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大島 良美, 神垣 あかね, 真野 昌二, 林 誠, 西村 幹夫, 江坂 宗春
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552
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
多くのペルオキシソームタンパク質は細胞質で合成され、C末端またはN末端に存在するターゲティングシグナル(PTS1, PTS2)が細胞質中でPTSレセプター(Pex5p, Pex7p)に認識され、ペルオキシソーム膜上のドッキング因子(Pex14p)に結合することによりペルオキシソームへ輸送されると考えられている。カタラーゼは過酸化水素を分解し、無毒化する酵素としてペルオキシソーム内に大量に蓄積されている。しかし、カタラーゼには明確なPTS1, PTS2がみられず、カタラーゼに特異的な輸送経路の存在が示唆されている。
タバコBY-2細胞において、RNAiによるPex5p発現抑制株を作成し、GFPとカタラーゼの融合タンパク質の細胞内局在を観察した。 その結果、Pex5pの発現を抑制してもカタラーゼのペルオキシソームへの輸送は阻害されず、Pex5p以外のタンパク質がカタラーゼの輸送に関与している可能性が示唆された。そこで、酵母two-hybridスクリーニングによりカタラーゼに結合するタンパク質を探索し、得られたタンパク質について、その解析を行った。また、カタラーゼの輸送にPex14pが関与しているかどうかを調べるため、シロイヌナズナのPex14p変異株に着目して、GFP-カタラーゼ融合タンパク質の局在を観察した。
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丸山 伸之, 立原 三友紀, 石本 政男, 内海 成
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553
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
種子貯蔵タンパク質は、登熟期に大量に生合成され、自身の持つ選別輸送シグナル(VSD)がレセプターに認識されることによりタンパク質貯蔵液胞(PSV)へ輸送される。我々が構築したダイズ登熟期種子を用いるVSD解析システムを用いて、ダイズ11Sグロブリン(グリシニン)の主要なサブユニットであるA1aB1bには、C末端型シグナル(ctVSD)と高次構造により形成されるシグナル(psVSD)が存在していることを明らかにした。本研究では、A1aB1bのVSDと緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質のPSVへの選別輸送に対する阻害剤及びドミナントネガティブ(DN)small GTPaseの効果を解析した。
A1aB1bのctVSD及びpsVSDとGFPとの融合タンパク質を、ダイズ登熟期種子で一過的に発現させ、小胞体からゴルジ体への輸送などを阻害するbrefeldin A及びイノシトールリン脂質のリン酸化阻害剤であるwortmanninで処理した。その結果、両者のPSVへの輸送が完全に阻害され、brefeldin Aでは小胞体のマーカーと、wortmanninではプレ液胞区画のマーカーと共局在した。また、DN
sar1及び
arf1の共発現によっても、両者のPSVへの輸送が阻害された。以上の結果から、A1aB1bのPSVへの選別輸送機構を考察する。
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李 立新, 嶋田 知生, 高橋 英之, 上田 晴子, 西村 いくこ
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554
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
貯蔵タンパク質は種子の登熟期に小胞体で前駆体として大量に合成され,タンパク質蓄積型液胞に運ばれた後に,プロセシングを受けて成熟型に変換する.我々は,種子に貯蔵タンパク質の前駆体を異常に蓄積するシロイヌナズナ変異体(
maigo)を単離・解析している (1).
maigo2 (
mag2)変異体は貯蔵タンパク質の小胞体からの輸送に異常を示し,貯蔵タンパク質の前駆体を含む構造体を多数蓄積する (2).ショ糖密度勾配遠心法によりMAG2は小胞体膜上に局在することが判明した.MAG2はRINT-1/TIP20ドメインを持ち,小胞体局在型の2つのSNARE (At-Ufe1とAt-Sec20)と相互作用する.MAG2関連遺伝子(MAG2-related gene, MRG)のT-DNA挿入変異体は貯蔵タンパク質の前駆体を蓄積していた. MRG欠損変異体の種子細胞内には電子密度の高いコアを含む新規構造体が多数蓄積していた.以上の結果より,植物種子細胞においてMAG2タンパク質およびMRGタンパク質が貯蔵タンパク質の小胞体とゴルジ間の輸送に関与することが示唆された.
(1) Shimada et al. (2006) Plant Cell Physiol., 47(9): 1187-1194
(2) Li et al., Plant Cell (2006) in press.
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冨士 健太郎, 嶋田 知生, 高橋 英之, 河本 恭子, 西村 いくこ
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555
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
植物の液胞タンパク質は小胞輸送経路を介し、合成場所の粗面小胞体から蓄積場所の液胞へと運ばれる。この選別輸送機構には多数の因子が関与し、厳密に制御されていると考えられているが、詳細は不明である.最近、我々はGFP融合タンパク質を利用した「シロイヌナズナにおける種子貯蔵タンパク質の輸送変異体」の効率的な新規スクリーニング法を開発した。この方法により、これまでに3,000,000ラインから約100ラインの変異体候補の単離に成功している.得られた変異体は
gfs (
green fluorescent seed) 変異体と命名した。マップベースクローニング法により,GFS1は液胞選別輸送レセプターAtVSR1,GFS2はKAM2/GRV2であることが分かった.GFS9遺伝子は第3染色体上に、GFS10遺伝子は第4染色体上に存在していた。GFS9とGFS10のそれぞれのT-DNA挿入遺伝子破壊株を解析したところ、両変異体共に種子貯蔵タンパク質の輸送に異常が認められた.GFS2とGFS9の欠損変異体は、種子以外の器官についても異常がみられた.これまで,種子のタンパク質蓄積型液胞と栄養器官の分解型液胞の選別輸送機構は全く異なるとされてきたが,今回の結果は両者が共通の装置を使っていることを示すものである.GFS法は植物の液胞選別輸送に普遍的に関与する因子の同定にも有効であることも証明された.
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難波 千営子, 林 誠, 近藤 真紀, 西村 いくこ, 西村 幹夫
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556
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
[目的]2Sアルブミンなどの種子貯蔵タンパク質は粗面小胞体で合成され、小胞体内腔で凝集し、PAC小胞へ取り込まれた後に、タンパク質貯蔵型液胞へと輸送される。我々は以前の年会において、2Sアルブミンの一部とフォスフィノスリシンアセチルトランスフェラーゼからなる融合タンパク質を発現するシロイヌナズナがフォスフィノスリシン感受性を示すことを報告した。その後種子貯蔵タンパク質の輸送機構解明を目的として本形質転換体を変異原で処理し、フォスフィノスリシン耐性変異体を単離した。今回はそれらのうちの1つ
pav1(
PAC
vesicle defective 1)変異体について解析した結果を報告する。
[結果]
pav1変異体は本葉が外側に巻く、貯蔵タンパク質(2Sアルブミンと12Sグロブリン)の一部が前駆体のままで種子に蓄積するなどの表現型を示す。電子顕微鏡観察の結果、種子細胞中に親株には見られない新規の構造体が認められた。この構造体内に存在する電子密度の高い部分は2Sアルブミン抗体で、周辺部は12Sグロブリン抗体で染色された。これらの結果から、
pav1変異体の種子細胞内ではPAC小胞の形成不全に必須な遺伝子が変異したことによって種子貯蔵タンパク質の細胞内輸送が阻害されていると考えられた。原因遺伝子産物の機能についても考察する。
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井上 仁志, 秋田 充
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557
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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高等植物葉緑体に局在する多くの蛋白質は核ゲノムにコードされている。これらの大部分は葉緑体移行シグナルとしてトランジットペプチド(TP)をアミノ末端にもつ前駆体蛋白質として細胞質で合成され、葉緑体の外・内包膜に存在する蛋白質輸送装置、Toc、Tic複合体を通って葉緑体内へ輸送される。蛋白質輸送はmMオーダーのATPの存在下で包膜を透過するが、蛋白質輸送を駆動するエネルギーを制限することで、前駆体蛋白質は初期段階において葉緑体と不可逆な結合(Binding)、すなわち初期膜透過中間体を形成する。我々は前駆体蛋白質の蛋白質輸送装置への到達度を解析することにより、初期膜透過中間体がエネルギーと温度に依存して少なくとも3段階に分けられることを明らかにしてきた。
そこで、本研究では前駆体蛋白質と蛋白質輸送装置との相互作用を解明するために以下のような方法で部位特異的架橋実験を行っている。TPの様々な位置にシステイン残基を一個だけ持つ一群の変異型前駆体蛋白質を構築し大腸菌で過剰発現した後、リコンビナント前駆体蛋白質をSH特異的架橋剤で修飾する。これらの前駆体蛋白質を用い、異なる条件下で中間体を形成させ、架橋反応を行う。これまでにいくつかの架橋複合体が観察されており、現在これらの架橋産物の解析を行っている。
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岡本 忍, 山西 芳裕, 得平 茂樹, 金久 實, 中村 保一
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558
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
様々なゲノムデータベースの情報や大規模な実験データから、分子の相互作用を予測し、機能が未知な遺伝子に関する情報を得ることは、生物学、インフォマティクスの両方の発展にとって重要である。今回、我々はカーネル法に基づくネットワーク推定法をラン藻
Anabaena sp. PCC7120の窒素飢餓応答に適用して、機能的に関係する遺伝子をネットワークとして予測した。データセットとしては、マイクロアレイ、系統プロファイル、遺伝子ロケーション、という異なるデータを統合して用いた。その結果、KEGG PATHWAYデータベースに登録された既知の遺伝子群となんらかの関係を持つと考えられる1348個の遺伝子が予測された。それらの遺伝子群には、窒素飢餓応答に関与することが知られているものに加えて、機能未知の遺伝子群が含まれていた。さらに、Pfamによる機能ドメイン予測と窒素代謝関連遺伝子の転写因子であるNtcAの結合モチーフ予測という別の視点を加え、予測した遺伝子の選抜を行った。その結果、KEGG PATHWAYネットワークに外挿する形で窒素代謝に関係すると考えられる新規の遺伝子候補が得られた。今回の解析手法で示された結果は、ポストゲノム時代における実験デザインに有効であると考える。
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Sato Hanayo, Stockel Jana, Liberton Michelle, Pakrasi Himadri B., Sono ...
