脂肪細胞機能からメタボリック症候群を捉えるアプローチを通して、分子病態としての“脂肪細胞におけるグルココルチコイド(アディポステロイド)作用”の意義が明らかになってきた。細胞内でグルココルチコイドを活性化する変換酵素、1型11β-hydroxysteroid dehydrogenase (11β-HSD1)はPPARγ の標的遺伝子であり、PPARγ アゴニストによって強力に抑制される(
FEBS Lett.576:492, 2004)。その遺伝子発現レベルは肥満をベースにするメタボリック症候群患者の皮下脂肪組織において著明に上昇しており臍レベルCTスキャンによる内臓脂肪面積と強い正の相関を示す(京都大学医の倫理委員会 承認番号553,2004年)。11β-HSD1を脂肪細胞で過剰発現するトランスジェニックマウス(aP2-HSD1マウス)は内臓脂肪蓄積とインスリン抵抗性、高脂血症、高血圧を発症し(
Science 294: 2166, 2001,
J Clin Invest 112:83, 2003)、11β-HSD1ノックアウトマウスは過栄養や遺伝性肥満マウスとの交配によって誘導される肥満や代謝異常に防御的な表現型を示す(
Diabetes 53: 931, 2004)。アディポステロイドの活性化がメタボリック症候群の原因、あるいは感受性亢進の要因のひとつと考えられる所以である。aP2-HSD1マウスの脂肪組織ではグルココルチコイド標的遺伝子であるレプチン、アンジオテンシノジェン、TNFα、LPLなどの発現レベルが上昇し、UCP-1やアデイポネクチンの発現レベルは著しく低下している。これらの発現プロファイルは11β-HSD1ノックアウトマウスのものと正反対であり、アディポステロイドの作用過剰によって調節異常を来たす一連の脂肪細胞遺伝子が肥満やインスリン抵抗性、脂質代謝異常、高血圧の発症・進展に関与していることが示唆される(
Curr. Drug Targets Immune Endocrinol. Metab. Disord. 3:249, 2003)。アディポステロイド活性化は過栄養に対する内臓脂肪の蓄積を促進する因子として重要であり、アディポサイトカインの分泌調節異常、脂肪細胞機能異常を惹起して代謝病の重積を招く。メタボリック症候群の評価法や治療薬の開発に向けてアディポステロイドを標的とするアプローチが期待される。
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