脈硬化進展の主たる促進因子である血管内皮障害と密接に関係することが明かとなっている。また、異脂質血症、高血圧に酸化ストレスや、血管内皮異常も高率に見られる。糖尿病治療は患者のQOL維持を目的とするべきであり、動脈硬化に対する効果の把握は極めて重要である。スタチンは抗炎症作用を有し、食後高血糖改善薬は抗糖尿病作用は弱いが、抗動脈硬化作用は強力であることが明らかになりつつある。従って、メタボリック症候群の概念の理解が糖尿病患者の統合的な治療方針決定に重要となろう。
  • 益崎 裕章
    セッションID: BS-2-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    脂肪細胞機能からメタボリック症候群を捉えるアプローチを通して、分子病態としての“脂肪細胞におけるグルココルチコイド(アディポステロイド)作用”の意義が明らかになってきた。細胞内でグルココルチコイドを活性化する変換酵素、1型11β-hydroxysteroid dehydrogenase (11β-HSD1)はPPARγ の標的遺伝子であり、PPARγ アゴニストによって強力に抑制される(FEBS Lett.576:492, 2004)。その遺伝子発現レベルは肥満をベースにするメタボリック症候群患者の皮下脂肪組織において著明に上昇しており臍レベルCTスキャンによる内臓脂肪面積と強い正の相関を示す(京都大学医の倫理委員会 承認番号553,2004年)。11β-HSD1を脂肪細胞で過剰発現するトランスジェニックマウス(aP2-HSD1マウス)は内臓脂肪蓄積とインスリン抵抗性、高脂血症、高血圧を発症し(Science 294: 2166, 2001, J Clin Invest 112:83, 2003)、11β-HSD1ノックアウトマウスは過栄養や遺伝性肥満マウスとの交配によって誘導される肥満や代謝異常に防御的な表現型を示す(Diabetes 53: 931, 2004)。アディポステロイドの活性化がメタボリック症候群の原因、あるいは感受性亢進の要因のひとつと考えられる所以である。aP2-HSD1マウスの脂肪組織ではグルココルチコイド標的遺伝子であるレプチン、アンジオテンシノジェン、TNFα、LPLなどの発現レベルが上昇し、UCP-1やアデイポネクチンの発現レベルは著しく低下している。これらの発現プロファイルは11β-HSD1ノックアウトマウスのものと正反対であり、アディポステロイドの作用過剰によって調節異常を来たす一連の脂肪細胞遺伝子が肥満やインスリン抵抗性、脂質代謝異常、高血圧の発症・進展に関与していることが示唆される(Curr. Drug Targets Immune Endocrinol. Metab. Disord. 3:249, 2003)。アディポステロイド活性化は過栄養に対する内臓脂肪の蓄積を促進する因子として重要であり、アディポサイトカインの分泌調節異常、脂肪細胞機能異常を惹起して代謝病の重積を招く。メタボリック症候群の評価法や治療薬の開発に向けてアディポステロイドを標的とするアプローチが期待される。
  • 河田 純男
    セッションID: BS-2-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    消化器病領域では、肝炎ウイルスやHelicobacter pyloriなど感染症を基盤とした疾患の病態解明および治療に一応の目処がたった今日、生活習慣に基づく疾患研究が大きなテーマとなってきている。なかでも食習慣の変化による疾患構造の変化は著しい。いわゆるメタボリックシンドロームに伴う肝障害としては肝細胞の脂肪化が挙げられる。とりわけ脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎(NASH, non-alcoholic steatohepatitis)の発症が注目されている。このNASHからは肝硬変さらに肝細胞がんへの進展が示唆されている。欧米ではNASHにおける肝臓移植が重要な課題となっている。また、本邦で150万人とも200万人ともいわれるC型肝炎患者にみられる肝細胞の脂肪化が、線維化などの促進因子となり、インターフェロンへの抵抗性と関連し、肝硬変や肝細胞がんへの進展に強く係わっている。  肝細胞の脂肪化には、以前より内臓脂肪蓄積による門脈からのFFA流入増大など複数の要因が係わることが知られているが、adipocytokineの役割も明らかにされてきている。脂肪肝やNASH患者では内臓脂肪面積の増大を認め、血中adiponectin減少が観察されている。これらの臨床観察はadiponectinノックアウトマウスを用いた実験により一部で裏付けられている。 NASHでは肝細胞の脂肪化に加えて、好中球などの炎症細胞浸潤や線維化が出現する。脂肪肝からNASHへ進展するメカニズムは明らかでなく、その進展は必ずしも肥満の程度には依らず、促進因子として酸化ストレスの関与など複数の仮説がある。本邦ではNASHから肝硬変、肝細胞がんへと進展する症例は欧米に比較すると少数であるが、今後増加する兆しは十分にある。また、肝細胞の脂肪化はC型肝炎の進展における危険因子としても臨床上きわめて重要である。 本シンポジウムではメタボリックシンドロームの一分症である肝細胞の脂肪化による臨床像、病態についてお示し、症例によってはメタボリックシンドロームにおける肝障害が生命予後にかかわることを強調したい。
  • 野出 孝一
    セッションID: BS-2-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    循環器領域で問題となっている急性冠症候群は、血管内膜に形成された不安定プラークの破綻、血栓形成、血管内腔の閉塞が重要な疾患原因となっている。プラークの形成には糖尿病、高血圧、高脂血症などの動脈硬化の危険因子が関わっており、これらが血管内皮細胞を障害することによりプラーク形成が促進される。その際、炎症性細胞が活性化されることもプラーク形成に大きな役割を果たしており、心血管イベントの独立した因子として血中CRP値が高いことが指摘されている。 血管内皮細胞の機能には内皮由来のNO、EDHF(内皮由来過分極因子)による平滑筋の弛緩作用、血管拡張がある。内皮機能が良好であれば、接着分子は発現せず、単球の接着も起こらない。また線溶系においてもt_-_PAが生産され、PAI_-_1などの血栓形成に働く因子の産生は低下している。ところが血管内皮細胞に酸化ストレスが加わるとNO、EDHF等の産生低下により血管が収縮し、接着分子の増加から単球の接着が起こり、血栓形成へと進む。このように血管内皮機能が炎症を規定していることから、血管内皮・平滑筋の機能不全を「血管不全」と捉えて疾患との関連を見て行きたい。 血管不全の危険因子として糖尿病が重要視されるが、糖尿病発症前または発症早期の病態の特徴である食後高血糖も、活性酸素の産生を亢進し血管内皮細胞への酸化ストレスを増大させる。過剰な活性酸素の産生を亢進し血管内皮細胞への酸化ストレスを増大させる。過剰な活性酸素は酸化LDLを増やし、マクロファージによる貧食から不安定プラーク形成を促す。そのため、食後高血糖が繰り返されることによる血管不全の発生から心血管イベントの発症が懸念される。 欧州で行われたDECODE studyでは、空腹時血糖値が正常でも経口ブドウ糖負荷試験2時間値が140~200mg/dLの境界型の段階から心血管イベントによる死亡リスクが上昇していることが判明し、食後高血糖コントロールの重要性が示唆されている。 軽症2型糖尿病の食後高血糖抑制に有用なナテグリニドやα_-_グルコシターゼ阻害薬を用い、血管内皮機能に及ぼす影響を試験したところ、血流依存性弛緩反応の改善、接着因子のVCAM_-_1濃度および高感度CRP濃度の有意な低下を認め、食後高血糖のコントロールが血管不全の予防に有効であるという成績を得ている。 EDHFの候補因子であるEETが膵β細胞でGPR40受容体を介してインスリン分泌を促進することも明らかになり、血管内皮と糖尿病発症の関係も注目されている。 本講演では、血管不全の予防・治療が心血管イベント発症の抑制に重要という観点から、糖尿病と血管不全、食後高血糖治療の意義を明らかにしたい。
