人間ドック (Ningen Dock)
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38 巻, 1 号
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巻頭言
総説
  • ―温故知新―
    井上 和彦
    2023 年 38 巻 1 号 p. 7-17
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー

     1983年に発見されたヘリコバクターピロリ(Hp)により胃がんをはじめとする上部消化管疾患の考え方が一変した.人間ドックなど予防医療においてもHpスクリーニングは重要と考えられる.Hpの各診断法の長所・短所を理解したうえで有効活用し,また,保険診療と連携して除菌治療を勧め,胃がんリスクを低下させるべきである.そして,Hp感染状態により発生する疾患や胃がんの特徴を理解したうえで内視鏡を中心としたサーベイランスが望まれる.今後の参考になるように40年間のHpの研究・診療・スクリーニングの歴史を振り返りながら知見をまとめた.この40年間で我が国のHp感染率は急速なスピードで低下し,また,除菌治療も普及した.人間ドックにおいてもHp現感染者の占める割合は非常に低くなり,疾患スペクトルが変化しており,その対応も大切である.先入観にとらわれず,事実を検証する姿勢は予防医療においても求められる.

  • 鎌田 智有, 村尾 高久, 砂金 彩, 勝又 諒, 春間 賢
    2023 年 38 巻 1 号 p. 18-24
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー

     自己免疫性胃炎を診断する臨床的意義は,①悪性貧血,亜急性連合性脊髄変性症等のリスク,②鉄欠乏性貧血を引き起こすことがある,③胃がんや胃神経内分泌腫瘍の高リスク群である,④甲状腺などの自己免疫性疾患を高率に合併すること,である.その確定診断は,「内視鏡所見,組織所見のいずれか,もしくは両者が自己免疫性胃炎の要件を満たし,かつ胃自己抗体(抗壁細胞抗体あるいは抗内因子抗体,もしくは両者)陽性」とする.

     近年,自己免疫性胃炎は増加傾向にあり,特に,高齢女性の高度萎縮例では潜在的に存在している可能性があるため,逆萎縮の有無などの特徴的な内視鏡所見に留意すべきである.今後は早期内視鏡像の特徴を明らかとし,その自然史などについての検討が望まれる.

     自己免疫性胃炎に関するガイドラインは存在しないが,現時点ではその治療法がないため,受診者に過度な不安を与えないことも配慮し,年1回の内視鏡検査と血液検査など,定期的なサーベイランスを行うことが重要である.

原著
  • 馬嶋 健一郎, 島本 武嗣, 石川 和弥, 村木 洋介, 吉田 民子
    2023 年 38 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー

    目的:胸部X線検査の経時差分処理システムは,過去画像との引き算で新出病変の視認を容易にするものであり,肺がんの偽陰性回避として期待される.一方でアーチファクトによる偽陽性増加が懸念されるが,これについての検討は希少である.本研究は経時差分処理システム(以下:差分)が,偽陽性増加を起こすかどうか検討した.

    方法:差分導入前後の背景バランスを保つため,読影医は同一の対象者を選択し,要精検率に影響を与えうる因子である年齢,性別,喫煙歴,正面のみか正側面かの撮影方法,リピーターであるかを調整した傾向スコアによるマッチングを行った.差分導入後の要精検率が導入前に比べて非劣性かを検討した.また,サンプルサイズ不足などで参考値にはなるが,がん発見率も算出した.

    結果:導入前後各群で5,860名が抽出され,両群の背景バランスは保たれていた.要精検率は,差分導入前1.3%(74/5,860),導入後1.1%(63/5,860)であり,比率の差の95%信頼区間は-0.6%~0.2%であり上限は非劣性のマージンとした0.5%を下回った.がん発見率は差分導入前0.017%(1/5,860),導入後0.034%(2/5,860)であった(p=1.0).

    結論:肺がん偽陰性減少が期待される胸部X線の経時差分処理システムは,偽陽性増加のデメリットを認めないことが示唆され,人間ドックなどの肺がん検診において有用であると考えられる.

  • 松尾 史朗, 野田 吉和, 中安 邦夫, 横山 剛義, 本間 智美
    2023 年 38 巻 1 号 p. 30-37
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー

    目的:2枝ブロックは完全房室ブロックの前段階であり,構造的心疾患や虚血性心疾患を高率に合併する死亡率の高い疾患と考えられている.しかし,健康診断では,心イベントを生じることなく長期間経過している2枝ブロックを診ることが少なくない.そこで我々は,健康診断における2枝ブロックの有病率とその特徴を明らかにするため本研究を計画した.

    方法:2021年度に心電図検査を受けた41,303名を対象とした.完全右脚ブロックに左脚前枝または後枝ブロックが併存する者を2枝ブロック,さらに第1度房室ブロックを伴う者を3枝ブロックとし,有病率,年齢,罹病期間,合併心疾患,心イベントを調査した.

    結果:2枝ブロックは110名(男性90名,女性20名)で認められ,有病率は0.27%(男性0.40%,女性0.11%)であった.年齢および罹病期間の中央値は65歳と3年であり,罹病期間中の心イベント発生は3件であった.12名(11%)に心疾患が認められた.内訳は構造的心疾患5名(5%),虚血性心疾患2名(2%),進行性家族性心臓ブロック2名(2%),不整脈3名(3%)であった.2枝ブロックの種別,第1度房室ブロック併存の有無によって,心疾患の合併率が変わることはなかった.

