日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
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29 巻, 5 号
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講座
  • 笠島 史成, 松本 康, 川上 健吾, 遠藤 將光
    2020 年 29 巻 5 号 p. 337-345
    発行日: 2020/10/22
    公開日: 2020/10/22
    ジャーナル オープンアクセス

    浅大腿動脈(superficial femoral artery; SFA)における末梢動脈疾患(peripheral arterial disease; PAD)は複雑な病変を呈することが多く,血管内治療(endovascular treatment; EVT)の成績は不良であったが,近年の治療手技やデバイスの発達によって,ほぼ全例で初期成功が得られるようになり,遠隔期成績も改善されてきた.2015年に米国血管外科学会(Society for Vascular Surgery; SVS)から発表された跛行症例に関するPAD治療のガイドラインでは,起始部を含まない15 cmまでのSFA病変に対してEVTを推奨している.またその後,ヨーロッパ心臓病学会(European Society of Cardiology; ESC)では,25 cm未満の病変にはEVTが第一選択として推奨された.現在,大腿膝窩動脈病変には多数のEVT用デバイスが使用可能となっており,早期・中期成績が報告されているが,それぞれ一長一短であり,その特性を熟知する必要がある.とくに跛行患者では,長期の治療効果が求められることから,個々の患者に応じ,ガイドラインに則って,デバイスの適正使用指針を遵守した治療選択を行わなければならない.

原著
症例
  • 塩見 大輔, 清水 将継
    2020 年 29 巻 5 号 p. 281-284
    発行日: 2020/09/01
    公開日: 2020/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は54歳,男性.慢性大動脈解離の既往があり吐血,黒色便による貧血を認め入院となった.上部消化管内視鏡で食道壁に出血痕を認めた.造影CTでは右側大動脈弓と4本の弓部分枝を認め左鎖骨下動脈は囊状拡大したKommerell憩室より分岐しており,下行大動脈瘤破裂と瘤内airを認めた.胸部大動脈瘤食道穿破と診断し右第4肋間開胸で下行大動脈置換術と左鎖骨下動脈再建を行った.同時に破裂部食道抜去を行い頸部食道瘻と胃瘻を造設した.Stanford B型慢性大動脈解離を合併した右側大動脈弓に胸部大動脈瘤食道穿破を起こした稀な症例の救命に成功したため文献的な考察を加えて報告する.

  • 外山 正志, 中山 雅人, 松村 泰基, 島津 修三
    2020 年 29 巻 5 号 p. 293-297
    発行日: 2020/09/17
    公開日: 2020/09/17
    ジャーナル オープンアクセス

    梅毒性大動脈瘤は抗生剤治療が発達した現代では希な疾患と考えられてきたが,2010年頃より梅毒患者数が増加し,大動脈瘤の原因として梅毒を以前よりも疑う必要が出てきた1, 2).血清学的検査などから梅毒性大動脈瘤を疑い治療を行った症例を経験した.術前抗生剤治療の効果などに関する考察を行い報告する.症例は63歳,男性.呼吸苦を主訴に当院循環器内科に紹介された.中等度大動脈弁閉鎖不全症と上行大動脈瘤を認めた.梅毒血清学的検査はRPR, TPHA共に陽性で定量的検査は共に高値であった.内科的心不全治療および梅毒治療後に,大動脈弁置換術および上行大動脈人工血管置換術を施行した.病理検査から梅毒性大動脈瘤と診断した.術後経過に問題なく術後11日目に退院となった.術後CTでは吻合部仮性瘤は認めなかった.現在,術後約1年経過しているが経過に大きな問題は認めていない.

  • 池田 脩太, 山本 清人, 藤井 孝之, 錦見 尚道
    2020 年 29 巻 5 号 p. 299-301
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は42歳女性.右手関節に橈骨動脈に沿った疼痛を伴う拍動性腫瘤を主訴として当院を紹介受診した.8カ月前に他院で子宮体癌の手術を受けており,手術時の動脈圧ラインのための橈骨動脈穿刺による仮性動脈瘤の可能性が高いと思われた.造影CTでは最大径17 mmほどに拡大した橈骨動脈を認めたが血管内腔は4 mmほどであった.破裂予防と疼痛除去のため手術を行った.全身麻酔下で動脈瘤摘出術を行い,切除後は端々吻合で再建した.術後の病理組織診断では,橈骨動脈に発生した血管平滑筋腫であった.血管平滑筋腫は下肢に好発する良性腫瘍であり,疼痛を伴うことが多い.橈骨動脈に発生した報告はこれまでになく,稀な疾患である.原因不明の動脈瘤を認めた場合は鑑別疾患として挙げることが望ましい.

