農作業研究
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44 巻, 3 号
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研究論文
  • 浅木 直美, 上野 秀人
    2009 年 44 巻 3 号 p. 127-136
    発行日: 2009/09/20
    公開日: 2010/03/20
    ジャーナル フリー
    2004年と2006年にカバークロップとしてシロクローバをすき込んだ場合とリビングマルチとして利用した場合の水稲の生育,収量,土壌中のアンモニア窒素濃度を測定し,カバークロップの導入効果を評価した.緑肥すき込み区の移植後1日目の土壌アンモニア態窒素濃度は,無施用区に比べ3.8mgkg-1高かった.移植後50日目以降の緑肥すき込み区の窒素吸収インデックス(草丈,茎数および葉色値の積)は,無施用区に比べ高く推移した.さらに,m2あたり粒数と収量は,無施用区に比べ有意差はないものの高い傾向を示した.これらの結果より,緑肥のすき込み処理は土壌のアンモニア態窒素濃度を高めるとともに,水稲への窒素供給および増収効果を有すると考えられた.一方,緑肥マルチ区の移植後1日目のアンモニア態窒素濃度は,無施用区に比べ5.9mgkg-1低かった.緑肥マルチ区の収量は化学肥料区および緑肥すき込み区に比べ低く,これはm2あたり穂数および籾数が少なかったことが主な原因と考えられた.すなわち,緑肥リビングマルチ処理は,すき込み処理に比較して水稲生育初期における窒素供給性と穂数および籾数に与える効果が低いことが示唆された.カバークロップを利用して水稲を栽培する場合には,水稲移植前のカバークロップの乾物重を増加させ,カバークロップの利用法(すき込み,リビングマルチ)に応じて,施肥管理法などを改善する必要があると考えられる.
  • 黒川 瑠美子, 林 久喜, 坂井 直樹
    2009 年 44 巻 3 号 p. 137-144
    発行日: 2009/09/20
    公開日: 2010/03/20
    ジャーナル フリー
    作物生産システムにおける総合的な評価を行う試みとして,肥料要素がメタン発生および田面水の水質の二つの環境負荷並びに籾収量の両面に及ぼす影響について検討した.
    田面水の全窒素濃度(TN)は,基肥施肥·代かき時と,窒素およびカリの2回の追肥後の3時期に急激に上昇し,全リン濃度(TP)は基肥施肥·代かき時にのみ増加した.生育期間中の積算メタン発生量および精籾重は,無肥料区<三要素区<三要素+堆肥区<窒素倍量区となり,両者の間には高い正の相関が見られ,収量が増えるほど積算メタン発生量が高まった.積算メタン発生量の約8割が出穂以降に発生しており,これと穂数との間に高い正の相関が見られた.すなわち,水田では出穂以降のメタン発生が環境負荷に大きな影響を及ぼし,肥培管理が穂数への影響を介して籾収量とメタン発生量の双方に影響していることが明らかとなった.一方,出穂前の積算メタン発生量は栽培前の土壌炭素含有率との間に高い正の相関が見られた.
    積算メタン発生量,田面水のTNおよびTPを精籾1g当たりの値で算出し,これらの値を三要素区を100としたときの比率で表すレーダーチャートを作成した.このレーダーチャートは肥培管理の違いによる生産性と環境負荷を総合的に評価することが可能であった.その結果,環境負荷は試験区により異なったパターンを示し,肥培管理の違いが籾収量を尺度とした各環境負荷量に及ぼす影響は大きく異なることが明らかとなった.
  • 河合 義隆, 石川 一憲, 藤澤 弘幸
    2009 年 44 巻 3 号 p. 145-151
    発行日: 2009/09/20
    公開日: 2010/03/20
    ジャーナル フリー
    カキ‘富有’と‘次郎’を用いて,側枝への環状剥皮と結縛の処理およびそれらとサイトカイニン活性をもつ合成化合物のCPPUの果実塗布の組み合わせ処理が果実品質に及ぼす影響について調べた.‘富有’では環状剥皮の5月と7月処理で,結縛の5月,6月および7月処理で果実重が増加した.果実の糖度は,5月,6月および7月の結縛処理により増加した.これらの効果は環状剥皮処理に比べ結縛処理の方が大きかった.‘次郎’では6月の環状剥皮処理で果実重と果径が無処理に比べ大きかった.処理時期としては5月または6月処理の果実品質が良好であったことから,果実生育ステージの第I期前半が適期と推察された.‘富有’では,環状剥皮とCPPUの組み合わせで最も果実肥大が大きかった.‘次郎’では,CPPUは単独,組み合わせ処理ともに果実の肥大を抑制した.また,‘富有’,‘次郎’ともに,CPPU処理により糖度は低下し,着色抑制がみられた.
