日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
19 巻, 1 号
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巻頭言
原著
  • 出雲 明彦, 安藤 廣美, 内田 孝之, 安恒 亨, 田中 二郎, 鮎川 勝彦
    2010 年 19 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/03/02
    ジャーナル オープンアクセス
    【背景】腎動脈下腹部大動脈瘤(AAA)手術は安全に行われるようになってきたが,依然として破裂性AAA(ruptured AAA; rAAA)手術成績は不良である.当院におけるrAAA手術の検討を行った.【対象・方法】1989年4月~2004年12月の15年間にrAAAにて緊急手術された55例を対象とした.その内訳は男性37例,女性18例,平均年齢は74.9歳(58~93歳).重症度をFitzgerald分類に準じ分類,また生存例,死亡例に分け比較検討した.【結果】Fitzgerald分類1型13例,2型6例,3型25例,4型11例であった.死亡例は20例(36.4%),そのうち95%がショックにて搬送されていた.そのおもな死因は術中,術直後の急性循環不全による多臓器不全,播種性血管内凝固症候群が14例,周術期以後の呼吸器合併症が4例であった.とくに術前のショック状態は手術成績の不良因子であった.死亡20症例を検討するに,初療の段階で,AAA破裂と判断できず診断遅延となり死亡に至った症例も3例(15%)認められた.また,5例(25%)においては以前に手術適応のAAAが指摘されていた.【結論】rAAA症例の救命にはできる限り早急の手術治療と術後の集中治療が必要であることに異論はない.当検討の結果からは救命率を向上させる別の因子としてrAAAを診断する初療医の判断,加えて手術適応のある未破裂AAAの待機手術への速やかな勧告が必要と思われた.rAAAによる死亡率減少のためには,当地域の医療従事者や未破裂AAAの患者に対するさらなる啓蒙が必要である.
症例
  • 山川 智士, 椎谷 紀彦, 松居 喜郎, 菅 敏郎
    2010 年 19 巻 1 号 p. 7-11
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/03/02
    ジャーナル オープンアクセス
    Paget-Schroetter症候群は比較的まれな疾患であり,その治療法の選択にはいまだ議論がある.症例は37歳の男性.2年1カ月前,突然左上肢の腫脹が出現し,Paget-Schroetter症候群(原発性鎖骨下静脈血栓症)と診断された.カテーテルによる血栓溶解,吸引により再開通を得て症状は軽快したが,狭窄が残存した.抗凝固療法を1年間行ったが,今回左上肢腫脹が再発.静脈造影にて前回と同部位に高度狭窄所見を認め手術の方針となった.手術は全身麻酔下に鎖骨下アプローチで第一肋骨を切除したのち,胸鎖関節を温存する胸骨柄L字切開(Molina法)で鎖骨を授動して鎖骨下静脈狭窄部のパッチ形成術を行った.術後上肢腫脹は軽快し,現在,抗凝固療法下に外来通院中である.鎖骨下アプローチに併用したMolina法は良好な術野展開に有用である.
  • 小野 眞, 北浦 一弘, 圓本 剛司, 後藤 智行, 岡野 高久
    2010 年 19 巻 1 号 p. 13-16
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/03/02
    ジャーナル オープンアクセス
    孤立性総腸骨動脈瘤が穿破し,動静脈瘻を形成した稀な症例を経験したので報告する.症例は80歳,男性.左下肢腫脹を主訴に来院.左下腹部にthrillを触れ,腹部造影CTで両側総腸骨動脈瘤を認め,動脈造影早期に左腸骨静脈から下大静脈の描出を認めた.動静脈瘻の診断のもとに手術を施行した.動脈瘤後壁に7 mmの瘻孔を認めた.瘻孔を瘤内腔から縫合閉鎖し,大動脈終末部からY型人工血管で置換した.術後,左下肢・側腹部の腫脹は軽減し,術前認めた心不全症状も改善した.
  • 諸富 洋介, 伊東 啓行, 井口 博之, 内山 秀昭, 米満 吉和, 前原 喜彦
    2010 年 19 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/03/02
    ジャーナル オープンアクセス
    内臓動脈瘤は比較的まれな疾患と考えられているが,画像診断の進歩とともに無症候性の動脈瘤の発見例が増加しつつある.今回検診にて偶然発見された多発性内臓動脈瘤の1例を報告する.症例は73歳女性,検診にて胃十二指腸動脈,固有肝動脈,左肝動脈に各々径3.5 cm,1.1 cm,0.9 cm大の動脈瘤を指摘された.一期的にこれらの動脈瘤を切除し,固有肝動脈は再建した.病理診断は非特異的な動脈瘤の所見であり,炎症や感染の関与は明らかではなかった.
  • 岡野 高久, 小野 眞, 春藤 啓介, 北浦 一弘
    2010 年 19 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/03/02
    ジャーナル オープンアクセス
    胸部大動脈人工血管置換術後に発症したMRSA縦隔洞炎に対するVAC療法の1症例を経験した.胸部大動脈人工血管置換術後の縦隔洞炎症例では,心臓手術後症例と異なり,容易に人工血管感染を伴うこと,また,頸部3分枝付人工血管で置換する全弓部置換術後の場合には末梢側吻合部付近の奥深くまで縦隔洞スペースが形成され,かつ,頸部3分枝への分枝人工血管で縦隔洞スペースが区分化され十分なドレナージが困難となり,一層治療に難渋する.チューブを用いて縦隔洞奥のスペースまで十分な洗浄を行い,ペンローズドレーンを人工血管末梢側吻合部に挿入して十分なドレナージをはかるという工夫を加え良好な結果を得た.
