日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
32 巻, 4 号
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総説
  • 森崎 裕子
    2023 年 32 巻 4 号 p. 261-267
    発行日: 2023/07/14
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル オープンアクセス

    Marfan症候群などの遺伝性大動脈瘤・解離は,動脈硬化,高血圧,喫煙などの一般的リスク因子を伴わない若年者にも発症し,胸部大動脈に好発し,より小さい大動脈径でも解離のリスクがある,という特徴がある.こうした遺伝性大動脈疾患では,早期からの積極的な降圧剤治療による拡張抑制や,予防的大動脈人工血管置換術などの介入により,解離イベントの予防が可能とされ,遺伝子診断を活用した早期診断・早期治療介入が勧められている.より効果的な遺伝子診断のためには,検査前後の遺伝カウンセリングが重要である.

原著
  • 大原 勝人, 渡邊 大海, 関根 祐樹
    2023 年 32 巻 4 号 p. 327-332
    発行日: 2023/08/23
    公開日: 2023/08/23
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】腹腔動脈瘤は比較的稀な疾患であるが,画像診断の利用増加に伴い,偶発的に指摘される症例も増えている.今回,当施設で偶発的に発見された腹腔動脈症例について報告する.【方法】過去10年間に当施設において偶発的に発見された腹腔動脈瘤20例を対象とした.【結果】診断時の平均瘤径は15.1 mmで,紡錘状動脈瘤が15例(75.0%)であった.病因として解離が疑われる症例は8例(40.0%)で,正中弓状靭帯による圧迫を伴う症例は9例(45.0%)であった.治療の内訳は経過観察が16例(80.0%),血管内治療が4例(コイル塞栓)であり,1例はコイルの逸脱による瘤径増大により,外科的手術を行った.【結論】偶発的に発見された腹腔動脈瘤は増大傾向を示さない症例も多く,大半が経過観察可能であった.治療適応の症例では,瘤の局在や臓器虚血のリスクを考慮して,治療戦略を立てることが重要である.

  • 池田 昌弘, 細田 進, 越江 裕基, 椎川 彰, 東 隆
    2023 年 32 巻 4 号 p. 333-338
    発行日: 2023/08/25
    公開日: 2023/08/25
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    【目的】腸骨動脈瘤に対する当科の自家製分枝型ステントグラフトによる血管内治療(EVAR)の早期の臨床成績を評価した.【方法】2019年10月から2023年4月までEVARを施行した腸骨動脈瘤の8例が対象で,AFX(Endologix Incorporated, Irvine, CA, USA)に分枝との連結を強固にするためハイドロゲルで補強した開窓部を設けた自家製分枝型ステントグラフト(IBFX)を使用し,術後の臨床経過やCTの結果を検討した.【結果】7例に分枝を再建,3例で下殿動脈をコイル閉塞した.1例で腸腰動脈からのtype 2 endoleakを認めたが,全例で瘤径が縮小し,殿筋跛行などの合併症は認めなかった.【結論】当科におけるIBFXによる腸骨動脈瘤に対するEVARは,手技が妥当な時間内で,瘤径を縮小させ,殿筋歩行を防ぐ点で企業性デバイス同様良好な成績を収め,費用対効果も高い点が優れている.

症例
  • 吉田 誉, 下江 安司, 細谷 祐太, 奥田 直樹, 川人 智久
    2023 年 32 巻 4 号 p. 257-260
    発行日: 2023/07/02
    公開日: 2023/07/02
    ジャーナル オープンアクセス

    極めて稀な結核性外腸骨動脈瘤破裂の1手術例を経験したので報告する.症例は75歳,女性,8カ月前に胸膜炎のため他院での入院治療を受け抗生剤投与により軽快した.その際に提出されていた胸水より結核菌が検出されていた.今回2週間前より左下腹部痛と発熱のため近医にて腸腰筋膿瘍を疑われ抗生剤治療が行われるが改善せず,単純CT検査および腰部MRIが施行され動脈瘤破裂の可能性があり当院へ転送となった.造影CT検査を施行し感染性左外腸骨動脈瘤破裂と診断した.緊急開腹手術を行い,瘤切除と洗浄ドレナージおよびリファンピシン浸漬人工血管による非解剖学的バイパス術を施行した.局所より結核菌を検出し病理組織学的検査でも瘤壁に特異的な結核病変を認めたことから結核性動脈瘤と診断した.術後には抗結核薬による化学療法を行い術後68日目に軽快退院した.術後1年間化学療法を継続し中止後も5年以上を経過して再発は起こっていない.

