日本温泉気候物理医学会雑誌
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84 巻, 2 号
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Editorial
原著
  • 河野 洋志, 近藤 照彦, 武田 淳史
    2021 年 84 巻 2 号 p. 59-64
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/01/29
    [早期公開] 公開日: 2020/11/06
    ジャーナル フリー

      血流制限を伴う筋力トレーニングは,低負荷強度にて成長ホルモンの分泌が起こり,筋肥大や筋力増加が得られるとされ,高齢者や有疾患者への臨床応用が期待されている.しかし,実施環境は陸上に限られ,水中で行った際の循環動態や成長ホルモン分泌動向については不明確である.そこで,水中での血流制限を伴う筋力トレーニングにおける,循環動態および血漿GHレベルの動向を探った.対象は健常大学生12名とし,利き手上肢のみを浸水させる局所群と剣状突起まで浸水する全身群に分けた.両群とも,上腕基部を加圧し浸水した状態で肩の屈伸運動を10分間行った.加圧量は両群それぞれ0 mmHg,50 mmHgの2条件にて行った.測定項目は循環動態項目として心拍数,収縮期血圧,拡張期血圧を,採血項目として血漿GHレベルを測定した.結果として水中での血流制限筋力トレーニングは,50 mmHg条件にてGHが分泌されることが明らかになった.また,局所的に浸水をさせて筋力トレーニングを行うことで,その部位は圧を加えなくても,GHの分泌が有意に高値を示した.一方,循環動態項目においては,いずれも有意な差は認められなかった.以上のことより,血流制限筋力トレーニングは加圧量に加え,浸水部分の影響を受けることが示唆された.

  • 美和 千尋, 島崎 博也, 水谷 真康, 森 康則, 前田 一範, 中村 毅, 出口 晃
    2021 年 84 巻 2 号 p. 65-74
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/01/29
    [早期公開] 公開日: 2020/11/18
    ジャーナル フリー

      背景:この研究の目的は,入浴直後,入浴中,浴槽から出た後の心血管および心理的反応を夏期と冬期と比較することである.

      方法:10人の若年被験者(29.6±1.5歳)を対象として,夏には40℃,冬は42℃で20分入浴を行った.冬期の室温と湿度は20.1℃,56.7%,夏期は27.0℃,58.3%.鼓膜温(Tty)は,サーミスタにより温度計で,収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)と心拍数(HR)は自動血圧計で測定し,HRとSBPの積値をダブルプロダクト(DP)とした.心理的な温熱感および快適感は,7点スケールを用いて評価した.

      結果:入浴直後には,両季節においてSBPとDPにおいて有意な増加を示した.他のパラメータには有意差は認められなかった.Tty,HR,DPでは,入浴中の冬期と夏期の間に有意差が認められた.出浴直後のHRとDPは,冬期は夏期に比べて有意な低下が示された.温熱感と快適感は,両季節で有意な負の相関が観察され,その相関の強さは冬期よりも夏期の方が大きかった.

      結論:入浴時の心血管への影響および心理的反応は,42℃の湯温である冬期の方が40℃の湯温である夏期に比べて大きい.しかしながら,冬期は夏期に比べ,湯温の高い入浴が快適感を損なわないため,入浴時間が長くなると考えられる.

  • 西村 典芳, 山中 裕
    2021 年 84 巻 2 号 p. 75-80
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/01/29
    [早期公開] 公開日: 2020/11/06
    ジャーナル フリー

      厚生労働大臣認定の温泉利用型健康増進施設「神戸みなと温泉蓮」において,1泊2日のリラクゼーションを主体にした温泉利用型健康増進宿泊型プログラムを開発し,参加者の介入前後で主観的評価と血圧・自律神経の測定から効果を検証し,短期宿泊による参加者の心身改善に貢献できる温泉利用型健康増進宿泊型プログラムの構築を目指した.調査対象者はプログラムに参加した女性31名(年齢53.4±7.3歳,身長158.5±4.9 cm,体重56.3±9.5 kg,BMI 22.4±3.4)とした.プログラムは,ベーシックヨガ・水中運動・ヒーリングヨガ・岩盤ホットヨガ・温泉入浴・ウエルネスウォーキング等を実施した.

      介入前後で,収縮期血圧(121.1±13.9 mmHg and 114.6±13.3 mmHg; p=0.0101)が低下し,拡張期血圧(79.0±16.0 mmHg and 72.8±16.6 mmHg; p=0.0027)も低下した.ccvTPによる自律神経の変化においては,有意な変化が確認されなかった.主観的調査として,チャルダーの疲労調査の総合疲労(3.07±2.29 and 2.11±2.10; p=0.0080)も減少し,その内訳として,身体的疲労(2.37±1.68 and 1.81±1.66; p=0.0487)は減少したが,精神的疲労(0.70±0.94 and 0.30±0.76; p=0.0459)は増加していた.今回のプログラムは,介入1週間後でも身体的疲労低減効果が高く,精神的疲労低減効果については,プログラムの改善の必要性があると考えられる.今回短期的には,自律神経の変化が確認されなかったが,チャルダーの疲労調査の総合疲労の改善から,長期滞在に対する自律神経改善の可能性が考えられる.しかしながら,この効果については,さらなる調査が必要と思われる.

