日本血管外科学会雑誌
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31 巻, 2 号
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講座
  • 駒井 宏好
    2022 年 31 巻 2 号 p. 45-49
    発行日: 2022/04/01
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル オープンアクセス

    重症虚血肢には即座の血行再建を施行することが,救肢救命に最も重要であるが,どうしても血行再建ができない患者も存在する.そのような状況の際には非外科治療を可能な限り施さなければならない.非外科治療には薬物療法,運動療法のほかにLDL吸着療法,炭酸泉温足浴療法,間欠的空気圧迫法,脊髄刺激療法,血管再生療法などがあるが,それぞれの特性を把握した上で適材適所に使用しなければならない.重要なのは,血行再建不能患者にも徹底的にこのような治療を施し,救肢救命を目指すことであり,医療者として最後まで重症患者に寄り添うという姿勢が必要である.

  • 内田 敬二, 安田 章沢, 長 知樹, 小林 由幸, 松本 淳, 森 佳織, 池松 真人, 原田 祐輔, 町田 大輔, 鈴木 伸一
    2022 年 31 巻 2 号 p. 51-56
    発行日: 2022/04/14
    公開日: 2022/04/14
    ジャーナル オープンアクセス

    ステントグラフト内挿術に伴うRTAD(retrograde type A aortic dissection)とは大動脈弓部,下行大動脈に挿入したステントグラフトによる内膜損傷が発生し,新たな解離が逆行性に上行大動脈に及んだ状態である.TEVARの適応が拡大している現在,発生頻度は1–2%と低いものの,その死亡率は30–40%と高く,重要な問題となっている.ステントグラフト中枢側のベアステントの存在,オーバーサイズ,タッチアップバルーン拡張,留置部小弯側のbird beak現象,zone 2またはより近位への留置などがその発生の危険因子とされている.RTADの治療としては,留置されているステントグラフトをfrozen elephant trunkとして利用する上行弓部大動脈人工血管置換が必要となる.TEVARにおいて,各種デバイスの特徴を熟知し,適切な留置法に習熟し,さらに長期的に経過観察を続けることが,治療成績向上のために重要である.

  • 前田 剛志
    2022 年 31 巻 2 号 p. 91-96
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル オープンアクセス

    大動脈瘤・大動脈解離に対するステントグラフト術は良好な初期成績である一方で遠隔期の再治療が問題となっている.再治療の原因で最も問題となるものがエンドリークである.ここではタイプII以外のエンドリークについての発生頻度やその治療方法などについて概説する.

  • 宮本 伸二
    2022 年 31 巻 2 号 p. 103-108
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル オープンアクセス

    TEVAR後の脳合併症は直接死に至ることは少ないが著しくADLを落とし長期予後を悪化させる.粥腫塞栓による脳梗塞が主な原因で,無症状の脳梗塞は顕性脳梗塞の数倍の頻度がある.術前CTでの粥腫存在部位診断,それを考慮した愛護的なカテーテルやデバイス操作が予防に重要だがそれだけでは完全には塞栓を防ぐことはできない.頸部分枝のバルーンもしくは直接遮断は予防として有効で,体外循環を用いて脳循環を完全に体循環から分離する方法も取られる.治療は通常の脳梗塞と異なり血栓溶解もしくは除去は有効ではない.エダラボン投与は脳障害の程度を軽減し,予後を改善させるので発症後は躊躇なく使用するべきである.

