日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
32 巻, 5 号
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原著
  • 坂井 亜依, 宮津 克幸, 池田 真浩
    2023 年 32 巻 5 号 p. 339-343
    発行日: 2023/09/16
    公開日: 2023/09/16
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    【目的】EVAR後のII型ELは瘤径拡大や瘤破裂の原因となるため治療介入が必要であるが,治療方針についてコンセンサスは得られていない.当院で開腹分枝閉鎖瘤縫縮術(BACA)を施行した症例を後方視的に評価した.【方法】2012年2月から2022年8月までに当院でEVARを施行した151例のうち,遠隔期にII型ELを認め,術前瘤径より5 mm以上拡大したものに再治療を行い,11例にBACAを行った.【結果】再治療時の年齢は75.6±4.4歳,再治療までの期間は49.7±16.2カ月であった.4例に部分人工血管置換術を併施し,手術時間183±37分,出血量262±164 mLであった.全例で誤嚥性肺炎や創部感染,離開などの術後合併症を認めなかった.再治療後の観察期間19.2±9.5カ月において全例で瘤径は縮小傾向にあり,瘤関連死亡を認めていない.【結論】BACAを施行し良好な短期成績を得た.中長期成績については今後症例の集積と検討が必要であるが,再治療症例の患者背景を考慮すると本術式は有用であると考える.

  • 本間 香織, 加賀山 知子, 岩井 武尚, 久米 博子, 小泉 伸也, 櫻澤 健一
    2023 年 32 巻 5 号 p. 345-350
    発行日: 2023/09/16
    公開日: 2023/09/16
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】バージャー病(TAO)は,動静脈の血栓性閉塞部の血栓と血管壁の炎症性変化を認める疾患として報告され,しばしば壊死のため肢切断に至る難治疾患である.診断するうえで重要な所見であるコルクスクリュー側副路(CS)は,主として血管造影で診断されるが,超音波検査にて評価することも可能である.【方法】TAOと診断された22例に対し,血管造影でのCSの診断に基づき超音波検査を加え,周囲の神経や動脈との関係を観察した.【結果】全例にてCSの同定が可能であり,さらにCSと神経が伴走していることが確認できた.CSの存在部位は閉塞した動脈周辺以外にも存在し,神経内・外を伴走するものが確認でき,神経栄養血管が発達した側副路であることが示唆された.【結論】CSを検索する場合は動脈周囲だけでなく,動脈と伴走しない神経が走行している部位についても観察することが重要である.

  • 大野 雅人, 善甫 宣哉, 神西 優樹, 坂下 英樹, 植月 友彦, 岡田 隆之
    2023 年 32 巻 5 号 p. 351-356
    発行日: 2023/09/16
    公開日: 2023/09/16
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    【目的】慢性B型大動脈解離(cTBD)とくに発症から6カ月以降の後期に対するTEVARのリモデリングとリエントリー閉鎖の影響について検討した.【方法】早期9例と後期16例に分け,TEVAR術後中期の胸部偽腔リモデリングと,後期ではリエントリー閉鎖の影響について検討した.【結果】胸部偽腔の完全縮小は早期で67%,後期で13%であり,有意に早期の完全縮小率が高かった.5 mm以上の縮小を含めたリモデリング率は早期78%,後期69%と差がなかった.後期で術前後の腹部内臓分枝根部,腹部大動脈と総・外腸骨動脈リエントリーの有無,術後タイプIaエンドリークの有無で単変量,多変量解析を行い,左総・外腸骨動脈リエントリーの存在がリモデリングに影響することが判明した.【結論】後期cTBDに対するTEVARでは,中期の胸部偽腔リモデリング促進因子として,左総・外腸骨動脈リエントリー閉鎖が一番重要と考えられた.

症例
  • 坂下 英樹, 善甫 宣哉, 大野 雅人, 神西 優樹, 植月 友彦, 岡田 隆之
    2023 年 32 巻 5 号 p. 357-361
    発行日: 2023/10/04
    公開日: 2023/10/04
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    胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)において左鎖骨下動脈(LSA)再建の可否は議論の多いところであるが,術後対麻痺予防対策として椎骨脳底動脈血流を維持するLSA再建の有用性が報告されている.左椎骨動脈(VA)が大動脈弓部より直接起始する左椎骨動脈単独起始(ILVA)を有するzone 2 TEVAR 2例を経験した.症例1は遠位弓部大動脈瘤,症例2は急性型大動脈解離に対して上行・部分弓部人工血管置換術後(腕頭,左総頸動脈再建)で,術後CTにて末梢側吻合部近傍にエントリーを認めた.VAは症例1:左優位,症例2:左右同径であったが,左VAのみ脳底動脈へ吻合されており,手術はzone 2 TEVARと左総頸–LSAバイパスを行い,ILVAをバイパス人工血管へ吻合した.TEVARに際しILVAの閉鎖が必要である場合,脳梗塞や脊髄虚血予防効果の観点から原則再建するべきと考える.