シンポジウム:糖尿病の民間療法にいかに対処していくか
  • 相磯 嘉孝
    セッションID: BS-3-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    民間療法とは、医療機関で指示された治療以外に、患者自身が糖尿病に良いと考えて自由選択したすべての行為と考えられるが、最近の社会状況の変化によって、いわゆる民間療法と呼ばれるものの定義・位置づけは次第に難しくなってきている。坪井は2000年、北海道から沖縄まで29の医療機関でのアンケートによる「民間療法の実態調査」(5221名)では、糖尿病に対する民間療法体験率は現在:19%、過去:23%と報告している。さらに民間療法を行った動機については、家族、知人の勧めが62%、新聞、雑誌、テレビ等が29%となっている。また、宮川は、西東京地域の8医療機関に延べ348名の糖尿病患者での民間療法のアンケートによれば、使用した動機は、1.血糖降下作用を期待(38.7%)、以下 2.健康増進 3.糖尿病を改善させる 4.合併症の症状を緩和 5.苦しい食事療法や薬物療法から逃れたい(7.6%)と報告している。そして、50%以上は使用期間1ヶ月から12ヵ月と短く、52.5%が効果なしと判断し、比較的短期間に中止していた。しかし35%の患者が一時的にしろ効果があったという結果であった。陣内は、3つの医療機関2596例でのアンケート調査で、実施者の年代分布では40歳から60歳:26.3%、61歳以上では22.6%。さらに民間療法で使った費用は、月額1000円から5000円で154例(40%)、次いで1万円以上が114例(29.6%)。20万円から50万円も支払っている例も数件あったとしている。さて、民間療法の種類は100種類以上であるが、あいそ内科での550人の糖尿病患者の民間療法に関するアンケート調査では6種類以上の民間療法を現在、過去に次々行っている人は約25%も存在し、中には20種類もの民間療法を次々に行っている患者もいた。使用例数の多い10項目として、クロレラ、カイアポイモ、ギムネマ茶、タラの木、イオン水、プルーン、ローヤルゼリー、グァバ茶、ドクダミ茶、酢(大豆とか卵)であった。民間療法の最近の傾向としては、日本古来より民間に伝承されたものや漢方薬に加えて、東南アジアや南アフリカなどの熱帯地方の長寿地域とされる所にある植物などを原料としたものが多い。民間療法の背景にはさまざまな要因が潜在しており、患者教育も一筋縄ではいかない。医療チームは、民間療法の克服のためにきめ細かなチーム医療を行う必要があろう。
  • 山下 滋雄
    セッションID: BS-3-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    糖尿病治療のための民間療法には、1.体重減少を目的とするもの、2.血糖上昇を抑える目的のもの、3.血糖降下を目的とするもの、4.その他のものに分類して考えることができる。1.体重減少を目的とする民間療法には、いわゆるダイエット法や、「やせ薬」と称せられるものなどがある。ダイエットに関する民間療法には、特定の食品に偏った摂食を薦めるものがあり、医師の指導する食事療法に反する場合があるので、実行しないようにしなければならない。またいわゆる「やせ薬」には、甲状腺末などの薬品が混入している場合もあり、健康被害を生じた例もある。2.血糖上昇を抑制する効能をうたっているものには、茶飲料などがあるが、医師の処方している内服薬と同じ効能を持っている成分を含む場合があり、併用した場合の相乗効果に注意を向けるべきである。3.個人で入手できる漢方薬などの中には、SU剤を混入していて低血糖を生じた事例もあり、成分のはっきりしないものは薦められない。 また、糖尿病は1型・2型・その他特定の型および妊娠糖尿病の4つの病型に分類され、それぞれに正常状態からインスリン依存状態までの病期が想定されている。治療法は各病期で異なり、一人の患者さんにつき同じ治療法が継続されたまま変更されず、血糖コントロールも変動しないということは、ほとんどあり得ないといってよい。糖尿病の病歴の中で、食生活が改善されたり運動療法が功を奏したり、体重減少に成功したりすることにより、糖尿病領域にあった人が正常領域に戻ることはしばしば経験されるところではあるが、そこに民間療法がどれだけ実質的な関与をしたかは、科学的に証明されていないことが多い。特に、1型をはじめどの病型においても、インスリン依存状態の場合には、ほぼインスリン治療以外に手だてはなく、健康食品や民間療法、漢方薬等では病態の改善は望めないどころか生命の危険にさらされることすらある。 これら民間療法の開始を相談された場合、糖尿病治療の原則である食事療法と運動療法を阻害しないものに限り許可すべきであり、薬物については併用はできるだけ避けるべきである。また、民間療法との併用について、患者の側から正直に医師に相談できるよう、診察時のコミュニケーションを良好に保つことが肝要である。
  • 久保田 睦子
    セッションID: BS-3-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
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    民間療法は多くの糖尿病患者が利用している。糖尿病患者の42%が民間療法を現在行っているもしくは体験があるという報告(坪井,2000)や何らかの健康法、民間療法を利用している、過去に利用していた者が79.3%いるという報告(1999,森)がある。その目的は血糖降下を期待したもの、健康増進などである。(1999,森;2000,坪井)
    糖尿病患者が民間療法を行っているという話しは、日頃よく耳にする。実際に外来でも「○○茶を飲んでいる。」「海外で購入した糖尿病に効くという薬を飲んでいる。」等、患者から聞くことがある。このような患者に対しては、民間療法を即座に否定するのではなく、利用している理由をよく聴き、害があると思われるものについては情報提供し、次回持参してもらうように話している。また害のないものでは、それが他の療養法にどの程度影響を及ぼしているかを確認しながら、アドバイスをするようにしている。
    このように私自身は民間療法に対して、患者から話された時に対応するという程度であったが、今回このテーマを与えられたことをきっかけに、民間療法に関する看護師の役割について考えてみた。ひとつには、健康被害から患者を守るという役割があるのではないだろうか。グリクラジドや甲状腺末、下剤等を添加している食品類や、医師による治療を中断して行っている場合などがあるからである。患者に接することが多い看護師が情報源となる必要がある。もうひとつは、民間療法もセルフケア行動の一環としてとらえ、食事、運動、薬物といった療養法との並立を患者が実践できるように支援することである。前述のように、現実に民間療法の利用者は多く、一概に否定することは患者との信頼関係を損ね、その後の療養に影響を及ぼすことになる。また民間療法を行っている理由も、より健康になりたい、病気を良くしたいという気持ちからであり、看護師はそれを大事にしながら、患者が糖尿病治療への影響を理解し、自己決定できるように援助することが重要なのではないだろうか。
    シンポジウムでは、面接調査や事例を紹介しながら私の意見を述べさせていただき、参加者の方々からも看護師の役割についてご提言・ご意見を伺いたい。
  • 中野 玲子
    セッションID: BS-3-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