    結論:2枝ブロックは健康診断受診者の0.27%に存在し,まれな疾患ではない.これまでの病院受診者を対象とした研究報告とは異なり,心イベントを発生することなく経過している者が多く存在し,基礎心疾患を持つ者の割合も少なかった.

  • 藤原 祥子, 福田 彰, 後山 尚久
    2023 年 38 巻 1 号 p. 38-43
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー

    目的:インスリン抵抗性の簡易指標である空腹時血中インスリン測定値(fasting immunoreactive insulin: F-IRI)と健診検査結果(生活習慣病関連)の相関関係を検討した.

    方法:2016年度から2019年度の健診者延べ25,530人のうちF-IRI測定がある延べ8,504人,実人数2,716人を対象とした.

    結果:body mass index,体脂肪率,腹囲,拡張期血圧,空腹時血糖,homeostasis model assessment of insulin resistance(HOMA-R),non-HDL-cholesterol,HDL-cholesterol,Triglyceride,AST,ALTは,F-IRIとの相関関係を認めた.対象者を正常群,軽度異常群,中程度異常群,医療相当群と分類する目的で各関連検査項目のなかから相関係数が高い検査を選びクラスター分析をした.男女とも正常群から中程度異常群へと段階的に,F-IRIは上昇した.腹囲は中程度異常群で男性94.8±6.3cm,女性92.3±8.3cmとなった.

    結論:F-IRIは健診検査値(生活習慣病関連)と相関関係を認めた.中程度異常群が特定保健指導介入すべき群と考えると,現在の腹囲基準とは相違を認めた.

  • 北村 弘明, 太田 あつ子, 杉元 啓悟, 鹿毛 あずさ, 河合 祐輔, 小川 美帆, 堂前 直, 奥野 広樹, 高橋 和也, 池田 和貴, ...
    2023 年 38 巻 1 号 p. 44-52
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー

    目的:近年,毛髪から疾患診断を試みた研究がしばしば行われている.しかし,そのほとんどは健常人と疾患患者の生データよりStudent’s t-testなどによる有意差検定を用いて判定を行っており,データの機械学習を行ったものは少ない.そこで本研究では,機械学習を用いて毛髪からの疾患関連成分による診断の可能性について検討することを目的とした.

    方法:糖尿病,高血圧,男性型脱毛症,うつ病,アルツハイマー型認知症,脳梗塞の6疾患のいずれかで通院している疾患患者,疾患診断においてこれら6疾患と診断されていない健常人の毛髪を分析対象とした.毛髪成分は,ミネラルや遊離アミノ酸,ステロイドホルモンを分析した.機械学習アルゴリズム,ランダムフォレストを用いて,健常人と各疾患患者を判別するモデルを構築し,判別の重要項目を抽出した.

    結果:毛髪内に含まれる成分から疾患予測を行うために機械学習を用いた結果,ミネラルについては,リチウム,ヨウ素,リンが,遊離アミノ酸については,システイン,システイン酸,グルタミン酸,ヒスチジン,リシン,メチオニン,セリンが,ステロイドホルモンについては,プロゲステロン以外が重要な因子としてあげられた.

    結論:機械学習は,毛髪を用いた疾患予測の研究において重要成分の絞り込みに有意義な方法であることが示唆された.今後,さらに毛髪を用いた成分解析の検討症例数を増やすことで,疾患マーカーの同定につながることが期待される.

  • 下出 哲弘, 松江 泰弘, 丸岡 秀範, 王 紅兵, 山上 孝司, 水腰 英四郎, 永田 義毅
    2023 年 38 巻 1 号 p. 53-62
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/06
    ジャーナル フリー

    目的:一般人口のなかには,肝発がんを含めた重大な肝関連合併症を発症しうる未診断の肝炎ウイルスキャリアが潜在する.肝炎ウイルス検査は,未診断のキャリアを拾い上げる重要な契機になるが,その進捗はいまだ十分ではない.今回,肝炎ウイルス検査の受検率の向上に加え,検査の効率化を意図して,肝炎ウイルス検査陽性者のスクリーニング指標を検討した.

    方法:当健診施設での2018年度の肝炎ウイルス検査の受検者を対象とし,肝炎ウイルス検査陽性者と陰性者の間で,肝線維化予測指標を含めた臨床的評価項目に対する統計学的解析を行った.

    結果:肝炎ウイルス検査陽性者では,肝線維化予測指標の1つであるfibrosis-4(FIB-4)index高値(≧1.30)が独立した予測指標と考えられた(p=0.004).また,副次的な解析では,HBs抗原検査陽性者では,FIB-4 index高値(≧1.30)が同様に独立した予測指標と考えられたが(p=0.004),HCV抗体検査陽性者では予測指標を抽出できなかった.

    結論:FIB-4 index高値(≧1.30)は,肝炎ウイルス検査陽性者,特に,HBs抗原検査陽性者を予測するスクリーニング指標となる可能性がある.健康診断において,FIB-4 indexは,受検率の向上とともに早期かつ効率的な肝炎ウイルス検査陽性者の拾い上げのための有用な手段になると考えられた.

委員会報告
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