日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
28 巻, 4 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
総説
  • 前田 英明, 田中 正史
    2019 年 28 巻 4 号 p. 317-322
    発行日: 2019/08/24
    公開日: 2019/08/24
    ジャーナル オープンアクセス

    腹部大動脈・腸骨動脈瘤–下大静脈瘻を合併した腹部大動脈瘤ACF(aortocaval fistula)は腹痛・腰痛,拍動性腫瘤,腹部血管雑音の3徴に加え,心不全,下腿浮腫の特異な臨床症状を呈する.特発性ACF(spontaneous ACF: sACF)は腹部大動脈・総腸骨動脈瘤が巨大化し下大静脈(IVC)に破裂穿孔し,発症する.全腹部大動脈瘤(AAA)の0.2~1.3%の頻度で,破裂性AAAの3~4%を占めるまれな合併症である.人工血管置換術,穿孔部閉鎖が標準術式であるが,死亡率が高いことからステント-グラフト内挿術の報告も散見されるようになったが,エンドリークの合併対策に問題が残る.もう一つの原因は外傷性で,最も頻度が高いのは腰椎椎間板内視鏡術術後で,症例数増加に伴い,術中・後のAVF報告は決してまれではなくなってきている.本稿では術前臨床症状,診断率,人工血管置換術,ステント-グラフト内挿術の死亡率,合併症について考察する.

症例
  • 岡田 拓, 安藤 敬, 秋山 大地, 竹田 誠, 小池 祐哉, 松井 青史
    2019 年 28 巻 4 号 p. 259-261
    発行日: 2019/07/03
    公開日: 2019/07/03
    ジャーナル オープンアクセス

    Perigraft seroma(PGS)は人工血管を用いた手術の比較的稀な合併症である.腹部大動脈瘤に対して2度の人工血管置換術施行後,合併した難治性PGSに対してステントグラフト内挿術(EVAR)を施行し良好な結果を得られたので報告する.症例は78歳男性.腹部大動脈瘤に対してexpanded polytetrafluoroethylene(ePTFE)グラフトによる人工血管置換術を施行した.術後PGSが増大しイレウス症状も呈するようになったため2年後にpolyester knittedグラフトによる再人工血管置換術を施行した.しかし,PGSがさらに再発したためExcluderを用いてEVARを施行し,その後はPGSの再燃は認めなかった.2度の腹部大動脈人工血管置換術後に合併した難治性PGSに対してEVARによる治療は有効であった.

  • 谷島 義章
    2019 年 28 巻 4 号 p. 263-267
    発行日: 2019/07/17
    公開日: 2019/07/17
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    症例は80歳男性.両側総腸骨動脈瘤の治療目的に当院を受診した.手術はEVAR(endovascular aneurysm repair)を選択した.両側内腸骨動脈の塞栓を行い,GORE社のExcluderメインボディの中枢の展開後にコンストレイニングダイヤルを回転し中枢側を閉じ,対側ゲートをバルーンで拡張した.メインボディと拡張したバルーンを同時に引き下げ,下腸間膜動脈(IMA; inferior mesenteric artery)より尾側に留置した.Excluderメインボディのrepositioningの機能を用いて,IMAの血流を温存しEVARを施行し,術後も腸管壊死などの合併症なく良好な経過を得ている.

  • 橋本 宗敬, 玉手 義久, 佐藤 博子, 渋谷 俊介, 石田 和之, 菅井 有
    2019 年 28 巻 4 号 p. 269-272
    発行日: 2019/07/26
    公開日: 2019/07/24
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    孤立性左内腸骨動脈瘤の圧迫により直腸が狭窄し,S状結腸に壊死を伴う閉塞性大腸炎を来たした症例を経験した.症例は91歳男性.下痢,腹痛を発症し,当院救急外来を受診した.下腹部正中に圧痛があり,直腸指診にて3時方向壁外に拍動性腫瘤を触知した.CT検査にて直径9×6 cmの左内腸骨動脈瘤と,動脈瘤に圧迫されて狭窄した直腸を認めた.狭窄した直腸より口側のS状結腸は著明に拡張し,大腸内視鏡検査にて閉塞性大腸炎の所見を認めたため,手術を行った.手術は,左内腸骨動脈瘤遠位分枝の塞栓術,左腸骨動脈ステントグラフト内挿術,腹腔鏡下S状結腸切除術,下行結腸人工肛門造設術を1期的に行った.切除したS状結腸は粘膜に広範な壊死を認めた.腸骨動脈瘤の圧迫に起因する壊死性閉塞性大腸炎の報告例は見当たらず,極めて稀な症例であるため報告する.

