日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
選択された号の論文の841件中551~600を表示しています
  • 中塚 貴司, 西原 昌宏, 三柴 啓一郎, 山村 三郎
    p. 539
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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     我々は遺伝子工学的手法によるリンドウの花色の多様化を目指して研究を進めている。リンドウ花弁における主要色素であるフラボノイド(アントシアニン)生合成経路について解明し、遺伝子導入による花色改変の指標とすることを目的に岩手県育成の主要12品種についてフラボノイド生合成関連遺伝子のノザンブロットによる発現解析を行った。
     青花リンドウ品種'マシリイ'の花弁の発達段階に伴うフラボノイド生合成関連遺伝子の発現パターンについて解析を行った結果、開花初期に発現が高く、発達に伴い発現が減少する遺伝子(CHS, CHI, FSII, FLS)、開花中期から後期に発現が高い遺伝子(F3H, F3'5'H, DFR, ANS, 3GT, 5AT)、開花初期と後期で発現が高い遺伝子(F3'H)に分類された。また、花色の異なる品種の開花中期の花弁における発現を比較した結果、白花品種ではアントシアニジン合成酵素(ANS)の発現が検出されず、着色が見られない原因と推定された。また、ピンク花品種ではF3'5'Hが他品種に比較して高分子側にシフトしており、ピンク色の発色との関係が示唆された。さらに詳細な発現解析を進めると共に、今回、得られた結果をもとに、リンドウの花色改変を目指し、遺伝子導入を進める予定である。
  • 笠原 博幸, 花田 篤志, Ian S. Curtis, 葛山 智久, 川出 洋, 岡田 憲典, 神谷 勇治, 山口 信次郎
    p. 540
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    植物のイソプレノイドは、細胞質のメバロン酸(MVA)経路と色素体のメチルエリスリトールリン酸(MEP)経路から合成される。我々はシロイヌナズナのMVAおよびMEP経路を阻害剤や変異株を用いて遮断し、これらに安定同位体ラベルした前駆物質を取り込ませることで、標的とするイソプレノイドがどちらの経路から合成されているかを同定する系を構築した。この実験系を用い、シロイヌナズナ芽生えにおけるジベレリン生合成の主要経路がMEP経路であり、また細胞質と色素体間で部分的な前駆物質の交換があることを解明し、昨春の本会で報告した。本年度は、この実験系を用いて、MVAおよびMEP経路が植物の生産する種々のイソプレノイド生合成にどのように関わるか解析を進めている。MEP経路は昨年度までに大腸菌においてその全貌がほぼ明らかとなり、シロイヌナズナにおいてもこの経路を触媒する7つの酵素遺伝子が同定された。しかし、植物におけるMEP経路の律速段階や代謝制御機構についてはほとんど明らかにされていない。我々は、シロイヌナズナにおけるMEP経路の制御段階を同定すべく、MEP経路上の個々の酵素遺伝子を過剰発現する形質転換植物を作出した。現在、各形質転換体におけるイソプレノイド生合成の変化を詳細に解析することにより、各酵素遺伝子を過剰発現した場合に経路全体に与えるインパクトを評価している。
  • Doris Albinsky, 笠原 博幸, Juan Estevez, 神谷 勇治, 山口 信次郎
    p. 541
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    植物のイソプレノイドは色素体のメチルエリスリトールリン酸(MEP)経路、または細胞質のメバロン酸(MVA)経路から合成される。一般に、MEP経路は色素体内のカロチノイドやフィトール等の生合成に、MVA経路は細胞質のステロール等の生合成に主要に働くが、それぞれの経路は完全に独立しているわけではなく、生合成中間体の交換(クロストーク)が部分的に行われる。したがって、これらの二つの生合成経路が、様々な生理的局面において、それぞれ下流の各種イソプレノイド生合成にどの程度寄与するのかは明らかでない。演者らは、MEP経路の一つの酵素である1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸レダクトイソメラーゼの特異的阻害剤であるフォスミドマイシンに耐性を示す突然変異株を選抜することにより、MEP経路の制御因子、またはMEP経路とMVA経路間のクロストークに関わる因子の同定を試みている。実際に、MEP経路の一部の酵素を過剰生産する形質転換植物はフォスミドマイシン耐性を示したことから、本スクリーニングによりMEP経路が活性化されているような株が選抜される可能性が期待された。そこで、約16000の独立したT-DNA挿入ラインを、フォスミドマイシンの子葉白化作用に対する耐性を指標にスクリーニングしたところ、いくつかの候補株が得られた。現在、これらの突然変異株の原因遺伝子の解明とMEP経路の解析を進めている。
  • 岡田 憲典, 笠原 博幸, 山口 信次郎, 神谷 勇治
    p. 542
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    植物のイソプレノイドの生合成中間体であるイソペンテニル二リン酸(IPP)とジメチルアリル二リン酸(DMAPP)は、メバロン酸(MVA)経路とメチルエリスリトールリン酸(MEP)経路により生合成される。細胞質に存在するMVA経路では、DMAPPはIPPイソメラーゼによりIPPから合成される一方、色素体内のMEP経路では、IPPを経由することなく直接DMAPPが合成されることが最近示された。したがって本酵素が色素体内のイソプレノイド生合成で果たす役割については不明である。シロイヌナズナには、IPPイソメラーゼをコードすると予想される遺伝子が二つ存在する(AtIPP1, AtIPP2)。AtIPP1, AtIPP2遺伝子の全長cDNAをGFPと融合し、形質転換植物における局在性を観察したところ、それぞれ色素体とミトコンドリアに局在していた。また、AtIPP1AtIPP2よりもmRNAでの発現レベルが低いことから、色素体内でのIPPイソメラーゼ活性は一般的に低いものと予想された。そこでAtIPP2に色素体移行配列を付加し、色素体特異的に本酵素が高発現する形質転換植物を作成した。現在、これら形質転換体における色素体およびミトコンドリア特異的なイソプレノイドの含量変化について解析を行っている。
  • 鈴木 玄樹, 酒井 達也, 岡田 清孝
    p. 543
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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     植物にとって光に対する応答はもっとも重要な環境応答の一つである。光応答のもっとも典型的な例としては、青色光に胚軸の光屈性があげられるが、赤色光が胚軸屈性に及ぼす影響はあまり研究が進んでいない。我々の研究室では、赤色光照射によって胚軸が屈曲するシロイヌナズナ突然変異体を単離し、flabbyと名付けた。Flabbyの胚軸屈曲方向は赤色光照射の方向によらないことから、胚軸の偏差生長に何らかの異常を起こすことが示唆される。また青色光による光屈性は野生型と同じく正常である。ファインマッピングによる原因遺伝子の単離を試みた結果、この遺伝子は動物の多剤排出トランスポーターMDR1のホモログをコードしていることがわかった。シロイヌナズナにおけるこの遺伝子(AtMDR1)は、オーキシン輸送に関与し、オーキシン輸送の阻害剤NPAの標的タンパク質であることがすでに報告されている。NPAをflabbyに処理したところ、赤色光照射による胚軸屈曲の表現形が消失した。このことから胚軸の伸長において、赤色光がオーキシンの局在に、AtMDR1を介して何らかの影響を及ぼしていることが示唆された。
  • 廣瀬 文昭, 原田 浩司, 島田 浩章, 高野 誠
    p. 544
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    私たちの研究室では、イネにおける光応答反応の解明の一環として青色光受容体であるクリプトクロム(CRY)遺伝子群を単離し、その機能解析を進めている。シロイヌナズナのCRY遺伝子と相同性を示すイネのESTクローンをプローブにして、これまでに3種類のCRY遺伝子と思われるcDNAをイネから単離した。それらの塩基配列を比較したところ、このうち2種類のCRY遺伝子(OsCRY1a, OsCRY1b)は全体にわたって互いによく似ており、またシロイヌナズナのCRY1遺伝子(AtCRY1)と相同性が高かった。もう一つの遺伝子(OsCRY2)はAtCRY1よりもAtCRY2との相同性が高かった。OsCRY1a(あるいはOsCRY1b)とOsCRY2のアミノ酸配列を比較するとN末端側領域にある程度の相同性がみられるが(59%)、C末端側領域ではほとんど相同性がみられなかった(16~17%)。
    次に組織別ノザン・ハイブリダイゼーションによって発現部位の解析を行った。OsCRY1aOsCRY1bは同様の発現パターンを示し、緑化芽生えの地上部で最も発現が強く、黄化芽生えの葉や成熟した葉でも強い発現がみられた。一方、OsCRY2OsCRY1aOsCRY1bとは異なった発現パターンを示し、特に子葉鞘や花で強く発現していた。さらに、OsCRY1a、OsCRY1b、OsCRY2それぞれに特異的な抗体を作製し、タンパク質レベルでの発現パターンや光の影響などを調べた。
  • 松田 怜, 大橋(兼子) 敬子, 後藤 英司, 富士原 和宏, 蔵田 憲次
    p. 545
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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     赤色光に青色光を添加して,長期的に照射して成育させた植物では,赤色光のみの照射と比較して乾物生産性が向上する傾向にあるという報告があるが,その機構は未解明である.そこで本研究では,青色光の添加が植物の成長に与える影響を解明することを目的として,長期的な赤色光および赤青混合光照射下におけるイネの個体成長および各器官,すなわち葉身,葉鞘,根への窒素分配について調べた.イネ (品種:日本晴) を,赤色光のみを照射 (以後,R100区) ,または赤青混合光を照射 (全PPFDに占める赤色光と青色光の割合がそれぞれ80%と20%;以後,R80B20区) し,PPFD 460 µmol m-2 s-1 で35日間水耕栽培した.光源には赤色と青色の発光ダイオードを用いた.
