日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第48回日本植物生理学会年会講演要旨集
選択された号の論文の1039件中701~750を表示しています
  • Ali Ferjani, Naoko Ishikawa, Tetsuya Hisanaga, Ushio Fujikura, Minoru ...
    p. 702
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    In Arabidopsis several mutations that decrease cell proliferation activity often trigger excessive cell enlargement, a phenomenon that we named as compensation. However, the nature of such organ-wide coordination between cell proliferation and expansion is still obscure. We isolated and characterized six mutants fugu1- fugu5 and erecta, together with an3 and KRP2 overexpressor, all of which exhibit compensation. Time course analysis of leaf development revealed postmitotic cell enlargement is mediated by either an increase in the rate or duration of cell expansion in fugu2 and fugu5, respectively. Thus, we chosed these two mutants for further analyses. As the first step of such studies, DNA microarray analysis where fugu2 and fugu5 were used as representatives revealed that substantially different sets of genes were affected between fugu2 and fugu5. Map-based cloning of FUGU2 gene revealed that it is the FASCIATA1 gene. We will discuss possible mechanisms of compensation based on our recent findings.
  • 栗山 英夫, 斉藤 奈央子, 出村 拓, 福田 裕穂
    p. 703
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    維管束細胞の分化における遺伝子発現の細胞特異性を効率的に解析した例はこれまでになかった。単離葉肉細胞から木部細胞や管状要素への分化を高頻度同調的に誘導できるヒャクニチソウ培養細胞系では管状要素細胞死がある種の有機物陰イオンの液胞への輸送を阻害する薬剤によって特異的に促進されることがわかっており、細胞死を起こした管状要素中に蓄積されていたmRNAは即分解される。我々はこれらのことを利用し、分化途中の生きている管状要素が多い培養段階で薬剤処理した培養液と対照の無処理の培養液から細胞を回収してmRNAを抽出し、約9,000のESTをもとにしたマイクロアレイで包括的な遺伝子発現解析を行った。
    その結果、経時的な発現解析において培養系内で管状要素形態形成時に合わせて一過的な発現パターンを示す遺伝子群の中にも細胞レベルでの管状要素特異性の程度に相当なばらつきがあることがわかった。
    これらの遺伝子のうちの発現パターン特性の異なるいくつかについてシロイヌナズナの相同遺伝子を推定し、そのプロモーター領域にレポータータンパク質をつないだコンストラクトを作製し形質転換植物を作出して観察したところ、培養系内での細胞特異的な発現パターンが維管束組織内での細胞特異的な発現パターンを反映していることを示唆する結果を得た。これらをもとに維管束細胞の分化機構、管状要素の細胞死/自己分解機構について考察する。
  • 西山 千晶, 上田 晴子, 白川 一, 嶋田 知生, 西村 いくこ
    p. 704
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    ミロシン細胞はアブラナ科に特徴的に存在する異型細胞であり,細胞内にはミロシナーゼというβ-グルコシダーゼを大量に蓄積している.ミロシナーゼはグルコシノレイト(カラシ油配糖体)を分解して害虫に対する忌避物質を生成することから,生体防御機構を担っていると考えられている酵素である.われわれの先行研究により,シロイヌナズナの液胞膜と液胞前区画膜に局在するSNAREタンパク質AtVAM3の変異体において、ミロシン細胞の数が異常に増加することが見出された(1).そこで,ミロシン細胞の分化メカニズムの解明を目的として,atvam3変異体の解析を行った.DNAマイクロアレイ解析の結果,atvam3変異体ではオーキシン関連遺伝子の発現が低下していた.atvam3変異体の幼植物体においては,オーキシン応答性レポーター遺伝子DR5::GUSの発現低下が見られた.ミロシン細胞が維管束に沿って分布することからオーキシン極性輸送阻害剤で処理したところ,維管束の分化パターン同様にミロシン細胞の分布も影響を受けることが示された.また,atvam3変異体では高次脈が顕著に減少し,野生型では見られない2次脈の不連続性が観察された.以上の結果から,ミロシン細胞の分化にはオーキシンが関与していることが示唆された.
    (1)Ueda et al. (2006) Plant Cell Physiol., 47,164-175
  • 岡本 暁, 佐藤 直人, 吉良 恵利佳, 中川 知己, 福原 いずみ, 佐藤 修正, 田畑 哲之, Jillian Perry, Trevo ...
    p. 705
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    マメ科植物は生長に応じて根粒の数を適切に制御する根粒形成の“オートレギュレーション”機構を持つことが知られており、根とシュートを介した遠距離シグナル伝達より構成されている。ミヤコグサから根粒形成のオートレギュレーションに関わる因子として単離されたHAR1は受容体型キナーゼ(RLK)をコードしており、シロイヌナズナの全RLKの中でCLAVATA1(CLV1)と最も相同性が高いことがわかっている。シロイヌナズナではCLV1は受容体型タンパクであるCLV2と複合体を形成し、CLV3ペプチドを認識することで茎頂分裂組織を制御すると考えられている。本研究ではミヤコグサもシロイヌナズナのCLAVATA様複合体を形成して根粒数を制御していることを想定し、ミヤコグサのゲノム情報解析からCLV2, CLV3と最も相同性の高いものを単離しそれぞれLjCLV2, LjCLV3とした。器官別発現解析ではLjCLV2は全身的に、LjCLV3HAR1と異なる器官で発現が検出された。また、LjCLV2の発現抑制体では根粒数の増加が見られたことからLjCLV2HAR1と同様に根粒形成のオートレギュレーションに関与することが示唆された。一方、LjCLV3の発現抑制体では根粒数には変化が見られず、シュートの帯化が見られたことから、LjCLV3は茎頂分裂組織を制御していると考えられる。
  • 石川 直子, 塚谷 裕一
    p. 706
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    シロイヌナズナより単離されたBOP1およびBOP2は、葉原基に有限性を与える上でに必要な遺伝子であり、シロイヌナズナの機能欠損型bop1/bop2二重変異体では、葉身基部と葉柄における異所的な葉身形成が起こり続ける。興味深いことに、野生植物の中には、葉身形成が永続的に起り、一見、シロイヌナズナbop1/bop2変異体とよく似た形態形成能を示すものがある。例えば、一葉性植物は一部のイワタバコ科植物に見られる特異な進化形態であり、典型的なSAMを持たない代わりに、2枚の子葉の片方のみに生じた基部分裂組織の活性により、葉が永続的に発達する。
    我々は現在、葉の有限性を司る機構をさらに詳しく知る一環として、イワタバコ科モノフィラエア属の一葉性植物の葉の無限成長が、BOP遺伝子の機能欠損によるものであるか否かを明らかにする解析を行っている。これまですでに、モノフィラエア属植物と、モノフィラエア属に近縁であるが葉が無限成長しないセントポーリア属植物より、BOPホモログを単離している。本研究では、それらBOP ホモログの発現部位を同定すると共に、それらBOPホモログをシロイヌナズナのbop1/bop2二重変異体に導入した形質転換体を作成し、機能的に相補しうるかを検討したので、その解析結果を報告する。またそれら結果に基づき、一葉性植物の葉の無限成長の機構についても考察する予定である。
  • 松村 葉子, 岩川 秀和, 上野 宜久, 町田 千代子, 町田 泰則
    p. 707
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    ASYMMETRIC LEAVES2 (AS2) は N 末に cysteine に富む C-motif(CX2CX6CX3C)、Conserved-glycine、及び leucine zipper 様配列からなる特徴的な約100アミノ酸の保存領域( AS2 ドメイン)をもつ植物に特異的なタンパク質をコードしている。as2 変異体は左右非対称な葉身を形成し左右非対称かつシンプルな葉脈パターンを示す。 AS2 は地上部において、正常な葉脈パターンの形成や葉の左右の協調的細胞分裂に必要であると考えられている。器官別ノーザンブロット解析により、根においても葉と同程度のレベルの AS2 転写産物の蓄積が見られることがこれまでに示されているが、 as2 変異体の根には顕著な異常は見られない。根におけるAS2 の機能を解明するため、AS2 プロモーターでドライブした GUS 遺伝子を導入した形質転換体(ProAS2 ::GUS)を用いて AS2 の発現場所を解析した。その結果、地上部では茎頂分裂組織と発達中の葉の向軸側において GUS の染色が見られた。それに対し根においても GUS の染色が見られ、その発現は主根及び側根の根端に限定されていた。また、葉における GUS の染色は葉が生育するに従って弱くなり成熟した葉では消失したが根端での発現は消失しなかった。現在 as2 変異体および AS2 過剰発現体における根端を観察しており、これらの結果から根における AS2 の機能を考察する。