  • 清水 理葉, 墨 誠, 村上 友梨, 大木 隆生
    2020 年 29 巻 5 号 p. 319-323
    発行日: 2020/10/21
    公開日: 2020/10/22
    ジャーナル オープンアクセス

    感染性腹部大動脈瘤(AAA)に対して腹部ステントグラフト内挿術(EVAR)後に,大腿静脈を使用し腹部大動脈置換術を施行した症例を経験したので報告する.症例は70歳女性.子宮体癌術後の化学療法中,発熱,腹痛が出現し,感染性AAA切迫破裂が疑われた.化学療法中でありEVARを施行した.術中に瘤内容物を吸引しHE染色で菌塊を認めた.術後も発熱,ガリウムシンチで大動脈周囲に集積を認め,感染持続の可能性が高く開腹手術を行った.両側大腿静脈を採取し,腹部大動脈置換術を施行した.術後38日目から化学療法を施行したが感染兆候なく経過した.化学療法など全身状態不良の感染性AAAに対するEVARは有効な治療選択肢の一つと考えられるが,常に開腹手術へbridge surgeryを念頭に治療をする必要がある.

  • 仲村 亮宏, 青木 賢治, 武居 祐紀, 佐藤 裕喜, 加藤 香, 若林 貴志
    2020 年 29 巻 5 号 p. 325-328
    発行日: 2020/10/22
    公開日: 2020/10/22
    ジャーナル オープンアクセス

    腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術(EVAR)は開腹手術と比較して低侵襲であるが,アクセスルート不良例では実施困難なことがある.今回,内腸骨動脈conduitをアクセスルートとしたEVARを経験した.症例は77歳,男性.胃全摘後で,また両側外腸骨動脈閉塞に対する右腋窩動脈–両側大腿動脈バイパス術を受けた既往がある.最大短径50 mm超の腹部大動脈瘤にて外科治療の方針とした.高齢,開腹歴からEVARを考慮したが,閉塞した外腸骨動脈を再疎通させてアクセスルートとするのは困難であった.そこで後腹膜経路で左内腸骨動脈conduitを作製しアクセスルートとした.conduitを介して右総腸骨動脈をコイル塞栓し,Aorta-uni-iliac EVARを完遂した.大腿動脈や外腸骨動脈の閉塞合併例でのEVARにおいて,内腸骨動脈conduitは比較的低侵襲かつ,容易に確保できるアクセスルートとして有用であると思われた.

  • 倉岡 節夫, 篠永 真弓, 倉持 雅己, 三富 樹郷, 鈴木 脩平
    2020 年 29 巻 5 号 p. 329-332
    発行日: 2020/10/22
    公開日: 2020/10/22
    ジャーナル オープンアクセス

    下腿潰瘍を伴う下肢静脈瘤に対して血管内焼灼治療を施行した後で膝窩静脈深部静脈血栓症を併発すれば,静脈鬱滞は顕著で下腿潰瘍は難治性である.抗凝固療法を施行しながら圧迫療法と運動療法で4カ月後に完治した症例を経験した.症例は62歳男性,緊急止血治療を要した出血性胃十二指腸潰瘍と,ステロイド内服中の気管支喘息,糖尿病,慢性腎不全を合併したボディマス指数42.2の超肥満体で,両側下腿多発性難治性皮膚潰瘍を認めた.5カ月前に静脈鬱滞性皮膚潰瘍に対して静脈瘤専門クリニックでラジオ波焼灼術を受けたが,当院受診時には両側膝窩静脈に陳旧性血栓を認め,両側下腿潰瘍は増悪しMRSA感染を併発していた.入院後連日の洗浄と弾性包帯による圧迫療法,適宜創部のデブリドマン,体重減量と歩行運動療法の結果4カ月で下腿潰瘍は完治して退院した.下腿潰瘍に対しては圧迫療法と運動療法が有効であることを示したので報告する.

