日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
30 巻, 1 号
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講座
症例
  • 殿村 玲, 廣瀬 友亮, 阿部 毅寿, 早田 義宏, 平賀 俊, 谷口 繁樹
    2021 年 30 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2021/02/26
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    感染性腹部大動脈瘤は,感染巣の除去と適切な抗菌薬治療が重要である.症例は67歳,男性.発熱と腰痛のため近医を受診,造影CTで腹部大動脈周囲に脂肪織混濁を認め,感染が疑われたため当科紹介となった.臨床所見から感染性腹部大動脈瘤を疑い,抗菌薬(VCM,MEPM)加療を開始した.血液培養検査で菌は検出されなかった.Follow up CTで最大短径44 mmと急速な拡大を認めたため,手術を施行した.抗菌薬を浸漬させた人工血管を用いて,瘤切除と人工血管置換術および大網充填術を施行した.瘤壁の細菌培養および16S rRNA遺伝子解析を施行した.培養検査は陰性であったためVCM,MEPMを継続した.瘤壁の16S rRNA遺伝子解析によりHelicobacter cinaediが検出されたため,抗菌薬をAMPC,MINOに変更した.術後CTで異常を認めず,術後22日目に独歩自宅退院となった.

  • 辻本 貴紀, 大村 篤史, 岡田 卓也, 山口 雅人, 杉本 幸司, 岡田 健次
    2021 年 30 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2021/02/27
    公開日: 2021/02/27
    ジャーナル オープンアクセス

    膵十二指腸動脈瘤(PDAA)は瘤径に関係なく破裂する可能性が示唆されており,発見次第治療を考慮する必要がある.また,解剖学的に複雑な位置に存在するため,低侵襲治療である血管内治療による塞栓術(TAE)が選択される機会が増加している.しかしながら,主要血管を閉塞させる可能性があるなどの解剖学的な理由でTAEだけでは治療を完遂することが難しい症例がある.今回TAEと従来の外科手術を組み合わせたハイブリッド治療を行った2症例を経験したので報告する.1例目のPDAAに対しては,TAEと外科的瘤切除を2期的に分割して手術治療を行い,2例目のPDAAに対しては,TAEと外科的バイパス術を同時に施行し,2例共に良好な経過を辿った.ハイブリッド治療は膵十二指腸動脈瘤に対して非常に有用な選択肢であると思われた.しかしながら,本治療の長期成績についての報告は少なく,注意深いフォローアップが必要である.

  • 姉川 朋行, 廣松 伸一, 新谷 悠介, 中村 英司, 大塚 裕之, 田山 栄基
    2021 年 30 巻 1 号 p. 13-16
    発行日: 2021/02/26
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    外腸骨動脈瘤は孤立性腸骨動脈瘤の1%程度と稀な疾患である.今回,小児ポリオの罹患歴を有する孤立性外腸骨動脈瘤破裂の非常に稀な1例を経験した.症例は58歳男性.8歳時に小児ポリオの右下肢発育不全に対し右浅大腿動静脈血管吻合術を施行され,45歳時に右下腿難治性静脈うっ滞性潰瘍に対して右浅大腿動脈結紮術を施行していた.今回,運転中の意識消失による交通外傷で近医に救急搬送され,造影CTにて右外腸骨動脈瘤破裂と診断され当院へ転院となった.転院後直ちに緊急手術を行った.手術は右外腸骨動脈中枢をプラグで塞栓し,動脈瘤末梢は縫合閉鎖し,大腿動脈交叉バイパス術を施行した.小児ポリオに対する治療経過が動脈瘤形成に関与した可能性があり,文献的考察を加え報告する.

  • 大川 和成, 高橋 章之, 春藤 啓介, 渡辺 太治, 山下 英次郎
    2021 年 30 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 2021/02/22
    公開日: 2021/02/22
    ジャーナル オープンアクセス

    68歳男性.66歳時に膀胱癌に対して経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行し,術後BCG膀胱内注入療法を受け,再発なく経過していた.膀胱癌治療後の腎障害に対し撮影した腹部CTで左総腸骨動脈周囲の陰影異常,PET-CTで縦隔リンパ節,総腸骨動脈などに集積を認めたためリンパ腫を疑い精査を予定していたところ左下腹部痛が出現した.CTにて左総腸骨動脈瘤切迫破裂と診断し,緊急で人工血管置換術を施行した.大動脈壁の病理検査で類上皮細胞肉芽腫を認め,結核性感染性動脈瘤と診断した.術後は抗結核薬3剤併用療法を施行したが,初回手術から4カ月後,MRIにて胸部大動脈瘤を認めたため,緊急全弓部置換術を施行した.病理検査では,初回手術同様に類上皮細胞肉芽腫を認めたため,結核性感染性動脈瘤再発と診断した.BCGによる結核性感染性動脈瘤は抗結核薬治療中でも異所性に再発することがあり,術後も注意深く経過観察することが必要と考えられた.

