日本温泉気候物理医学会雑誌
Online ISSN : 1884-3697
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82 巻, 2 号
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Editorial
総説
  • 前田 豊樹, 三森 功士, 牧野 直樹, 堀内 孝彦
    2019 年 82 巻 2 号 p. 41-47
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/06/19
    [早期公開] 公開日: 2018/10/26
    ジャーナル フリー

      これまで温泉治療が様々な疾患に療養効果があることは示されてきたが,一般的にどのような疾病に予防効果があるのかは示されていない.また,温泉入浴の禁忌症は示されているものの,某かの疾病の発症を促進する可能性についても知られていない.このような状況を踏まえて,筆者らは,平成24年度から3カ年間,65歳以上の高齢別府市民2万人を対象に,温泉の利用歴と各種疾患の既往歴に関するアンケート調査を実施し,その解析結果を先頃論文報告した.結果は,性別によって分かれており,温泉入浴が,男性においては,心血管疾患の予防に寄与し,女性では,高血圧に予防的に働くが,膠原病などの発症には促進的に働く可能性などが示唆された.このように,温泉は必ずしもすべての疾患の予防に働くわけではなく,一部促進する場合もあり得ることが伺えた.この疫学調査から伺える予防的効果には,温泉の効能としては期待されてこなかったものやこれまで示されてきた効能に反するものが含まれている.本編では,様々な疾患に対する温泉の予防効果と治療効果のずれという観点から,アンケートによる疫学調査をレビューする形で紹介したい.

  • 東 威, 合田 純人
    2019 年 82 巻 2 号 p. 48-52
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/06/19
    [早期公開] 公開日: 2019/01/23
    ジャーナル フリー

      我が国は温泉資源に恵まれ,人々は古くから経験的に温泉を病気の治療,疲労回復に利用してきた.このような経験的温泉効果を近代医学により解明するために,1926年に東京帝国大学医学部に温泉気候物理医学を研究する内科物理療法学講座が創設されたのに始まり,1951年の群馬大学附属草津分院まで国立の七大学に附属温泉医学研究施設,あるいは温泉病院が設立された.

      これにより我が国の温泉医学研究は推進されてきたが,1990年代に大学改革の一環として国立大学独立行政法人化の検討が始まると「新分野の研究や医療」に対応した機構改革を迫られ,国庫補助の削減もあって温泉地の施設は本院講座への統合,市中病院への転換あるいは閉鎖され,2018年の鹿児島大学霧島リハビリテーションセンターの本院への統合を最後にすべて消滅した.残念ではあるが,各施設関係者の調査に基づいて各施設の変遷,施設長と主要業績などを学会誌に記録し,これまでの温泉医学研究がこれからも日々進歩する科学的知識,技法を取り入れて一層発展することを期待したい.

原著
  • Cleidimara Falcade SCREMIM, Cassio PREIS, Leandro Zen KARAM, Ana Paula ...
    2019 年 82 巻 2 号 p. 53-58
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/06/19
    [早期公開] 公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー

    Introduction: Optimization of muscle strength is crucial for motor control efficiency and the prevention of musculoskeletal disorders.

    Objective: Analyze the effects of aquatic physiotherapy using the Bad Ragaz method for the strengthening and endurance of the trunk muscles.

    Methods: An experimental, descriptive and quantitative study. Sixteen healthy, sedentary women with an average age of 19.4±1.6 years and BMI of 22.8±2.7 took part in this study. The trunk muscle strength was evaluated using isokinetic dynamometry and abdominal (one min test) and lumbar endurance tests.

    Results: The Shapiro-Wilk normality test, Cochran test, t-Student parametric test and Wilcoxon non-parametric test were applied at a significance level of p ≤ 0.05. There was a significant improvement in the trunk extensor muscle strength for peak torque, p = 0.000, work, p = 0.000 and power, p = 0.008. With respect to the trunk flexor muscle strength, increases in the values for work, p = 0.032 and power, p = 0.022 were detected. A significant improvement in the flexor/ extensor ratio for work, p = 0.023, was also noted, and also in the abdominal endurance (p = 0.000) and Lumbar muscular-endurance (p = 0.000) tests.

    Conclusions: The aquatic physiotherapy program using the Bad Ragaz method was efficient in strengthening the trunk musculature of young, healthy and sedentary women.

  • 西川 浩司
    2019 年 82 巻 2 号 p. 59-69
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/06/19
    [早期公開] 公開日: 2019/02/13
    ジャーナル フリー

      【背景及び目的】豊富温泉を訪れる皮膚病変を持った湯治者において,ストレスと皮膚病変は互いに悪循環の状態に陥っていると推測された.そこで,豊富町ふれあいセンター協力のもとに,皮膚疾患患者に対して豊富温泉湯治によるストレス改善効果及び皮膚病変との関連を検討した.

