日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
32 巻, 3 号
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総説
  • 加藤 雅明
    2023 年 32 巻 3 号 p. 157-163
    発行日: 2023/05/12
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル オープンアクセス

    急性・亜急性Stanford B型大動脈解離に対する治療ストラテジーはTEVARが登場することにより大きな変化を遂げた.従来のcomplicated case(破裂・malperfusion)に加え,難治性高血圧,持続・再発する疼痛,大きな大動脈径など,保存治療では予後不良とされる症例も侵襲治療の適応に加わった.また,急性・亜急性・慢性早期の治療の方法としてはTEVARが第一選択となり,これができない場合,他の術式(fenestration・人工血管置換)が選択されることとなる.侵襲治療のタイミングはlife-threatening condition(破裂・malperfusion)には緊急で,有症状症例には至急で,それ以外の保存治療継続にて予後不良と考えられる症例には,発症6カ月以内において待機的に侵襲治療を施行するのが適切と考えられる.

講座
  • 加地 修一郎
    2023 年 32 巻 3 号 p. 169-173
    発行日: 2023/05/27
    公開日: 2023/05/27
    ジャーナル オープンアクセス

    B型大動脈解離では,合併症がない場合に内科加療が行われる.急性期の内科治療においては,心拍数を60未満におさえつつ収縮期血圧を120 mmHg以下にすることが重要である.また経過中に臓器虚血や解離腔の拡大がないか注意する必要がある.合併症のないB型解離例においては,内科治療による早期死亡率は比較的低いが,退院時生存例の5年死亡率は12–28%と報告され,残存する解離をどう治療するかが慢性期の課題とされてきた.近年,発症一年以内の胸部ステントグラフト内挿術(Thoracic Endovascular Aortic Stent Graft: TEVAR)により,解離部位の有効なリモデリングが得られ,予後の改善が見込まれることがわかってきた.しかしながらTEVAR施行時には,逆行性A型解離などの致死的な合併症が起こりうるため,現時点では,大動脈関連事象を起こす可能性が高いハイリスク例に対して施行される方向にある.一方,ハイリスク例の定義については,さまざまな研究が行われており,多数の危険因子が報告されている.正確な予後評価を行ったうえで先制TEVARの適応を決定し,予後を改善していくことが今後の課題である.

  • 辻 依子, 寺師 浩人
    2023 年 32 巻 3 号 p. 179-182
    発行日: 2023/06/16
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル オープンアクセス

    難治性潰瘍の創傷管理における基本的な概念としてwound bed preparation(創面環境調整,WBP)がある.難治性潰瘍はなんらかの創治癒阻害因子が関与し治療に反応しない状態であり,これらの創治癒阻害因子を除外し創面の環境を整え,治療に反応できる状態にすることをWBPという.WBPのために除去すべき創治癒阻害因子をT(活性のない組織や損傷,tissue non-viable of deficient),I(感染または炎症,infection or inflammation),M(湿潤環境のアンバランス,moisture imbalance),E(創縁の治癒遅延またはポケット化,edge of wound-non advancing or undermined)の4つの因子に規定し,それぞれの因子に対する臨床的介入法とその結果について示したものをTIME理論という.WBPを図るためには,T→I→M→Eの順で介入するが,包括的重症下肢虚血(chronic limb threatening ischemia, 以下CLTI)の場合,通常のTIME理論による臨床的介入のみでは治癒が遅延するだけでなく,大切断に至ることもあり,CLTI特有の臨床的介入を行う必要がある.

  • 岡田 健次
    2023 年 32 巻 3 号 p. 183-189
    発行日: 2023/06/16
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル オープンアクセス

    慢性期B型大動脈解離で解離性大動脈瘤を形成する場合,2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインでは最大短径60 mm以上の症例にはクラスIで侵襲的治療が推奨されており,特に広範囲のDeBakey IIIb型に対してはクラスIIaで外科手術が推奨されている.本講座では開胸方法,人工心肺設定法,脊髄保護法,腹部臓器保護法を含む術式の詳細とそれら外科治療成績について述べる.

症例
  • 川谷 洋平, 齊藤 寛文, 堀 隆樹
    2023 年 32 巻 3 号 p. 151-156
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル オープンアクセス

    大腿動脈の仮性動脈瘤は経皮的穿刺手技の後,早期に鼠径部の拍動性腫瘤として発見される場合が多いが,腫瘤の症状なく下肢浮腫のみが初発症候となる例は稀で,術後長期間経過してから発症することも極めて稀である.仮性動脈瘤の治療では手術による修復が避けられないことも多い.その際には大伏在静脈が広く使用されるが,それが使用できない場合には手術に用いる材料について検討が必要となる.88歳男性,18年前に両側大伏在静脈を使用し,左大腿動脈から体外循環の送血を行った大動脈基部置換術を受けた既往があった.左下肢全長の浮腫を訴えて来院した.下肢動静脈超音波検査にて,左総大腿動脈内側壁に6 mm大のentryをもつ50 mm径の仮性動脈瘤を認め,総大腿静脈が圧排され静脈内に血流が観察されなかった.ウシ心囊膜パッチ(XenoSure)を用いた動脈修復術によって治療した.

