日本温泉気候物理医学会雑誌
Online ISSN : 1884-3697
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85 巻, 2 号
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Editorial
総説
  • 上岡 洋晴, 早坂 信哉, 武田 淳史
    2022 年 85 巻 2 号 p. 25-36
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/03/09
    [早期公開] 公開日: 2021/10/25
    ジャーナル フリー

      本研究は,温泉施設や公衆浴場の利用はCOVID-19に感染するリスクは低いというエビデンスの収集を第1の目的とし,さらに入手した報告を中心として温泉医学分野において取り組むべき研究課題の包括整理を行うことを第2の目的とした.

      文献データベースは,CINHAL,Chochrane Library(Clinical Answer, Cochrane Protocol, Cochrane Review, Editrials, Special Collections, Trials),医中誌Web,MEDLINE,Web of Science Core Collectionを用いた.それぞれのデータベースにおいて,開設されてから検索をした2021年7月26日までの結果を採用することとした.介入研究及び実験的研究の場合には,次の変形型のPICOSとした.P(Participant:参加者-疾患の有無にかかわらず制限なし),I(Intervention:介入-普通の呼吸あるいは意図的にくしゃみやせき,会話をする行為),C(Comparison:比較対照-制限なし),O(Outcome:アウトカム-浴室や脱衣室での室内空気の流れや飛沫の動態と飛沫をシミュレートしたマーカー),S(Study design:研究・実験デザイン-コントロール群のない介入研究・実験を含む)を,観察研究の場合には,PECOS,P(参加者:疾患の有無にかかわらず制限なし),E(Exposure:曝露-公衆入浴施設),C(比較対照-制限なし),S(研究デザイン-横断研究,コホート研究,ケース・コントロール研究)とした.

      第1目的において,適格基準に合致した研究は0編で,温泉施設や公衆浴場の利用はCOVID-19に感染するリスクは低いというエビデンスを現時点では示すことができなかった.第2目的に関しては,関連する先行研究が15編あった.COVID-19に強く影響される社会において,チャレンジすべき4つの研究課題をエビデンス・マップの位置づけで提案することができた.「A.温泉施設や公衆浴場の利用はCOVID-19の感染リスクが低いこと」,「B.温泉の泉質や公衆浴場の室温・水温がSARS-CoV-2を不活性化・弱毒化させること」,「C.温泉施設,公衆浴場,家庭での入浴習慣はCOVID-19の予防や症状の軽減につながること」,「D.入浴によってCOVID-19罹患後の患者の多様なリハビリテーションにつながること」であり,それぞれに適合した研究方法論でのアプローチが必要だと考えられた.

原著
  • 岩下 佳弘, 渡 孝輔, 前田 曙, 杉本 和樹, 山田 しょうこ, 飯山 準一
    2022 年 85 巻 2 号 p. 37-47
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/03/09
    [早期公開] 公開日: 2021/10/14
    ジャーナル フリー

      温熱治療によって増加する熱ショックタンパク質(heat shock protein, Hsp)は,アポトーシスを阻害し,尿細管の生存能力を維持し,腎保護に作用する.その一方で,近年,嚢胞性腎疾患においてHspが治療ターゲットとなり得ることが示された.そこで,我々は,多発性嚢胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease, ADPKD)モデル動物を用いて,サウナ介入を反復させたときのADPKDへの影響について調査した.我々は,DBA/2FG-pcy(pcy)マウスを用い,サウナ介入を実施し,脱水予防のために4%スクロース水を摂水させた(TS)群,4%スクロース水のみを摂水させた(SW)群,および,サウナ介入を行わないコントロール群の3群(各n = 3)で実験を行った.熱負荷には遠赤外線サウナ装置を用い,マウス直腸温を約39℃に上昇させ30分程度維持した.1週間に2回のサウナ介入を4週間実施した.

