土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
特集号: 土木学会論文集
80 巻, 20 号
特集号(土木計画学)
選択された号の論文の137件中51~100を表示しています
特集号(土木計画学)論文
  • 髙木 太耀, 田中 尚人
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20054
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    核家族化,少子化,地域とのつながりの希薄化,共働きによる時間の減少,結婚を機に住みなれた地域から離れる保護者が多いなどの理由から,近年,日本では子育て中の家族の社会的孤立が問題視されている.一方熊本市では長年「家庭教育学級」という取り組みによりこの問題に対処してきた.本研究の目的は,熊本市の家庭教育学級の取り組みを対象に保護者のネットワーク形成の要因を明らかにすることである.そこで,家庭教育学級の運営者と参加者を対象にヒアリング調査やアンケート調査及び分析を行なった.研究の結果,社会教育を通して多様な主体がきっかけとなる活動を相互に認知し,参加者同士が運営に伴うちょっとした苦労を共有しながら共創的な共同体験を行うことが,地域社会におけるネットワーク形成の重要な要因であることが明らかになった.

  • 川崎 洋輔, 桑原 雅夫, 伊藤 裕貴, 川松 祐太, 大畑 長, 熊倉 大起, 吉川 真央, 江森 唯
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20055
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,交通状態の長期モニタリングを行うことで交通流モデルの性能を検証する.交通管制では,交通流をモニタリングした上で,情報提供することが重要である.交通状態を把握するためのセンサーは疎なため,交通流モデルによる未観測箇所の補完推定が必要である.交通流は,時事刻々と変化するため,事前にモデルパラメータをキャリブレーションすることは困難である.本研究では,このような交通モニタリングに関する交通流モデルの技術課題を抽出し対応方法を提示するとともに,ケーススタディを通じて交通流モデルの性能を検証する.検証の結果,平常時,事故時ともに良好な精度が得られた.また,プローブデータが未観測な状況下においても,下流側の車両感知器を代替利用することで,交通状態をモニタリングできる可能性が示唆された.

  • 目賀 俊太郎, 福田 大輔
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20056
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,意思決定者が合理的に不注意になる状況を記述する行動モデルの枠組みを拡張して,(1) 観光客ドライバーが交通状況を誤認する状況,(2) ドライバーの交通情報獲得と利用経路の同時選択状況,(3) OD 需要の変動が要因で交通状況が変動する状況を一体的に記述する Nested Logit 型交通行動モデルならびに交通均衡配分モデルを構築した.観光地からの帰路を模擬した単純ネットワークを用いて,情報獲得難易度の低減や立寄りクーポンの提供が経路選択行動へ及ぼす影響の数値分析を行ったところ,クーポン提供のみでは混雑改善効果が高まりにくい可能性や,情報難易度低減と増額を同時に行うと逆効果となる場合があることなどが示唆された.

  • 兵頭 知, 塩川 新太郎
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20057
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    COVID-19感染拡大による交通安全面への影響が多くの研究で報告されているものの,多くはロックダウン中あるいはロックダウン直前・直後という短期間を対象としている.新型コロナウィルス感染拡大による,比較的長期間の交通事故に対する影響を調べた研究やコロナ禍と事故要因への影響を組み合わせて分析した研究は未だ限定的である.本研究では,首都高速道路を対象に新型コロナウィルスの感染拡大による長期の交通状態変化を通じ,各種事故要因が施設接触事故リスクにどのような影響を与えたかを把握することを目的とする.分析の結果,コロナ禍では施設接触事故のみ発生リスクが増大し,事故の多発地点分布も変化した.さらに,既存の影響要因に加え,降雨時やS字カーブ区間に起因する施設接触事故が発生しやすい傾向にあることが示唆された.

  • 石塚 裕子
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20058
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,アメリカの災害の分野で提唱されている新たな障害の捉え方である AFN(Access and Functional Needs)の概念を援用し,博覧会会場など大規模なイベントやレジャー施設等を知的障害のある人が楽しむ上で生じるお困りごと(AFN)を抽出することを目的とした.その結果,「ゆとり(広さ・時間)がないと困る」,「複雑な空間や情報(わかりにくさ)は困る」,「刺激が多い(環境変化・混雑など)と困る」など 10 のお困りごと(AFN)が抽出された.それらのお困りごと(AFN)は,他の属性のお困りごととも共通しているものが多いが,「ゆとり(広さ・時間)がないと困る」については,知的障害のある人のお困りごととしての認識率が低いことが明らかになった.

  • Zhao-Wen ZHANG, 川本 義海
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20060
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,2018年から2023年までの期間における地方都市の29のMaaS事例を整理し,それらの実施状況を総括し,導入の効果を統合した.その結果,地方都市のMaaS事例の九割が有料の実証実験であり,すべての事例で産業界が参加していることが分かった.一方で,MaaSの事例の中でのサブスクリプション機能の導入率は比較的低く,複数の交通手段の統合は実現されていないことが分かった.最後に,MaaS導入により,実験参加者の公共交通利用が約32%増加し,外出頻度が約45%増加したこと,また,MaaSに対する満足度が高いと評価した実験参加者は約79%を占めることが分かった.