  • 康 利章, 八杉 巧, 浪口 謙治, 泉谷 裕則
    2019 年 28 巻 4 号 p. 293-296
    発行日: 2019/08/10
    公開日: 2019/08/08
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    閉塞性動脈硬化症に対する下肢バイパス手術後の伏在静脈グラフトの瘤化は稀である.術後遠隔期にバイパスに用いた大伏在静脈グラフト(SVG)に仮性瘤を形成した症例を経験した.症例は85歳男性,右下腿の無痛性拍動性腫瘤の増大を認め,14年前に膝窩動脈,前・後脛骨動脈閉塞に対する大腿–腓骨動脈バイパスの既往があるため,吻合部仮性動脈瘤を疑われ紹介された.下肢造影CT検査ではSVGの中枢・末梢吻合部は問題なく,グラフトの非吻合部に8.0×9.5 cmの瘤化を認めた.瘤化部と瘤に強固に癒着したSVGを切除,左側大伏在静脈で置換し再建した.病理組織所見では,瘤の開口部にアテローム形成を認め,瘤壁では正常な血管壁構造は失われ,弾性板は疎で発達しておらず,仮性動脈瘤と診断された.正常SVG部には静脈硬化性変化は認めなかった.術後造影では再建グラフトの造影は良好であり,神経障害などの合併症は来さなかった.

  • 盛島 裕次, 新垣 勝也
    2019 年 28 巻 4 号 p. 297-301
    発行日: 2019/08/14
    公開日: 2019/08/09
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    孤立性腹腔動脈解離の1手術例を経験したので報告する.症例は48歳男性.突然の上腹部痛で発症し,造影CTで腹腔動脈解離を診断し保存的治療で経過観察を行っていたが,発症後3カ月目のフォローアップCTで,腹腔動脈瘤の囊状化と拡大のため,侵襲的治療適応と判断した.手術は腹部正中切開で開腹アプローチし,腎動脈下腹部大動脈より脾動脈と総肝動脈へ大伏在静脈でバイパスを行い,動脈瘤は切除した.術後経過は良好で,第15病日に退院した.術後造影CTでバイパスの開存を確認し,肝臓・脾臓を含む腹部臓器灌流異常は見られなかった.現在,とくに問題なく通院観察している.孤立性腹腔動脈解離は比較的稀であり,多くは保存的治療の対応となるが,侵襲的治療が必要になる場合があり,その際の治療法選択では,症例ごとに最適な方法を選択することが重要と思われた.

  • 西本 幸弘, 大仲 玄明, 田中 陽介, 安宅 啓二, 高木 正
    2019 年 28 巻 4 号 p. 303-306
    発行日: 2019/08/14
    公開日: 2019/08/09
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    上肢に発生する動脈瘤は比較的稀である.今回われわれは解剖学的タバコ窩に発生した橈骨動脈瘤の1例を経験したので報告する.症例は70歳男性,右手首の拍動性腫瘤を主訴に当科を受診した.3D-CT検査で解剖学的タバコ窩の橈骨動脈に径13 mm大の手背側に突出する囊状瘤を認めた.手術は瘤を切除し,端々吻合にて橈骨動脈を再建した.切除した瘤の病理組織像では内部にフィブリン塊を認め,血管の壁構造は保たれており,真性瘤であった.術後2週間抗血小板薬を内服し,橈骨動脈血流も良好に経過している.