     個体乾物重,草丈,総葉面積,比葉面積 (SLA) ,葉重比 (LWR) には処理間に有意差はなかった.個体の還元態窒素集積量はR80B20区がR100区より大きく,各器官への還元態窒素量の分配の割合には処理間に有意差はなかった.そのため,葉身における葉面積あたりの還元態窒素量はR80B20区で大きかった.R80B20区において,個体全体および葉面積あたりの還元態窒素量がR100区より大きくなる傾向は,低窒素栄養条件下で栽培したイネでも認められた.
     以上より,イネでは赤色光への青色光の添加により窒素吸収が促進される可能性が示唆された.現在,日本晴と窒素吸収特性の異なる品種であるササニシキを用いた調査を検討している.
  • 大橋(兼子) 敬子, 松田 怜, 後藤 英司, 蔵田 憲次
    p. 546
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     青色光による気孔開口や葉緑体光定位運動は光合成に関連した青色光反応の典型例である。これらの反応は青色光照射に対する一時的な応答である。一方、長期間青色光を照射して植物を育てた場合では、植物は青色光に対して光合成特性をどのように変化させて応答をするかについては不明な点が多い。そこで我々は、1)赤色光460 μmol m-2 s-1、2)赤色光370 μmol m-2 s-1+青色光90 μmol m-2 s-1の混合光をそれぞれ1ヶ月間連続照射してイネ(日本晴)を栽培した。そして、栽培終了時の最上位完全展開葉を用いて光合成機能因子の主要なタンパク質量と全窒素量を測定し、青色光は各光合成機能因子の能力間のバランスに変化を与えるかについて解析を行った。
     赤青混合光照射イネは赤光照射イネに比べ葉身のRubisco量、クロロフィル(Chl)量および全窒素量が増加した。また、Rubisco量に対する全窒素量、Chl量に対する全窒素量の関係は成育時の光質環境に関係なくそれぞれ一本の直線に回帰される傾向にあった。すなわち、赤色光への青色光の添加は、葉身の全窒素量の増加に伴い各光合成機能因子の能力をそれぞれ増加させるものの、ある特定の光合成機能因子の能力を特異的に向上させるような窒素分配の変化は起こらないことを意味している。現在は、他の光合成機能因子のタンパク質や酵素の活性を測定し、いくつかの検討を加えている。
  • 上中 秀敏, 和田 正三, 門田 明雄
    p. 547
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    ヒメツリガネゴケにおける分枝形成は光により制御されることが知られている。ヒメツリガネゴケでは青色光受容体として知られているニ種類のクリプトクロム遺伝子(CRY1aとCRY1b)が単離され、これらの遺伝子破壊株の解析により、クリプトクロムは青色光による分枝誘導に働くことが報告されている(Imaizumi et al., 2001)。
     今回我々は、青色光誘導分枝形成にかかわる二つの異なる赤色光の作用を見い出したので報告する。単独の赤色光照射では分枝誘導はあまり起こらないのに対し、赤色光を青色光と同時照射すると、青色光による分枝誘導率は上昇し青色光の効果が促進されることが分かった。微光束照射実験により、この赤色光の作用は核付近が照射された時のみ起こることから、光受容部位は核周辺部にあることが示された。さらに、青色光と同時に与える赤色光を偏光として照射すると、その偏光面の違いによる分枝誘導の促進効果に差は認められないものの、分枝の出現部位は偏光面に依存して決定されることが分かった。これらのことから、赤色光は分枝の促進に加え、二色性配向した受容体を介して、分枝の位置決定機構にも関わっていることが示唆された。
  • 小塚 俊明, キム キョンテ, 堀口 吾朗, 塚谷 裕一
    p. 548
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    植物にとって、様々な光環境への適応は極めて重要である。特に、主要な光合成器官である葉にとって、いかに効率よく光を得るかは、生存競争のための鍵となる。従来、光による器官伸長制御の解析には、芽生えの胚軸が主に用いられてきたが、それ以外の器官における光制御については未だ不明のままである。そこで本研究は、光環境による葉の伸長制御機構について解析を行なった。まず、光合成を介した光による伸長促進は、葉身、葉柄に共通していた。一方、赤色光あるいは青色光の強度に対する反応を解析した結果、伸長に対して共に葉身は促進的、葉柄は抑制的な反応を示すことが解った。次に光受容体変異株を用いた解析から、葉身と葉柄における伸長制御には、phyBとcry1依存的な光シグナルが必須であることが、明らかとなった。従って、光シグナル伝達系の下流に、葉身と葉柄の器官伸長を特異的に制御するための分岐点が、存在すると考えられる。また、ブラシノステロイド合成に関わるCYP90D1遺伝子の発現は、暗所での葉柄において強く誘導された。この結果は、葉身と葉柄における光シグナルの逆転は、すでにブラシノステロイド合成の制御の段階以前に起きていることを示唆する。光合成を担う葉にとって、この逆転の機構は、光環境適応性のための中心的な機構であると考えられる。これらの結果をふまえて、光環境と葉の伸長メカニズムについて考察する。
  • 勝又 政和, 岡野 陽平, 井澤 毅
    p. 549
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     イネフィトクロム欠損変異体se5は極端な早咲きで、光周性を示さない。このことは、短日植物イネの花芽形成における赤色光・近赤外光シグナルの重要性を示しているが、イネの花芽形成・光形態形成における青色光の作用はほとんど解析されていない。そこで、我々は優れた単色特性を持つ半導体発光素子を用いて、青色光・赤色光に対するse5の光形態形成、花芽形成応答、出葉頻度について解析した。
     各種光条件下での、第2葉・第3葉の葉鞘・葉身長の測定の結果、赤色光下では、se5の葉が野性株よりも伸長するのに対し、青色光下では逆にse5の葉長が野性株より減少することが明らかとなった。この反応は赤色:青色比率に依存的に変化し、葉鞘と葉身における応答にも差が認められた。また、赤色+青色光下では、se5は野性株に対し白色光下と同様の早生形質を示すが、赤色光単色下ではse5および野性株ともに開花遅延した。この結果は、長日植物シロイヌナズナが青色光による花芽形成の促進にフィトクロムを介した赤色光信号伝達を要求することと好対照である。また、赤色単色光下においてはse5の出葉頻度が野性株よりも遅延し、この遅延は青色光の添加により野性株と同等に回復した。イネのプラストクロンへの光信号の作用が示唆された。
     これら結果をもとに、イネにおける赤色光・青色光による葉の伸長、花芽分化、プラストクロンの制御についてシロイヌナズナの知見と比較しながら考察する。
  • 嘉美 千歳, 岩田 尚子, J. Clark Lagarias, 横田 明穂, 河内 孝之
    p. 550
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     高等植物の赤色/遠赤色光受容体であるフィトクロムは、フィトクロモビリン(PΦB)を発色団に持つ。我々はこれまでにフィトクロム発色団生合成の研究においてビリベルジンよりPΦBを合成する酵素に対するHY2 遺伝子を同定した。また関連してHY2 遺伝子と相同性を示すラン藻の遺伝子(pcyA )がフィコビリタンパク質の発色団、フィコシアノビリン(PCB)を合成する酵素をコードすることを明らかにした。PCBは、PΦBの代替化合物として外から加えると光可逆的なホロフィトクロム発色団を形成し、その光吸収極大はPΦBよりも約10-20nm短波長側にあることが明らかになっている。そこで、発色団の構造とフィトクロムの初発反応との関連について植物を用いて解明することを目的に、シロイヌナズナhy2 変異体を宿主にプラスチド局在型pcyA を過剰発現させ、PCBをフィトクロム発色団に持つ形質転換体を作出した。得られた形質転換体はhy2 が示す胚軸伸長や早咲きの表現型を相補した。単離フィトクロムの光吸収極大は野生型よりも短波長側へシフトした。また遠赤色光の連続照射における芽生えの胚軸伸長抑制が認められないことが明らかになった。つまり、PCB-フィトクロムはPΦB-フィトクロムの機能を部分的に相補するが、遠赤色光の認識にはPΦBの構造が重要であることが示唆された。
  • Shizue Yoshihara, Xiaoxing Geng, Mitsunori Katayama, Masahiko Ikeuchi
    p. 551
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    A unicellular cyanobacterium Synechocystis sp. PCC 6803 shows positive and negative phototaxis toward or away from the light source, respectively, via pili. Previously, we reported that the phytochrome-like photoreceptor, PixJ1 (formerly PisJ1), is involved in positive phototaxis of Synechocystis. In the present study, to examine the spectroscopic properties, histidine-tagged PixJ1 was expressed and isolated from Synechocystis cells. SDS-PAGE of the purified His-PixJ1 showed Zn2+-enhanced fluorescence, indicative of covalent binding of linear tetrapyrrole. Native His-PixJ1 showed maximum fluorescence at 640 nm and maximum excitation at 580 nm. Notably, the excitation peak of PixJ1 was significantly shorter in wavelength than that of the cyanobacterial phytochrome Cph1. It is speculated that PixJ1 binds phycoerythrobilin. However, Synechocystis genome does not apparently harbor homologs for the enzymes responsible for phycoerythrobilin biosynthesis. We will discuss a possible chromophore attached to PixJ1 and a role of PixJ1 in phototaxis in Synechocystis.