  • 國村 光, 田中 伸治
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20061
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    災害時の避難方法は原則徒歩とされているが,東日本大震災で半数以上の避難者が自動車を使用したことで,自動車を活用した避難が検討されている.一方で自動車避難は渋滞発生の危険性があるため,一時的な交通容量の拡大が必要である.交通容量拡大の施策としてコントラフローがある.海外では,ハリケーン発生時に適用され,コントラフローの効果が確認されたが,日本で災害時にコントラフローを適用した事例がない.そこで本研究では,宮城県亘理町を対象に,自動車避難シミュレーションを構築した.渋滞発生箇所にコントラフローを適用し,その対策効果によって,より多くの車両を浸水エリアから避難させることができることを明らかにした.また,避難シミュレーションに危険行動を組み込むことで,より現実に近いシミュレーションモデルを構築した.

  • 鈴木 万生, 平田 輝満
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20062
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,高齢化や社会環境の変化に伴い救急搬送人員および救急搬送時間は増加傾向を示している.また,医療機関は都市部に集中する傾向があり,中山間地域などをはじめとする地方部では救急搬送時間が長時間化する傾向がある.このように都市部と地方部で救急医療サービスの格差が生じている.医療サービスの均てん化に向けて,各地域における救急搬送の現状や課題を明らかにし,今後の社会環境の変化による救急搬送への影響をあらかじめ分析することは有益である.本研究では,救急搬送人員データを活用して各地域における疾患・重症度別の救急搬送時間を推定するシミュレーションを開発した.また,本シミュレーションを用いて医療サービスレベル低下による影響や新たな救急搬送方法の検討を行った.

  • 尾本 凌河, 宇野 伸宏, 松中 亮治, 西垣 友貴
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20063
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    本研究の目的は,自動ブレーキなどの運転支援システムの利用経験が,今後実用化が期待される完全自動運転などの高度自動運転システムの利用/購入意向に与える影響を明らかにすることである.Web アンケート調査により収集したデータに対して,χ2 検定と残差分析を適用した結果,運転支援システムへの信頼はそれらのシステムの搭載がある,もしくは,利用経験がある方が高くなる傾向にあることを明らかにした.さらに,運転支援システムの利用経験の有無によらず,それぞれの運転支援システムに対する信頼度が高い方が高度自動運転システムの利用/購入意向が高くなる傾向にあることを明らかにした.

  • 木崎 礼雄, 柳沼 秀樹, 大山 雄己, 寺部 慎太郎, 鈴木 雄
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20064
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,自動車に依存せず公共交通や徒歩で暮らせるコンパクトシティを目指した再開発事業や各種施策が展開されている.特に歩行者の快適性向上を目的とした街路整備が進められているが,歩行空間の定量的な景観評価や快適性評価は未だ困難である.本研究では,街路景観が歩行者の経路選択行動に及ぼす影響を記述するモデルを構築し,東京都豊洲地区を対象に街路空間整備の評価を試みた.具体的には,画像解析より取得した景観変数を Recursive Logit 型経路選択モデルに導入し,観測データからパラメータを推定した.さらに生成 AI を活用して複数の街路景観パターンを生成し,経路選択シミュレーションを実施した.これにより,街路景観と経路選択行動の関係性を明示的に考慮した定量的評価が可能となり,歩行空間整備に資すると期待される.

  • 前川 凜, 谷口 綾子, 秋山 英三
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20065
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    モビリティ・マネジメントの動機付けツールに交通すごろくがある.選ぶ人数が多い程“渋滞”して遅くなるクルマカードか,必ず一定のマス数進める電車カードの何れかを選択し,ゴールを目指すボードゲームである.本研究では,1)交通すごろくによる態度変容効果の把握,2)ゲームのプロセスと結果をゲーム理論のシャープレイ値を援用して分析することによるプレイヤーの戦略の類型化,の 2 つを目的として調査・分析を行った(n=171).その結果,交通すごろくの態度変容効果が確認され,ゲーム上で利己的な戦略を採るプレイヤーは態度変容効果が比較的大きいこと等が示された.公共交通不便のルールでは,利己的な戦略が採用されやすくなり,またルール変更前に主に電車カードを選択していたプレイヤーのクルマカード選択傾向が増加すること等が示された.

  • 大窪 智博, 小林 亮博, 上坂 大輔, 森本 章倫
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20066
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    地方での公共交通の衰退が問題となる中で「コンパクト+ネットワーク」の取組が進められている.次世代型路面電車 LRT を導入した富山県富山市では公共交通利用者の増加や沿線住民の外出率向上といった効果が現れている.一方で LRT が沿線の賑わいへもたらす影響については,よりミクロな視点かつ定量的な評価も求められている.そこで本研究では,機械学習の一種である逆強化学習を用いてスマートフォン位置情報データから行動軌跡を生成し,LRT 沿線での滞留行動を推計するモデルを構築した.モデルは位置情報データの特性を高精度に評価可能であり,モデルによって LRT 沿線では非沿線よりも多くの滞留行動が存在すること,滞留行動は時間的に減衰することが示された.分析から LRT を活かしたまちづくりにおける沿線の環境整備の重要性が示唆された.

