本報は学童肥満のより正確な判定方法究明のため,この研究分野で身体組成の判定指標として,絶対的コンセンサスを得ている人体比重を簡便に測定できる身体諸計測値から,より正確に推定する重回帰式を検討した。検討は,小学生4・5・6年生,男女合わせて367人の,水泳プール利用の水中体重測定法により測定した人体比重と,同時に並行して測定した身長,体重,周囲径,皮厚ならびに年齢を変数として,重回帰分析と因子分析を行った。得られた主なる所見は以下のとおりである。
1.本測定法によって得た対象学童の身長,体重,胸囲は1983年の学校保健統計における同年齢者の成績と同様であり,その人体比重は男児:1.0556±0.0101(X±SD),女児:1.0526±0.0096である。これは,同年齢者を対象とした既報文献成績と比較して,男児は若干低値,女児は若干高値である。しかし,男女間の差はより少ない。
2.年齢,身長,体重,胸囲,腹囲,上腕囲,上腕部皮厚,肩甲骨下部皮厚,側腹部皮厚,人体比重を変数として因子分析すると,男女共固有値1以上は第2因子までであり,そこまでの累積説明率は男児が80.4%,女児が79.1%である。男女共に第1因子は身体の充実・発達に関するもの,第2因子は身体の伸長・成長に関するものと思われる。人体比重は男女共,第1因子にはいる。
3.人体比重を従属変数として重回帰分析すると,男児の第1編入説明変数は腹囲,第2は上腕囲,第3は年齢,以下は上腕部皮厚,側腹部皮厚,胸囲,体重,身長,肩甲骨下部皮厚の順序であり,女児の第1編入説明変数は上腕囲,第2は年齢,第3は肩甲骨下部皮厚,以下は腹囲,身長,体重,側腹部皮厚,上腕部皮厚,胸囲の順序である。男児で第3編入説明変数まで,女児で第2編入説明変数まで皮厚が選択されない。
4.学校現場等での肥満判定スクリーニングのための人体比重予測式としては,重回帰分析より,男児が
Yc=1.10290-0.00057・X
1-0.00177・X
2+0.00225・X
3(X
1:腹囲,X
2:上腕囲,X
3:年齢)R=0.7098(
p<0.001),女児が
Yc=1.08386-0.00342・X
1+0.00407・X
2(X
1:上腕囲,X
2:年齢)R=0.7591(p<0.001)が得られた。なお,この予測式の重相関係数は,既報文献のものと同程度の値である。しかし,身体組成面でlean body massとfat massの2方向から推定するものであること,および,使用する変数が周囲径,年齢という,より簡便なものであることから,利用方法の容易さは旧に倍するものと思われる。
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