目的:一般に、認知症患者では認知機能障害が進行すると入浴回数が減る傾向があると考えられている。そこで、アルツハイマー病(Alzheimer disease;AD)患者における発症前後での入浴習慣について認知機能障害や抑うつ状態との関連を含めて検討した。
対象と方法:物忘れ外来を受診しADと臨床診断された患者を対象とした。認知症発症前と物忘れ外来初診時の入浴回数について本人および介護者に問診し、高次脳機能検査(Hasegawa’s Dementia Scale-Revised、Mini Mental State Examination、Wechsler Adult Intelligence Scale-Revised(WAIS-R))、および抑うつ状態(Zung Self-rating Depression Scale)との間に相関があるかを検討した。入浴回数に変化があった患者には、その理由についても検討した。
結果:89 例の AD 患者(男性 26 例、女性 63 例、63∼90 歳、平均 79.8 歳)において認知症発症前の入浴回数は平均 6.6 回/週であったが、物忘れ外来初診時は平均 5.3 回/週で入浴回数の減少が示された(p<0.001)。HDS および MMSE、抑うつ状態と入浴回数の間には有意の相関はなかったが、WAIS-R における動作性 IQ および総 IQ と入浴回数の間には統計学的に有意な正の相関関係が示された。入浴回数が減少した例では、面倒くさがる、入浴を忘れる、湯温調節ができなくなった、等の理由が聴取された。
結論:AD 患者では発症後に入浴回数が減少することが示された。主な理由として実行機能の障害が推定されたが、記銘力障害、抑うつ状態など様々な病態が複合的に関与していることが示唆された。
抄録全体を表示