  • 藤原 義和, 森本 啓介, 笹見 強志
    2023 年 32 巻 5 号 p. 393-397
    発行日: 2023/10/22
    公開日: 2023/10/22
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    椎体破壊を伴う胸部下行大動脈囊状動脈瘤の症例を経験したので報告する.症例は71歳,男性.初診時から最大短径(horizontal diameter)40 mmの胸部下行大動脈囊状動脈瘤に近接する椎体破壊を認めており,8カ月の経過で大動脈瘤径が43 mmとなった.持続的に周囲組織へ高い圧力が作用している状態を疑い,TEVARでの治療を行った.術直後からエンドリークを認めていたが,原因部位が同定困難であったため,経過観察とした.8カ月間で瘤径が52 mmに拡大し,椎体破壊の進行,および背部に根性痛の出現を認めた.追加治療のため,再度CT検査で評価し,ステントグラフト中枢端のbird-beakを原因とするタイプIaエンドリークと診断した.このため,two debranchingを行い,TEVARで中枢端をゾーン1まで延長し,エンドリークの停止を得た.術後は椎体破壊の進行は見られず,2年後の経過で瘤径の縮小が認められる.

  • 長命 俊也, 髙橋 宏明, 幸田 陽次郎, 宮原 俊介, 山中 勝弘, 岡田 健次
    2023 年 32 巻 5 号 p. 399-403
    発行日: 2023/10/22
    公開日: 2023/10/22
    ジャーナル オープンアクセス

    急性大動脈解離を発症したKommerell憩室を認める症例に対して,二期的に手術を施行した症例を経験した.症例は40歳男性.胸痛が出現し,施行した造影CT検査で下行大動脈にKommerell憩室と大動脈基部から憩室に及ぶ偽腔開存型のStanford A型大動脈解離を認めた.同日緊急手術を施行した.胸骨正中切開でアプローチしたが,憩室の入口部が背側に位置し,確認できないため,憩室部は術後早期にTEVAR(thoracic endovascular aortic repair)でカバーする方針とした.上行大動脈からzone 2まで人工血管で置換した.術後5日目に左総頸動脈と左腋窩動脈をバイパスし,zone 2の人工血管から下行大動脈までTEVARを行った.術後35日目に独歩で退院した.急性大動脈解離を発症したKommerell憩室を認める症例に対し,二期的に手術を施行することで良好な結果を得た.

  • 村岡 拓磨, 鈴木 一史, 倉持 雅己, 上西 祐一朗, 篠永 真弓, 倉岡 節夫
    2023 年 32 巻 5 号 p. 405-409
    発行日: 2023/10/22
    公開日: 2023/10/22
    ジャーナル オープンアクセス

    稀な外側胸動脈病変に対して観血的治療を行った3例を報告する.症例1.Marfan症候群の31歳男性.6年前に大動脈弁輪拡張を伴う急性大動脈解離A型に対してBentall手術が行われ,以降ワーファリンによる抗凝固療法が継続されていた.血痰を主訴に救急外来を受診し,右外側胸動脈自然破裂による胸腔内血腫を認めたため,血管内治療で責任血管を塞栓し止血を得た.症例2.69歳男性.増強する左背部痛で近医を受診し,疼痛部位と一致しthrillを伴う拍動性腫瘤を触知された.CT検査で左外側胸動静脈奇形に伴う仮性瘤を指摘され,血管内治療で仮性瘤内塞栓術を行い血流の消失を得た.症例3.左自然気胸に対する手術歴のある37歳男性.喀血および血痰を主訴に近医を受診し,左外側胸動脈–肺動脈瘻と同部位からの出血と診断され,胸腔鏡下に新生血管切離と左肺舌区部分切除を行い治癒を得た.

  • 中村 剛, 恒吉 裕史, 木村 崇暢, 下村 俊太郎, 片山 秀幸, 瀬戸﨑 修司
    2023 年 32 巻 5 号 p. 411-415
    発行日: 2023/10/27
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル オープンアクセス

    腹部大動脈瘤(AAA)による上腸間膜動脈症候群(SMAS)の報告は散見されるが,消化器症状を契機にAAAが発見される場合がほとんどである.今回,AAAによる入院中にSMASを発症した症例を経験したので文献的考察を加え報告する.症例は74歳男性.腰痛を主訴に紹介医を受診し最大短径104 mmのAAAを認め当科紹介となった.準緊急での手術方針とし入院加療を開始したが,入院翌日に嘔吐を認め造影CTでSMASと診断した.胃管留置で消化器症状は改善した.入院5日目に開腹人工血管置換術を行い,術後13日目に自宅退院した.本症例でのSMAS発症前後の画像検査を考察し,AAAの経過観察中においてSMASを発症前から予測することができると考えられた.

2020年JCLIMB年次報告
  • 日本血管外科学会JCLIMB委員会, NCD JCLIMB分析チーム
    2023 年 32 巻 5 号 p. 363-391
    発行日: 2023/10/14
    公開日: 2023/10/14
    ジャーナル オープンアクセス

    2013年以降,日本血管外科学会は,我が国の血管外科医により行われている重症下肢虚血(critical limb ischemia; CLI)診療の現状を明らかにし,その結果を現場の医師に還元することで,医療の質の向上に貢献することを目的として,全国規模のCLI登録・追跡データベース事業を開始した.このデータベースは,非手術例も含むCLI患者の背景,治療内容,早期予後,および治療後5年までの遠隔期予後を登録するもので,JAPAN Critical Limb Ischemia Database(JCLIMB)と呼称し,NCD上に設置されている.2020年は85施設が1299肢(男性890肢:69%,女性409肢)のCLIを登録し,うちASOが1280肢(男性880肢:69%,女性400肢)で,全体の99%を占めた.この年次報告書では,登録肢の背景,虚血肢状態,治療,治療後早期(1カ月)の予後を集計し報告する.

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