農作業研究
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57 巻, 3 号
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研究論文
  • 阿部 佳之, 住田 憲俊, 松尾 守展, 小島 陽一郎, 菅野 勉, 赤松 佑紀, 佐々木 梢, 吉田 信代
    2022 年 57 巻 3 号 p. 145-153
    発行日: 2022/09/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    水田転換畑での子実トウモロコシ生産への関心が高まる中で,汎用コンバイン用のコーンヘッダの販売が始まったことから,本報はコーンヘッダを利用した場合の収穫作業性能の解明を目的とした.研究所内の飼料作圃場で試験したコーンヘッダ装着時の収穫作業精度については,従来のリールヘッダに比べて脱穀選別損失のほか,損傷粒や夾雑物の割合に大きな違いは見られなかったものの,頭部損失は低く抑えられた.現地水田転換畑で調査したコーンヘッダ装着時の圃場作業量は,雑草の影響が無い作業条件では42–59 a h-1の範囲にあり,既報のリールヘッダ装着時に比べ1.2–1.6倍であった.こうしたコーンヘッダ利用による収穫作業性能の向上効果が得られる作業適期は,従来のリールヘッダで推奨される子実水分25%以下よりも高い30%以下であった.コーンヘッダの利用により5%ほど高い子実水分での収穫が可能になることで,栽培条件によっては収穫時期をリールヘッダ利用時よりも10日ほど早められ,台風による倒伏リスクを下げられる効果も期待できる.一方で,今回の試験では,コーンヘッダとリールヘッダいずれの完熟期収穫でも損傷粒や夾雑物の割合が他の穀物に比べて高かったことから,今後は品種選定や脱穀選別方法の検討などの取り組みが考えられる.

研究報文
  • 松尾 健太郎, 鎌田 えりか, 石井 孝典
    2022 年 57 巻 3 号 p. 155-162
    発行日: 2022/09/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    タマネギ直播栽培の畝立て,直下施肥,溝底播種を1工程で行う作業機(以後,溝畝施肥播種機)を開発し,覆土板の設定と覆土厚の関係や作業速度の上限を明らかにした.さらに,溝畝施肥播種機を使ったリン酸直下施肥や溝底播種が,秋播きのタマネギ直播栽培の出芽率や初期生育および収量に与える影響を調査した.溝畝施肥播種機の特徴は,畝成型部の天板に取り付けられた溝成型器が播種機の下まで伸びて,その伸びた部分の中で局所施肥と播種を行い,覆土を溝の壁面を削って行うことにある.覆土板の取付け位置と覆土厚の関係を調査した結果,種子用の覆土板は改良の余地があるが,肥料用の覆土板の取付け位置によって種子と肥料の覆土厚が調節可能であった.作業速度は,速いほど種子が溝の端の方に寄り,1.2 km/h以上では畝が立たない可能性があった.栽培試験を行った結果,畝の上にある小さな溝の底に播種した場合(以後,溝畝播種)は,平畝に播種した場合(以後,平畝播種)よりも出芽揃いが早くなる傾向があった.また,生育期間中の草丈は,溝畝播種にリン酸直下施肥を行った場合(以後,溝畝播種+リン酸直下)が他の場合よりも有意に高くなり,同様に展開葉数も溝畝播種+リン酸直下が有意に多くなった.80%以上倒伏した日は,平畝播種よりも溝畝播種や畝溝播種+リン酸直下で早くなる傾向がみられ,一球重や収量は,溝畝播種+リン酸直下が他の方法より有意に高かった.

