日本生気象学会雑誌
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20 巻, 1 号
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  • 横山 真太郎, 荻野 弘之
    1983 年 20 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 1983/04/15
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    呼吸放熱量Qres [kcal/h] の算定方式についての新たな提案と多方面で採用されてきたFanger (1970) によるそれとの異同を検討した。呼吸放熱量は呼気, 吸気それぞれのもつエネルギ差である。従って, 呼気量Ve, 吸気量Va [kg dsy air/h] および呼気呼気のエソタルピie, ia [kcal/kg dry air] により, 式 (1) として定義される。Qres=Veie-Vaia (1) ここで, Veは実測され, Vaは不活性ガスの不変性を用い, 算定される。iaは気温Ta [℃] ならびに絶対湿度Xa [kg/kg dry air] より容易に求まる。ieは各々の呼気のガス成分比により異なる値をとりうる。これに対して, FangerにおけるQres算定の原式は他のいくつかの報告と同様, 式 (5) の様式をとっている。Qres=Ve [575 (Xe-Xa) +0.240 (Te-Ta) ] (5) かつFangerは総代謝量M [kcal/h] よりVeを式 (6) から求め, 最終的には環境の水蒸気分圧をPa [mmHg] として, 式 (7) のようにまとめている。
    V=0.0060M (6) Qres=0.0023M (44-Pa) +0.0014M (34-Ta) (7)
    33名の青年男子に対してVe, 酸素・二酸化炭素・不活性ガスの成分比ならびにMの測定を行った。日常生活に頻出する各種安静姿勢, 立位姿勢および静的筋作業につい七総計387組の資料を得た。式 (6) はこれらの実測値に対して過小評価するという結果となり, その相対誤差の平均は25.88%であった。次にQresの式 (1) と式 (5) の比較では, 式 (5) が式 (1) より小さな値を示し, その差はVeの増大とともに拡大する傾向にあった。387例についての式 (5) の式 (1) に対する相対誤差の平均は, 5.45%であった。従って, 少くとも日常生活に頻出する低代謝レベルのQres算定の際, 式 (6) に依存している式 (7) に基づくと, 多大な誤差が生じ, 正確な値は望めないことが判明した。精度のよいQres算定には, Veおよびそのガス成分比を用いて, 式 (1) に依拠することが望まれ, 従来の方式を用いるのであれば, Veの値に対して十分な配慮を要すると考えられた。
  • 白木 啓三, 佐川 寿栄子, 今田 育秀, 中山 英明
    1983 年 20 巻 1 号 p. 8-15
    発行日: 1983/04/15
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    高気圧環境では伝導及び伝達性の体温喪失が増加し1気圧での中性温域 (28~30℃) では体温の下降が認められる。特に飽和潜水において用いられるヘリウム加圧においてはその傾向は著しい。高気圧環境において尿量の増加することが最近知られるようになったが, その機序については不明である。今回31気圧ヘリウムー酸素環境をシミュレートし気温を31.5±0.3℃に保ち, 3日間にわたり4人の被験者の水分出納を測定した。睡眠時も含め連続測定を行った直腸温及び皮膚温はこのような室温条件では31気圧でも低下しなかった。31気圧では1日尿量の有意な増加と, これに見合うだけの蒸散量の減少がみられた。31気圧では全水分摂取量は、1日600ml減少し水分バランスは負であり, これが体重減少及び血液濃縮に反映した。このような負の水分バラソスは1気圧への減圧終了と共に消失した。1日尿量の増加はすべて夜間 (2200~0700h) の尿量の増加によるものであった。糸球体炉過量や浸透圧クリアラソスには変化はみられず, このような尿量の増加は尿細管における水再吸収の低下によるものであることが判明した。各被験者の睡眠中のベヅドサイドの気温は31.7℃に保たれ, 又睡眠中の皮膚温の連続測定の結果からも夜間の尿量の増加の原因は寒冷刺激にはよらないことが判明した。
  • 佐藤 尚武, 東 隆暢, 高島 慎助, 吉田 豪
    1983 年 20 巻 1 号 p. 16-22
    発行日: 1983/04/15
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    30才台および40才台の何らかの振動障害をもつ男子振動工具取扱労働者45名 (V群) と, 同年代の健康な男子27名 (H群) について, 冬季の午後に, 室温22~24℃, 温度50~70%の室内で, 一時間以上の安静状態の後, 右手を手関節まで5℃の水に10分間浸漬させ, 第3指未節掌側中央部の皮膚温変化を測定した。
    1) V群の冷水浸漬前の皮膚温 (BT) の平均値30.34℃は, H群の平均値32.44℃より有意に低かった。安静時におけるV群の指の皮膚血流量は, H群より少ないことが推定された。
