本研究では広島県の西条盆地を事例に里山のアカマツが衰退した後の亜高木・下層木個体の応答を群落構造,年輪クロノロジー,エネルギー収支,導管パラメーターから調べ,枯死アカマツ材積を推定した.群落構造からはアカマツの枯死によって林冠層が消失し,樹高階がスギ・コナラ・コシアブラ・クロガネモチなどの中層に下がったこと,年輪幅からはそれらの肥大成長が拡大していること,エネルギー収支からは下向き短波放射が中層まで到達し,光合成に有効な放射量が確保されていること,導管パラメーターからは加速する成長を補うために導管面積率の上昇が起こっていることが確認され,これらの現象は1970年代後半から始まっていた.しかし,林床付近のヒサカキ・ネジキ・イヌツゲなどの下層木は若齢のアカマツも含めて被圧されたままであった.また,枯死アカマツのバイオマスは最小で2,204 t/km
2,最大で10,870 t/km
2と推定された.林冠層を形成していたアカマツの枯死が林内に留まっていた亜高木個体の成長を加速させた一方,小個体の成長の改善までは至らず,両者を引き離す結果になった.
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