  • 新田目 淳孝, 尾藤 康行, 因野 剛紀, 末廣 泰男, 山根 心, 佐々木 康之
    2019 年 28 巻 4 号 p. 307-310
    発行日: 2019/08/14
    公開日: 2019/08/09
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    症例は58歳の女性で,突然の背部痛にて救急搬送された.造影CT検査にてStanford B型急性大動脈解離と腹部大動脈破裂の所見を認めたため同日緊急手術となった.開腹したところ,卵巣動脈と思われる腹部分枝血管に解離が進展しており,その根部の外膜が破綻していた.腹部大動脈人工血管置換術を施行したが,中枢側吻合を行い大動脈の遮断を解除した直後より末梢側人工血管への血流低下を認め腸管の色調変化が出現した.術中造影にて真腔の狭小化による腹部臓器の灌流不全が生じていると判断し,続けてステントグラフトによる左鎖骨下動脈分岐部末梢のエントリー閉鎖を施行して血流の改善を得た.腸管壊死のため術後に部分的小腸切除および回盲部切除を行い,維持透析の導入が必要となったが,全身状態は回復しリハビリ転院の後に自宅退院した.

  • 中井 信吾, 渡辺 徹雄, 八田 益充, 津田 雅視, 外山 秀司, 貞弘 光章
    2019 年 28 巻 4 号 p. 311-316
    発行日: 2019/08/14
    公開日: 2019/08/09
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    BCG(Bacillus Calmette-Guérin)膀胱内注入療法は膀胱癌の治療として一般的に施行されているが,稀な合併症として感染性動脈瘤が報告されている.10年前のBCG膀胱内注入療法時のBCGを起因菌とした結核性感染性動脈瘤の症例を経験したので報告する.症例は82歳男性.71歳時に膀胱癌に対しBCG膀胱注入療法を1回施行された既往があった.雪かき後から腰痛を自覚し保存加療を受けていたが,憩室出血で入院した際のCTでL3/4の破壊を伴う化膿性脊椎炎,傍脊柱膿瘍,腸腰筋膿瘍,不整形な囊状感染性腹部大動脈瘤を認め当院へ紹介された.CTガイド下生検で起因菌はBCGと判明.抗結核薬治療を開始し,約6週間投与後にEVARを施行した.更に起因菌同定検査を施行し,10年前に膀胱注入されたBCG Tokyo株と同一株であることが証明された.術後12カ月間抗結核薬を投与し感染徴候なく経過している.

  • 光岡 明人, 菊池 亨, 井石 秀明, 山崎 元成, 菅野 範英, 井上 芳徳
    2019 年 28 巻 4 号 p. 323-326
    発行日: 2019/08/24
    公開日: 2019/08/24
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    開胸術の危険性が高い鎖骨下動脈瘤に対しhybrid治療を行い良好な結果を得た.症例は58歳男性.大動脈瘤術後,経過観察中に右鎖骨下動脈瘤30 mmが指摘された.既往の全弓部置換術にて左鎖骨下動脈は再建されず,左椎骨動脈の逆行性血流を認めた.またWillis動脈輪の右後交通動脈が欠落しており,右鎖骨下動脈瘤より右椎骨動脈が分枝していた.手術時の右椎骨動脈遮断は,後頭葉の血流が低下する危険性が高いと考え二期的に治療した.まず左総頸動脈–左椎骨動脈バイパス術を施行し,順行性の左椎骨動脈の血流を獲得した後,右鎖骨下動脈瘤の分枝をコイル塞栓後,ステントグラフトを留置した.経過順調にて7病日目に退院した.

  • 鈴木 卓康, 寺田 仁
    2019 年 28 巻 4 号 p. 327-330
    発行日: 2019/08/24
    公開日: 2019/08/24
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は62歳の女性.左足趾の疼痛,痺れを主訴に当院紹介となった.下肢造影CT,下肢エコーで左前・後脛骨動脈および右前脛骨動脈の末梢性の閉塞を認めたため,亜急性下肢動脈閉塞の診断で当科入院となった.胸部造影CTで下行大動脈の内腔に突出する造影効果を伴わない不整型腫瘤を認め,これが塞栓源と推測された.大動脈内腫瘤に対する精査を進めるも確定診断には至らなかったが,新たな塞栓症が出現したため塞栓源の除去を目的に下行大動脈人工血管置換術を施行した.切除した腫瘤は病理結果で粘液腫と診断された.