  • 岡島 公司, 吉原 静恵, 耿 暁星, 片山 光徳, 池内 昌彦
    p. 552
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     光合成を行うシアノバクテリアにおいては、光やレドックスの感知機構は重要である。ミドリムシや紅色細菌では最近、新規青色光受容体としてFADを結合するBLUFドメインがみつかっている。我々はシアノバクテリアのゲノム解析よりこのドメインをもつ機能未知の遺伝子を見出した。Synechocystis sp. PCC 6803において、その遺伝子slr1694を破壊すると、正の走光性が失われることを見出した。好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus elongatus BP-1におけるこのタンパク質のホモログTll0078の構造、機能を解析した。Tll0078タンパク質をHisタグの有無でそれぞれ大腸菌で発現させ、精製した。精製したタンパク質は酸化型のフラビンタンパク質特有の吸収スペクトルを示した。このフラビンはFADであり、非共有結合でタンパク質と結合していた。X線構造解析のための結晶化の条件検討を行ったところ、Hisタグの付いたものは凝集体を形成しやすかった。一方、タグのないものは分子量約160万のホモ10~12量体を形成していた。
  • 増田 真二, Carl E Bauer
    p. 553
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    紅色細菌より見つかった青色光受容体AppAは、光合成遺伝子特異的な抗転写抑制因子として機能する。このタンパク質のフォトサイクル反応を調べるために、青色色素であるフラビン(FAD)を結合するドメインの解析を行なった。C末端側を段階的に削ったいくつかの組み換えAppAタンパク質を精製したところ、フラビンはN端156残基までのドメインに非共有結合していることがわかった。この組み換えタンパク質は、全長AppAタンパク質と同様に青色光照射によりその吸収が長波長シフトするフォトサイクル反応を示した。ゲルろ過カラムを用いた実験により、光照射によるこのドメインの構造変化が確認された。これらの結果はAppAのフラビン結合ドメイン自身が、青色光受容機能を有することを示している。またこのドメインに保存されている21番目のチロシンをロイシンまたはフェニルアラニンに変えた変異タンパク質は、フォトサイクル反応を示さなかったことから、このチロシンの側鎖の水酸基がこの反応に重要であることが示唆された。
  • 望月 堂照, 恩田 弥生, 角山 雄一, 大庭 篤, 椎名 隆, 和田 正三, 豊島 喜則
    p. 554
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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     σ因子は葉緑体で働くバクテリア型RNAポリメラーゼ(PEP)のプロモーター認識サブユニットであり、シロイヌナズナでは 6種の核コードσ因子、sig1からsig6が存在している。近年、sig5の転写は他のσ因子とは異なり、赤色光では誘導されず青色光特異的に誘導され、これが、psbDなど特定の葉緑体遺伝子の青色光誘導転写の要因であることが示された。ここではsig5の青色光誘導転写に関わる青色光受容体について報告する。現在、青色光受容体として、シロイヌナズナではフォトトロピン(phot)1・2およびクリプトクロム(cry)1・2が知られており、これらの遺伝子欠損がsig5遺伝子の青色光転写誘導に与える影響を調べた。
     野生株とphot1phot2またはcry1cry2遺伝子の2重欠損株を各々、連続光照射下で生育させた後暗所で24時間適応させた。RT-PCRによりsig5の転写量を比較解析した結果、いずれの株でも転写産物は認められなかった。次に、青色光または赤色光を強度5μmol・m-2・s-1で90分間照射後sig5の転写量を解析した。その結果、phot1phot2欠損株では野生株と同程度の青色光特異的なsig5転写産物の蓄積が認められたが、cry1cry2欠損株では顕著に低下し、sig5遺伝子の青色光による転写誘導には2種のcry1・2少なくともいずれかが関与していることが示唆された。
  • 角山 雄一, 安田 浩之, 椎名 隆
    p. 555
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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     葉緑体中に存在する原核生物型転写酵素PEPは、転写反応を触媒する葉緑体ゲノムコードのコア酵素部分と転写開始を制御する核ゲノムコードのシグマ因子から成っている。シグマ因子遺伝子はこれまでに複数同定されており、高等植物においても原核生物同様、環境や成育段階に応じた因子の使い分けがなされていると考えられる。シロイヌナズナには6種のシグマ因子遺伝子(SIG1~6)が存在するが、それらの内SIG5のmRNAは青色光特異的に発現する。また、因子を一過的に発現させたプロトプラストを用いたRun-on転写実験では、Sig5は青色光応答性プロモーター(BLRP)を有するpsbD遺伝子の転写活性化に寄与していた。
     そこでまず、シロイヌナズナSIG5の配列情報を元にデータベース検索を行った。その結果、SIG5はイネをはじめ他の植物種にも広く存在することが判明した。イネSIG5についてノザンブロット解析を行ったところ、イネSIG5mRNAもシロイヌナズナ同様、青色光特異的に発現することが確認された。現在、既に確立しているコムギin vitro転写系を用いて、イネSIG5のPEPへの再構成実験を進めている。
  • 柴田 庸介, 長谷山 陽平, 太田 靖人, 鈴木 健裕, 亀井 綾子, 池内 昌彦, 太田 尚孝, 榎並 勲
    p. 556
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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     植物は常に強光、低温、酸性雨などの環境ストレスにさらされ、その生存のために細胞応答をしている。すでに強光あるいは低温などの環境ストレスに対する応答のメカニズムについては数多くの報告があるが、酸性ストレスについてはほとんどない。そこで我々は酸性pH条件をいろいろ検討した上で、ラン色細菌Synechocystis sp. PCC 6803をpH3.0の培地で30分~4時間培養した細胞と通常pH条件で培養した細胞からRNAを精製し、DNAマイクロアレイを用いて両者の遺伝子発現の違いを網羅的に比較した。その結果、低pHにより誘導される遺伝子をおよそ30個見い出した。これらの主な遺伝子の発現量の相違をノーザンハイブリダイゼーションにより確認した。さらにこれらの代表的な遺伝子破壊株を作成し、酸性ストレスに対する応答機構を解析しつつある。これらの結果についても報告する予定である。
  • 小林 佑理子, 長谷川 真由美, 一家 崇志, 小山 博之
    p. 557
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    酸性土壌での主要なストレス因子はアルミニウムの過剰障害であるが、マンガンや二価鉄の過剰障害、低pHそのものの害も知られている。一方、種子サイズは収量などの生産性に直接関係する形質であるばかりでなく、幼植物の不良環境でのサバイバル能力に関与すると言われる重要な形質であり、ストレス耐性と関連を持つか否か興味が持たれる。これまでに我々は新規Al耐性遺伝子を単離するためにシロイヌナズナを用い、複合形質であるAl耐性に関与するQTL(quantitative trait loci)解析を行ってきた。今回、Alストレスとその他の酸性土壌ストレス下での根伸長量並びに種子サイズの遺伝学的な関連性について調べる目的で比較QTL解析を行った。各形質について、LerとCol系統から作成されたRILs(recombinant inbred lines)の能力を数値化したところ、正規分布を示した。これらの形質値とNASC から入手した分離データを用いて、複合区間マッピング法、及び完全組み合わせ法により複数の単因子QTL及びエピスタシスによって支配されることが明らかとなった。また、各形質間に共通する遺伝子座が推定され、Al耐性とその他のストレス下での根伸長、種子サイズを共通に支配する遺伝要因が存在することが示唆された。また、Al耐性に関与するQTLに関しては準同質系統を作出中であり、マッピングの現状とともに報告する。
  • 小山 博之, 一家 崇, 小林 佑理子, 長谷川 真由美
    p. 558
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    酸性土壌は最も広く分布する不良土壌であり、一般に作物の生産性は低い。この土壌での作物の生産性を向上させるためには、複合的に存在するストレス因子の把握と個々の要因に対する耐性遺伝子の単離が必要である。先に報告したように、シロイヌナズナは酸性土壌ストレスであるAlイオン過剰及び低pHに感受性が高いが、両者の根伸長阻害は蛍光染色により区別することができる。これは、両ストレス因子が生理学的には区別できることを意味している。ここでは、200系統以上のシロイヌナズナアクセッションを、Al及び低PHストレス条件で水耕栽培し、シロイヌナズナ種内の耐性差を調べると共に、両ストレス耐性の相関を比較した。
