日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
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23 巻, 7 号
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総説
  • 羽尾 裕之
    2014 年 23 巻 7 号 p. 957-963
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    [早期公開] 公開日: 2014/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    要旨:大動脈瘤の破裂は中高齢者の死因の重要な位置を占めている.腹部大動脈瘤は粥状動脈硬化が基礎病変として存在していることが多く,粥腫による中膜の著明な萎縮と弾性線維の破壊が認められる.瘤進展の分子生物学的メカニズムではmatrix metalloproteinase の活性化が報告されている.上行大動脈瘤は囊状中膜壊死による瘤形成が最も多く,中膜壊死・弾性線維の減少・ムコ多糖類の沈着などを伴う.大動脈解離は囊状中膜壊死による中膜の脆弱性が病因となることが多く,高血圧・先天性2 尖弁・Marfan症候群などが関連している.大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術ではエンドリークに伴った瘤の再拡張や塞栓症の合併が臨床的に問題となっている.われわれの経験したステントグラフト留置後の剖検例から,多彩な病理学的変化を示す大動脈壁に対し確実にステントグラフトを留置するためには,術前の血管の詳細な評価が重要と考えられた.
原著
  • 広川 雅之, 小川 智弘, 菅原 弘光, 諸國 眞太郎, 佐藤 彰治
    2014 年 23 巻 7 号 p. 964-971
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    [早期公開] 公開日: 2014/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    要旨:【目的】本治験は下肢静脈瘤に対する血管内レーザー焼灼術(EVLA)における波長1470 nm レーザーの有効性および安全性の評価を目的として多施設共同並行群間比較試験として実施した.【対象と方法】2012 年9 月から2013 年3 月にEVLA を施行された下肢静脈瘤患者113 例(113 肢)を対象とし,波長1470 nm レーザーとradial 2ring fiber を使用したI 群(57 肢)および波長980 nm レーザーを使用したE 群(56 肢)に無作為に割り付けた.術後12 週における治療静脈の血流遮断率,術後疼痛の有無,疼痛のvisual analogue scale(VAS),皮下出血の有無を評価した.【結果】血流遮断率は両群100%で,疼痛(0%vs. 25.0%)および皮下出血(7.0% vs. 57.1%)はI 群で有意に少なかった(p<0.0001).疼痛のVAS 最高値はI 群6.3±9.6,E 群22.8±19.0 で,I 群で有意に低値であった(p<0.0001).疼痛のVAS の推移は術後2 週目までI 群で有意に低かった.有害事象はendovenous heat-induced thrombusのclass 2 がI 群1 例,E群2 例,class 3 がI 群1 例,E 群1 例認められたが,深部静脈血栓症は認められなかった.【結論】波長1470 nm レーザーとradial 2ring fiber によるEVLA は,従来の波長980 nm レーザーとbare-tip fiber によるEVLA と比較して術後の疼痛と皮下出血を有意に減少させ,安全で低侵襲な治療であると考えられた.
症例
  • 新谷 恒弘, 植木 力, 秋本 剛秀, 坂口 元一
    2014 年 23 巻 7 号 p. 972-976
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    [早期公開] 公開日: 2014/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    要旨:症例は51 歳男性.神経線維腫症1 型(NF-1)の診断を受けていた.右下肢の疼痛を主訴に受診し,造影CT 検査にて右膝窩動脈瘤を指摘された.動脈瘤の最大短径は35 mm で,膝窩動脈末梢は塞栓によりびまん性狭窄を認めていた.動脈瘤破裂と下肢虚血予防のために手術が必要と判断した.NF-1 に合併した動脈瘤は非常に脆弱であることに加え,本症例の動脈瘤は浅大腿動脈まで波及しており,後方アプローチでは手術困難と判断し,内側アプローチによる自家静脈を用いた浅大腿動脈-前脛骨動脈バイパス術および血管内治療を併用し瘤空置術を施行した.NF-1 に伴う血管病変は稀であるが,そのなかでも膝窩動脈瘤の報告は少なく文献的考察を加えて報告する.
  • 猪狩 公宏, 工藤 敏文, 豊福 崇浩, 井上 芳徳
    2014 年 23 巻 7 号 p. 977-980
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    [早期公開] 公開日: 2014/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    要旨:慢性完全閉塞に対する血管内治療においては,内膜下血管形成術を用いることで,その手技的成功率は向上している.しかしながら,内膜下血管形成術によっても真腔に戻ることができずに治療不成功に終わる症例もある.今回われわれは,左外腸骨動脈慢性完全閉塞病変に対し,内膜下血管形成術によって血管内治療を試みたが,ガイドワイヤが真腔に戻ることができなかったために,CART(controlled antegrade and retrograde subintimal tracking)technique により,慢性完全閉塞のガイドワイヤ通過が可能となりステント留置にて血流再開が可能となった症例を経験した.CART technique や内膜下血管形成術を用いることで,血管内治療の成績はより向上することが期待できる.