  • 松尾 悠, 木村 優介, 宇野 伸宏, 松中 亮治, 田中 皓介, 西垣 友貴
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20067
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    日本の高速道路では渋滞が頻発するとともに,老朽化に伴う大規模更新による通行規制も避けられない状況にあり,適切な交通マネジメント施策が重要性を増している.本研究では,近年注目を集めている社会課題解決手法であるゲーミフィケーションを用いて,高速道路利用者の行動変更促進施策として構築された渋滞緩和ゲームを対象に,仮想的な交通状況やゲーム条件下での行動を問う表明選好調査を実施し,利用者特性や行動変更に対するリワード条件に着目して行動変更可能性を分析した.その結果,日常的ゲーム利用者や短距離ドライバーといった,渋滞緩和ゲーム導入によって行動変更が促進されやすい利用者特性を明らかにした.加えて,金銭的リワードがなくとも,純粋な渋滞緩和ゲームの楽しさを動機づけとして行動変更が促進される可能性を示した.

  • 竹内 龍介, 中村 文彦, 吉田 樹
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20068
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    日本の公共交通政策の課題には,地方部や都市近郊での人口減少,自家用車への高い依存や,公共交通の担い手不足等により,地域が求める移動ニーズに地域公共交通が十分に対応できないことがある.そこで,既存交通サービスの改善や充実,新技術やサービスによる輸送サービス提供の他,2020 年 11 月に施行の改正地域交通法で努力義務化された,地域が自らデザインするマスタープランとしての地域公共交通計画による対応も考えられる.一方,欧州では欧州委員会による交通政策の理念である Sustainable Urban Mobility Plans(SUMP)があり,2013 年にガイドラインが策定された.本稿では SUMP,策定上の特徴,取り組みや工夫の課題並びに,SUMP に策定している都市における取組や交通施策の特色の把握を通し,日本の地域公共交通計画への示唆を試みる.

  • 吉田 竜聖, 佐々木 邦明, 小川 明人, 松岡 薫
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20069
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    少子高齢化や人口流出といった課題を抱える地方社会にとって,居心地が良く歩きたくなるまちづくりは地域活力を取り戻す手段として大きく注目されている.合理的に「ウォーカブルなまちづくり」を行うためには,歩行者の移動データに基づいて,歩行者の行動を理解し,施策の評価を行うことが必要不可欠である.しかし,歩行者の移動軌跡調査は多大なコストがかかり,活用は限定的であった.そこで,本研究では容易に入手可能な市販GPSデータを活用して歩行経路選択モデルの構築を行い,それを用いた現況再現シミュレーションの構築を行った.実データを用いた検証を通して歩行経路が規定される要因を明らかにし,十分な再現性があるシミュレーションが可能であることを示した.

  • 大畑 長, 邢 健, 後藤 秀典, 熊倉 大起, 糸島 史浩, 原尾 彰
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20070
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    我が国では,多車線高速道路サグ部等への渋滞対策やサービス水準の改善のため,交通容量の増加等を狙った3つの設置形態の付加車線が導入されてきた.付加車線の導入検討時,対象路線の交通量レベルを踏まえて付加車線形態を選定した後は,ボトルネックに対する付加車線の設置範囲を具体的に検討する必要がある.本研究ではミクロ交通流シミュレーションモデルを用いて,サグ底をボトルネックとする道路区間への付加車線の効果的な設置方法(設置位置,設置延長)を検討した.その結果,付加車線はボトルネックとなる縦断曲線区間の上流400m程度以上の上流から設置し,縦断曲線区間の下流端から800m~1.0km先まで,付加車線長としては1.5km~2.0km程度となるように設置することが望ましい結果となった.

  • 竹内 龍介, 吉田 樹, 鶴指 眞志
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20071
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    地域の生活の足を支える交通手段として,1990~2000年代以降にコミュニティバスやデマンド交通の導入が国内で進む状況にある.しかしながら,対象とする需要規模が小さく,利用者の運賃をもとにした収入確保が困難であり,自治体による継続的な財政的な負担が必要となるものの,路線や提供手段の見直しを行わざるを得ないケースも散見される.本論文では,国内で導入されているコミュニティバス及びデマンド交通の輸送上の特性を定量的に把握するため,コミュニティバスまたはデマンド交通を導入している自治体に対し実施したアンケート調査をもとに,導入や運行に掛かるコスト及び,実際の自治体における評価の実態概況を把握する.さらに,上記結果を踏まえ,デマンド交通の予約に応じた運行の特性を表す評価指標について,導入実態を踏まえ考察する.

  • 河瀬 理貴, 井料 隆雅, 浦田 淳司
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20072
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    世界的な自然災害の急増に伴い,迅速で的確な救援物資支援を目的とする人道支援ロジスティクス研究への注目が高まっている.本稿では,それらの研究の中で,在庫量や補充タイミングを決定する在庫モデルに焦点をおき,商業ロジスティクスの理論研究を踏まえた今後の展望を述べる.はじめに,商業的文脈の典型的な在庫モデルである確率サービスモデルと保証サービスモデルの数理特性を概説する.その上で,人道支援ロジスティクスにおける在庫モデルの先端的研究を整理し,商業的文脈で確立した理論体系の応用可能性を議論する.

  • 渡邊 大樹, 平田 輝満
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20073
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    高速道路 SA/PA における大型貨物車の駐車マス不足が深刻化する中で,欧州地域での混雑対策として出発時刻管理により物理的拡張なく駐車容量拡大ができるコラム式駐車(Col-P)が実証実験されている.我が国においても Col-P の導入検討が開始されているが,その性能特性や効果検証は十分に行われていないため,本研究では Col-P の導入可能性検討を行えるシミュレーション開発と駐車効率向上方策の検討を行った.海老名 SA(上り)をケーススタディとして分析を行い,Col-P 導入割合,許容時刻差について効果分析を行った.その結果を用いて,Col-P の入庫条件の各パラメータによって駐車効率を上げる方法を示した.