     現在のように「マスメディア」が私達の生活に大きく関与していくなか、健康食品、健康茶などが注目されブームなっていることはいうまでもない。その中でも生活習慣病、特に糖尿病に関連したものが非常に多く見かけられる。糖尿病は患者自身が血糖をはじめとした自己管理を行なっていることから、病院での治療以外に日常生活で容易に入手出来る民間療法に興味を抱き、試したい気持ちも理解出来る。しかし、容易に入手できる割には危険なものもあり、実際に中国から個人輸入した薬を服用し、低血糖を起こして死亡した事例も報告されている。このような危険を回避するためにも、薬剤師は民間療法を適切なものへと指導していく役割を果たす必要がある。そのためには、患者が実施している民間療法を医療従事者に気軽に相談できる環境を作ることが重要である。 当院では糖尿病教室を利用し、薬剤師が民間療法に関する利点・欠点などを定期的に患者に講義し、服薬指導の中で個別に民間療法の聞き取りや調査も行なっている。それによると民間療法を行なっている患者の大多数は血糖値に影響を及ぼしてはいないようだったが、成分を気にせずに多くは使用していた。個々の商品につき成分の調査を行なったが、不明な点も多く、製造元に問い合わせると成分は開示できないとの回答や、資料請求をしても資料が届かない場合もあった。 院外処方率が進んでいる中、外来患者に対して病院薬剤師が指導をする機会が少なくなっている。そこで、我々は近隣の開局薬局と勉強会を開催し、民間療法は医師に相談してから始めるなど、お互いの患者指導に共通点を持たすようにしている。また、院内のロビーに民間療法に関する自作パンフレットを置き注意を促している。このような活動によって、実際に海外で購入した民間薬で予想外に血糖が下がり、低血糖につながる可能性があるため、すぐに服用を中止してもらった症例もあった。 容易に血糖を下げたいなどと考えて民間療法を開始する患者に対し、民間療法は危険が伴うこともあり得ることを伝えるように、我々薬剤師は患者が気軽に相談できる環境作りに注力する必要があると考える。
  • 川下 祐喜子
    セッションID: BS-3-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    今回、当院の糖尿病センターに通院中の糖尿病患者に、民間療法(病院の治療以外に糖尿病に良いと世間でいわれていること)に関するアンケート調査を実施した。調査から1ヶ月経った現在まで集計したところ、全体の約2割が民間療法を今現在行っており、約2割が過去に経験があり、約6割がまったく試したことがないことがわかった。日々の栄養指導の中で、糖尿病に良いと思って使用している食品の話をよく耳にするにもかかわらず、約半数以上が民間療法をまったく試したことがないとは少々意外な結果であった。主治医が現在・過去において民間療法を行っていることを知っているかという質問では、「知らない」が全体の約8割を占めており、主治医に話していない理由は「特に話す必要がないと思った」「効果があらわれてから話すつもりでいた」が約9割を占めていた。ここまでの傾向から考えられることは、ひとつは民間療法の枠に入る食品やその使用方法の認識が、療養指導者と患者の間でズレがあるのではないかということ。もうひとつは、療養指導者側から民間療法の話題に触れて、経験の有無の確認や、経験者からは種類・使用方法の聞き取りを行うなど実態の把握が重要ではないかということである。これからは、民間療法といえども、患者が注目している品の情報をいち早く収集して、正しい選び方や使用方法について患者に情報提供し、患者自身が納得のいく食事療法を進めていけるようサポートしていく必要がある。
Off Line Discussion -2
  • 木村 健一
    セッションID: O-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    【症例】48歳女性【当院初診までの経過】1985年(30歳)頃から尿糖を指摘。1988年青森県立中央病院循環器内科にて糖尿病と診断され、SU薬治療がなされた。コントロール不良にて1990年4月同内分泌内科紹介、コントロール目的で1回目入院。IRI 9 μU/ml、IRG 115 pg/ml、尿CPR 56~109 μg/日でNIDDMとしてDM食17単位、glibenclamide 5mg/日で良好のコントロールとなる。入院中に不妊と強い白内障を認め、CPK上昇(MM型96 %)とmyotoniaにより、筋緊張性ジストロフィー(MD)と診断された。家系調査にて母、伯母、祖父に同病あり、常染色体優性のMDが判明した。外来経過で血糖コントロールが不良(HbA1c11.8~13.9 %)で1992年4月の2回目入院、インスリン治療(ペンフィルN18-0-0)となった。以後徐々にインスリン増量、ペンフィルN 54U/日でもHbA1c10~12%のため3回目入院。尿CPR17~30 μg/日、抗GAD抗体陰性、血CPR0.4 ng/ml。DM食16単位とペンフィルN 38-0-18にて良好となる。網膜症なし、腎症1期。以後再びコントロール悪化し4回目入院。尿CPR 1~3 μg/日、グルカゴン負荷Δ6CPR 0.5 ng/ml、ノボレットN 44-0-22で良好のコントロールが得られた。入院中軽労作、睡眠中の胸痛を訴え、循環器内科で心カテ精査により不安定狭心症と診断され、合計3回のPTCA(stentingとcutting baloon)がなされた。以後徐々にインスリン増量となり、ノボレットN 50-0-26でもHbA1cは10%前後で推移した。【当院での経過】1999年2月、当院に紹介された。身長153.7cm、体重67.6kg、BMI 28.6、体脂肪率38.9%。HbA1c 9.8%、FPG 121 mg/dl、TC 182、HDL-C 29、TG 285 mg/dl、GOT 47、GPT 43、γGTP 142、CPK 158 IU/L。食後血CPR 0.3~0.7 ng/ml、抗GAD抗体陰性。合併症はSDR、尿アルブミン98.3~233.8 mg/g.Crと腎症2期。DM食16単位の徹底とインスリン増量、混合製剤への変更など、種々のインスリン調節にもかかわらずHbA1c9.2~10.3%にて推移した。2002年2月よりある対策を講じ、現在はヒューマカート3/7;32-0-18でHbA1c5.9~6.4%と良好になった。
  • 増田 光男, 大川 正臣
    セッションID: O-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    症例は76歳、男性。40歳頃から肝障害を指摘されていた。平成10年8月食道靜脈瘤のEISとS3、S8の肝細胞癌(HCC)にPEIT施行。平成13年7月S5にRFA施行。平成13年12月S3のHCCを部分切除。平成14年6月S6-7のHCCにRFAとS4HCCにTAE施行。糖尿病に対しインスリン治療開始。平成15年7月肝性脳症。平成15年8月血糖コントロール不良のため当科に紹介となる。HCCの広範な再発あり、TAE、RFAでのコントロールも不能な状態で、以後も肝性脳症を繰り返す。血糖コントロール不良(ノボリン30Rインスリン42-0-12単位使用で食後2時間血糖456mg/dl)のため平成16年7月入院となる。身長160cm、体重50kg、入院時FPG212mg/dl、HbA1C9.2%、グリコアルブミン50.9%、インスリン抗体(インスリン結合率95.8%、総インスリン840μU/ml、遊離インスリン89μU/ml)、AST54U/L、ALT44U/L、ALP502U/L、T-Bil1.78mg/dl、D-Bil1.25mg/dl、γ-GTP96U/L、TP7.2mg/dl、Alb2.8mg/dl、速効型インスリンの持続靜注、超速効型インスリン、持続型糖尿病溶解インスリン、ピオグリタゾンン併用など試みているが、血糖コントロール不良(食前血糖300から_400mg/dl台)が続いている。現在インスリン投与総量は1日500単位以上。大量のインスリン投与でも血糖コントロールが改善しない1症例を提示したい。