  • 山崎 一也, 柳 浩正, 富永 訓央
    2014 年 23 巻 7 号 p. 981-984
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    [早期公開] 公開日: 2014/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    要旨:静脈性血管瘤(venous aneurysm; VA)は全身の静脈に発生する限局的拡張性病変で比較的稀な疾患である.無症状のことが多いが,膝窩静脈領域に発生したVA は肺血栓塞栓症(PTE)の原因になることがあり,抗凝固療法を行ってもPTE を再発することが多いため手術療法が必要とされている.今回われわれは,心肺停止に至るPTE を合併した膝窩静脈性血管瘤の1 手術例を経験したので報告する.症例は56 歳女性.突然の呼吸困難で救急受診後心肺停止になり経皮的心肺補助で蘇生した.CT でPTE と左膝窩静脈に囊状で50 mm 大のVA を認めた.急性期は救命治療と下大静脈一時フィルター挿入を行い,状態安定後にVA に対して手術を施行した.腹臥位左膝窩上部後方アプローチでVA を切除し切除後静脈開口部を連続縫合して静脈形成した.術後8 日で退院し,術後6 カ月のCT でPTE とVA の再発を認めず下肢静脈は開存している.
  • 緒方 孝治, 松下 恭, 武井 祐介, 清水 理葉, 福田 宏嗣
    2014 年 23 巻 7 号 p. 985-988
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    [早期公開] 公開日: 2014/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    要旨:症例はコントロール不良の糖尿病を有する53 歳男性.左足壊疽のため他施設に入院した.造影CT で腹部大動脈遠位部から両側総腸骨動脈にかけて狭窄,閉塞を認めた.血管内治療が行われ,右総腸骨動脈へは,ステント留置が施行されたが,左総腸骨動脈へはガイドワイヤー不通過のため,患側である左下肢の血行再建は不成功であった.外科的血行再建目的で当科へ入院となった.手術は,右総腸骨動脈内のステントを抜去し,腹部大動脈遠位部から両側総腸骨動脈にかけて血栓内膜摘除術を行った.術後に分層植皮術を要したが,血行再建術の5 カ月後,左足部の潰瘍はほぼ上皮化した.大動脈-腸骨動脈閉塞性病変に対する外科的血行再建では,人工血管によるバイパス術が主流ではあるが,大動脈遠位部から総腸骨動脈にかけての限局した病変の場合は,血栓内膜摘除術も選択肢の一つになると考えられる.
  • 小林 平, 濱本 正樹, 小澤 優道, 児玉 裕司
    2014 年 23 巻 7 号 p. 989-992
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    [早期公開] 公開日: 2014/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    要旨:上腕動脈閉塞に対し上腕尺側皮静脈を用いてin situ で血行再建し,手指難治性潰瘍が治癒した症例を経験したので報告する.症例は75 歳,女性.2 年前より継続する左2,3 指の難治性潰瘍および安静時痛を主訴に当科に紹介受診となった.造影CT で左上腕動脈近位部の完全閉塞を認めた.上腕動脈閉塞に伴う虚血性潰瘍と診断し,尺側皮静脈を用いてin situ で近位上腕動脈から遠位上腕動脈にバイパス術を施行した.術後,皮膚潰瘍は約1 カ月で治癒した.
  • 森島 学, 飯田 淳, 植山 浩二
    2014 年 23 巻 7 号 p. 993-996
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    [早期公開] 公開日: 2014/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    要旨:今回,術前脳梗塞を発症した起炎菌として極めて稀なB 群連鎖球菌(Streptococcus agalactiae)による感染性腕頭動脈瘤の1 手術例を経験した.症例は65 歳男性.食欲不振と右肩痛のため入院となった.心臓超音波検査にて中等度から高度の大動脈弁閉鎖不全症を認め,入院2 日目から38˚C の発熱があり,造影CT にて径41 mm の感染性腕頭動脈瘤を指摘された.左下肢麻痺が出現し,頭部MRI にて多発性の新規脳梗塞を認めた.血液培養からB 群連鎖球菌が検出され,1 週間後に手術となった.手術は脳分離体外循環併用下に,リファンピシン浸漬人工血管による弓部部分置換術と生体弁による大動脈弁置換術を行い,人工心肺離脱後に大網充填術を施行した.術中組織培養は陰性であった.大動脈弁の病理検査では好中球の集簇を認め感染性心内膜炎に矛盾しない所見であった.6 週間の抗生剤治療後に退院し,術後8 カ月を経て経過良好である.
