日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
33 巻, 1 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
総説
症例
  • 西田 浩介, 田中 克典, 飯島 夏海, 志水 正史, 田口 眞一
    2024 年 33 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2024/01/12
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は45歳女性,糖尿病,慢性腎不全で透析導入されている.左下腿中央の潰瘍を主訴に当院に紹介され,左包括的高度慢性下肢虚血の診断で血行再建を行うも潰瘍は増悪し下肢切断に至った.血流は十分と考えられる大腿切断であったが,切断端だけではなく鼠径部の創も離開し,デブリードマン,陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy: NPWT)を行うも治癒は得られなかった.本症例は閉塞性動脈硬化症に特徴的な足趾の潰瘍でなく下腿中央の潰瘍が初発であったこと,虚血障害のない大腿切断端や鼠径部にも有痛性潰瘍の進行を認めたことからカルシフィラキシス(Calciphylaxis)と診断し,ワルファリンの内服を中止し,血清カルシウム値とリン値の積値を是正したところ創部の治癒を得た.

  • 木股 竜太郎, 村上 栄司, 東 健一郎, 福嶋 恭啓
    2024 年 33 巻 1 号 p. 7-10
    発行日: 2024/01/12
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル オープンアクセス

    肺動脈血管内膜肉腫は,予後不良な疾患であり発生頻度は0.001–0.03%とされる.特異的な臨床症状はなく早期診断は困難とされる.本症例では自覚症状はなくCTスキャンで腫瘍は左肺動脈から主肺動脈に進展しており,肺動脈肉腫が疑われた.手術は左肺全摘除術および人工心肺下に人工血管を使用した右肺動脈–主肺動脈の再建を施行し,肉眼的に完全切除することができた.肺動脈血管内膜肉腫は外科的切除が推奨されるが,根治的完全切除が施行された報告は少数である.また麻酔導入時に心停止となった症例の報告もあり,われわれの症例では全身麻酔を導入する前に局所麻酔下で送脱血管を留置し人工心肺に接続して待機し,麻酔導入時の循環不全に備えた.また人工血管を用いた血行再建により腫瘍の完全切除が可能であった.術後6カ月で局所再発は認められず,9カ月の予後が得られた.

  • 平間 大介, 北方 悠太, 腰地 孝昭, 金光 ひでお
    2024 年 33 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は39歳,男性.3カ月前より食後に嘔気と嘔吐を繰り返すため精査したところ,胸部造影CTで異所性右鎖骨下動脈およびKommerell憩室を認め,食道が同血管と気管支に挟まれ圧排される所見を認めた.さらに上部消化管内視鏡検査では中部食道の膜様狭窄を認めた.胸骨正中切開アプローチにてKommerell憩室の切除と右鎖骨下動脈の再建を行った.約3カ月後,残存する膜様狭窄に対し食道ブジーにより1カ月半の間隔で段階的にサイズを上げて,3回の食道狭窄部の拡張を行い通過障害は改善した.

  • 河村 圭一郎, 山下 洋, 郷右近 祐司
    2024 年 33 巻 1 号 p. 17-20
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル オープンアクセス

    腎動脈下腹部大動脈瘤手術の対麻痺の合併は稀であり,待機例では0.1–0.2%と報告されている.今回,待機的腹部大動脈瘤手術に脊髄虚血による対麻痺合併症例を経験した.患者は79歳男性.最大短径50 mmの腎動脈下腹部大動脈瘤に対し待機的に手術を施行した.両側腎動脈下で遮断し,中枢は腎動脈下大動脈と人工血管を吻合,末梢は人工血管と両側内外腸骨動脈をそれぞれ吻合し再建,腰動脈は刺通結紮した.術後より対麻痺が出現し,MRIにて脊髄梗塞の所見であった.リハビリテーションを継続したが,両下肢対麻痺,感覚障害,膀胱直腸障害は改善しなかった.腹部大動脈瘤術後の対麻痺は確実な予防法はなく,ひとたび発症すると機能予後は不良である.稀な合併症ではあるが,術前説明において本症の発生について十分に言及することが重要である.