  • 杉山 和彦
    セッションID: O-6
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    提示する症例は46歳の女性である。母親も糖尿病、脳梗塞後遺症で静養中で患者が世話をしていた。平成11年頃に糖尿病を指摘され某総合病院に通院していた。詳細は不明だが、空腹時血糖100mg/dl程度でHbA1cも高くなかったという。高血圧症では薬物治療も受けており、一時血圧が30mmHgまで下がり急性腎不全になり入院した。その後平成13年頃から通院を中断していた。 平成16年4月陰部掻痒感があり婦人科に受診し、カンジダ症と診断された。その際尿糖を指摘され当科に紹介された。当時口渇が強くビールを多飲していた。 4月19日初診時、食後2.5時間血糖291mg/dl、HbA1c 11.5%、血圧170/110mmHg、TC 245mg/dlとコントロール不良の糖尿病、高血圧症、高脂血症があり入院治療とした。身長154cm体重66.3kg BMI27.6と肥満を認め糖尿病食1200kcalとした。コントロール不良の期間が長かったと思われ、厳格な血糖コントロールは避け、降圧薬も徐々に増量した。しかし、血圧、血糖の変動が大きく、めまい、頭痛、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛、倦怠感が繰り返し出現し、食事量が一定しなかった。 高血圧症に関しては、循環器科の専門医にコンサルトし助言を受けたものの、血圧は150~210/80~110mmHgと不安定であった。二次性高血圧を疑い諸検査を施行した。ホルモン検査でクッシング症候群は否定的であった。MIBGシンチを施行したが褐色細胞種は否定的であった。頭部、腹部CTでも下垂体腫瘍や副腎腫瘍は認めなかった。レニン活性6.2ng/ml/hrと高値であったが、ディオバンを内服中で正確な評価はできなかった。 動脈硬化の検査では、頚動脈エコーで両側CCA~Bifurcationにプラークが多発しており、PWVでも血管年齢は60歳代後半であった。トレッドミルでは虚血反応は陰性であった。 空腹時血糖は180~280mg/dl、夕食前血糖は160~240mg/dlであった。超速効型インスリンを食事量に合わせて注射した。糖尿病合併症については、網膜症、神経障害は認めなかったが、尿アルブミンが上昇していた。 入院も3ヶ月に及び、本人が強く自宅療養を希望したため、糖尿病と血圧のコントロールが不十分なまま7月14日退院した。7月29日受診予定であったが受診しないため、午前10時30分頃訪問看護ステーションの看護師が患者宅に電話したが、連絡は取れなかった。その看護師が患者宅を訪れ、自宅のトイレの前でズボンをおろしたままうつ伏せに倒れているところを発見した。すでに心肺停止状態であった。
レクチャー:糖尿病療養指導に必要な知識(2)
  • 石田 均
    セッションID: CL-8
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    経口血糖降下薬の治療対象となる2型糖尿病は、その病態がインスリン分泌不全とインスリン抵抗性の2つに大きく分けられる。したがって薬剤の選択には、その作用機序に基づく使い分けが必要である。1.膵β細胞からのインスリン分泌を促進する薬剤
    (a) スルフォニルウレア(SU)薬
    膵β細胞のSU受容体(SUR1)に結合し、ATP感受性K+チャネル(KATPチャネル)を閉鎖することでインスリン分泌を促進する。その作用は強力で長時間持続することから、空腹時血糖値が高い症例が対象となる。また分泌されたインスリンが効率良く作用するために、インスリン抵抗性を有さない非肥満症例に投与することが望ましい。
    (b) 速効型インスリン分泌促進薬
    この種の薬剤は化学構造にSU基を有していないにもかかわらず、膵β細胞SUR1に結合してインスリン分泌を促進する。しかしながら、その作用は短時間速効型であることから、主として食後高血糖を効率良く改善する。但し、食後の服用では作用が減弱するので注意を要する。
    2.小腸粘膜からのグルコース吸収を遅らせる薬剤
      α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)
    二糖類を単糖類に消化する酵素(α-グルコシダーゼ)の活性を阻害することで、腸管からの食後のグルコース吸収を遅延させて血糖値の上昇を抑制する。肥満を有する症例にも使用が可能であり、糖毒性の解除により膵β細胞機能やインスリン抵抗性の改善が期待される。作用機序から考えて低血糖の際にはショ糖は無効であり、グルコースの服用を要する。
    3.標的細胞でのインスリン抵抗性を改善する薬剤
    (a) ビグアナイド(BG)薬
    主に肝臓での糖新生を抑制することで空腹時血糖値を低下させる。さらに肥満を助長することなく血清脂質を改善させ、心血管イベントを抑制することが明らかにされ、臨床面から新たな評価を得ている。
    (b) チアゾリジン誘導体
    脂肪細胞に強く発現している転写因子のPPARγに結合し、前駆細胞からの分化誘導を促進してインスリン抵抗性を解除する。糖尿病早期からのインスリン抵抗性の解除は、膵β細胞機能を改善させ糖尿病の進展を防止するとともに、SU薬に対する二次無効の予防にも有用であると考えられる。しかしながら、有効例の中に体液の貯留や体重増加をきたす症例もあり注意を要する。
  • 朝倉 俊成
    セッションID: CL-9
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに インスリン療法は、患者が安全に実践・継続できるよう療養指導をすすめる必要がある。具体的には、患者の血糖を適正にコントロールするために多種の「インスリン製剤」を選択し患者のライフスタイルも考慮した処方と、患者にやさしい「インスリン注入器」を選択し安全にかつ確実な注射を実践できるよう手技を説明することである。2.インスリン製剤の種類とその説明 現在、わが国の市場に出ているインスリン製剤の種類は、インスリンの作用発現時間と持続時間によって大別されるが、患者への療養指導ではインスリンの性状(結晶など)や吸収のメカニズムなどを解説してもらう。著者らの調査(日病薬誌,39,453,2003)では、約30%の患者が注射のタイミングを守っていないとういう結果があるので、注射と食事のタイミングも含めたコンプライアンスにも注意する。説明項目は、自分の使用しているインスリンの (1) 名称、(2) 単位と注射のタイミング、(3)(容器・包装の)デザインを覚えてもらう。3.インスリン注入器の種類と特徴 現在使用されている注入器は多数あるが、カートリッジ使用型とプレフィルド型に大別され、それぞれには特徴がある。したがって、患者に合った注入器を選択することも、患者のQOLを考える上で非常に重要である。その基準は、患者の理解力、手技力、家族の協力度などである。また、注射1回の単位数や1日の総単位数も参考にする。自己注射説明の項目は、糖尿病薬物療法の基礎、インスリン製剤とその性質、注射の準備、保険点数、ペンの仕組み、操作の流れ、操作のコツと失敗例、トラブル時の対処法、注射部位、針の廃棄法、インスリン製剤の保管と交換、低血糖とその対処法、シックデー、SMBGの有効利用、生活パターンと自己注射である。4.おわりに インスリン注射の説明は、操作法だけ説明すればよいというわけには行かない。自己管理能力とセーフティマネージメント能力を高めることが患者教育での目標となる。簡単に注射ができればその方がよいが、そのために操作手順を何でも割愛してよいということではない。患者には、自分のために自分で安全に注射を行うためのノウハウを提供したい。その理由は、インスリン製剤は“劇薬”という「モノ(医薬品)」だからである。
