日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
30 巻, 6 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 丸田 一人, 青木 淳, 尾本 正, 益田 智章
    2021 年 30 巻 6 号 p. 335-340
    発行日: 2021/11/26
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】当院では腎動脈再建を要する腹部大動脈瘤症例で左上腕動脈に挿入した6 Frシースから脱血した動脈血により腎灌流で腎保護を行っている.今回,本法の有用性について検討したので報告する.【方法】対象は2012年4月から2020年6月まで当院で施行した腹部大動脈手術のうち,腎灌流による腎保護を行った7例(P群),腎動脈上大動脈単純遮断あるいは腎動脈単純遮断を施行した21例(C群),腎動脈下大動脈遮断を行った35例(N群)で術後腎機能の推移を検討した.【結果】C群の腎虚血時間は平均30分,P群の腎灌流時間および腎虚血時間の合計は平均129分であった.C群では術後1日目と5日目にN群よりeGFRが有意に低値であったが,P群では術後7日目までN群との間に有意差を認めなかった.【結論】腎動脈遮断から再建まで長い腎虚血時間を要する症例でも,動脈血による腎灌流により,術後重度腎障害を回避することが可能であり,本法は有用と考えられた.

  • 青木 淳, 丸田 一人, 益田 智章, 尾本 正
    2021 年 30 巻 6 号 p. 347-357
    発行日: 2021/11/26
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】偽腔開存型B型大動脈解離(TBAD)に対するステントグラフト(SG)によるentry閉鎖(TEVAR)手技の妥当性と大動脈リモデリング効果を狭小真腔症例(狭小群)と偽腔拡大による解離性大動脈瘤化症例(瘤化群)で比較した.【方法】狭小群26例と瘤化群20例を対象とした.【結果】両群間の患者背景に有意差はなく,TBAD発症からTEVARまでの期間は,狭小群で2.3カ月と有意に短かった(p<0.0001).術後1週間目のType Ia endoleakは各群1例のみであった.大動脈リモデリング(胸部大動脈の偽腔閉塞かつ真腔比率50%以上)達成率は狭小群で有意に良好で,大動脈イベント(逆行性A型解離,SGによる新たなentry, 5 mm以上の拡大)は,狭小群1例(4%),瘤化群12例(60%)で生じ,大動脈イベント回避率は狭小化群で有意に良好であった.【結論】狭小真腔症例に対するTEVARの手技は妥当であると思われるが,瘤化群では,TEVAR自体の手技の工夫あるいは偽腔血流を遮断する追加手技が必要と思われた.

    Editor's pick

症例
  • 櫻井 啓暢, 黒木 秀仁, 山本 諭, 白井 俊純, 染谷 毅
    2021 年 30 巻 6 号 p. 329-333
    発行日: 2021/11/09
    公開日: 2021/11/09
    ジャーナル オープンアクセス

    大動脈原発性の血管肉腫は稀な疾患である.症状は非典型的であり,非腫瘍性病変と類似した画像所見であることから診断が困難であり,また病状の進行が早く,予後は極めて不良である.本症例では55歳女性が再発性脳梗塞のため入院し,上行大動脈から下行大動脈近位に可動性のある構造物を認めたが,画像所見を含め術前検査では診断に至らず,確定診断および塞栓症予防のため手術を行った.中等度低体温循環停止下に大動脈切開すると上行大動脈から下行大動脈近位の内腔に腫瘍を疑う構造物を認めた.可及的に大動脈壁,腫瘍を切除しオープンステントグラフトを併用した上行弓部大動脈置換を行った.病理検査で血管肉腫の診断に至ったが,放射線療法,化学療法の適応はなく,緩和治療中に脳転移による意識障害が出現し術後19日目に死亡した.今回非常に稀な上行大動脈原発の血管肉腫の症例を経験した.本報告により今後の早期診断,治療に寄与したいと考える.

  • 長谷川 悠人, 新谷 恒弘, 夏目 佳代子, 大倉 一宏
    2021 年 30 巻 6 号 p. 341-345
    発行日: 2021/11/26
    公開日: 2021/11/26
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    症例は60代男性.偶発的に30 mmの上腸間膜動脈瘤を指摘された.上腸間膜動脈の大動脈起始部から25 mmの部位に解離を認めており,孤立性上腸間膜動脈解離の慢性期に偽腔が瘤化したものと考えられた.中結腸動脈,空腸動脈は狭小化した真腔から分岐し,右結腸動脈,回結腸動脈は偽腔より栄養されていた.手術は腹部正中切開にてアプローチし,瘤切開後,大腿動脈と瘤末梢をチューブで接続し還流を確立した後に血行再建を行った.エントリーを中枢側吻合部とし大伏在静脈を用いて回結腸動脈の枝に吻合し,右結腸動脈は静脈グラフトに端側吻合し血行再建を完成させた.瘤末梢は縫縮し閉鎖した.慢性期の孤立性上腸間膜動脈解離性動脈瘤に対し,瘤切除と分枝再建を含む血行再建を施行し良好な結果を得た.エントリーを中枢側吻合部にする本術式により,真腔の血流温存が可能となり結果として主要な分枝の血流を温存することが可能であった.