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559
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
シアノバクテリアを含む光合成生物は光や栄養条件に応じて複数の代謝系を同時に最適化する必要がある。この調節には調節因子が必要だと考えられるが、これまでにそのような報告例は少ない。我々は、シアノバクテリア
Synechocystis sp. PCC 6803において窒素欠乏時の応答であるフィコビリソーム分解の調節因子であるNblAが強光時の光化学系量比調節に関与することを明らかにした。このことは同一因子が異なる代謝系の調節に関与することを強く示すものである。窒素固定能を有するシアノバクテリア
Cyanothece ATCC 51142 はこのような複数の代謝調節を昼夜サイクルにおいて常に行っている。
Cyanothece ATCC 5114は日中光合成、夜間に窒素固定を行う。昼はグリコーゲンを蓄積し、夜はそのエネルギーを用いて窒素固定を行い、窒素をシアノファイシンの形で蓄積している。
Cyanothece ATCC 51142のゲノム解読と遺伝子のアノテーションはほぼ完了しており、経時的なDNAマイクロアレイ解析やハイスループットのプロテオミクス解析を行っている。これらの網羅的な解析によって得られたニトロゲナーゼの発現量の周期性は実際のニトロゲナーゼの活性時期と合致していた。これらの解析を通して、異なる代謝系を調節している因子を探索していきたいと考えている。
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田部井 陽介, 岡田 克彦, 都筑 幹夫
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560
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
Synechocystis sp. PCC6803 は光独立栄養でも従属栄養でも生育が可能であるが、従属栄養的生育では(炭素源となるグルコース存在下で)1日5分程度の光照射が必要である。これまで、従属栄養条件下における光照射の効果を解析し、解糖系酵素の1つである
fructose-1.6-bisphosphate aldolase 遺伝子
fbaA の発現に光照射が必要なことと、その発現調節に sll1330が関与していることを報告した(日本植物生理学会年会2006)。
sll1330はHTH型のDNA結合部位とリン酸化受容部位のモチーフを持ち、レスポンスレギュレーターをコードすると推定されるORFで、グルコース添加、光照射条件下で発現が誘導された。この遺伝子の破壊株(Δsll1330)は光独立栄養条件下では野生株と同様の生育を示すが、光活性化従属栄養条件下でほとんど生育できなかった。野生株では
fbaAの発現は光照射により誘導され、特に、グルコース存在下で大きく誘導された。この光照射による
fbaA遺伝子の転写促進はsll1330破壊株では抑えられた。破壊株における
fbaAの発現は、連続光条件下では野生株と同様であった。このことから、PCC6803の
fbaAは連続光照射下、即ち光合成が機能している条件と、短時間の(数分程度)のパルス光で異なる発現調節を受け、sll1330はパルス光下でのみ働くことが示唆された。さらに、sll1330は
fbaA以外の遺伝子発現の調節にも関与していることも明らかとなった。
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小島 幸治, 大下 将, 林 秀則, 西山 佳孝
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561
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
酸化ストレスは、光化学系の修復に必要なタンパク質の新規合成を翻訳伸長反応の過程で阻害する。本研究では、翻訳伸長因子EF-Gの機能に着目して翻訳系の酸化ストレス傷害のメカニズムを解析した。ラン藻
Synechocystis sp. PCC 6803からチラコイド膜を含む
in vitro翻訳系を作製し、
psbA2 mRNAを鋳型として光化学系IIのD1タンパク質を合成させた。その結果、合成されたD1タンパク質がチラコイド膜中の光化学系II複合体に組み込まれることを確認した。D1タンパク質の合成は、40 mM NaN
3の存在下で10 mM H
2O
2を添加することにより阻害された。
SynechocystisのゲノムにはEF-Gをコードする4つの遺伝子(
sll1098,
slr1463,
sll0830,
slr1105)が存在する。それぞれのEF-GをHisタグの付いた組み換えタンパク質として精製した。H
2O
2で阻害させた
in vitro翻訳系に対して還元型のEF-Gを添加すると、4つEF-Gすべてにおいて阻害されていた翻訳活性が回復した。しかし、酸化型のEF-Gに翻訳の回復効果が見られなかった。これらの結果は、EF-Gが活性酸素のターゲットとなって酸化され、翻訳反応が阻害されることを示唆している。
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岡本 直樹, 光岡 薫, 仲本 準
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562
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
集光性超分子会合体フィコビリソーム(PBS)は窒素の貯蔵形態の一つと考えられており、窒素栄養飢餓状態では速やかに分解され、窒素源添加後再構築される。これらの過程の分子メカニズムは未解明である。我々は、分子シャペロンHtpG(Hsp90)が、PBS超分子構造の安定化に寄与すると考えられているリンカーポリペプチドと相互作用することを明らかにして、昨年度の本年会で発表した。本研究では、HtpGがPBSの分解及び再構築に関与するという作業仮説をたてて、
Synechococcus sp. PCC 7942 の
htpG遺伝子破壊株におけるPBSの分解と再構築の過程を生化学的・形態学的に解析した。野生株に比較して、
htpG変異株では分解と再構築の両方が阻害されていた。窒素栄養の欠乏に伴い細胞内HtpG蓄積量が増加したが、これらの結果はHtpGが分解や再構築に関与することを支持するものである。飢餓細胞からPBSを単離し透過型電子顕微鏡で解析したところ、
htpG変異株では野生株に比べより多くのPBS会合体が見られた。現在、構築過程についても同様の解析を行っているところである。
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皆川 俊, 佐藤 壮志, 仲本 準
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563
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
Hsp90は酵母やショウジョウバエで生存に必須なタンパク質であるが、大腸菌や枯草菌ではHsp90のホモログである
htpG遺伝子を破壊しても生存に影響がなく、高温条件下でも顕著な表現型が現れない。ところが、我々は
Synechococus sp. PCC7942の
htpG遺伝子破壊株の高温処理後の生存率が野生株の1/1000以下に低下することを見出し、HtpGが熱耐性の獲得に必須であることを初めて明らかにした。また、昨年度の本年会において、HtpGが集光性超分子フィコビリソーム(PBS)の構成サブユニットである30kDaリンカーと相互作用することを報告した。HtpGはN末ドメイン、中間ドメイン、C末ドメインの3つのドメインに大別され、N末ドメインはATP結合に、C末ドメインは二量体形成に関与することが明らかにされている。本発表では、HtpG各ドメインとリンカーとの相互作用部位を明らかにするために、N末ドメイン、C末ドメイン、N末/中間ドメイン、中間/C末ドメインを大腸菌で大量発現しNiカラムで精製した。各ドメインとリンカーとの相互作用は、各ドメインによるリンカーの熱変性凝集抑制実験で調べた。その結果、HtpGのN末及び中間ドメインがリンカーと相互作用し凝集抑制効果を示した。ATP存在下では、N末ドメインの凝集抑制活性は著しく減少した。
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佐藤 慎一郎, 仲本 準
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564
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
大腸菌とは異なりシアノバクテリアゲノムには二種類のgroEL(groEL1及びgroEL2)遺伝子が存在する。シアノバクテリアのgroESL1の上流調節領域には、枯草菌などのgroEやdnaKオペロンの負の転写調節に関与するCIRCEオペレーター配列が存在しているが、Thermosynechococcus elongatus (T. elongatus) を含む多くのシアノバクテリアのgroEL2の上流調節領域にはCIRCE配列が存在しない。シアノバクテリアgroEL2の発現調節と機能は未解明である。
本研究ではT. elongatus の発現調節と機能解析を行なったので報告する。groEL1及びgroEL2の発現に及ぼす温度の影響を調べるためにノザン解析を行ったところ、熱ショック誘導は同様に起こったが、groEL2のみが低温で誘導された。プライマー伸長解析により温度変化に応じた転写調節が大腸菌のようなσ因子の交換によるものではないことが示唆された。GroEL2の機能を明らかにすべくgroEL2遺伝子破壊株を構築した。変異株は、高温、低温、強光感受性を示した。これらの結果は、GroEL2が種々のストレス下で重要な役割を果たすことを示すものである。
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前田 真一, 杉田 千恵子, 杉田 護, 小俣 達男
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565
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
ラン藻
