日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
29 巻, 1 号
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症例
  • 浅野 宗一, 林田 直樹, 椛沢 政司, 阿部 真一郎, 長谷川 秀臣, 村山 博和
    2020 年 29 巻 1 号 p. 1-4
    発行日: 2020/01/21
    公開日: 2020/01/21
    ジャーナル オープンアクセス

    弓部大動脈人工血管置換術(TAR)は,胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)が登場した現在でも,弓部大動脈瘤に対する標準術式である.しかしその末梢側吻合は症例によっては視野が深く難渋することがある.ひとたび吻合部出血が起こると,人工心肺下,左開胸を追加しての止血操作となることがあり,その侵襲は非常に大きなものとなる.われわれはそのような症例に対し,置換し終えた弓部人工血管の側枝から胸部ステントグラフトを順行性に挿入し出血をコントロールし得た症例を経験した.術中の人工血管吻合部出血に対しステントグラフトにて止血し得た報告は珍しく,文献的考察を含め報告する.

  • 鈴木 脩平, 三富 樹郷, 篠永 真弓, 倉岡 節夫
    2020 年 29 巻 1 号 p. 5-8
    発行日: 2020/01/21
    公開日: 2020/01/21
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は77歳男性,健診異常のため精査目的に近医より当院を紹介された.尿検査で尿蛋白陽性,尿潜血陽性であり,その精査のために腎臓内科を受診したが,約10 cm大の腹部大動脈瘤を認めたため当科を紹介され,人工血管置換術を行った.術前CTでは腹部大動脈瘤と上腸間膜動脈によって左腎静脈が圧迫される所見が認められ,また左腎静脈の内圧上昇を示す所見として,左精索静脈瘤を認めた.全身麻酔下に腹部正中開腹アプローチで人工血管置換術を行い,瘤を切除することで扁平化した左腎静脈は圧迫が解除された.術後CTでも左腎静脈の狭窄は多少残存するものの左精索静脈瘤は消失し,尿潜血も改善傾向にあった.今回われわれは巨大腹部大動脈瘤のためにNutcracker症候群を生じた1例を経験した.

  • 奥木 聡志, 東 隆, 横井 良彦, 道本 智, 新浪 博士
    2020 年 29 巻 1 号 p. 9-13
    発行日: 2020/01/29
    公開日: 2020/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    傍腎動脈腹部大動脈瘤の治療において近年開窓型ステントグラフトによる治療が有効な選択肢であるという報告がされている.症例は72歳男性.大動脈瘤は遠位弓部や胸腹部大動脈,右総腸骨動脈にかけて多発しており,傍腎動脈腹部大動脈瘤を含んでいた.発見から1カ月間で急速な拡大傾向を認め,囊状瘤であることから破裂のリスクは高いと判断し外科的治療の方針となった.急速な拡大傾向を認める広範囲にわたる囊状瘤であり一期的治療が望ましいと考えられ,開窓型ステントグラフトによる治療を選択した.企業製ステントグラフトを腹腔動脈,上腸間膜動脈,両側腎動脈の4分枝開窓し留置した.術後のCTでは分枝の閉塞やEndoleakは認めず,術後2年のCTでは治療部位の大動脈瘤の縮小,消失を認めた.傍腎動脈腹部大動脈瘤を含む広範囲大動脈瘤に対して開窓型ステントグラフトを用いた一期的治療も治療戦略として有効であると考えられた.

  • 深田 穣治, 佐藤 宏, 田宮 幸彦
    2020 年 29 巻 1 号 p. 37-41
    発行日: 2020/02/15
    公開日: 2020/02/15
    ジャーナル オープンアクセス

    腹部大動脈ステントグラフト内挿術(EVAR)後に残存したtype 2エンドリーク(T2EL)によって腹部大動脈瘤(AAA)の破裂をきたしたが,服用していた抗凝固薬を中止することで自然軽快した症例を経験した.症例は心房細動に対し抗凝固薬を服用していた77歳,男性で,2年7カ月前にAAAに対してEVARを受けた.T2ELによって瘤径が拡大しEVAR後2年目に下腸間膜動脈のコイル塞栓術を追加したが,T2ELはその後も残存し破裂に至った.しかし,抗凝固薬の中止により追加治療なしに自然軽快し瘤径も縮小した.抗凝固薬がEVAR後のエンドリークに与える影響は明らかではなく文献的考察を加えて報告する.