  • 清水 智, 山崎 雅人, 井出 修, 梶谷 義雄, 多々納 裕一
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20074
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    事業継続性や経済被害の分析において初期操業能力は回復の起点を与える重要な指標である.さらに,初期操業能力は被災を免れた施設・設備の割合に関連するという意味で耐震安全性の指標ともなっている.本稿では,近年の地震の被害実態や業種毎の特徴を反映した地震発生直後の操業能力の評価方法を検討した.具体的には,2016 年熊本地震や 2022 年福島県沖の地震の被害調査データから 11 業種毎の操業能力の機能的フラジリティカーブを作成した.業種区分を細分化した結果,製造業(生活関連型)や対個人サービス業で操業能力が低下し易く,鉱業・建設業や運輸・情報通信業等は操業能力が低下し難い等の各業種の耐震安全性の傾向が明らかとなった.また,2011 年東北地方太平洋沖地震発生当時と比較すると製造業・非製造業ともに耐震安全性の改善が確認された.

  • 川本 暉, 円山 琢也
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20075
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    国内外の諸都市でシェアサイクルが導入されつつあるが,その利用実態の把握はサービス改善のために重要である.本研究は熊本市のシェアサイクルの利用データを活用して,1) 出発ポートと到着ポートが同一であるライドの特徴を把握し,2) ジニ係数を応用した多様性指標を利用し,ライドの多様性を多面的に明らかにすることを目的とする.多様性指標として,出発時刻多様性,ポートペア多様性,出発ポート多様性,到着ポート多様性の 4 つを提案し,ローレンツ曲線を含めて利用の偏り等を可視化・定量化する方法を示す.分析の結果,出発・到着ポート多様性は,熊本市都心部から離れるほど低下するなどの知見を得た.

  • 沼田 祥太朗, 奥村 誠
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20076
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    旅行者は目的に応じて活動を実行する時間を決めるが,その時間分布は自然(暦や天候)のほか,混雑によっても変化すると考えられる.本研究では NTT ドコモのモバイル空間統計から特定の観光地における地域メッシュごとの時間別来訪者数を把握し,観光地への季節別活動別来訪客数,異なる活動ごとの目的地の空間選択率,異なる活動ごとの希望時間帯の分布を逆推定する方法を提案する.このとき各活動に対するメッシュの「容量」も逆推定することで,混雑の発生を間接的に把握する.実際に函館市の 30 のメッシュの 2019 年の土日休日のデータを解析した結果,希望時間帯が季節変動する朝夕の活動の存在,特定メッシュの強みや弱みの発見,混雑現象の同定と活動容量の推定ができることを確認した.

  • 木野 快斗, 松中 亮治, 宇野 伸宏, 西垣 友貴
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20077
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,地方鉄道路線に関して,日本,英国,仏国の3か国を対象とし,各国で実施された国鉄改革の前後(1980年と2000年),および現在(2019年)の3時点間において,運行本数とその経年変化を比較分析した.その結果,日本において,運行本数は1980年から2000年にかけて増加したものの,2000年以降は減少しており,特に駅勢圏人口密度が小さい駅では,それ以上の駅に比べ減少率が大きいことを明らかにした.その一方で,英国と仏国においては,運行本数は継続的に増加しており,駅勢圏人口密度が小さい駅においても,2000年以降は増加していることを示した.

  • 江橋 恭士朗, 菅 芳樹, 福田 大輔
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20078
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    今後の道路維持管理量の拡大を見据えると,渋滞を緩和するために工事マネジメントの最適化手法を構築する必要があると考えられる.本研究では,中央自動車道の集中工事を対象とする渋滞予測手法を構築した上で,工事マネジメントの最適化を検討した.渋滞予測手法は,決定論的待ち行列モデルに基づき,交通容量予測モデルと交通量予測モデルにより予測される交通容量と 5 分間交通量を入力値として, 5 分ごとの待ち行列を計算し,渋滞の発生の有無を予測した.2019 年の集中工事期間の一部区間の渋滞の発生を予測した結果,事故による渋滞を除き,集中工事期間中に発生した渋滞の発生を全て予測できた.さらに,遺伝的アルゴリズムにより工事スケジュールの最適化を行ったところ,平均遅れ時間が 8.9 分から 2.2 分に減少する結果となった.

  • 池田 恵理子, 鈴木 雄, 寺部 慎太郎, 栁沼 秀樹
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20079
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    スポーツツーリズムにおいて,スポーツの観戦と街なかでの滞在の関係を定量的に把握することは重要である.本研究では,千葉県柏市を対象に,2 種類の携帯電話の位置情報を用いて,J リーグ観戦前後での滞在特性の分析を行った.滞在人口の集計値が把握できる携帯電話の位置情報の分析では,観客数がスタジアムの最寄り駅での滞在人口に正の影響を与えている結果が示された.また,スタジアムから駅までの距離が遠い場合に,最寄り駅での滞在人口が少なくなることが示された.個人の行動が把握できる携帯電話の位置情報の分析では,曜日や天気,気温,試合開始時刻などが J リーグ観戦前後の滞在時間に影響していることが示された.試合開始時刻が早い場合には,試合後の最寄り駅周辺での滞在時間が長いことが示された.

