日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
28 巻, 3 号
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総説
  • 松本 拓也
    2019 年 28 巻 3 号 p. 173-177
    発行日: 2019/05/15
    公開日: 2019/05/10
    ジャーナル オープンアクセス

    2006年に腹部大動脈瘤の企業製造ステントグラフトが保険償還されて以降急速にステントグラフトが普及した.一方開腹手術は,腎動脈遮断を必要とする傍腎腹部大動脈瘤症例が増加している反面,実際に動脈瘤を露出する機会が激減している.まさにそのような時代だからこそ,ステントグラフトが導入されて11年の月日が経過した今,腹部大動脈瘤外科治療を学び直す適切な時期である.まず最も基礎となる腹部大動脈瘤手術に必要な解剖と生理を手術の際の中枢側(中枢側の露出,腎動脈の破格,下大静脈,腎静脈の破格,各分枝のアーケード,腹腔動脈神経叢)と末梢側(腸骨動脈,上下腹神経叢,尿管,下腸間膜動脈,腰動脈)とに分けて基礎から応用までを概説する.

原著
  • 江口 大彦, 本間 健一
    2019 年 28 巻 3 号 p. 193-198
    発行日: 2019/05/17
    公開日: 2019/05/18
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】透析患者の中心静脈病変に対するBMS留置術の治療成績・開存率を検討した.【方法】透析患者の中心静脈病変(狭窄5例・閉塞24例)に対してBMSを留置した29例を対象とした.これらの手術成績・開存率・Target-lesion-revascularization(TLR)回避率を検討した.【結果】腕頭静脈病変(閉塞/狭窄)が8例/1例,鎖骨下静脈病変(閉塞/狭窄)が16例/4例であった.手技成功率は29/31例(94%)で,成功例は全例症状が改善した.留置後の1年一次開存率は40%,補助一次開存率は75%で,1年TLR回避率は69%であった.【結論】透析患者の中心静脈病変に対するBMS留置の治療成績・開存率は良好で,有効な選択肢の一つと考えられる.しかしoff-labelの使用であり,また重篤な合併症を生じる可能性もあるため,適応を選び合併症の予防と対策を熟知して施行すべきである.

    Editor's pick

  • 山本 諭, 橋本 拓弥, 出口 順夫, 須原 正光, 佐藤 紀
    2019 年 28 巻 3 号 p. 249-253
    発行日: 2019/06/29
    公開日: 2019/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】原発性上肢深部静脈血栓症は稀な疾患であり,悪性腫瘍など後で原因が判明することが少なくない.初診時に原発性と考えられた上肢深部静脈血栓症に対し,その病態を比較検討した.【方法】初診時に原発性と考えられた上肢深部静脈血栓症の自験例10例につき検討した.【結果】運動の関与がある症例は2例,関与がない症例は8例だった.運動の関与がある症例では,血栓は鎖骨下静脈に限局したが,1例では肺塞栓を認めた.運動の関与がない症例のうち3例では,後に腫瘍性疾患が判明し(胃癌2例,特発性好酸球増多症候群1例),これらは初診時のD-dimerが高かった.胃癌が判明した2症例は7カ月以内に死亡し,予後不良だった.【結論】原発性が疑われる上肢深部静脈血栓症において,運動と関係がなく特発性血栓症と考えられても腫瘍性疾患が潜在している可能性があり,注意深い検索が望まれる.

症例
  • 新冨 静矢, 片山 幸広, 押富 隆, 出田 一郎, 高志 賢太郎, 上杉 英之
    2019 年 28 巻 3 号 p. 179-182
    発行日: 2019/05/15
    公開日: 2019/05/15
    ジャーナル オープンアクセス

    遺残坐骨動脈は稀な先天異常であり,頻度は0.01~0.06%と報告されている.今回われわれは遺残坐骨動脈の急性閉塞の手術例を経験したので報告する.症例は72歳,女性.突然の右下腿疼痛,冷感,痺れが生じ,急性動脈閉塞症が疑われ当院受診した.造影CTにて大腿の一部で不整な血栓を伴う動脈瘤を合併した遺残坐骨動脈を認めたが,外腸骨–大腿動脈の発達が悪かったため,右内腸骨動脈–膝窩動脈の閉鎖孔バイパス術ならびに下腿血栓除去の方針となった.手術は仰臥位で,中枢は右下腹部斜切開による後腹膜アプローチにて右内腸骨動脈を露出し,末梢は膝関節直上で内側アプローチにて膝窩動脈を露出した.人工血管を用いて上殿動脈分岐直後で端側吻合し,閉鎖孔経由で膝窩動脈と端々吻合施行した.遺残坐骨動脈は中枢と末梢で結紮処理した.術後検査でグラフトは良好に開存し,瘤は血栓閉塞している.