  • 本瀬 宏康, 富永 るみ, 和田 拓治, 渡辺 雄一郎
    p. 708
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    植物の形態形成における位置依存的な成長制御機構を明らかにするため、胚軸表皮細胞が異所的な先端成長を起こすシロイヌナズナ新規突然変異体iboを単離した。ibo1の胚軸表皮細胞では細胞中央から異所的な先端成長が起こり、根毛に似た先端が丸い突起が形成される。また、本葉の葉柄や中肋の表皮細胞でも同様な突起形成が認められた。一方で、ibo1における根毛細胞・孔辺細胞・トライコームの分化パターン、根毛形成関連遺伝子GL2CPCSHV3 familyの発現は正常だった。ibo1の胚軸における異所的な突起形成は、GL2CPCを発現する非気孔細胞列で優先的に誘導された。ibo1の異所的な先端成長はエチレン合成阻害剤の添加により抑制され、エチレン前駆体の添加により回復した。cpc-1 ibo1の二重変異体は相加的な表現系を示し、胚軸の異所的な突起形成および根毛形成の抑制が観察された。これまでの結果と進展状況をまとめ、異所的な先端成長を抑制するIBO1の機能について考察する。
  • 岩川 秀和, 高橋 広夫, 岩崎 まゆみ, 小島 晶子, 小林 猛, 町田 泰則, 町田 千代子
    p. 709
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    植物の葉は茎頂メリステムから発生し、基部先端部軸、向背軸、中央側方軸に沿って成長する扁平で左右相称的な器官である。我々は葉の左右相称的な形成のメカニズムを調べるために、葉身の切れ込みのパターンが左右非対称的なシロイヌナズナのasymmetric leaves2 (as2)とas1変異体を解析している。これまでに、AS2AS1遺伝子は共同して機能し、class 1 KNOX遺伝子であるBPKNAT2KNAT6の発現を抑制することがわかっている。AS2は植物に特有のAS2/LOBドメインを持つ蛋白質をコードしている。AS1はMYB様の転写因子をコードしている。酵母Two-Hybrid Systemを用いた解析と細胞内局在の解析から、AS2とAS1蛋白質は相互作用して細胞の核内で機能していると考えられる。as2及びas1変異体の子葉では向軸側の細胞数が増加して葉は下向きにカールするが、AS2を過剰に発現する植物(as2-1/pAS1::AS2)の子葉では、向軸側の細胞数が減少して葉は上向きにカールする。AS2AS1の下流で機能し、扁平で左右相称的な葉の形成に関わる遺伝子を調べるためにマイクロアレイ解析を行った。野生型、as2-1as1-1as2-1/pAS1::AS2、及び35S::AS1における遺伝子発現プロファイルを調べた。発現プロファイルによって遺伝子をクラスタリングし、BPと同じ発現制御を受けていると考えられる候補遺伝子を得た。これらの遺伝子はAS2AS1の下流で機能し、扁平で左右相称的な葉の形成に関わっている可能性が考えられる。
  • 栗田 学, 渡辺 敦史, 谷口 亨, 藤澤 義武, 近藤 禎二
    p. 710
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    スギ(Cryptomeria japonica D. Don)は、わが国の主要な造林樹種であり、日本人の生活に深く関わってきた。遺伝子組換え技術による特定形質の付与は、より社会から求められる品種の作出を実現すると期待される。しかし、組換え体を野外に出すにあたり、導入遺伝子の同種野生植物への拡散が懸念されている。その媒体となるのが花粉であるが、花粉を作らなくすればその可能性は軽減される。さらにスギの雄性不稔化は、現在、社会問題化している花粉症問題の緩和にもつながる。このような効果をもつ組換え無花粉スギの作出を見据えて研究を進めている。
    我々は、スギの雄花形成に関与している遺伝子群を明らかにするために、スギの雄花特異的に発現する遺伝子の単離に着手した。2005年に採取したスギの雄花及びシュート由来のcDNA群を用いてSuppression Subtractive Hybridization法をおこなった。今回、テスターには雄花から抽出したRNA由来のcDNA群を、ドライバーにはシュート由来のcDNA群を用いた。作製したSubtracted libraryからクローンを単離し塩基配列の決定を行いBLAST相同性検索をおこなった。その結果、11月25日のSubtracted libraryからはヒマワリにおいて葯特異的に発現する細胞壁タンパク質、SF18と高い相同性を示すクローン等いくつかの候補遺伝子が単離された。現在異なる時期のSubtracted libraryから雄花で特異的に発現する遺伝子の単離を試みている。
  • 林 晋平, 冨永 るみ, 黒森 崇, 和田 拓治, 篠崎 一雄, 平山 隆志
    p. 711
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    我々は、根毛が先端成長初期で破裂し伸長停止する劣性の変異株を理研のシロイヌナズナDsトランスポゾン挿入変異ラインより分離した。この変異株15-1096-1はGlycosylphosphatidylinositol (GPI) アンカータンパク質をコードする遺伝子にDsトランスポゾンが挿入されており、shv3 (Parler et al., 2000; Jones et al., 2006) のアリルであることがわかった。SHV3とGFPの融合タンパク質はGPIアンカーの性質と一致して細胞表層に局在した。シロイヌナズナにはSHV3と類似の構造をもつ遺伝子が6つ存在し、これらの発現部位には重複と分散がみられた。我々はこれらの単一および多重変異体の解析を試みた。SHV3ともう1つの遺伝子の二重変異体ではリグニンの異常な蓄積や黄化植物胚軸の短小化など、異常な細胞壁をもつ細胞伸長変異体でみられる表現型が観察された。また、特殊化された細胞壁をもつことで知られる孔辺細胞の形状にも変異の影響がみられた。さらに、フーリエ変換赤外分光光度計を用いた分析などから二重変異体が野生型とは異なる細胞壁成分をもつことが示された。以上の結果はSHV3およびそのパラログが細胞伸長の調節に必要な細胞壁構築に関わる新しい因子であることを示唆している。
  • 宮島 俊介, 橋本 隆, 中島 敬二
    p. 712
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    高等植物の根は、根端分裂組織に由来する細胞によって形成される。根端分裂組織では、静止中心(QC)とよばれる分裂活性の低い細胞群に接して幹細胞が存在する。それぞれの幹細胞は一定のパターンで細胞分裂し、QCより基部側組織(表皮、皮層/内皮、中心柱)、もしくは頂端側組織(コルメラ)を形成する細胞を供給する。これら幹細胞の維持機構については、未だわかっていない点が多い。過去の実験から、根の組織形成には相補作用があることが分かっている。すなわち、幹細胞が人為的に破壊されても他組織の細胞が流入し、機能的に相補する。またそのため、細胞パターンの乱れが生じることがある。この事は幹細胞を正常に維持できない変異体においても根の生長には顕著な異常を示さず、むしろ相補作用によって細胞パターンに異常を示す事を示唆する。
    我々は根端分裂組織における幹細胞維持の分子機構を明らかにするため、約2400個体の変異原処理したシロイヌナズナM2植物から、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、根端部の細胞パターンに異常をもつ複数の変異体を単離した。これらのうち、中心柱の細胞増殖に異常をもつ5GF-17変異体について原因遺伝子をポジショナルクローニグ法により同定したところ、WD40モチーフをもつ新規タンパク質をコードしていた。本発表において、これらの変異体の表現型を報告し、原因遺伝子の機能について討論したい。
  • 和氣 貴光, 橋本 隆, 中島 敬二
    p. 713
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    我々は、人工転写活性化因子GAL4:VP16 (GV)とその結合配列UASを利用したアクティベーションタギング法を用いて、シロイヌナズナの根のパターン形成に異常を示すUAS-tagged root patterning : (urp)変異体をこれまでに8つ単離している。
    これらのうち、urp4-1Durp5-1Dはどちらも根の側部根冠及び表皮細胞の分裂が亢進されるという表現型を示す。2つの変異体では、UASは植物に特有な転写因子様タンパク質をコードする相同な遺伝子の5'上流に挿入されていた。さらに、表現型とUASの挿入が共分離することや、再形質転換体実験から、これらの遺伝子が原因遺伝子であることを同定した。また、植物体においてGFP融合タンパク質は核局在を示した。UAS-URP4の再形質転換体は元の変異体より強い表現型を示し、発現組織はカルス様となった。この形質転換体ではカルス特異的に発現する遺伝子が誘導されており、また野生型植物のカルスでURP4のプロモーターは転写活性を示した。さらに、URP4URP5の過剰発現体においては他の相同遺伝子の発現も促進されていることから、遺伝子ファミリー間による相互の発現制御が生じている可能性が示唆された。以上の結果はURP4とURP5が細胞の増殖を正に制御、あるいは細胞分化を抑制する機能を持つことを示唆している。現在、マイクロアレイ解析による標的遺伝子の同定など、さらに詳細な解析を進めている。
  • 古谷 将彦, 田坂 昌生
    p. 714