Synechococcus elongatusには、ABC型の硝酸イオン輸送体(NrtABCD)に加えて、潜在的に硝酸イオンを輸送することのできるSulPファミリー輸送体(LtnT)が存在し、LtnT輸送体の活性はLtnA, LtnB, LtnCからなるHis-Aspリン酸基リレー型情報伝達系によって制御されている。昨年の本学会では、自己リン酸化したLtnBのリン酸基がLtnAを介してLtnCのN末端のHisKAドメインに受け渡され、LtnCが多量体構造をとった時に、多量体化したLtnCのC末端領域によってLtnT輸送体が活性化されることを報告した。
ltnABC遺伝子クラスターの下流には、そのC末端にLtnCのC末端領域と相同な領域を持つタンパク質(LtnD)をコードしている遺伝子が存在する。LtnDのC末端領域を二量体を形成することが知られているグルタチオンSトランスフェラーゼとの融合タンパク質としてラン藻細胞内で発現させると、LtnCのC末端領域を融合タンパク質として発現させた時と同様にLtnT輸送体が活性化された。また、
ltnBに変異がおこりLtnT輸送体が常に活性化状態にある変異株において
ltnDを破壊しても、LtnT輸送体の活性は維持されたままであった。これらの結果は、LtnDがLtnB→LtnA→LtnCの情報伝達系とは独立した経路で、LtnT輸送体の活性制御に関わっていることを示している。
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片山 光徳, 小林 真理, 池内 昌彦
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566
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
屈光性は生物の生長方向が光の照射方向に関連した向きへと変化する反応であり、植物やヒゲカビ、フシナシミドロなどの真核生物において広く観察されている。しかし原核生物において屈光性に相当する反応が観察されたという報告はほとんどないようである。最近、我々は極性を持った糸状体を形成するシアノバクテリアの一種
Rivularia sp. IAM M-261株の糸状体の先端が光の照射方向に向かって伸長することを見いだした。本シアノバクテリアの糸状体は運動能力を持たず、従ってこの反応は正の屈光性に相当するものであると我々は考えている。
この屈光性の誘導には白色光が最も有効であったが、単色光(400nm-750nm)では誘導されず、青、緑、橙、赤色光をそれぞれ背景光として糸状体の下方から照射しながら、単色光を糸状体側面より照射することにより単色光への屈光性を誘導することができた。これによると、緑色、橙色、赤色背景光の下では紫色-青色光に対する正の屈光性が誘導され、一方青色光を背景光に用いた場合には、さらに緑色-橙色光に対しても正の屈光性が観察された。背景光の一部は糸状体を成長させるためのエネルギー源として必要であると考えられる。負の屈光性は現在までのところ観察されていない。
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富谷 朗子, Duggan Paula S., Adams David G.
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567
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
シアノバクテリアは形態的多様性に富む分類群であり、その形態的特徴は分類学上の重要な基準となっている。特に糸状性シアノバクテリアは細胞が環境条件に応じて、栄養細胞、異質細胞(窒素固定に特化)、アキネート(休眠細胞として機能)、ホルモゴニアの4種類に分化するという、原核生物でありながら多細胞生物的な特徴を持つ。ホルモゴニアは物理環境の変化や共生宿主である植物の存在によって誘導され、糸状体を形成する細胞の急速かつ同調的な分裂によって形成される一時的な分化細胞である。ホルモゴニア分化時の糸状体は運動能力を持ち、分散や植物との共生に重要な役割を担っていると考えられている。このようにホルモゴニア形成は発生学的、生態学的、また進化学的に興味深い現象であるが、その形成の分子機構の詳細は不明である。
本研究ではホルモゴニア形成の分子機構を解明するため、糸状性シアノバクテリアのモデル生物
Nostoc punctiforme ATCC29133株のトランスポゾン変異体を作成し、ホルモゴニア形成の変異体の単離と解析を行った。その結果、宿主のコケ植物
Blasia pusillaによってホルモゴニアが誘導されず、また共生コロニーも作らない変異体が単離された。
ホルモゴニア形成の分子機構の解明は、シアノバクテリアの形態的多様化や、植物との共生関係の成立の背景を考える上で重要な手がかりとなるだろう。
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刑部 祐里子, 水野 真二, 圓山 恭之進, 刑部 敬史, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
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568
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
シロイヌナズナLeucine-rich repeat (LRR) Receptor-like Protein Kinase1, RPK1は,膜局在性の水分ストレス誘導性受容体型キナーゼである。我々はこれまでアンチセンス形質転換体および欠失変異体
rpk1-1,
rpk1-2のABAによる種子休眠,根の伸長抑制,気孔閉鎖等に対する表現型を解析し,これらの植物体がABA非感受性を示すことを明らかにした。RPK1が植物の様々なABA応答反応に関与し,重要なシグナル因子の一つとして機能することが考えられた。
RPK1高発現のシロイヌナズナに与える影響を解析する為に, CaMV35Sプロモーター制御下でRPK1を過剰発現する形質転換植物体を作製した。得られた植物体は弱い生育抑制を示し,またABAによる根の伸長抑制,気孔閉鎖等に対しABA高感受性を示した。また, RPK1過剰発現植物体は乾燥ストレスに対し耐性を示すことが明らかになった。さらに, RPK1欠失株
rpk1-1およびRPK1過剰発現体では,活性酸素に対する応答性が変化しており,
rpk1-1はH
2O
2による気孔閉鎖に対し非感受性を示した。RPK1は水分ストレスおよび活性酸素応答反応のクロストークに関わる因子であることが考えられた。本報告ではさらに, RPK1が関わる水分ストレスシグナル伝達経路の詳細について考察する。
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清 則子, 祢宜 淳太郎, 射場 厚
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569
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
気孔は周囲のCO
2濃度が低いと開口し、高いと閉鎖する。気孔の CO
2応答メカニズムに関する因子を探索するため、我々はCO
2応答に異常をもつ突然変異体のスクリーニングを行っている。スクリーニングは、サーモグラフィーを用いて葉面温度をモニターすることにより行った。葉面温度と気孔の開度はリンクしており、低CO
2条件下では気孔の開口によって水の蒸散が盛んになる。それに伴い気化熱が奪われるため、葉面温度が低下する。逆に高CO
2条件下では葉面温度が上昇する。気孔におけるCO
2応答異常の突然変異体として高い葉面温度を示す
ht1 (High leaf temperature 1 )が報告されているが、本発表では
ht1と同様の手法を用いて単離された
coin1 (CO2 insensitive 1 ) について報告する。
coin1は
ht1と逆に低い葉面温度を示す変異体であり、高CO
2条件下においても気孔が閉鎖しない。しかし高CO
2と同じく気孔閉鎖を誘導するアブシジン酸や暗処理には正常に応答して気孔を閉じ、乾燥ストレスに対する応答も野生株と同じである。これらの結果は、気孔のCO
2応答においてHT1が関わる開口シグナルと、COIN1が関わる閉口シグナルの2つの伝達経路が存在することを示唆している。現在
coin1の原因遺伝子のポジショナルクローニングを行っている。
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永澤 隆, 祢宜 淳太郎, 松田 修, 射場 厚
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570
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
近年大気中のCO
2濃度は年々増加しており、今世紀中には700ppm程度に上昇すると予測されている。現在までの研究により、高濃度CO
2環境下で植物が受ける影響について、生重量の増加・気孔密度の減少・葉緑体内のでんぷん量増加・タンパク質あたりの光合成活性の低下などが明らかになっている。しかし、低濃度CO
2環境下で育成した植物についての報告はほとんどない。今回我々は低濃度CO
2環境下でシロイヌナズナがどのような形態を示すか解析した。生育条件としてピートモスおよびMS寒天培地を用い、50~100ppmと350ppmのCO
2濃度で比較した。形態の基準として、葉面積・生重量・根の伸張速度・花茎の数および長さ・気孔密度などを測定した。測定の結果、低濃度CO
2環境下ではこれらの多くが著しく減少しており、炭素栄養欠乏によって生育が阻害されることが確かめられた。また糖栄養を添加した条件においても、低濃度CO
2環境下では形態的な変化が観察された。
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宗正 晋太郎, 小田 賢司, 渡辺 恵, 中村 宜督, 下石 靖昭, 村田 芳行
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571
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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ジャスモン酸メチル(MeJA)は、アブシジン酸(ABA)と同様に気孔閉口を誘導するが、このMeJAの気孔閉口誘導機構はまだ明らかではない。MeJA非感受性変異体
