日本温泉気候物理医学会雑誌
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76 巻, 4 号
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Editorial
原著
  • —三重県内の温泉利用施設におけるケーススタディ—
    森 康則, 出口 晃, 美和 千尋, 岩崎 靖, 鈴村 恵理, 前田 一範, 浜口 均, 島崎 博也, 水谷 真康, 田中 紀行, 川村 陽 ...
    2013 年 76 巻 4 号 p. 255-262
    発行日: 2013/08/28
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
      温泉法や鉱泉分析法指針(改訂)により、水中ラドン濃度74Bq/kg以上の地下水が温泉、111Bq/kg以上の地下水が療養泉(放射能泉)と、それぞれ定義されている。ラドンは希ガスであり、空気中に揮散しやすい。
      本研究では、三重県三重郡菰野町に位置する放射能泉を利用する宿泊施設において、実際の利用水中のラドン濃度の存在実態を調査するとともに、その利用に伴う人体影響を把握するために、その水中ラドン濃度をもとに実効線量を評価することとした。
      源泉タンク水と稼働中の浴槽水における水中ラドン濃度を測定した結果、配湯直後には源泉タンク水に比べて5.3~18.0%、また、配湯2日後には0.3~0.4%のラドンしか残存していなかった。ラドンは放射性の希ガスであり、容易に空気中に揮散する化学的性質を有する。このことから水中ラドン濃度の減少の原因は、ラドンの放射壊変だけでなく、入浴や循環ろ過処理などによる気相への移行の促進が大きいと考えられる。
      実態調査によって得られた水中ラドン濃度をもとに、その宿泊施設の利用による実効線量を計算した。その結果、入浴に伴うラドン吸入に伴う実効線量が2.8~12.0nSv、飲用に伴う実効線量が5.1~23.3nSvであった。施設利用に伴う全体の実効線量を評価するためには、空気中に散逸したラドンに起因する実効線量を求め、本研究で得られた成果と総合して人体影響を評価することが必要である。
  • —Visual analogue scaleによる検討—
    井上 基浩, 中島 美和, 北條 達也, 糸井 恵, 北小路 博司
    2013 年 76 巻 4 号 p. 263-272
    発行日: 2013/08/28
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
    目的 : 弾発指は滑膜性・靱帯性腱鞘部(A1 pulley)での浅・深指屈筋腱、長母指屈筋腱の滑走障害が原因とされている。本研究では、障害指A1 pulley部に刺鍼し、弾発時疼痛と弾発現象の程度に対する鍼治療効果を観察した。
    方法 : 弾発指15名19指を対象とし、無治療等の対照群は設定せず、全例に対して同一の鍼治療を行った。治療は障害指A1 pulley部で屈筋腱の橈・尺側に置鍼術(鍼刺入状態で10分間維持)を最高で5回(1回5~7日)行った。毎回の治療前後に、弾発時疼痛と弾発現象の程度を、それぞれ無症状を0mm、最も耐え難い症状を100mmとしたVisual analogue scale (VAS)で評価した。また、各症状の初回治療前に対する5回目治療前の変化率を求め、50%を基準に改善の有無を判定し、改善の有無と罹病期間の関係について調査した。
    結果 : 弾発時疼痛、弾発現象の程度において、初回治療前から5回目治療前のVASは、順に57.1±22.2 (mm, mean±SD) →26.0±29.8、61.2±23.1→26.1±27.6となり、有意な改善を示した。また、初回治療時の直後評価でも、弾発時疼痛、弾発現象の程度のVASは、順に40.8±19.6、44.3±23.9となり、有意な改善を認めた。加えて、5回までの治療で、疼痛は4指、弾発現象は6指に完全消失を確認した。弾発時疼痛および弾発現象の改善の有無と罹病期間の関係に関しては、改善を示した方が罹病期間が有意に短かった。
    考察 : 弾発現象の改善は、鍼治療が靱帯性腱鞘の変性・肥厚に影響したとは考え難く、鍼治療による局所血流の変化が腱鞘滑膜の炎症性腫脹に影響したものと考えた。弾発時疼痛の軽減は、上記による屈筋腱の滑走性改善に加え、鍼治療による疼痛抑制系の賦活の関与を考えた。無治療やSham治療等の対照群の設定がないため、明確にプラセボ効果等の影響を除外できないが、罹病期間により効果に差が生じたことから、障害A1 Pulley部への鍼治療は、罹病期間が短く、腱鞘滑膜の炎症性腫脹を主因とする弾発指に対して有効性示す可能性を考えた。