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    オーキシンの極性輸送は、器官形成、胚の軸形成、維管束のパターン形成や屈性反応など、高等植物の生活環の様々な場面で重要な働きを示す。しかし、その出発点である生合成については、いまだほとんど分かっていない。我々はオーキシンの出発点を同定することを目的として、これまでにオーキシン生合成に関与することが報告されている遺伝子の発現解析を胚に対して行った。CYP79B2, CYP79B3, YUCCA1, 2, 3, 4, NIT1, 2, 3, AAO1、計10遺伝子について解析を行った。その結果、胚発生期において、これらの遺伝子が時期および組織特異的に発現することが分かった。その中でも特に、オーキシン生合成の律速因子YUCCA遺伝子群の発現パターンは、これまでに想定されているオーキシン生合成部位と極めて一致するものであった。次に、YUCCA遺伝子群の機能を調べるため、機能欠失変異体の表現型解析を行った。いずれのyucca単独変異体は表現型を示さず、機能重複的に働いていることが示唆された。多重変異体を作成したところ、ある組み合わせで胚性器官および花器官の形成に異常が観察された。これらのことから、YUCCA遺伝子群がオーキシン極性輸送の起点として機能する可能性が示唆された。
  • 檜山 智美, 樋口 洋平, 小野 公代, 鎌田 博, 仁田坂 英二, 鳴海 貴子, 高木 優, 小野 道之
    p. 715
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    CRES-T法は、EARモチーフ(リプレッションドメイン)を任意の転写因子と融合し、転写抑制因子(キメラリプレッサー)に機能改変するシステムであり、機能の重複した転写因子群に対しても優性に抑制効果を発揮する、画期的な遺伝子サイレンシング技法として期待されている。我々は、花の形質に関与する転写因子のキメラリプレッサーを導入した形質転換アサガオの形質評価を進めている。AGSRDX導入個体では萼と花弁と雄蕊の発育が抑えられ、蕾の初期から雌蕊の先端が萼よりも突出した形態を示した。これは予想されたC-classのMADS-boxの変異ではなく、むしろB-classのそれに近い形態であった。RT-PCRを用いてアサガオの内生の相同遺伝子の発現を調べた結果、B-classのMADS-box遺伝子PnAP3PnPIの発現に変化が観察された。また、AP3SRDX導入個体では、花を含め形態変化は観察されなかった。これらの結果は、アサガオにおいてもCRES-T法が機能することを示す一方で、転写因子機能の多面性や植物種による違いが反映されている可能性を示唆している。予想された表現型を示さなかった理由、植物種による転写因子機能の違いによる可能性等を検証するため、アサガオの内生の相同遺伝子を用いた解析を進めている。
    本研究は農林水産省「先端技術を利用した農林水産研究高度化事業」によるものである。
  • 佐藤 壮一郎, 綿引 雅昭, 山本 興太朗
    p. 716
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    私たちは、オーキシン応答に関わるシロイヌナズナMSG2遺伝子の発現解析をRNAブロット解析やプロモーターGUSレポーター遺伝子を用いて行ってきた(Tatematsu et al., 2004)。本研究ではホタル・ルシフェラーゼ(LUC)発光を利用して、ライブイメージングによる遺伝子発現の時空間解析を行った。長さ3 kbのMSG2プロモーターとLUCの融合遺伝子を作製し、形質転換シロイヌナズを作出した。超高感度カメラでLUCシグナルを経時的に観察した結果、黄化芽生え胚軸でのプロモーターLUCシグナルは、プロモーターGUSの結果とよく似ていて、胚軸上部で強いシグナルが見られ、根のシグナルはずっと弱いものの、側根原基でシグナルが見られた。これらシグナルはオーキシン誘導性を示した。さらにLUCと野生型または優性突然変異型MSG2の融合タンパク質をMSG2プロモーターで駆動する融合遺伝子を作製し、MSG2タンパク質の分布を調べた。LUC-MSG2のシグナルは、プロモーターLUCのシグナルよりずっと低く、LUC-msg2のシグナルはLUC-MSG2より高かった。シグナルは胚軸で強く、根で弱かった。野生型、変異型、ともに、オーキシン処理によってシグナルが一時的に増加し、その経時変化は同様だった。本研究では初めてAux/IAA遺伝子の発現様式を生きている植物で連続的に観察することに成功した。
  • 石田 宏幸, 吉本 光希, Reisen Daniel, 牧野 周, 大隈 良典, Hanson Maureen, 前 忠彦
    p. 717
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    これまで私たちはコムギ老化葉においてRubiscoやグルタミン合成酵素が小胞RCB(Rubisco-containing body)を介して葉緑体外に放出、分解されている可能性を免疫電顕により見出した。本研究ではストロマにターゲットされるGFPやDsRed(CT-GFP, CT-DsRed)を発現するシロイヌナズナ形質転換体を用いたRCBの生葉における可視化法の確立と、RCBの形成、分解におけるオートファジー機構の関与の可能性について検討した。CT-GFPを発現する形質転換体の葉を飢餓条件下でコンカナマイシンAを加えインキュベートすると、液胞内にGFP蛍光を持つ小胞の蓄積が確認された。抗RBCL及び抗GFP抗体を用いた免疫電顕の観察により、このGFP小胞がRCBであることが確認された。生細胞におけるRCBの蓄積はオートファジー遺伝子欠損変異体Atatg5-1では全く観察されなかった。加えてCT-DsRedとオートファゴソームのマーカーであるGFP-ATG8融合タンパク質を共発現するする形質転換体の葉を同様の条件でインキュベートすると、液胞内に蓄積する小胞においてDsRedとGFPが共局在することが確認された。以上の結果は、ストロマタンパク質のRCBを介した葉緑体外への放出、分解にはATG遺伝子に依存したオートファジーが関与していることを示している。
  • 和田 慎也, 石田 宏幸, 吉本 光希, 大隅 良典, 牧野 周, 前 忠彦
    p. 718
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    葉の老化過程において、葉緑体タンパク質の分解は、新器官や子実での窒素の再利用を目的とした窒素転流機構の一つとして引き起こされる。中でもRubiscoは、単一タンパク質として葉の全窒素量の12‐35%を占め、主要な転流窒素源となっている。コムギやオオムギの葉の老化過程において、Rubisco量の減少は葉緑体数の減少よりも先だって起こることから、Rubiscoは葉緑体内で分解されるか、あるいは小胞RCB(Rubisco-containing body)としてオートファジー様の機構により液胞に輸送され、分解されると考えられている。本研究では、シロイヌナズナ野生株およびオートファジー欠損変異株、Atatg4a4b-1の葉の老化過程における葉緑体数、Rubisco量、クロロフィル量、及び窒素量の変化について調べた。
    野生株、Atatg4a4b-1の老化過程において、Rubisco量、窒素量、及びクロロフィル量は、Rubisco量が8割方減少する老化後期まで、両株間で同様な減少を示し、その後、変異株においてのみ解析ができない程度に老化が促進した。一方、細胞あたりの葉緑体数はRubiscoがほぼなくなる老化後期まで一定であった。これらの結果、Atatg4a4b-1の細胞は、老化の後期まで、野生株と同等の葉緑体タンパク質分解ポテンシャルを維持していることが明らかとなった。
  • 浅田 裕, 筒井 友和, 山本 雅子, 池田 亮, 山口 淳二
    p. 719
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    植物の免疫活性化は、防御関連遺伝子の発現のみならず細胞死を伴うことがある。この細胞死には、病原体の全身感染を抑制する働きがあり戦略的細胞死と考えられている。このような細胞死形質を恒常的に示すシロイヌナズナ突然変異体cad1constitutively activated cell death 1)を単離した。cad1変異体では、病原性細菌に対する抵抗性を獲得していたことから、この変異体の細胞死形質は免疫機構に関与することが明らかとなった(Plant Cell Physiol. 2005, 46: 902-912)。
    cad1変異体では内生ジャスモン酸の上昇、ジャスモン酸およびエチレンによって誘導されるPDF1.2遺伝子の発現が確認された。これらの結果はcad1変異体が示す抵抗性に、ジャスモン酸およびエチレンの情報伝達に関与する転写調節因子であるERF遺伝子が関わっていることを示唆している。マイクロアレイ解析を行ったところ、いくつかのERF遺伝子がその候補としてあげられた。現在、これらのERF遺伝子群に着目して検証を進めている。
  • 三井 涼子, 窪田 まみ, 井上 雅好, 三野 真布
    p. 720
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    幼苗致死するタバコ種間F1雑種より誘導した培養細胞GTH4は37℃では抑制される細胞死が26℃では急速に進行する。阻害剤を用いた実験から26℃での細胞死の進行は37℃での遺伝子発現とタンパク質合成に依存することが分かっている。他方、この細胞に由来する突然変異細胞GTH4Sは26℃でも細胞死がおこらない。このことは37℃でのGTH4とGTH4Sの遺伝子発現の違いが26℃での細胞死の実行に直接係ることを示唆する。両細胞系の発現遺伝子の差異から細胞死に関連する遺伝子を検索する目的でcDNAライブラリに対するdifferential screeningを試みた。実験は37℃で培養したGTH4より調整したcDNAライブラリに対し、GTH4またはGTH4SのRNAから調整したcDNAプローブを用い行った。これまで約10万クローンをスクリーニングしGTH4に特異的な3クローンを得た。塩基配列の部分相同性から、一つはN.tabacum ミトコンドリアNADH dehydrogenaseに、残り二つはナス科植物の葉緑体ゲノム配列と一致した。さらにスクリーニングを進め、またGTH4に特異的な遺伝子の発現パターンを調査中である。
