【目的】腹部大動脈瘤–腸管瘻(AEF)は解決すべき問題が多く治療方針に苦慮する.当院では複数例で良好な成績が得られており,その治療戦略について報告する.【方法】治療戦略にて肝要な点は①迅速な出血制御,②瘻孔の処理,③感染制御である.まず腹部ステントグラフト(EVAR)で出血を制御する.その後,開腹にて腸管修復および瘤内に大網充填を行う.低侵襲性を優先しステントグラフトは抜去しない.培養結果より抗生剤を選択し長期投与する.【結果】2016年から2020年までに5例のAEFを経験した.3例は一次性AEF, 2例は二次性でEVAR後1例,人工血管置換術後1例であった.前述の治療法を行い,1例が術後肺炎にて死亡したが,4例は退院し術後平均17.8カ月(2.1~53.8)経過するも感染兆候は認めていない.【結論】AEFに対し出血制御・瘻孔処理・感染制御を軸とした治療を行い良好な成績が得られた.
症例は67歳の男性.既往歴に糖尿病,高血圧,睡眠時無呼吸症候群がある.腹部大動脈瘤および右総腸骨動脈瘤に対してExcluderを用いた腹部ステントグラフト,右内腸骨動脈コイル塞栓術が施行されていた.退院後は下肢の虚血症状もなく経過良好であった.EVAR術後7カ月目にCOVID-19に罹患し,COVID-19発症第3病日より入院し治療が開始された.第14病日に呼吸状態が悪化し非侵襲的陽圧換気療法が開始となっていた.第28病日ごろより両下肢の冷感を自覚.第33病日に突然腰から下肢への激痛と筋力低下が出現した.造影CTにてステントグラフト血栓閉塞,左腎動脈閉塞を認め,末梢は外腸骨動脈が鼠経靭帯まで血栓閉塞していた.緊急で腋窩動脈–両大腿動脈を施行し,術後経過は良好である.COVID-19が原因と考えられる急性ステントグラフト血栓閉塞を経験したので報告する.
COVID-19は血栓症の合併頻度が高く,死亡率の増加と関連している.症例は70歳男性で,COVID-19のPCR検査陽性後9日目に発熱や息切れの症状増悪のため入院となった.低酸素血症のためNPPV管理となり,D-dimer値は28.2 µg/mLであった.入院翌日に右下肢痛が出現し,右大腿動脈以遠の動脈拍動が触知困難となった.D-dimer値は65.9 µg/mLで,CTで腹部大動脈に限局性の壁在血栓と右腸骨動脈,右大腿深動脈,右膝窩動脈の血栓閉塞を認め,左前脛骨静脈にも血栓を認めた.TASC II分類IIbの急性下肢虚血の診断で,緊急に全身麻酔下でFogartyカテーテルによる血栓除去術を施行した.術後は右大腿動脈以遠の動脈拍動が触知可能となり,ヘパリン持続静注の後,DOACによる抗凝固療法を開始した.術後CTで右下肢動脈は良好に描出されていたが,腹部大動脈の壁在血栓は残存していた.
犬咬傷における稀な上腕動脈の解離による急性動脈閉塞症の1例を経験したので,若干の文献的考察を含めて報告する.症例は86歳女性.飼い犬に左上肢を咬まれ受傷.左上肢腫脹としびれ感を主訴に受診.橈骨動脈拍動触知できず,血管損傷が疑われた.皮膚に明らかな創は認めなかった.造影CTにて上腕動脈の限局性閉塞を認めた.上腕動脈の色調変化部位を切除し,自家静脈グラフト置換術を施行した.切除標本で動脈解離所見を認めた.術後1年間は抗凝固療法,以降は抗血小板製剤内服で術後8年間経過良好である.
症例は65歳女性.定期健診のため近医を受診した際に上腹部に拍動性腫瘤を指摘され当科紹介.CT検査にて最大径70 mm大の巨大上腸間膜動脈瘤と診断.血管造影検査では右肝動脈が瘤から分岐する破格と瘤の末梢から小腸領域および結腸へ灌流する2本の分枝を認めた.手術は開腹下で上腸間膜動脈と右肝動脈は直接吻合し,瘤の末梢から出ていた2本の分枝は大伏在静脈グラフトを介して腹部大動脈と吻合した.術後経過は腸管虚血や肝障害もなく良好であった.上腸間膜動脈瘤の頻度は内臓動脈瘤でも5–8%程度と比較的稀であり,手術術式についても一定の見解は得られていない.今回われわれは,巨大上腸間膜動脈瘤に対する1手術例を経験したので文献的考察を踏まえて報告する.