日本温泉気候物理医学会雑誌
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77 巻, 3 号
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Editorial
総説
原著
  • 吉田 輝, 池田 聡
    2014 年 77 巻 3 号 p. 227-236
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
    目的:ラットの摘出排尿筋収縮と排尿反射に対する温熱の影響を検討した。
    方法:実験には18匹のSprague-Dawley系雌ラット(体重260~310g)を用いた。摘出排尿筋切片を用いた等尺性張力実験により、40°Cと42°Cの温熱が40mM KClによる収縮反応へ及ぼす影響を検討した。さらに、覚醒下持続注入シストメトリーにより、膀胱内へ40.7±1.0°Cの温熱を作用させることが排尿反射へ与える影響を検討する。
    結果:摘出排尿筋切片の40mM KClによる収縮を、40°Cの温熱が10%、42°Cの温熱が15.5% (p<0.05)それぞれ抑制した。覚醒下持続注入シスメトリーで膀胱内へ40.7±1.0°Cの温熱を作用させることにより、排尿閾値圧が14% (p<0.05)低下、静止圧が30% (p<0.01)低下した。排尿間隔時間は統計学的に有意ではなかった(p=0.07)が延長の傾向を示し、膀胱コンプライアンスは、17% (p<0.01)増加した。また、排尿反射の第2相収縮の収縮圧が22% (p<0.01)低下、収縮持続時間が36% (p<0.01)短縮し、膀胱収縮時間も26% (p<0.01)短縮した。最大排尿圧と第1相収縮持続時間には変化を認めなかった。
    結論:膀胱内に作用させた温熱は、膀胱平滑筋を弛緩させ、膀胱コンプライアンスを増加させるものと考えられ、脊髄損傷後の神経因性膀胱などで起こる低コンプライアンス膀胱の改善に有効である可能性が示された。温熱あるいは温泉の神経因性膀胱の治療への応用という観点からは、今後体表面から作用させた温熱の排尿機能への影響について検討を行う必要がある。
  • —膝陽関(GB33)と三陰交(SP6)との比較試験—
    百合 邦子, 坂口 俊二, 鍋田 理恵, 久下 浩史, 若山 育郎
    2014 年 77 巻 3 号 p. 237-249
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
    目的:本研究では、若年女性の冷え症に対する温筒灸治療の効果を、膝陽関(GB33)穴と三陰交(SP6)穴との比較試験で検討した。
    方法:対象は女子大学生13名(平均年齢20.7±1.3歳)とした。対象者を坂口らの判別分析による判定法に身長を考慮し、膝陽関群(6名)と三陰交群(7名)とに割り付けた。1週間の前観察期間を経て、介入期間には各経穴について温筒灸(長安NEO、山正)1~2壮を週2回で4週間行った。介入期間終了後2週間を追跡期間とした。評価には冷えを含む14症状の6件法と冷えの程度をVisual Analogue Scale (VAS)で回答する独自の評価票(冷え日記)を用いた。
    結果:13名中3名は前観察期間終了後に脱落し、解析対象は両群とも5名となった。2群間で年齢、身長、体重、BMI、VAS、愁訴得点などの初期値に有意差はみられなかった。VASおよび愁訴得点は、何れも群間と試験期間との間に交互作用はみられなかった。群別では、両群ともVASは前観察期間に比して介入期間、追跡期間とも有意な変化はみられなかった。愁訴得点については、両群とも介入開始より漸次減少したが、膝陽関群で介入期間3・4週目、三陰交群では介入期間4週目と追跡2週目で前観察期間と比して有意に減少した。また、愁訴得点を項目別に検討すると、膝陽関群には肩こり、口の乾きに、三陰交群には肩こり、口の乾き、イライラで有意差がみられた。具体的には、膝陽関群では肩こりは追跡期間1・2週目で有意に減少し、口の乾きは介入期間3・4週目で有意に減少した。一方、三陰交群では、肩こりは介入期間2・4週目、追跡期間1・2週目で有意に減少し、口の乾きは介入期間4週目、追跡期間2週目において、イライラは介入期間1・2・4週目に有意な減少を示した。