coi1を用いた実験により、我々はシロイヌナズナ孔辺細胞におけるMeJAシグナリングの解明を試みた。
coi1変異体では、ABAは気孔閉口を誘導したが、MeJAは誘導しなかった。MeJAは野生株の孔辺細胞において活性酸素種(ROS)と一酸化窒素(NO)の産生を誘導した。さらに我々は、MeJAは野生株の孔辺細胞プロトプラストにおいてSタイプアニオンチャネルとI
Caチャネルを活性化することを見出した。これらMeJAが誘導するセカンドメッセンジャーの産生やイオンチャネルの活性化は
coi1変異体では観察されなかった。ABA非感受性変異体
abi2-1では、ABAと同様に、MeJAは気孔閉口を誘導できないが、ROSとNOの産生は誘導した。我々の結果は、MeJA誘導気孔閉口のシグナル伝達を明らかにし、シロイヌナズナ孔辺細胞内に存在するABAとMeJAの間に広がるシグナルネットワークの1つのモデルを提唱する。
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高橋 洋平, 木下 俊則, 島崎 研一郎
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572
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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気孔孔辺細胞におけるABAシグナル伝達において蛋白質リン酸化反応が重要な役割を担うことが示されているが、そのシグナル伝達メカニズムは分子レベルではほとんど明らかになっていない。我々はソラマメ孔辺細胞においてABAに応答してリン酸化レベルの変動する蛋白質を、多くのリン酸化蛋白質と結合することの知られる14-3-3蛋白質をプローブに用いて検出した。その結果、ABAに応答して14-3-3蛋白質と結合する分子量61 kDaの蛋白質を見出した。この蛋白質は葉肉細胞や根には存在せず、孔辺細胞の細胞質に局在した。14-3-3蛋白質との結合は生理的な濃度のABAによって引き起こされ、3分以内に最大に達する早い反応で
in vivoでも起こった。この反応はH
2O
2や細胞外Ca
2+を必要としなかった。また、14-3-3蛋白質の結合は61 kDa蛋白質のリン酸化に依存していた。ABAに活性化されるキナーゼAAPK(48kDa)の自己リン酸化は、ABAに応答する時間経過やプロテインキナーゼ阻害剤であるK-252aに対する感受性などの点で61 kDa蛋白質のリン酸化とよく似ていた。さらに、AAPKはABAに活性化された場合のみ
in vitroで61 kDa蛋白質をリン酸化した。以上の結果は、61 kDa蛋白質がABAシグナル伝達の初期段階においてAAPKの基質としてはたらく可能性を示唆している。
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高橋 加奈, Zhang Qin, 作田 正明, Riechers Dean, Goldsbrough Peter
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573
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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グルタチオン
S トランスフェラーゼ(GST)は、植物の防御機構においていくつかの重要な役割を担っていると考えられているが、その一つとして除草剤の解毒機構への関与が知られている。トウモロコシなどの単子葉植物では、除草剤緩和剤がGSTの発現を誘導し、これによって植物の除草剤耐性が高まることが報告されている。一方シロイヌナズナでは、除草剤緩和剤によっていくつかのGSTが誘導されるが、その発現量の増加により除草剤耐性は影響を受けない。我々は、このような緩和剤誘導性GSTの除草剤解毒機能の多様性に注目し、3種類の異なる植物のGSTについて比較解析を行った。除草剤緩和剤による誘導が確認されている、
AtGSTU19 (
Arabidopsis thaliana)、
TtGSTU1 (
Triticum tauschii)、
ZmGST4 (
Zea mays) のそれぞれを35Sプロモーターと共にシロイヌナズナに導入し、過剰発現させた。その結果、
ZmGST4組換え植物体では、chloroacetamide除草剤に対する強い耐性がみられた。
AtGSTU19組換え植物体では、CDNBに対して高いGST活性が示されたものの、除草剤に対する耐性は見られなかった。これらのことから、シロイヌナズナで緩和剤の効果が見られないのは、chloroacetamide除草剤の分解に関わるGSTが誘導されないためであると考えられる。
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佐久間 洋, 圓山 恭之進, 刑部 祐里子, 秦 峰, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
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574
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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シロイヌナズナのDREB2Aタンパク質は、乾燥、塩ストレス応答に関与する転写因子であり、ストレス誘導性遺伝子のプロモーター領域に存在するDRE/CRT配列に特異的に結合する。DREB2Aタンパク質の活性化には翻訳後の修飾が必要であり、我々はこれまでにアミノ酸136-165の領域が活性を負に調節していること、この領域を削除することで恒常的活性型となる事を明らかにしている。恒常的活性型DREB2Aを35Sプロモーターと結合して過剰発現させた形質転換シロイヌナズナでは、LEAタンパク質遺伝子などの水ストレス耐性獲得に関与する遺伝子に加えて、高温ストレス応答性遺伝子の発現の増加が見られた。DREB2Aの高温ストレスに対する応答を確認すると、37度処理により30分をピークに一過的な強い発現誘導を受けていた。また高温ストレス処理により、GFP-DREB2A融合タンパク質の核への蓄積が観察された。活性型DREB2A過剰発現シロイヌナズナでは野生株に比較して高温ストレス耐性が向上しており、DREB2A破壊株では高温ストレス耐性の低下がみられた。これらの結果はDREB2Aが、乾燥・塩ストレス応答だけではなく、高温ストレス応答に際しても重要な機能を果たしていることを示唆している。
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山田 健志, 深沢 美津江, 鈴木 育, 西村 幹夫
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575
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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植物は生育温度より少し高い温度(熱ショック)にさらされると熱ショックタンパク質を蓄積し高温耐性を獲得する.この熱に対する馴化は,植物が熱でしおれず成長するために必要である.どのようにして植物が熱応答遺伝子の発現を制御しているかは不明であったが,私たちはHSP90が熱応答遺伝子の発現を制御していることを見いだした.シロイヌナズナを用いHSP90阻害剤の効果を調べたところ,一時的なHSP90阻害剤処理で熱応答遺伝子の誘導とともに高温耐性が獲得され,熱ショックなしに熱に対する馴化を誘導できた.HSP90の基質,グルココルチコイドレセプター(GR)を発現するシロイヌナズナを用い,GRの応答を指標としてin vivoにおけるHSP90の活性を調べたところ,熱ショックでHSP90の活性が低下することがわかった.一方,熱ショックまたはHSP90阻害剤処理により発現が上昇する遺伝子のプロモーター領域には熱ショック転写制御因子(HSF)が結合する熱ショックエレメント(HSE)が見つかった.いくつかのシロイヌナズナのHSFは常に発現しており,熱処理やHSP90阻害剤処理により発現量は変化しなかった.これらのことから,HSP90によりHSFが負に制御され,熱ショックによるHSP90の活性低下がHSFを活性化し,熱応答遺伝子を発現させることが示唆された.
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山本 紘輔, 大久保 実, 桃木 芳枝
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576
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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アセチルコリン(ACh)を介した刺激応答系(ACh系)は動物界のみならず植物界においても存在が示唆されており,AChおよびその分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)活性は,裸子および被子植物から藻類に至る約200種において検出されている.現在まで我々は,植物ACh系の機能を解明するために,AChの量的レベルを制御するAChEの機能について研究を行ってきた.その結果,植物AChEが重力および熱ストレスなどの環境ストレスに応答することを確認した.さらに近年,植物ACh系の制御酵素である植物AChEをトウモロコシ幼苗から精製し,その全cDNA配列を同定した.本報告では,トウモロコシAChE遺伝子を大腸菌にて高発現させ大量精製して作製したAChE抗体を用いて組織および細胞内局在性を検討した.トウモロコシ幼苗におけるAChEの局在部位をイムノブロットにて解析したところ,主に鞘葉節に局在することが確認された.また免疫蛍光染色の結果から,AChEは中心柱を包括する内皮細胞および茎頂分裂組織の基底部に局在することが明らかとなった.さらに,熱ストレス(45℃, 15 min)を与えたトウモロコシ幼苗におけるAChEの分布は,コントロールに比べ局在性が拡大した.