  • 河野 洋志, 近藤 照彦, 日向 裕二, 武田 淳史
    2021 年 84 巻 2 号 p. 81-86
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/01/29
    [早期公開] 公開日: 2021/02/16
    ジャーナル フリー

      水中ウォーキングは,浮力や抵抗,水圧,水温等の水の物理的特性が関与し,関節への負担軽減や筋力向上等に有効とされている.しかし,高齢者の血圧変動に関しては一定の見解が得られず不明確である.そこで,高齢者への水中ウォーキングが血圧に与える影響を探った.対象は介護予防教室に通う女性48名とし,初回の血圧測定値から高血圧の診断基準に沿って,高血圧群27名と対照群21名に分けた.両群とも,準備体操10分間,水中ウォーキング(前歩き,後ろ歩き,横歩き)15分間,休憩を10分間挟み,再び10分間歩いた.これを週1回の頻度で5週間行った.測定項目は収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数,平均血圧を測定した.結果として高齢者に対する水中ウォーキングは,高血圧群において1週間後より収縮期血圧が,3週間後より拡張期血圧と平均血圧が有意に低下することが明らかになった.対照群においては有意な変化は認められなかった.一方,水中ウォーキング前後の即時効果の比較では,対照群で水中ウォーキング後に収縮期血圧と拡張期血圧が有意に上昇し,心拍数は低下した.高血圧群においては数値の改善が見られた5週間後に対照群と同様に収縮期血圧と拡張期血圧が有意に上昇し,心拍数は低下した.以上のことより,高齢者に対する水中ウォーキングは高血圧の診断基準に該当する者に対しては継続的に行うことで血圧を低下させるが,高血圧でない者が行う場合は水中ウォーキングを実施すると即時的に血圧が上昇するため,体調等に留意しながら実施することが必要であることが示唆された.

短報
  • 中西 亮介, 武内 孝祐, 秋月 千典, 中越 竜馬, 柿花 宏信
    2021 年 84 巻 2 号 p. 87-92
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/01/29
    [早期公開] 公開日: 2021/03/16
    ジャーナル フリー

      背景:神経筋電気刺激(NMES)は,効果的なウォームアップ介入として注目されている.NMESは,筋肉パフォーマンスの指標である発達速度(RFD)の増加を示すが可動域(ROM)を増加させるかどうかはいまだに解明されていない. ROMは,筋腱単位(MTU)の剛性と筋伸展性の許容範囲の変化に起因する. MTU剛性が低下すると,筋肉のパフォーマンスが低下する傾向があることはよく知られている.したがって,ROM増加と筋肉のパフォーマンスを向上させるには,MTUの剛性を変更せずに,筋肉の伸展性に対する耐性を高める必要がある.この研究の目的は,ウォームアップとして使用される5秒間のMVICトルクレベルの20%でのNMESが,MTU剛性を変更せずに筋肉の伸張性に対する耐性の増加に続いてROMを改善するのに有効かどうかを調査することとした.

      方法と結果:13人の健康な男性被験者に対して20%MVICレベルでのNMESを5秒間実施した.NMES前後に最大ROMと標準化されたトルク(30N)を備えたROMを測定した.最大ROMは,NMES介入側での介入前と比較して介入後は増加した.一方でNMES非介入側では有意な変化がみられなかった.さらに,NMES介入側,非介入側において標準化されたトルクを使用したROMに有意差はみられなかった.

      結論:20%MVICで5秒間のNMESは,MTU剛性を変更せずに筋肉の伸張性に対する耐性を高めた後,ROMを増加するのに効果的であることがわかった.

報告
  • 藤本 和弘
    2021 年 84 巻 2 号 p. 93-103
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/01/29
    [早期公開] 公開日: 2021/01/13
    ジャーナル フリー

      環境省が推進する「新・湯治」政策においては,温泉地における長期滞在需要を高めるための滞在プランづくりが求められている.どのようなプランづくりが進められているかを,国民保養温泉地を中心に調査した報告がある.それによれば,温泉地周辺の5つの外部環境資源の活用とその組み合わせが提案されている.すなわち,自然環境を活かす,歴史文化環境を活かす,人工環境や施設を活かす,移動して異環境を活かす,夜の時間帯を活かす,の5つである.本報告では,この5類型の活かし方が妥当かどうかを,休暇村で提案されている滞在のためのプログラムで検証を試みる.また,提案されているプログラムが滞在需要を高めるかどうかも評価した上で,改善点を提案する.

      本報告で取り上げる休暇村は,リトリート安曇野ホテル,乗鞍高原,南伊豆,富士,能登千里浜,越前三国,近江八幡,南淡路,竹野海岸,南紀勝浦,蒜山高原の11休暇村である.

      その結果,5類型には妥当性があり,5つの外部環境資源を活かし組み合わせた滞在のためのプログラムづくりの必要性が検証された.また,プログラムづくりにおいては,ウォーキングコース沿線に存在する外部環境資源の多様性よりも,プログラムを実行する発着地への近接性とプログラムを完遂させる時間である持続性が重要になることも示された.

特別報告
  • 森 康則, 上岡 洋晴, 堀内 孝彦, 林 敬人, 大村 浩一郎, 山口 智, 加藤 光敏
    2021 年 84 巻 2 号 p. 104-113
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/01/29
    ジャーナル フリー

      日本温泉気候物理医学会学術委員会では,中高年の2型糖尿病の外来患者における入浴習慣と血糖コントロールとの関連性を明らかにするため,全国の多施設間横断研究プロジェクトを実施した.温泉療法医会の協力を得て,サンプル数838(男性n=528 62.8±8.7歳・女性n=310 65.0±8.1歳)にのぼる大規模かつ貴重な調査データが得られた.これらのデータを用いた多重ロジスティック回帰分析を含む統計解析により,低頻度の入浴習慣と血糖コントロール不良のリスクの有意な関連性が認められた.

      このことを含め,入浴習慣の維持と改善は,COVID-19の重篤化の危険因子として考えられている糖尿病の患者が,新しい生活様式下でも実施可能なQOL改善につながる可能性を,別報により報告した.

      本論では,同一のデータセットを使用してさらなる探索的解析を進めた結果を報告する.これらの結果は,今後の研究デザインに活用できる可能性がある.

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