     10倍希釈MGRL水耕液を基本溶液としてAl区(4 Mの塩化Alを含みpH5)若しくは低pH区(pH4.7)で、各系統10個体をナイロンメッシュに播種して1週間栽培した。上位3個体のデータを用いて各ラインの潜在的な耐性能力を比較した。集団内のばらつきの大きさを表すCV値は、対照区に比較してAl区が低pH区より大きいため、Al耐性を支配する遺伝要因がより多様であることが示唆された。両者間の相関は、低く耐性を支配する主要な遺伝要因は異なると考えられた。ところで、低pH区の相対根伸長には系統間で最大50%程度の差が存在することから、この形質を支配する遺伝要因が存在することが予測できる。
  • 林 芳武, 田野井 慶太朗, 中西 友子
    p. 559
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    植物の根の伸長を土壌中のAlが阻害することは以前から知られているが、その具体的なメカニズムはまだ解明されていない部分が多い。私たちは主要な穀物であり一般にAl耐性が高いといわれるイネ(トヨハタモチ、sabana6、IR72、IR36)とAl耐性が低いといわれるコムギ(ET8、ES8)を用いて、Alイオンの存在が植物体におよぼす影響を調べた。
    まず、Al濃度による障害程度の指標として、根の伸長阻害を測定した。その結果イネ4品種(トヨハタモチ、sabana6、IR36、IR72)とコムギのAl耐性種(ET8)の間ではAl感受性にはほとんど差が見られなかった。次に植物体内のカロース産生量を測定した。その結果、どちらの植物種においても根端から2~7mmの伸長部位においてカロースの蓄積と根の伸長阻害との間に強い関連があることが示された。現在、イネとコムギが根圏のpHをどうコントロールしているかをゲルとpH指示薬を組み合わせて測定している。また、ET8とES8のAl耐性の差の原因とされる有機酸量についてもイネとコムギの双方で測定している。さらに、細胞膜の損傷や過酸化障害の発生の有無についても調べており、それらの結果とあわせて報告する。
  • Jian Feng Ma
    p. 560
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    Silicon plays a significant role in the resistance of plants to multiple stresses including biotic and abiotic stresses. Although all plants rooting in the soil contain Si, the Si content of the top greatly varies with the plant species, ranging from 0.1 to 10.0% Si in dry weight. These differences have been ascribed to the uptake capacity of roots. Rice is a typical Si-accumulating plant and previous studies have shown that Si is actively taken up in the form of non-dissociated molecule, silicic acid. We characterized this transport system in rice and found that the uptake of silicic acid is mediated by a kind of transporter. This transporter contains Cys residue, but not Lys residue and has a low affinity for silicic cid (Km 0.32 mM). To clone a gene encoding the Si transporter, a rice mutant defective in Si uptake has been isolated and characterized.
  • 江崎 文一, 鈴木 正勝, 河村 雅子, 松本 英明
    p. 561
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     これまでにAlストレスに対して誘導性を示す遺伝子が多数単離されており、この中にはAl耐性に関連する遺伝子もある。しかし、Alストレスによる誘導機構そのものに関する解析はその後、進んでいない。また、誘導性機構の解明はストレス耐性を獲得するためにも重要であると思われるので、その解明を試みている。
     我々は既に、アラビドプシス由来のAl誘導性遺伝子である2つのグルタチオン-S-トランスフェラーゼ遺伝子 (AtGST1、AtGST11) のプロモーター領域とGUSリポーター遺伝子との融合遺伝子を持つアラビドプシス形質転換植物を構築している。今回これを用いて、各々の遺伝子のAlストレス条件下での発現時期と発現領域を蛍光定量法と染色法で検討した。その結果、AtGST1遺伝子は処理開始後約2時間目に主に葉で、AtGST11遺伝子は8時間目付近で葉と根で発現していた。プロモーター部位の塩基配列の比較から、Al ストレスに対する応答性の違いは、両プロモーター部位の塩基配列の違いによることが示唆された。さらにAtGST11遺伝子のプロモーター領域へ結合する発現調節の因子の有無を調べるため、単離した粗核抽出画分を用いてゲルシフトアッセイを行った。その結果、核因子が結合していると思われるバンドが見られたので、さらに狭い結合領域への絞り込みを行っている。
     
  • 小林 由樹子, 山本 洋子, 松本 英明
    p. 562
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     エンドウ(Pisum sativum cv. Alaska)において、アルミニウム(Al)は根端のAl集積部位に特異的に活性酸素を誘発する。本研究では、まず、スーパーオキシドアニオン(O2-)と特異的に反応して発光する2-methyl-6-(4-methoxyphenyl)-3,7-dihydroimidazo-[1,2-a]pyrazin-3-one hydrochloride (MCLA)および2-methyl-6-phenyl-3,7- dihydroimidazo-[1,2-a]pyrazin-3-one (CLA)を用いて、AlによるO2-の誘発部位を検討した結果、Alは細胞の内側と外側の両方においてO2-を著しく誘発していることを明らかにした。
     次に、O2-のスカベンジャーであるタイロンを用いて、AlによるO2-の誘発と根伸長阻害との関わりを検討した。PCV法により、10 μMのAlに対して25 μMまでのタイロンにはキレート効果が全く無いことが示唆された。そこで10 μMのタイロンを添加し、様々な濃度のAl (0-6μM)で24時間処理をした結果、タイロンはAlによるO2-の誘発を抑制するとともに、Al障害の指標である根伸長阻害とカロースの合成を完全に抑制した。
     以上の結果より、Alは細胞の内外ともにO2-を誘発すること、AlによるO2-の誘発は根伸長阻害の原因である可能性が示唆された。
  • Yuji Tanaka, Yusuke Matsuda
    p. 563
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    Diatoms are major photosynthetic microorganisms and contribute to nearly 25% the global primary production. The marine diatom Phaeodactylum tricornutum is isolated from brackish water area, where the salinity drastically changes from freshwater levels to seawater levels. Cells were cultured in F/2 enriched artificial seawater containing 0.1, 0.5 and 1.0 M of [NaCl]. Although cells required an acclimation period for several days, they grew well on whole spectrum of [NaCl] examined. Transferring cells grown on each [NaCl] to the distant levels of [NaCl] (i.e., from 0.1 to 1.0 M or from 1.0 to 0.1 M) efficiently arrested cell growth. The activity of Ci uptake was measured with newly developed GC technique and was shown to be enhanced by extra cellular [NaCl]. Given the results, P. tricornutum cells were shown to acclimate to wide range of [NaCl] and to enhance Ci uptake under high [NaCl] condition.