  • 廣島 裕也, 阿久津 博彦, 佐藤 弘隆, 齋藤 力, 川人 宏次
    2019 年 28 巻 3 号 p. 183-186
    発行日: 2019/05/15
    公開日: 2019/05/15
    ジャーナル オープンアクセス

    腎移植後の総腸骨動脈瘤破裂は稀な病態であり,救命とともに移植腎の温存が課題である.今回,生体腎移植後13年目に発症した右総腸骨動脈瘤破裂の1救命例を経験したので報告する.症例は72歳女性.60歳時に夫をドナーとした右腸骨窩生体腎移植を施行された.今回,腰痛および腹痛を主訴に救急外来を受診し,右総腸骨動脈瘤(径35×52 mm)の破裂と診断され,緊急手術が施行された.移植腎動脈は右外腸骨動脈に吻合されており,瘤は吻合部より中枢の右総腸骨動脈に生じた仮性囊状瘤であった.手術は単純遮断下に瘤切除,総腸骨動脈人工血管置換術を行った.術後第3病日から血液透析を開始したが,第40病日には透析から離脱し,第99病日に軽快退院した.

  • 市川 洋平, 渋谷 慎太郎
    2019 年 28 巻 3 号 p. 187-192
    発行日: 2019/05/17
    公開日: 2019/05/16
    ジャーナル オープンアクセス

    上腸間膜動脈から脾動脈が分岐する血管分岐異常を有する極めて稀な脾動脈瘤に対し,瘤切除および血行再建術を施行した1例を経験した.症例は66歳,女性.食思不振の精査で行った腹部造影CT検査で,最大短径32 mmの脾動脈瘤を指摘された.瘤は上腸間膜動脈から分岐直後の脾動脈に生じた囊状瘤でneckを有さないため,腸管血流を温存しながらの血管内治療は困難と判断した.瘤切除および血行再建術(総肝動脈–脾動脈吻合)を施行し,合併症なく治療し得た.過去に脾腸間膜動脈幹に生じた脾動脈瘤の報告は42例のみで,治療としては手術加療を選択したものが23例,血管内治療が14例,手術加療と血管内治療の併用が2例でいずれの症例も合併症なく経過した.3例は診断のみで治療介入はされていなかった.同様の血管分岐異常を伴う脾動脈瘤について,自験例を含めた43例の特徴と治療方法を報告する.

  • 栃窪 藍, 菊地 信介, 竜川 貴光, 三宅 啓介, 内田 大貴, 東 信良
    2019 年 28 巻 3 号 p. 199-203
    発行日: 2019/06/04
    公開日: 2019/06/04
    ジャーナル オープンアクセス

    膵十二指腸動脈瘤(PDAA)は稀な疾患であるが,破裂の危険があるため治療を要する.46歳男性.1型糖尿病で外来通院中,腹部造影CTで最大短径20 mmのPDAAを指摘され当科へ紹介された.術前血管造影で腹腔動脈(CA)に90%の狭窄を認め,上腸間膜動脈(SMA)からPDAを介し総肝動脈と脾動脈が造影されたことから,CAの血流がSMAに依存していると考えられた.瘤はSMA分岐部直後から発生しており,開腹血行再建が妥当と考えた.CAは全周性に萎縮していたため再建は困難で,PDAのクランプテストで総肝動脈の拍動減弱を確認したため,腹部大動脈–総肝動脈バイパスを行い,PDAAの切除を実施した.PDAAやSMA瘤は腹腔動脈狭窄に伴う側副血行路の発達に起因することが多く,CAの開存,瘤の発生部位と分枝や本幹との解剖学的制約を考慮し,適切な治療方針の検討が重要である.

  • 楢山 耕平, 森下 清文, 馬場 俊雄, 新垣 正美, 柴田 豪
    2019 年 28 巻 3 号 p. 205-208
    発行日: 2019/06/15
    公開日: 2019/06/13
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は自殺企図による穿通性腹部外傷のため出血性ショックをきたした48歳男性である.緊急CT検査にて腸管損傷,膵頭部損傷,および下大静脈(IVC)損傷を認めたため,当科による下大静脈止血術後に消化器外科による膵頭十二指腸切除術,腸管修復術を施行した.ステントグラフト内挿術は簡便性,即効性の点で優れ,また次に控える外科手術に対しても出血傾向を増長しないことより術式として選択した.術前CTにおけるIVC計測結果からZenith TX2 extension TBE-24-80-PF(Cook Medical, Japan)を使用した.術中造影でIVC損傷部位,および右腎静脈を確認した後にステントグラフトを留置した.確認造影でエンドリークは認めなかった.術後,危惧された感染を起こすことなく患者はリハビリテーション目的に転院となった.外傷性IVC損傷に対するステントグラフト内挿術は人工心肺や多量のヘパリンを使用することなく良好な止血効果を得ることができる有望な治療方法と考えられた.