    結語:若年女性の冷え症に対する温筒灸治療は、膝陽関穴、三陰交穴ともに外気温が低下しても冷え症を悪化させることなく、随伴愁訴を改善させることが示唆された。
  • 中山 毅
    2014 年 77 巻 3 号 p. 250-256
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
      入浴習慣は国や文化により大きく異なるが、一方で時代による変遷もあり、近年ではシャワー浴が普及する等の変化が現れている。そこで、現代の妊婦の入浴習慣について調査すると同時に、妊娠経過に及ぼす影響につき検討した。
      2011年4月1日より2012年2月29日までに当院で出産をし、1ヶ月健診をおこなった褥婦204名を対象とし、無記名アンケートを実施した。アンケートは、入浴習慣、温泉浴に関する多肢選択法および自由記入法からなる。これらの結果と、妊娠経過中に起こったイベントにつき、後方視的に関連性を検討した。
      204名の妊婦の内訳は、初産婦が99名、1経産が76名、2経産以上が29名であった。産科合併症としては、切迫流産が12名、切迫早産が35名、早産が15例、妊娠高血圧症候群が7名、微弱陣痛が10名、前期破水が26名に認めた。一方で妊娠中の入浴習慣については、全例毎日入浴習慣があったが、内訳として、毎日シャワー浴を行う妊婦(シャワー浴群)が38名(19%)、週に1~3回の湯浴が45名(22%)、週4日以上の湯浴を行う妊婦(湯浴群)が121名(59%)であった。産科合併症を比較したところ、湯浴群において、妊娠高血圧症候群の頻度が高く、一方で微弱陣痛に関しては、シャワー浴群の方が多い傾向にあった。
      さらに、入浴習慣が外陰部の保清に影響するか、また細菌性腟症の原因や助長因子となるかについては、科学的根拠が乏しいが、本検討より湯浴を日常とする生活習慣が、腟内細菌叢やpHに影響を及ぼす可能性が示唆された。
  • ~非糖尿病患者、非温泉療法施設との比較検討~
    松村 美穂子, 増渕 正昭, 森山 俊男
    2014 年 77 巻 3 号 p. 257-265
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
      糖尿病に対する温泉療法の動脈硬化改善効果を検討した。更に、非糖尿病患者と温泉療法未施行糖尿病患者についても調査し、比較検討した。
    方法:対象は、(1)当院入院中の糖尿病患者104名、(2)当院入院中の非糖尿病患者60名、(3)他施設の温泉療法未施行の糖尿病患者28名。足関節上腕血圧比検査(ABI)を、入院時と退院時に施行した。
    結果:対象(1)糖尿病患者のABIは、右1.10±0.01→1.12±0.01へ有意に改善(p<0.01)。左も1.06±0.02→1.09±0.01へ有意に改善した(p<0.01)。しかし、対象(2)非糖尿病患者では、ABI右1.09±0.01→1.07±0.02、左1.08±0.01→1.06±0.02と変化が無かった。対象(3)温泉療法未施行糖尿病患者では、ABI右1.07±0.03→1.05±0.03、左1.05±0.03→1.06±0.03と、対象(2)と同様に変化が無かった。
    展開:対象(1)に対して、動脈硬化マーカー:Total PAI-1と高感度CRP、酸化ストレスマーカー:TNF-α、善玉アディポサイトカイン:アディポネクチンを、温泉療法の前後で測定した。Total PAI-1は低下傾向、高感度CRPとTNF-αは有意に低下、アディポネクチンは有意に上昇した。温泉療法による抗動脈硬化作用、抗炎症作用、血管内皮機能改善作用が示唆された。
    考察:本結果は、非糖尿病患者や温泉療法未施行糖尿病患者では得られなかった変化であり、より動脈硬化の強い糖尿病病変に対して、温泉療法が有益である可能性が示唆された。
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