      【方法及び結果】2016年9月1日から2018年8月31日の調査期間で,115例(男性65例,女性50例)の湯治前後におけるストレス調査票の結果を解析した.

      湯治者のストレスは115例中108例(93.9%)で改善した.湯治前を5とする0-10スケールにおいて,湯治後は1.96±1.67と湯治者のストレスは有意に改善していた(P < 0.001).また,ストレスが改善した108例に,ストレス改善効果は豊富温泉によるものか,或いは環境因子によるものかを0-10スケールで記入してもらった.スケール値は3.65±2.24で,豊富温泉水による効果が湯治者のストレス改善に有意に寄与していた(P < 0.001).

      厚生労働省ストレスチェック6分類(活気・イライラ感・疲労感・不安感・抑うつ感・身体愁訴)に関する29の質問に答えてもらい,6分類におけるストレス度を1-5のスコアにて点数化した.結果,6分類全てにおいて湯治後で有意にストレスが改善していた(P < 0.001).

      115例中105例(91.3%)の湯治者が皮膚病変の改善を感じたと回答し,皮膚病変の改善を感じた湯治者の湯治後の総ストレススケールは1.65±1.20と,皮膚病変の改善が感じられなかった湯治者の5.20±2.39に比べ有意に低かった(P < 0.01).また,ストレスチェックの6分類中,活気・抑うつ感・身体愁訴において,皮膚病変の改善を感じた湯治者においてストレス改善スコアが有意に高かった(P < 0.05).

      【結論】豊富温泉水優位の効果により,皮膚疾患を持った湯治者のストレスは湯治後に有意に改善していた.湯治者のストレス改善と皮膚病変の改善は密接に関連おり,豊富温泉湯治がストレスと皮膚病変の間の悪循環を断ち切った機序を解明するために,客観的データを伴った研究の集積が今後必要である.

  • 前田 豊樹, 牧野 直樹, 堀内 孝彦
    2019 年 82 巻 2 号 p. 70-77
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/06/19
    [早期公開] 公開日: 2019/02/18
    ジャーナル フリー

      温泉入浴は身体をリラックスさせる効果があり,ストレスを低減して健康増進効果があるとされる.超高齢社会を抱える日本において,高齢者向けの温泉観光をはかることは,高齢者の健康増進をも進めることができると期待できる.別府市は世界一の源泉数を擁する温泉観光都市である.以上を背景に,別府市は高齢者向けに温泉入浴を盛り込んだ健康増進ツアーを企画した.そして九州大学別府病院,別府市医師会,別府市の協力で,この企画のストレス低減効果を検証した.健康増進ツアーは4泊5日で,温泉入浴の他,別府市の古い町並みを楽しむ散歩,ヨガ,野山でのハイキング,神社仏閣参拝といった心と体の癒しをもたらしてくれると期待されるスケジュールが組まれている.ツアー参加者は60歳以上の男女合わせて20人で,ストレスに関する問診,血圧測定,唾液検査(唾液アミラーゼ),血液検査(CRP,コルチゾール)を受けてもらい,ツアーの開始時と終了時に比較し,t-testで有意差検定を行った.問診のストレススコアの平均値は,ツアー前後値はそれぞれ43.7±8.05,39.4±6.57で,有意に低下していた(p=0.005).同様に血圧の平均値は,収縮期血圧で131±17.8mmHg,125±16.2mmHg (p=0.018),拡張期血圧で73±7.3mmHg,70±6.6mmHg (p=0.016)といずれも低下していた.唾液アミラーゼ,CRPには変化が見られなかったが,血清コルチゾールは,7.7±3.16µg/dL,6.1±1.82µg/dL(p=0.027)と低下していた.温泉観光ツアーは,4泊5日という短期間でも,高齢者において,心身のストレスを軽減する効果があることが示唆された.

  • 美和 千尋, 島崎 博也, 出口 晃, 森 康則, 前田 一範, 水谷 真康, 浜口 均
    2019 年 82 巻 2 号 p. 78-85
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/06/19
    [早期公開] 公開日: 2019/03/15
    ジャーナル フリー