  • 渡邉 真由, 福島 秀哉, 福井 恒明
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20080
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    地域資源となる河川景観を,生活や生業の変遷との関係から分析することは,その形成過程を理解し,保全活用の計画づくりを進める上で重要な課題である.隠岐の島町西郷港周辺地区は,八尾川,宇屋川の沿川に発展してきた集落空間の骨格が残り,伝統行事の川祭りも継承されている.本研究の目的は,これらの河川利用の変遷と現在の河川景観の形成過程と地域愛着の関係から,河川景観の形成と保全に向けた一連の関係性を明らかにすることである.水辺空間および河川利用の変遷に関する文献調査とヒアリング調査,実測調査およびアンケート調査から河川景観の変化過程を分析した.その結果,隠岐の島町西郷港周辺地区の河川景観の重要な要素としてオリトと呼ばれる路地空間の存在を指摘し,その構造を記述するとともに,構造と価値共有の重要性を指摘した.

  • 内堀 凱斗, 塩見 康博
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20081
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,マイカーに頼らず最適な手段でシームレスな移動を実現するMaaSの社会実装が推進されている.その中では,交通手段を乗り継ぐ拠点として交通結節点が重要視されている.一方,この半世紀で日本の高速道路網は大幅に整備され,高速バス網が充実してきた.アクセスコントロールされた高速道路では,高速バスと他のモードが連結する拠点が必要である.しかしながら,高速道路の優位性を活かした交通結節点は実現されていないのが現状である.本研究では,高速道路上のパーキングエリア(PA)を結節点として活用することを想定し,携帯基地局運用データを用いた当該結節点の需要を推計する手法を構築した.名神高速道路草津PAをケーススタディとした分析・推計を行った結果,新規高速バスは10~25%のシェアを獲得できる可能性があることを示した.

  • 福山 敬, 熊谷 直哉, 細江 美欧, 徳岡 篤人
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20083
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    地方都市の商店街では,長期にわたる空き店舗の存在が活性化の際の課題の 1 つとなっている.空き店舗が長期化する理由としては,物件やその所有者の固有な要因とともに,周辺環境が関係すると考えられる.本研究では,空き店舗の長期化についてその立地と周辺環境の関係に着目し,空間的位置関係が空き店舗の継続や消滅に与える影響を明らかにする.具体的には,鳥取駅前の商業エリアを対象に,独自の踏査で収集した 6 年間隔 2 時点の空き店舗立地データを用いて,空き店舗の長期化と周辺環境との関係を実証的に分析した.その結果,特に,空き店舗の近接地に他の長期空き店舗が存在することが,空き店舗の長期化に正の関係をもつことを明らかにし,近接する複数空き店舗の放置は長期にわたる空き店舗クラスターを発生させる危険性を示した.

  • 田畑 大輝, 山口 裕通
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20084
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    水害や地震のような災害では,負傷や家屋の損壊などで直接的に深刻な被害を受ける人々だけでなく,交通サービスや生活サービスの停止によってスケジュールの変更を余儀なくされる人々も多く存在する.この影響は各個人にとっては比較的軽微だが,影響人数の大きさから,社会的な影響としては無視できない可能性が高い.そこで,本研究では,日常的な行動に対する災害の影響に着目し,その程度を計測するアプローチを提案する.まず,提案したアプローチを 11 都市・34 の災害事象に適用して,それぞれにおいて検出される変化を明らかにした.その結果,一部の水害では「事前増加」と名付けるような備えの行動が検出されたこと,提案したアプローチでは複数の影響間で日常行動の被災程度を定量評価できることを明らかにした.

  • 松瀬 里佳子, 樋口 輝久, 橋本 成仁
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20085
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    近年全国各地で導入が進んでいる観光列車は,沿線地域の魅力向上・発信や地域資源の有効活用等の価値があるという点において日常利用する列車との違いを有している.本研究では,全国の観光列車を対象としてその運行実態を把握するとともに,列車の魅力要素をもとにしたクラスター分析による類型化を行うことで,列車の特徴と路線や地域の特徴との関係を整理した.クラスター分析の結果から,全国の観光列車を「車窓型」「デザイン型」「サービス型」「網羅型」の 4 つに分類した.また,各類型における分析結果から,「網羅型」の所要時間が他のクラスターと比較して有意に長いことなどを明らかにし,地域資源を活用する手段の一つとしての観光列車について,どのような地域でどのような魅力を活用した観光列車を運行できるかという政策的示唆を得た.

  • 上地 安諄, 神谷 大介, 福田 大輔
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20086
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    居住人口の減少や渋滞問題,無秩序な都市機能の拡散により,我が国の地方都市の活力や賑わいが失われている.本研究の対象地域である那覇市中心市街地ではこれらに対しトランジットモールをはじめとした活性化施策を講じてきたが,人流をモニタリングし,その効果を定量的に評価する手法が構築されていなかった.本研究ではWi-Fiアクセスポイントデータを活用し中心市街地来訪者のコロナ前後の国際通り来訪特性を整理した.その結果,滞在時間の減少やまちの賑わいエリアの変遷がみられ,行動特性を把握し,中心市街地内の人流モニタリング手法へと適用できる示唆を得た.