  • 稲田 真弓, 上田 晃弘, Weiming Shi, 高倍 鉄子
    p. 564
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    イネ科牧草である羊草(Aneurolepidium chinense)から塩ストレスで発現が誘導される遺伝子(AcPMP3)を単離した。羊草はモンゴル地方の半乾燥地帯に自生し、500 mMの塩化ナトリウムを添加した培養液中でも成育が可能である。そのため、この植物の環境適応機構を研究することは興味深い。
     AcPMP3遺伝子は、2か所の膜貫通領域を持つ54アミノ酸残基からなる蛋白質を作ると予測される。AcPMP3はノーザン解析の結果より、培養液へ500mM の塩化ナトリウムを添加した場合のほかに、4℃の低温処理、乾燥などの環境ストレス条件下でも発現が誘導されることが示された。
     また、塩ストレス条件下におけるAcPMP3の発現は、根の表皮や根端で認められた。高塩濃度に直接さらされる場所で発現しているこの遺伝子が、塩ストレス耐性に重要な役割を果たしているのではないかということが示唆された。
    また、GFPとの融合蛋白質を酵母菌のPMP3変異株に導入して、その局在性を解析したところ、AcPMP3蛋白質が細胞膜に局在することを明らかにした。
  • Ronan Sulpice, Hirokazu Tsukaya, Lazlo Mustardy, Hideko Nonaka, Tony H ...
    p. 565
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    Transformation with the codA gene for choline oxidase allows plants to synthesize glycinebetaine (GB) and enhances their ability to tolerate various kinds of stress. We examined the tolerance of transformed plants to salt stress at the reproductive stage, which is the stage at which plants are most sensitive to stress. Exposure of wild-type plants to salt treatment resulted in the abortion of floral buds and a decrease in the size and number of siliques. Microscopic examination of floral structures revealed that salt stress affected the development of all the flower organs. These effects were significantly reduced in transgenic plants. We postulated that the enhanced tolerance of the transgenic plants was a result of an accumulation of GB in the reproductive organs and in the shoot apices. We also observed an increase in the number of flowers produced in transgenic plants compared to wild-type plants, under both control and salt-stressed conditions.
  • 山本 昭洋, 沈 利星, 藤原 伸介, 米山 忠克, 臼井 健二
    p. 566
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    植物の塩ストレス感受性は様々な生理活性物質の処理により変化することが知られており、その変化は植物の必須元素によってももたらされる。また、細胞内に多量に含まれる低分子塩基性生理活性物質ポリアミンは、様々なストレス条件下で変化し、植物のストレス感受性との関連が示唆されている。そこで本研究ではイネにおける窒素栄養条件と塩ストレス感受性の関係ならびにポリアミン代謝との関係を明らかにすることを目的に行った。
    イネの新鮮重と葉身部のクロロフィル蛍光に対する塩ストレスの影響を調べたところ、通常の半分の窒素濃度で生育させたイネが他の濃度で生育させたイネよりも塩ストレスに対する感受性が低いことが示された。異なる窒素栄養条件下におけるイネ葉身部のポリアミン含有量を比較すると、窒素濃度に依存してポリアミン含有量が増加し、特にプトレシン含有量の変化が大きかった。また、塩ストレス条件下では窒素栄養条件によりポリアミンのうちプトレシンとスペルミジン含有量の変化が異なっていた。以上のことから、窒素栄養条件はイネの塩ストレス感受性に影響をもたらし、ポリアミン代謝は塩ストレス条件下で蓄積するアンモニアの解毒などに関与していると考えられた。
  • Ken-ichi Takane, Takako Toyama, Nobuyo Nishizaki, Miki Nakazawa, Minam ...
    p. 567
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    Map-based cloning techniques are widely used to identify the mutated gene(s) in plant, because chemical agents, such as EMS, are generally used to induce mutations. However, map-based cloning was used to be time consuming to identify the mutated gene(s).

    Whole genome sequence information has already been opened in Arabidopsis, we established a rapid and high throughput mapping technique, ARAMAP system, based on the information of single nucleotide polymorphism (SNP). To demonstrate the accuracy of this system, we performed SNP-based cloning for a floral internode mutant that we isolated from T-DNA tagging line. Although this mutant is well linked with T-DNA insertion, by using this system we could map to the same locus within two days in a region between 8.559Mb and 13.13Mb of a chromosome. We finished setting of functional markers on the five chromosomes of Arabidopsis in a interval of 0.26Mb to be able to fine mapping of mutant.
  • 中沢 宜彦, 中西 弘充, 田口 悟朗, 小島 峯雄, 松本 悦夫, 林田 信明
    p. 568
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    ハクサイ(Brassica rapa)は、同じアブラナ科のキャベツやダイコンと並んでわが国の主要な野菜の一つであり、その品質や生産効率の向上が育種上の重要課題とされている。しかし、一般社会の強い風当たりから、遺伝子組換え技術をはじめとするバイオテクノロジーの利用は敬遠されがちな状況である。そこで我々は、これらの技術によらない新しいハクサイ育種技術を開発することを目標に、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)マーカーによる効率的な連鎖地図の作成とハクサイ有用形質遺伝子座のQTL解析を進めている。
     我々は、いくつかの形質を異にするハクサイ親系統に対して、市販のランダムプライマー36種類を組み合わせて用い、合計666通りのRAPD多型分析を試みた。その結果、計100前後のRAPDマーカーを再現性良く検出することができ、それらを新規に連鎖地図上にマッピングすることができた。本発表では、得られた連鎖地図を用いて行った、ハクサイ抽だい性などの有用形質遺伝子座のQTL解析についても議論したい。
  • Yasukazu Nakamura, Takakazu Kaneko, Mitsuyo Kohara, Satoshi Tabata
    p. 569
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    We have been offering public access to the genomic information on
    Synechocystis PCC 6803 in CyanoBase
    (www.kazusa.or.jp/cyanobase). CyanoBase now contains information on
    additional three species. Two of them are cyanobacteria, Anabaena
    (Nostoc)
    PCC 7120 and Thermosynechococcus elongatus BP-1
    that are nucleated by us, and a Chlorobia, Chlorobium tepidum
    TLS nucleated in TIGR. Another web database, RhizoBase
    (www.kazusa.or.jp/rhizobase) provides information of two rhizobia,
    nitrogen fixing symbionts of the leguminous plants. We have
    determined the complete genome sequence of Mesorhizobium loti
    MAFF303099. The genome sequencing of its symbiotic partner Lotus
    japonicus
    is our ongoing project. The genomic information of
    Bradyrhizobium japonicum, the symbiont of soybean has been
    added. We will report the recent enhancements on services and
    interfaces. Offering more simple and efficient access will encourage
    the use of these bacterial genomic information by researchers.
  • 小林 正智, 安部 洋, 井内 聖, 小林 俊弘
    p. 570
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    理研筑波研究所バイオリソースセンター(BRC)ではナショナルバイオリソースプロジェクトの中核機関としてシロイヌナズナと植物培養細胞・植物遺伝子の事業を行っております。現在は主に理研で開発したリソースの保存・提供を行っておりますが、一般研究者からのリソースの寄託も広く受け付けております。現在提供可能な主なリソースはシロイヌナズナトランスポゾンタグライン種子、シロイヌナズナアクティベーションタグライン種子、シロイヌナズナ完全長cDNAクローンです。利用者は生物遺伝資源提供同意書(MTA)を取り交わし提供に必要な実費を支払うことにより、リソースを利用することができます。今後の事業計画も含め事業の内容を説明致します。
  • 島谷 善平, 矢崎 潤史, 藤井 文子, 真保 佳納子, 長田 夕子, 橋本 晶子, 石川 雅弘, 太田 智弥, 遠藤 大輔, 吉田 由美子 ...
