日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
31 巻, 6 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
講座
  • 島村 和男, 宮川 繁
    2022 年 31 巻 6 号 p. 363-368
    発行日: 2022/12/23
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

    大動脈解離に対するステントグラフト(SG)留置(TEVAR)後特有の遠隔期合併症として,SG末梢端に生じる新規内膜亀裂(SINE)が重要である.SINEは大動脈解離に対するTEVAR後の4.8–25%に発生し,とくに慢性解離症例で発生頻度が高くなる.SINE発生のメカニズムとしてSGのoversize率・復元弾性力(spring back force)の関与が報告されており,発生回避には厳密な真腔口径計測に基づいたSGサイズ選択および復元弾性力による大動脈壁ストレスを減弱させるSG留置計画が必要となる.末梢に小口径デバイスを用いた積み上げ留置はこれらのリスク因子への対応が可能であり,SINE発生リスクを減少させる上で有用な留置戦略と考えられる.

症例
  • 大野 文也, 永冨 脩二, 寺園 和哉, 立石 直毅, 向原 公介, 金城 玉洋
    2022 年 31 巻 6 号 p. 343-346
    発行日: 2022/11/10
    公開日: 2022/11/10
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は72歳,女性.腎動脈下腹部大動脈瘤(最大短径50 mm)に対して,開腹人工血管置換術を施行後,両下肢の運動障害を認め対麻痺が疑われた.緊急で脳脊髄液ドレナージを施行し,平均血圧とPaO2を十分に維持した.未分画ヘパリン,ナロキソン,エダラボン投与を行ったが下肢症状の改善は得られなかった.腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術後に発症する対麻痺は稀であるが,起こりうる合併症の一つと認識し,術後の早期発見に努めると同時に,対麻痺発症のリスクが高い症例に関しては,予防策についても検討する必要がある.

  • 若松 豊, 伊藤 昌理
    2022 年 31 巻 6 号 p. 347-351
    発行日: 2022/11/14
    公開日: 2022/11/14
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    腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術10年後に被覆瘤壁が突然再拡大を認めたため手術を施行した症例を報告する.症例は81歳,男性.71歳時に腹部大動脈動脈瘤に対する人工血管置換術を施行した.3週間後のCT検査で被覆瘤壁は径51 mmであり余剰瘤壁の縫縮が不十分であったと思われたが瘤内は血種で満たされ血種の造影効果を認めず,腹部血管超音波検査でも瘤内に向かう異常血流を認めなかった.1年後には血種はほぼ吸収され被覆瘤壁は収縮し,以降長期間径35 mmの大きさを維持したが,初回手術10年後に径61 mmへと突然拡大し手術を施行した.瘤内の比較的新鮮な血栓を除去し,出血の原因が下腸間膜動脈であることが判明し止血した後,余剰瘤壁を切除し縫縮した.人工血管置換術時に適切かつ十分な手術がなされていたとしても大動脈分枝の結紮糸が外れ遠隔期に再出血により瘤壁が拡大する可能性があることに注意を傾ける必要がある.

  • 関 功二, 小尾 勇人, 大高 慎吾, 外川 正海, 上田 哲之, 湖東 慶樹
    2022 年 31 巻 6 号 p. 353-357
    発行日: 2022/11/28
    公開日: 2022/11/28
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は28歳,男性.自宅の机の角で左大腿部背側を打撲し腫脹疼痛が出現したため近医を受診したが打撲と診断され,その後症状は軽快傾向であった.しかし,左大腿部打撲から1カ月後,歩行中に突然左大腿部に疼痛腫脹が出現し歩行困難となったため当院を受診した.造影CTで左大腿深動脈仮性瘤破裂と診断し,血管内治療で金属コイルとゼラチンスポンジを用いた経カテーテル的動脈塞栓術を施行した.その後の経過は良好で,術後2週間で腫脹は完全に消失した.術後6カ月目に造影CTを施行したが,仮性瘤は認めず血腫も完全に吸収され,良好な経過であった.骨折を伴わない鈍的外傷後の仮性瘤形成は稀ではあるが,受傷後に腫脹疼痛が持続する場合は仮性瘤形成の可能性も考慮して造影CTでの精査が望ましい.患者の状態に応じて塞栓物質を選択,使用する必要はあるが,本症例のような血管内治療による経カテーテル的動脈塞栓術が低侵襲で非常に有効である.