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山本 千草, 坂田 洋一, 太治 輝昭, 田中 重雄
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577
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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植物の根は、土壌の硬さや石などの接触刺激を感知してよりよい環境を求めて成長する。障害物を避けて屈曲する現象は、接触屈性として知られているが、その応答機構については不明である。これまでに我々は、シロイヌナズナの根の接触屈性検定法である二層法(上層培地: 0.3% phytagel, 下層培地: 0.2-0.5% phytagel)を開発し、エチレン合成酵素阻害剤やエチレンの前駆体、またエチレン応答変異体を用いて、接触屈性にエチレンが関与することを報告した。
本研究では、下層培地の硬さに応答して曲がる根(屈曲型)と下層に貫入する根(貫入型)と、エチレン生合成との関連を検討した。エチレン合成量は、屈曲する根で減少し、屈曲型の割合の増加と逆相関を示した。また、エチレン生成の鍵酵素である9 種類の ACC 合成酵素 (ACS) の遺伝子発現を qRT-PCR で調べた結果、
ACS7 は屈曲型で減少し、
ACS4,
9,
11 は屈曲型と貫入型の両タイプにおいて遺伝子発現が上昇した。興味深いことに、
ACS4,
7,
9 は培地の硬さに応じて発現量が変化した。さらに根の硬さについては、屈曲型で根の硬さが減少し、逆に貫入型で根の硬さが上昇することが判明した。以上の結果は、接触刺激を受けた根が、
ACS 遺伝子の発現量とエチレン合成量を増減してその硬さを変化させ、屈曲応答することを示唆する。
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小泉 朋子, 榊 剛, 鈴木 優志, 村中 俊哉, 曽我 康一, 若林 和幸, 保尊 隆享
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578
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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植物が重力の力に抵抗して成長する「抗重力」は、重力屈性と並ぶ植物の主要な重力反応である。過重力環境下ではメバロン酸経路を律速する3-hydroxy-3-methylglutaryl-Coenzyme A reductase (HMGR)の遺伝子発現レベルが上昇することから、この経路の最終産物の1つである膜ステロールが抗重力反応に関与する可能性がある。本研究では、膜脂質組成に対する過重力の影響を詳細に解析するとともに、1 g及び過重力環境下におけるHMGRノックアウト変異体の成長解析を行い、この仮説を検証した。過重力環境下で生育したアズキ上胚軸では、1 g 対照と比べて生重量当たりの膜ステロールレベルが高く維持されていた。これに対して、リン脂質、糖脂質、あるいは脂肪酸のレベルには明瞭な変化が認められなかった。過重力は、個々の脂質クラスの脂肪酸組成にも影響しなかった。一方、シロイヌナズナの
hmgノックアウト変異体のステロールレベルは、野生型に比べて明らかに低かった。この変異体の胚軸は1 g 環境下ですでに短く太く、過重力環境下でもそれ以上の伸長成長の阻害や肥大成長の促進は見られなかった。HMGR阻害剤であるロバスタチンで処理したアズキ上胚軸でも、ほぼ同様の傾向が認められた。以上の結果から、膜ステロールは、茎器官が重力に抵抗して正常な成長を維持する上で重要な役割を担っていると考えられる。
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豊田 正嗣, 古市 卓也, 辰巳 仁史, 曽我部 正博
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579
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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多くの高等植物は重力方向を感受し、成長方向を制御する重力屈性反応を示す。重力感受過程において重力方向の変化(重力刺激)は細胞内シグナルに変換されると想定されるが、その機構やシグナル分子の大部分は未知である。そこで細胞内セカンドメッセンジャーとして幅広く機能するCa
2+に着目し、シロイヌナズナ(
Arabidopsis thaliana)幼植物における重力刺激応答性細胞質Ca
2+濃度([Ca
2+]
c)変化の測定と解析を通してその分子機構を探った。Ca
2+レポータータンパク質であるエクオリンを導入したシロイヌナズナ個体を重力方向に対して180度回転させると、一過的に[Ca
2+]
cが上昇することが見出された。この[Ca
2+]
c上昇は機械刺激受容(MS)チャネルの阻害剤(Gd
3+, La
3+)、細胞内Ca
2+ストア阻害剤(ruthenium red)およびCa
2+キレーター(BAPTA)で処理すると抑制された。よって、重力刺激は細胞膜上のMSチャネルを介したCa
2+流入および細胞内ストアからのCa
2+放出を引き起こすと考えられる。またこの[Ca
2+]
c上昇はアクチン脱重合剤(latrunculin B, cytochalasin B)で一部抑制されることから、これらチャネルの活性化にアクチンフィラメントが部分的に関与することが示唆された。
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北澤 大典, 宮沢 豊, 藤井 伸治, 高橋 秀幸
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580
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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植物の地上部は、光・大気を効率的に獲得するために、重力を利用し自身の成長点をより高い位置に押し上げる仕組みを有する。例えば、茎を重力方向に折り曲げたまま生育させると、最上位となった節の腋芽が成長を開始し新たな頂芽として振る舞う。我々は、この頂芽優勢の打破を、重力により制御される腋芽伸長現象として注目し、解析を行っている。これまでに、アサガオの重力屈性欠損変異株(
we)を用いた解析の結果、折り曲げによる頂芽優勢の打破は重力応答を必要とすることを明らかにした。しかし、その機構は全く未解明であり、それが摘心による頂芽優勢打破と同様の機構によって制御されるかどうかも明らかになっていない。そこで本研究では、重力応答による腋芽伸長機構を解明する糸口を見出すために、頂芽優勢に働くサイトカイニンとオーキシンに注目し、折り曲げ処理時におけるそれらの動態変化を解析した。まず、野生型アサガオに対し摘心処理を行った結果、節においてサイトカイニン内生量が増加した一方で、オーキシン応答は低下した。これに対して、折り曲げ処理を行った場合は、頂芽優勢の打破が生じる野生型およびそれが生じない
we系統において、サイトカイニン内生量およびオーキシン動態に顕著な変化は認められなかった。従って、重力応答による頂芽優勢の打破は、摘心による場合とは独立した機構によって起こる可能性が示唆された。
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清水 美順, 宮沢 豊, 藤井 伸治, 高橋 秀幸
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581
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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キュウリは、発芽直後に胚軸と根の境界領域(TR領域)にペグと呼ばれる突起状組織を形成する。ペグの形成面は重力によって決定されており、扁平なキュウリの種子を水平に置いて発芽させると、必ずTR領域の下側の面に一つのペグが形成される。これまで我々は、ペグの形成されるTR領域下側ではオーキシン量が増加すること、外生オーキシンを処理するとTR領域の上側にもペグが形成されることから、オーキシンがペグ形成を誘導する因子のひとつであることを示唆してきた。さらに、TR領域下側では、上側と比較してオーキシン誘導性遺伝子
CsIAA1の発現量が高く、オーキシンによって発現抑制を受ける遺伝子
CsGRP1の発現量が低いことから、これらの遺伝子がペグ形成に関与する可能性を示してきた。本研究では、さらにペグ形成におけるオーキシン作用の重要性を検討するため、オーキシン作用阻害剤の
p-chlorophenoxyisobutyric acid (PCIB)がペグ形成に与える影響を解析した。その結果、PCIB処理によってキュウリ芽ばえのペグ形成は抑制された。さらに、PCIB処理によってペグ形成が抑制されたTR領域下側において、オーキシン誘導性遺伝子
CsIAA1の発現は抑制され、オーキシンによって発現抑制を受ける遺伝子
CsGRP1の発現は促進された。これらの結果は、オーキシンがペグの形成面を決定する因子であり、オーキシンの偏差分布がオーキシン応答性遺伝子の発現を制御してペグ形成を支配することを示す。
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藤井 伸治, 矢内 健一, 堀田 拓哉, 宮沢 豊, 高橋 秀幸
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582
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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キュウリの種子を水平に置いて発芽させると,胚軸と根の境界領域 (Transition zone;TR領域) の下側にペグと呼ばれる突起状の器官が形成される.一方,垂直に種子を置き発芽させると,TR領域の両側に1つずつ,計2個のペグが形成される.我々はこれまで,水平に発芽させた芽ばえのTR領域の上側のオーキシン量は下側に比べて少ないこと,オーキシン排出キャリアの阻害剤を処理すると,水平に発芽させた芽ばえにおいてもTR領域の両側に1つずつ,計2個のペグが形成されること等から,水平に発芽させた芽ばえのTR領域の上側で重力刺激に応答してオーキシン排出キャリア依存的にオーキシンが減少し,ペグ形成が抑制されることを示してきた.本研究では,TR領域における重力刺激に応答したオーキシン分布の調節機構を理解するために,TR領域での重力感受細胞であると推定される内皮で発現するオーキシン排出キャリアCsPIN1タンパク質の局在を免疫組織学的に解析した.その結果,ペグ形成を開始する吸水後24時間目の水平に発芽させた芽ばえにおけるTR領域の横断切片の内皮細胞でのCsPIN1タンパク質の局在パターンは,垂直に発芽させた場合と異なっていた.したがって,内皮での重力方向に依存したCsPIN1の局在パターンの差異が,重力刺激に応答したTR領域のオーキシンの分布の変動に関与する可能性が考えられた.
