日本温泉気候物理医学会雑誌
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83 巻, 3 号
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Editorial
原著
  • 嶋 良仁, 渡邉 あかね, 井上 暢人, 國友 栄治, 丸山 哲也
    2020 年 83 巻 3 号 p. 105-112
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/10
    [早期公開] 公開日: 2020/07/28
    ジャーナル フリー

      【目的】「冷え」は正常な体温であるにもかかわらず,手または足が冷えている状態である.疾病の有無に関係なく,高齢者を中心に多くの人がこの「冷え」に悩まされている. 冷えを和らげる方法のひとつに使い捨てカイロで手を温めることがあるが,この方法では手が塞がり日常の作業を妨げる.そこで,カイロで上肢の別の部分を加熱することで,手の冷えを緩和できるかどうかを調査した.

      【方法】インフォームド・コンセントの後,脈管異常の指摘がこれまでない冷えを自覚する30名に頸部,肘,手首の加温の検討を行った.18名はそれぞれ1週間のインターバルをあけて3ヶ所を指定された順に1週間ずつカイロで加温を行った.残りの参加者は,カイロ固定用ホルダーの影響を観るためにホルダーだけを装着した.すべての参加者は,10cmのvisual analog scaleによる手の冷え評価を連日記録させた. 同様にカイロやホルダー装着が日常作業に差し障ったかを連日評価させた.1週間の加温の治療効果を観るために,カイロまたはホルダーのみを使用した期間終了翌日に,サーモグラフィーとlaser speckle contrast analysis(LASCA)を使用して,24℃20分間の室温順応後に両手の表面温度と血流を計測した.

      【結果】頸部と肘部のカイロ加温中に冷えVASの有意な低下が観察された.日常への差し障り度評価は3ヶ所間で差がなかった.手の表面温度・血流はカイロ(あるいはホルダーのみ)の使用で上昇は観察されなかった.

      【結語】手を温めなくても手の冷えを改善できることと,加温部位によってその効果が異なることが判明した.この研究は,「冷え」を改善する新しい方法につながると考えられる.サーモグラフィー等の客観的評価は,外気温等の測定条件の影響が非常に大きく,評価方法の検討が必要と考えられた.

  • 中村 壽志
    2020 年 83 巻 3 号 p. 113-121
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/10
    [早期公開] 公開日: 2020/08/07
    ジャーナル フリー

      【目的】足部に対する温熱療法は,柔軟性や立位バランス能力などの改善が報告されている.本研究の目的は,足底加温による静的・動的バランス能力の効果を検証し,足部皮膚温・感覚検査・足底柔軟性検査からその関与する要素を確認することである.

      【方法】健常成人30名を対象に,フットヒーターで足底を15分間加温した.加温・非加温中に深部体温(足背部第1~2中足骨頭間,足背部第4−5中足骨頭間)・足部皮膚温(右左中足骨頭外側),加温・非加温の前・後・10分後に足底皮膚温(第1・第5中足骨頭下・踵)・Y Balance Test(以下,YBT)・片脚立位重心動揺検査,前・後に触覚検査・振動覚検査・足底接地面積検査,母趾伸展可動域検査(以下,母趾伸展角度)を行った.また,温度以外の項目は変化率を算出した.反復測定分散分析を用いて測定値を,Wilcoxonの符号付順位検定で変化率を比較した.

      【結果】深部体温・足部皮膚温・足底皮膚温は,加温により有意な温度上昇を認めた.YBTは加温および非加温条件で前値と比較して後値・10分後値は有意に到達距離を伸ばした.母趾伸展角度は加温条件で前値と比較して後値は有意に角度が拡大した.片脚立位重心動揺検査・触覚検査・振動覚検査・足底接地面積検査に有意差を認めなかった.YBTと母趾伸展角度の変化率は,非加温条件に対して加温条件は有意に変化が大きかった.

      【考察・結語】足底を加温することで動的バランス能力の指標となるYBTを増大させる効果を確認できた.関与する要素として,足底皮膚温の上昇と母趾伸展角度の拡大を認めた.片脚立位重心動揺検査と感覚検査と足底接地面積検査に変化を認めず,関与する要素としては見いだせなかった.YBTの増大および母趾伸展角度の拡大から,足底を加温した後に動的な伸張刺激が加わることで足底柔軟性を向上させることが,バランス能力に寄与することが示唆された.