  • 片岡 哲朗, 久保田 浩史, 米川 智司
    2009 年 44 巻 3 号 p. 153-161
    発行日: 2009/09/20
    公開日: 2010/03/20
    ジャーナル フリー
    72aのコムギ圃場の不均一性を検証するために,4条×3mの試験区を12個設定し,各試験区から得られた20個の収量サンプル値を用い,試験区サイズ,数個の試験区を組合せたゾーニングサイズから,圃場サイズの不均一性を変動係数を用いて検証した.さらに試験区サイズとゾーニングにおける最適サンプル数を,ランダムにサンプル数を減らしていく方法と,サンプル値に重みづけをする方法によって検証した.その結果,本試験圃場では土壌の硝酸態窒素含有量と土壌含水率の空間分布およびトラクタの作業方向が収量に影響を与えていることが明らかになり,少なくともこれらを環境要因とした複雑適応系の考え方が適用できることが示された.本試験圃場では,圃場を環境要因が同程度な4区域にゾーニングすることで,サンプリングの効率化が可能であった.
  • モハマド ザリフ シャリフィ, 松村 昭治, 平澤 正, 小松崎 将一
    2009 年 44 巻 3 号 p. 163-172
    発行日: 2009/09/20
    公開日: 2010/03/20
    ジャーナル フリー
    養分循環の推進による環境負荷の少ない輪作体系の確立を目的として,数種緑肥作物を土壌にすき込んだ場合のみかけの窒素無機化率と後作物に対する可給性について,ポット試験により検討した.
    4種類の緑肥作物(ヘアリーベッチ : HV, ヒマワリ : SF, クロタラリア : CR, 陸稲 : UP)の細断物をそれぞれ窒素量が一定(200kgNha-1)になるように土壌に混合してポットに詰めた.SFは子実成熟前に収穫されたものであった。これら4試験区に加え,同窒素量の化学肥料区(F)および窒素無添加区(対照区,C)を設けた.ビニールハウス内で,資材混合2週間後にコマツナを播種し,75日間栽培した.途中で間引きを含め5回サンプリングを行い,乾物重と窒素含有率を測定した.
    コマツナの乾物重および窒素含有率はF区>HV区SF区>C区>UR区となり,UR区は対照区より劣った.混合資材由来窒素の吸収量はF区で最大となり,HV区とSF区がこれに続き,UR区は計算上マイナスになった.差引法によって求めた残渣の窒素無機化率はHV区とSF区でCR区,UR区よりも有意に高かった.土壌中の無機態窒素もHV区とSF区が明らかにCR区,UR区より高かった.
    以上の結果から,後作物への窒素供給すなわち後作物の窒素要求との同期性という点においては,供試したカバークロップのなかではヘアリーベッチと子実成熟前のヒマワリが最も望ましい性質を持つと考えられた.
研究報文
  • 小松崎 将一, M. ファイズ シュアイブ
    2009 年 44 巻 3 号 p. 173-179
    発行日: 2009/09/20
    公開日: 2010/03/20
    ジャーナル フリー
    ジャワ島における米生産については人力及び畜力を主体とした生産システムが基本であるが,近年,石油価格の高騰の影響を受け肥料価格が上昇し,農家が自給できるボカシ肥料を利用した有機農業が広がりつつある.本報告では,ジャワ島における有機農業の作業体系と土壌炭素貯留量の変化について検討した.
    土壌調査によれば,慣行栽培の土壌炭素の含有率が2.31%に対して,有機農業を継続して4年目の圃場では,3.24%に増加し,土壌有機物の集積が図られていることが示された.土壌中の炭素は腐植などの形で土壌に封じ込められることから,農耕地の炭素含有量の増加は温室効果ガスである二酸化炭素を農耕地に封じ込める炭素隔離機能も注目される.インドネシアにおいても有機農業を推進していく中で土壌炭素の貯留量増加は温暖化抑制の視点からも注目される可能性が高い.
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