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田中 祐二, 松田 祐介
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583
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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海洋性珪藻
Phaeodactylum tricorunutumを用いたこれまで塩応答機構に関する研究結果から、 細胞の生育及びPSII の活性は環境中の Na
+ の増大及び Cl
- の低下によって促進され、 [Na
+] が上昇すると、細胞内のNa
+は葉緑体周辺区画から葉緑体に移動することが明らかになっている。これらの結果から、
P. tricorunutum は好塩性生物であることが示唆される。本研究では、単離チラコイド膜を用いてNa
+ の光合成機関に与える影響を評価した。
PSII の構成因子について配列比較を行ったところ酸素発生複合体の中心因子である psbO の平均等電点が
P. tricorunutum では緑藻や高等植物などと比べて低いことが示された。酸性度の高い部位の詳細を知るために立体構造予測に基づく解析を行ったところPSIIコアとの結合部位に連続した3個のアスパラギン酸が存在しており、この部位で特に酸性度が高くなっていることが示された。この結果から、
P. tricorunutum の酸素発生複合体はNa
+ によって安定化する可能性が考えられた。そのため、酸素発生系のNa
+ 依存性を生化学的に解析している。一方、ゲノム解析の結果植物ゲノム上は見られない [Na
+] 依存的イオン輸送体の遺伝子が多数確認され、
P. tricorunutum が動物細胞に近いシステムを持つ好塩性生物であることが強く示唆された。
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柴坂 三根夫, 且原 真木
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584
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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高等植物のアクアポリンは大きなファミリーを形成している。水の輸送を担うタンパク質として発見されたアクアポリンは今では多様な低分子溶質も輸送することが続々と実証されてきている。植物組織内のある細胞での水や溶質の移動は、水ポテンシャルの変化を介して周辺の細胞の水輸送に影響すると考えられる。このことからアクアポリンファミリーのメンバーの発現調節は互いに密接に関連しあっていることが想定される。
我々はイネ発現データベース(RED)から発現データを、イネゲノムデータベースから遺伝子の上流域の配列を取得し、発現パターンの解析とプロモーター領域周辺の塩基配列の解析をおこなった。50 Mm NaClの比較的穏やかな塩ストレスを与えた一連の実験(Project ID2102 by Tanaka Yoshiki, 2001)の結果によると、塩ストレスが負荷された初期段階で、アクアポリンファミリーの多くのメンバーが根では0-1, 2-3, 4-5時間、葉では2-3時間の時間帯に同調的に減少し、根では5-6時間、葉では1-2時間には同調的に増加した。同調的発現に関わるようなプロモーター領域のモチーフ検索を進めている。
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Ayalew Ligaba, Maki Katsuhara
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585
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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We studied expression of five aquaporin isoforms belonging to TIPs and NIPs in barley (
Hordium vulgare) by a quantitative realtime RT-PCR. Seedlings were exposed to various abiotic stresses and phytohormones for 24 h. Treatment with NaCl, ABA and GA differentially regulated the expression of the aquaporin genes. Nitrogen-deficiency down regulated expression of all the genes except
HvTIP4;1 in roots, not shoots. Intriguingly, gene expression was restored three days after N was supplied. Heavy metals (Cd, Cu, Zn and Cr) down regulated both the rate of transpiration and the aquaporin genes expression including
HvPIP2;1 in roots, indicating that these metals inhibit water uptake activity by decreasing the abundance of water channel proteins. Hg treatment decreased the rate of transpiration but did not suppress gene expression. This inhibition probably involves a direct interaction of Hg with water channel proteins. Functional analysis of the aquaporin genes is ongoing.
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田中 義人, Waditee Rungaroon, 日比野 隆, 中村 辰之介, 高倍 昭洋
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586
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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ラン藻のNa
+/H
+アンチポーターは植物と比較して数は少ないがNhaPとNapAアンチポーターを複数もつ。NhaP1アンチポーターは、植物、動物、バクテリアのものと相同性が高い。
Synechocystis PCC 6803のSynNhaP1はNa
+/H
+およびLi
+/H
+の交換活性をもつが耐塩性ラン藻から単離したApNhaP1は、Na
+/H
+およびCa
2+/H
+の交換活性をもつ。今回、SynNhaP1のC-末端の役割を調べるために、C-末端を削除したいくつかの変異体を作成した。その結果、C-末端が交換活性およびpH依存性に重要であることが明らかになった。また、SynNhaP1遺伝子を根特異的プロもーターを用いてアラビドプシスに導入した形質転換植物を作成した。その局在性、塩ストレス耐性能について検討した結果を発表する。
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三屋 史朗, 大谷 基泰, 島田 多喜子, 三宅 博, 高倍 鉄子
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587
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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植物が塩にさらされると、塩が体内に吸収・蓄積して障害が引き起こされる。我々はこれまでにシロイヌナズナの膜タンパク質RCI2Aが植物の塩の吸収抑制に関与し、耐塩性に重要であることを見いだした。本稿では、イネの耐塩性強化を目的として、イネにおける
RCI2A遺伝子と相同的な
OsPMP3遺伝子群を単離し、塩ストレス下における
OsPMP3遺伝子群の発現様式を調べた。さらに
OsPMP3過剰発現イネの塩ストレス応答を調べた。その結果、イネゲノムには少なくとも7つの
OsPMP3遺伝子が存在することが分かった。そのうち3つの
OsPMP3遺伝子の発現量が塩により増加した。塩誘導性の
OsPMP3遺伝子は葉肉細胞と側部根冠において発現が見られた。また、
OsPMP3-3過剰発現イネを3ライン作出したところ、塩処理区において、野生株と比べて地上部のNa
+含量が減少し、耐塩性が向上した。
以上より、塩ストレス下のイネにおいてOsPMP3は、葉肉細胞や側部根冠において発現が増加して植物体内への塩の流入を制限することによりイオン恒常性を維持し、耐塩性に貢献すると考えられた。
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藤原 崇志, 服部 侑, 三屋 史朗, 高倍 鉄子
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588
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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植物における塩、乾燥ストレスに対する適応戦略の一つに、グリシンベタイン(ベタイン)やプロリンなどの適合溶質の蓄積がある。ベタインは細胞内オルガネラ間や組織間においてダイナミックに輸送されることが示唆されている。しかし、ベタイン蓄積植物におけるベタイン輸送体の存在はほとんど報告がない。そこで本稿では、オオムギにおける適合溶質輸送機構の解明を目的とし、ベタイン、プロリン輸送に関与する遺伝子の単離とコードされるタンパク質の機能解析を試みた。
オオムギから適合溶質輸送に関与する新規遺伝子
HvProT2を単離した。ノーザン解析により、
HvProT2は根において強く発現することが示された。また酵母に
HvProT2遺伝子を導入し輸送活性を調べたところ、ベタイン、プロリンおよびGABAを基質とすることが明らかとなった。これらの結果はHvProT2が根における適合溶質輸送に関与することを示唆している。さらにオオムギにおけるHvProT2の生理的機能を明らかにするために、HvProT2が細胞内、植物体内でどこに局在しているかを調査する予定である。
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服部 侑, 藤原 崇志, 三屋 史朗, 高倍 鉄子
p.