  • 今野 真輔, 堀口 健一, 片平 光彦
    2022 年 57 巻 3 号 p. 163-170
    発行日: 2022/09/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    ウシの糞は体調判別用にスコア化され,写真例や外見的特徴を参考に目視で判定されている.しかし,この糞スコアの基準には曖昧な点が多く,糞水分に関する報告が少ない.本研究では家畜管理者の負担軽減と技能習得を容易にするため,体調判定の基本となるウシの糞水分を数値化し,深層学習による人工知能で糞水分を推定して糞スコアを分類する手法を検討した.実験は黒毛和種育成牛から糞を採取して糞水分を測定し,深層学習を使用した物体検出技術による糞水分を基にした糞スコアの分類精度を検証した.糞水分は75.7~93.8%となり,糞水分89~91%では広がり度合いが大きくなった.糞水分92~94%では糞が液状のため,敷料(籾殻)の下に隠れるような形となった.糞スコアは3段階が糞水分6%,4段階が5%,5段階が4%,6段階が3%の間隔でそれぞれ区分して設定し,AIモデルを作成した.作成したAIモデルのF値は3段階のモデルが0.80,4段階のモデルが0.73,5段階のモデルが0.62,6段階のモデルが0.53であり,3段階および4段階で分類するモデルが5段階および6段階で分類するモデルよりF値が有意に高くなった.このことから,深層学習を使用して糞スコアを分類する場合には,3段階または4段階での分類が有効であると考えられる.

  • 鈴木 大翔, 帖佐 直, 東城 清秀, 藤井 義晴
    2022 年 57 巻 3 号 p. 171-178
    発行日: 2022/09/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    自動走行する芝刈り用ロボットと手刈りによる除草について,東京農工大学農学部構内において2019年7月から11月にわたり4ヵ月間の植生および作業時間の調査を行った.雑草量の評価手法として,被度(m2 m-2)と草高(m)を乗じて算出する乗算優占度(m3 m-2)(MDR:Multiplied Dominance Ratio)を用いた.雑草は,直立型,分枝型,匍匐型,叢生型,ロゼット型,つる型の6つに分類される生育型毎に乗算優占度で比較し,除草後の雑草の植生や作業時間を評価した.多様な植生が認められる雑草地において,乗算優占度により区画全体の雑草のバイオマス,夏から秋にかけての生長量の違い,植生の遷移を定量化した.除草方法により植生や生育量が変化し,ロボットによる除草が,分枝型の雑草よりも直立型の雑草により有効となる傾向や,雑草の生育が抑えられたことなどを例示した.また,乗算優占度の試験区毎の合計値とロボット除草の作業時間との間に正の相関があることを明らかした.さらに,生育型毎の乗算優占度を説明変数とすることで,雑草の量のみならず植生がロボット除草の作業時間に及ぼす影響の度合いを表現できた.これらの結果から乗算優占度が多様な植生の雑草地でのロボット除草の評価に活用できることを示した.

  • 佐竹 寛之, 林 孝洋
    2022 年 57 巻 3 号 p. 179-189
    発行日: 2022/09/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    農業にはさまざまな作業工程があり,作業を細分化することで,知的障害者の特性に応じて役割分担することができる.このため,農業は障害者の就業の場として大きな可能性を秘めているが,障害の特性によっては地植え栽培での一部の作業が難しいことと,冬季には植物の生育が遅くなるため,作業を確保することが難しいという課題がある.本研究では,特別支援学校において,プランターを使用して作業しやすい場所で培地づくりや播種を行った後,プランターを栽培場所に移動させて栽培する「移動栽培」と,夜間の根域加温栽培により解決を図った.調査は2項目について行った.1つ目は移動栽培を,農作業分析表を元に整理するとともに,生徒の作業様態の記述と教師のインタビューデータから分析した.2つ目は,移動栽培でプランターを温床マット上に設置して簡易的に根域加温栽培を行い,地温の変化,電気代,収穫物の調査を行った.その結果,移動栽培では慣行法に比べ作業難易度が低く,パターン化された単純な作業の繰り返しのため,どの生徒も方法を理解して実施できることが明らかになった.また,移動栽培により根域加温を行うことで,カブとホウレンソウの栽培期間が短くなる上,慣行法と同等以上のものを収穫することができ,電気代はカブで1株約25.8円,ホウレンソウで15円であった.これらのことから,知的障害者にとって「移動式根域加温栽培」の有用性の示唆を得ることができた.

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