教育心理学研究
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65 巻, 2 号
教育心理学研究
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
原著
  • —援助要請の性質の違いに着目して—
    山中 大貴, 平石 賢二
    2017 年 65 巻 2 号 p. 167-182
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     従来の研究は, いやがらせ被害時における援助要請と援助要請の回避を単一の概念として捉え, それらの性質の違いには着目してこなかった。そこで, 本研究では, これらを自律的援助要請, 依存的援助要請, 援助要請の回避, 平気な振りの4側面から捉え直し, 友人と教師を援助者として想定したいやがらせ被害時における援助要請尺度を作成し, 中学生がどのような援助要請や援助要請の回避方略を用いていやがらせに対処しているかについて検討した。分析の結果, 作成した尺度は, 対友人, 対教師ともに「自律的援助要請」「依存的援助要請」「平気な振り」の3因子から構成されていた。次に, これらの得点に基づいてクラスタ分析を行ったところ, 6群に分類された。各群の特徴を検討した結果, 中学生の中には, 援助要請の志向性が低いものと, 援助要請の志向性が低いことに加えて, 平気な振りの志向性が高いものがいることが明らかになった。さらに, 中学生の中には, 自律的援助要請, 依存的援助要請, 平気な振りが両立しており, 中学生はある方略を一貫して用いるのではなく, 援助を求める対象によって, そして同じ対象の中でもそれらの方略を組み合わせて用いている可能性が示唆された。
  • —「肯定的自己像の受容」と「否定的自己像の拒否」—
    福留 広大, 藤田 尚文, 戸谷 彰宏, 小林 渚, 古川 善也, 森永 康子
    2017 年 65 巻 2 号 p. 183-196
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は, 自尊感情尺度(Rosenberg Self-Esteem Scale; RSES)において, 逆転項目に対する否定的反応(Negative Self-Esteem; NSE)と順項目に対する肯定的反応(Positive Self-Esteem; PSE)がそれぞれ異なる心理的側面を持つことを提案することである。研究Iでは, 様々なサンプルの計5つのデータセットを分析した。確認的因子分析の結果, RSESにPSEとNSEの存在が示唆された。研究IIでは, 中学生に調査を行い, 因子構造の検証とそれらの弁別性について検討した。中学生においてもPSEとNSEの構造が支持され, NSEはPSEよりもストレス反応と強い負の相関関係にあった。つまり, RSESの否定的な項目に対して否定的な回答をするほどストレス反応が低い傾向にあった。研究IIIでは, 中学生を対象にして, RSES2因子の弁別性の基準として攻撃性尺度を検討した。その結果, NSEがPSEよりも敵意と強い負の相関関係にあった。これらの結果は, RSESに「肯定的自己像の受容」と「否定的自己像の拒否」の存在を認めるものであり, この解釈と可能性について議論した。
  • 西村 多久磨, 瀬尾 美紀子, 植阪 友理, マナロ エマニュエル, 田中 瑛津子, 市川 伸一
    2017 年 65 巻 2 号 p. 197-210
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     本研究では, 中学生を対象に学業場面に対する失敗観の個人差を測定する尺度を作成した。その際, 子どもにとって身近で回答しやすい失敗場面を想定し(問題場面, 発表場面, テスト場面, 入試場面), これらの場面の高次因子として「学業場面の失敗観」を想定するモデルを提案した。中学生984名から得られたデータに対して探索的因子分析を行った結果, 失敗観は「失敗に対する活用可能性の認知」と「失敗に対する脅威性の認知」の2因子から構成されることが, 各場面に共通して示された。また, これら4つの場面の高次因子として「学業場面の失敗観」を想定したモデルの適合度は十分な値であった。この結果から, 高次因子モデルによって失敗観を測定するアプローチの妥当性が支持された。さらに, 理論的に関連が予想された変数との相関関係も確認され, 尺度の妥当性に関する複数の証拠が提出された。最後に, 作成された尺度を用いた今後の研究の展望について議論がなされた。
  • 平井 美佳
    2017 年 65 巻 2 号 p. 211-224