    p. 571
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    2002年度年会にて報告したとおり、我々は8,987のESTクローンを選抜してcDNAマイクロアレイを作製し、イネの遺伝子発現解析を行うためのシステムを構築してきた。各ESTクローンのインサート全長、または遺伝子特異的領域 (3'-UTR) をプローブとして用い、Full Insertアレイと3ユ-UTRアレイを作製した。ABAまたはジベレリンで処理したカルスより得たサンプルを上記2種類のアレイにハイブリダイズさせた結果、発現比にして2倍以上の変動を示した遺伝子数はFull Insertアレイでは25、3'-UTRアレイでは117であった。Full Insertアレイは、gene familyの包括的な解析に適しており、3'-UTRアレイは、より遺伝子特異的な解析に適していることが示された。我々は、Full Insertアレイを用い、これまでに約1,300種類のRNAサンプルについて解析を終了している。これらの実験結果をイネ遺伝子発現データベース(RED)に格納しており、2002年12月に公開している。また、イネ完全長cDNAプロジェクトにより得られた29,000クローンから、マッピング情報に基づいて22,000の独立クローンを選抜し、単鎖オリゴヌクレオチド(60-mer)をプローブとしたオリゴヌクレオチドアレイの構築および評価を進めている。
  • 長田 夕子, 矢崎 潤史, 藤井 文子, 真保 佳納子, 島谷 善平, 橋本 晶子, 岸本 直己, 菊池 尚志
    p. 572
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    cDNAマイクロアレイ法は、ハイブリダイゼーションの原理に基づく遺伝子発現解析手法の一つである。一般にcDNAマイクロアレイ実験で得られる蛍光シグナルデータは、クロスハイブリダイゼーションによる蛍光シグナルデータが含まれていると考えられているため、「マイクロアレイデータが遺伝子発現状態を正しく反映しているか否か」をハイブリダイゼーションの原理に基づかない方法(RT-PCR法等)で確認する必要がある。
    演者らは、イネカルス(ホルモン処理区と対照区)から抽出したRNAを供試し、マイクロアレイを用いて実験を行った後、アレイ上の独立クローンに特異的なプライマーセットと、real-time RT-PCR法を組み合わせることによって、アレイデータの検証を行った。アレイ実験の結果に基づいて、遺伝子発現変動が認められたクローンをリストアップし、それらの特異的プライマーセットを用いたところ、約9割のプライマーセットではreal-time RT-PCRによる増幅が認められた。従って、発現変動を示したクローンの約1割については、アレイ実験の結果がクロスハイブリダイゼーションに起因すると思われる。更に、RT-PCRによる増幅が認められたこれらのプライマーセットのうち、約6割のプライマーセットにおいて、発現変動の方向(ホルモン処理区において発現上昇あるいは下降)がアレイデータと一致していた。
  • 日比 忠晴, 岩井 孝尚, 佐々木 克友, 矢崎 潤史, 石川 雅弘, 藤井 文子, 真保 佳納子, 島谷 善平, 長田 夕子, 橋本 晶子 ...
    p. 573
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     いもち病菌に対するイネの抵抗性機構を調べるために,いもち病菌の感染初期にその発現が変動する遺伝子をイネ9000 cDNAマイクロアレイを用いて解析した.また,イネの耐病性発現にエチレンが重要な役割を果たしている可能性があることから,エチレン前駆物質 1-aminocyclopropane-1-carboxylate (ACC)に応答する遺伝子も解析した.実験には,いもち病菌race 003に対し罹病性のイネ品種(cv. Nipponbare),および抵抗性のイネ品種(cv. IL7: いもち病抵抗性遺伝子Pi-iを有する準同質系統)を用い,その第4葉期植物の完全展開葉を供試した.イネにいもち病菌を接種し,抵抗性イネ品種に壊死病斑が生じはじめる接種42 hr後,及び,ACC処理し24 hr後に,total RNAを抽出し, microarrayに供試し遺伝子の発現変動を解析した.その結果,抵抗性イネで特異的にその発現が増大または減少するものは それぞれ,1,541と86クローン, ACC処理において発現が増大および減少するものは それぞれ,51と51クローンであった.両者で共通して上昇するものは28クローンあり,いもち病菌への抵抗性応答において特異的に発現が誘導される遺伝子の中にエチレンシグナル系に関与する遺伝子があることが推測された.その詳細について報告する.
  • 平井 優美, 矢野 美弦, 金谷 重彦, 有田 正規, 粟津原 元子, 藤原 徹, Dayan Goodenowe, 斉藤 和季
    p. 574
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     シロイヌナズナ全ゲノム配列の解読が終了し、遺伝子発現やタンパク質蓄積の網羅的解析によるシステムズ生物学が盛んになってきている。発現プロファイルやタンパク質プロファイルの変化は代謝物蓄積パターンのより複雑な変化をもたらしており、その理解は生命現象のメカニズムを解き明かす重要な手がかりとなり得る。近年GC-MSなどを用いた代謝物のハイスループットな網羅的解析が行われるようになり、メタボロミクス研究がなされるようになった。我々は、超高分解能を持つフーリエ変換イオンサイクロトロン(FT)-MSを用いたnon-targetedな網羅的代謝物プロファイリングを目指すと同時に、発現プロファイルとの統合により新たな知見を得ることを目的としている。
     硫黄欠乏および窒素欠乏条件下で約3週間水耕栽培した外見上は正常なシロイヌナズナのロゼット葉および根を植物材料に用いて、JCAA (The Japanese Consortium for Arabidopsis thaliana DNA Array)マクロアレイにより約9,000遺伝子の発現プロファイルを調べた。遺伝子発現はグローバルには硫黄欠乏と窒素欠乏とで同様のプロファイルを示すことが判った。また葉と根では異なる遺伝子群が栄養欠乏に応答していた。さらに、統計学的解析とクラスター解析により、硫黄欠乏および窒素欠乏で特異的に発現の変化する遺伝子を同定した。
  • 矢野 美弦, 平井 優美, 金谷 重彦, 有田 正規, 粟津原 元子, 藤原 徹, Dayan Goodenowe, 斎藤 和季
    p. 575
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     本大会における前報(遺伝子発現プロファイルおよび代謝プロファイル解析の統合による栄養欠乏応答機構の解明 I)と同一の植物材料、すなわち、硫黄欠乏および窒素欠乏条件下で約3週間水耕栽培した外見上は正常なシロイヌナズナのロゼット葉および根を用いて代謝物の網羅的解析を行った。超高分解能を持つフーリエ変換イオンサイクロトロン(FT)-MSにより1,000~1,500のマスピークを検出した。得られた精密m/zの値から化合物を同定するプログラムを開発し、KEGG (Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)などのデータベースを用いて化合物の同定・推定を進めている。一方で、未同定のピークであってもフィンガープリントとして利用できるため、グローバルな代謝プロファイルの変化を知ることが可能である。遺伝子発現プロファイルの場合と同じように、代謝物も硫黄欠乏と窒素欠乏とで同様のプロファイルを示すことが判った。またクラスター解析により、硫黄欠乏および窒素欠乏で特異的に蓄積量の変化する化合物(マスピーク)を同定した。
     以上のメタボローム解析の結果と、トランスクリプトーム解析の結果(前報)との統合によって明らかになってきたことを報告する。
  • Guy Hanke, Yoko Kimata-Ariga, Toshiharu Hase
    p. 576
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    Completion of the A. thaliana genome revealed that many well characterised proteins are represented by large numbers of genes. One challenge facing post genomic biology is to establish if this variety corresponds to redundancy, or whether the separate gene products have specialised functions. One such family of genes is that coding for ferredoxin (Fd). Fd is a 2Fe2S electron transport protein that donates electrons to many plastid enzymes essential for cellular processes, including nitrogen assimilation, sulphur assimilation, amino acid synthesis, fatty acid synthesis and redox regulation. The purpose of this project is to assign specific function to the varied members of the A. thalaiana proteome. We have purified recombinant A. thaliana Fd proteins and analysed their physical, electron transfer and protein interaction properties. This information indicates specific functions for separate proteins and may be applicable to the redox metabolism of all higher plants.