  • 石田 俊彦
    セッションID: CL-10
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
     糖尿病患者の急性合併症では、適格な診断と迅速かつ適切な治療が要求される。その中で最も重要なものは、意識障害である。今回は意識障害で受診した症例を提示して、問題解決志向に基づいた診断過程を紹介し、それぞれの原因に対しての適切な治療指針を示す。 まずこの意識障害が、脳血管障害や心血管障害、薬物、外傷、あるいは代謝障害によるものかを鑑別しなければならない。そのあと、高血糖によるものか、低血糖によるものかを速やかに診断する。低血糖であれば、グルカゴンの静脈内注射と、ブドウ糖の静脈内投与が速やかに施行されなければならない。低血糖の原因によっては、経過観察が必要である。他方、高血糖の場合は、インスリンの作用不足に加えて、脱水による代謝障害が主たる原因なので、循環動態の管理下に速やか、かつ十分量の補液のもと少量のインスリン持続静脈内投与が行われる。 糖尿病患者が、発熱、嘔吐、下痢、食欲不振などにより血糖コントロールが乱れ、従来の治療方法や生活指導などの一時的な変更が必要とされる状態をシックデイと呼ぶ。その病態は脱水によるものが主であり、摂食不良による異化亢進でケトーシスさらにはアシドーシスも招きやすい。さらにシックデイの時には血中のインスリン拮抗ホルモンが増加していることも治療上でのポイントとなる。従って、臨床上で重要な点は、シックデイ時の病態を理解させて対処方法を充分に指導していなければ、吐き気や下痢、または食欲不振で摂食していないという理由で、低血糖を危惧して内服やインスリン注射を中止すると、ケトーシスやアシドーシスが進行し、脱水状態と相まって危険な状況に陥ることである。そのためには、外来や糖尿病教室、糖尿病教育入院などを通じて患者へのシックデイ対処方法の徹底が不可欠であり、具体的な指導内容を紹介する。
  • 山下 英俊, 山本 禎子
    セッションID: CL-11
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    糖尿病網膜症は糖尿病患者の増加とともに視力障害の原因として眼科医療における重大な問題である。高齢者に加えて比較的若い世代にも糖尿病患者が増加している。若い世代での糖尿病網膜症は重症化しやすく、治療が困難であるばかりでなく社会活動が制限され大きな問題になっている。このように糖尿病網膜症の診療では失明を防ぐだけでなくよりよい視力を障害保持できるような診療体系が求められている。この目的を達成するためには糖尿病および糖尿病網膜症の早期発見、早期治療が大切である。さらに進行した糖尿病網膜症の治療の基本は高血糖、高血圧、高脂血症など全身因子の管理をおこなうことと眼科的な治療(光凝固、硝子体手術など)のタイミングを逃さないことである。本講演は、糖尿病網膜症診療についての最新の情報を提供し、今後、糖尿病診療をおこなう内科、眼科、療養指導者などにより形成される診療のチーム形成に資することを目的とする。主に以下のような項目について解説する。1.糖尿病網膜症の病像:糖尿病に伴い網膜血管が傷害されることが基本的な病態である。血管新生の見られない非増殖網膜症と血管新生がみられる増殖網膜症に大別される。網膜症初期には血管傷害により透過性が亢進し、血液成分が漏出し、網膜出血、硬性白斑として観察される。さらに進行すると網膜血管が閉塞し、軟性白斑、網膜内細小血管異常(IRMA)、静脈形態異常を認める。(以上が非増殖網膜症)。広範囲の網膜血管床閉塞が持続すると新生血管がみられ(増殖網膜症)、硝子体出血、牽引性網膜剥離を起こし、重篤な視力障害をみる。2.糖尿病網膜症重症度分類:糖尿病患者の治療で最も大切であるのは診療中断を防ぐことである。そのためには、治療のチーム構成員が患者情報の共有することが大切である。このために必要な網膜症の国際重症度分類が提唱されたので紹介する。3.糖尿病網膜症診療における早期発見システムの構築の重要性:DCCT/EDIC、Kumamoto Study, JDCStudyなど大規模疫学研究の成果により解説する。4.糖尿病網膜症の最新の治療の紹介:現時点で眼科においておこなっているステロイド局所療法、網膜光凝固、硝子体手術について紹介する。
  • 羽田 勝計
    セッションID: CL-12
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    糖尿病の増加と共に慢性血管合併症を有する症例も増加している。特に腎症は透析療法導入原疾患の第1位であり、2003年には全導入症例の41%を占めるに至っている。この現状を打破するためには、腎症の的確な評価と治療が重要である。一方、腎症のremissionが生ずることも報告されており、remissionをめざしたより厳格な血糖・血圧・脂質の管理が求められている。 腎症の診断は比較的簡単であり、スポット尿のアルブミンとクレアチニンを同時に測定し、30 mg/gCr以上を「微量アルブミン尿」、300 mg/gCr以上を「顕性蛋白尿」と定義している。診断上の問題点は、尿アルブミンが必ずしも定期的に測定されていないこと、および腎機能(GFR)が評価されていないこと、にある。GFRは通常Ccrで評価するがこのためには時間尿を採取することが必要であり、日常診療上簡便ではない。現在、血清クレアチニン値からGFRを計算する式が数種類考案されており、これらを用いることが良いと思われる。 腎症の治療法は、1.高血糖の是正(HbA1c値6.5%未満をめざした血糖コントロール)、2.糸球体高血圧の是正(レニン‐アンジオテンシン系阻害薬の使用と血圧値130/80 mmHg未満をめざした各種降圧薬の併用療法)、3.血清脂質の管理、4.マイルドな蛋白制限食、を集約的に行うことであり、長期間目標値を達成することによりremission(寛解)、regression(退縮)が生じえることが示されている。 療養指導にあたっては、生活習慣改善(食事、運動、禁煙、等)への積極的な介入、種々の薬剤の的確な服薬指導、が極めて重要と考えられる。血糖コントロールをめざした療養指導は腎症を合併しない場合とほぼ同様であるが、腎症の場合は食塩・蛋白制限が加わってくる。腎症の診断に24時間尿の採取は必要ないが、食塩・蛋白制限を的確に指導するためには24時間尿を用いた評価が重要となる。 食塩摂取量(g/日)=Na排泄量(mEq/日)÷17 蛋白摂取量(g/日)=[UN排泄量(g/日)+0.031×体重(kg)]×6.25という式が通常用いられている。 現時点で、少なくとも顕性腎症前期まではremission、regressionが可能であることを認識し、積極的できめ細かい療養指導を行うことが今必要であると考えられる。
  • 安田 斎
    セッションID: CL-13