  • 影山 理恵, 緑川 博文, 植野 恭平, 武富 龍一, 菅野 惠
    2020 年 29 巻 1 号 p. 43-46
    発行日: 2020/02/20
    公開日: 2020/02/20
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は34歳の男性で,以前より高血圧を指摘されていた.胸痛を主訴に他院を受診し,急性大動脈解離の診断で当院へ搬送された.造影CT検査および心臓超音波検査で急性大動脈解離Stanford A型,大動脈弁閉鎖不全症,心タンポナーデおよび多発性囊胞腎(PKD)を認めたため,緊急でBentall術(SJM機械弁25 mm+Carboseal人工血管28 mm)を施行した.術後は腎機能増悪もなく経過は良好で,術後14日に独歩退院した.病理学的検査では大動脈中膜に囊状壊死を認めた.PKDに合併したStanford A型大動脈解離に対する緊急Bentall術は極めて稀で,われわれが調べ得た範囲では術後大動脈組織から囊状中膜壊死を証明した報告はなかった.PKDの合併症として急性大動脈解離があることを念頭に入れ,適切な発症予防と治療方針が必要と考えられた.

  • 中村 文, 井上 良哉, 稲垣 順大, 平野 弘嗣, 馬瀬 泰美, 徳井 俊也
    2020 年 29 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2020/02/20
    公開日: 2020/02/20
    ジャーナル オープンアクセス

    膀胱癌術後の尿管動脈瘻に対してカテーテル的動脈塞栓術+大腿–大腿動脈バイパス術を施行した症例を経験したため報告する.症例は76歳,女性.膀胱癌に対し膀胱全摘除術+回腸導管造設術を施行され,縫合不全から腹腔内感染をきたし抗菌薬治療を受けた.術後5カ月後に導管部より動脈性出血を認め出血性ショックとなった.CTにて,右外腸骨動脈に周囲脂肪織濃度の上昇を伴う仮性動脈瘤を認めた.カテーテル的に右総腸骨・外腸骨・内腸骨動脈をそれぞれ塞栓し,続いて大腿–大腿動脈バイパス術を施行した.術後は血尿の再燃なく自宅退院となった.尿管動脈瘻は,腹腔内癒着などの影響で外科的修復が困難である例が多く,近年ステントグラフトなどの血管内治療の有用性が報告されており,個々の症例に応じた治療戦略を立てる必要がある.

  • 鈴木 博之, 中山 真悠子, 諏訪 達志, 苅込 和裕, 小花 彩人, 和田 秀一
    2020 年 29 巻 1 号 p. 53-56
    発行日: 2020/02/26
    公開日: 2020/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は85歳男性.下肢痛を伴う左大伏在静脈(GSV)逆流による下肢静脈瘤に対する加療目的でかかりつけ医院から紹介となった.術前精査で左外腸骨動脈閉塞を合併していることが判明し,患者の訴えが間歇性跛行症状であったためまずは下肢血行再建術(左右大腿動脈バイパス術)を施行した.術後に下肢痛症状は消失したが,術後2カ月目に患側下肢の浮腫が出現・増強し,皮膚に象皮様変化を認めた.下肢静脈エコーにて左GSV径の急速な拡大進行を認めたため,術後3カ月経過したところで左GSVへのストリッピング術を施行.以後速やかに浮腫は消退し,ストリッピング術後3カ月で下肢の太さに左右差を認めなくなった.症例数の多い下肢静脈瘤患者の中には,稀に下肢閉塞性動脈硬化症を合併している症例がある.両疾患が同側下肢に併存する際には,各々の重症度を検討したうえで適切な治療戦略をたてる必要がある.