    2) V群の寒冷血管反応の発現率 (53.3%) は, H群の発現率 (88.9%) よりかなり低くかった。
    3) 寒冷血管反応の発現者における寒冷血管反応発現温度 (TFR) , 浸漬中5分30秒から10分までの平均皮膚温 (MST) および寒冷血管反応の大きさ (AT) は, V群での平均値がそれぞれ7.45℃, 7.88℃および0.96℃で, H群のそれぞれの平均値8.62℃, 9.62℃および2.21℃よりいずれも有意に低かった。V群の寒冷血管反応発現時間 (TTR) の平均値は6.27分で, H群のそれは6分であった。すなわちV群の寒命血管反応はH群より低い温度で, 遅延して発現し, しかもその反応が弱いことがみられた。
    4) V群の浸漬後の回復5分および10分での皮膚温の平均値は, それぞれ17.8℃および22.92℃で, H群のそれぞれの平均値24.45℃および28.33℃より有意に低く, V群では著しく回復が遅延していた。
    5) 両群ともBTが高い被験者では, TFRおよびMSTが高く, TTRが短い傾向にあったが, 同じBTでみると, V群ではH群に比較して, TFRおよびMSTが低くTTRが長い傾向を示した。
    6) TTRとTFRおよびTTRとMSTとの関係は, 両群ともに1%水準で有意な相関関係を示したが, V群ではH群に比べて, 同じTTRに対してTFRおよびMSTが低かった。これらの関係によって, 両群の寒冷血管反応の差異についての判定が可能であることが推測された。
    本実験は, 三重大学医学部第一生理学教室の故村上長雄教授のご指導によった。謹んで謝意を捧げます。また, 教室関係諸氏のご援助に対し, 深く感謝します。本論文は, 三重大学医学部第二生理学教室田中任教授ならびに兵庫医科大学第一生理学教室堀清記教授のご指導を賜った。記して厚く謝意を表します。
  • 坂口 栄一
    1983 年 20 巻 1 号 p. 23-35
    発行日: 1983/04/15
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    高所の低酸素環境への適応順化過程の水分動態の変化を調べるため, ラットとウサギを5, 500m相当高度の低圧に最高14日間暴露し, その間の体重, 循環血液量, Naスペースおよび血漿の水分含有量と比重の変化を測定した。また, 食欲減退による摂食・摂水量の減少に相当した食餌制限実験をも併せて実施して, その影響をしらべた。
    これらの動物は, 低圧暴露初期に体重が減少した。この体重変化の主要部位は, 筋肉と皮膚組織の領域であった。細胞外液量の指標の一つであるNaスペースは4日目まで体重とほぼ平行して減少した。Naスペースと循環血漿量とはほとんど同様に変化した。また, これらの変化と対称的に血漿の比重は上昇し, 水分含有量は減少した。摂食・摂水量の減少に相当した食餌制限実験では, 第1日目に血摂の水分含有量は減少し, およそ3日目にもとのレベルに戻った。
    これらの成績から, 低圧暴露の初期には, 主として細胞外液の水分が減少し, 続いて, あるいはある程度重複して, 脂肪その他の成分も減少するものと推定される。
    低圧暴露中, 細胞外液はある程度脱水状態を維持したが, これは少なくとも2つの要因の組み合わせによって発現すると考えられた。その1つは摂食・摂水量減少の影響であり, 他の要因については明らかでなく, なお検討の余地があるが, 赤血球細胞の水分含有量が, 低圧暴露開始後次第に上昇し, 第2の要因を仮定した場合の変化と鏡像対称的に変化したことは極めて興味ある事実である。
  • 長田 博, 坂口 栄一, 坂口 明子, 近藤 陽一, 万木 良平
    1983 年 20 巻 1 号 p. 36-41
    発行日: 1983/04/15
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    低圧chamber用い, ニホソザルを5, 500m相当高度 (約1/2気圧) の低圧環境に連続30日間暴露し, 暴露前・中・後の血液のHt値, 血清LDH活性, およびLDH isoenzyme patternの経時的変動をしらべ, 次の成績を得た。
    1, Ht値は暴露直後より増大し, 約2週間で暴露直前の値のおよそ1.5倍に達し, 以後上昇率は低下し, 暴露期間中はほぼ平衡状態を維持した。暴露解除後は徐々に回復したが, 暴露前値のレベルまで回復するのに約2か月を要した。
    2, 血清LDH活性値は, 暴露直後から急激な上昇を示し, 暴露14~21日目に暴露直前の値のほぼ3~4倍の最高レベルに達し, 以後わずかに低下する傾向を示した。暴露解除後は比較的すみやかに暴露前値にまで回復した。
    3血清LDH isoenzyme patternは, 暴露14~21日目に正常patternの逆転, すなわち, LDH3, LDH4およびLDH5の比率の上昇とLDH1およびLDH2の比率の低下が認められた。この逆転patternは暴露期間中継続し, 暴露解除後は比較的すみやかに, 暴露直前の正常patternに回復した。
    4, 以上の結果から血清LDH活性値とそのisoenzyme pattemは慢性低圧環境暴露時の動物の適応順化機序と密接に関連していることが推察された。
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