      実験終了時のクレアチニンやBUN値に有意差は認められなかったが,TS群は他よりもわずかに高い値を示した.しかしながら,TS群とSW群の嚢胞の成長はcontrolに比して軽減しており,Hsp90の発現は有意な減少を示した(p < 0.01 or p < 0.001, vs. control).またTS群では,嚢胞形成や増殖に関与するErkの有意な減少が認められた(p < 0.05, vs. control).Hsp27の発現およびリン酸化はTS群で増加し,caspase-3の発現は減少傾向であったが,活性化に差は認められなかった.

      4週間のサウナ介入は,一時的な脱水とそれに伴う腎機能低下のリスクや熱負荷に伴うHsp27の発現増加による嚢胞形成や増殖を刺激するリスクを示唆するものであった.その一方で,熱負荷直後に適切な水分多量摂取を実施すれば,脱水予防と同時に嚢胞成長の抑制が期待できると考えられた.

  • 美和 千尋, 島崎 博也, 水谷 真康, 森 康則, 前田 一範, 中村 毅, 出口 晃
    2022 年 85 巻 2 号 p. 48-58
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/03/09
    [早期公開] 公開日: 2022/03/07
    ジャーナル フリー

      加齢は入浴中の体温応答および循環動態に影響を及ぼし,身体機能において様々な変動を引き起こす.これらの変動は入浴中の事故の原因の一つとなり,最悪の場合は死に至ることがある.しかし,この入浴中の変動に関する十分なデータは少ない.そこで,この研究では,入浴中の体温応答および循環動態の変動を測定し,高齢者と若年を比較して加齢の影響を明らかにすることを目的とした.被験者は若年者10名(平均年齢:20.4歳)と高齢者10名(平均年齢:69.7歳)を対象として,41°C15分間の入浴を行った.入浴中には鼓膜温(Tty),皮膚血流量(SkBF),発汗量(SR),血圧,心拍数(HR)およびダブルプロダクト(DP)を測定した.加えて,入浴中の主観的心理反応も測定した.結果は,入浴時に若年者のSkBF,SR,およびHRは高齢者に比べて大きかった.しかし,高齢者の入浴では収縮期血圧(SBP)が若年者に比べて有意な変動を示した.これらは,加齢による身体の構造的・機能的変化が影響していることが示唆された.

短報
  • 志和 悟子, 永田 勝太郎, 大槻 千佳, 杉岡 哲也
    2022 年 85 巻 2 号 p. 59-66
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/03/09
    [早期公開] 公開日: 2021/10/27
    ジャーナル フリー

      目的:5日間の温泉治療による糖化反応および酸化バランス防御系を検討した.

      対象:対象は血糖値スパイクを呈した群(S群:5例)と非血糖値スパイク群(Non-S群:6例)であり,比較検討をした.

      方法:犬吠埼温泉「絶景の宿犬吠崎ホテル」に5日間宿泊し1日2回,1回20分,温泉入浴をさせた(温泉療法).その前後で糖化度を測定した.暗視野顕微鏡による赤血球変形を0から5までの6段階に分類し,変形の状態と最終糖化産物(AGEs値)の測定を行った.また,酸化ストレス(d-ROM値),抗酸化力(BAP値),潜在的抗酸化能(BAP/d-ROM比)も同時に測定した.

      結果:温泉療法前の赤血球像は,S群で悪化していたが,AGEs値に有意差はなかった.酸化バランス防御系についても両群に有意差はなかった.温泉療法前後の比較を行うと,赤血球像はS群では3°(3〜3)(median(IQR))から2(1〜2)へと有意に改善した.酸化ストレスもS群で,342 CARR U(334〜362)から314(303〜345)へと有意に改善した.Non-S群では,AGEsが0.52 a.u.(0.48〜0.59)から0.5(0.43〜0.53)へと有意に改善した.他の項目には有意差はなかった.

      考察:赤血球像の変化は,糖化の前期反応の変化と考えられAGEsは糖化の前期〜後期反応全体を表すと評価できる.S群では前期反応の改善があったと考えられ,Non-S群では糖化反応全体に効果があったと考えられた.対象者の血糖値の動態により作用機序は異なるものの,温泉療法は糖化改善に効果があることを窺わせた.