  • 根本 卓, 保坂 晃弘
    2019 年 28 巻 4 号 p. 331-334
    発行日: 2019/08/24
    公開日: 2019/08/24
    ジャーナル オープンアクセス

    結核性大動脈瘤は稀な疾患であり,手術と抗結核薬投与の併施が必要である.症例は54歳女性.他院で粟粒結核の加療中に,胸部下行大動脈瘤を認めた.2カ月間で急速な拡大傾向があり,加療目的に紹介となった.破裂の危険性が高いと判断し,準緊急でステントグラフト内挿術を施行した.術後経過は良好で,瘤の著明な縮小を認めた.肺結核に準じた化学療法を行い,術後2年3カ月の経過中,感染の再燃を認めていない.感染の再燃に注意する必要があるが,ステントグラフト内挿術は結核性大動脈瘤に対して有用な治療選択肢の一つである.

  • 谷島 義章, 尾頭 厚
    2019 年 28 巻 4 号 p. 335-339
    発行日: 2019/08/24
    公開日: 2019/08/24
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は66歳,男性.閉塞性動脈硬化症に対する人工血管を用いた両側大腿–膝窩動脈(FP)バイパス施行の1年後,右FPバイパスの急性閉塞を発症した.血管内治療(EVT)でグラフトを再疎通できず,右浅大腿動脈(SFA)にEVTが行われたが解離を生じた.右SFAに追加留置したステントは大腿深動脈(DFA)との分岐部を越えて右CFAの偽腔内留置になり,側副血行路である右DFAの入口部が狭窄した.その4カ月後にステント閉塞による右SFAの急性閉塞を発症した.EVTで右SFAを再疎通できず,右DFAにEVTが行われたが,重症下肢虚血に陥った.当院で腹部大動脈–右DFA–膝上膝窩動脈のsequentialバイパスでの外科的血行再建を選択し,良好な術後経過を得た.血行再建方法の選択については,EVTだけでなく外科的血行再建術の選択肢を考え,その時々において最適な治療戦略を検討する必要があると考えられた.

血管外科手術アニュアルレポート2013年
  • 日本血管外科学会データベース管理運営委員会, NCD血管外科データ分析チーム
    2019 年 28 巻 4 号 p. 273-292
    発行日: 2019/08/10
    公開日: 2019/08/08
    ジャーナル オープンアクセス

    2013年に日本で行われた血管外科手術について,日本血管外科学会データベース管理運営委員会が集計結果を解析し,アニュアルレポートとして報告する.【方法】NCDの血管外科手術データに基づき,全国における血管外科手術動向およびその短期成績(術死,在院死亡)を解析した.【結果】2013年にNCDに登録された血管外科手術は100,470件であり,1,045施設からの登録があった.このデータベースは,7つの血管外科分野すなわち動脈瘤,慢性動脈閉塞,急性動脈閉塞,血管外傷,血行再建合併症,静脈手術,その他の血管疾患からなっており,それぞれの登録症例数は,19,439, 13,276, 4,688, 1,563, 1,777, 37,643, および23,971例であった.腹部大動脈瘤(含む腸骨動脈瘤)は16,694例で,その52.9%がステントグラフト(EVAR)により治療され,初めて過半数を超えた.1,598例(9.6%)の破裂例を含んでおり,手術死亡率は破裂,非破裂で,それぞれ17.9%,1.0%であった.破裂症例に対するEVARは25.5%を占め,比率が年々増加しているが,置換術とEVARの手術死亡率はそれぞれ16.1%と15.8%であり,初めて有意差がなくなった.慢性動脈閉塞症は,重複を含み13,276例登録され,open repair 7,437例(うちdistal bypass 1,121例),血管内治療5,839例が施行された.血管内治療の割合が2012年39.8%より2013年44.0%へ増加している.静脈手術の内訳は,下肢静脈瘤35,986例,下肢深部静脈血栓症506例などであった.その他の手術として,バスキュラーアクセス手術22,572例,下肢切断1,185例が登録された.【結語】2012年と比較して,全領域において血管内治療が増加しており,とくに動脈瘤に対するステントグラフト内挿術,慢性動脈閉塞症に対する血管内治療や下肢静脈瘤に対するレーザー焼灼術の増加が目立った.

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