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     本研究は, 幼児における自己と他者の調整とその発達, および, それに関わる要因について検討することを目的とした。3歳8カ月-6歳1カ月の女児61名, 男児54名の計115名の幼児に面接調査を行い, 自己と他者の要求が葛藤する4つのジレンマ場面(友だち・母親との各2場面)を提示し, 「もし私だったらどうするか?」についての回答を求めた。加えて, 語彙発達課題と誤信念課題による認知的発達, および, 子どもの社会的ネットワークも測定した。その結果, (a)自己および他者を優先する程度は場面によって異なり, 特に, 「友だちに大切な宝物を貸してほしいと頼まれる」という自己にとってより深刻であると考えられる場面(宝物場面)において自己優先的傾向が高く, その他の場面では他者優先的な傾向が高いこと, (b)年齢が高い群(6歳群)では低い群(3-4歳群)よりも自己優先的な傾向が低く, 他者優先的な傾向が高いこと, (c)宝物場面において自己と他者の両者にともに配慮できる子どもは, 低い群よりも年齢の高い群で多いこと, そして, (d)この自己と他者の両者をともに配慮する傾向には認知的および社会的発達が影響を与えることが示唆された。
  • —方略使用および有効性の認知に着目して—
    押尾 恵吾
    2017 年 65 巻 2 号 p. 225-238
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     本研究は, 学習方略の使用や有効性の認知は教科によって異なるのかという学習者の実態を明らかにすることを目的として, 方略使用および有効性の認知の教科間比較を行った。また, 方略使用と有効性の認知の関連, 方略使用と有効性の認知それぞれの教科間の関連についても検討した。予備調査では, 複数の特定教科において実質的に高校生が使用可能であると考えられる学習方略尺度を作成した。本調査では, 高校生を対象に, 数学, 国語, 社会における方略使用の頻度, 有効性の認知, 達成目標, 教科の好み・得意感を尋ねる質問紙調査を実施し, 257名からの有効回答を得た。分散分析を実施した結果, 数学の体制化方略・精緻化方略, 国語の教訓帰納方略は, 有効性の認知が高いものの方略使用が少ない学習方略であった。パス解析を実施した結果, 教科や学習方略の種類によらず, 有効性の認知は方略使用の規定要因であること, 数学と国語は教科間の関連が弱いことが示された。以上から, 有効でありながら教科の学習の性質のために使用されていない学習方略の存在が明らかになり, 教科ごとに学習者に対して使用の促進をする価値のある可能性がある学習方略の存在が示唆された。
  • —親子の共食に着目して—
    江崎 由里香
    2017 年 65 巻 2 号 p. 239-247
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     子どもの食に関するQuality of Life(食に関するQOL)についての研究では, これまで献立内容や共食状況などの個々の食生活を構成する要素(食生活要素)との関連が個別に検討されてきたものの, これらの関連を総合的に捉えた実証研究が十分には行われていない。本研究は, 親子の共食に着目して, 子どもの食生活要素と食に関するQOLとの関連メカニズムについて明らかにすることを目的として行われた。中学生を対象に1週間のダイアリー調査を実施し, 朝食と夕食に関する回答を235名から得た。分析の結果, 食生活要素である「献立数」, 「共食人数」, 「手伝い」が, 食事中の「会話」と「共食感」を媒介して「食に関するQOL」に関連し, また「会話」は, 直接「食に関するQOL」にも関連することが明らかにされた。以上の結果から, 主食, 主菜, 副菜などの献立数が多く, 一緒に食べる家族の共食人数が多く, 食事に関する手伝いをよくする子どもは, 食事中の会話が弾むと感じ, 家族と一緒に食事をすることが楽しく, できるだけ家族と一緒に食事がしたいという共食感を持ち, その結果として食事に対する満足度や楽しさ, おいしさなどの食に関するQOLが高まることが示された。
  • —尺度構成と攻撃的行動傾向との関連の検討—
    濱口 佳和
    2017 年 65 巻 2 号 p. 248-264
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     本研究は自記式能動的・反応的攻撃性尺度(大学生用: SPRAS-U)を作成し, 因子構造, 信頼性, 妥当性を検討するとともに, 身体的攻撃, 言語的攻撃, 関係性攻撃との関連を明らかにすることが目的とされた。SPRAS-U原版は, 能動的攻撃性として他者支配欲求, 攻撃有能感, 攻撃肯定評価, 欲求固執, 反応的攻撃性として, 易怒性, 怒り持続性, 怒り強度, 報復意図, 外責的認知の合計9下位尺度, 合計75項目から構成された。1短大・5大学の学生616名(男子294名, 女子322名)から妥当性検討の尺度が異なる2種類の質問紙に対する回答を得た。因子分析の結果, 想定された9因子が得られ, α係数による信頼性は7下位尺度で.70以上の値を示し, 概ね使用可能な範囲にあった。反応的攻撃性の下位尺度の殆どがBAQの敵意や怒り喚起・持続性尺度, FASの報復心と中程度以上の正の有意相関が見られ, 能動的攻撃性の各下位尺度は一次性サイコパシー尺度やFASの支配性と中程度の正の有意相関を, 共感性とは負の有意相関を示し, 併存的妥当性が実証された。重回帰分析の結果, 身体的攻撃は主に反応的攻撃性と, 言語的攻撃は主に能動的攻撃性と, 関係性攻撃は能動的・反応的両攻撃性の下位尺度と有意な関連を示した。
  • —学習観内, 学習方略内の規定関係に着目して—
