日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
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21 巻, 6 号
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巻頭言
原著
  • 橋本 誠, 井上 聡巳, 奈良岡 秀一, 樋上 哲哉
    2012 年 21 巻 6 号 p. 703-707
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    要  旨:【目的】当院で,胸部大動脈瘤(解離性大動脈瘤を含む)に対して,人工血管J Graft SHIELD NEO®を用いて弓部大動脈全置換術を施行した症例と,同手術を人工血管Gelweave®を用いて施行した症例との臨床経過を比較検討する.【方法】2008年1月より2010年12月までの期間,当院にて同一術者が施行した再手術例を除く弓部大動脈全置換術連続25症例(SHIELD NEO®群10例,Gelweave®群15例)を対象とした.両群間で,手術時間,止血時間,輸血量,術後ドレーン排液量,ドレーン全抜去までの日数,術後CRP値の推移,術後WBC値の推移,術後熱型,在院日数等の項目に関して統計学的に比較検討した.【結果】両群間で術前状態,合併手術に関しての有意差は認めなかった.両群間で病院死認めず,主な術後合併症でも有意な差は認めなかった.手術時間,止血時間,在院日数などでは両群間に差を認めなかったが,SHIELD NEO®群では心嚢ドレーン排液量が有意に多く(p<0.01),術後7日目のCRP値が高い傾向にあった(p<0.01).【結論】人工血管SHIELD NEO®とGelweave®を用いた弓部大動脈全置換術の際の臨床所見を比較検討した.SHIELD NEO®群で術後心嚢ドレーンの排液量が多く,炎症反応が遷延する傾向にあったが,術後合併症や入院期間に関しての差は両群間で認めなかった.今後症例を積み重ねることで今回の結果の臨床的意義を検討する必要がある.
  • 朝倉 利久, 岡田 至弘, 池田 昌弘, 高橋 研, 森田 耕三, 田畑 美弥子, 小池 裕之, 上部 一彦, 井口 篤志, 新浪 博
    2012 年 21 巻 6 号 p. 709-715
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    要  旨:急性A型解離(AAD)の術後長期予後改善を目的として,部分弓部置換術(HAR)に簡便かつ安全に下行大動脈(DA)にステントグラフト(SG)を内挿する術式(Open stent graft変法:OS変法)を考案し,その有効性について検討した.対象は,当院開設の2007年4月~2011年3月にAADでHARを施行した連続76例で,単独HAR施行症例をC群(16例),HAR+OS変法施行症例をS群(60例)とした.SGの挿入は循環停止下に編み込み法で行った.患者背景,手術時間,大動脈遮断時間,下半身虚血時間に有意差を認めなかった.手術死亡はC群2例,S群1例であった.SGによる対麻痺やmalperfusionは認めなかった.術後早期の造影CTをC群14例(88%),S群53例(88%)に施行した.DAの偽腔閉塞例はC群6例(43%),S群31例(58%)であった.真腔優位例はC群7例(50%),S群44例(83%)であり,S群で有意に高かった.術後中期のCTをC群12例(86%),S群30例(51%)に施行した.DAの偽腔が縮小または消失した割合はC群3例(25%),S群15例(50%)であった.DA径が拡大した割合はC群6例(50%),S群4例(13%)でS群で有意に少なく,C群の1例は再手術を要した.OS変法は,SG挿入に要する時間は3分以内であり,術中術後の合併症なく安全に施行可能であった.術後中期におけるDAの偽腔の縮小または閉塞率はC群に比較しS群で高率であったことから,本術式は遠隔期の偽腔拡大による再手術や破裂の危険性を減少させる可能性が示唆された.