  • 仲村 亮宏, 島田 晃治, 竹久保 賢
    2024 年 33 巻 1 号 p. 21-25
    発行日: 2024/01/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル オープンアクセス

    Budd-Chiari症候群は肝静脈の流出障害をきたす疾患で,肝硬変や門脈圧亢進症といった進行性の肝障害へと進展しうる.その長期予後の改善には病態の本質である肝静脈の流出解除が重要となる.今回,胸骨正中切開+上腹部開腹による直達手術で閉塞した肝静脈の血流改善を得た症例を経験した.症例は64歳,女性.中肝静脈と左肝静脈の閉塞によるBudd-Chiari症候群に対して胸骨正中切開+上腹部開腹による上方到達法でアプローチした.体外循環を併用して右房から下大静脈を切開し,出血を制御しながら術野を展開した.閉塞した肝静脈を同定し,腫大した肝を切除して閉塞肝静脈を開口させ肝静脈の灌流改善を得た.肝静脈の閉塞が主因のBudd-Chiari症候群おいて,体外循環を併用した上方到達法での肝静脈血流改善の手技は有用であると考えられた.

  • 大友 勇樹, 大友 有理恵, 井上 信幸, 山本 信行
    2024 年 33 巻 1 号 p. 27-29
    発行日: 2024/02/03
    公開日: 2024/02/03
    ジャーナル オープンアクセス

    静脈性血管瘤(venous aneurysm: VA)は,上大静脈や頸静脈,内臓静脈から四肢の皮静脈まで広く発生し,静脈の延長や蛇行を伴わない限局性の静脈拡張病変と定義される比較的稀な疾患である.44歳男性,職業は大工,約1年前から左前腕の膨隆を自覚し,次第に仕事中において左上肢全体の疼痛と指先のしびれが生じるようになり当院整形外科を受診した.Magnetic resonance imageおよびcomputed tomography検査にて肘正中皮静脈由来の巨大なVA(42×26 mm)と診断され当科に紹介となった.有症状であったため手術適応と判断し単純切除を施行した.切除検体の病理学的所見もVAとして矛盾しなかった.術後1カ月目の外来フォローにて症状の完全消失を認めた.今回われわれは,上肢に発生したVAにより神経障害を呈し,VAの切除により神経障害の消失を認めた非常に稀な1例を経験した.

  • 中溝 雅也, 三浦 純男, 東野 旭紘, 竹谷 剛, 大野 貴之
    2024 年 33 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2024/02/03
    公開日: 2024/02/03
    ジャーナル オープンアクセス

    中心静脈カテーテル挿入に伴う動脈損傷は時に致死的となる合併症であり適切な対応が必要となる.今回,カテーテルによる右鎖骨下動脈損傷に対して血管内治療で対応した症例を経験した.症例は末期腎不全で血液透析中の49歳男性.右内頸静脈から挿入を試みた透析用カフ型カテーテルが右胸腔内に迷入しており血胸を呈していた.造影CT検査でカテーテルが右鎖骨下動脈と交差しており,同部位の動脈損傷を想定し血管内治療を準備して抜去手術を行った.カテーテルを抜去すると胸腔内へ多量の出血を認めたため,ステントグラフトを留置し止血が得られた.中心静脈カテーテルによる血管損傷の治療には明確なガイドラインはなく症例ごとに検討しているのが現状であるが,血管内治療は直視下手術と比較して低侵襲で止血可能であり治療選択肢として有用である.

  • 桒田 憲明, 柚木 靖弘, 金岡 祐司, 田淵 篤, 渡部 芳子, 田村 太志
    2024 年 33 巻 1 号 p. 37-40
    発行日: 2024/02/17
    公開日: 2024/02/17
    ジャーナル オープンアクセス

    反回神経麻痺を伴う右鎖骨下動脈瘤は稀である.症例は67歳男性.嗄声の精査で右反回神経麻痺とCTで右鎖骨下動脈瘤を認めた.瘤は複雑な蛇行を伴っておりステントグラフトによるカバーやpacking法は困難で,直達手術では反回神経損傷が危惧されたため,ステントグラフトとバイパスを併施するハイブリッド手術(isolation法)を選択した.Propaten 7 mmで右総頸動脈から右鎖骨下動脈へのバイパスを施行し,腕頭動脈から右総頸動脈へのステントグラフト留置(Viabahn VBX 7×39 mm),右鎖骨下動脈瘤末梢のコイル塞栓術(Target 10 mm–40 cmとInterlock 8 mm–20 cm)を施行した.術後6カ月目に瘤の縮小に伴い嗄声の消失が得られた.嗄声や動脈瘤の拡大,バイパス閉塞などなく経過している.

