日本温泉気候物理医学会雑誌
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76 巻, 2 号
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Editorial
原著
  • 美和 千尋, 河原 ゆう子
    2013 年 76 巻 2 号 p. 97-104
    発行日: 2013/02/28
    公開日: 2013/10/23
    ジャーナル フリー
      この研究の目的は、ミストサウナ入浴中の等張性運動が酸素摂取量に及ぼす影響を運動のみと比較検討することである。
      若年健康男性10名(平均年齢20.5歳)を対象として、呼吸代謝測定装置を用いて酸素摂取量・呼吸数を、サーミスターを用いて鼓膜温を連続的に、オシロメトリック血圧計を用いて心拍数を安静時、課題負荷5、10分後とその後の安静時に、体重を実験前後に測定した。課題としてミストサウナ入浴のみ、ミストサウナ入浴と等張性運動、熱的中立環境下で等張性運動のみの3条件を行なった。課題前の安静を10分、課題を10分、課題終了後の安静を20分間行なった。ミストサウナ入浴環境は温度38℃、湿度100%RHとし、安静のための部屋は室温28℃、湿度52%RHに維持した。
      ミストサウナ入浴中の運動は熱的中立環境下での運動に比べて、課題10分間の酸素摂取量、鼓膜温、心拍数が有意な増加を示し、体重が有意に減少した。また、ミストサウナ入浴中の運動による酸素摂取量は、熱的中立環境下での運動によるものとミストサウナ入浴のみのものを加算した値より大きかった。これは、ミストサウナ入浴による温熱作用と運動の相乗効果によるものと考えられた。
      これらのことより、ミストサウナ入浴時に運動をすることは、熱的中率環境下で運動するよりエネルギー代謝を促進するため、メタボリックシンドロームの予防に寄与すると考えられ、健康維持に役立つ方法であることが示唆された。
  • 藤本 英樹, 林 知也, 坂井 友実, 宮本 俊和
    2013 年 76 巻 2 号 p. 105-116
    発行日: 2013/02/28
    公開日: 2013/10/23
    ジャーナル フリー
    【目的】酸化ストレスマーカーであるグルタチオンは、運動により変動することが知られている。そのため、スポーツ選手の疲労を把握する手段の1つに用いられている。本研究の目的は、一過性の高強度運動により変動する血中グルタチオンに対する鍼通電刺激の影響を検討することである。【方法】健常成人男性12名を対象とし、鍼通電(EA)群と無刺激対照(CONT)群を設け、低周波鍼通電刺激の影響を検討した。オールアウトまでの漸増運動負荷は自転車エルゴメーターを用い、負荷中の呼吸代謝を記録した。評価は、還元型グルタチオン(GSH)、酸化型グルタチオン濃度/総グルタチオン濃度(GSSG/tGSH)により行った。【結果】呼吸代謝は、両群で有意差は認められなかった。両群間における運動負荷前後でのGSH、GSSG/tGSHの変化量に有意差は認められなかった。各群内においてEA群では、運動負荷直後にGSHが有意に増加し(p<0.05)、GSSG/tGSHは有意に減少した(p<0.05)。一方、CONT群は、運動前後で有意差は認められなかった。【結論】両群間での各グルタチオンの指標において、運動による変化量に有意差は認められなかったものの、EA群では運動負荷前後でのGSH、GSSG/tGSHは、有意な変化を認めたため、鍼通電刺激は運動負荷によるグルタチオンの変動に影響を与えた可能性が考えられる。
  • 橋本 智江
    2013 年 76 巻 2 号 p. 117-123
    発行日: 2013/02/28
    公開日: 2013/10/23
    ジャーナル フリー
      高齢者施設における入浴ケアは、頻度や時間帯など高齢者の施設入所前の生活習慣と異なっている現状がある。また入浴には睡眠導入効果があり、高齢者に多くみられる睡眠障害の改善に寄与することが考えられる。そのため高齢者施設における入浴ケアは、利用者のこれまでの生活習慣や睡眠への影響を考えて、時間帯を選択し個別のニーズに対応する必要があると考える。そこで本研究では、高齢者施設における入浴ケアの課題を検討することを目的として、介護保険施設における入浴ケアの実施時間帯に関する実態調査を行った。方法は,対象とした3県の全ての介護保険3施設(特養、老健、療養型)の看護·介護管理者宛てに調査票を郵送し、入浴ケア実施時間帯とその選定理由について回答を得た。対象とした444施設のうち、246施設から回答が得られた(回収率55.4%)。その結果、「午前」や「午後」の時間帯と合わせて「夜間」の時間帯に入浴ケアを実施している施設は1.6%であり、それ以外の施設は、夕食前までの時間帯に入浴ケアを実施していた。入浴ケア実施時間帯の選定理由は「職員が多く配置されている時間であるため(夜間は職員が少ないため)」が最も多く、次に「他の日課·業務との兼ね合い」であった。入浴ケアは要介護度が高い利用者への安全面への配慮から、ケア職員が多く配置されている時間帯を選択している施設が多く、施設·職員の都合が優先されている。しかし入浴の睡眠に対する温泉医学的知見に基づいた介入方法などを検討することによって、利用者の個別のニーズにあった入浴ケアの実施につながり、入浴ケアの質の向上につながっていくことが考えられた。