  • 武井 祐介, 上田 秀樹, 大畑 俊裕
    2012 年 21 巻 6 号 p. 717-720
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    要  旨:【目的】腹部腸骨動脈瘤に対する標準的治療は開腹術であったが,ステントグラフトの登場により低侵襲である血管内治療が積極的に行われるようになってきている.今回,腹部腸骨動脈瘤の血管内治療においてコイル塞栓術とステントグラフト内挿術(EVAR)を二期的に行うことの優位性を明らかにする.【方法】2006年4月から2011年1月まで当科で腹部腸骨動脈瘤に対してコイル塞栓術とEVARが必要な腹部腸骨動脈瘤34症例を対象とし,これを一期的治療群23症例と二期的治療群11症例に分けて臨床的に比較検討した.【結果】全例において初期治療は成功し,両群間で平均合計手術時間(p=0.36),平均術後在院日数(p=0.86),平均合計造影剤使用量(p=0.39),臀部跛行(p=0.67)に有意差は認めなかった.しかし,推定GFR変化率(術後推定GFR-術前推定GFR)については二期的治療群の方が有意に少なかった(-1.8±1.5 vs. -3.9±4.2 ml/min/1.73 m2, p=0.02).【結論】腹部腸骨動脈瘤に対する二期的治療は一期的治療と比較してより腎保護的であり低侵襲である可能性を有する.
  • 森下 清文, 馬場 俊雄, 大堀 俊介, 氏平 功祐, 佐賀 俊文, 新開 翔太, 黒田 陽介, 上原 麻由子, 柳清 洋佑, 馬渡 徹
    2012 年 21 巻 6 号 p. 721-724
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    要  旨:【目的】腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術(EVAR)は適応拡大の時期に入った.これら解剖学的非適応例も含め研修医教育を行っているが,一方で研修医の執刀は治療成績を落とすのではないかという懸念が残る.われわれの研修医教育方針の妥当性を検証した.【方法】過去16カ月に当科で施行したEVAR 66例を対象とした.これを指導医(EVAR 100例以上経験)執刀例(AS群,33例)と研修医執刀例(RS群,33例)に分け治療成績を比較した.解剖学的非適応症例はAS群14例,RS群15例であった.術中に追加した手技はAS群19例(coiling 6例,腸骨動脈の血管内治療7例,バイパス術3例,Palmaz XL 3例),RS群20例(coiling 9例,腸骨動脈の血管内治療7例,バイパス術3例,Palmaz XL 1例)であった.【結果】両群とも病院死亡はなかった.手術時間(AS群151±45分:RS群127±32分),術中出血(AS群339±219 ml:RS群232±151 ml)とも両群間で有意差を認めなかった.手術合併症はAS群6例(腸骨動脈損傷5例,腎部分梗塞1例),RS群3例(リンパ漏2例,創離解1例)であった.エンドリークはAS群11例(type I 7例,type II 4例),RS群4例(type I 2例,type II 2例)に認めたが(p<0.05),1カ月後はAS群3例,RS群2例であった.初期の臨床的成功率はAS群で91%,RS群97%であった.再手術はAS群,RS群とも1例ずつであった.【結論】解剖学的非適応症例が含まれても適切な教育を行えば,研修医はEVARを良好な早期成績で執刀できる.
症例
  • 山下 慶悟, 多林 伸起, 吉川 義朗, 阿部 毅寿, 廣瀬 友亮, 谷ロ 繁樹
    2012 年 21 巻 6 号 p. 725-728
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    要  旨:右総腸骨動脈瘤が左総腸骨静脈へ穿破し,動静脈瘻を形成し心不全を呈した症例を経験したので報告する.症例は86歳,男性.左下肢腫脹を主訴に近医受診した.右総腸骨動脈瘤を指摘され当科へ紹介となった.CTで動静脈瘻を合併した右総腸骨動脈瘤(6.6 cm),左内腸骨動脈瘤(6 cm)が認められ手術予定であった.その後,両下肢腫脹と呼吸困難を認め,心不全と診断され,同日緊急入院した.心不全症状の改善を待って,手術を施行した.右総腸骨動脈瘤後壁に存在した3 cm × 1 cmの瘻孔を瘤内腔から直接縫合閉鎖し,腹部大動脈以下はY字人工血管にて置換した.われわれが検索しえた腸骨動静脈瘻の自験例を含めた本邦での29例の報告を検討したので報告する.
