目的:胸部X線検査の経時差分処理システムは,過去画像との引き算で新出病変の視認を容易にするものであり,肺がんの偽陰性回避として期待される.一方でアーチファクトによる偽陽性増加が懸念されるが,これについての検討は希少である.本研究は経時差分処理システム(以下:差分)が,偽陽性増加を起こすかどうか検討した.
方法:差分導入前後の背景バランスを保つため,読影医は同一の対象者を選択し,要精検率に影響を与えうる因子である年齢,性別,喫煙歴,正面のみか正側面かの撮影方法,リピーターであるかを調整した傾向スコアによるマッチングを行った.差分導入後の要精検率が導入前に比べて非劣性かを検討した.また,サンプルサイズ不足などで参考値にはなるが,がん発見率も算出した.
結果:導入前後各群で5,860名が抽出され,両群の背景バランスは保たれていた.要精検率は,差分導入前1.3%(74/5,860),導入後1.1%(63/5,860)であり,比率の差の95%信頼区間は-0.6%~0.2%であり上限は非劣性のマージンとした0.5%を下回った.がん発見率は差分導入前0.017%(1/5,860),導入後0.034%(2/5,860)であった(p=1.0).
結論:肺がん偽陰性減少が期待される胸部X線の経時差分処理システムは,偽陽性増加のデメリットを認めないことが示唆され,人間ドックなどの肺がん検診において有用であると考えられる.
抄録全体を表示