  • 中島 美和, 井上 基浩, 糸井 恵, 北小路 博司
    2013 年 76 巻 2 号 p. 124-132
    発行日: 2013/02/28
    公開日: 2013/10/23
    ジャーナル フリー
    目的 : 頸椎症性神経根症による上肢症状を有する患者を対象に、頸部への鍼治療を行い、臨床効果を確認した。
    方法 : 頸椎症性神経根症と診断され、上肢痛·異常感覚を有する患者15名16肢を対象とした。全ての患者に対し、障害高位を中心とした頸部傍脊柱部の中から緊張·硬結などの反応を認める部位、最大10ヵ所を施術部位として、週1回の割合で計4回の鍼治療を行った。施術には直径0.18mmのステンレス鍼を使用し、10∼20mmの深さまで刺入後、雀啄術(1Hz、20sec)を行い、抜鍼した。評価として、各回の治療前と治療終了1ヵ月経過時に症状の程度についてVisual Analogue Scale(VAS)を記録した。併せて治療前と4回の治療終了時、および治療終了1ヵ月経過時にNeck Disability Index(NDI)と頸部神経根症治療成績判定基準を用いてQOL評価を行った。
    結果 : VASの経時的変化パターンに関して、全てにおいて有意な変化を認めた(頸肩部痛 : p<0.0001、上肢痛 : p<0.0001、上肢異常感覚 : p<0.001)。また、QOL評価についても、NDI、頸部神経根症治療成績判定基準何れにおいても同様に有意な変化を認めた(NDI : p<0.0001、頸部神経根症治療成績判定基準 : p<0.0001)。治療前と4回目の治療前の比較において有意差を認めたことから治療の継続による効果が確認され(p<0.001)、さらに、治療終了時と治療終了1ヵ月経過時の比較においては有意差を認めず、一定期間における治療の持続効果が確認された(p=0.52)。
    考察 : 今回の結果から、頸部への鍼治療は本疾患による頸肩部の症状のみならず、上肢症状に対しても継続効果、持続効果を示すことが確認でき、保存療法の第一選択肢として有用であると考えた。頸部への鍼治療が上肢症状をも軽減させた機序としては、頸部傍脊柱部筋群への刺鍼が、それらを支配する脊髄神経後枝への刺激となり、同高位で分枝した前枝へも反射性の影響を与えた結果、前枝が支配する上肢の痛みの抑制や神経血流へ有益に作用した可能性を考えた。
特集
寄稿
  • 殿山 希, ジュアンド 康子, 成島 朋美
    2013 年 76 巻 2 号 p. 137-146
    発行日: 2013/02/28
    公開日: 2013/10/23
    ジャーナル フリー
      2012年3月19∼28日、フランスに滞在して現地でスパセラピーを視察する機会を得た。
      SPAセラピーとは、「水による健康法」の意味で、温泉水を用いる温泉療法le thermalisme、海水を用いる海洋療法la thalassothérapie、水を用いる水治療法la balnéothérapieを指し、フランス自然療法のひとつである。
      フランスには、89ヵ所の温泉地がある。18日間(日曜を除く3週間)の温泉地滞在での温泉水を用いた治療である温泉療法に国の健康保険が適応となる。一方、海洋療法は、現在はリラクセーションとして扱われている。
      温泉療法と海洋療法では、ジェットバス入浴、シャワーマッサージ(シャワー圧注)、マッサージ、プールでの運動法、泥療法(泥パックとラッピング)など同様の施術を行うが、使用している水(温泉水·海水)、目的(病気の治療·ウェルビーイング)、対象(患者·一般健康者)、施術を行う者(医療マッサージの免許を持つ人·エステティシャンや水治療法士)が異なる。また、温泉療法センターにおいても、治療部門とリラクセーションスパでは、同様の違いがあった。
      フランスでは、マッサージとは医療マッサージを指し、masseur-kinésithérapeuteの国家資格を持つ人が行い、国の健康保険の適応となる。病院や温泉療法センターで働き、また、開業権も持つ。
      一方、ウェルビーイングを目的とした施術は法的規制を受けず、医療的目的で行われるmassageとは区別されており、エステティシャンの資格を持つ人が主に行っていた。
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