  • 泉 聡, 後竹 康子, 脇山 英丘, 大保 英文
    2012 年 21 巻 6 号 p. 729-732
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    要  旨:症例は61歳女性.頸部痛,背部痛にて発症,造影CTで上行大動脈から両総腸骨動脈にかけてのStanford A型急性大動脈解離を認めた.また,腹腔動脈の閉塞を認めたが,上腸間膜動脈からの側副血行路により,肝臓への血流が維持されていた.同日緊急で上行大動脈置換術を施行した.術後第1病日に肝逸脱酵素が著明に上昇した.造影CTおよび血管造影にて,側副血行路の血流が減少し,肝臓への血流の著明な減少を認めた.胃切除術の既往のため,開腹術を回避すべく,血管内治療を選択し,腹腔動脈幹に14.5×5 mmのバルーン拡張型ステントを留置した.その後,肝臓への血流は著明に改善し,肝逸脱酵素も低下した.退院時には正常値に回復し,術後第23病日(ステント留置後22日)に軽快退院した.腹腔動脈閉塞後に側副血行路の血流減少で肝虚血を来した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
  • 寒川 顕治, 神野 禎次
    2012 年 21 巻 6 号 p. 733-735
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    要  旨:症例は72歳の白人男性.2007年から50 mの右間歇性跛行があり,2008年から維持透析中であった.2009年7月から右膝窩部の疼痛があり,8月25日に転院となった.右膝窩部の発赤と腫脹があり,白血球数16200/μl,CRP 38.0 mg/dlで高度の炎症を認めた.造影CTで内部にガス像を伴う径57 mmの右膝窩動脈仮性瘤を認めた.右膝窩動脈は瘤の近位で閉塞し,右ABIは0.52であった.感染性膝窩動脈瘤と診断し,緊急手術を行った.全身麻酔下,後方アプローチでデブリードマンを行い,膝窩動脈は縫合閉鎖した.膿瘍腔にドレーンを入れ陰圧持続吸引とした.術中の膿よりBacteroidesを認めた.5カ月後右浅大腿-脛骨・腓骨幹動脈バイパス術を行った.初回手術後1年を経過し感染の再燃はなく,グラフトは開存している.Bacteroidesによる感染性膝窩動脈瘤はこれまでに報告がなく,稀と思われる.
  • 山﨑 琢磨, 青見 茂之, 冨岡 秀行, 斉藤 聡, 東 隆, 山崎 健二
    2012 年 21 巻 6 号 p. 737-740
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    要  旨:症例は25歳の男性.大動脈縮窄症に対して2歳時に人工血管置換術,14歳時に上行-下行大動脈バイパス術,24歳時に人工血管感染に対して人工血管抜去および大網充填を行った.感染治癒後,弓部大動脈~胸部下行大動脈の径は10 mmで,上下肢圧較差60 mmHg認めたため,全弓部置換術および胸部下行大動脈バイパス術を行った.手術は大動脈の損傷を避けるため,超低体温循環停止下にaortic no touch techniqueを用いて行った.さらに脊髄保護の観点から大動脈瘤ナビゲーションシステムを用いて癒着剥離を最小限にとどめ,術式を工夫した.対麻痺等の合併症もなく,降圧薬内服も不要となり,術後20日で退院となった.本術式は遺残大動脈縮窄症の再手術の有効な選択肢の一つと考えられた.
  • 千葉 清, 阿部 裕之, 北中 陽介, 幕内 晴朗
    2012 年 21 巻 6 号 p. 741-744
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    要  旨:小児における末梢動脈の血流障害は,成長障害を予防することが重要である.今回われわれは治療に難渋した外傷性膝窩動脈損傷の1例を経験したので報告する.症例は10歳男児.空手の試合中に左膝裏を強打され,その3日後より左下肢間歇性跛行が出現し,当院紹介受診となった.下肢CT Angioで左膝窩動脈に50%の狭窄を認め,外来での薬物治療を開始した.1カ月後に安静時の疼痛としびれが出現し,足関節上腕血圧比で右下肢1.07,左下肢0.52と左右差が出現し,入院加療となった.血管造影検査では,同部位の完全閉塞を認め,経皮的血管拡張術を施行した.しかし症状は改善せず,超音波による血流評価では,同部位は血栓閉塞していたため,緊急血栓除去を施行したが,またもや症状は改善しなかった.最終的に健側の大伏在静脈にて,血管間置術を行った.症状は消失し,退院となった.小児期の外傷性膝窩動脈損傷は稀な症例であり,成長期を考慮した血行再建を行うことが肝要である.