  • 濵口 真里, 杉本 貴樹, 深瀬 圭吾, 南 一司, 魚谷 健祐, 濱中 章洋
    2019 年 28 巻 3 号 p. 209-212
    発行日: 2019/06/15
    公開日: 2019/06/13
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は76歳女性,20年前にStanford B型の大動脈解離を発症し,保存的に加療されていた.経時的に大動脈偽腔径が拡大し,腹部で最大短径55 mmとなり手術適応となった.造影CTでは下行大動脈遠位にエントリー,両側総腸骨動脈末梢にリエントリーを有する偽腔開存型解離であり,腹部主要分枝はすべて真腔起始であった.Adamkiewicz動脈は同定できなかった.治療は下行大動脈のエントリーはステントグラフトによる閉鎖,右総腸骨動脈のリエントリーは内腸骨動脈をコイル塞栓の上,ステントグラフト脚で閉鎖した.さらに左側は内腸骨動脈を温存すべく,左側リエントリーを介して左総腸骨動脈の偽腔内コイル塞栓を行った.術後経過は脊髄虚血や臓器虚血などの合併症なく,術後12日目に独歩退院した.follow-up CTでは偽腔の血栓化が得られ,瘤径は1年後には55 mmから22 mmへと著明に縮小した.

  • 田中 克典
    2019 年 28 巻 3 号 p. 213-217
    発行日: 2019/06/15
    公開日: 2019/06/13
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    症例は75歳,男性.右下肢のむくみ,足趾の色調不良を主訴に来院.下肢エコー検査と造影CT検査で壁在血栓を有する31 mm大の右膝窩動脈瘤を指摘され,瘤によるblue toe syndromeと診断した.治療はVIABAHNを用いた血管内治療を施行した.膝の屈曲・伸展状態で血管造影を行い,適切なlanding zone,またover lapとなる場所を確認しデバイス選択を行った.術後9カ月経過したが問題はなく,CT検査で膝窩動脈瘤は血栓化が得られエンドリークも生じていない.

  • 瀬尾 浩之, 平居 秀和, 青山 孝信, 末廣 泰男, 窪田 優子, 末廣 茂文
    2019 年 28 巻 3 号 p. 255-258
    発行日: 2019/06/29
    公開日: 2019/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    79歳の男性.2週間前からの発熱,腰背部痛にて近医入院中に,左総腸骨動脈瘤の急速増大を認め搬送となった.炎症反応上昇とCTで95 mm大の分葉状の形態をした動脈瘤を認め,第4, 5腰椎の骨溶解像も認めた.以上より,化膿性脊椎炎を合併した感染性動脈瘤と診断し,緊急手術を施行した.動脈瘤,および周囲感染巣を切除後,非解剖学的に大腿–大腿動脈人工血管バイパス術で再建し,大網を充填した.血液培養は陰性であったが,瘤壁の培養からKlebsiella pneumoniaeが検出された.術後,化膿性脊椎炎のため離床が困難で,術早期に整形外科手術を行い,リハビリテーションを開始して,独歩で転院となった.化膿性脊椎炎を合併した感染性動脈瘤は稀であり,脊椎炎に対しては保存的加療が選択されることが多い.しかし,骨破壊が強い症例には積極的に整形外科的介入を行うことで早期離床を進めることができ,有用であると思われた.

JCLIMB年次報告
  • 日本血管外科学会JCLIMB委員会, NCD JCLIMB分析チーム
    2019 年 28 巻 3 号 p. 219-247
    発行日: 2019/06/21
    公開日: 2019/06/21
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    2013年から日本血管外科学会は,我が国の血管外科医により行われている重症下肢虚血(critical limb ischemia; CLI)診療の現状を明らかにし,その結果を現場の医師に還元することで,医療の質の向上に貢献することを目的として,全国規模のCLI登録・追跡データベース事業を開始した.このデータベースは,非手術例も含むCLI患者の背景,治療内容,早期予後,および治療後5年までの遠隔期予後を登録するもので,JAPAN Critical Limb Ischemia Database(JCLIMB)と呼称し,NCD上に設置されている.2013年から2016年までの4年間に登録されたCLIの基礎,および,早期予後データは,それぞれ年報として報告してきたが,本論文では,本邦のCLI診療の全体像を明らかにする目的で,これまでの4年間のデータを集計して報告する.

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