  • Zhou Yuping, 藤部 貴宏, Wang Xiaolan, Cheng Huizhen, 山本 興太朗, Tian Chang-en
    p. 721
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナのIQモチーフを持つタンパク質IQM1の遺伝子のT-DNA挿入破壊株をSalk T-DNA系統から2系統得て、その表現型を調べた。IQM1は488アミノ酸残基からなるタンパク質で、カルシウムイオンなしでカルモジュリンに結合するIQモチーフを持つ。その遺伝子は9個のエキソンから成るが、iqm1-1iqm1-2ではT-DNAはそれぞれ第1エキソンと第6イントロンに挿入していて、RT-PCRによれば挿入部位より下流の配列は転写されていなかった。両方の破壊株で主根の成長が野生型より約30%低下していた。auxin-response factor (arf) 8-1 (Tian et al., 2004)は主根の成長は正常だが、二重突然変異体arf8-1 iqm1-2の主根の成長はiqm1-2より更に低下していた。RT-PCRによってIQM1の発現を調べたところIQM1の発現は光誘導性で、暗所ではARF8によって正に調節されていた。IQM1の一部はエンドウで単離されたストレス誘導性タンパク質に似ていたので(Savenstrand & Strid, 2004)、乾燥や塩の効果を調べたところ、これらのストレスによっても発現が誘導された。以上の結果から、IQM1はカルモジュリンとさまざまな環境要因のシグナルを統合する因子である可能性が示唆された。
  • 藤井 義晴, 菅野 真実, 橋爪 健, 平舘 俊太郎
    p. 722
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    揮発性物質によるアレロパシー作用を検定するディッシュパック法(DP法)を用いて、外来植物のアレロパシー活性を検定した。DP法は、組織培養用6穴マルチディッシュの端の穴に植物体2gを裁断して入れ、その他の穴にはろ紙を敷き、レタス種子を7粒入れ、蒸留水0.7mlを加えた。容器を密封し、25℃暗黒条件で4日後に幼根長、下胚軸長を測定した。ディッシュ内の空気を、シリコンゴムセプタムを介してガスタイトシリンジで採取し、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)で揮発性物質の種類と濃度を分析した。
    この方法で、新たに導入する外来植物から放出される物質による作用を検定した。各種植物から放出される揮発性成分を直接採取してGC-MSにて同定した結果、ケシ科、マメ科の草花は、青葉アルコール、青葉アルデヒド等のC6カルボニル化合物を主成分として含み、揮発性物質による阻害作用が強かった。これに対し、キク科、シソ科の草花はテルペン系化合物を放出するが、植物阻害活性は弱い。クレオメ類(Cleome spinosa, C. hasslerana, C. speciosa,セイヨウフウチョウソウ、フウチョウソウ科)は最強の活性を示し、その作用物質はメチルイソチオシアネート(Methyl isothiocyanate, MITC)であった。新たに導入したクレオメ類のディッシュパック法による検定とMITC量を測定した。
  • 菅野 真実, 橋爪 健, 平井 久雄, 平舘 俊太郎, 藤井 義晴
    p. 723
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    外来植物の導入の際に、環境に影響を及ぼす可能性のあるアレロパシー活性を評価する手法として、葉から溶脱する物質による作用を検定するサンドイッチ法(SW法)、根から滲出する物質の作用を検定するプラントボックス法(PB法)を用いて、外来植物の活性を検定した。
    SW法による検索の結果では、10mgを供試したとき、結果は正規分布した。セイバンモロコシ、セトガヤ、カタバミ、およびバラ科植物が強い活性を示し、トウダイグサ科、マメ科植物がこれに次いだ。イネ科では近年、果樹園下草管理に導入されているナギナタガヤも活性が高かった。
    PB法による検定の結果、マメ科のVicia属、クラウンベッチの類、コメツブツメクサ、イネ科のマドリードチャヒキ、Avena strigosa, Brachiaria 属、カラスムギの類、アブラネ科のナタネハタザオなどの活性が強かった。また、新たなワイルドフラワーでは、Clarkia unguiculata, Gypsophila paniculata, Oenothera hookeri, Trifolium incarnatum, Ipomopsis rubra, Silene armeria, Anisantha madritensisが強い阻害活性を示した。マメ科レンゲは活性が弱いが、類縁の沙打王やオウギの類は強い活性を示した。
  • 小西 美稲子, 柳澤 修一
    p. 724
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    Dof転写因子は植物特異的な転写因子であり、様々な植物種において生長や発達、ホルモン応答、環境シグナルへの応答に関与していることが報告されている1,2。シロイヌナズナには36個のDof遺伝子が存在するが、そのうちの限られた遺伝子についてのみ解析結果が報告されており、大半は未解析のままである。本発表では、シロイヌナズナの未解析Dof遺伝子の発現解析と機能解析を行い、このDof遺伝子が維管束形成に関わっている可能性が示唆されたので報告する。まず、このDof遺伝子のプロモーターの下流にGUSを融合させた遺伝子を導入した形質転換植物を解析したところ、胚、葉原基、根端などにおいて、維管束の前駆細胞でのみGUSの発現が見られた。次に、このDof遺伝子の生理的役割を明らかにするために、過剰発現体を複数系統、作成して解析を行なったところ、過剰発現体では子葉、本葉の維管束のパターンに異常が見られ、発現量が多い系統では葉がカールするという表現型も観察された。過剰発現植物では、HD-Zip III型転写因子のmRNAレベルには野生型との違いは見られなかったが、サイトカイニン応答性遺伝子のmRNAレベルの減少が見られた。現在、さらに詳細な解析を行なっており、それについても合わせて報告する予定である。
    1. Yanagisawa S (2002) Trends Plant Sci 7:555-560, 2. Yanagisawa S (2004) Plant Cell Physiol 45:386-391
  • 大庭 一井, 井上 雅裕
    p. 725
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    暗所で生育したトウモロコシ芽生えは光照射により中胚軸の伸長成長が強く阻害される。以前の研究で、短時間の光照射が中胚軸の水分量と還元型グルタチオン(GSH)濃度を10~40%減少させることから、細胞の吸水力低下及びGSH消費が光成長阻害の原因であることが示唆された。本研究では光成長阻害における水分量とGSHの役割を明らかにするために、中胚軸の成長とGSH濃度に対する湿度条件とGSH合成阻害剤(BSO)の影響を調べた。まず、密封した湿度100%の容器の中で200 μM BSOを含む0.8%寒天上で植物体を4日間育て、中胚軸の成長とGSH 濃度を測定した。その結果、コントロール(-BSO)に較べ、成長は25-33%、GSH濃度は37-45%低下していた。それらの植物体に光を照射したところ、-BSO、+ BSO処理の両方で、光による成長阻害とGSH減少は見られなかった。つまり高湿度条件下では光成長阻害が起こり難いことがわかった。これらから、光成長阻害は水分条件に依存して生じること、また、GSHの減少はその直接の原因ではなく光による水分低下やダメージを補償する変化であることが示唆された。
  • Madoka Ayano, Tadao Asami, Syouzou Fujioka, Shigeo Yoshida, Yukihisa S ...
    p. 726
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    It has reported that the Brassinosteroids (BRs) function as a positive regulator of photomorphogenesis unexpectedly. To understand true functions of BRs, we analyzed expression levels of BR-related 4 genes (DWF4,BR6ox2,BR6ox1and SAUR-AC1) by real-time-quantitative (RTQ)-PCR in Arabidopsis etiolated seedlings. An etiolated seedling of Arabidopsis thaliana. consists of a long hypocotyl, a hook, and closed cotyledons. When the seedlings were exposed to light, the hypocotyl elongation was inhibited. At the same time, the hook started to unfold and cotyledons started to develop 3-6 hours after the treatment. Prior to the hook unfolding, expressions of all the four genes were strongly induced. In cotyledons, the expression of BR6ox2, DWF4, SAUR-AC1 were activated throughout 24hours. These results suggested that the hook opening and cotyledon development were induced by the BRs synthesized de novo. On the other hand, hypocotyls elongation may be controlled in more complex regulatory manners.