  • 柳清 洋佑, 小柳 哲也, 伊藤 寿朗, 栗本 義彦, 川原田 修義, 樋上 哲哉
    2012 年 21 巻 6 号 p. 745-748
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    要  旨:症例は63歳女性.突然の吐血にて近医へ搬送され内視鏡検査を施行された.胸部中部食道に粘膜剥離所見と狭窄を認めるのみであり,狭窄部は通過できなかったため精査目的に入院した.翌日CT撮影を行ったところ最大径40 mmの胸部下行大動脈瘤および瘤の食道穿破を認めた.胸部中部食道は上行大動脈と下行大動脈に挟まれ圧迫されている所見であった.前医出発直前に大量吐血し,挿管管理,大量輸血された状態で到着した.緊急でステントグラフト内挿術を施行し出血をコントロールした.穿破した食道は感染源となるため,後日胸部食道亜全摘および大網充填術を行った.全身状態が改善した後に大腸を用いて食道再建術を行った.胸部大動脈瘤の食道穿破は死亡率が極めて高く治療法が確立されていないのが現状である.今回ステントグラフト内挿術による出血のコントロールを行い,食道切除術による病巣切除を併せて行うことで救命し得た1症例を経験したため報告する.
  • 田中 秀弥, 内藤 光三, 村山 順一, 樗木 等
    2012 年 21 巻 6 号 p. 749-751
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    要  旨:症例は71歳男性.右総頸動脈分岐より約12 mm末梢に34×39 mmの右鎖骨下動脈瘤を認め,当科紹介となった.第2肋間で逆L字型に胸骨部分切開を行い,鎖骨上縁に皮膚切開を延長した.右総頸動脈と鎖骨下動脈瘤の間で中枢遮断を行い,右腋窩動脈第1部分で末梢側を遮断した.動脈瘤を切開し,内腔から椎骨動脈のバックフローを確認した.術前の頭部MRA検査で,左右椎骨動脈の交通を確認しており,右椎骨動脈は動脈瘤の外側より遮断した.ePTFE人工血管(径7 mm)で瘤を置換し,右椎骨動脈は人工血管に端側吻合し再建した.病理所見は動脈硬化性の真性瘤であった.胸郭内鎖骨下動脈瘤に対する胸骨上方部分切開によるアプローチは鎖骨を離断することなく良好な視野を得ることができ,極めて有用であった.
  • 松浦 良平, 阪越 信雄, 政田 健太, 島崎 靖久
    2012 年 21 巻 6 号 p. 753-756
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    要  旨:稀な左側下大静脈(IVC)に合併した腹部大動脈瘤(AAA)に対する手術を経験した.症例は88歳の女性.術前CTで左腎動脈分枝部直後から最大短径58 mmのAAAを認めた.腹部のIVCは腹部大動脈分岐部から腎動脈レベルまで大動脈の左側を上行し,そのレベルで大動脈の前面を右へ横断していた.大動脈の遮断予定部位はIVCの背面であったため,遮断困難となることが予想された.手術は腹部正中切開でアプローチし,AAAの中央左寄りから起始する小腸間膜根の上下2カ所を右側,左側から後腹膜を切開して,AAAの頸部からIVCの剥離を行ってAAAの全貌を確認した.腸管を左尾側および右頭側に授動して中枢側と末梢側の遮断部位を確保し,AAAをYグラフトの人工血管に置換した.
  • 猪狩 公宏, 田中 顕太郎, 工藤 敏文, 豊福 崇浩, 地引 政利, 井上 芳徳
    2012 年 21 巻 6 号 p. 757-761
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    要  旨:症例1は75歳,男性.左踵部壊疽にて,下腿動脈へのバイパス術を施行し,踵部壊疽はdebridementの後にVAC(vacuum-assisted closure; VAC)を施行し,右広背筋遊離筋皮弁術を施行し救肢し得た.症例2は62歳,男性.右足趾および足底部の潰瘍,壊疽にて,下腿動脈へのバイパス術を施行し,足部に対しては右足趾切断術および足底部のdebridement,VACを施行の後に右広背筋遊離筋皮弁術を施行し救肢し得た.重症虚血肢に対しては積極的な血行再建術および組織欠損に対し充填術を用いた集学的治療を施行することにより,従来は救肢困難とされていた症例でも救肢が可能である.
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