  • 出津 明仁, 杉本 昌之, 成田 裕司, 小林 昌義, 山本 清人, 古森 公浩
    2010 年 19 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/03/02
    ジャーナル オープンアクセス
    頭蓋外頸動脈瘤は稀な疾患であり,原因は変性,線維筋異形成,外傷,頸動脈内膜摘除後などである.治療法として,外科手術や血管内治療が報告されている.症例は47歳,女性.主訴は左頸部腫瘤である.頸部CT,MRIで左内頸動脈に壁在血栓を伴う 4.5 cmの嚢状瘤を認めた.手術は左下顎下に皮膚割線に沿って,正中から左茎状突起まで皮膚を切開し,皮弁を作成した.これにより内頸動脈末梢部までの剥離が可能であった.総頸,外頸,内頸動脈を遮断,動脈瘤を切除し,再建は内頸動脈の中枢,末梢の健常部を端々吻合した.周術期に脳梗塞の発症はなかった.術後,左反回神経麻痺や顔面神経下顎枝麻痺を認めたが,徐々に軽快した.頸動脈疾患に対して,胸鎖乳突筋前縁に沿った皮膚切開でアプローチすることが多いが,今回われわれは巨大な頭蓋外内頸動脈瘤に対して,下顎下切開アプローチで良好な視野を確保し,安全に根治術を施行することができた.
  • 永谷 公一, 長嶺 進, 早津 幸弘, 佐久間 啓
    2010 年 19 巻 1 号 p. 35-37
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/03/02
    ジャーナル オープンアクセス
    大動脈弁置換後に上行大動脈に仮性瘤を形成した稀な症例を経験した.症例は60歳,男性で大動脈弁閉鎖不全の診断で2年前に大動脈弁置換術を施行しており,外来通院中であった.また慢性関節リウマチのため長期ステロイド内服中であった.今回突然の胸背部痛で当院へ来院,胸部CT検査で,上行大動脈前面に巨大な瘤を認め,大動脈造影検査で上行大動脈からジェット状の吹き出しがあり,仮性瘤の診断で緊急手術を施行した.手術は,大腿動静脈バイパス後,低体温循環停止下にオクルージョンバルーンを併用し瘻孔の閉鎖を行った.術後経過は良好で合併症も認めず,術後CTでは瘤は消失し,造影剤の流入も認めなかった.大動脈弁置換後上行大動脈に仮性瘤を形成した稀な症例を経験し良好な結果を得た.ステロイド内服中であり今後も注意深い経過観察が必要と考えられた.
  • 梅田 有史, 梅澤 久輝, 五島 雅和, 服部 努, 中村 哲哉, 前田 英明
    2010 年 19 巻 1 号 p. 39-42
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/03/02
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は76歳,男性.突然,前胸部痛が出現し,紹介医受診となる.造影CT上,急性大動脈解離Stanford B型(以下S-B型解離)疑いで同日精査加療のため当院搬送となる.紹介医CT上,S-B型解離の診断下に疼痛,血圧コントロールによる保存的治療を開始した.しかし,入院翌日に下肢の安静時疼痛が出現し,ankle-brachial pressure index(ABPI)低下を認めた.腹部レントゲン上,小腸ガスの出現,腎機能障害も認め,再度施行した造影CTで真腔は著しく狭小化を認め,真腔から還流されていた腹部内臓動脈および下肢への血流低下と考えた.緊急でaxillo-bifemoral bypassを施行したところ,術後臓器虚血,下肢虚血は改善し,第38病日に転院となった.
  • 本間 信之, 中村 喜次, 田鎖 治
    2010 年 19 巻 1 号 p. 43-46
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/03/02
    ジャーナル オープンアクセス
    本症例は腹部大動脈瘤破裂の診断で人工血管置換を行ったが,術後CTで人工血管感染と診断された.初回手術時から全身状態が不良であったため,感染グラフトは摘出せず,洗浄ドレナージ・膿瘍郭清・大網充填のみ施行した.術後約3年が経過したが感染の再燃はなく経過良好である.全身状態が不良な症例では,グラフトを温存しつつ大網充填を施行するだけに留める治療戦略も選択肢の一つと考えられた.今回その治療法が有効であったため報告する.
  • 隈 宗晴, 福永 亮大, 児玉 章朗, 三井 信介
    2010 年 19 巻 1 号 p. 47-50
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/03/02
    ジャーナル オープンアクセス
    腋窩-大腿動脈バイパスはハイリスク症例の大動脈・腸骨動脈閉塞性病変に対して広く用いられている血行再建術であるが,同時に種々の上肢合併症を起こしうる.症例は85歳,男性.8年前に両側大腿-膝窩動脈バイパス,5年前に左腋窩-大腿動脈バイパスが施行されていたが,これらは約4年前に閉塞していた.約1年前と3カ月前に急に左上肢痛が出現し,それぞれ急性動脈閉塞症の診断で血栓除去術を施行した.その際,閉塞した腋窩-大腿動脈バイパスグラフトからの塞栓症も疑われたが,ワーファリンによる抗凝固療法のみを行っていた.今回,急性動脈閉塞症の再発にて再来した.腋窩-大腿動脈バイパスの中枢吻合部でグラフト離断術を行い,肘部より血栓除去術を施行した.左上肢の虚血症状は速やかに改善した.腋窩-大腿動脈バイパス閉塞後に発症した上肢急性動脈閉塞症の際には本疾患を念頭に置き,上肢の血栓除去に加え,塞栓源となっている吻合部に対する処置を考慮する必要があると考えられた.
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