  • 梅村 威一郎, 中村 郁子, 五味 剣二, 北野 英己, 松岡 信
    p. 727
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    IAA遺伝子族はシロイヌナズナを中心とした研究により、オーキシンのシグナル伝達に関わる遺伝子の中で最も解析が進んでいる。オーキシンのシグナル伝達機構やオーキシンによる形態形成は専らシロイヌナズナなどの双子葉植物で解析が進んでおり、イネなどの単子葉植物ではこれまで殆ど進展が見られなかった。我々はイネのIAA遺伝子に着目し、これらを解明することを目的として研究を行った。全ゲノム配列を対象とした相同性検索からイネには24個のIAA遺伝子が存在することが分かった。これらのうちオーキシンに早期に応答するOsIAA3遺伝子を選び、解析を行った結果、OsIAA3遺伝子はシロイヌナズナのIAA遺伝子とよく似た挙動を示すことが分かった。また、ドミナントネガティブにオーキシンのシグナル伝達を阻害する点変異を導入したOsIAA3(P58L)をステロイドホルモンであるデキサメタゾン(DEX)により過剰に誘導できる形質転換イネ、mOsIAA3-GRを作出し、解析した。その結果、DEX存在下でmOsIAA3-GR形質転換体はシロイヌナズナのドミナントネガティブなiaa突然変異体とよく似た、オーキシン感受性の低下、重力屈性の変化、矮性を示した。イネに特有の表現型としては葉身・葉鞘の比が変化、冠根数(不定根数)の減少、茎幅の低下、節形成の不全、葉原基や中肋の形態異常などが見られた。
  • 軸丸 裕介, 関本 雅代, 花田 篤志, 山口 信次郎, 神谷 勇治
    p. 728
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    植物ホルモンは、低濃度で多様な応答を調節するシグナル物質として知られている。植物ホルモンの生理作用を明らかにする研究の一環として、これまでにさまざまな方法でその内生量が測定されてきた。代表的なものはGC-EI-MS である。一方、最近、LC-ESI-MS/MSによる微量成分の分析が盛んに行われている。この手法の特徴は、GC-EI-MS による分析に比べ精製が簡便である場合が多く、誘導体化の必要がないことで、微量成分分析の新しい手法として一般的になりつつある。しかしながら、ESIではEIに比べてイオン化時に存在する侠雑物の影響が大きく、目的化合物が相対的に少ない場合、イオン化が妨げられ十分な感度が得られない(イオンサプレッション)ため、ESI に適した精製が必要となる。
    我々は、LC-ESI-MS/MSによる全ホルモンの一斉分析系構築を目的とした研究を行っており、今回はそれらのうちでジベレリン、アブシジン酸、インドール-3-酢酸、ジャスモン酸、サリチル酸について報告する。現在までに、個別のホルモンについて高感度検出に必要とされる簡便な精製法を確立しており、GC-EI-MSで一般的に必要とされる量の1/10から1/1000程度で、予備精製にHPLCを用いない分析が可能となった。
    上記に加え、その他の植物ホルモンの分析や、100 mg 程度のサンプルからの一斉分析法についても述べる予定である。
  • 永島 明知, 鈴木 玄樹, 佐治 健介, 黒羽 剛, 藤沢 紀子, 上原 由紀子, 岡田 清孝, 酒井 達也
    p. 729
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    光受容体、フィトクロム、クリプトクロム、フォトトロピンは、植物の発達・生育の様々な局面を制御している。胚軸の光屈性ではフォトトロピンが主要な役割を担っているが、フィトクロムやクリプトクロムもこれの調節に関わるものと考えられている。我々は、胚軸の光屈性におけるフィトクロムの機能を調べるために、赤色光照射によって胚軸屈曲が促進される突然変異体、flabbyを単離した。ポジショナルクローニングの結果、原因遺伝子はオーキシンの排出に関わるABCトランスポーター、PGP19/ MDR1をコードすることが判明した。作成した phyA phyB flabby三重変異体では、赤色光による胚軸屈曲が抑制されていたことから、フィトクロムには胚軸屈曲を促進する効果があり、PGP19はこの効果に対し抑制的に機能することが示された。さらに、赤色光照射により活性化したフィトクロムは、胚軸上部でのPGP19の蓄積を減少させ、胚軸の求基的なオーキシン輸送活性を減少させた。よって、フィトクロムによるオーキシン輸送制御は、胚軸の光屈性に重要な役割を担う事が示唆された。青色光照射により phot1 phot2 flabby三重変異体も胚軸屈曲の促進を示し、胚軸中PGP19の蓄積もクリプトクロム依存的に減少した。よって、クリプトクロムもフィトクロムと同様に胚軸屈曲を制御するものと考えられた。これらの結果と合わせて、PGP19を介したNPAの効果と、 pgp1 pgp19二重変異株の表現型についても報告する。
  • 橋場 典子, 豊福 恭子, 高橋 幸子, 小川 敦史, 我彦 広悦
    p. 730
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    Agrobacterium tumefaciensは,植物に感染すると腫瘍組織の形成を引き起こす.6b遺伝子は菌の保有するTiプラスミドのT-DNA上に存在する腫瘍形成遺伝子の一つである.AKE10株から得られたAK-6b遺伝子を発現させたタバコでは,内生オーキシンやサイトカイニンレベルが正常であるにも関わらず,ホルモンフリー培地でもカルス化し増殖する,形態変化を起こす,オーキシンの極性移動が低下する,などの性質を示す.今回我々は内生オーキシンの局在と形態変化の関係をより詳しく調べるために,組織切片を作製して解剖学的な知見を得るとともにインドール酢酸(IAA)に対するモノクローン抗体を用いて組織化学的な解析を行った.我々はデキサメタゾン(Dex)投与によって発現が誘発されるAK-6bのコンストラクトをタバコに導入した.T1世代の種子をDexを含むMS培地に播種し,実生を経時的に採取し,固定,切片を作成して,トルイジンブルーで染色,あるいはIAA抗体によるオーキシンの検出を行った.子葉の横断面で見ると,形態変化は7日目以降の子葉の裏側に認められた.一方,オーキシンは5日目までは断面全体に均一に存在し,6~7日目から葉の裏側に優先的な蓄積が認められた.葉の裏側の形態変化もほぼ同様の時期に認められた.このことから,形態変化とオーキシンの局在には密接な関係があることが示唆される.
  • 牧野 美紀子, 上田 七重, 武井 兼太郎, 小松 広和, 丹治 範文, 鈴木 孝治, 榊原 均
    p. 731
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    植物の発生から栄養生長、花芽分化から種子形成にいたる様々な局面で植物ホルモンは情報分子として極めて重要な役割を演じている。個々のホルモンは各々の情報伝達系を介し遺伝子発現を制御するとともに、他のホルモンとの量的バランスによる相互制御により多様な作用を可能にしている。ここ数年主要ホルモンの生合成や情報伝達に関わる重要遺伝子が同定されたが、それらの機能や種々の変異体の表現型を生理学的に説明するには実際の組織中に存在する複数のホルモン分子種含量を知ることが重要である。我々は半自動固相抽出法と液体クロマトグラフィー質量分析技術を利用することで、活性型分子種を含むサイトカイニン19種、IAAとそのアミノ酸縮合体を含むオーキシン7種、アブシジン酸、そしてジベレリン7種の計34分子種を同じ植物試料から測定する方法を確立した。この方法を用いることで10 mg ~ 100 mg新鮮重量組織から同時に96サンプルの抽出・測定ができ、一連の変異体コレクションなどのホルモンプロファイリングも可能になった。この技術を利用して解析を行ったイネ完全長cDNAをシロイヌナズナで過剰発現させたFOXラインのうち、形態異常を示したラインのホルモンプロファイリングの結果についても紹介する予定である。本研究は科学技術振興調整費「イネ完全長cDNAによる有用形質高速探索」の支援によって行われている研究である。
  • 井内 聖, 鈴木 浩之, Kim Young-Cheon, 井内 敦子, 黒森 崇, 上口-田中 美弥子, 浅見 忠男, 山口 五十麿, 松 ...
    p. 732
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    ジベレリン受容体遺伝子(AtGID1s)はシロイヌナズナのゲノム上には3種類存在している。これまでに我々は、これら3種類の遺伝子産物がジベレリンに結合すること、並びにイネ・ジベレリン受容体変異株内でいずれを高発現させても形質がほぼ正常に戻ることから受容体として機能することを明らかにしている。シロイヌナズナにおける3種類のジベレリン受容体遺伝子の役割について明らかにすべく、シロイヌナズナノックアウト変異体の解析を行った。
    変異体データーベース(RIKEN;http://www.brc.riken.go.jp/lab/epd/、ABRC; http://www.Arabidopsis.org/)を用いて、AtGID1s遺伝子へのDsあるいはT-DNA挿入変異体を検索し、これら挿入変異体のホモ系統を樹立しRT-PCRでAtGID1s遺伝子の発現を調べたところ、いずれの挿入変異体(atgid1a,atgid1b,atgid1c)も目的とする遺伝子破壊株(KO株)であった。これら1遺伝子KO株に正常株との明瞭な差が認められなかったことから、AtGID1aAtGID1b、およびAtGID1cは機能重複していると考えられた。各KO株同士の交配により3種類の二重破壊株(atgid1ab,atgid1bc,atgid1ac)を樹立した。現在、発芽の効率・茎部の伸長速度・開花時期・花の形態・稔実の効率など種々の観点から3種の二重破壊株の比較を行っている。また、全てのAtGID1s遺伝子を破壊した三重変異株(atgid1abc)の取得も視野に置き検討しており、発表ではその結果も合わせて報告する。
  • 大西 利幸, Bancos Simona, 渡辺 文太, 藤岡 昭三, 横田 孝雄, 坂田 完三, Szekeres Miklos, 水谷 ...