症例
  • 森 旭弘, 熊田 佳孝, 中村 康人, 河合 憲一, 石田 成吏洋
    2022 年 31 巻 2 号 p. 57-60
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル オープンアクセス

    抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid antibody syndrome; APS)は,全身の動静脈に血栓症を生じる疾患であるが,大動脈・腸骨動脈領域の血栓症をきたすことは稀である.症例は数年前より肺塞栓症を契機にAPSと診断され他院で加療中であった55歳男性.左下肢の安静時痛および左第4, 5趾の壊疽の治療に難渋するため加療目的で当科紹介となった.右第5趾が壊疽,脱落した既往があった.一時抗凝固薬を内服していたが壊疽を契機に休薬となっていた.動脈造影検査で大動脈終末の狭窄および右外腸骨動脈の閉塞を認めたが膝窩動脈以遠には狭窄を認めず,大動脈・腸骨動脈の血栓症による重症下肢虚血と診断.血行再建術の適応と判断した.手術は開腹によりY字型人工血管を用いて腹部大動脈–右総大腿動脈および左総腸骨動脈バイパス術を施行した.術後1年経過は良好で,安静時痛は改善し左足趾壊疽も改善傾向である.

  • 林 奈宜, 吉戒 勝, 佐藤 久, 島内 浩太, 西田 直代
    2022 年 31 巻 2 号 p. 61-65
    発行日: 2022/04/19
    公開日: 2022/04/19
    ジャーナル オープンアクセス

    IgG4関連疾患は血清IgG4高値と病変組織の顕著なIgG4陽性形質細胞の浸潤,線維増生を主体とする全身性疾患群で,心血管病変では腎動脈下腹部大動脈や腸骨動脈周囲炎が多く胸部大動脈瘤の報告は少ない.今回,いびつな形状のIgG4関連胸部大動脈瘤の症例を経験した.症例は69歳男性,臀部膿皮症の術前検査で,多数の突出性病変を有するいびつな形状の上行弓部大動脈瘤を認め,血清IgG4は207 mg/dLと高値であった.手術では大動脈瘤壁を切除し,遠位側吻合部補強のため下行大動脈にオープンステントグラフトを留置後,上行弓部大動脈を人工血管で置換した.大動脈瘤壁にIgG4陽性形質細胞浸潤を認め,画像,血液検査と併せIgG4関連胸部大動脈瘤と診断した.血管壁脆弱化による動脈拡大,術後感染症の危険性を考慮し,術後のステロイド治療は行わなかった.今後,疾患の再燃や吻合部仮性瘤に対し長期的な経過観察が必要である.

  • 酒井 麻里, 山下 重幸, 山下 昭雄
    2022 年 31 巻 2 号 p. 67-71
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル オープンアクセス

    膝窩静脈静脈性血管瘤(Popliteal venous aneurysm, PVA)は稀な疾患だが,時に深部静脈血栓症や肺塞栓症(Pulmonary embolism, PE)を合併することが知られている.抗凝固療法単独では不十分であり外科的治療が推奨されている.今回われわれは偶発的に発見された無症候性PVAに対し外科的介入を行い,良好な経過を得たので報告する.症例は64歳,女性.右下肢静脈瘤の精査目的に施行された下肢血管エコー検査で偶発的に右側のPVAを認めた.PVA内に血栓像はなく無症候性であったが,PEの予防目的に瘤縫縮術を施行した.現在術後1年経過しているが,瘤再発や血栓閉塞などの合併症なく経過している.PVAの手術成績は比較的良好であり,症候性,無症候性を問わずPVAに対し積極的な外科的治療を考慮すべきと考える.

  • 前田 達也, 安藤 美月, 喜瀬 勇也, 稲福 斉, 山城 聡, 古川 浩二郎
    2022 年 31 巻 2 号 p. 73-79
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル オープンアクセス

    膵十二指腸動脈瘤はまれな疾患で,瘤径にかかわらず破裂する可能性が示唆されており,適切な診断と治療介入が必要である.膵十二指腸動脈瘤の成因の一つに腹腔動脈の狭窄・閉塞があげられ,側副路になっている膵アーケードにかかる力学的ストレスが問題となる.今回われわれは膵十二指腸動脈瘤に対する外科的血行再建を行った4例を経験したので報告する.側副路の消失による臓器虚血を懸念し,すべての症例で血行再建を行った.症例1・2で血管塞栓術および総肝動脈バイパスを施行,症例3で瘤切除と総肝動脈バイパスを施行,症例4で瘤切除と同部位での血管再建を行った.症例3・4で小径の動脈瘤が残存したが,力学的ストレスを軽減できた症例3では残存瘤の縮小が得られた一方で,症例4では増大が見られた.力学的ストレスの有無が残存瘤径の変化に影響を与えている可能性が示唆され,患者背景および手術侵襲を考慮し,症例ごとに術式を検討する必要がある.