  • 川口 健太郎, 邑上 豊隆, 松葉 修一, 船附 秀行, 佐藤 裕
    p. 577
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    イネ葯の発生及びその低温阻害に関連する重要遺伝子の機能解明のため、葯特異的タンパク質のプロテオーム解析を行った。本講演では、レクチンブロット法を用いた解析結果について報告する。
    [方法]イネはファイトトロン自然光室(昼25℃夜19℃)にてポット栽培し、穂ばらみ期及び出穂期に葯を採取した。低温処理は穂ばらみ期に12℃4日行った。葯は緩衝液と共に磨砕、抽出液を濃縮、等電点電気泳動(IEF)、及びSDS-PAGEによりタンパク質を分離した。PVDF膜にプロッティング、HRP-レクチン溶液と反応後、発色処理しスポットを検出した。
    [結果]葯に蓄積するタンパク質のCBB染色検出では、発育時期及び低温処理によって特異的かつ再現性よく発現変動するスポットはほとんど認められなかった。市販7種レクチン(ConA,LCA,PNA,PHA-E,RCAI,UEAI,WGA)を用いて検出できたタンパク質は小胞子期よりも出穂期に多く、また、マンノース結合型レクチン(ConA,LCA)との反応が強い傾向があることが判明した。次に、ConAによる詳細な発現解析の結果、穂ばらみ期特異的で、かつ低温処理により発現低下または上昇するタンパク質をそれぞれ80kD、44kD付近に見いだした。現在、80kDスポットに着目し、構造解析を試みており、その結果を報告する予定である。
  • 松岡 正佳, 高濱 一貴, 長濱 一弘, 小川 隆平
    p. 578
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     ラン藻Synechococcus elongatus PCC 7942において、野生型S12リボソームタンパク質をコードするrps12遺伝子が優性のストレプトマイシン感受性マーカーとして作用することを利用したrps12媒介遺伝子置換法を以前に開発した。本研究では異種ラン藻Synechocystis sp. PCC 6803のrps12遺伝子を用いて遺伝子置換効率の改良を行った。
     PCC 7942のストレプトマイシン耐性変異株を宿主に用い、psbAI遺伝子をターゲットとして異種rps12遺伝子を組み込んだストレプトマイシン感受性部分2倍体を作成し、遺伝子置換を行った結果、約50%の効率で組換え体が得られた。ターゲット部位に組み込む異種rps12遺伝子のプロモーターが強いほど、部分2倍体のストレプトマイシン感受性表現型が安定化するので、宿主psbAIプロモーターと融合した異種rps12遺伝子をカナマイシン耐性遺伝子と連結したカセットを作成した。この遺伝子カセットは染色体への挿入・離脱が繰り返し可能なため、ラン藻ゲノムのマーカーフリー遺伝子置換が行える。
  • 田中 章子, 金子 康子, 松島 久, 鎌田 源司, 高橋 秀幸
    p. 579
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    キュウリの種子が発芽するときに、ペグと呼ばれる突起様構造が形成され、これがレバーとして働き、子葉から種皮をはがす。地上で水平に置いた種子では、重力により上側でのペグ形成が抑制され、下側(重力方向)に1個だけペグが形成されることが分かっている。本研究では、キュウリ種子の発芽過程で重力方向の感受から、ペグ形成の制御にいたるまでの細胞内構造変化を明らかにすることを目的とした。
     キュウリ種子は硬い種皮を持ち、発芽初期には固定液の浸透が困難であったので、新たな実験系の作製を試みた。吸水開始後4時間目の種子から種皮を除いた後、カミソリで根端部を約0.5mm、子葉とさらに茎頂部も約0.2mmを切り取った。残りの胚軸・幼根の一部(長さ約2.2mm)を水平に置いたところ、重力方向にペグを1個形成した。ペグの形成時期、大きさとも通常の種子を発芽させた場合とほとんど変わらなかった。根は重力屈性を示さなかった。この実験系を用いて、細胞内構造の変化を光学顕微鏡と電子顕微鏡により観察した。吸水開始後4時間目には見られなかった顕著なデンプン粒の蓄積が、吸水開始後8時間目にまず表皮および表層部で観察された。ペグの形成が確認できる24時間目以降には維管束鞘細胞にデンプン粒の集中が見られた。
  • 本瀬 宏康, 松林 嘉克, 坂神 洋次, 福田 裕穂
    p. 580
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     Phytosulfokine(PSK)は、植物細胞の分裂・分化に関与する硫酸化ペプチドホルモンである。ヒャクニチソウ管状要素分化系を用いた解析から、PSK の生産・分泌が管状要素分化に必要であることが初めて明らかになった。また、PSK が管状要素分化に必要な時期は培養 24 時間目から36 時間目であり、これに先立って ZePSK1 遺伝子が傷害によって誘導されることがわかった。
     PSK の生理的意義を浮き彫りにするためには、PSK の阻害剤を用いた解析が有効であるが、そのような阻害剤はこれまで知られていない。PSK の生理作用には 2 つのチロシン側鎖の硫酸エステル化が必須であるため、PSK の阻害剤の候補として硫酸化阻害剤が有望である。実際に、硫酸化阻害剤は管状要素分化を阻害し、この阻害効果は PSK 添加によって回復した。分化関連遺伝子の発現解析を行った結果、本来は一過的である傷害応答性の遺伝子発現が、硫酸化阻害剤を添加すると持続してしまうこと、PSK 添加により管状要素分化が回復する際には、傷害応答性の遺伝子発現が抑制されることがわかった。以上の結果から、PSK による傷害応答の抑制と損傷からの回復が管状要素分化に必要であることが示唆された。
  • 藤田 美樹, 篠原 直貴, 福田 裕穂
    p. 581
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    維管束組織は複数種の細胞群から成り、その秩序立った発生過程ではシグナル分子を介した細胞間相互作用が重要な役割を担っている。維管束形成時の細胞間相互作用を担う分子を認識するモノクローナル抗体を得る為に、ヒャクニチソウ管状要素分化系を用いて、分化誘導培地成分に対するモノクローナル抗体を作成した。抗体の作成にはファージディスプレイ抗体法を用い、5.1 × 10 7 個の独立した形質転換体を含むファージ抗体ライブラリーを作成した。このライブラリーから、管状要素分化に伴って出現する分子に特異的に結合するファージ抗体を得る為に、分化を誘導しない対象培地成分で差し引きするスクリーニングを行った。また、スクリーニングの過程で抗原と結合性を持ったクローンにも関わらず抗体提示率の低いクローンが選抜される可能性を考え、抗体提示率の高いクローンを選抜した。そのうちの 93 クローンについて組織特異性を見る為に組織免疫染色を行ったところ、全てのクローンがアポプラストを認識した。局在パターンはクローンによって異なり、維管束組織特異的にシグナルが見られるもの、維管束組織と葉肉細胞にシグナルが見られるもの、全体的にシグナルが見られるものがあった。このことから、このスクリーニングにより維管束での細胞外分泌性分子を網羅的に単離できることが分かると同時に、ある種の細胞外分泌性分子が組織特異性を持って分布していることが示された。
  • 伊藤(大橋) 恭子, 出村 拓, 福田 裕穂
    p. 582
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    維管束は木部、篩部、前形成層からなる複合組織であり、その形成は非常に秩序だっている。しかし、その分子機構の詳細は明らかになっていない。私達はこれまでに木部分化を細胞レベルで解析できる系を持つヒャクニチソウにおいて、HD-Zip型クラス IIIホメオボックス遺伝子ZeHB-10,-11,-12を単離し、これらの遺伝子が木部分化に関わることを示してきた。今回、同じくHD-Zip IIIに属する遺伝子ZeHB-13を新たに単離し、その発現解析を行った。その結果、ZeHB-13ZeHB-10,-11,-12と同様にin vitroで木部分化特異的に発現するが、木部分化過程での経時的な発現はZeHB-10,-11,-12に先立っていることがわかった。さらに、ZeHB-13ZeHB-10,-11,-12とは異なり管状要素分化の進行に必須なブラシノステロイドによる発現誘導を受けないこともわかった。また、植物体におけるZeHB-13の発現は維管束特異的に、特に前形成層に強く見られた。以上の結果はいずれも、ZeHB-13がZeHB-10,-11,-12よりも木部形成の初期に働くことを示しており、HD-Zip III遺伝子群が木部分化において各々異なる機能を持ち順次働くことで、木部形成がなされると考えられた。
  • 遠藤 暁詩, 福田 裕穂, 出村 拓
    p. 583
