本研究では,水田が存在する臨海部市街地の気候環境を評価し,土地利用の影響も明らかにすることを目的として,名古屋市茶屋新田地区を対象として気候観測を行った.その結果,夏季日中の海風の吹走が確認され,水田域から市街地にかけて,低温多湿な空気の移流が示唆された.水田域での低温は,水田からの蒸発散や水体の熱容量の影響によるものと考察された.それに対し,市街地での高温には人工被覆面の熱容量や,建物による日射の吸収,風速の減少のほか,人工排熱の影響も考察された.一方冬期は,早朝に気温の地点差が小さく,強風の影響と考察された.それに対し,風が弱い夜間には,渇水している水田と中間地区で低温,市街地と河川で高温であった.その要因として,地表面(河川では水体)の熱容量の違いと,建物しゃへいの有無で生じる放射冷却の違いが推察された.また,土地利用別の気温と水蒸気圧について,分散分析を行なった結果,夏季日中は,気温,水蒸気圧ともに水田・河川と市街地との間で,冬季夜間には,気温について水田・中間地区と市街地・河川との間で有意差がみられた.この結果は,夏季日中には水田域や河川では蒸発散,水体の存在により低温湿潤,市街地では高温乾燥となり,冬季の夜間弱風時には地表面の放射冷却と熱的性質の違いにより水田域や中間地区で低温,市街地や河川で高温となる特徴を示したものと考えられる.以上のことから,季節や時間帯による土地利用の違いが,小気候に影響を与えていることが検証された.
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