589
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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オオムギは塩ストレスを受けると、細胞内に適合溶質であるグリシンベタイン(ベタイン)を多量に蓄積し、吸水阻害や代謝障害を軽減する。植物の耐塩性と適合溶質の合成・蓄積は主に細胞レベルで詳細に解析されているが、組織および植物全体での動態には不明な点が多い。そこで本稿では、オオムギの組織および植物体レベルにおけるベタインの合成・蓄積機構を明らかにすることを目的とした。塩ストレスを与えたオオムギにおけるベタインの分布と、ベタイン合成の最終段階を触媒するベタインアルデヒド脱水素酵素をコードする
HvBADH2遺伝子の発現を器官別に調査した。その結果、地上部において、ベタインは若い組織に多く蓄積されており、
HvBADH2の発現レベルも成熟葉から若葉へと経時的に変化していた。また、組織における
HvBADH2 mRNAの局在を
In situハイブリダイゼーションにより観察したところ、葉では主に葉肉細胞で恒常的に発現し、塩ストレス下では師部においても強いシグナルが見られた。根では、根端の内皮および外皮細胞で強いシグナルが見られた。今後、組織におけるBADHタンパク質、ベタイン合成を誘導するH
2O
2の局在についても調査する予定である。
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小林 康一, 粟井 光一郎, 中村 正展, 長谷 あきら, 太田 啓之
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590
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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近年、リン欠乏時にはリン脂質から糖脂質への膜の質的転換が引き起こされることが明らかになり、膜脂質におけるリン欠乏応答機構に注目が集まっている。我々はシロイヌナズナを用いた研究から、リン欠乏時には葉緑体膜の主要膜糖脂質であるmonogalactosyldiacylglycerolの合成を担う遺伝子、
MGD2、
MGD3の発現が強く誘導されることを明らかにした。
本研究では、リン欠乏時に起こる適応応答に
MGD2/3がどのように寄与しているかを調べるために、これらの遺伝子のT-DNA挿入変異体解析を行った。脂質解析の結果、リン欠乏時に起こるガラクト脂質の増加には、特に
MGD3が重要であることが分かった。根においてその重要性は顕著であり、
mgd2mgd3二重変異体ではリン欠乏によるガラクト脂質の増加がほとんど見られなかった。そこで、これらの変異体で見られたリン欠乏時の糖脂質代謝異常が、植物の生長にどのような影響を及ぼすかを調べた。その結果、
mgd2mgd3二重変異体では、重量の減少、根の伸長阻害、子葉での光合成活性の減少が観察された。これらの表現型はリン欠乏時にのみ見られたことから、
MGD2/3はリン欠乏時の糖脂質の増加に特異的に寄与していると考えられる。さらにこれらの結果は、リン欠乏時に見られる膜脂質の質的転換が実際に植物の生長に重要であることを示している。
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日比 忠晴, 小杉 俊一, 川田 元滋, 瀬尾 茂美, 光原 一朗, 大橋 祐子
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591
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
タバコ
EIN3ホモログ
TEIL (Tobacco
EIN3-like)は,タバコ酸性
PR1遺伝子のプロモーター領域に特異的に結合する因子として単離された.
TEILは
EIN3とアミノ酸配列上60%の相同性を持ち、転写活性化能を有し、特異的な配列(
TEIL binding sites: tebs)に結合する(Kosugi and Ohashi, 2000). Wtタバコでは試験した全ての器官で
TEIL遺伝子の恒常的な発現が認められ,傷害葉では傷害誘導性basic
PR遺伝子に先立つ発現誘導がおこる.
TEIL遺伝子とその相同遺伝子の傷害による発現を,RT-PCR法により経時的に解析した結果,これらの遺伝子間で差異が認められた.
TEIL過剰発現タバコおよび抑制タバコの解析から,
TEILはbasic
PR遺伝子の正の調節因子であることが示唆され,老化,トリプルレスポンス,花器形態形成への関与が示唆された.今回は、
TEIL遺伝子の病傷害における機能を検討するため、病原糸状菌であるタバコ腰折病菌(
R.solani)を幼植物に接種したところ,抑制体で顕著な感受性の増加が認められた.現在過剰発現体における抵抗性の変化を検討している.また,傷害葉からのエチレン放出量を解析したところ,抑制体ではエチレン放出量がWtタバコと異なっていた.これらの結果は,
TEIL遺伝子が関連するシグナル伝達がタバコの病害応答,傷害応答において一定の役割を担っていることを示唆する.
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姜 昌杰, 霜野 真幸, 菅野 正治, 高辻 博志
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592
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
脂質を介するシグナル伝達径路は植物の病害抵抗性反応の誘導において重要な役割を果している。シロイヌナズナにおいて、ステアリン酸 (18:0)をオレイン酸 (18:1)に変換する脂肪酸不飽和化酵素遺伝子
SSI2を欠損した変異体は、ベト病菌やシュードモナス菌、キュウリモザイクウィルス等、広範な病原菌に対して強い抵抗性を示す。本研究では、
SSI2のイネホモログ
OsSSI2の病害抵抗性における機能解析を行った。
RNAiによって
OsSSI2発現を抑制した形質転換体イネ(
OsSSI2-kd)は、壊死班や軽度の生育遅延、
PR遺伝子やBTH誘導性
WRKY遺伝子の恒常的発現および幼苗期におけるいもち病抵抗性を示した。これらの結果から、
OsSSI2の反応産物はイネの病害抵抗性において負の制御に関わっていると考えられる。また、
OsSSI2の発現は幼葉で最も高く、生育に伴い低下することが分かった。この発現様式はイネの生育に伴って発現するいもち病抵抗性と関連している可能性が考えられる。現在、
OsSSI2-kdのサリチル酸含量や脂肪酸組成の測定およびマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行っており、それらの結果についても合わせて報告する。
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屋良 朝紀, 八丈野 孝, Jean-Luc Montillet, 長谷川 守文, 楠見 健介, 瀬尾 茂美, 射場 厚
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593
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
多不飽和脂肪酸から生成する脂肪酸酸化物は、植物の病害抵抗性において重要な役割をもつと考えられている。我々は、リノール酸 (18:2) を不飽和化するω-3デサチュラーゼ (OsFAD7、OsFAD8) の発現を抑制した18:2高含有形質転換イネ (F78Ri) において、いもち病菌抵抗性が向上することを明らかにした(第47回植物生理学会年会)。今回は、F78Riにおいていもち病菌抵抗性が向上する原因を調査した。イネがいもち病菌に感染すると、ハイドロキシド合成が誘導される。この合成経路において、18:2とリノレン酸 (18:3)はそれぞれハイドロペロキシド (HPODEs、HPOTEs) を経て、ハイドロキシド (HODEs、HOTEs) へ変換される。これらの脂肪酸酸化物のいもち病菌への抗菌活性を測定したところ、18:2由来のHPODEsやHODEsは、18:3由来のHPOTEsやHOTEsよりも高かった。F78Riのハイドロキシド含量を測定した結果、HODEs含量は、野生株と比較して明らかに増加した。よって、18:2由来のHPODEsやHODEsの蓄積が、F78Riのいもち病菌抵抗性の向上に寄与することが示唆された。これらの知見は、植物の含有脂肪酸組成の人為的制御によって耐病性作物の作出が可能であることを示している。
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今井 亮三, 加藤 英樹, 島 周平, 安田 美智子, 仲下 英雄, 松井 博和, 佐々木 健太郎
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594
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
トレハロースは細菌,糸状菌,昆虫,甲殻類など広範囲の生物群に見出され,食品にも多く含まれる.生体内においては,乾燥等のストレス時の生体膜やタンパク質の保護物質,あるいは貯蔵糖や血糖として働く.植物にも微量存在するが,これらと異なり,シグナル分子として機能することが最近明らかになりつつある.我々はイネのストレス応答におけるトレハロースの機能をを解析しているが,その過程で興味ある知見を得たので報告する.水耕したイネ幼苗を5mMトレハロース水溶液に移し2時間処理し,処理前後の根組織由来のRNAを材料に,Agilent 22K DNAアレイを用いて解析した.トレハロース誘導性遺伝子の中にはERF, JAmyb, WRKY等の転写因子,キチナーゼ等のPRタンパク質をはじめとした病害応答関連遺伝子が大多数を占めた.ノーザン解析の結果,トレハロース処理後早期に転写因子群の一過的誘導が起こり,PRタンパク質は処理後徐々に誘導される傾向があった.トレハロース以外の主要単,二糖類処理では誘導は観察されなかった.次にトレハロースによる抵抗性誘導の有無を,いもち病菌の噴霧処理および葉面接種による病斑形成を指標に評価した.接種5日前のトレハロース(5mM)灌注処理により,病斑数の減少,病斑進展抑制が観察された.いもち病菌は,病原性の発現にトレハロースの蓄積を必要とすることから,イネにおいてはトレハロースをPAMPsとして認識する機構が存在すると推定された.