  • 松田 えりか, 近藤 宏, 木下 裕光, 砂山 顕大, 石崎 直人, 鮎澤 聡
    2020 年 83 巻 3 号 p. 122-130
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/10
    [早期公開] 公開日: 2020/09/28
    ジャーナル フリー

      【目的】慢性腰痛患者に対する鍼治療の直後効果に影響する因子について,心理社会的要因を探索的に検討した.

      【対象と方法】対象は2019年8月~12月までに本学東西医学統合医療センター鍼灸外来を訪れた初診慢性腰痛患者のうち,初診時にVisual Analogue Scale(以下VAS)にて評価した腰部疼痛強度が30mm以上の者56人とした.初診時に自記式質問票を使用し,心理尺度(Pain Catastrophizing Scale(以下,PCS),Hospital Anxiety and Depression Scale,Pain Self-Efficacy Questionnaire),社会的要因(同居家族状況,最終学歴,社会参加状況),腰部機能障害,鍼治療に対するイメージなどを調査した.初回治療直後のVAS値が30mm未満となり,かつ対象者自身が疼痛の改善を認めた者を「高反応群」,それ以外を「低反応群」とした.この2群間で対象者の属性と身体的および心理社会的調査項目を探索的に比較し,さらに2群の区分を二値の従属変数とするロジスティック回帰分析を行った.

      【結果と考察】高反応群は22人,低反応群は34人であった.2群間の探索的な比較において統計学的な有意差が認められた項目は,鍼治療に対するプラスイメージ(P=0.001)とマイナスイメージ(P=0.004)のみであった.ロジスティック回帰分析では,PCS(OR:0.886(95%CI:0.808~0.971);P=0.010),鍼治療に対するプラスイメージ(OR:5.085(95%CI:1.724~15.002);P=0.003),同居人数(OR:0.355(95%CI:0.149~0.844);P=0.019)が直後効果に影響を与える因子として抽出された.この結果,慢性腰痛患者の鍼治療効果に心理社会的要因が影響を及ぼすことが示唆された.

  • 西村 直記, 河原 ゆう子, 盛興 美千代
    2020 年 83 巻 3 号 p. 131-139
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/10
    [早期公開] 公開日: 2020/10/02
    ジャーナル フリー

      【目的】本研究はバブル粒径が極小粒径のウルトラファインバブル(UB)浴の温熱生理学的効果について,小粒径のマイクロバブル(MB)浴およびさら湯(FW)浴と比較・検討した.

      【方法】健康な成人女性7名(平均年齢35.6±2.9歳)を対象に,UB浴,MB浴,FW浴の全身浴(湯温40℃)をそれぞれ10分間行わせた.その際,耳内温,皮膚温,局所発汗量,皮膚血流量,熱流量,心拍変動を1秒毎に連続記録した.加えて,主観的感覚(温冷感および快適感)の自己申告を行わせた.

      【結果】入浴中の耳内温および平均体温の上昇はMB浴で最も高く,UB浴とFW浴ではほぼ同じ上昇傾向を示した.入浴中の局所発汗量はMB浴が最も高値を示し,UB浴が最も低値を示した.MB浴では,発汗発現の閾値体温が最も低く,また体温上昇に対する発汗量の増加が最も大きかったのに対し,UB浴では体温上昇に対する発汗量の増加が3条件の中で最も少なかった.

      【考察】UB浴では,浴槽内に高濃度に発生したUBおよびMBが体内への入熱量を減少させたことにより,耳内温の上昇が抑制され,局所発汗量が最も低値を示したと考えられる.他方,中濃度に発生したMB浴では,UBおよびMBによる入熱量の減少よりも湯の対流による入熱量の増加が上回った結果,耳内温や局所発汗量が最も高値を示したと推察される.

      【結論】浴槽内に発生した異なるバブルの性状は,入浴中および入浴後の熱出納を変化させ,その結果として体温調節反応に差異をもたらすことが明らかとなった.

特別報告
  • 岩永 成晃, 宮田 昌明, 早坂 信哉
    2020 年 83 巻 3 号 p. 140-150
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/10
    ジャーナル フリー

      平成26年の温泉法の改正によって,温泉入浴の禁忌から妊婦が削除されたが,一般への認知は十分ではない.本邦においては,妊婦の温泉浴の安全性について検証した報告は少なく,日本温泉気候物理医学会として妊婦の温泉浴の安全性について共同研究を行い,その結果を学会から発信するとともに,一般への啓発が必要であると考え,本学会において検討を行った.