報告
  • 鏡森 定信
    2022 年 85 巻 2 号 p. 67-74
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/03/09
    [早期公開] 公開日: 2021/10/27
    ジャーナル フリー

      富山市角川介護予防センターは2011年に市街中心地に開設されました.高齢者の健康と福祉増進を目的に当センターで汲み上げた温泉水を使用して定期的に身体運動コースを提供してきました.これらの活動は,市全体をカバーするすべての32の地域包括支援センターと連携して行われており,利用者もその全管轄下に広がっています.

      この10年にわたる私たちの活動から得られた主な所見と示唆は,以下の通りでした.

      1.通所者の年間の延べ数は年間約6万から9万に増加しました.そのうちの約4分の1は,地域包括支援センターを介した65歳以上のQOL(Quality of Life)ツアー会員で,3か月を1単位として週に2回,無料送迎バスで利用しており,これ以外の会員は40歳以上で自分に合った頻度と内容で利用しています.QOLツアー会員の70〜80%は75歳以上で徐々に増加しました.その他の会員では,この割合は10年間20〜30%でした.

      2.33〜36°Cの温泉水での身体運動(歩行,ストレッチ&フレックス,関節-筋骨格系の痛みに対する水中運動)に加えて床上運動としてのそれらも行ってきました.これらの運動強度は,体力測定である5 m歩行,30秒チェアスタンドテスト(CS30;30秒間に椅子から立ち上がった回数),タイムアップアンドゴーテスト(TUG;座位でスタートし,無理のない速さで歩き,3 m先の目印で折り返し,スタート前の座位に戻った時間),握力,ファンクショナルリーチ(立位で腕を伸ばし前方へ届く最大距離),長坐体前屈(両膝を曲げずに下肢を伸ばして座り腰関節を前屈させ,指先が届いた距離)そして医師の診察に基づいて最大心拍の30,40,50%の3レベルに決められます.

      3.3か月ごとの体力測定値のフォローアップでは,5 m歩行,握力およびCS30は,定期的な検査としての有用性から妥当な項目であることが分かりました.また,これらの縦断的経過は利用者の状況を知り対処に有用でした.

      この10年間で,利用者を市全域に広げました.しかし,新しい人の割合は毎年数パーセントにとどまり,その増加は,想定以上に少なく利用者は固定化する傾向にあります.健康と福祉の増進サービスを必要とするが,センターをまだ利用したことがない人々の利用拡大を図るため,地域包括支援センターとより緊密なコミュニケーションを取ることが一層重要です.さらに,真の予防のために中年期の人々の当センターの利用の促進も求められます.

  • 藤本 和弘
    2022 年 85 巻 2 号 p. 75-82
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/03/09
    [早期公開] 公開日: 2022/02/10
    ジャーナル フリー

      これまで3報にわたり筆者は,「温泉地における長期滞在需要を高める取り組み」を調査報告してきた.対象地は国民保養温泉地と休暇村であった.そこでは,滞在施設周辺に存在する自然環境,歴史文化環境,人工環境や施設,移動しての異環境,夜の時間帯,の5つを活かし組み合わせた滞在のためのプログラムづくりの必要性を指摘した.

      本報告では,低廉で家族連れでも安心して泊ることができる国民のための宿舎の一つである公営国民宿舎を対象としてプログラムづくりを調査した.公営国民宿舎周辺の外部環境を活かした散策コースの設定等滞在のためのプログラムづくりへの取り組みが行われているかどうかを調査した.

      その結果,取り組みはなされてはいるものの,コース設定の数や多様性が不足している状況が見られた.長期滞在需要を高めるためには,既存集落との近接性をも活かした外部環境の活用が求められよう.また,環境省が進める「新・湯治」政策が周知されていない状況も明らかになり,全国の温泉地の活性化のためには,この政策の周知の推進が必要と思われる.

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