日本温泉気候物理医学会雑誌
Online ISSN : 1884-3697
Print ISSN : 0029-0343
ISSN-L : 0029-0343
80 巻, 3 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
Editorial
原著
  • —さら湯および無機塩類含有炭酸ガス入浴剤添加の効果—
    久保 高明, 安田 大典, 渡邊 智, 石澤 太市, 綱川 光男, 谷野 伸吾, 飯山 準一
    2017 年 80 巻 3 号 p. 124-134
    発行日: 2017/10/31
    公開日: 2017/12/21
    ジャーナル フリー

      背景:頻回のバスタブ浴を行う日本の中高年者は,睡眠の質やメンタル面が良好であるとの諸家の報告がある.

      目的:本研究の目的は,大学生の入浴スタイル(シャワー浴,バスタブ浴,無機塩類含有炭酸ガス入浴剤添加浴)の違いが,睡眠と気分・感情に及ぼす影響を検討することである.

      対象と方法:普段シャワー浴のみの健常学生20名(平均年齢20.3±2.1歳)を対象とし,41℃の浴槽に肩まで浸漬し10分間入浴する群(BB)と,前述の浴槽に無機塩類含有炭酸ガス入浴剤常用量30gを添加し入浴する群(BBK)について,各々を2週間で実施するcrossover研究を行った.なおwashout期間を2週間とし,研究開始の1週間前からのアンケート調査を含めて,計7週間の研究を2015年10~12月に実施した.計測項目は睡眠に関するものはOSA睡眠感調査票MA版(OSA-MA)および1ch式ポータブル睡眠脳波計(EEG)で,OSA-MAは毎朝記載させ,EEGは毎就寝中に計測した.気分・感情に関するものは日本語版Profile of Mood States短縮版(POMS),うつ病自己評価尺度(SDS),やる気スコア(AS)で2週間ごとの計4回記載させた.

      結果:睡眠について,OSA-MAの「起床時眠気」と「疲労回復」はシャワー浴に比べBBKで有意差を認めた.EEGについては有意差を認めなかった.気分・感情について,POMSのT得点は,シャワー浴に比べBBで活気(V)が有意に値が高かった.そしてシャワー浴に比べBBKで活気(V)が有意に値が高く,疲労(F)で有意に値が低かった.POMSのtotal mood disturbance (TMD)スコアは,シャワー浴に比べ,BBおよびBBKで有意に値が低かった.SDSスコアはシャワー浴に比べBBKで有意に値が低かった.ASはシャワー浴に比べBBおよびBBKで有意に値が低かった.

      考察:睡眠については,BBKでは炭酸ガスによる血管拡張作用や無機塩類による浴後保温持続効果,そして香りや色調による疲労軽減・活力低下予防効果がOSA-MAの主観的評価に影響を及ぼしたと考えた.気分・感情については,睡眠脳波では有意な差を認めなかったため,睡眠とは独立した因子,すなわち温熱暴露習慣が気分や感情に関する中枢神経機能に影響を及ぼしたものと考えた.

      結論:シャワー浴習慣からバスタブ浴習慣に行動変容することは,健常学生のメンタルヘルスを向上させる.

  • 森 康則, 美和 千尋, 出口 晃, 前田 一範, 中村 毅, 浜口 均, 水谷 真康, 島崎 博也, 水野 圭祐, 一色 博, 川村 直人
    2017 年 80 巻 3 号 p. 135-143
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/21
    [早期公開] 公開日: 2017/07/12
    ジャーナル フリー

      三重県を代表する温泉保養地のひとつである菰野町では,温泉地およびその周辺の健康資源としての活性化を目指した様々な取組が進められており,その取組の一環として,菰野町内におけるウォーキングプログラムが実施されている.本研究では,このウォーキングプログラムによるリラックス効果に着目し,ウォーキングプログラム前後における唾液中コルチゾール濃度と感情尺度の変化について,調査を行った.

      本研究の協力に同意が得られた成年を被験者とし,全行程約7kmの2種類のコースのウォーキングプログラムを実施させた.実施前後の唾液中コルチゾール濃度,Mood Check List-Short form. 2(MCL-S.2)とVisual Analog Scale (VAS)による感情尺度をそれぞれ測定し,前後比較を行った.

      調査の結果,2種類のコースのいずれにおいても,プログラム実施後の唾液中コルチゾール濃度は,対照としての安静時のコルチゾール濃度に比べて,有意に減少した.コルチゾールは,交感神経優位の際に分泌される副腎皮質ホルモンで,低値を示す方が心理的にリラックスした状態とされることから,ウォーキングプログラムにより被験者のリラックス感が促されたことが示唆された.また,MCL-S.2による感情尺度評価では,「菰野富士コース」で「快感情」と「リラックス感」のスコアの上昇と「不安感」のスコアの低下,VASでは,「菰野富士コース」と「鵜川原コース」で,ポジティブな感情スコアの増加と,ネガティブな感情スコアの減少が,それぞれ有意に認められた.