  • 橋本 亘, 東 理人, 比嘉 聡, 川上 浩司, 加藤 航司, 小野 武
    2021 年 30 巻 6 号 p. 381-384
    発行日: 2021/12/24
    公開日: 2021/12/24
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    皮下埋没型中心静脈ポート(TIVAP)のカテーテル(CVC)はしばしば断裂することが知られている.しかしCVC断片により右室穿孔・心タンポナーデまで至った報告はない.82歳男性,4年前に胃癌手術を施工され,右内頸静脈(IJV)経由でTIVAPが留置された.胸痛のため救急外来受診.画像検査では頸部でCVCが断裂し,心囊内にはCVC断片を認めた.CVC断片により心穿孔・心タンポナーデを発症しており緊急開胸手術とした.手術所見では右室に穿孔部位があり縫合修復した.本症例に於けるCVC断裂リスクは(1)CVCの変曲点の角度が小さい,(2)鎖骨から変曲点までの距離が長い,(3)シリコン製,が考えられた.断裂したCVC断片はインターベンション(CI)での回収が一般的であるが,本症例では心穿孔・心タンポナーデを発症しており手術で心穿孔部の修復とCVC回収を行った.

  • 松山 正和, 川越 勝也, 中村 都英, 赤須 晃治
    2021 年 30 巻 6 号 p. 385-389
    発行日: 2021/12/24
    公開日: 2021/12/24
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は,65歳男性,突然の意識障害を伴うショックを認め,近医入院となった.入院時にはショックを離脱し,左上肢運動障害と腰痛を認めた.入院3日目の抗凝固療法開始後に右鼠蹊部に皮下出血が出現し,その2日後に皮下出血の拡大と腰痛が増強し,腹部大動脈瘤(AAA)破裂を疑われ当科緊急搬送された.造影CT所見で7.6 cmのAAAと後腹膜血腫,動脈相で下大静脈(IVC)が描出され,AAA右側後壁とIVCの間に瘻孔を認めた.同日に瘤内からの瘻孔閉鎖と,瘤切除人工血管置換術を行い救命し得た.診断および治療について文献的考察を加えて報告する.

血管外科手術アニュアルレポート2017年
  • 日本血管外科学会データベース管理運営委員会, NCD血管外科データ分析チーム
    2021 年 30 巻 6 号 p. 359-379
    発行日: 2021/12/24
    公開日: 2021/12/24
    ジャーナル オープンアクセス

    2017年に日本で行われた血管外科手術について,日本血管外科学会データベース管理運営委員会が集計結果を解析し,アニュアルレポートとして報告する.【方法】NCDの血管外科手術データに基づき,全国における血管外科手術動向およびその短期成績(術死,在院死亡)を解析した.【結果】2017年にNCDに登録された血管外科手術は137,909件であり,1,076施設からの登録があった.このデータベースは,7つの血管外科分野すなわち動脈瘤,慢性動脈閉塞,急性動脈閉塞,血管外傷,血行再建合併症,静脈手術,その他の血管疾患から成っており,それぞれの登録症例数は,21,680, 18,123, 4,765, 2,418, 669, 48,625, および41,629例であった.腹部大動脈瘤(含む腸骨動脈瘤)は19,982例で,その64.1%がステントグラフト(EVAR)により治療されている.1,824例(9.1%)の破裂例を含んでおり,手術死亡率は破裂,非破裂で,それぞれ15.0%,0.7%であった.破裂症例に対するEVARは37.9%を占め,比率が年々増加しているが,置換術とEVARの手術死亡率はそれぞれ14.5%と12.3%であり,有意差はなかった.慢性動脈閉塞症は,重複を含み18,123例登録され,open repair 7,277例(うちdistal bypass 1,348例),血管内治療9,248例が施行された.血管内治療の割合が56.0%であった.静脈手術では,下肢静脈瘤手術が46,754例と前年に比べて初めて11.2%も減少した.このうち血管内焼灼術は34,440例で,手術法の73.7%を占めた.下肢深部静脈血栓症は455例であった.その他の手術として,バスキュラーアクセス手術38,769例,下肢切断1,548例が登録され,共に増加している.【結語】2016年と比較して,全領域において血管内治療が増加しており,とくに動脈瘤に対するステントグラフト内挿術,慢性動脈閉塞症に対する血管内治療の増加が目立った.

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