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山本 雅子, 浅田 裕, 筒井 友和, 池田 亮, 山口 淳二
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595
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
病原体感染時にみられるようなHR様細胞死を示す疑似病斑変異体
cad1は、1)サリチル酸(SA)の顕著な蓄積が観察され、2)恒常的にPR遺伝子群が発現しており、3)病原性細菌に対する抵抗性を獲得している。従って、CAD1は免疫機能を負に制御していると考えられた(
Plant Cell Physiol. 2005, 46: 902-912)。
一般に感染部位だけでなく未感染部位においても、SAの蓄積と感染特異的(PR)遺伝子の発現誘導が認められ、これは全身獲得抵抗性(SAR)が誘導された結果である。これまでの研究より,
cad1変異体ではウイルスの全身移動が阻害されていたことから,CAD1とSARの関連性があることを示唆した。本研究ではこれについて検証するため、CSIROのpOpOff2ベクターを利用したDEX誘導型RNAiシステムを用いた解析を進めた。このRNAiシステムでは,pOpOff2ベクターに
CAD1のコード領域500bpとその逆向き反復配列がヘアピン構造を形成させ、内生
CAD1のサイレンシングを引き起こすものである。上記コンストラクトを導入した植物ではDEXを塗布した部位にのみ局所的にRNAiを誘導することができる。導入植物を解析した結果、局所的に
CAD1遺伝子をサイレンシングすることによって、塗布していない離れた組織でもPR遺伝子等の発現誘導が観察された。これらの知見は、CAD1がSARを負に制御している可能性を示しており、これについて議論したい。
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筒井 友和, 浅田 裕, 山本 雅子, 池田 亮, 山口 淳二
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596
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
高等植物は、病原体の感染・増殖を抑制するために、最終的には細胞死を誘導する。
我々は、植物免疫機構の解明を目的として病原体感染時にみられるような細胞死を示す、
cad1(
constitutively activated cell death 1)変異体を単離し、その機能解析を進めている。
cad1変異体は、病原体に対する抵抗性を示すとともに、内生サリチル酸量の亢進が観察される。これらの結果から、CAD1は、サリチル酸合成を抑制することにより、免疫機構を負に制御していると考えられた。
本研究では、サリチル酸依存的な抵抗性経路に着目し、CAD1の植物免疫における負の制御機構の実体解明を目的とした。サリチル酸合成酵素が欠損した
sid2変異体と
cad1変異体との二重変異体を作製した。その結果、この二重変異体では
cad1変異体においてみられる細胞死形質が部分的に抑制されるものの、病原体に対しては
cad1変異体と同程度の抵抗性を示した。従って、CAD1は、サリチル酸合成の抑制因子であり、同時にサリチル酸経路に依存しない免疫経路も抑制していることが示唆された。そこで、
sid2 cad1二重変異体に変異原処理を施し,野生型への復帰変異体の単離を行った。その結果,細胞死形質が抑制され、病原体に感受性を示す復帰変異体
can1(
sid2 cad1 double mutant non-resistance 1)を単離した。詳細な実験より、CAN1はCAD1制御下の新たな植物免疫機構の正の制御因子であることが予測された。
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安部 洋, 大西 純, 鳴坂 真理, 瀬尾 茂美, 鳴坂 義弘, 津田 新哉, 小林 正智
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597
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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昆虫による食害は、干ばつなどの環境要因、病原菌などによって引き起こされる病害と並び、植物の生育を脅かす重大な要因の一つである。しかし、農業生産上、非常に重要であるにも関わらず、植物の食害応答の分子メカニズムはあまり明らかになっていない。
近年、植物のストレス応答に植物ホルモンが深く関わっていることが分子レベルで明らかになり、その重要性が再認識されるに至った。我々はシロイヌナズナとミカンキイロアザミウマ(Frankliniella occidentalis)を用いて、植物の虫害応答に植物ホルモンがどのように関わっているのか解析を行なっている。ミカンキイロアザミウマは野菜や果物、そして花等を加害するだけではなくウイルス媒介虫としても知られ、世界的に問題となっており、その防除が切望されている。ミカンキイロアザミウマにより食害を受けたシロイヌナズナにおいては、マーカー遺伝子として知られているPDF1.2、VSP2、PR1などの遺伝子発現が誘導されており、エチレン、ジャスモン酸、サリチル酸の重要性が示唆された。今回我々は、アザミウマによる虫害応答における、これらホルモンの機能をより詳細に解析するために、アザミウマによる虫害とこれらホルモン処理による発現応答をマイクロアレイを用いて比較した。更に、これらホルモンに関連した変異体を用いた解析も行なったので報告する。
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藤原 伸介, 徐 相規, 村野 宏達
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598
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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私達はこれまでに窒素過剰条件下で栽培されたシクラメンがフザリウム萎凋病に罹病しやすいことを報告し、その原因がアンモニアの過剰やストレス条件下で地下部に生成するアミノ酸類、中でもアルギニンやアミドのアスパラギン、グルタミンが地下部に感染したフザリウム菌の増殖を刺激するためではないかと推察した。今回は、種々の環境ストレスの耐性機構に関わり、病原ストレスに対する応答成分の一つとしても知られるポリアミンについて、フザリウム萎凋病の発症との関係を解析し、地下部へのフザリウム萎凋病菌の感染の指標としての可能性を検討した。
シクラメンにフザリウム菌を接種すると、地上部に萎凋病症状が現れない9日目においても、葉中プトレシン、スペルミジン含有量の上昇が認められた。シクラメンを萎凋病発症歴のある施設内で長期間栽培し、自然発生した萎凋病株について塊茎部の汚染度やポリアミン含有量について調べたところ、塊茎部の汚染がひどい株ほどポリアミン含有量も高いことが分かった。一方、葉中ポリアミン含有量は、塊茎中のポリアミン含有量と正の相関を示すこと、さらに、地上部に萎凋病の症状がまだ現れていなくても、塊茎部の一部に菌の汚染が認められた株は、汚染が認められない健全株と葉中ポリアミン組成が明らかに異なることから、葉中ポリアミンの分析は塊茎部へのフザリウム菌感染の有無を知る上で有効な指標になるものと考えられた。
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篤永 隆昌, 宮田 佳栄, 江坂 宗春
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599
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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キシラナーゼインヒビターは、細胞壁ヘミセルロースの主成分であるキシランを分解する酵素、キシラナーゼを阻害するタンパク質である。このタンパク質は単子葉植物特有のものと考えられており、興味深いが、その生理機能については明らかにはなっていない。我々はイネにおけるマイクロアレイ解析を契機として、ストレス応答性の新規キシラナーゼインヒビター(OsXIP)を同定した。本研究ではイネにおけるOsXIPの生理機能を解明することを目的として、OsXIPの分子特性の解明および発現様式の解析を行った。
大腸菌に生産させた組換えOsXIPを陽イオン交換とゲル濾過により精製した。得られた精製OsXIPは
Trichoderma longibrachiatumおよび
Trichoderma viride由来のキシラナーゼに対し、約50%の阻害を示したが、
Aspergillus niger由来のキシラナーゼに対しては阻害活性が認められなかった。OsXIP mRNAの発現は、通常、未成熟種子でのみ認められた。しかし、根では物理的な傷害やメチルジャスモン酸処理、病原糸状菌である
Rhizpus oryzaeの感染により顕著に発現が誘導された。以上の結果から、OsXIPは種子の発達、および根における病原菌に対する防御応答に関与していることが示唆された。
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山本 洋子, 小塚 正太郎, Demiral Tijen, 力石 早苗, 佐々木 孝行
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600
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
アルミニウム (Al) イオンは、細胞表層に吸着し増殖を阻害するが、阻害機構の詳細は不明である。これまでに、タバコの培養細胞を用いてAlイオンに対する応答反応を24時間解析した結果、前期(Al添加直後から6時間程度まで)と後期(6時間以降)に分かれ、カロース分泌や増殖能低下等の障害応答は、後期に誘導されることが分かっている。これに加え、サリチル酸 (SA) の合成も後期に誘導されることが明らかになった。そこで、本研究では、SAが他の応答反応を誘導する可能性について検討した。SAを加水分解するサリチル酸ヒドロキシラーゼをコードする細菌由来の遺伝子
NahGを導入した形質転換タバコ培養細胞を作成し、非形質転換体とAl応答反応を比較した。その結果、
NahG形質転換体では、カロース分泌が半分程度に抑制されるが、増殖能に大きな違いは見られなかった。次に、タバコ植物体の根におけるAl応答反応(カロース分泌と根伸長阻害)を
NahG形質転換体と非形質転換体とで比較した。Al処理開始後24時間では、両者に差は見られなかったが、数日経過すると
NahG形質転換体の方が非転換体よりもカロース分泌量がやや抑制され、根伸長が良いことが分かった。以上の結果より、Alストレス下の障害応答であるカロース合成と根伸長阻害の一部は、Alで誘導合成されるSAを介して2次的に誘導される可能性が示唆された。
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伊藤 寿, 田中 亮一, 田中 歩
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601
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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我々は
Synechococcus WH8102の光化学系を調べるために形質転換体を作製し、光合成色素の改変を行った。
海洋性の
Synechococcusと
Prochlorococcusは海洋での一次生産に重要な役割を果たしている。これらは系統樹の上では近傍に位置し、
Prochlorococcusは
Synechococcusから派生したと考えられている。しかし、その光化学系の光捕集システムは大きく異なる。
Synechococcusは他の多くのラン藻と同じくフィコビリソームを利用しているのに対して、
Prochlorococcusはクロロフィル
bを合成し、Prochlorophyte chlorophyll
b-binding protein(Pcb)を有している。
我々は、
Synechococcusの光化学系がどのように
Prochlorococcusの光化学系に変化したかを調べるために
Synechococcusの形質転換体を作製した。材料として全ゲノム配列が明らかになっている
SynechococcusWH8102を用いた。
Prochlorothrixのchlorophyll
a oxygenaseと
Prochlorococcus MED4のPcbを導入したところ、少量のクロロフィル
bが検出されたことから、
Synechococcus内でのクロロフィル
bの蓄積が可能であることが示された。
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