      これらの結果から,菰野町内で実施されているウォーキングプログラムには,リラックス感の促進等の心理的な有用性が示唆された.

  • 森 康則, 出口 晃, 美和 千尋, 島崎 博也, 中村 毅, 濱口 真帆, 一色 博
    2017 年 80 巻 3 号 p. 144-154
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/21
    [早期公開] 公開日: 2017/08/24
    ジャーナル フリー

    目的:温泉法および環境省が定める鉱泉分析法指針等の関連通知において,温泉水1kg中に30×10−10Ci/kg(8.25マッヘ単位,111Bq/kg)以上のラドンが含まれるとき,療養泉としての放射能泉に該当し,泉質別適応症(浴用)として,高尿酸血症(痛風),関節リウマチ,強直性脊椎炎などを,掲示することができることが規定されている.本研究では,空気中に揮散したラドンの人体への作用に着目し,放射能泉を用いた熱気浴による深部体温,皮膚血流量,主観的感情への影響を検証した.

    方法:本実験は,放射能泉を利用した熱気浴室で実施された.熱気浴室内の室温は約38°C,相対湿度は約78%とした。被験者(健常の若年男性 8名)は,40分間の熱気浴を2回行い,その後40分間の後安静を施した.2回の熱気浴は比較的高濃度と低濃度の空気中ラドン(ラドン浴群:約710Bq/m3,対照群:約140Bq/m3)内で行った.熱気浴および浴後における被験者の深部体温,表在温,皮膚血流量,主観的感情(MCL-S.2,VAS,NRS)のそれぞれの変化をモニターし,各介入群の群間比較を行った.

    結果および考察:主観的感情(MCL-S.2)の比較の結果,ラドン浴群における熱気浴前後の「快感情」でスコア上昇,VASでは「ストレス感」および「身体の冷え・冷感」スコア低下が,それぞれ有意に認められた.さらに熱気浴により皮膚血流量は有意に増加し,その持続時間が,ラドン浴群が対照群に比べて長いことが示された.これらの結果から,放射能泉を用いた熱気浴による血行促進の持続効果が推測されるとともに,それに伴う身体の冷えやストレス感の低下をもたらす可能性が示唆された.

  • 山本 俊郎
    2017 年 80 巻 3 号 p. 155-159
    発行日: 2017/10/31
    公開日: 2017/12/21
    ジャーナル フリー

      【背景と目的】浴槽内溺水では気管内に侵入した水が肺胞内から毛細血管へ移行して,低ナトリウム血症と低クロール血症となることが知られている.そこで,浴槽内心肺停止(cardiopulmonary arrest: CPA)の病態が赤血球に及ぼす影響を検討した.

      【対象と方法】2007年から2009年までの3年間に浴槽内に水没して本院救命救急センターに搬送されたCPA39例(年齢:8~95歳,中央値78歳)を対象とした.自己心拍は6例で再開したが,全例死亡を確認した.以下の項目を検討した.搬入時の血液・生化学検査から,電解質(Na,Cl),ヘマトクリット(hematocrit: Ht)/ヘモグロビン(hemoglobin: Hb)値,平均赤血球容積(mean corpuscular volume: MCV)と平均赤血球ヘモグロビン量(mean corpuscular hemoglobin: MCH),および浴槽内CPA2例のMCVとMCHの経時的変化,即ち自己心拍再開症例と外来通院中であった症例と浴槽内溺水とは別の水中毒症2例のMCVの経時的変化.

      【結果】血清Na(正常値:135~148mEq/L)では18例が正常下限を下回り,21例が正常であった.血清Cl(正常値:98~108mEq/L)では22例が正常下限を下回り,17例が正常であった.Ht/Hb値が正常(2.78~3.13)であったのは3例のみで,36例は正常上限を上回った.MCH(正常値:27.8~33.5pg)では3例が正常下限を下回り,1例が正常上限を上回り,35例が正常であった.MCV(正常値:85.3~100.4fl)では23例が正常で,16例が正常上限を上回った.自己心拍再開例では,MCVは当日の97.9flから第1病日には92.4flへと低下し,以後92.0fl前後で推移した.外来通院中であった症例ではMCVは発症37日,12日前の103.0fl前後から当日の107.4flに増加した.水中毒症例では,MCVは第1,2病日には変化が無く,第4病日以降に初日の87.0flから91.4flに,89.1flから96.5fl前後にそれぞれ増加した.

      【結語】水中毒症とは異なり,浴槽内溺水では電解質と同様にHtは減少すると予想したが,風呂水の血中への移行による血漿浸透圧の低下のために赤血球は膨化し,その膨張率が希釈率を上回ったためにHtは低下しなかったものと思われた.

feedback
Top