日本温泉気候物理医学会雑誌
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79 巻 , 3 号
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Editorial
総説
  • 矢野 一行
    2016 年 79 巻 3 号 p. 176-190
    発行日: 2016/10/31
    公開日: 2017/03/10
    ジャーナル フリー

      温泉医学の先進国であるドイツを中心としたヨーロッパ諸国では科学的根拠に基づいた温泉治療が専門医を配置した温泉病院や医療施設で広く行われている.一方,世界でも類をみない温泉大国のわが国では,温泉は湯治や,観光,レジャーなどによる“気分”的利用が中心をなし,温泉を科学的に究明し,近代医療の相補療法(Complementary Medicine)として活用し,国民の健康に役立てようとする総合的な取り組みはなされていない.

      限られた小面積の伊豆半島には,海底火山,陸上複成火山,そして単成火山,それぞれの時代の地層がモザイク的に分布し,それらの地層にはさまざまな泉質の温泉が散在している.このような場所は世界でも珍しく,温泉の本質を科学的に究明するには最適な場所と考えられる.そこで,これらの温泉地を訪れ入手した情報を基にそれぞれの温泉の特性を明らかにし,今後の温泉研究の方向性を示すことを目標とした.

      今回調べた伊豆半島の温泉は,弱アルカリ性かアルカリ性の硫酸塩泉,塩化物泉,単純温泉の3種類であり,非火山性温泉には珍しく,殆どが高温泉である.西伊豆・中伊豆の古い地層の硫酸塩泉の起源は海底火山によるグリーンタフ(Green tuff)岩石中の硬石膏によるもので,基本成分である硫酸イオンの濃度は非常に高く,高い薬理効果が期待される.また,塩化物泉には,東伊豆の地下深部のマグマの熱源による海洋水の熱水対流系で形成された温泉と,南伊豆の地下深部の熱水に地表付近で海洋水が混入した高張性温泉がある.単純温泉は,古い地層の西伊豆・中伊豆では硫酸塩泉の性質,東伊豆では硫酸塩泉と塩化物泉の性質,南伊豆では硫酸イオンの量は少ないが,相対的に炭酸水素イオンや炭酸イオンなどの割合が増え,それぞれ特徴のある性質の温泉になっている.

      伊豆半島のこれらの温泉を活用し,温泉医学の確立を目指すには,下記の研究課題の解明が待たれる.

    (1)特徴ある温泉の源泉と浴槽の温泉水の物理化学成分の直接比較:温泉水の地上に湧出直後から浴槽に至るまでの間に変化した物理化学的性質を検討する.

    (2)飲泉可能な温泉水に含まれているミネラル成分の定量分析:特に,抗酸化酵素に含まれているミネラル類と日常生活で不足しがちなミネラルを中心に検討する.

    (3)実験動物やiPS細胞などによる硫酸塩泉の薬理効果の指標の作成:硫酸塩泉のそれぞれ陽イオンと陰イオンの組み合わせによる薬理効果を動物や細胞等を用いた客観的指標で評価する.

    (4)高張性塩化物泉の浴用によるセシウム137とストロンチウム90のデトックス効果の検討:福島第一原発事故や廃炉関連の仕事で被曝した人が,これらの放射性元素の同族元素を多く含む温泉に入浴することによって,放射線被曝を軽減できるかどうかを検討する.

    (5)単純温泉の浴用による医療被曝障害の予防効果の検討:わが国は放射線診断や放射線治療による医療被曝障害が非常に高い国であるので,入浴によってこの被曝障害を予防・軽減できるかどうかを検討する.

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