    赤松 大輔
    2017 年 65 巻 2 号 p. 265-280
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     本研究では, 高校生723名を対象として, 英語の学習観と学習方略および学業成績の関連を検討した。因子分析の結果, 教科共通の学習観として学習量志向と方略志向, 教科固有の学習観として伝統志向と活用志向, 間接的方略としてメタ認知的方略と社会的方略, 直接的方略として体制化方略, イメージ化方略, 反復方略, そして音声記憶方略が見いだされた。パス解析の結果, 学習観においては教科共通の学習観が教科固有の学習観を規定し, 学習方略においては間接的方略が直接的方略を規定するというように, 学習観内と学習方略内にそれぞれに規定関係があることが確認された。また, 学習観と学習方略の間には, 教科共通の学習観が間接的方略を予測する教科共通の学習プロセスと, 教科固有の学習観が直接的方略さらには学業成績を予測する教科固有の学習プロセスがあることが明らかになった。この結果を踏まえ, 学習行動全体を改善するためには教科共通の学習プロセスに注目し, 英語学習における学業成績を改善するためには教科固有の学習観に注目するというように, 学習観と学習方略の関係を教科共通と教科固有の両観点から捉える必要性が示唆された。
  • —適応性を考慮した社会的情報処理による媒介過程—
    吉澤 寛之, 吉田 琢哉, 原田 知佳, 浅野 良輔, 玉井 颯一, 吉田 俊和
    2017 年 65 巻 2 号 p. 281-294
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     先行研究においては, 養育者の養育や子どもの養育行動の認知が適応的側面と不適応的側面という両方の社会的情報処理を媒介して反社会的行動を予測するメカニズムが検討されていない。本研究では, 養育者の養育態度は実際の養育行動として表出され, 子どもがこうした行動を認知することで養育者の養育態度に関するイメージを表象し, その表象が適応的, 不適応的な社会的情報処理を介して反社会的行動に影響するとする仮説を検証した。中学校1校の327名の中学生(1年生193名, 2年生79名, 3年生55名)とその養育者(母親303名, 父親19名, その他5名), 大学2校の471名の大学生とその養育者(母親422名, 父親40名, その他9名)からペアデータが収集された。子どもと養育者は, 子どもが幼少期の頃の養育としつけについて回答した。子どもからは, 社会的ルールと, 認知的歪曲や規範的攻撃信念による反社会的認知バイアスについても測定された。大学生は高校時代の反社会的行動の過去経験を報告した。構造方程式モデリングを用いた分析により, 中学生と大学生のサンプルの両方で本研究の仮説モデルに整合する結果が得られた。本知見から, 養育者は自らの養育行動が意図した通りに正しく子どもに認知されているか確認する必要性が推奨された。
原著[実践研究]
  • 小林 朋子, 渡辺 弥生
    2017 年 65 巻 2 号 p. 295-304
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     本研究は, 中学校全体で感情に焦点をあてた集団SSTを6回行い, 中学生の社会的スキルとレジリエンスへの効果について明らかにした。SSTの実施前後に, 実施校群365名と非実施校388名のデータを用いて解析を行った結果, 男子では, 向社会的スキルと関係志向性において実施校が上昇したが, 女子では差がなかった。また2年生において, 実施校で向社会的スキルが上昇し, 引っ込み思案行動が改善した。さらに, ソーシャルスキルのレベルで比較をしたところ, 低群と中間群では差がなかったが, 高群では実施校でソーシャルスキルとレジリエンスの低下が抑制されたことが示された。
  • —時間経過後のチームワーク能力に着目して—
    太幡 直也
    2017 年 65 巻 2 号 p. 305-314
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     太幡(2016)は, 大学生のチームワークを向上させるトレーニングを開発し, トレーニング終了直後にはトレーニングが有効であったことを示している。本研究では, 太幡(2016)のトレーニングの有効性が時間経過後に確認されるか否かを検証した。大学生に太幡(2016)のトレーニングを実施した。そして, トレーニング実施条件, 非実施条件の学生に, トレーニング終了から約9か月後に, 自己報告式の尺度に回答するように求めた。自己報告式の尺度で, 社会的スキルや, チームワーク能力の5つの構成要素(“コミュニケーション能力”, “チーム志向能力”, “バックアップ能力”, “モニタリング能力”, “リーダーシップ能力”)を測定した。その結果, トレーニング実施条件の方が非実施条件に比べ, 上記の多くの尺度について, 約9か月後の得点の上昇が大きかった。したがって, 太幡(2016)のトレーニングの有効性はある程度は時間経過後に確認されたと考えられる。
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