  • 村井 則之, 向後 寛子
    2020 年 29 巻 1 号 p. 57-59
    発行日: 2020/02/26
    公開日: 2020/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は60歳男性,左手関節中枢で橈骨動脈と橈側皮静脈で作成されたVA(Vascular Access)を用い透析を受けていたが,前腕のシャント閉塞,透析困難にて当院を紹介受診した.同日緊急にてVascular Access Intervention Therapy(VAIVT)を施行.静脈中枢の肘付近にて穿刺し血流と逆行性にガイドワイヤーの通過を試みるも吻合部中枢の石灰化閉塞部位をガイドワイヤーが通過できず.吻合部を穿刺してプルスルーを行うことでVAIVTを完遂できた症例を経験したので報告する.

  • 近藤 健介, 徳永 宜之, 渡邊 達也, 磯田 竜太郎, 森田 一郎, 杭ノ瀬 昌彦
    2020 年 29 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2020/02/26
    公開日: 2020/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    52歳男性,突然の胸腹部痛で救急搬送された.造影CTでulcer-like projection, 縦隔内血腫および心囊液貯留を認めたが,intimal flapは認めなかった.心タンポナーデとなり,偽腔閉塞型急性大動脈解離もしくは特発性大動脈破裂の疑いで緊急手術を施行した.縦隔内および心囊内に鮮紅色の血液と血腫を認め,上行大動脈壁に亀裂部位と血栓様塞栓物を認めた.破裂部位周辺の大動脈には明らかな大動脈解離は認めず,特発性大動脈破裂と診断し,上行大動脈人工血管置換術を施行した.病理診断では大動脈壁に穿孔,外膜血腫および,cystic medial degenerationを認めた.術後経過は良好で,術後11日目に独歩退院した.特発性大動脈破裂は稀な疾患ではあるが,原因不明の血性心囊液貯留や縦隔内血腫を認めた場合,動脈瘤や大動脈解離の所見は認めなくても,特発性大動脈破裂を念頭に置く必要がある.

血管外科手術アニュアルレポート2014年
  • 日本血管外科学会データベース管理運営委員会, NCD血管外科データ解析チーム
    2020 年 29 巻 1 号 p. 15-31
    発行日: 2020/02/15
    公開日: 2020/02/15
    ジャーナル オープンアクセス

    2014年に日本で行われた血管外科手術について,日本血管外科学会データベース管理運営委員会が集計結果を解析し,アニュアルレポートとして報告する.【方法】NCDの血管外科手術データに基づき,全国における血管外科手術動向およびその短期成績(術死,在院死亡)を解析した.【結果】2014年にNCDに登録された血管外科手術は113,296件であり,1,002施設からの登録があった.このデータベースは,7つの血管外科分野すなわち動脈瘤,慢性動脈閉塞,急性動脈閉塞,血管外傷,血行再建合併症,静脈手術,その他の血管疾患からなっており,それぞれの登録症例数は,21,085, 14,344, 4,799, 2,088, 1,598, 42,864, および26,518例であった.腹部大動脈瘤(含む腸骨動脈瘤)は17,973例で,その55.7%がステントグラフト(EVAR)により治療されている.1,824例(10.1%)の破裂例を含んでおり,手術死亡率は破裂,非破裂で,それぞれ16.1%,0.6%であった.破裂症例に対するEVARは32.1%を占め,比率が年々増加しているが,置換術とEVARの手術死亡率はそれぞれ15.7%と18.0%であり,有意差はなかった.慢性動脈閉塞症は,重複を含み14,344例登録され,open repair 8,020例(うちdistal bypass 1,210例),血管内治療6,324例が施行された.血管内治療の割合が44.1%であった.静脈手術では,下肢静脈瘤手術が41,246例と急激に増加し,このうちレーザー治療(EVLA)が18,861例で,はじめて手術法としてストリッピング術を超えて最多となった.下肢深部静脈血栓症は520例であった.その他の手術として,バスキュラーアクセス手術25,024例,下肢切断1,322例が登録された.【結語】2013年と比較して,全領域において血管内治療が増加しており,とくに動脈瘤に対するステントグラフト内挿術,慢性動脈閉塞症に対する血管内治療や下肢静脈瘤に対するレーザー焼灼術の増加が目立った.

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