  • 中村 康人, 熊田 佳孝, 森 旭弘, 河合 憲一, 石田 成吏洋, 春日井 敏夫
    2022 年 31 巻 2 号 p. 81-84
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は63歳女性.維持透析施行中に発熱と寒気を認め,症状が改善しないため当院救急搬送となり,シャント穿刺部からの血流感染の疑いで入院となった.徐々に腰痛の増悪を認めたため,入院5日目に胸腹部造影CTを施行したところ,感染性胸部大動脈瘤の切迫破裂の所見を認めた.破裂を防ぐために胸部ステントグラフト内挿術を行う方針としたが,全身の血管の高度石灰化を認める,porcelain aortaであり,アクセスルートの選択に難渋した.CTを検討した結果,腹部大動脈に一部石灰化の抜けている部位を認めたため,開腹下でその1点からTEVARを行い救命を得た.術後は経静脈的抗菌薬を6週間行い,経口抗菌薬に変更し外来で治療を継続した.術後1年経過するが感染なく経過しており,良好な結果が得られたため,文献的考察を交えて報告する.

  • 村上 皓彦, 橋本 宗敬, 玉手 義久, 佐藤 博子, 宇田川 輝久, 下沖 裕太郎
    2022 年 31 巻 2 号 p. 85-89
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル オープンアクセス

    上肢の急性動脈閉塞症に対する血栓除去術直後に,前腕部コンパートメント症候群を生じた極めて稀な症例を経験したので報告する.症例は76歳,男性.突然,右手指の疼痛と運動知覚障害を発症し,救急搬送された.右上肢急性動脈閉塞症と診断し,血栓除去術を行い,発症から約6時間後に右上肢血流を回復した.ところが,再灌流直後から急激な右前腕の疼痛と腫脹を生じた.造影CT検査を行ったところ,前腕筋群(浅指屈筋,深指屈筋)の著明な腫脹・造影効果の減弱を認め,コンパートメント症候群と診断した.右前腕浅・深掌側区画の筋膜切開を行って,圧を開放した.筋膜切開創に対し,後日植皮を行い,37病日に治癒退院した.術後1年の経過にて後遺症を認めない.本症例では,前腕部コンパートメント症候群の診断に,造影CT検査が有用であった.

  • 辻本 貴紀, 山中 勝弘, 長命 俊也, 山口 雅人, 杉本 幸司, 岡田 健次
    2022 年 31 巻 2 号 p. 97-101
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル オープンアクセス

    大動脈緊急症の治療において初診時から治療までの時間を短くすることは非常に重要である.その一方で,大動脈緊急症は治療できる施設が限られており,しばしば初診の病院から専門施設への転送を必要とする.今回,破裂性胸部大動脈瘤の患者に対して詳細な患者情報を施設間でシームレスに共有できるクラウド型モバイルネットワークを用いて,施設間の搬送に要する時間を利用して手術準備を行った.症例は85歳,男性.突然の背部痛を自覚し前医へ救急搬送された.前医にてCTを撮影し,当院へ電話連絡後,クラウド型モバイルネットワークを通じて患者情報を共有した.下行大動脈瘤破裂と診断すると同時に当院で胸部ステントグラフト内挿術の準備を開始した.当院到着時に患者はショック状態であったが,手術準備は完了していたため,迅速に治療し救命し得た.クラウド型モバイルネットワークは大動脈緊急症の治療において欠かせないものになると思われる.

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