  • 白柳 洋俊, 吉武 太郎, 羽鳥 剛史
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20087
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    流域治水を推進するにあたり,下流地域に居住する住民が上流地域に居住する住民の取り組みに協力意識を抱くことは重要である.本研究では,流域治水のなかでも住民主体の雨水貯留として田んぼダムを例に取り上げ,下流地域に居住する住民が上流地域で実施される田んぼダムの取り組みによって得られた田んぼダム米を買い支えることを協力意識と設定した上で,互恵性規範を喚起する感謝メッセージとその送り手の情報が田んぼダム米の購買意識に与える影響を室内実験により検証した.実験の結果,防災に取り組む行政担当者からの感謝の有るメッセージは田んぼダム米農家からの感謝の有るメッセージと比較して田んぼダム米の購買意識が高いことが示された.

  • 遠藤 元喜, 矢ヶ崎 力生, 小嶋 文, 山中 亮, 神谷 大介, 久保田 尚
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20088
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    日本でハンプは規制速度30km/hの生活道路への適用を前提として開発されてきたが,速度抑制が求められる道路には40km/h規制の道路もあり,またバスが通行する道路への適用も求められている.本研究では,バスも走行する制限速度40km/hの道路に設置できるハンプ形状の検討を目的とし,ハンプの長さと車両の振動,乗員の不快・危険感を分析した.実験場で乗用車・トラック・バスを用意し,平坦部の長さが異なるハンプを通過させ,速度,不快感・危険感,車両の鉛直加速度,周辺振動・騒音を測定した.その結果,ハンプの長さと車内の振動には非線形の関係が見られ,車内の鉛直加速度が大きくなると不快・危険感が大きくなる関係が見られた.以上の結果から,バスの振動を抑え,乗客の不快感・危険感を小さくするハンプの長さがあることが判明した.

  • 野口 脩平, 高森 秀司, 佐藤 徹治
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20089
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    小田原市及び周辺市町を対象地域として,浸水リスクを軽減させる堤防整備等のハード対策,企業への補助金による移転誘導(ソフト対策)の将来時系列の地域内企業分布への影響分析を行った.分析に際しては,企業(業種別・施設別)の新規立地・移転先地域の浸水リスクを含む様々な選択要因を考慮した将来時系列の都市内企業分布,各種浸水リスク軽減施策が企業分布に及ぼす影響を推計可能なモデル構築,表明選好データを用いたパラメータ推定を行った.分析の結果,都市機能誘導区域・工業団地の想定最大浸水深を 0 とするハード対策単体での企業集約・リスク低減効果は極めて小さいこと,ハード対策に加えて移転・新規立地する企業に補助金を給付するソフト対策を実施することで,大きな効果が得られることが明らかになった.

  • 岡本 航希, 田中 皓介, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20090
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    一般に「学歴エリート」には,その地位に応じた責任と義務を自覚し,社会に奉仕する「貴族的責任感」を持つことが期待されてきた.大学教育が大衆化した 20 世紀末以降,その責任感の減退が指摘されているが,定量的な知見は乏しい.そこで本研究では,現代の学歴エリート(高偏差値大学の在籍及び卒業者)及び非学歴エリートそれぞれの貴族的責任感を,独自に作成した尺度及び大衆性尺度により計測した.その結果,50 歳以上の年齢層においては学歴エリートが非学歴エリートと比べ強い貴族的責任感を持つ一方で,若年層においては有意差がみられず,学歴エリートにおける貴族的責任感が低下している可能性を示す定量的知見が得られた.

  • 前川 美月, 田中 皓介, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20092
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    日本では,低インフレによるGDPなどの劣化が長く続いている.しかし,それらに伴う社会的政治的指標の劣化に関しては,言及されることが少なく,その過小評価によってデフレ対策が不十分である可能性がある.本研究では,低インフレ持続による経済・社会・政治の連鎖的劣化をデフレ現象と定義した上で,その多面的で連鎖的な影響を明らかにすることを目的とし,デフレ現象の理論的整理を行った.これにより「緊縮財政に伴うデフレ傾向は,貧困格差拡大,それに伴う国民の公共性下落も招き,政治腐敗に立ち返る.デフレ傾向は,同時に一極集中等社会問題も増大させ,連鎖的に国民の幸福量が低下する.こうした負の流れが循環する.」という,デフレ現象の全体像についての仮説を提示した.加えて,その基礎的な検証によりその一部が統計的に支持された.

  • 國井 大輔, 淺野 就, 野口 寛貴, 瀬谷 創, 喜多 秀行
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20093
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,コミュニティバスからタクシーや自家用車を活用した個別輸送サービスへの転換を図る自治体が増加しているが,サービスの採算性と利便性を同時に確保することは容易でなく,現状のままでは維持できなくなる状況も見受けられる.本研究では,それらの課題解決のために,タクシーとボランティア輸送を一体的に運営する公共交通サービスの仕組み「準交通空白地有償運送(仮称)」に着目し,地方に住む高齢者を対象とした WEB アンケートを行い,同サービスの利用意向に影響を及ぼす要因について SP 調査により把握することを試みた.分析の結果,割引率,ドライバーとの関係性,ドライバーの性別,事前予約の期限,希望到着時刻とのズレが,利用意向に有意な影響を与えることが分かった.