  • 中島 隆之, 佐藤 央, 田中 良一
    2023 年 32 巻 3 号 p. 165-168
    発行日: 2023/05/12
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル オープンアクセス

    腸骨静脈圧迫症候群(iliac compression syndrome)は左下肢に多く,右下肢での報告は少ない.今回われわれは,右下肢浮腫,右鼠径部痛,静脈性跛行を主訴とする54歳,男性を経験したので報告する.CT検査では右内・外腸骨動脈による右外腸骨静脈の圧排所見と外腸骨静脈の血栓を認めた.治療は血栓吸引とステント留置を施行した.術後26カ月後にステントは閉塞したが症状の再発はない.

  • 内山 大輔, 三岡 博, 川口 信司, 宮野 雄太, 寺井 恭彦, 中井 真尚
    2023 年 32 巻 3 号 p. 175-178
    発行日: 2023/06/16
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル オープンアクセス

    骨盤内動静脈奇形(PAVM)は血行動態が単純な場合は血管内治療の適応となるが,カテーテル操作が困難な病変では工夫を要する場合がある.症例は38歳女性.CTで最長径60 mmの楕円形のPAVMと診断した.第5腰動脈から分岐した蛇行の強い単独の栄養動脈と左総腸骨静脈への単一の流出箇所を認めた.第5腰動脈が鋭角に分岐して蛇行が強く,大腿動脈や上腕動脈(RBA)からのカテーテル塞栓術は,シースが安定せず困難であった.RBAからPAVM内に到達した0.014 inchガイドワイヤーを左総大腿静脈(LCFV)からPAVM内に挿入したスネアカテーテルで引き出し,RBA–LCFV間のthrough and through wireを作成し,シースを安定させた.栄養動脈とPAVM内を塞栓し,術中造影でPAVMの完全閉塞を確認した.PAVMは縮小し,術後2年のCTで再拡大なく経過している.

  • 緒方 誠, 安田 章沢, 長 知樹, 出淵 亮, 金子 翔太郎, 内田 敬二
    2023 年 32 巻 3 号 p. 191-195
    発行日: 2023/06/16
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル オープンアクセス

    解離性大動脈瘤に播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation: DIC)が合併することはこれまでにも報告されている.解離性大動脈瘤に伴うDICの根治治療は外科治療となるが,さまざまな臨床的要因で内科的治療のみで対応しなければならないこともあり,その治療法は確立されていない.64歳男性,Stanford A型急性大動脈解離に対し全弓部大動脈置換術を施行,その1年後にDICを発症した.外科的治療も検討したが,下行大動脈最大径は50 mmで,ADL低下があり内科的治療を試みた.輸血や遺伝子組み換えトロンボモジュリン製剤の投与効果は一時的で中止後に再燃したが,トラネキサム酸経静脈投与によりDICを脱し,経口投与でDIC寛解維持が可能であった.また,内服継続投与により偽腔は血栓化し,瘤径の縮小を得ることができた.

  • 望月 康晃, 細井 温, 伊佐治 寿彦, 布川 雅雄, 窪田 博, 保科 克行
    2023 年 32 巻 3 号 p. 197-201
    発行日: 2023/06/23
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は65歳女性.健診にて右水腎症を指摘され,CT検査で右内腸骨動脈の炎症性動脈瘤を指摘された.同瘤から分枝する遺残坐骨動脈を認めたが,瘤化は認めなかった.右内腸骨動脈瘤は最大短径32 mmで相対的適応と考えられたが,瘤の炎症によると思われる水腎水尿管症に対してその解除目的もあり開腹手術の方針とした.手術は瘤切除,腹部大動脈–左総腸骨動脈および右外腸骨動脈バイパスを行い,さらにグラフト右脚から完全型で膝窩動脈への連続性があった遺残坐骨動脈へのバイパスを行った.術後水腎症は改善し,バイパスは1年半後の現在も開存しトラブルなく経過している.遺残坐骨動脈と炎症性内腸骨動脈瘤との合併の報告は検索した限りではなく,また病理的な関連はないと思われる.しかし同一術野において両疾患は治療されることになり,いくつかの選択肢がある中で開腹瘤切除およびバイパス術を施行した1例を報告する.

  • 土田 憲, 小ヶ口 恭介, 渡邊 大海
    2023 年 32 巻 3 号 p. 203-209
    発行日: 2023/06/26
    公開日: 2023/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は80歳男性.右大腿の腫脹と貧血の進行にて救急搬送され,CTで右大腿深動脈瘤破裂,右総腸骨動脈瘤,右内腸骨動脈瘤,左深大腿動脈瘤を認め,血管内治療にて大腿深動脈瘤破裂を止血した.全身状態の改善を待ち,2週間後に残存する右総腸骨動脈瘤,右内腸骨動脈瘤にステントグラフト内挿術を,左深大腿動脈瘤には瘤中枢側結紮術と末梢側コイル塞栓術を組み合わせたハイブリッド治療を施行した.術後経過は良好であった.

ガイドライン解説
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