    p. 733
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    カンペスタノールからブラシノライドに至るブラシノステロイド (BR) 生合成経路の多くの酸化反応はシトクロムP450 (P450) 酵素により触媒されることが示されている。1996年、シロイヌナズナのBR欠損突然変異体constitutive photomorphogenesis and dwarfism (cpd) が単離され、CPD遺伝子がCYP90A1をコードしていることが明らかになった。またBR生合成中間体投与によるcpdの表現型回復実験の結果、CYP90A1がC-23位水酸化酵素であると報告された。しかし、CYP90A1についての生化学的証明はなされていない。昨年度の本大会で我々はシロイヌナズナCYP90C1およびCYP90D1がC-23位水酸化酵素であることを酵素学的解析により明らかにした。
    今回、CYP90A1の機能を生化学的に証明するために、CYP90A1の酵素化学的解析を行った。バキュロウィルス-昆虫細胞発現系を用いてCYP90A1を発現させ、酵素活性実験を行った。その結果、CYP90A1はC-23位水酸化酵素ではなく、C-3位酸化/異性化酵素であることを明らかにした。またcpd突然変異株の内生BR量の分析およびBR生合成中間体の投与による表現型回復実験の結果から、カンペスタノールを経由しないBR新規生合成経路の存在を明らかにした。
  • 松尾 哲, 菊地 郁, 福田 真知子, 本多 一郎
    p. 734
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    トマト栽培においては、様々な環境ストレスにより生育障害や収量低下が発生する。また、高糖度トマト生産には、乾燥や塩ストレス環境下での栽培が必要であり、高品質になるほど収量低下が問題となる。一方、アブシジン酸(ABA)は様々なストレス応答に関与するホルモンであることが知られている。そこで、本研究ではABA内生量調節の主要な役割を担っている代謝酵素のABA8’位水酸化酵素(CYP707Aサブファミリー)と生合成酵素の9-cis-epoxycarotenoid dioxygenase(NCED) 遺伝子のトマト(Lycopersicon esculentum cv. Ailsa Claig)からの単離と発現解析を行い、ABA内生量制御機構の解析を試みた。
    トマトから4種類のABA8’位水酸化酵素遺伝子(LeABA8’h1-4)と2種類のNCED遺伝子(LeNCED1-2)を単離し、ストレス応答時の発現解析を行った。乾燥ストレス処理により、LeNCED1LeABA8’h1LeABA8’h2の発現量は増加し、ストレス解除により、LeNCED1の発現量は減少し、LeABA8’h1LeABA8’h2の発現量は10倍以上に増加した。これらのことから、トマトの水ストレス応答時のABA内生量調節には、LeNCED1LeABA8’h1LeABA8’h2が主に関与していることが示唆された。現在これらの遺伝子を制御した形質転換トマトの作出を試みている。
  • 金安 智子, 小林 啓恵, 中山 真由美, 藤井 伸治, 高橋 秀幸, 宮沢 豊
    p. 735
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    固着性生物である植物は環境刺激に応答して屈性を発現することで環境に適応し,自身の生存を確かなものにしている.屈性を発現させる環境刺激として,重力,光,水分勾配,接触などが知られており,これら屈性にオーキシン極性輸送および作用が重要な役割を果たすことがCholodny-Went仮説として古くから支持されてきた.最近のシロイヌナズナの突然変異体を用いた重力屈性に関する研究からも,これを支持する結果が得られてきた.一方で,水という生命体にとって必須の物質の獲得に関する水分屈性については研究が進んでおらず,オーキシンの関与も明らかにされてこなかった.そこで我々は,近年確立したシロイヌナズナの水分屈性実験系を用いて,水分屈性に対するオーキシンの関与をオーキシン極性輸送ならびにオーキシン応答阻害剤を用いて生理学的に解析した.その結果,オーキシン排出キャリアの阻害剤NPA,TIBA,オーキシン取り込みキャリアの阻害剤CHPAAのいずれもが水分屈性を阻害しなかったのに対し,オーキシン作用阻害剤PCIBは水分屈性発現を有意に阻害した.これらの結果は,オーキシン作用は水分屈性に必要であるが,オーキシン極性輸送は必要でないことを示唆しており,水分屈性においては,従来の仮説とは異なるオーキシン動態変化により屈性が発現するものと考えられた.
  • 高地 博寛, 岡本 崇, 鶴見 誠二
    p. 736
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    オーキシンは植物の成長や発達に必要なホルモンで特に根においては側根形成や重力屈性などに重要な役割を持つ。最近、Xenopus oocytesに発現させたAUX1タンパク質はオーキシンinflux carrierとして働くことが示された(Yang et al,2006)が、植物組織中でのAUX1タンパク質の働きを知るためには、植物組織中にある細胞へのオーキシンの取込みを調べる必要がある。この目的のために、我々はシロイヌナズナのaux1-7,aux1-22とwtの根を用いて3H-IAAのAUX1タンパク質を通じた取込み活性を評価する方法を見出した。見た目の取込み量から、根組織に取込まれた3H-IAAのうち細胞壁に吸着したもの、拡散によって細胞に取込まれたものを差引き、AUX1タンパク質により細胞に取込まれたものを算出した。算出方法の妥当性についても議論を行う予定である。
  • 中田 克, 山藤 朋子, 伊藤 岳, 石田 さらみ, 古本 強, 高橋 陽介
    p. 737
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    RSGはジベレリン(GA)内生量調節に関与するbZIP型転写活性化因子である。これまでに、RSGの機能はGA内生量に応じた細胞内局在調節によって制御されており、その制御にはRSGのSer-114のリン酸化が重要であることを明らかにしてきた。RSGのSer-114を特異的にリン酸化するキナーゼとしてカルシウム依存性タンパク質キナーゼNtCDPK1が同定された。植物には多数のCDPKイソフォームが存在しており、CDPKが標的とするアミノ酸配列は相同性が高いが、イソフォーム特異的な基質認識機構については不明である。NtCDPK1はRSGと複合体を形成しSer-114をリン酸化するが、NtCDPK2はRSGをリン酸化できない。そこで、NtCDPK1のRSGに対する基質認識機構の解析を行った。NtCDPK1の欠失変異およびアミノ酸置換変異タンパク質を用いたpull-down解析と、シロイヌナズナのCDPKイソフォームの解析から、NtCDPK1のN末端可変領域のArg-10がRSGとの結合に重要であることを明らかにした。Arg-10をアラニンに置換したR10A変異NtCDPK1ではRSGとの結合能は2/3程度まで減少し、さらにRSGのSer-114のリン酸化能は著しく低下した。これらの結果からNtCDPK1のRSGに対する基質認識にはArg-10が重要であることが示唆された。
  • 吉田 知, 西村 宜之, 黒田 浩文, 松井 南, 篠崎 一雄, 平山 隆志
    p. 738
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    アブシジン酸(ABA)は、種子の休眠や乾燥・低温などの環境ストレス応答に中心的な役割を果たす植物ホルモンである。我々は更なるABA関連突然変異体を分離する目的で、シロイヌナズナCol株を対象にABA類縁体PBI-51用いたスクリーニングを行いABA高感受性変異体ahg1~7(ABA hypersensitive germination)およびahg11~16を得た。このうち、マッピングによりAHG1AHG3がそれぞれAt5g51760およびAtPP2CAであることを明らかにし、その後の解析によってAHG1とAHG3が種子におけるABA情報伝達経路の負の制御因子としてはたらく事を証明した。さらに、AHG1は種子の成熟過程および乾燥種子で特異的に働きその機能は一部AHG3と重複することを明らかにした。これまでに複数のPP2CがABA情報伝達経路の負の制御因子であることが明らかになっているが、生体内の基質は不明であり、分子レベルでの機能はわかっていない。これまでに主に酵母ツーハイブリッド法によってPP2Cと相互作用するタンパク質が報告されている。我々はPP2Cの生体内の基質の候補を得る目的で、新たにプロテオミクス的手法によってAHG1およびAHG3と相互作用するタンパク質の探索を試みている。本学会では、以上の研究結果を照会すると共に、二次元電気泳動を用いたahg変異体のリン酸化タンパク質の解析、プルダウンアッセイによる相互作用タンパク質の探索についても報告する予定である。
  • 佐藤 尚子, 岡 真理子, 藤山 英保
    p. 739
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    植物を低窒素条件下で生育させると葉は黄化するが、そのような条件下においてもアブシジン酸(ABA)を処理すると緑色が保持され、クロロフィル含量が増加することを我々は報告してきた。アミノレブリン酸(ALA)合成がクロロフィル合成の律速段階と考えられることから、本研究においてはALAの動態に着目してABAの効果を検証した。低窒素条件下においてABAを処理すると、特に子葉においてALA含量が増加した。また、ABAの処理期間が長くなるに従ってALA含量が増加する傾向が認められた。次に、低窒素条件下でALAを処理したところ、生育期間が長くなると無処理区では子葉のクロロフィル含量が著しく減少したが、ALA処理区ではその低下が抑制された。第1葉においては、生育期間が長くなるに従って無処理区ではクロロフィル含量は減少したが、高濃度のALA処理区では増加した。以上の事実から、ABAがALA合成を促進し、クロロフィル合成を促進することによって、葉中のクロロフィル含量を高く維持していることが示唆された。