  • 多田 浩気, 渡辺 芳樹, 濱田 悠輔, 溝口 裕規, 阪越 信雄, 榊 雅之
    2023 年 32 巻 4 号 p. 269-274
    発行日: 2023/07/14
    公開日: 2023/07/14
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    慢性B型大動脈解離に対するthoracic endovascular aortic repair(TEVAR)に関しては,より末梢のリエントリーからの残存血流により偽腔が拡大する可能性が問題視されている.一方,近年,偽腔への残存血流と肋間動脈の関与が報告されており,肋間動脈を塞栓することで偽腔血流量を減じる可能性が示唆されている.症例は49歳,男性.偽腔開存慢性B型大動脈解離に対してtotal arch replacement (TAR)+frozen elephant(FET)法を施行し,二期的TEVARにてより末梢のリエントリーを閉鎖した.TEVAR施行前に右第9–11肋間動脈・左第8肋間動脈をコイルにて塞栓しておいた.術後経過は良好で合併症は認めず,術後1年のCTでは良好な大動脈リモデリングを認めていた.慢性B型大動脈解離におけるTEVARに肋間動脈塞栓術を併施することは偽腔内血栓化を促す点で有用であると考えられた.

  • 木原 一樹, 近藤 庸夫, 大上 賢祐
    2023 年 32 巻 4 号 p. 275-279
    発行日: 2023/07/14
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル オープンアクセス

    76歳の男性,腹部大動脈瘤破裂に対してY字型人工血管での人工血管置換術の既往があった.人工血管置換術の中枢側腹部大動脈の瘤化を認め,腹部分枝バイパスを伴うステントグラフト内挿術を施行した.微熱および炎症反応上昇を契機に術後78日目にCTで膿瘍腔を認め,グラフト感染と診断した.開腹での再置換術および末梢側の血行再建術や,開腹でのドレナージは手術侵襲および全身状態から耐術困難と判断した.腹臥位での経腸腰筋CTガイド下穿刺を行い,膿瘍腔と連続する腹部大動脈瘤内にカテーテルを留置し,開放ドレナージおよび生理食塩水での洗浄および抗生剤の局所投与ならびに全身投与を行った.発熱,炎症反応は改善し,カテーテル抜去後も再燃なく経過し,外来通院となった.

  • 鈴木 寛俊, 富本 大潤, 小林 俊也
    2023 年 32 巻 4 号 p. 281-284
    発行日: 2023/07/14
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は79歳男性.突然の右下腹部の激痛を主訴に当院の救命センターに救急搬送された.来院時収縮期血圧70台のショック状態であった.造影CTにて最大短径57 mmの右外腸骨動脈瘤と動脈瘤周囲の血腫を認め右外腸骨動脈瘤破裂と診断した.同日,緊急人工血管置換術を施行した.術後経過はおおむね良好であり30 PODに退院した.孤立性外腸骨動脈瘤破裂につき,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 加藤 有紀, 中村 康人, 河合 憲一, 石田 成吏洋, 熊田 佳孝
    2023 年 32 巻 4 号 p. 285-288
    発行日: 2023/07/16
    公開日: 2023/07/16
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は80歳男性で,透析時の腹痛を主訴に当院を紹介受診した.腹部造影CT検査や血管造影検査で上腸間膜動脈(SMA)狭窄を認め,下腸間膜動脈(IMA)は起始部から閉塞しており,慢性腸管虚血(CMI)と診断した.本症例では動脈の石灰化が著明であり,血管内治療ではなく外科的バイパス術の方針とした.石灰化は広範囲に及び腹部大動脈や右腸骨動脈からの吻合も困難であったため,左外腸骨動脈からの非解剖学的経路によるバイパスを選択し,大伏在静脈グラフト(SVG)を使用した.術後症状は消失し順調に回復したため文献的考察を交えて報告する.

