日本温泉気候物理医学会雑誌
Online ISSN : 1884-3697
Print ISSN : 0029-0343
ISSN-L : 0029-0343
75 巻, 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
Editorial
原著
  • 大村 和伸, 山本 秀樹, 黒須 明, 徳留 省悟
    2012 年 75 巻 3 号 p. 165-175
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー

     我々は、日本式入浴時の血液流動性の変化について検討した。我々の血液専用落針式レオメーター(FNR)は、容器に充填されたヒト血液に、210秒以内に 8種類の重さの樹脂性ニードルを順次落下させ、その終末速度を測定する。この測定では、血液密度、ニードル密度及び終末速度を用いて、みかけの全血液粘度(aWBV)、血液の剪断応力および剪断速度を算出することができる。一回の FNR の血液流動性解析で、抗凝固処理していない少量の検体だけで複数の aWBV を同時に実測できる。
     日本式入浴モデルとして、座位で入浴可能な浴槽に加温水道水を流し続け、健康成人被験者を腋下まで一定温度で浸した。心臓血行動態が変化する条件を参考に予備的検討によって、42°Cかつ 10分間の入浴が血液流動性変化を観察するための必要条件だと判断した。
     8例の男性被験者および 1例の女性被験者を対象に、42°Cで 10分間の一回入浴試験を行った。この一回入浴の血液流動性において、女性 1例を含む 6例で高い剪断速度での aWBV が上昇した。それ以外の1例は、入浴後 10分の時点で高い剪断速度での aWBVが上昇した。高い剪断速度で aWBV が上昇した症例では、同じ時期に低い剪断速度のaWBVが変化した。次に 6例の男性被験者を、10分と 5分の二回の入浴で構成された二回入浴試験に組入れた。全ての症例で早い剪断速度の aWBVが上昇し、一回目の入浴後の上昇が 2例、二回目の入浴後の上昇が3例、全入浴後の上昇が 1例であった。低い剪断速度での血液流動性は、高い剪断速度の aWBV 上昇と同時に変化した。また、これらの条件で、極短時間で血液流動性が変化していることがわかった。
     血液流動性の変化は、42°C 以上の湯温および座位で腋下までの浸漬でみられた。従って我々は 42°C 以上の湯温の日本式入浴は危険だと考えた。
  • 水出 靖, 坂井 友実, 安野 富美子, 古賀 義久, 粕谷 大智, 野口 栄太郎
    2012 年 75 巻 3 号 p. 176-185
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
     鍼治療開始時(初診時)に明確な拘縮のない肩関節周囲炎 41 例を、鍼治療の経過中、明らかな拘縮に移行した 13 例(移行群)と拘縮に移行しなかった28例(非移行群)に分け、両者の臨床像を比較した。
     その結果、①平均年齢は非移行群 52.1±9.6 歳に対し、移行群が 58.5±6.8 歳で有意に高かった。②初診時に明らかに拘縮のない症例に比べ、拘縮の有無が明確には判別できない症例に移行群が有意に多かった(19%vs. 57%)。③病変部位が限局した症例に比べ、病変部位が拡大あるいは判別が困難な症例に移行群が有意に多かった(17%vs. 50%)であり有意に多かった。④夜間痛のない症例に比べ、夜間痛を有する症例に移行群が有意に多かった(15%vs. 64%)。⑤非移行群に比べ、移行群は鍼治療による疼痛や可動域制限の改善が得られにくかった。
     上記のような傾向がみられた場合には、関節拘縮を生じて frozen phase へ移行する可能性のあることを考慮する必要があると考える。
  • 岩崎 靖, 出口 晃, 鈴村 恵理, 前田 一範, 島崎 博也, 田中 紀行, 森 康則, 美輪 千尋, 浜口 均, 川村 陽一
    2012 年 75 巻 3 号 p. 186-194
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
    目的:一般に、認知症患者では認知機能障害が進行すると入浴回数が減る傾向があると考えられている。そこで、アルツハイマー病(Alzheimer disease;AD)患者における発症前後での入浴習慣について認知機能障害や抑うつ状態との関連を含めて検討した。
    対象と方法:物忘れ外来を受診しADと臨床診断された患者を対象とした。認知症発症前と物忘れ外来初診時の入浴回数について本人および介護者に問診し、高次脳機能検査(Hasegawa’s Dementia Scale-Revised、Mini Mental State Examination、Wechsler Adult Intelligence Scale-Revised(WAIS-R))、および抑うつ状態(Zung Self-rating Depression Scale)との間に相関があるかを検討した。入浴回数に変化があった患者には、その理由についても検討した。
    結果:89 例の AD 患者(男性 26 例、女性 63 例、63∼90 歳、平均 79.8 歳)において認知症発症前の入浴回数は平均 6.6 回/週であったが、物忘れ外来初診時は平均 5.3 回/週で入浴回数の減少が示された(p<0.001)。HDS および MMSE、抑うつ状態と入浴回数の間には有意の相関はなかったが、WAIS-R における動作性 IQ および総 IQ と入浴回数の間には統計学的に有意な正の相関関係が示された。入浴回数が減少した例では、面倒くさがる、入浴を忘れる、湯温調節ができなくなった、等の理由が聴取された。
    結論:AD 患者では発症後に入浴回数が減少することが示された。主な理由として実行機能の障害が推定されたが、記銘力障害、抑うつ状態など様々な病態が複合的に関与していることが示唆された。
  • 森 康則, 出口 晃, 美和 千尋, 岩崎 靖, 鈴村 恵理, 前田 一範, 浜口 均, 島崎 博也, 田中 紀行, 川村 陽一
    2012 年 75 巻 3 号 p. 195-203
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
     温泉を利用した病院施設において、複数の浴槽の成分分析と分析値の比較を行うとともに、その成分変動の要因を明らかにするために、源泉水を用いた室内曝気実験を行った。同病院では、同敷地内で湧出するアルカリ性単純温泉を用いている。湧出直後の源泉水と各浴槽水の成分を比較したところ、大きな乖離が認められた項目は、硫酸イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオンであった。特に硫酸イオンの濃度上昇が顕著であり、120∼450%の濃度上昇が認められた。この変動要因を推定するために、源泉水を空気と窒素で1ヶ月間曝気を継続し、その間の時系列的な成分変動を調べた。その結果、硫酸イオンについては、曝気の継続に伴う濃度上昇の傾向が認められた。その傾向は窒素曝気よりも空気曝気の方が顕著であった。硝酸イオン、亜硝酸イオンについては、曝気に伴う濃度変動は認められなかった。このことから、浴槽における硫酸イオン濃度の上昇は、源泉水中の硫黄化合物の空気酸化による影響が考えられ、また、浴槽における硝酸イオン、亜硝酸イオン濃度の変動は、入浴に伴う発汗等の窒素分の空気酸化によるものであることが示唆された。
特集
feedback
Top