  • 竹内 晋, 田中 弘之, 高橋 英樹
    2014 年 23 巻 7 号 p. 997-1001
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    [早期公開] 公開日: 2014/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    要旨:感染性胸部大動脈瘤は比較的稀ではあるが致死率の高い疾患である.破裂の危険性が高く早期診断がしばしば困難である.今回われわれは感染性胸部大動脈瘤の起炎菌としては稀なStreptococcus agalactiae に対し抗生剤治療後,手術を行い良好な結果を得たので,報告する.症例は60 歳,男性.歯科治療後より38˚C 台発熱,頸部,背部痛をきたし,敗血症の診断で緊急入院となった.入院時白血球,CRP 高値,血液培養からStreptococcus agalactiae が検出された.1 週間後のCT で遠位弓部囊状瘤の形成が認められたため,感染性胸部大動脈瘤の診断で抗生剤を厳重な観察のもと3 週間投与後,全弓部人工血管置換術と一期的に大網充填術を行った.術後6 週間抗生剤投与を行い,その後,炎症反応再燃発熱なく経過している.術前,術後の適切な抗生剤治療と手術により感染は制御できたと考えられた.
  • 池野 友基, 山田 章貴, 顔 邦男, 麻田 達郎
    2014 年 23 巻 7 号 p. 1002-1006
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    [早期公開] 公開日: 2014/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    要旨:症例は77 歳男性.当科にて腹部大動脈人工血管置換術を施行し,第10 病日に退院となっていたが,意識障害を主訴に第20 病日に当院救急外来を受診した.血液検査で炎症反応高値(CRP 16.8 mg/dl)が認められ,腹部CT で人工血管周囲の液貯留像,ガス像が認められ,人工血管感染の疑いで再入院となり抗生剤治療が開始された.炎症所見の改善は認められず,再入院3 日目に腹部正中切開で感染人工血管抜去術,in-situ 人工血管再置換術,および大網充填術を施行した.人工血管周囲には粉末状にした抗生剤を塗布し,フィブリングルーで固定した.術前の血液培養および術中組織培養からBacteroides fragilis が検出された.1 年が経過するが,感染の再発なく良好に経過している.人工血管感染の起因菌として嫌気性菌感染も少なからずあり得ることを念頭におき,細菌検査実施時や抗生剤の選択で適切に対応する必要がある.
  • 内田 智夫
    2014 年 23 巻 7 号 p. 1007-1010
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    [早期公開] 公開日: 2014/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    要旨:鼠径部の総大腿動脈仮性瘤はバイパス術後やカテーテル操作に関連した医原性の報告が多く鈍的損傷によるものは少ない.その大部分は発症後早期に治療されている.偶然診断された鈍的外傷による総大腿動脈仮性瘤を経験したので報告する.65 歳男性,元消防士.下痢,体重減少の精査目的に施行した腹部CT 検査で最大径約50 mm の壁在血栓を伴う左総大腿動脈瘤を認めた.約10 年前,消防活動中に床を踏み外し左鼠径部を強打し血腫を生じたが自然に軽快したことがあった.破裂と塞栓症の予防目的に手術を行った.充満した器質化血栓を除去し,10 mm knitted Dacron 人工血管により置換した.動脈硬化性動脈瘤,感染性動脈瘤,ベーチェット病などの炎症性動脈瘤,医原性動脈瘤などが鑑別に挙げられるが,他部位の動脈瘤を認めず,発熱や炎症反応はなく,カテーテル検査や手術の既往がないことより鈍的外傷による仮性動脈瘤と診断した.
  • 山本 直樹, 稲垣 順大, 藤井 太郎, 馬瀬 泰美, 徳井 俊也, 湯淺 右人
    2014 年 23 巻 7 号 p. 1011-1014
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    要旨:膝窩のvenous aneurysm は稀ではあるが,肺塞栓症を引き起こすことがあり外科治療の適応となる.患者は生来健康な48 歳男性.外傷の既往もなくとくに強い運動歴も認めなかった.労作時の息切れで発症し,安静時呼吸困難に増悪したために受診された.造影CT で急性肺動脈塞栓症と診断され,保存的治療にて症状は軽快した.下肢静脈エコーおよびCT で壁在血栓を有する大きさ35 mm の囊状左膝窩venous aneurysm を認めたが,他の静脈に深部静脈血栓は認めなかった.発症後3 カ月で内側アプローチによる静脈瘤切除・端々吻合による膝窩静脈再建術を施行した.手術前日から回収可能型下大静脈フィルターを留置し,術後7 日目に抜去するまで持続ヘパリン静脈内投与を行った.術後膝窩静脈の血流には問題を認めなかった.術後下肢リンパ浮腫のため半年間の弾性ストッキング着用と抗凝固療法を必要としたが,経過は良好である.
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