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    ヒャクニチソウ培養系では単離葉肉細胞から管状要素への分化転換を高頻度で誘導できる。この培養系に対するマイクロアレイ解析によってこれまでに、数多くの遺伝子群が管状要素分化と関連して発現調節されていることが示唆された。これら遺伝子群の機能解析を目的とし、近年我々は、エレクトロポレーションによるヒャクニチソウ培養細胞へのプラスミド導入系を開発した。この系では、プロトプラスト化を介さないことにより管状要素分化の頻度・同調性が維持され、プラスミドの導入効率はレポーターである 35S プロモーター制御下の GFP 発現から、細胞の約 1% 以上と見積もられた。そこで今回は、二本鎖 RNA を用いた遺伝子機能解析の可能性について検討した。まず GFP と相同な二本鎖 RNA を合成し、プラスミドと共に細胞へ導入したところ、GFP 発現の阻害が確認された。次に、セルロース合成酵素をコードする CesA 遺伝子をモデルとして、二本鎖 RNA 導入による管状要素の形態変化を調べた。その結果、管状要素の形態形成時に一過的に発現する CesA の二本鎖 RNA によって、2 割以上の管状要素に形態異常が認められた。このような二本鎖 RNA は、マイクロアレイ解析に用いた cDNA を鋳型に簡便に調製できることから今後、管状要素分化に関連して発現する遺伝子群について、迅速かつ多量な機能解析が可能であると考えられた。
  • 黒羽 剛, 岡田 清孝, 佐藤 忍
    p. 584
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     高等植物の不定根及び側根の形成には、茎あるいは根を切断することによりその上部での根の形成が誘導される、頂芽優勢に対応する「根端優勢」という現象が見られる。これには主に地上部から輸送されたオーキシンや傷害等が関与していることが知られている。一方、我々の研究により、根がサイトカイニンの一種であるトランスゼアチンリボシドを生産し導管を介して上側へ運ばれることによって、地上部での根の形成を抑制している可能性が示唆されている。本研究では、根の抑制的な制御機構に着目し、シロイヌナズナにおいて根端優勢が弱まった、つまり不定根や側根の形成が多く見られる突然変異体の単離及びその解析を試みた。ar-C12は不定根の形成が著しく、葉の上偏成長がみられ、遺伝子のマッピングを試みた結果、オーキシン生産に関わる遺伝子SUR2と同じ対立遺伝子であることが予想された。ar-C22は主根の成長が途中で停止し、側根を全く形成しない代わりに、胚軸上部から正常に伸長する不定根の形成が良く見られた。遺伝子のマッピングを試みた結果、ar-C22の原因遺伝子はサイトカイニン受容体をコードする遺伝子CRE1/WOLと同じ対立遺伝子であることが予想された。また、rot302は根の伸長が遅く、根の分枝が野生型よりも早い段階で見られ、さらに不定根の形成も顕著にみられた。この原因遺伝子は第3染色体上部に存在すると予想され、現在原因遺伝子の同定を試みているところである。
  • 木村 泰裕, 和田 拓治, 橘 達彦, 槻木 竜二, 岡田 清孝
    p. 585
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナの根の表皮細胞は根毛細胞と非根毛細胞のいずれかに分化する。CAPRICE (CPC) 遺伝子は根毛細胞分化の正の制御因子であり、非根毛細胞で強く発現することが分かっている。非根毛細胞特異的な発現に関わる CPC プロモーター上のシス配列を同定するために、我々は欠損型 CPC プロモーターを作成してそのプロモーター活性を解析した。その結果、CPC プロモーターの -267 から -336 の領域が非根毛細胞特異的な発現に必要であることが分かった。この領域には Myb タンパク質結合配列に相同性のある配列が存在し、その配列に変異を導入したプロモーターでは非根毛細胞特異的な発現は検出できなかった。根の表皮細胞分化に関わる Myb タンパク質は WEREWOLF (WER) と CPC それ自身が知られている。また CPC の転写は wer 突然変異体では減少していることが分かっている。我々は WER タンパク質が CPC プロモーターに結合しうることを酵母の one-hybrid システムにより明らかにした。これらの結果から、WER タンパク質が直接 CPC プロモーターに結合し、CPC 遺伝子の転写を活性化していることが示唆される。
  • 倉田 哲也, 粟井(川畑) 千絵, 佐野 亮輔, 岡田 清孝, 和田 拓治
    p. 586
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     私たちは制御タンパク質の細胞間移行のメカニズムの解明のために、根毛形成の正の制御因子であるCPCタンパク質の移行をモデル系として研究を行っている。これまでに演者らはCPCタンパク質が非根毛細胞から根毛細胞へ移行することをCPC:GFP融合タンパク質をCPCプロモーターで発現させた形質転換シロイヌナズナにより明らかにした。
     次にCPCタンパク質の移行能を担うドメインを同定するためにCPCタンパク質の欠失シリーズをGFPに融合させ発現させた形質転換体を解析した。これまでの結果、CPCタンパク質のアミノ末端及びMYB領域が移行に必要であることが明らかになっている。現在、さらに詳細な欠失シリーズを用い移行に必要な領域化を行っている。
     次に、移行の指向性を検定するために異所的にCPC:GFP融合遺伝子を発現させた。SCARECROWプロモーターで根の内皮に、またbHLH遺伝子であるMYC2プロモーターで根毛細胞に発現させたところGFPの蛍光は根の全ての表皮細胞の核で観察された。この事から、CPCタンパク質は全ての表皮細胞に移行し、そこで核移行する性質を持つことが明らかになった。さらに、細胞間移行の制御因子を同定するためにTwo-hybrid法により、上述の移行に必要なCPCタンパク質の領域と相互作用する因子を探索している。
  • 冨永 るみ, 杉山 淳司, 岡田 清孝, 和田 拓治
    p. 587
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     シロイヌナズナの根の表皮細胞は根毛細胞と非根毛細胞に分化する。この根の表皮細胞分化はCAPRICE (CPC), WERWOLF (WER), GLABRA2(GL2), GLABRA3 (GL3), TRANSPARENT TESTA GLABRA1 (TTG1)遺伝子等によって制御されている。
     これらの遺伝子欠損株で、根の表皮細胞の細胞壁成分を顕微フーリエ変換赤外分光分析装置(顕微FT-IR)を用いて解析した。顕微鏡で特定した部位へ赤外線を照射し未知試料の定性や定量に用いられる顕微FT-IRは、シロイヌナズナの芽生えのような微小で化学分析が難しいと思われる生物試料測定に適している。
     シロイヌナズナの芽生えをBaF2の窓板に貼り付け、顕微FT-IRで透過法測定したスペクトルから多糖類、タンパク質のピークを含む1800 - 900 cm-1の範囲を抽出し、ベースライン補正、スムージング、標準化処理したのち主成分分析を行った。その結果、cpc-1, gl3-1, ttg1-1, wer-1突然変異体のスペクトルは野生型とほぼ同じであったが、gl2突然変異体では野生型に比べてセルロース、ヘミセルロース含量が増え、タンパク質量が減少していた。以上のことから、GL2遺伝子は根の表皮細胞の分化を制御するだけでなく、根の表皮細胞の細胞壁構築へも関わっていることがわかった。
  • 渡辺 勝, 田中 博和, 町田 千代子, 町田 泰則
    p. 588
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物の表皮は個体表面を覆う一層の細胞層から成り立っており、水分の保持や病原体からの防御、さらに形態形成にも重要な役割を担っている。しかしながら、この表皮細胞の分化メカニズムは断片的にしか理解されていない。我々は表皮細胞分化の制御機構を明らかにする目的で、表皮細胞の性質が変化したシロイヌナズナの突然変異体を解析しており、トウモロコシの表皮細胞分化に関わる CRINKLY4 のシロイヌナズナホモログを単離し、Arabidopsis homologue of CRINKLY4 (ACR4) と名付けた (Tanaka et al., 2002)。ACR4 遺伝子は細胞外領域と細胞内のキナーゼ領域をもつ受容体型プロテインキナーゼをコードすると予測される。ACR4 遺伝子の生物学的な機能を調べるため、ACR4 遺伝子の T-DNA 挿入変異体を2系統単離した。acr4 変異体は劣性の変異体で、胚形成時には胚の原表皮細胞が野生型に比べて膨らみ、胚の輪郭が凸凹としていた。発芽後は低頻度で葉や葉柄が合着し、さらに胚珠や種子においても合着がみられた。透過型電子顕微鏡で種皮表面のクチクラを観察した結果、クチクラおよび最外層の細胞壁の形態が、野生型と比べて部分的に変化していた。本発表では、表皮細胞分化におけるACR4 遺伝子の役割について考察するとともに、現在当研究室で解析されている表皮細胞の性質が変化した変異体とacr4 変異体との二重変異体の解析結果についても紹介する。
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