2022年度から高校で実施される「総合的な探求の時間」(探究学習と略記)の目的として,学習指導要領は「高度化」と「自律性」を掲げている。その実現可能性を検討するため,首都圏の公立高校の探求学習の授業で生徒個々人がテーマを設定する場面において博士課程大学院生のTAが行う指導の録音データを分析した。
分析課題は,第一に指導場面の会話における行為連鎖にはいかなる特性が見出されるか,第二に指導者は生徒にどのような内容を指導しているか,の2つである。
第一の課題に対しては,次の知見が得られた。①指導者の質問に対して生徒は考えの表明(M)の形で答える。②それに対し指導者は「方向づけ」(O)で応答する。③指導者の発話には提案(S)も含まれ,「方向づけ」も提案もさらなる質問を伴う。④指導の終了時に,指導者はオープンな励まし(P)を述べる。これらの行為連鎖はI-M-(Q-M-)(OQ-M-)(SQ-M-). . . Pと集約される。
第二の課題に関して,コーディングにより分析した結果,指導者は生徒の探究テーマに関して⑴動機・目的・興味,⑵対象,⑶方法・データ,⑷問い・仮説・スタンス,⑸既存研究,⑹経験・スキルを明確化するように質問と提案を行うこと,⑴~⑹は相互に抵触すること,指導者による肯定的・否定的な表現が感覚的であること,「調べ学習」との差異化が不分明であること,それらの解決は生徒の責任に委ねられていることを指摘した。
これらの知見は,学習指導要領の掲げる探求学習の目的が過度に理想的なものであることを示唆する。
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