  • 武田 健一郎, 辻本 雄太
    2013 年 76 巻 4 号 p. 273-280
    発行日: 2013/08/28
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
    症例 : 70歳代男性。主訴 : 意識障害。現病歴 : 平成○○年某日旅行で訪れた山形県内の温泉で入浴中、意識消失し溺水。目撃者なし。浴槽で浮いていた状態で他の宿泊客が発見。呼吸なく胸骨圧迫施行。その後自発呼吸が再開。救急隊現着時JCS300、GCS E1V1M1。当センターへ搬送となる。当院着時JCS200。胸部Xp、CTで両肺に肺炎と思われる浸潤影あり。頭部CTで意識消失の原因疾患、低酸素性変化は認めず。来院後も意識障害が持続した為、蘇生後低酸素脳症と判断。直ちに脳低温療法を導入した。ミダゾラムで鎮静、フェンタニルで鎮痛を行い、シバリング予防の為、ベクロニウムを使用した。ERで冷水による胃洗浄、冷却輸液を施行。ICU入室後Arctic Sun®を装着。来院後約4時間で目標体温である34°Cに到達した。24時間34°Cを維持し、その後48時間かけ36度まで復温した。温泉水誤嚥による肺障害に対しては、抗生剤(PIPC/TAZとAZM)使用に加え、人工呼吸器による陽圧換気を行い重症化は避けられた。復温後鎮静中止。その後意識は病前まで回復。最終的に社会復帰された。
    考察 : 温泉溺水患者は長時間湯に浸かった事で体温上昇している事が多く、様々な冷却方法を駆使し速やかに目標体温まで下げなければならない。また低体温状態では免疫能が低下し温泉水誤嚥による肺炎は必発と思われ、抗生剤を含めた十分な対応が必要である。
    結語 : 温泉溺水による蘇生後低酸素脳症に対し脳低温療法が有効であった。
  • 熊谷 淳子, 北口 明宏, 関 太輔
    2013 年 76 巻 4 号 p. 281-286
    発行日: 2013/08/28
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
      近年乾燥肌で多くの人が悩む中、皮膚の機能の一つであるバリア機能を保つことが重要になっている。肌の保湿はそのバリア機能の指標の一つであるが、現在液体入浴剤の連日使用による肌の保湿性の評価については報告されていない。
      本研究ではカチオン化セルロースの一種であり、シャンプーや入浴剤等に広く配合されているポリクオタニウム-10とその他の保湿成分を配合した液体入浴剤(保湿入浴液ウルモア®)を2週間にわたって連日使用した際の肌の保湿性を検討した。
      その結果、淡水浴と比較してポリクオタニウム-10とその他の保湿成分を含む製剤浴では10日、14日後の角質水分量(SCWC)の減少と表皮水分蒸発量(TEWL)の上昇を有意に抑制した。これは季節的要因により進行した肌の乾燥を、浴用剤による角質層の保護効果により抑制したことが要因であると考えられる。このことから、製剤の連用が肌の保湿に有用であると結論付けた。
  • 岩波 久威, 岩波 佳江子, 平田 幸一
    2013 年 76 巻 4 号 p. 287-292
    発行日: 2013/08/28
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
    はじめに : 塩化物泉は保温効果が高く、飲用を含め様々な効能があるといわれている。しかし効能の一つである動脈硬化予防や血流改善をうらづける科学的な検証は少ない。我々は早期動脈硬化の指標であるFlow-mediated vasodilation (FMD)を温泉の入浴前後に評価することで、塩化物泉入浴が血管に及ぼす影響を検討した。
    対象と方法 : 健常成人男女17名で平均年齢は63.4±10.9歳。前橋温泉クア・イ・テルメ(群馬県前橋市)のナトリウム-塩化物泉でおこなった。検査は入浴前と入浴後1時間に測定した。
    結果と考察 : 被験者全員のFMD値は入浴前にくらべ入浴後1時間で有意に上昇した。男女で比較すると、女性はFMD値が上昇したが、男性では変化がみられなかった。Body Mass Index (BMI)が25以上の症例は5例であり、5例中1例は入浴後にむしろFMD%が低下した。温泉療法による一時的なNitric oxide (NO)の増加、血管平滑筋の拡張が証明された。また、これに伴う血小板凝集抑制、平滑筋増殖抑制、白血球接着抑制、活性酸素産生抑制が血管内皮機能の改善につながる可能性を示唆した。
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