  • 久米 博子, 小泉 伸也, 本間 香織, 岸野 充浩, 岩井 武尚
    2020 年 29 巻 5 号 p. 333-336
    発行日: 2020/10/22
    公開日: 2020/10/22
    ジャーナル オープンアクセス

    肋間動脈瘤は神経線維腫症1型,大動脈縮窄症などの基礎疾患を有する患者に稀に発症することが知られているが,基礎疾患のない患者に認めることは非常に稀である.今回,偶然見つかり,治療した未破裂肋間動脈瘤の1例を経験したので報告する.症例は69歳男性,既往歴:高尿酸血症,高脂血症,外傷歴なし.家族歴に特記事項なし.血液学的所見および画像所見にて全身的な基礎疾患を認めず.右腰背部痛で近医受診し,尿路結石等の疑いにて胸腹部造影CTが撮影された.痛みの原因は特定できなかったが,痛みは自然軽快し,偶然見つかった肋間動脈瘤を治療する方針とした.左第7肋間動脈に最大直径2 cmの囊状動脈瘤を認め,コイル塞栓術を施行した.術後合併症なく経過し,術後5年の経過観察にて瘤の拡大を認めず,他の動脈瘤の発生も認めていない.

  • 瀬戸崎 修司, 羽室 譲, 山本 賢二, 榎本 栄
    2020 年 29 巻 5 号 p. 347-350
    発行日: 2020/10/22
    公開日: 2020/10/22
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は67歳,男性.無症状.肝細胞癌による肝切除の既往歴があった.定期造影CT検査で,左バルサルバ洞動脈瘤を偶然に指摘された.その2年後のCT検査にて新たに瘤内に壁在血栓が出現し,拡大傾向を認めたため手術適応と判断した.術前心臓超音波検査で,大動脈弁閉鎖不全症は認められなかった.手術は,瘤切除および左冠動脈開口部を含めた瘤開口部のパッチ修復術と大伏在静脈を使用して左冠動脈主幹部再建を行った.手術後,とくに合併症なく第11病日に退院となった.バルサルバ洞動脈瘤は,心臓手術でも0.1~3%と稀な疾患であるが,そのほとんどは右あるいは無冠動脈洞由来であり,左冠動脈洞由来は極めて稀である.今回,心外型未破裂左バルサルバ洞動脈瘤の外科的手術を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

  • 藤井 太郎, 澤崎 優, 泊 史朗, 植村 友稔
    2020 年 29 巻 5 号 p. 351-354
    発行日: 2020/11/23
    公開日: 2020/10/22
    ジャーナル オープンアクセス

    炎症性大動脈瘤に対するステントグラフト治療は癒着による周辺臓器損傷の回避が期待されるが,その長期成績や尿管通過障害の改善などについては不明のままである.症例は71歳男性,瘤径44 mmの腹部大動脈瘤と瘤径42 mmの両側総腸骨動脈瘤に加えて,尿管巻き込みによる水腎症も認めた.また術前検査にてIgG4が147 mg/dLと高値であった.炎症性腹部大動脈瘤疑いにてステントグラフト治療を行った.術後速やかな瘤径の縮小と炎症反応の陰転化を認めたが,IgG4は依然高値であり,瘤周囲の組織肥厚の縮小はなく,水腎症も改善しなかった.ステロイド治療を追加したところ瘤周囲の肥厚は速やかに退縮を示した.術後瘤径の縮小に関しては速やかであったが,瘤周囲の肥厚はステントグラフト単独では退縮せず,ステロイド治療の併用によって退縮が得られたことから,外科的治療に加えてステロイド併用の重要性が確認された.

  • 原田 拓光, 小林 平, 濱本 正樹, 小澤 優道
    2020 年 29 巻 5 号 p. 355-359
    発行日: 2020/11/23
    公開日: 2020/10/22
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は38歳,男性.突然の右下肢間欠性跛行を自覚し近医を受診した.右足背動脈および後脛骨動脈が触知不良で,ankle-brachial index(ABI)0.64と低下していた.しかし当院紹介時には跛行症状が消失し,ABI 1.0と改善していた.造影CTでは右膝窩動脈に部分的な外膜肥厚を認めたが,内腔狭窄は認めなかった.膝窩動脈外膜囊腫と診断したが,症状が消失していたため経過観察とした.しかし,初診翌日から間欠性跛行が再燃し,右足背動脈および後脛骨動脈は触知せず,ABIは測定できなかった.造影CTでは,外膜囊腫の増大で膝窩動脈は高度に狭小化していた.血行再建目的で入院となったが,翌日には跛行症状が消失し,脈拍触知も良好となった.跛行症状の増悪と寛解を繰り返すため手術を施行した.後方アプローチで膝窩動脈を切除し大伏在静脈で置換した.跛行症状は消失し,術後6カ月現在再発を認めていない.

ガイドライン解説
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