  • 田島 佳幸, 家田 仁, 森地 茂
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20094
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    高速鉄道は整備コストが高く政治的判断が強く影響する.その国の人口や経済,国土,政治等を総合的に考慮して決断するが,国によって優先されている事項は異なり考え方も多様である.同じ国でも時代によって異なる.本研究では世界の高速鉄道の整備水準を時系列で評価した.分析の結果,スペインの整備水準が比較対象国で最高であり時系列的推移が独特であった.その整備経緯として,国際イベントを契機として高速鉄道整備が始まり,当初は中核都市間の路線を整備してきた.その後は高まる世論が原動力となり人口が少ない地域にも政治的イデオロギーに依らず整備を進めた路線も多い.その整備を実現できた一因にEUからの基金があった.スペインでは高速鉄道を社会的共通資本として捉え,政治的理念のもとで整備を進めたことが示唆される.

  • 庄司 望, 森本 瑛士, 高瀬 達夫
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20095
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    人口減少や少子高齢化によって拠点の機能の低下が懸念されることから,足りない施設を拠点間連携により確保することが重要である.しかし,拠点間の連携を示すはずの将来都市構造図の計画軸は,施設補完による拠点間連携の検討が不十分である.そこで本研究では,公共交通で結ばれた拠点間において施設の立地から補完の重要性を定量的に示し,計画軸設定状況との関係の現状把握を行った.分析の結果,今回対象とする施設種において概ね施設補完の重要性が高い拠点間で連携を見据えた計画軸が設定されている一方で,施設補完の重要性が低い拠点間においても連携軸の設定がみられた.加えて,自治体間で連携の意図が明確に記されていない計画軸が確認できた.今後は,施設補完を考慮した計画軸設定や連携について自治体間で調整を図ることが重要である.

  • 齊藤 拓哉, 田中 皓介, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20096
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,日本では男性的な事物に対する社会的な忌避感が拡大していると考えられる.一方で,人々の男らしさの美徳や肯定的価値についての議論は十分とはいえない.そこで本研究では,男らしさに対する人々の態度を「男らしさ価値観」と新たに定義した上で,男性を対象にアンケート調査を行い,人々の男らしさ価値観が個人の肯定的な資質に寄与しうる可能性を検証した.その結果,男らしさ価値観が粘り強さ,災害時の精神的レジリエンス,国や仲間に対する防衛意識という 3 つの資質に正の影響を及ぼすこと,及び,男らしさ価値観を構成する「男らしさ」と「男らしさ選好態度」は区別して取り扱うことが適切であり,上記の資質の発揮には特に前者が有効であることが示された.

  • 藤見 俊夫
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20097
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,近年神経科学の分野で注目を集めている自由エネルギー原理に基づき,避難判断シミュレーションを実施した.それにより,災害情報の精度と情報取得,避難選択の関係,それに個人の心理・環境要因が及ぼす影響について検討した.その結果,災害の主観確率には,情報取得と避難の行動パターンを大きく変える構造転点があること,災害の主観確率が構造転換点より大きい場合は情報提供しないほうがよいことが示唆された.さらに,避難行動の手間や時間を減らすことで,人々の避難選択率だけでなく,災害情報の取得率も向上することが明らかにされた.

  • 柿元 祐史, 張 馨, 内海 泰輔
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20098
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    広域道路ネットワークは,上位計画で定めた目指すべき旅行時間を基に路線の計画・検討することが理想である.しかし,上位計画を基にした道路ネットワーク計画が行われていない,地域の上位計画に目標値の設定がないなどの課題がある.この要因として,目標値が各地域の道路ネットワークの現状と乖離があること,目標値の検討方法が明確でないことなどが考えられる.よって,本研究では,日本における拠点間移動距離や旅行時間等の実態分析を実施し,その結果を踏まえて目標旅行時間を検討する手法を提案する.分析の結果,対象とする拠点間移動によって利用する道路の種類及び割合が異なることを確認した.さらに,実データより得られた標準的な道路の利用実態を基に,階層型道路ネットワークの考え方を踏まえた目標旅行時間の検討手法を実践した.

  • 岩本 涼花, 早内 玄, 金森 亮, 森川 高行
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20099
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,都市部の観光における移動環境評価の構造を解明するため,名古屋市の観光ルートバス「メーグル」利用者を対象とするアンケート調査を実施した.各観光地への訪問有無モデル,実際の訪問者による移動環境評価モデルを構築し,パラメータ比較を行った.その結果,訪問有無に対しては目的地自体への興味のほか,経路のわかりやすさといった,事前に情報収集や想定を行いやすい移動環境要素による影響が,訪問者による移動環境評価に対しては,歩行距離や移動時の混雑といった,事前に十分な情報を得にくい移動環境要素による影響がそれぞれ確認され,訪問有無と実際の訪問者による評価構造の違いなどが明らかとなった.

  • 谷口 博司, 金山 洋一, 中川 大
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20100
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    富山市はコンパクトシティ政策の先進都市とされる.しかし,同政策及びその中核にある富山港線の LRT 化や路面電車の南北接続は当初から志向されたものではない.かつて,富山市は,人口の郊外化により県庁所在地の DID の人口密度が国内最低で,また,富山駅北側に水質に課題がある運河が存在し,駅北開発と駅南北の分断解消が主たる課題であった.本研究では,同政策及び LRT 化等の着想を可能とした背景要因に着目し,1986 年からの「とやま 21 世紀都市 MIRAI 計画」による富山駅周辺の空洞化抑制,国鉄改革による駅地区空間の大きな変化,富山駅の地下駅前広場計画の出現と否定,連続立体交差事業の挫折と復活,JR 富山港線の連立非対象化などにおける富山市・富山県・国等関係者の取り組みを明らかにし,今後の都市・交通政策に資する知見を示す.