    一方、アミノ酸合成の律速段階である硝酸還元過程における硝酸還元酵素活性は、ABAを処理した場合、特に子葉と根においてABA処理濃度の増加に伴い活性が上昇したが、ALAを処理した場合は影響されなかった。このことから、ABAはALA合成を促進するとともに硝酸を還元し窒素源供給を促進することが示された。
  • 酒井 敦, 西尾 雅世, 三浦 文, 澤井 優, 田草川 真理
    p. 740
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    タバコ培養細胞BY-2は、オーキシン(2,4-D; 0.2 mg/l)を含む通常の培地中では活発に分裂増殖し、培養の全期間を通じて小型で未分化な状態にとどまる。一方、オーキシンを除去しサイトカイニン (BA; 1 mg/l) を添加した改変培地中では、BY-2はほとんど分裂・増殖せずに大型化し、アミロプラストを発達させる。その際、細胞増殖開始に先立つ一過的なオルガネラDNA合成の活性化は抑制され、デンプン合成に関与する酵素遺伝子の発現は活性化される。我々はさらに、1) 改変培地における細胞分化に伴ってタンパク質や多糖類の分泌活性が増大し、細胞あたりのゴルジ体数も増加するとともに、特異的なタンパク質が培地中に分泌されるようになること、2) 改変培地では細胞相互の剥離が生じやすくなり、cell clusterを構成する細胞数が減少すること、3) 細胞が短命化し、培養4日目頃から細胞死が頻発すること、などを明らかにした。このような改変培地におけるBY-2細胞の挙動(増殖抑制、体積増大、アミロプラストの発達、分泌活性増大、細胞剥離、細胞死)は、少なくとも部分的には根冠組織における細胞の挙動に類似しているように見える。現在、特に分泌活性と細胞死の様相に注目して、改変培地におけるBY-2細胞の挙動と根冠における細胞の挙動を比較し、両者の類似性について検討している。
  • 田原 寛, 横田 悦雄, 五十嵐 久子, 織井 秀文, 佐野 俊夫, 馳澤 盛一郎, 園部 誠司, 峰雪 芳宣, 新免 輝男
    p. 741
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、クラスリンが紡錘体の形成に重要な役割を果たしていることを示してきた。更に紡錘体形成におけるクラスリンの役割を明らかにするために、クラスリン軽鎖をYFPで蛍光標識した細胞株を作製し経時観察を行った。分裂中期では、ゴルジ体と考えられるドット状のシグナルが紡錘体の周囲に存在し、それと同時に紡錘体中にもシグナルが観察された。ゴルジ機能阻害剤ブレフェルジンAで分裂中期の細胞を処理するとドット状のシグナルは消失したが、紡錘体中のシグナルは残っていた。このシグナルは微小管阻害剤で処理すると消失することから、その局在は紡錘体微小管に依存していることが明らかになった。
    また我々は、クラスリン重鎖のC末端部分を発現させると紡錘体形成やフラグモプラストの形態が異常になることを示していた。今回、GFP-チューブリンが発現しているBY-2細胞株(BY-GT16細胞)にクラスリン重鎖のC末端部分を発現させ、分裂期細胞における微小管の動態の経時観察を行った。異常な分裂をする細胞では、分裂後期において紡錘体が異常になることがわかった。また正常に分裂が進行する細胞においても、分裂中期の時期がコントロールに比べ約2倍近く長くなっていた。以上のことより、クラスリンが紡錘体の安定化にかかわっていることが示唆された。
  • 原島 洋文, 新名 惇彦, 関根 政実
    p. 742
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    植物ではAタイプサイクリン依存性キナーゼ(CDKA)が細胞周期で中心的な役割を果たしている.CDKの活性化にはサイクリンの結合を必要とするが,それ以外にも阻害因子の結合やCDKのリン酸化によっても制御され,周期的な活性を示す.近年,シロイヌナズナにおいてさまざまな細胞周期制御因子の変異体の解析が行われ,細胞周期制御因子が植物の発生に深く関わることが明らかとなってきた.その中でもわれわれはシロイヌナズナで唯一のCDKAであるCDKA;1の変異体の解析を行っている.
    シロイヌナズナの雄性配偶体である花粉粒は3細胞性で,減数分裂後,花粉の発芽前に2回の体細胞分裂を行い,1個の栄養細胞と2個の精細胞となる.一方,cdka;1-1変異体の花粉は2細胞からなる.これは減数分裂後の2回目の体細胞分裂である第2花粉分裂(PMII)が起こらず,精様細胞として残るためと考えられる.本研究ではCDKA;1のT-loop内に保存されたスレオニン残基をリン酸化されないアラニンに置換したCDKA;1(T161A),あるいはリン酸化を模倣したグルタミン酸に置換したCDKA;1(T161E)をcdka;1変異体に導入し,PMIIの不全を相補するか解析した.その結果,T161Aは相補しないのに対して,T161EはPMIIの不全を相補し,成熟花粉は3細胞となった.このことから少なくともPMIIの進行にはCDKA;1がリン酸化されることが必要であると示唆された.
  • 赤木 千佳, 吉積 毅, 樋口 美栄子, 黒田 博文, 堀川 洋, 松井 南
    p. 743
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    エンドリデュプリケーションとはDNA複製は生じるが、その後の細胞分裂が行われない特殊な細胞周期である。しかし、その分子メカニズムは未だに判明していない。よって、そのメカニズムを解明するために、シロイヌナズナのアクチベーションタギングラインのスクリーニングを行い、DNA含量が増加した優性変異株を単離した。単離されてきた変異株の1つであるincreased level of poliploidy2-D (ilp2-D)は野生型に比べて明所および暗所でのDNA含量の上昇が見られ、また暗所での根の伸長、および明所での子葉面積の増大が見られた。ilp2-DのT-DNA挿入位置の近傍に存在する遺伝子の過剰発現体を作成したところ、ilp2-Dの表現型を再現した。ILP2の機能を詳細に調べるため、ILP2に挿入されている2つのT-DNA変異株における表現型を観察したところ、明所で20日間生育させた本葉第一葉で野生型に比べてDNA含量の減少が見られた。このことから、ILP2は明所の本葉のエンドリデュプリケーションを制御していることが示唆される。ILP2遺伝子は新規の植物特異的タンパク質をコードしていた。コンピューターによる予測ではN末に葉緑体局在シグナルがあることがわかった。そこで、GFPとの融合遺伝子を発現させたところ、ILP2は葉緑体に局在することが明らかとなった。
  • 原 博子, 吉積 毅, 津本 裕子, 市川 尚斉, 島田 浩章, 松井 南
    p. 744
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    エンドリデュプリケーションは、M期での有糸分裂が起こらず、ゲノムDNAの含量が増大していく特殊な細胞周期である。高等植物では、エンドリデュプリケーションによるDNA含量の増大に伴った細胞の体積の増加が観察されており、植物の形態形成に関与することが示されている。しかし、エンドリデュプリケーションの分子メカニズムは明らかではない。そこで、これを明らかにするために、エンドリデュプリケーションに関与する遺伝子の単離を試みた。シロイヌナズナのアクチベーションタグラインから核DNA含量が増大する変異体increased level of polyploidy4-D (ilp4-D)変異体を用い、この原因遺伝子の解析を行った。その結果、ilp4-D変異体の原因遺伝子はプロテインキナーゼをコードしていることが分かった。GUSレポーター遺伝子を用いてILP4遺伝子の発現部位の解析を行ったところ、この遺伝子は根や子葉、胚軸で組織特異的に発現することが分かった。次に、ILP4遺伝子のT-DNA挿入変異体の解析を行った。しかし、変異体では核相の減少が認められなかった。シロイヌナズナのILP4遺伝子には2つホモログが存在したため、ILP4遺伝子のホモログの1つであるILP4L1遺伝子とILP4遺伝子の二重変異体を作製したところ、この変異体では核相の減少が認められた。以上のことから、ILP4及びILP4L1はエンドサイクルを促進し、核DNA含量の増加に関与することを明らかにした。
  • 本郷 洋明, 原 博子, 吉積 毅, 長谷川 由果子, 堀井 陽子, 黒田 浩文, 市川 尚斉, 島田 浩章, 松井 南
    p. 745
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    我々は特殊な細胞周期であるエンドリデュプリケーションの分子機構について研究を行っている。
    細胞の大きさは、細胞のDNA量と相関があることが知られている。体細胞におけるDNA量の倍化は、多くの場合、エンドリデュプリケーションによって引き起こされる。この現象は、細胞分裂の伴わないDNA複製と定義され、植物では様々な器官において普遍的に認められており、植物の形態形成において重要な働きをしていることが知られている。そこで、エンドリデュプリケーションの分子機構を明らかにするために、シロイヌナズナのエンドリデュプリケーション変異株の単離を試みた。
