シャント不全に第一選択の治療は経皮的バルーン拡張術であることに異論はない.シャントには自己血管シャント(Arteriovenous Fistula: AVF)と人工血管シャント(Arteriovenous Grafting: AVG)の2種類があり,シャント狭窄の好発部位は異なっているため,治療に対するアプローチも若干異なる.本稿では,シャント不全に対する経皮的バルーン拡張術の手技の実際について述べ,早期再狭窄を繰り返す症例や中心静脈狭窄・閉塞病変に対する治療方針,さらにステントグラフトやDrug-coated Balloon(DCB)などの付加的処置についても言及する.
【目的】EVAR後のネック径,脚径の経年変化を明らかにすること.【方法】術後5年以上毎年CT撮影し,遠隔期瘤径拡大に対して再介入を要した16例をA群,再介入のない60例をB群としてネック径,脚径の年次変化を比較した.【結果】2群の瘤最大短径,術前ネック径,総腸骨動脈最大短径,ステントグラフト本体径,両側レッグ径には有意差はなかった.術後A群の瘤最大短径は経時的に拡大,B群は縮小を維持し2年以降有意差を認めた.A群のネック径のオーバーサイズ効果は術後2年で消失したがB群では術後5年でも残存した.しかしおよそ術後9–10年で消失すると推定された.両群の脚のオーバーサイズ効果は術後1年で消失したが再介入の要因とはならなかった.【結論】再介入した症例は術後2年でネック径のオーバーサイズ効果は消失した.ネックのオーバーサイズ効果の消失とともに将来の再介入が増加すると推定される.
症例は67歳男性.既往に左右大腿–膝下膝窩動脈(femoral popliteal below knee; F-PBK)バイパス術(左:自家静脈,右:人工血管)あり.右F-PBKバイパス術後2年0カ月目に皮膚冷感を伴う突然の右下腿痛が出現し,右下肢人工血管バイパス閉塞による急性下肢虚血の診断で当院紹介となった.同日緊急で全バイパスグラフ内と前脛骨動脈まで血栓除去術を行ったが閉塞機転は不明であった.術後造影CTにて人工血管末梢吻合部近くに残存狭窄を認め,3D解析にて膝関節屈曲による変形狭窄と判断し,同部位が血栓閉塞の起点と判断した.再閉塞予防のため同部位に上腕動脈アプローチで金属ステント留置術を行い,退院した.術後1年経過したが,バイパス人工血管の再閉塞を認めなかった.F-PBK人工血管内狭窄に対する金属ステント留置術は一般的治療ではなく,報告例も乏しいが,治療の選択肢が少ないと思われるF-PBK人工血管内狭窄症例には治療手段の一つとして検討しうると考えられた.
腎動脈瘤は無症状で経過することが多いため,他疾患検査目的のCTやエコーなどで偶然発見されることが多い.症例は57歳,女性.CTで右腎門部に3本の流出動脈を有する多発性囊状動脈瘤を偶然に発見した.瘤径26 mmのものがあり破裂の危険を有するため手術適応となった.腹部正中切開でアプローチし,下大静脈を授動し良好な視野を得て腎動脈瘤を露出し腎保護液を注入後に瘤切除と残存瘤壁による血管形成術を行った.術後は正常腎機能で経過し術後1年4カ月経過後も流出動脈はすべて狭窄がなく開存し瘤再拡大も認めていない.
もやもや病は脳底部に異常血管網の発達を認める脳血管疾患であり,脳出血や脳梗塞のリスクを有している.もやもや病と腹部大動脈瘤の合併は検索し得る限りでは認められず,もやもや病を合併した腹部大動脈瘤の最適な周術期管理は確立されていない.今回われわれは脳血流を調整するとされる複数のパラメーターを監視しながらステントグラフト内挿術を施行することで,周術期の脳血管イベントを防ぎ得た.もやもや病を合併した腹部大動脈瘤に対してステントグラフト内挿術は有効な選択肢となり得ると思われたので報告する.
26歳男性.8年前精巣腫瘍,下大静脈(IVC)腫瘍塞栓に対し左高位精巣腫瘍摘出術,回収型IVCフィルター留置された.7年前に後腹膜リンパ節転移に対し後腹膜リンパ節郭清術施行され,その後化学療法による腎障害のため透析導入になった.今回,黒色便,貧血進行の精査のため上部消化管内視鏡検査施行し,十二指腸内のIVCフィルター脚の突出が確認され当院へ紹介となった.消化器外科医協力のもと消化管の剝離を行い,下大静脈から十二指腸へ穿孔している脚を剝離したIVCと十二指腸の間で切断し,十二指腸内の脚先端を抜去したのち十二指腸の損傷部位を修復.経静脈的にIVCフィルター回収キットを挿入してフィルター抜去に成功した.本例は,開腹によるフィルター穿孔部除去と経静脈的なフィルター抜去を併用し抜去に成功した稀な症例と考えられ報告した.
Stanford A型急性大動脈解離に対する部分弓部人工血管置換術後に遅発性片麻痺を生じた症例を経験した.症例は65歳の男性で突然の胸痛のため近医を受診し,偽腔閉塞型のStanford A型急性大動脈解離と診断され当院に搬送された.術前の意識状態は清明で運動障害も認めなかった.左大腿動脈送血,右房脱血で人工心肺を確立し,膀胱温27°Cの中等度低体温循環停止,選択的脳分離灌流下に部分弓部人工血管置換術を施行した.Entryは上行・弓部に認めず,DeBakey IIIB型の逆行性解離が疑われた.術後経過は良好で術後8時間で人工呼吸器を離脱した.術後10時間後に右下肢の不全麻痺を起こしたため,頭部CTを施行したが急性期頭蓋内病変を認めなかった.脊髄虚血に伴う片麻痺と診断し,速やかに脊髄ドレナージとステロイドパルス,ナロキソン投与を開始した.治療開始直後より右下肢の膝立てが可能となった.リハビリを続け,術後20日目に術前のADL相当で独歩退院となった.
症例は77歳,男性.2トンの鉄柱に腹部を挟まれ受傷し前医に救急搬送.CTで腹腔内血腫と右総腸骨動脈から末梢の閉塞を認め,加療目的に転院搬送.血行再建手術に先行して腹腔内の止血術が必要と判断.再灌流まで時間を要すると考え,救急外来にて外シャントを作成し下肢灌流を行った.手術は,先に開腹止血のみを行い,腸管に対する処置は下肢血行再建後とした.露出した右大腿動脈は解離性に閉塞しており,偽腔内の血栓除去と内膜固定後,左右大腿動脈交差バイパス術を施行.その後に小腸の損傷部切除術を施行し,外シャントを抜去した.術後経過は良好で,CTで下肢動脈は良好に描出,歩行可能な状態となった.腹部外傷による腹腔内出血と総腸骨動脈の外傷性閉塞から下肢動脈閉塞症を来した症例に,手術に先行する外シャント造設と,手術の順番を工夫することにより,ADLを大きく下げることなく救命・救肢し得た.