目的 : 弾発指は滑膜性・靱帯性腱鞘部(A1 pulley)での浅・深指屈筋腱、長母指屈筋腱の滑走障害が原因とされている。本研究では、障害指A1 pulley部に刺鍼し、弾発時疼痛と弾発現象の程度に対する鍼治療効果を観察した。
方法 : 弾発指15名19指を対象とし、無治療等の対照群は設定せず、全例に対して同一の鍼治療を行った。治療は障害指A1 pulley部で屈筋腱の橈・尺側に置鍼術(鍼刺入状態で10分間維持)を最高で5回(1回5~7日)行った。毎回の治療前後に、弾発時疼痛と弾発現象の程度を、それぞれ無症状を0mm、最も耐え難い症状を100mmとしたVisual analogue scale (VAS)で評価した。また、各症状の初回治療前に対する5回目治療前の変化率を求め、50%を基準に改善の有無を判定し、改善の有無と罹病期間の関係について調査した。
結果 : 弾発時疼痛、弾発現象の程度において、初回治療前から5回目治療前のVASは、順に57.1±22.2 (mm, mean±SD) →26.0±29.8、61.2±23.1→26.1±27.6となり、有意な改善を示した。また、初回治療時の直後評価でも、弾発時疼痛、弾発現象の程度のVASは、順に40.8±19.6、44.3±23.9となり、有意な改善を認めた。加えて、5回までの治療で、疼痛は4指、弾発現象は6指に完全消失を確認した。弾発時疼痛および弾発現象の改善の有無と罹病期間の関係に関しては、改善を示した方が罹病期間が有意に短かった。
考察 : 弾発現象の改善は、鍼治療が靱帯性腱鞘の変性・肥厚に影響したとは考え難く、鍼治療による局所血流の変化が腱鞘滑膜の炎症性腫脹に影響したものと考えた。弾発時疼痛の軽減は、上記による屈筋腱の滑走性改善に加え、鍼治療による疼痛抑制系の賦活の関与を考えた。無治療やSham治療等の対照群の設定がないため、明確にプラセボ効果等の影響を除外できないが、罹病期間により効果に差が生じたことから、障害A1 Pulley部への鍼治療は、罹病期間が短く、腱鞘滑膜の炎症性腫脹を主因とする弾発指に対して有効性示す可能性を考えた。
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