    これまでに、シロイヌナズナのActivation-Tag変異株から、細胞のDNA量の増加が認められた17系統の変異体系統を単離している。しかし、Activation-Tag変異株は、原因遺伝子の特定に時間がかかるという問題点があった。今回、シロイヌナズナの様々な完全長cDNAを導入して、高発現させた形質転換体の集団であるFoxラインを使用し、新たなエンドリデュプリケーション変異体の単離を試みた。Foxラインは、原因遺伝子の特定が簡便であり、表現型もすでに観察されているという利点がある。
    1215個体のFoxラインについて、その暗所胚軸のDNA量をフローサイトメーターで測定した。その結果、DNA量増加が顕著な変異株23個体が得られた。これらの変異株について報告する。
  • 鈴木 孝征, 西村 慎吾, 町田 泰則
    p. 746
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    植物細胞の細胞質分裂は細胞分裂後期に形成されるフラグモプラストの遠心的な発達により行われる。これまでの研究からMAPキナーゼ(MAPK)がこのフラグモプラストの発達を制御することが示されている。MAPK経路の下流に微小管結合タンパク質であるMAP65が存在することが明らかにされ、その活性を調節することで微小管の再構成を通じてフラグモプラストの発達を制御していると考えられている。しかし、フラグモプラストの発達には微小管の制御以外にも多くのしくみが必要であると考えられ、MAPK経路の標的となる分子が他にも存在すると考えられる。本研究では植物細胞質分裂を制御するMAPK経路の標的となり、リン酸化されるタンパク質を網羅的に同定することを試みた。

    細胞質分裂を制御するMAPK経路のシロイヌナズナの構成因子の変異株はいずれも細胞質分裂の異常や短い根などの表現型を示す。これらの変異株からリン酸化タンパク質を精製し野生型株との比較を行うことでMAPK経路の標的タンパク質の同定を試みた。その結果、いくつかのタンパク質が標的タンパク質として同定された。その中にはSEC14ホモログであるPATL2が存在した。SEC14は膜の輸送に関わるとされており、小胞の輸送と融合がみられる細胞板の形成にPATL2が関わっている可能性が考えられる。他の候補タンパク質と合わせ、解析の結果を報告する。
  • 杉本 広樹, 楠見 健介, 野口 航, 矢野 昌裕, 吉村 淳, 射場 厚
    p. 747
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    グアニル酸キナーゼ (Gmk) はグアニンヌクレオチドの生合成経路におけるキーエンザイムであり、(d)GMP から (d)GDP へのリン酸化反応を触媒する。また、Gmkはグアニンヌクレオチドの供給を通して、さまざまなシグナル伝達経路の制御に重要な働きをする。これらの知見は細菌や動物細胞から得られたものであり、高等植物における Gmk の機能はほとんど知られていない。イネ葉緑体形成不全変異株 virescent 2 (v2) は葉緑体分化が阻害されるため、クロロシス(葉の白化)を引き起こす。我々はV2 遺伝子がこれまで報告例のないミトコンドリア局在型の Gmk (mGmk) をコードしていることを明らかにした。イネにはもう一つのGmk (OGK1)が存在しており、OGK1は細菌や動物細胞で知られているタイプの細胞質局在型のGmkであることを明らかにした。また、アラビドプシスのGmk変異株の解析からもイネと同様の結果が得られており、このことから、mGmk は葉緑体分化に特異的に機能する新しいタイプのGmkであることが明らかとなった。
  • 渋谷 奈々恵, 野末 はつみ, 鈴木 健二, 中西 弘充, 金子 康子, 林田 信明
    p. 748
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    高等陸上植物の成熟葉緑体において植物の成育に伴い、チラコイド膜に微細構造の変化が観察されることは、昨年の本大会で既に報告した。同様のチラコイド膜の構造的変化が、シロイヌナズナの成育光量を変化させることにより、可逆的に起こる事を観察した。成育の光条件には、50-60(++)、20-30(+)、110-130(+++)μmol m-2sec-1の3段階を設けた。(++)にて4週間成育した栄養成長期の葉(RI)の葉緑体は明確なグラナ、ストロマ構造をもつ(L型)。この植物を(+)の減光条件下に移すと、1-2週間でチラコイド膜の構造変化が観察されるが、再び(++)に戻すと約1週間でL型に戻った。また、(++)にて8-10週間成育した生殖成長期のロゼット新葉(RII)の葉緑体はストロマを欠いたカール状グラナを主成分とするチラコイド構造をとる(C型)。この植物を(+++)の強光下に移動すると、3-4日でL型への変化が観察され、(++)に戻す事でC型に戻った。このようなチラコイド膜の光応答的変化は、クロロフィルa/b比の変化を伴う。この結果は、成熟葉緑体がチラコイド膜の構造変化を伴う機能の異なった2つの形態を持ち得る可塑性に富んだオルガネラであることを示唆するものであると考える。
  • 高梨 秀樹, 有村 慎一, 堤 伸浩
    p. 749
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物のミトコンドリアゲノムはサイズが大きく、またその内部の多数のリピート配列間での組み換えによって、様々なサイズの環状構造DNA分子が生じると考えられている。しかしこれらのDNA分子種の構造については、環状構造の他に線状、分枝状といった多様な様式で存在しているという報告もある。また塩基配列決定から予想される分子種が本当に実在するのかどうか、どのような分子種がどのような比で存在するのかなどはいまだ詳細が不明であり、高等植物ミトコンドリアゲノムの真の構造は明らかになっていないといえる。
    本研究では、シロイヌナズナミトコンドリアゲノムを構成するDNA分子種の構造・サイズに焦点を当て解析を行った。シロイヌナズナ植物体からPercoll密度勾配遠心法を用いてミトコンドリアを精製し、スライドガラス上でミトコンドリアを破裂させ内部に含まれるDNAを展開させた後、YOYO-1によってDNAを染色した。サイズ既知の複数のBACクローンを同様にYOYO-1で染色しkbp-μm間の検量線を作成し、これを用いておおよそのミトコンドリアDNAのサイズ(kbp)を推定した。その結果、シロイヌナズナミトコンドリアゲノム中には様々なサイズの環状・線状DNAが観察され、興味深いことにシロイヌナズナミトコンドリアゲノム(367kbp)の二倍近いサイズの環状DNAも存在することがわかった。
  • 壁谷 如洋, 鈴木 弘道, 杉田 護
    p. 750
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体ゲノムには原核型RNAポリメラーゼのサブユニット(αサブユニット:rpoA、βサブユニット:rpoB、β′サブユニット:rpoC1、β″サブユニット:rpoC2)がコードされている。しかし、ヒメツリガネゴケの葉緑体ゲノムにはrpoA遺伝子が存在せず、細胞核ゲノムに2個の遺伝子がコードされていた(PpRpoA1PpRpoA2)。このように、ヒメツリガネゴケではαサブユニットが細胞核にコードされているため、ヒメツリガネゴケに特有な葉緑体の転写制御が存在する可能性が考えられる。そこで本研究では、2個のRpoA遺伝子の発現解析およびPpRpoA1遺伝子破壊株の解析を行った。はじめに、2個のRpoA遺伝子の発現解析を行ったところ、PpRpoA2は明所で発現が誘導されたが、PpRpoA1の発現に顕著な違いは見られなかった。当研究室で以前に取得したPpRpoA1遺伝子破壊株を用いたマクロアレイ解析とノザン解析を行なった。その結果、PpRpoA1遺伝子破壊株ではPpRpoA2の転写産物量の増加および暗所下においていくつかの葉緑体遺伝子の転写産物量の大きな変動が見られた。これらが転写活性の変動によるのかあるいは転写物の安定性の変動によるものかを検討したのでその結果を報告する。
  • 寺沢 公宏, 小田原 真樹, 壁谷 如洋, 菊川 達彦, 関根 靖彦, 藤原 誠, 佐藤 直樹
    p. 751
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    陸上植物の誕生は植物の進化において重要なステップであり、コケ植物は初期の陸上植物であると考えられている。コケ植物と維管束植物と緑藻の関係を調べることは、陸上植物の初期の進化を再建する上で重要である。今回私たちは、セン類ヒメツリガネゴケのミトコンドリアゲノムの完全な塩基配列 (105,340 bp)を決定した。これまでに全配列が報告されている陸上植物のミトコンドリアゲノムの中で最も小さく、3個のrRNA、24個のtRNAと42個のタンパク質をコードする遺伝子を含んでいた。ミトコンドリアゲノムの全体的な構造は、ヒメツリガネゴケ、タイ類のゼニゴケ(Marchantia polymorpha)、車軸藻の(Chara vulgaris)と(Chaetosphaeridium globosum)で比較すると似ていたが、被子植物や緑藻とはシンテニーが見られなかった。系統解析の結果、ヒメツリガネゴケとゼニゴケが被子植物の姉妹群となった。イントロンの比較から、ゼニゴケでは、陸上植物の祖先で一度挿入されたイントロンが失われて、新しいイントロンがゼニゴケ類の進化の間に挿入されたと考えられた。さらに、顕花植物で見られるゲノムの多分子構造がコケ植物類にはないことも示唆された。これらの結果から、ヒメツリガネゴケのミトコンドリアゲノムが陸上植物のミトコンドリアゲノムの原型の特色を保持していると考えられた。
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