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    糖尿病性神経障害は多彩な臨床像を呈し、患者のQOLを大きく損なう病態である。従って、効果的な治療のためには的確な病態把握が必要である。特に自律神経障害は突然死の原因となり患者の生命予後に深く関与し、疼痛・しびれ感などは日常生活を制限する。一方、無症状でありながら神経障害を有する患者も多く、神経障害の診断には神経学的検査が必須である。さらに、日常診療で観察される糖尿病患者の神経症状は主要病型であるポリニューリパチーのみならず、糖尿病に起因するモノニューロパチーや他の原因によるモノ、ポリニューロパチーが関与している場合がある。特に頚椎症や腰椎症に起因する根神経症の関与は大きく、患者の病態把握・管理上、注意を要する。一方、ポリニューロパチーの発症・進展の予防には血糖コントロールの正常化と成因に基づいた本質的治療薬の投与が必要である。この際、神経組織の非可逆性を考慮すると早期から治療薬を投与する必要があるが、治療効果の確立した薬物は開発されていない。これまで、多くの薬物の臨床的効果が検証されてきたが、我が国で臨床応用が現実となっているのはアルドース還元酵素阻害薬のみであり治療効果も絶大ではない。現在、糖尿病性神経障害の成因は多因子が考慮され、仮説に基づき多くの治療薬が開発・検討中である。有効な薬物が開発されても何を指標に投与を開始するかのなどのコンセンサスもいまだ確立されていない。今後、診断基準と病期分類に基づく治療マニュアルの策定が待たれる。他方、患者管理の面からは対症療法も重要である。何れにしても、早期からの治療のためには、出来ればpoint of no returnを越えない時点で早期診断し治療を開始するのが望ましい。その意味でポリニューロパチーの自然史の解明が必要であり、その際、軽微な神経機能異常を検出する方法の開発と診断への応用についての検討も併せて実施する必要がある。機器を用いた糖尿病性神経障害の検査の意義には、1)神経伝導検査などのようにニューロパチーの存在を客観的に確認する。2)神経伝導検査、振動覚閾値、心拍変動係数、モノフィラメントなどのように診断基準の一環として実施する。3)瞳孔計、皮膚生検などのようにニューロパチーの早期発見のために行う、などがある。特に皮膚生検では糖尿病性神経障害の早期の病理学的所見が観察しうる。また、神経伝導検査では検出できない小径線維障害としての有痛性神経障害の診断に有用性である、などの利点がある。特に表皮に分布するのは主に無髄線維終末であり、糖尿病性も含めた有痛性神経障害で神経伝導検査では異常のない状態で形態学的異常を呈することが報告されている。本レクチュアでは糖尿病性神経障害を正しく理解していただくことを目的に置き、糖尿病性神経障害を有する糖尿病患者の療養指導において知っておくと役に立つ基本的知識のポイントを概説し、患者ケアに役立てていただきたい。
レクチャー:糖尿病療養指導に必要な知識(3)
  • 佐中 眞由実
    セッションID: CL-14
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    妊娠中の血糖管理は児の合併症を予防するために厳格に行わなければならない。妊娠中母体が高血糖の場合、胎児も高血糖となり、胎児の膵臓は肥大・ 増成し、高インスリン血症となる。高インスリン血症のため児では巨大児やheavy for dates(HFD)児、新生児低血糖、高ビリルビン血症、多血症、低カルシウム血症、呼吸障害などの合併症の頻度が高くなる。また児が成長した後にも、肥満やIGT・糖尿病となる確率が高いことが報告されており、子宮内環境を良好に保つことは重要である。 児の合併症予防のためには、朝食前空腹時100mg/dl以下、食後2時間120mg/dl以下、HbA1C6%以下、グリコアルブミン(GA)18%以下を目標に血糖コントロールを行うが、正常妊婦の血糖値は非妊娠時よりも低値であることを念頭において治療を行う。 このように厳格な血糖コントロールを達成するためには血糖自己測定はかかすことが出来ない。血糖値が変動しやすい1型糖尿病合併妊婦では各食前、各食後2時間、就寝前の1日7回の血糖自己測定を可能な限り毎日、2型糖尿病合併妊婦では朝食前と各食後2時間の1日4回の血糖自己測定を週に2-3回行い、インスリンを調節し、良好な血糖コントロールの達成を目指す。 妊娠中は妊娠時期によりインスリン感受性が異なるため、インスリン需要量は妊娠時期によって異なり、インスリン抵抗性が出現する妊娠中期以後には、血糖自己測定の結果を参考に、インスリンを的確に増量する必要がある。 近年、超速効型インスリンや持効型インスリンが使用可能となり、より良い血糖コントロールを達成するために選択できるインスリンが増えた。しかし妊娠中のインスリン選択に関しては、米国の薬剤胎児危険度分類を参考に、特にカテゴリーCに属するインスリンアスパルトやインスリングラルギンの使用には慎重な対応が必要と考えられる。
  • 河村 孝彦
    セッションID: CL-15
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    糖尿病患者は易感染性宿主(コンプロマイズドホスト)の一つにあげられ、感染症に罹患しやすいうえ、感染を併発すると遷延化、重篤化しやすい。易感染性の原因には高血糖に起因する脱水、好中球機能の低下、糖尿病性血管合併症の存在などが考えられている。糖尿病患者が感染を併発すればカテコラミンなどの拮抗ホルモンの上昇で血糖コントロールは乱れるため、シックデイとして水分、栄養の補給に加え血糖管理が必須とされる。一方、手術といった強いストレス状態でも同様に血糖コントロールは乱れ、手術の侵襲による生体防御の破綻と高血糖が相まって易感染性は一層増強する。そのため周術期の血糖管理は感染併発を始めとする術後の経過や予後に大きく影響することになる。心臓外科手術後の患者を対象とした研究で、血糖値が220mg/dlを越えた症例では約30%に感染の併発を認め、220mg/dl以下に比べその危険性が約3〜6倍に上昇するとの報告がある。このような報告もふくめ従来は周術期の血糖値が200〜220mg/dlを越えないようにすることが一般的とされていた。しかし、ICUにおいて糖尿病の有無にかかわらず、強化治療により血糖を80〜110mg/dlに管理した群では180〜200mg/dlの群に比し、術後の死亡率が有意に低下し、その原因にもなる敗血症など重篤な感染併発も約46%に低下したとの報告がなされた(N Engl J Med 345: 1359, 2001)。 さらに最近ではICUで治療をうけた多数の患者の分析から、血糖値の集中的なモニタリングを行い、血糖値が140mg/dlを越えた時点からスライディングスケールによってインスリンの投与を行い、血糖値を80〜110mg/dlにコントロールすることで死亡率、腎不全発生率、輸血の必要性などが低下、またICU在室期間の短縮も得られたとの報告がある。これらの報告はICUという特殊病態下での重症患者における血糖管理のあり方について、新たな方向付けを行うものである。しかし、一般的な周術期の血糖管理についてもより正常に近い、厳格な血糖コントロールを行うことが感染症の併発や術後経過の改善、さらには在院日数の短縮につながることは確かと言えよう。厳格な血糖管理では低血糖対策など十分な注意が必要なことは言うまでもないが、今後、周術期の血糖管理については見直される必要があるものと思われる。
  • 川村 智行
    セッションID: CL-16
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    1型糖尿病は、どの年齢でも発症する疾患である。したがってそのインスリン療法は、年齢や生活、家庭状況により本人に合った方法を選択する必要がある。近年、超速効型や持効型のインスリンが使えるようになり、その選択肢は大きく広がった。インスリン療法におけるの小児の特性A)低年齢ほど皮下でのインスリンの効果が早く現れ早く消失する傾向ある。B)食事量や運動量を決めることが困難。C)注射に伴う痛みや恐怖に対する許容能が低い。負担軽減方法を考慮する必要。D)低血糖の自覚が乏しい、予測困難。重症低血糖を起こさない工夫が必要。E)思春期はインスリン抵抗性が増加し必要インスリン量は増える。年齢別インスリン療法の多様性1.乳児期:運動量の少ない時期は持続皮下注入ポンプ(CSII)が使いやすい。ペン型注射器を用いた頻回注射の場合も、哺乳量や食事量が予測できないので超速効を用いて摂取量を確認後食後に打つことも可能。インスリンの微量調整が必要であり0.5単位刻みのペン型注射器(ノボペンデミ)の使用が便利。2.幼児期から学童低学年:注射負担の軽減のため一日2回の注射で必要十分であると考える。当科では血糖値や食事量、運動量によりペン型注射器のカートリッジ式混合製剤の数種類の中から選んで調整するという方法を用いている。