30才台および40才台の何らかの振動障害をもつ男子振動工具取扱労働者45名 (V群) と, 同年代の健康な男子27名 (H群) について, 冬季の午後に, 室温22~24℃, 温度50~70%の室内で, 一時間以上の安静状態の後, 右手を手関節まで5℃の水に10分間浸漬させ, 第3指未節掌側中央部の皮膚温変化を測定した。
1) V群の冷水浸漬前の皮膚温 (BT) の平均値30.34℃は, H群の平均値32.44℃より有意に低かった。安静時におけるV群の指の皮膚血流量は, H群より少ないことが推定された。
2) V群の寒冷血管反応の発現率 (53.3%) は, H群の発現率 (88.9%) よりかなり低くかった。
3) 寒冷血管反応の発現者における寒冷血管反応発現温度 (TFR) , 浸漬中5分30秒から10分までの平均皮膚温 (MST) および寒冷血管反応の大きさ (AT) は, V群での平均値がそれぞれ7.45℃, 7.88℃および0.96℃で, H群のそれぞれの平均値8.62℃, 9.62℃および2.21℃よりいずれも有意に低かった。V群の寒冷血管反応発現時間 (TTR) の平均値は6.27分で, H群のそれは6分であった。すなわちV群の寒命血管反応はH群より低い温度で, 遅延して発現し, しかもその反応が弱いことがみられた。
4) V群の浸漬後の回復5分および10分での皮膚温の平均値は, それぞれ17.8℃および22.92℃で, H群のそれぞれの平均値24.45℃および28.33℃より有意に低く, V群では著しく回復が遅延していた。
5) 両群ともBTが高い被験者では, TFRおよびMSTが高く, TTRが短い傾向にあったが, 同じBTでみると, V群ではH群に比較して, TFRおよびMSTが低くTTRが長い傾向を示した。
6) TTRとTFRおよびTTRとMSTとの関係は, 両群ともに1%水準で有意な相関関係を示したが, V群ではH群に比べて, 同じTTRに対してTFRおよびMSTが低かった。これらの関係によって, 両群の寒冷血管反応の差異についての判定が可能であることが推測された。
本実験は, 三重大学医学部第一生理学教室の故村上長雄教授のご指導によった。謹んで謝意を捧げます。また, 教室関係諸氏のご援助に対し, 深く感謝します。本論文は, 三重大学医学部第二生理学教室田中任教授ならびに兵庫医科大学第一生理学教室堀清記教授のご指導を賜った。記して厚く謝意を表します。
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