      人は環境の温度変化に対して,身体の外部や内部から熱の出し入れをして調節する.身体の内部からの熱の出し入れの一つに温度の異なる水を飲むことが挙げられる.しかし,温度の異なる飲水に伴う人体作用の変化の詳細は明らかになっていない.そこで,この研究では,異なる温度の水を飲むことで,どのような体温応答があるのかを明らかにする.健常な若年男性13名(平均年齢21.3±0.8歳)を対象とし,3℃,室温,60℃Cの水を飲んだときと水を飲まないときの体温応答について検討した.測定項目は鼓膜温,皮膚血流量,発汗量,平均皮膚温である.鼓膜温はサーミスターにより,皮膚血流量はレーザードップラー血流計で,発汗量はカプセル換気法で測定した.平均皮膚温は,身体の7点をサーミスターで測定し,算出した.鼓膜温は水温3℃と60℃の飲水時に他の条件と比べ有意に変化した.皮膚血流量は水温60℃と3℃の間で,発汗量は水温60℃と他の条件の間で,平均皮膚温は水温3°Cと他の条件の間で有意差が認められた.飲水初期の変化は,飲水時の温度による温度受容器の反応で起こり,その後は飲んだ水の温度が持つ熱エネルギーが関与していると考えられた.

  • 野上 順子, 野上 佳恵
    2019 年 82 巻 2 号 p. 86-91
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/06/19
    [早期公開] 公開日: 2019/04/15
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      【背景】加齢に伴う動脈の構造や機能の変化は,心血管疾患のリスクを増加させる.これまでの研究で運動中の体温動態が運動後の動脈硬化の指標に影響を及ぼす可能性があることから,体温動態は動脈スティフネスに何らかの影響を及ぼすのではないかと考えられる.しかし,体温上昇と動脈スティフネスとの関係は明らかにされていない.そこで,体温上昇が動脈スティフネスの指標である脈波伝播速度(PWV)に及ぼす影響に着目し,健常高齢男性を対象に受動的な体温上昇を引き起こす温浴が大動脈および下肢動脈PWVに及ぼす影響を検討した.

      【方法】健常高齢男性(8名)を被験者とし,35,38,40℃の入浴を15分間行った.入浴30分後および60分後に,直腸温(Trec),心拍数(HR),血圧(BP)および頚動脈−大腿PWV(大動脈PWV),大腿−足首PWV(下肢動脈PWV)を測定した.全ての測定は,午前中の同一時間帯に室温26℃に空調された部屋で行った.

      【結果】Trecは38,40℃入浴後に有意に増加した.HRは40℃温浴後に有意に増加(61.4±2.6beats/min→65.7±2.6beats/min,p<0.0167)したが,入浴後の血圧は変化しなかった.PWVは下肢動脈PWVのみ40℃入浴後に有意な減少 (1,122.3±29.7cm/sec→1,087.0±35.3cm/sec,p<0.0083)が認められた.

      【考察】本研究では,40℃入浴後に下肢動脈PWVが有意に低下したが,35℃,38℃入浴後には有意な変化は認められなかった.根底にあるメカニズムはまだ分かっていないが,40℃入浴により,高齢者の下肢動脈PWVが低下する可能性示された.これらの影響は体温の上昇に依存するため,温浴が脚の動脈スティフネスを低下させる可能性が示された.

報告
  • 藤本 和弘
    2019 年 82 巻 2 号 p. 92-99
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/06/19
    [早期公開] 公開日: 2019/02/21
    ジャーナル フリー

      環境省では2017年から,「新・湯治」政策を推進し,温泉地における保養型の長期滞在を促し,温泉地の活性化に取り組んでいる.では,保養型滞在の受け皿となる温泉地では,長期滞在者を受け入れるためにどのような取り組みが行われているのであろうか.本報告では,下呂温泉,小坂温泉郷(湯屋温泉,下島温泉,濁河温泉),湯涌温泉,白山温泉郷(手取温泉,新岩間温泉,白山一里野温泉,中宮温泉),湯ノ口温泉を対象として,各温泉地での取り組みについて調査を行った.

      環境省の「新・湯治」推進プランにおいても,また,温泉地の空間形態や空間構造を研究した下村の論文においても,長期滞在のためには,温泉地の周辺環境を含めた地域資源を活用した新たな空間価値や体験価値を付加することによって,滞在にふさわしい寛ぎの空間を創出していくことの必要性が提示されている.

      そこで,上記5か所10温泉地において,そのような「空間価値や体験価値を付加する」取り組みが行われているかどうかを,関係者へのヒアリングや現地視察によって調査した.その結果,下呂温泉,小坂温泉郷,一里野温泉においては,長期滞在が可能となるような取り組みが行われていたことがわかった.しかし,ニーズがその活用に至っていないため,取り組みを活用した長期滞在者がほとんどないこともわかった.さらに,山間の高原地域においては,エコツーリズムが滞在プランとして考えられること,温泉街になっている温泉地では,街中の文化施設も活用した街歩きや散策,周辺観光レクリエーション地への日帰り活用も滞在プランとして考えられることもわかった.

      今後は実際に長期滞在が実施されている温泉地の調査が必要と考えられる.

特別報告
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