朝はペンフィル10Rや20Rで夕方は40R、50Rを使うことが多い。もちろん年少でも本人が昼食前も注射できる場合は頻回注射法を行うこともある。2.学童期高学年以降:本人の能力や環境にもよるが、一般には小学校高学年から中学生になったごろから頻回注射法を導入することが多い。各食前の速効型または超速効型と眠前の中間型または持効型の組みあわせが一般的である。その他1)おやつ前の追加注射:2回法でも4回注射法でも夕方3-4時というのはちょうどインスリン切れの時間帯になる。この時間におやつは高血糖の原因になるが、おやつ前に超速効型インスリンを打つことで血糖コントロール悪化することなく自由におやつを食べられるようになる。2)CSII:近年、ポンプや注入カテーテルの改良、また超速効型インスリンとの相性などからCSIIは使いやすくなっている。当科ではレンタルシステムを用い、1型糖尿患者の約20%の患者がCSIIを行っている。その安全性は高く、適応範囲も広いものを考える。3)カーボ・カウンティング:血糖上昇は食事中炭水化物によるものであるので、インスリン量は炭水化物量により調整するという考え方。超速効と持続型を用いたインスリン療法やCSIIの場合に有効である。 以上、この講演では最新の小児期インスリン療法について概観する。
  • 今川 彰久
    セッションID: CL-17
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    2000年に著者らが報告した劇症1型糖尿病は、ケトーシスを伴って発症する日本人1型糖尿病の15-20%をしめ、糖尿病関連抗体陰性、ケトアシドーシスを伴って非常に急激に発症、発症時に著明な高血糖を認めるにもかかわらず、HbA1cは正常または軽度上昇、発症時に既に内因性インスリン分泌は枯渇、発症時に血中膵外分泌酵素が上昇といった臨床的特徴を有する疾患である。さらに、日本糖尿病学会による全国調査により、高頻度の先行症状、高頻度の妊娠合併、HLA-DR4との関連といった新たな特徴が明らかになった。そのβ細胞傷害機構は不明であるが、ウイルス感染の関与が示唆されている。
     また、疫学調査結果に基づき、劇症1型糖尿病を見落とさないための新しい「スクリーニング基準」と、劇症1型糖尿病を確実に診断するための「診断基準」が作成された。すべての医療関係者は、糖尿病の中にこのような急激な経過をたどるサブタイプが存在することを認識し、1)糖尿病症状発現後1週間前後以内でケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥っており、かつ、2)初診時の(随時)血糖値が288mg/dl (16.0mmol/l) 以上である症例については、劇症1型糖尿病を強く疑い、直ちに精査加療を行う必要がある。
  • 丸山 太郎
    セッションID: CL-18
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
     糖尿病は成因により、1型糖尿病と2型糖尿病に大別される.1型糖尿病は臨床像によって、さらに、劇症1型糖尿病、急性発症典型例、緩徐進行1型糖尿病に亜分類される.緩徐進行1型糖尿病(slowly progressive IDDM;SPIDDM)は我が国の小林によって確立された疾患概念で、発症時にはインスリン療法を必要とせず、2型糖尿病の臨床像を示すが、膵島細胞抗体(ICA)やGAD65抗体が持続陽性で、経過とともに内因性インスリン分泌の低下をきたし、インスリン依存状態へ進行する1型糖尿病を指す.インスリン依存状態に進行したSPIDDMは重篤な糖尿病性合併症を併発することが多く、予後も不良のことが多い.一方、SPIDDMを早期に適切に診断して治療すれば、膵島破壊の進行を抑制することが可能で、いつまでも良好なコントロールを維持することができ、合併症を起こすことなく、高いQOLを維持しつつ、人生を全うできる.SPIDDMを早期に診断して適切な治療を行うことはきわめて重要と言える. SPIDDMの診断にはGAD65抗体の測定がなにより重要であるが、陽性であっても全てがSPIDDMとは限らない.私たちの成績では抗体価が10U/ml以上であることが重要であり、これに加えて、年令やHLA、C-ペプチドの経過などが参考になる. SPIDDMの治療にはスルフォニル尿素薬(SU薬)を用いるべきではなく、早期よりインスリンを使用する.私たちは、1994年より、SPIDDM患者にSU薬とインスリンを投与して経過を調べる前向き研究(Tokyo study)を行ってきた.その結果、SU薬投与群に比べ、インスリン投与群では膵島ベータ細胞の破壊が緩やかであること、すなわち、インスリンによって膵島ベータ細胞破壊が抑制されることが確認された. 本講演では、SPIDDMの概念、診断、治療について、最先端の考え方をわかりやすく概解説する.
  • 須田 俊宏
    セッションID: CL-19
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    二次性糖尿病をきたす内分泌疾患の中で代表的な疾患としてクッシング症候群と先端巨大症があげられる。これらは疾患群による糖尿病の原因ししてインスリン抵抗性がある。次いで代謝の亢進から耐糖能異常をきたしやすい疾患群として甲状腺機能亢進症や褐色細胞腫がある。これら疾患群はそれぞれの疾患の原因を取り除けば糖尿病も改善する。一方小児科領域からでは、視床下部性肥満からの耐糖能異常をきたすものとしてPrader -Willi症候群などがあり、さらに婦人科領域からは多発性卵胞症候群(PCOS)が問題となる。これら疾患群はコンプライアンスの問題もあり、治療に抵抗性を示すことが多い。また基本的には内分泌領域外だがステロイド治療による医原性クッシング様症候群は、インスリン療法の適応となり、症例数の点からも無視できない。これら古典的な疾患群は最近診断基準や新しく概念が変わったものもあり、さらに最近話題になっている疾患群についても現況を報告する。
  • 後藤田 貴也
    セッションID: CL-20
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    糖尿病の多くは複数の遺伝因子の組み合わせ(体質)と環境因子との相互作用のもとに発症する多因子性疾患であり、2型糖尿病はその代表といえる。遺伝因子の存在は、同胞に2型糖尿病患者をもつ者ではそうでない者に比べて2型糖尿病の発症リスクが3.5倍程度高いことなどから示されている。2型糖尿病の遺伝因子の同定は長い間「遺伝学者の悪夢」と形容される程困難を極めたが、ここ数年間の進歩によりその発症に関わる遺伝因子の大まかな枠組みが明らかになってきた。すなわち、罹患同胞対を用いた多数のゲノムワイド連鎖解析の結果、大多数の報告によって連鎖が支持される染色体領域は見当たらず、2型糖尿病の発症に決定的な役割を果たす遺伝子(major gene)は存在しないものと考えられている。むしろ、インスリンの分泌や感受性に影響を与えうる多数の疾患感受性遺伝子の軽微な変異や多型の蓄積が、各々の遺伝子間や環境因子との間で相互作用を及ぼしながら、徐々に糖代謝に破綻をきたして2型糖尿病の発症に至るというシェーマが浮かび上がっている。一方で、幾つかの比較的稀な単一遺伝子型の糖尿病の原因遺伝子が明らかにされている。例えば、ミトコンドリア遺伝子の変異では、母系遺伝する糖尿病と感音性難聴が特徴的であり、日本人の糖尿病の1%程度を占めるといわれている。また、MODYは、常染色体優性遺伝形式をとるインスリン分泌低下を主徴とした若年発症型の糖尿病であるが、MODYの1~6に対する原因遺伝子が明らかにされている。その他にも、高率に糖尿病を伴う、肥満や脂肪萎縮に関連した遺伝病の原因遺伝子も幾つか知られている。臨床上、これらの特殊な糖尿病に遭遇する機会は多くはないが、それらに関する知見は一般的な糖尿病の病態や成因を理解する上で重要な情報を与えてくれる。本レクチャーでは、一般的な糖尿病の発症に関わる遺伝因子と、幾つかの比較的稀な単一遺伝子型糖尿病の原因遺伝子に関するこれまでの知見をレビューして述べる。