  • 伊藤 昌理, 若松 豊, 高橋 順一郎
    2022 年 31 巻 6 号 p. 359-362
    発行日: 2022/12/09
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル オープンアクセス

    遺残坐骨動脈は稀な先天異常で,瘤化,閉塞,血栓塞栓症などをきたすことが多い.今回われわれは,右遺残坐骨動脈の閉塞による右下肢虚血に対する血行再建術として側副血行路の血管形成術を施行した症例を経験した.症例は66歳,男性,右下肢跛行にて近医より紹介された.右下肢動脈は膝窩動脈以下で動脈拍動触知不能,Ankle brachial index (ABI)は右で0.63と低下を認めた.CTでは遺残坐骨動脈を認め閉塞していた.大腿動脈は低形成だったが膝窩動脈と側副血行路を介した交通が認められた.手術は側副血行路合流部の血管形成術による血行再建術を施行した.術後はABIも0.88と改善し跛行も改善傾向となった.その後の外来経過観察でABIは1.01まで改善し跛行も消失した.

  • 萩原 裕大, 中島 博之, 白岩 聡, 本田 義博, 榊原 賢士, 加賀 重亜喜
    2022 年 31 巻 6 号 p. 369-373
    発行日: 2022/12/23
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は70歳代男性.主訴は呼吸困難.直腸癌に対して腫瘍切除および人工肛門作成,肺転移に対して肺切除が行われていた.突然呼吸苦を自覚し,前医を受診したところ造影CTで肺動脈,右房内に血栓,下肢静脈エコーで大腿静脈に血栓を認めた.深部静脈血栓症による肺動脈塞栓症と診断され当院へ搬送となった.来院時,心エコーで右心負荷,右房内に浮遊血栓を認めたため,緊急手術の方針とした.手術は,胸骨正中切開でアプローチし人工心肺を使用し心停止下に右房,主肺動脈を切開し血栓を摘除した.術後からワルファリンの内服を開始した.術後,造影CTで肺動脈に血栓は認めず,術後24日独歩退院となった.退院から6カ月後,新たな肺転移に対して肺部分切除を行った.術後4年,血栓症を認めていない.担癌患者に発症した肺動脈塞栓に対し,外科的血栓除去で良好な経過を得た症例を報告する.

  • 黄 義浩, 清水 昭吾, 山入端 立志, 鈴木 和彦, 保科 俊之
    2022 年 31 巻 6 号 p. 375-378
    発行日: 2022/12/23
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

    末梢動脈疾患,下肢動静脈瘻,下肢静脈弁機能不全は,いずれも一般的な下肢脈管病変だが,三病変の同肢合併は極めて稀である.症例は79歳男性,左下肢の疼痛,血管膨隆,皮膚変色を呈し,CT検査で左大腿動脈閉塞,腓骨動脈から大伏在静脈の動静脈瘻を認めた.まず末梢動脈疾患への血管内治療を行ったが,足関節上腕血圧比の正常化を得たものの,皮膚組織灌流圧や下肢症状の改善は認めなかった.主因は微小動静脈瘻を介した大伏在静脈への盗血および静脈弁機能不全と思われ,大伏在静脈へのシアノアクリレートを用いた血管内塞栓術や残存動静脈瘻へのコイル塞栓術を追加することで下肢の血行改善と症状消失を得た.本症例では下肢脈管複合病変による複雑な血行動態や症状変化のため,動静脈の段階的血管内治療が効果的であった.とくに伏在静脈に還流する微小動静脈瘻に対しては,伏在静脈の全長治療が可能である下肢静脈瘤治療用の血管内塞栓術が有用であった.

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