      妊娠初期から分娩までの期間,温泉地(別府市,指宿市)に居住する妊産婦へ自記式調査票にて以下の調査を行った.1)年齢(妊娠終了時),2)過去の出産回数,3)温泉入浴の状況:妊娠時期(初期・中期・後期)別に日常的な温泉入浴の有無と利用の頻度,内湯温泉や自宅外の温泉施設の利用の有無,4)妊娠中のトラブルの有無:流産(妊娠12週未満の早期流産は除外),早産,切迫早産,妊娠中毒症・妊娠高血圧症(浮腫,高血圧)等について調査した.

      回収数は1,721例(回収率86%)であり,平均年齢は30.8歳(17~49歳),初妊婦643例(37.6%),経妊婦1,078例(62.4%)であった.年齢と出産回数は,産科的トラブルとは関連なかった.妊娠の初期と中期において,産科的トラブルは,週1回以上の日常的な温泉入浴者と週1回未満の温泉入浴者の間に有意な差を認めなかった.妊娠後期においては,週1回以上の日常的な温泉入浴者は週1回未満の温泉入浴者に比べ,むしろ産科的トラブルが有意に少なかった(20.3% vs 25.9%,p=0.028).また,里帰り妊婦に絞ってみても,妊娠の初期と中期においては,産科的トラブルの頻度は温泉入浴群と非温泉入浴群の間に有意差を認めなかった.一方,妊娠後期においては,温泉入浴群は非温泉入浴群と比較し,産科的トラブルが有意に少なかった(温泉入浴群13.0% vs 非温泉入浴群24.5%,p=0.028).

      日常的に温泉浴をする妊婦において,そうでない妊婦とくらべて,産科的トラブルが増加することはないことが確認できた.温泉の禁忌症から“妊婦”の項目が削除されたことは適正なことであったといえる.

寄稿
  • 中村 毅, 阿岸 祐幸
    2020 年 83 巻 3 号 p. 151-160
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/10
    [早期公開] 公開日: 2020/07/17
    ジャーナル フリー

      ドイツの温泉保養地では,土地固有の特徴ある自然資本の経験的な生体に対する効果を医学・気象学・化学などの科学的手法によって検証し,治療手段として承認を得,健康維持,治療や疲労・ストレスからの回復に提供している.自然資本は土壌からの素材である療養泉・ガス・ぺロイド(使用法は浴用,湿布など日本も欧州も差異はないが,欧州ぺロイドの物理的性質は日本に比較して劣り,有機質を多く含有させるため,処理を施す点が異なる)のほか,気候や海洋からの素材も含み,種類や質によって温泉保養地の種が規定されている.その特徴により利用者の目的に応じた場所を選択できるシステムが構築され,健康増進に効率的に活かされている.

      自然資本が豊富であるにもかかわらず活用が十分ではないと思われる日本の現状に対し,ドイツ温泉保養地の近年の動向について,黒い森地域を主とする伝統ある温泉・気候保養地を参考にすべく現地視察体験し現状について学んだ.

      視察を行ったいずれの場所もドイツ温泉協会,ドイツ観光協会から認定されている温泉・気候保養地であったが,特にBad Wildbad, Keidel Mineral-Thermalbadの2つの温泉保養地は,医学的治療,ツーリズム等の提供構造を維持しながら,土地構造,自然素材の長所を活かし,トレンドや感動の要素を組み込み地域社会,温泉地の活性化につなげていた.

      日本とドイツでは温泉地自体の構造,環境,制度などの相違もあり,ドイツでは,補完,代替医療が広く行われ一部公的治療費が支払われるが,プライベート保険を用いて保険償還が行われている(高山真,他:ドイツ4ヶ所の医療施設における統合医療の現状,日東医誌 Kampo Med, 2012; 60(4): 275-282).ドイツの現状をそのまま応用するには容易ではないが,黒い森地方に劣らない量,多様性のある自然資本を所有する日本においても健康増進へのさらなる活用可能性があると考える.ドイツ温泉保養地の取り組みはその方向性の一端を示してくれるのではないか.

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