  • 茅野 周治, 山本 高照, 大橋 伸朗, 福家 愛, 和田 有子, 瀬戸 達一郎
    2023 年 32 巻 4 号 p. 289-294
    発行日: 2023/07/16
    公開日: 2023/07/16
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は54歳男性.近医で両下肢浮腫の精査中に,右下肢痛および痺れを自覚した.CTにて腹部大動脈および総腸骨動脈内の壁在血栓と,右膝窩動脈の血栓閉塞を認めた.各種検査からネフローゼ症候群を背景として過凝固状態となり,血栓形成を来したと考えられた.腹部大動脈内血栓は抗凝固療法の方針とし,右下肢急性動脈閉塞症に対して緊急血栓除去を施行された.しかし術後3日目に施行されたCTにて,右膝窩動脈は再度閉塞を認めており,再度血栓除去ならびに下腿動脈へバルーン拡張術を施行され血流の改善を認めた.アンチトロンビンを術後補充することによりヘパリンの治療効果は安定し,下肢症状再燃なく経過した.腹部大動脈内の血栓も縮小を認めた.ネフローゼ症候群に伴う動脈血栓症の発症は比較的稀であるが,特に下肢動脈閉塞では下肢切断に至るなど重症化の可能性があり,重要な合併症として認知すべきである.

  • 西山 綾子, 木村 光裕, 芳賀 真, 本橋 慎也, 赤坂 純逸, 保科 克行
    2023 年 32 巻 4 号 p. 295-299
    発行日: 2023/07/22
    公開日: 2023/07/22
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は72歳男性.腹痛を主訴に受診し,CT検査で腹部大動脈および腸骨動脈瘤を指摘された.馬蹄腎があり,左腎動脈下極枝が大動脈終末部から76 mm中枢側から分枝していた.腸骨動脈瘤は35 mmであり,また脳出血の既往などがありステントグラフト治療の方針となった.大動脈終末部からの距離が短い場合のデバイス選択として当初AFXを考えたが,大動脈屈曲が強く留置位置によってはファブリックが分枝をカバーする可能性があったこと,また中枢口径が大きくややアンダーサイズになることから,Gore Excluder C3を下方にrepositioningさせて使用することとした.対側脚内でバルーン拡張し,金属マーカーなどが同期して下方に動いていることを注意深く確認しながらrepositioningし下極枝を温存した.術後エンドリークなどもなく同枝も開存,腎機能も良好に推移している.

  • 村田 知洋, 乾 明敏, 眞野 暁子, 河田 光弘, 許 俊鋭
    2023 年 32 巻 4 号 p. 301-305
    発行日: 2023/07/27
    公開日: 2023/07/27
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は79歳男性.心房細動ありワーファリン内服中であった.2021年8月,前医にてCOVID-19関連肺炎で入院し,レムデシビル,デキサメタゾンでの加療開始となった.加療中,右上腕の虚血症状が出現し内科的治療を行うも徐々に症状増悪.第8病日第2指の壊死が出現し,CTにて右上腕動脈の血栓閉塞を認め,加療目的に当院に転院となった.緊急にて上腕動脈分岐部の器質化した血栓を除去し,色調不良あるも症状は劇的に改善したため終了とした.しかし,術後6日目に虚血症状の再燃を認め血栓除去を再び実施.一時血流は改善するも夕方に再燃し再度血栓除去を行った.血流の改善は乏しく,前腕の筋肉も腫脹しており,筋膜切開を行った上,創部を開放した状態で手術を終了とした.その後も虚血状態は継続し,切断も検討されたが初回術後13日目より急激な呼吸状態の悪化,ARDSへと進行し.翌日に死亡した.

  • 古山 和憲, 西田 聡, 鷹合 真太郎
    2023 年 32 巻 4 号 p. 307-310
    発行日: 2023/07/27
    公開日: 2023/07/27
    ジャーナル オープンアクセス

    総腸骨動静脈瘻は従来,開腹手術が行われていたが,動静脈瘻周囲の癒着や静脈高血圧症による大量出血の可能性から,開腹手術は高リスクであった.今回,開腹歴のある総腸骨動静脈瘻に対してステントグラフト内挿術を施行し,良好な結果が得られた1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.症例は84歳,女性.82歳時に子宮癌肉腫に対して腹式単純子宮全摘術が施行された.2カ月前より左下肢浮腫が急速に増悪したため,造影CT検査を施行したところ,右総腸骨動脈と左総腸骨静脈に動静脈瘻を形成していた.開腹手術の困難さとADLも低いことから,低侵襲にステントグラフト内挿術による動静脈瘻閉鎖の方針とした.GORE EXCLUDER contralateral legを,大動脈分岐部から右外腸骨動脈に展開することで動静脈瘻を閉塞させた.左下肢浮腫は速やかに改善し,術後6日目に退院した.