レクチャー:糖尿病の成因と病態の解明に関する研究の進歩(2)
  • 島野 仁
    セッションID: DL-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
     従来より、脂肪毒性仮説として、脂肪酸の過剰やトリグリセリドの蓄積状態が、インスリン分泌障害やインスリン抵抗性に関連していることが知られている。 SREBP-1cは、肝臓において脂肪酸、トリグリセリドの合成を支配する転写因子である。インスリン抵抗性モデル動物において、肝臓のSREBP-1cの活性化が報告されており、糖インスリン作用への影響が示唆されている。 我々は、メタボリックシンドローム病態形成におけるSREBP-1cの関与の検討を発生工学動物を用いて展開している。メタボリックシンドロームのモデル動物作製:肝臓SREBP-1cトランスジェニック/LDLR欠損マウスこのダブルミュータントマウスは、SREBP-1cの過剰発現により、血中トリグリセリド、レムナントリポタンパクの上昇、HDLコレステロールの低下、脂肪肝などメタボリックシンドロームの特徴を呈していた。このマウスでは、大動脈部にアテローマを自然発症した。SREBP-1cによる肝臓インスリン抵抗性:アデノウイルスを用いて肝臓や肝初代細胞に、SREBPを過剰発現すると、IRS-2の発現が低下し、PI3K/Aktリン酸化カスケードが抑制されインスリン感受性が低下した。プロモーター解析により、SREBPがIRS-2プロモーターに直接結合し、今回新たに同定したIRS-2の活性化因子Foxoとの拮抗阻害を起こしIRS2発現が抑制されることが示された。したがって、SREBPが直接肝臓のインスリン抵抗性を惹起させることが示された。 SREBP-1cによるインスリン分泌障害:インスリンプロモーターを用いてSREBP-1cをβ細胞に特異的に過剰発現させたマウスでは、糖負荷試験においてインスリン分泌能が低下し耐糖能異常を示した。単離したラ氏島は、トリグリセリドが蓄積し、サイズ、数とも減少していた。PDX1の発現低下やUCP2の発現亢進を認め、糖刺激性インスリン分泌の低下を認めた。  このように内因性脂肪酸合成転写因子が、インスリン作用への障害を引き起こし、メタボリックシンドロームや糖尿病の病態に関与することが示され、SREBP-1cの治療標的としての可能性が示唆された。
  • 山内 敏正
    セッションID: DL-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    日本人の糖尿病患者数は激増している。その主因はインスリン分泌低下の素因に加えて、生活習慣の変化による肥満・インスリン抵抗性要因が増加しているためと考えられる。従って、肥満とインスリン抵抗性の原因の解明とそれに立脚した根本的な予防法や治療法の確立が極めて重要である。
    我々は遺伝子欠損マウスを用いた解析により、リガンド応答性の核内受容体型転写因子PPARγとその転写共役因子であるCBPが、高脂肪食による肥満・脂肪細胞肥大化・インスリン抵抗性惹起の原因となっていることを示した(J. Biol. Chem. 276:41245, 2001; Nature Genetics 30:221, 2002)。そしてPPARγ活性の部分的阻害剤が、新規抗肥満・インスリン抵抗性改善薬となりうることを示した (J. Clin. Invest. 108:1001, 2001)。
    次に我々は、インスリン感受性が亢進しているPPARγ或いはCBPのヘテロ欠損マウスの小型脂肪細胞では、レプチンと共にアデイポネクチンの発現が上昇していることを見い出した。さらにアディポネクチン欠乏をきたす脂肪萎縮や肥満2型糖尿病モデルマウスへの投与実験などにより、アディポネクチンがインスリン感受性を正に調節する主要なアディポカインであることを見い出した。すなわち、脂肪萎縮・肥満ではアディポネクチンが低下し、糖尿病・代謝症候群の原因となっており、その補充がAMPキナーゼやPPARαの活性化を介し、これらの効果的な治療手段となることを明らかにした (Nature Medicine 7:941, 2001; Nature Medicine 8:1288,2002)。さらに我々は発現クローニング法によりアディポネクチンに結合する膜蛋白AdipoR1とR2を同定し、siRNAを用いた遺伝子ノックダウンによる機能解析などにより、それぞれ骨格筋に強く作用するC末側のglobular領域のアデイポネクチン及び肝臓に強く作用する全長アデイポネクチンの作用を伝達する受容体であることを示した(Nature 423:762,2003)。さらに肥満・2型糖尿病のモデルマウスの骨格筋・脂肪組織においては、AdipoR1・R2の発現量が低下し、アディポネクチン感受性の低下が存在することを示した(J. Biol. Chem. 278:30817, 2004)。
    肥満では血中アディポネクチンレベルとアディポネクチン受容体の発現が低下し、糖尿病・代謝症候群の原因となっている。我々が同定したアディポネクチン受容体の作動薬やアディポネクチン抵抗性改善薬の開発は、糖尿病・代謝症候群の根本的な治療法開発の道を切り開くものと強く期待される。
  • 木原 進士
    セッションID: DL-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/24
    会議録・要旨集 フリー
    我が国における糖尿病と血管合併症増加の原因として、肥満の関与は周知の事実である。我々はその病態の分子機構を明らかにするためヒト脂肪組織発現遺伝子の解析を行い、脂肪組織が様々な生理活性ペプチド(アディポサイトカイン)を分泌する臓器であることを明らかにした。アディポサイトカインとは、脂肪細胞特異的なレプチンやアディポネクチンに加え、従来脂肪組織に発現するとは考えられていなかった、サイトカイン、ケモカイン、炎症反応蛋白、線溶系調節因子などを含む概念である。そもそも腫瘍壊死因子(TNF)-alphaは細胞致死物質として同定された病原体や腫瘍に対する生体防御因子であるが、脂肪組織においても発現していること、その作用を中和するとインスリン抵抗性が改善することが報告され、インスリン抵抗性発症に関与する重要な因子であると位置づけられている。アディポネクチンは、ヒトにおいてその血中濃度がインスリン感受性と正相関し糖尿病患者において低値であること、欠損マウスが高脂肪高蔗糖食により糖尿病を発症することより、過栄養状態での血中濃度低下が糖尿病発症の原因となると考えられる。また、TNF-alphaは脂肪細胞におけるアディポネクチン発現を抑制し、アディポネクチンはマクロファージのサイトカイン産生の内TNF-alphaを特異的に抑制した。従って、炎症性アディポサイトカインの増加と抗炎症性因子アディポネクチンの低下という内分泌異常が、糖尿病発症に重要であると考えられる。糖尿病発症に加え、低アディポネクチン血症は動脈硬化の危険因子であることも明らかとなっている。アディポネクチンの作用をヒト血管壁構成細胞初代培養系およびモデルマウスで検討したところ、アディポネクチンは血管が傷害を受けると局所に集積して血管内皮細胞・血管平滑筋細胞・マクロファージに作用して過剰な血管リモデリング反応を抑制する作用を有していた。最近、アディポネクチンは血管内皮機能障害や心筋リモデリング異常にも関与することが明らかとなってきた。糖尿病の成因と病態において、脂肪細胞が液性因子を介してインスリン抵抗性や心血管リモデリングに作用するとの観点から、アディポネクチンを中心としてアディポサイトカイン研究につき詳解したい。
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