  • 中村 智一, 林 祐次郎, 市野瀬 剛, 吉田 稔, 山岸 俊介, 吉田 成彦
    2021 年 30 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2021/02/26
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    大動脈腸骨動脈閉塞症に対してCovered Endovascular Reconstruction of the Aortic Bifurcation(CERAB)テクニックを用いた血管内治療が数多く報告されている.今回われわれは20 mでの重度間欠性跛行を呈したLeriche症候群を経験した.CTにおいて左右腎動脈分岐の高さが異なり右腎動脈分岐部で腹部大動脈は80%狭窄を呈し20 mm下位の左腎動脈分岐部で腹部大動脈は閉塞しており,閉塞部は両側外腸骨動脈末梢まで及んでいた.Kissing stentテクニックで治療すると留置の高さにずれが生じるためCERABテクニックで治療した.今回のCERABテクニックは末梢血管用ステントグラフトおよびステントのみを用いてDouble Dテクニックを併用し留置した.現在グラフトは再治療介入する事なく開存しており,症状再燃なく術後1.5年が経過している.

  • 内田 智夫
    2021 年 30 巻 1 号 p. 49-52
    発行日: 2021/02/22
    公開日: 2021/02/22
    ジャーナル オープンアクセス

    まれな足背動脈瘤の1例を診療したので若干の文献的考察を加えて報告する.症例は68歳男性.右足背部の腫瘤が徐々に増大し,軽度の疼痛もあるため当科を受診した.打撲や注射処置などの明らかな誘因はなかった.超音波検査で15×15×20 mm大の内腔は一部血栓が付着した足背動脈瘤と診断し局所麻酔下に切除術を行った.直接穿刺による動脈造影を行ったが他部位の動脈に異常はなく,瘤切断後,末梢側から良好なバックフローを認めたため血行再建の必要はないと判断し瘤切除のみ施行した.病理所見は三層の膜を有する真性動脈瘤で内腔に二次的血栓を認めた.術後経過に虚血症状など特段の支障は生じなかった.

  • 土田 博光, 岩堀 晃也, 高橋 聡, 中尾 崇, 矢後 博基
    2021 年 30 巻 1 号 p. 53-56
    発行日: 2021/02/27
    公開日: 2021/02/27
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は80歳男性.腹部鈍的外傷後に右下肢の疼痛,蒼白,冷感が出現し,近医経由で受傷6時間後に当院救急搬送された.右下肢大腿動脈以下脈拍消失,足関節麻痺が出現しており,CTAでは右総~外腸骨動脈閉塞と右浅大腿動脈閉塞を認めた.大腿~大腿動脈バイパスと右浅大腿動脈塞栓摘除術施行し,術後右足部での動脈拍動触知可となった.血行再建6時間後に下肢緊満のため減張切開施行した.術後早期は尿量が得られていたが,第3病日尿量減少とともにBUN 87.7, Cr 7.8, K 5.9となり筋腎代謝症候群(MNMS)と診断し,同日透析開始,5週後透析離脱.筋膜切開部はVAC療法後皮膚移植し治癒.麻痺は徐々に回復し術後5週後歩行可能となり6週後退院した.Rutherford分類区分IIIを呈した腹部鈍的外傷後の腸骨動脈閉塞を経験した.機能も含めて救肢することができたが,遅発性MNMSの発症には注意が必要であった.

血管外科手術アニュアルレポート2016年
  • 日本血管外科学会データベース管理運営委員会, NCD血管外科データ解析チーム
    2021 年 30 巻 1 号 p. 23-41
    発行日: 2021/02/27
    公開日: 2021/02/27
    ジャーナル オープンアクセス

    2016年に日本で行われた血管外科手術について,日本血管外科学会データベース管理運営委員会が集計結果を解析し,アニュアルレポートとして報告する.【方法】NCDの血管外科手術データに基づき,全国における血管外科手術動向およびその短期成績(術死,在院死亡)を解析した.【結果】2016年にNCDに登録された血管外科手術は136,164件であり,1,070施設からの登録があった.このデータベースは,7つの血管外科分野すなわち動脈瘤,慢性動脈閉塞,急性動脈閉塞,血管外傷,血行再建合併症,静脈手術,その他の血管疾患から成っており,それぞれの登録症例数は,21,653, 17,560, 4,983, 2,557, 596, 54,462,および34,353例であった.腹部大動脈瘤(含む腸骨動脈瘤)は19,144例で,その60.3%がステントグラフト(EVAR)により治療されている.1,794例(9.4%)の破裂例を含んでおり,手術死亡率は破裂,非破裂で,それぞれ15.7%,0.6%であった.破裂症例に対するEVARは35.9%を占め,比率が年々増加しているが,置換術とEVARの手術死亡率はそれぞれ15.8%と15.3%であり,有意差はなかった.慢性動脈閉塞症は,重複を含み17,560例登録され,open repair 9,303例(うちdistal bypass 1,329例),血管内治療8,257例が施行された.血管内治療の割合が47.0%であった.静脈手術では,下肢静脈瘤手術が52,639例と急激に増加し,このうちレーザー治療が36,036例で,手術法の68.5%を占めた.下肢深部静脈血栓症は469例であった.その他の手術として,バスキュラーアクセス手術32,779例,下肢切断1,411例が登録された.【結語】2015年と比較して,全領域において血管内治療が増加しており,とくに動脈瘤に対するステントグラフト内挿術,慢性動脈閉塞症に対する血管内治療や下肢静脈瘤に対するレーザー焼灼術の増加が目立った.

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