日本温泉気候物理医学会雑誌
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77 巻, 4 号
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Editorial
総説
  • 佐々木 政一
    2014 年 77 巻 4 号 p. 298-305
    発行日: 2014/08/29
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
      我が国には温泉地とゆかりの深い文学作品が多い。例えば川端康成が静岡県の湯ヶ島温泉で『伊豆の踊子』を執筆し、志賀直哉は山手線の電車事故で大怪我を負い、その養生のため逗留した城崎温泉で『城の崎にて』をしたためた。当地紀州・和歌山県では龍神温泉が有吉佐和子の『日高川』の舞台になっている。愛媛県の道後温泉は夏目漱石の『坊ちゃん』で有名であるばかりでなく、正岡子規、高浜虚子らの多くの俳人を輩出している。さらに、与謝野鉄幹・晶子夫妻、若山牧水らも全国各地の温泉地を訪ねて多くの歌を詠み、これらの歌の中には歌碑として建立されているものも多い。
      当地・和歌山県でも万葉の昔から、天皇、貴族をはじめ多くの文人墨客が訪れ、短歌、俳句、詩歌、小説などの名作を数多く残している。これらの作品の中にはそれらが作られた地に文学碑として建立されているものも少なくない。
      そこで、本稿では和歌山県の由緒ある温泉地とこれらの温泉地に建てられている文学碑を中心に紹介する。
原著
  • 殿山 希, 周防 佐知江, 大越 教夫
    2014 年 77 巻 4 号 p. 306-313
    発行日: 2014/08/29
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
      2013年12月11日、スイスの温泉地バーデンを訪ねた。19の源泉があり、46.5度、pH6.43の硫黄泉で飲泉療法、入浴療法の両方に使用されている。ホテル内温泉入浴施設にはマッサージ室があり、医療マッサージ、リラクセーションマッサージ、美容マッサージなど多種多様な施術が行われていた。
      文献によれば、スイス国民の約半数が補完代替医療を行う病院を好み、病院内では、鍼治療や手技療法、マッサージが多く行われているという。バーデン医療センターでは、医療部門とセラピー部門があり、医師が行う手技(用手)医学 manuelle Medizin、理学療法士 Physiotherapeutenや医療マッサージ師 medizinische Masseureが行うさまざまな理学(物理)療法 Physiotherapie(手技(用手)療法 manuelle Therapie、funktionelle Bewegungslehre、バイオメカニックス分析、呼吸療法、固有受容器神経筋促通法、電気療法・超音波療法などを含む)やマッサージ(クラシックマッサージ、マニピュレーティヴマッサージ、リフレクソロジー、結合織マッサージ、リンパドレナージュ、ファンゴなどを含む)が行われていた。
      以上のように、スイスドイツ語圏のマッサージ・手技(用手)療法は、解剖学的組織別・物理的刺激別に系統的に分類され、それぞれ別名で記されていた。一方、日本の手技療法であるあん摩療法は、対象者の心身の状態に応じて施術を行う、いわば患者の主観に寄り添う療法であり、東洋医学の特色である全身的で個別的な色彩が強い。
  • 橋本 智江
    2014 年 77 巻 4 号 p. 314-323
    発行日: 2014/08/29
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
      近年、高齢者施設では個別ケアの展開がすすんできている。しかし入浴ケアにおいては、頻度や実施時間帯など利用者の個別のニーズへの対応が十分ではない状況がみられる。しかし介護保険施設の入浴ケア実施時間帯を調査した筆者の先行研究では、就寝前の時間帯に入浴ケアを実施している(以下、夜間入浴とする)と回答のあった施設がわずかながらみられた。これらの施設は、個別ケアの意識が高いことが考えられ、それぞれの施設の入浴ケアの取り組みから個別ケアを実施するための示唆を得たいと考えた。そこで本研究では、夜間入浴を実施している介護老人福祉施設(以下、特養とする)は、いかにして夜間入浴の実施を可能にしたのか、その取り組みの実際とアウトカムを明らかにすることを目的とした。
      先行研究の調査において夜間入浴を実施していた施設のうち、同意が得られた特養3施設の看護・介護管理者を対象として、聞き取り調査を実施した。聞き取り内容は逐語録に起こし、入浴ケアの実施方法については6項目で施設ごとに整理した。また夜間入浴を実施するために準備したこと、夜間入浴を行うようになって利用者やケア職員に起こった変化については語りの内容を検討し、同質のものをまとめて分類した。
      その結果、対象施設においては夜間入浴実施に向けて入浴ケア体制のみならず、施設全体のケア体制、勤務体制の変更が行われていた。また夜間入浴は、一般浴またはリフト浴で、マンツーマン体制でケアがおこなわれていた。さらに看護・介護管理者は、夜間入浴の実施によって利用者に入浴ニーズの充実、睡眠状況の改善、生活の質の向上がみられ、ケア職員のケアの充実、個別ケアの意識の向上がみられたと捉えていた。これらのことから夜間入浴の実施は、入浴時間帯の選択肢の拡大につながり、利用者の希望やこれまでの生活習慣を尊重した入浴ケアの実現につながることが示唆された。
  • —三重県菰野町におけるケーススタディ—
    森 康則, 出口 晃, 美和 千尋, 岩崎 靖, 鈴村 恵理, 前田 一範, 森 恵子, 浜口 均, 島崎 博也, 水谷 真康, 川村 陽一
    2014 年 77 巻 4 号 p. 324-332
    発行日: 2014/08/29
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
    目的:ラドン(222Rn)は希ガスであり、温泉成分のひとつである。温泉法および鉱泉分析法指針(改訂)では、74 Bq/kg以上のラドンを含むものを「温泉」、111Bq/kg以上のラドンを含むものを「療養泉」「放射能泉」と規定されている。県内でも有数の温泉保養地を擁する菰野町には、数多くの放射能泉が湧出している。今後、温泉による地域活性化のためには、これらの放射能泉の利用による安全性と効果を確認しておく必要がある。放射能泉の利用による実効線量を評価するためには、空気中、特に浴室のような高湿度の空気中ラドンの存在実態を把握する必要がある。
    方法:乾燥剤(Drierite 8メッシュの硫酸カルシウム W.A. Hammond Drierite Company製)を付属した活性炭型検出器(PICO-RAD AccuStar製)および液体シンチレーションカウンタ(LSC LB-5 日立アロカメディカル製)を使って空気中ラドンを測定した。DPO+POPOPトルエン溶液(和光純薬製)はシンチレータとして使用した。活性炭検出器は、放射能泉利用施設内および施設周辺に設置した。
    結果および考察:放射能泉利用施設内の空気中ラドン、浴室内および脱衣所内が約50 Bq/m3と高く、全ての階の廊下や客室、入口では10〜30 Bq/m3であった。温泉水中のラドンが施設内全体に移動し、充満したものと考えられる。施設の屋外では、温泉の湧出口付近のキャンプ場で12.5 Bq/m3であった。
      本研究により得られたデータを用いて、実効線量は1泊2日でその間に数時間の入浴を行う利用客を想定して計算した。これらの結果から、放射能泉の利用に伴う実効線量は、日常的な一般環境からの被ばくや医療被ばくに比べて充分に低いことが示された。これらの結果からこの温泉利用施設のラドンの安全性および活用可能性が示唆された。
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