  • 寺尾 駿之介, 西村 亮彦, 田辺 匠
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20101
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,まちなかにおいて自動車中心の道路空間を人中心の公共空間へと再編し,地域活性化の一助とすることが求められている.特に自動車社会が根強い地方都市では,中心市街地における狭幅員道路の再編が大きな課題の一つとなっている.本研究では,会津若松市大町通りを対象として,狭幅員道路を人中心の公共空間に再編させる社会実験を行い,路面装飾,什器・植栽の設置,及び賑わいコンテンツの導入が,歩行者の安全と地域の活性化に与える影響を分析した.調査の結果,通常時の約7倍の賑わいを創出できること,及び路面装飾や什器・植栽の設置により自動車の速度を低減できることが確認された.仮設的な設えや一時的なコンテンツであっても,歩行者にとって「居心地が良く歩きたくなる」環境を創出できることが分かった.

  • 河津 杏珠, 佐々木 邦明
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20102
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    近年災害の多頻度化・激甚化により,日常時と災害時のフェーズフリーな環境づくりが求められている.災害時の避難場所など様々な機能を持った緑のオープンスペースの維持拡大のためには,その日常における役割の効果を明示的に示すことが重要である.平成30年に実施された第6回東京都市圏PT調査で新しく追加された消費額データを用い,回遊性を介して緑と消費額の関係性を把握した.山手線の駅1.5kmバッファ内を対象に,Tobitモデルで消費額を定式化し,消費額に影響を与える個人属性,トリップ属性,地域特性を特定し,日常時の人々の消費行動の分析を行った.また,より詳細にエリアを絞り比較し,エリアごとの特性も把握した.その結果,通常時の行動に緑地やオープンスペースが影響を与え,地域経済へプラスの効果があることが明らかになった.

  • 橋本 成仁, 廣瀬 暖, 西村 航太, 氏原 岳人, 海野 遥香
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20103
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,通学路における交通事故が相次いでおり,令和 3 年 6 月に千葉県八街市で発生した交通事故を受けて,通学路の合同点検が実施された.このような背景から通学路の交通安全性向上が求められている一方で,多くの自治体や小学校は通学路の設定に際して定量的な基準や指標を設けていないため,適切な通学路の選定や交通安全対策がなされていない可能性がある.そこで本研究では,ネットワークカーネル密度推定法を用いて道路特性と交通事故危険性の関係を明らかにし,小学校から半径 500m 圏内のエリアを対象として適切な通学路設定がなされているか検討を行った.その結果,安全な道路が通学路として選定されておらず,通学路の方が非通学路よりも交通事故危険性が高くなっている小学校があることが示された.

  • 植田 真生史, 中西 航
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20104
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    交差点角地に立地する店舗への車両の進入は,道路上の他車の走行速度や安全性に影響を及ぼす.本研究は,角地の店舗を右奥に見るように来店する車両に着目し,それら車両の進入経路選択の実態把握を目的とする.進入経路には,交差点で右折後に左折・交差点を直進後に右折の 2 通りが存在するが,従来その選択要因は明らかでない.そこで,金沢周辺の 14 店舗で実地観測を行い,当該道路の車線数,交通量,交通容量,需要率および駐車場の出入口位置を選択要因の候補として,経路選択との関係を分析した.その結果,基本的に前者の経路が選択されやすく,後者の経路が選択される交差点には合理的な理由が存在した.また,経路選択実態を把握するうえでは,複合的に影響している上記の各要因を比較検討することが望ましいことが示唆された.

  • 上間 大輔, 神谷 大介
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20105
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    供給能力の低下が見込まれる今後の公共交通において,輸送実績を維持もしくは向上させる運行が求められる一方,現行路線が実際の人流に対応できているかは明らかではない.現行路線で対応できていない区間の人流の多少を把握することは,路線再編を行う上で重要な指標となることが考えられる.よって本研究では,沖縄本島中南部都市圏を対象に,路線の繋がりが無く,移動が不便である地域間を明らかにした.さらに,その地域間における人流特性について分析を行った.その結果,現行の公共交通網では人流の約 3 割にしか対応できていないことを明らかにした.また,人流の多さに対応できていない不便地域間の約 6 割が市町村をまたぐ移動であることから,市町村間の連携が必要であることを示した.

  • 元木 智, 奥村 誠
    2024 年80 巻20 号 論文ID: 24-20106
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル 認証あり

    世界では,人口の増加や経済発展が見込まれる国が少なくなく,将来の国内都市間旅客交通需要に見合う交通網を計画する必要性がある.国家からの継続的な資金投入に頼らずに運営できる経済的な持続可能性と,エネルギー使用や環境負荷が小さい環境的な持続可能性の確保も考えながら,費用や速度,適合する距離帯,環境負荷などが異なる複数の交通モードを,適切に組み合わせることが求められる.本研究では,二酸化炭素排出量の制約を変化させつつ,需要・運賃内生型ネットワーク最適化モデルを計算することで,各制約下における交通モードの役割や適切な分担関係を得る方法を提案する.日本国内を模した仮想のネットワークでの計算により,排出量制約が厳しくなると1人当たり二酸化炭素排出量が大きいモードから順にシェアが小さくなることを確認した.

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