  • 長﨑 和仁, 菊池 恭太
    2024 年 33 巻 1 号 p. 41-45
    発行日: 2024/02/17
    公開日: 2024/02/17
    ジャーナル オープンアクセス

    足部変形を伴うCLTI治療において,血行再建にて潰瘍が治癒されたにもかかわらず,装具コンプライアンス不良にて潰瘍の再燃を生じるケースは少なくない.このような装具療法などによる保存的免荷によっても除圧管理困難な足部変形に対して,外科的に変形矯正して圧分散を図る外科的免荷(以下,surgical offloading)が推奨されるようになった.今回われわれは,内反尖足を伴うCLTI症例に対して,血行再建術と共にsurgical offloading(アキレス腱延長術,後脛骨筋腱前方移行術)を施行した症例を経験した.術後4年経過しているが,裸足にて歩行可能で潰瘍の再燃も認めていない.保存的免荷によっても除圧管理困難な足部変形を伴うCLTIにおいては,血行再建と共にsurgical offloadingも考慮する必要があると考えられた.

  • 大澤 拓哉, 水野 敬輔, 秋田 直宏, 等々力 広菜, 藤澤 建太
    2024 年 33 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2024/02/17
    公開日: 2024/02/17
    ジャーナル オープンアクセス

    膝窩静脈性血管瘤は比較的稀な疾患であり,肺塞栓症の原因となることがある.抗凝固療法単独では肺塞栓症の再発を予防できない場合があり,外科手術の適応となる.症例1: 76歳,男性.動悸,呼吸困難を主訴に当院へ救急搬送され,造影CT検査で両側肺塞栓症と左外腸骨静脈の血栓を認めた.同時に径30 mmの右膝窩静脈性血管瘤を認めた.入院後,抗凝固療法による治療を行い,肺塞栓症は改善した.退院後,あらためて右膝窩静脈性血管瘤に対して,縫縮術を施行した.症例2: 77歳,女性.動悸,呼吸困難を主訴に当院へ救急搬送され,造影CT検査で両側肺塞栓症を認めた.同時に径35 mmの左膝窩静脈性血管瘤と瘤内の血栓を認めた.入院後,抗凝固療法による治療を行い,肺塞栓症は改善した.退院後,あらためて左膝窩静脈性血管瘤に対して,縫縮術を施行した.2例とも現在まで肺塞栓症の再発は認めていない.

  • 中田 悠介, 宮本 和幸
    2024 年 33 巻 1 号 p. 53-56
    発行日: 2024/02/28
    公開日: 2024/02/28
    ジャーナル オープンアクセス

    後脛骨動脈瘤は非常に稀で,その成因の多くが医原性や外傷性の仮性瘤である.本症例では特発性後脛骨仮性動脈瘤に対して大伏在静脈を使用し血行再建を行ったので報告する.症例は74歳男性.来院3カ月前より左下腿の腫脹の自覚があり,造影CT検査の結果,左後脛骨動脈瘤と診断された.瘤径の最大短径41 mm, 最大長径70 mmと非常に大きく,瘤切除後の直接吻合での再建は困難であったため,大伏在静脈グラフトを使用し血行再建を行った.術後の下肢超音波検査では再建したグラフトの血流を確認でき,ABIとSPPは術前後で変化はなかった.本症例では巨大な後脛骨動脈瘤のため大伏在静脈を使用した血行再建を行ったが,最小限の皮膚切開で動脈瘤切除を行い術創トラブルや下肢動脈閉塞もなく良好な経過であった.巨大な後脛骨動脈瘤ではあったが,術前より後脛骨動脈の末梢側の血流は開存しており,長期的な下肢末梢血流維持を目的に外科的血行再建を行った.

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