  • 金本 亮, 神山 拓郎, 井ノ上 博法, 山本 啓介, 上野 正裕, 田山 栄基
    2023 年 32 巻 4 号 p. 311-315
    発行日: 2023/08/02
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル オープンアクセス

    腎動脈瘤に対する血管内治療は近年増加している.とくに,腎動脈主幹部の動脈瘤は,ステントグラフト治療に適していると考えられる.症例は70歳男性.鼠径ヘルニアの術前検査で,右腎動脈瘤(腎動脈主幹部囊状動脈瘤,29×22 mm),冠動脈疾患(左冠動脈主幹部+3枝病変),左総腸骨動脈瘤を指摘された.冠動脈疾患に対してOPCABを施行した後に,右腎動脈瘤に対してVIABAHN VBXを用いたステントグラフト内挿術を施行した.腎動脈瘤の中枢側と末梢側のlanding zoneとする血管には口径差があり,バルーンによる過拡張で口径を大きくすることが可能なVIABAHN VBXを選択した.術後のCTでは腎動脈瘤は血栓化が得られ,エンドリークも認めなかった.左総腸骨動脈瘤に対してもステントグラフト内挿術を施行し,いずれも良好に経過している.

  • 馬場 啓徳, 宮本 和幸
    2023 年 32 巻 4 号 p. 317-320
    発行日: 2023/08/09
    公開日: 2023/08/09
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は78歳男性.2011年に右尿管狭窄による腎後性腎不全をきたし,尿管ステントを留置された.以降,尿管ステント抜去後の尿管再狭窄を繰り返したため,2015年まで長期間留置されていた.その間腎機能は徐々に悪化し,2015年に血液透析導入となった.透析導入に伴い,尿管ステントを抜去したところ,血尿と貧血の進行を認めた.膀胱鏡にて膀胱内の凝血塊を認めた.造影CT検査では右尿管への明らかな造影剤の流入所見は認めなかったが,臨床的に右腸骨動脈尿管瘻と診断し,外科治療の適応と判断した.後腹膜アプローチにて右外腸骨動脈と尿管の交叉部を剝離したところ,右外腸骨動脈に径1 mmの瘻孔を認め,これを直接閉鎖した.腸骨動脈尿管瘻は稀ではあるが,時に致死的であるため,本疾患が疑われた場合には,適切な手術により良好な結果が得られると考えられた.

  • 宮石 慧太, 喜瀬 勇也, 仲榮眞 盛保, 稲福 斉, 和田 直樹, 古川 浩二郎
    2023 年 32 巻 4 号 p. 321-325
    発行日: 2023/08/23
    公開日: 2023/08/23
    ジャーナル オープンアクセス

    IgG4関連血管病変は大動脈以外の血管病変についての報告は少なく,画像検査や病理検査において典型像を呈さない症例が散見される.今回,IgG4関連大腿動脈瘤の症例を経験した.症例は70代男性,当科初診7年前に前医にて弓部大動脈瘤,上腸間膜動脈瘤,両側総腸骨動脈瘤,両側大腿動脈瘤を指摘された.4年前に弓部病変の瘤径拡大のため前医にて弓部大動脈人工血管置換術が施行された.術後4年のCT検査で右大腿動脈瘤の瘤径拡大を呈し当科紹介となった.血管炎の関連を考え免疫学的検査を行ったところ,IgG4高値(702 mg/dL)を示した.動脈瘤切除人工血管置換術を施行し,瘤壁にIgG4陽性形質細胞の集簇を認めIgG4関連血管病変の診断に至った.破裂予防目的に外科的治療を行ったが,同疾患ではステロイドが血管径拡大を抑制する報告もあり,早期診断により内科的治療の可能性を適切に判断する必要がある.

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